ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-6

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匿名ユーザー

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「あ   ウ アァァァァァーーーーッ!」
ロングビル、いや『土くれのフーケ』は、恐怖のあまり叫んだ。
バックステップしつつ地面に向かって練金を詠唱し、地面を盛り上がらせる。
巨大なナメクジのように地面がうごめき、侵入者をあっけなく包み込んだが、フーケの心臓の鼓動は今までにないほど激しくなっていた。

フーケは今まで、数々の貴族の館に侵入し、お宝を頂戴してきた。
極力殺人はしないように努めていたが、それは身の安全を図るためのもの。
土くれのフーケが『貴族をギャフンと言わせるニクイ奴』だと平民に思わせるためには、貴族の悔しがる姿を平民に想像させなければならないのだ。
殺人を犯してしまえば、義賊でも、盗賊でもなくなる、ただの『凶賊』に成り下がり、各地にいる支援者からの支援を受けられなくなってしまう。
だから今まではピンチに陥っても、相手を殺さずに済ませてきた。

それをたった今破ったのだ。

フーケは慌てて、土の塊を鉄に練金する。
鉄の棺桶に潰されて、ゼロのルイズと呼ばれたメイジは死んだはずだ。
しかし、心臓の鼓動は激しいまま、本能がフーケに『逃げろ!』と警鐘を鳴らし続ける。
「あ、ああ、あああ」
盗み出した本にも目もくれず、壁に穴を開けて逃げようとしたところで、金属の割れる音が響いた。

 ビキッ…
  ゴリッ…

「NNBAAAAAAAAAAAAAA!」
全身を血で真っ赤に染めたルイズが、力づくで鉄の塊を割って現れる。
血で染まった髪の毛が、その血を吸収し、瞬く間に色が綺麗なピンク色に戻っていく。
斜めに歪んだ顔面が、ゴキッ、ベキッと音を立てて、元の形に戻る。
練金の巻き添えを食らい、金属と同化した服が破れ、ルイズは全裸になっていた。
鉄の卵から『生まれた』と表現すべきその姿は、ピンク色の髪の毛が妖しく逆立つ光景に相まって、まるで蝶々の脱皮のように見えた。

「ーーーーーーーー!!」
声にならない叫びを上げたフーケは、練金で壁を崩し、あばら屋の外に出た。
外に出てすぐに地面に向かって詠唱し、ゴーレムを作り出す、身の丈30メイルはありそうな巨大なゴーレムだ。
「ひいいぃぃっ!」
涙が溢れそうになるのを必死でこらえながら、フーケは杖を振る。
のこのことあばら屋から出てきたルイズは、巨大なゴーレムの肩に乗ったフーケを見上げた。
これほどのゴーレムを作り出せる魔力は、トライアングル以上、スクエア未満と言ったところだろう。
ルイズは笑みを浮かべ、地面を蹴って跳躍した。
地面は、その衝撃を吸収しきれず、ボゴン! と音を立ててえぐれる。
瞬く間にフーケと同じ高さにまで跳躍したルイズは、口を半開きにしたフーケの表情を見た。

フーケもルイズの規格外の跳躍力に驚いていたが、ゴーレムを操り、直径5メイル程もある腕をぶつけた。
顔にハエがたかるぐらいなら、軽く手を振るぐらいで済むだろう。
しかし今のフーケの心境は、殺傷能力の高い毒蜂を目の前にしたようなものだった。

ルイズは、ゴーレムの腕に吹き飛ばされるどころか、ゴーレムの腕に自分の足を突きさし、一歩一歩確実にフーケの元へと近づいてくるのだ。

フーケは慌てて魔力を解除し、ゴーレムの腕を土くれに戻した、それに併せてルイズも地面へと落下したが、空中で体制を整えて綺麗に着地した。

「ばっ、化け物!化け物!」
フーケが叫ぶ、それを聞いてルイズは笑う。
ここに獲物と捕食者の関係が成立した。

だが、土くれのフーケも修羅場をくぐった身、ルイズの体に土が付着しているのを見逃さなかった。
フーケが杖を振ると、ルイズの体についた土が油に練金される、そしてその油に向けて着火の呪文が放たれた。
ルイズが炎に包まれる、いくら化け物とはいえど、炎に身を包まれればやがて燃え尽きるはずだと思っていた。

