ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-7

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グゥゥゥゥ~~ッ
大きな音を立ててギアッチョの腹が鳴る。
「チッ・・・」
何も食べずに食堂を飛び出してきたのだ。腹が減るのは当たり前で
ある。他に食うものがないというのなら、彼もあれを食べる事に抵抗は
ない。しかし、あれがルイズ―主から出されたものだというのなら、
例え飢え死にしようが絶対に!口をつけるわけにはいかない。
ギアッチョはそう決意していた。
「しょぉぉおがねーなぁぁあ」
ギアッチョの口からは無意識に戦友の口癖が飛び出していた。実際の
ところ問題は切実である。早いところ安定した食糧確保の方法を
考えなければ飢え死には免れない。
――貴族のガキ共から日替わりでメシを奪うか?
と思ったが、食堂には入りたくないし、毎日そんなことを続けていれば
間違いなく問題が起こる。
「プロシュートの野郎ならよォォーー 今ここで奴らを皆殺しにしそうな
もんだが」
自分以上にキレっぱやいものはいないということに気付いていない
ギアッチョである。

「あ、あのー・・・」
ギアッチョの後ろで声がした。
「ああ?」
色んな要因でかなり気が立っているギアッチョは、気だるげな声を
上げて肩越しに後ろを見た。

そこにいたのはメイド服を着た黒髪の少女だった。
「何か・・・用か?このオレによォォ~~~」
「す・・・すいません その・・・失礼かとは思ったのですが 食堂での
お二人のお話を聞かせていただきました」

――大人しそうなツラしやがってよォォーーー 堂々と盗み聞きって
ワケかァァ~~?
ギアッチョが発する殺気の量が更に上昇する。それに気付いたのか、
少女は慌てて本題を口にした。
「そっ、それでですね!あの、よろしければ厨房に来ませんか?賄い食
ですが料理をお出しします」
「・・・・・・」
ギアッチョは少女に向き直ると、その眼を覗き込む。少女はちょっと
驚いたようだったが・・・瞳に嘘は感じられなかった。
「・・・いいだろう 世話にならせてもらうぜ」
罠ではなさそうだ。ギアッチョは素直に好意に預かることにした。


「・・・こいつはうめぇな」
「貴族の方々にお出しする料理の余りで作ったシチューなんですが、お口に
合われたならよかったです」
「ああ マジによォォ~ 助かったぜ ルイズのヤローに出されたエサは
ブチ割っちまったからな・・・」
「凄い握力なんですねギアッチョさんって・・・ 私ビックリしました」
どうやら、シエスタにはトレイ自体は見えていなかったらしい。単純にトレイを握り
つぶしたのだと思っているようだった。
「ところでよォォーー  何故オレを助けた?」
ギアッチョにはそこが解らなかった。ルイズの物言いから察するに、ここでは
貴族と平民には絶対的な上下関係がある。今オレを助けたことで貴族――ルイズの
恨みを買う危険性もあったはずだ。するとメイドの少女――シエスタと名乗った――
はニコリと笑って言った。
「ギアッチョさんは平民でしょう?平民が平民を見捨てるような時代になってしまえば、
私達はおしまいです。貴族の圧政に耐えるためには、私達平民は常に団結して
いなければならないんです」