しかし、その期待は、炎の中で笑みを浮かべるルイズを見て、裏切られてしまった。
「ばっ、ばかな、そんな!」
「ねえ、熱いわ、そろそろ終わりにしましょう?」
余裕綽々といったルイズの言葉が、フーケを正気に戻らせた。
この化け物は規格外だという事実を、やっと受け止められるようになったのだ。
フーケは覚悟を決めると、ゴーレムを維持していた魔力を解除し、ゴーレムを丸ごと油に練金した。
フーケはゴーレムの肩からジャンプすると、小さいゴーレムをてクッションの代わりにして地面に着地した。
着地の衝撃で呼吸が乱れるが、すぐさまルイズの周囲に金属の棘を練金し、ルイズを炎の中に固定する。
「あああ…熱いわ!ねえ、そろそろ止めて頂戴!」
「駄目よ!そのまま焼け死ね化け物!」
熱い、熱いと言いながらも、ルイズは笑顔を崩していない。
フーケはそれが『強がり』なのか『余裕』なのか分からなかった。
いや、それが『余裕』だと認めたくなかったので、悩んでいるフリをしていたのだ。

「仕方ないわね」
ルイズがそう呟くと、一瞬で周囲の炎が消えた。
ジュウジュウと音を立てて地面から煙が立ち上る。
唖然としているフーケが地面を見ると、ルイズを中心に地面が凍り、フーケの足下まで霜が降りていた。
「…あら?地面の水分を使って消火するつもりだったのに、そっか、汗腺から水を出すと体温が氷点下にまで下がるのね、面白いわ」
そう言いながら、凍った地面をベキベキと突き破り、ルイズがフーケに近づく。
焼けただれた体も、無惨に焦げた髪の毛も、一歩歩くごとに再生されていった。

フーケの目の前にたどり着いたときには、その肉体のすべては完璧に再生されていた。
ぽたぽたと、足下に水の落ちる音がする。
体中から力の抜けたフーケは失禁し、地面にへたり込んだ。

「…ねえ、あなた、欲しいものは何?」
ルイズの言葉が、頭に響く。
「王には王の、平民には平民の、貴族には貴族の生き方があるわ」
地面に腰をつき、ルイズを見上げているフーケの顔に手を伸ばし、両手でフーケの顔を包む。
「盗賊には盗賊の生き方があるけれど、あなたは生まれつきの盗賊ではないでしょう?」フーケの体はひょいと持ち上げられたが、視線はルイズから外れなかった。
「盗賊になって貴方は何が欲しかったの?意地だけではないでしょう、『趣味』でもない…『実益』を兼ねて盗賊をしている…違うかしら?」

フーケの体から力が抜け、握っていた杖すら落としてしまう。
言葉を出す力すら出てこない。
「緊張しているの?それとも、怖がっているのかしら」
そう言ってルイズは笑みを浮かべた。
ルイズの口内で、牙が妖しく光る。

その牙で無惨に顔面を噛み砕かれる様を想像して、フーケは嘔吐した。
「げぇえっ、げほっ、げほっ」
地面にビチャビチャと吐瀉物が落ちる、既に胃の中は空になっているが、極度の恐怖と緊張がフーケの横隔膜を痙攣させ、嘔吐を続けさせていた。
ルイズは吐瀉物で汚れたフーケの顎に手を添えて、顔を上げさせる。
「ゲロを吐くほど怖がらなくてもいいじゃない…ね、友達になりましょう」

フーケは、吐瀉物と共に、体の中からわだかまりが出て行ったような錯覚に陥った。
先ほどまで感じていた恐怖も、殺気も無い、あるのはただそこにある『諦め』だけだった。
「わ、わたしの、血を、吸うの?」

フーケの質問に、ルイズは首を振った、NOのサインだ。
「ど、どうして?」
「私は友達が欲しいの、奴隷なんて欲しくないわ。ねえ…貴方は自分を人間だと思っているかもしれないけれど、
貴族に刃向かった貴方が捕らえられたら、人間以下の扱いを受けて処刑されると思うわ」
フーケはルイズの言葉を聞きながら、今までに行った盗みを思い返した。
「人間を人間たらしめているのは何かしら?私は『自覚』と『覚悟』こそが人間を人間にしていると思うの、私はもちろん『吸血鬼としての自覚』がある」
「自覚…」
「そうよ…ねえ、フーケ、貴方は何になりたいの?」

しばらくの沈黙の後、フーケは答えた。
「故郷で…平穏に暮らせれば…それでいいわ」
ルイズは、にやりと笑った。
「平穏に暮らしたいと思うでしょう?私もそう思うわ、でも、貴方は故郷と言ったわね、故郷を故郷としているものは何かしら、土地?環境?それとも………家族」
家族という言葉に反応し、ロングビルの肩が震える、ルイズはそれを見逃さなかった。
「家族が居るのね…羨ましいわ、私はもう家族として認められない者になったのだから。ねえフーケ…いいえ、ミス・ロングビル、貴方は魔法学院に戻って、
宝物をフーケから取り返したと伝えてくれないかしら、貴方はこれから『仲間を作る』覚悟が必要よ、ヒトは一人では生きられないもの」
フーケはルイズの言葉を黙って聞いていたが、仲間という言葉には異を唱えた。
「仲間なんて、そんなもの不要よ、私は一匹狼の盗賊よ、それに貴族に尻尾を振る気は無いわ」
「強情なのね。でも、貴方はきっとお友達を作るわ、だって、貴方が言った『平穏』は『家族と過ごす平穏』でしょう? 貴方は寂しがりや…私と同じ…」
そう言ってフーケを見つめるルイズの瞳が、どこか寂しげに見えた。

(私が、吸血鬼に同情するなんて…)
そう考えたところで、ふと故郷に住むハーフエルフの少女を思い出す。
(どうやら、私は亜人と縁があるのかねえ)

「分かったわよ、言うとおりにするわ、学院に戻って宝物を取り返したと言えばいいんでしょう?まったく私もお人好しだねえ」
「ええ、そうしてくれると助かるわ…それと、一応私は死んだことにしてくれないかしら、私は今日明日を境にして行方不明になるつもりだったの」
「それは構わないけれど…いいのかい?」
「ええ、それともう一つ約束するわ、人間から少し血を貰うかもしれないけれど、食屍鬼(グール)にはしない。奴隷なんて欲しくないし、人間とは仲良くしたいもの」
「よく言うわ」
「…あ、それと、体を再生してちょっと疲れたから、一口分だけ血を飲ませてくれないかしら」
「………」
先ほどまでルイズを怖がっていたと思えない程、嫌そうな顔をするフーケ。
「大丈夫よ、グールにはしないって言ったでしょう、ちょっと腕を出して」
フーケが左手を出すと、ルイズはフーケの袖を捲り、二の腕のあたりに爪で切り込みを入れた。
「…つぅ」
「いただきまぁす」
そう言ってルイズが腕に吸い付く、全裸の少女に抱きつかれているようで、フーケはどこか落ち着かなかった。
そして、違う意味でも落ち着かなくなっていった。

痺れにも似た快感が襲ってくるのだ、傷口が性器にでもなったかのように、じわりじわりと快感の波が広がる。
ルイズの舌が傷口を舐める度に、敏感な部分を舐められたかのような刺激が伝わり、自然と呼吸が荒くなる。
ちゅぽ、と音を立ててルイズが口を離すと、フーケは「もう終わり?」とでも言いたそうな顔でルイズを見た。
「えへへ…ごめんなさい、二口分吸っちゃった」
「え、ああ、なんならもっと吸…いやいや、何考えてるんだアタシったら」
「じゃあ、後かたづけをするから、盗んだ本を持って離れてくれないかしら」
「分かったわ」

100歩以上離れた所で、地面を掘って身を隠したルイズは、フーケも一緒に避難したのを確認し、ファイヤーボールの魔法を詠唱した。
「あれ?アンタって魔法が使えないはずじゃ…」
ルイズは今悪戯っ子のような笑顔でフーケにウインクしつつ、今までにないほどの集中力でファイヤーボールを詠唱する。

そして、あばら屋を中心にして半径30m、ゴーレムの破片も何もかもを吹き飛ばす、巨大な爆発が発動した。

「どう?『ゼロのルイズ』唯一の特技、堪能したかしら」
「え、ええ…」
フーケは引きつった笑みを浮かべた。



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