――何も考えてない小娘かと思ってたがよォォー・・・
ギアッチョは少し感心した。
「それに・・・ 貴族にあんなに堂々と逆らう人なんて初めて見たんです それが
その・・・なんていうか 格好よくて」
シエスタは少し照れたように眼を伏せる。こう言われてはギアッチョも悪い気はしない。
「なるほどな・・・気に入ったぜェーーシエスタ! 改めて自己紹介するがよォォー
オレの名はギアッチョだ ここに来るまでは、遠いところで暗殺稼業をやってたッ
気に入らねえ奴がいるならよォォ~~ いつでも暗殺してやるぜ」
「暗殺・・・!?ギアッチョさんて 殺し屋さんだったんですか!?」
普通なら、ここで殺人者に対する拒絶が心の中に芽生えるであろう。しかし
シエスタは、というよりシエスタ達は違った。純粋に「凄い」と思ったッ!
だって平民である。単なる平民がそんな凄まじい技量を持っている!シエスタと
話を聞いていた厨房の平民達は、そんな男が自分達の仲間であることに「誇り」と
「勇気」を感じた!!
「『我らの剣』ッ!オレぁおめーが気にいったぜ!!おら!こんな余りモンで
よかったらいくらでもおかわりしてくんなッ!!」
マルトーというらしい四十がらみのコック長がガシッとギアッチョの肩を抱く。
厨房は一転熱気に包まれた。当のギアッチョはというと、これがまんざらでもない
ようだった。ギアッチョが生きていた頃は、チーム以外の人間と親しくするなど
ありえないことだった。知っての通りリゾットチームは暗殺を生業にしていたが、
その報酬だけでは毎月生きていくこともかなわなかった。ギアッチョを含めて
メンバーはそれぞれが色んな表の仕事を転々として何とか糊口をしのいでいた
のだが、彼らは暗殺に対する報復などに四六時中警戒しなければならない身で
ある。敵の刺客はどこに潜んでいるか分からない。仕事仲間にさえも気を許す
ことは出来なかった。彼らが心を許せる相手は、リゾットチームの仲間のみ
だったのである。

――ここは・・・違う
ここではギアッチョはただの平民だ。暗殺者という職業、ボスへの反逆者という
立場、命を狙われる身という立場・・・、ここではその全てがリセットされている
事にギアッチョは気付いた。今、ギアッチョは真っ白だった。―もし。もし永遠に
イタリアへ帰れないのなら。ここでの行動全てが――トリステインの平民としての
ギアッチョの境遇を決することになる。それを理解したギアッチョは、自分が
突然何も無い宇宙の真ん中に放り出されたような眩暈を感じていた。
――どォォォすりゃいいんだよッ!!!クソッ!!!
ギアッチョは――自分がどうするべきなのか解らなくなってしまった。昨日、
ルイズはギアッチョを元の世界に帰す方法について、「私は知らない」ととても
悲しげな声で答えた。その声はまるで、そんな例は古今東西ありえないとでも
言外に告げているかのようにギアッチョに聞えた。
――どォすりゃあいいんだッ!!ええッ!?教えてくれよッ!!リゾット!!
プロシュート!!メローネ!!ホルマジオ!!イルーゾォ!!ソルベ!!
ジェラート!!ペッシッ!!ええおいッ!!答えてくれよッ!!!
ギアッチョがいくら問いかけても――彼らは答えてはくれなかった。

ギアッチョが心中凄まじい葛藤をしていたその頃、シエスタはルイズによって
厨房の外に呼び出されていた。
「・・・あ、あの・・・何の御用でしょうか・・・ミス・ヴァリエール・・・」
ギアッチョを厨房に招いていることは、ルイズにはとっくに気付かれていた
ようだった。ルイズはうつむいたままシエスタに言う。
「・・・これからも あいつに料理を出してやってくれないかしら」
「えっ!?」
シエスタは驚いた。そもそもギアッチョ用にあの貧相極まる食事を出させた
のはルイズなのだ。まさかギアッチョの剣幕に怯えたわけでもあるまい・・・
シエスタは内心首をかしげながらも、
「・・・分かりました、ミス・ヴァリエール。ご用命とあらば、喜んでお世話を
させていただきます」
と答えた。ルイズは「よろしくお願いするわ」とだけ答えると、返事を待たず
歩き出した。ルイズは見ていた。厨房の窓から、馬鹿騒ぎする料理人達と
その輪の中心にいるギアッチョを。
――あいつの居場所は・・・私の隣じゃない
ルイズは悲しげにそう呟いてその場を後にした。

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