ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

アンリエッタ+康一-11

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やけに静かな真っ暗闇な夜にしみわたる馬車の音。
カポリ、カポリ、と規則正しく馬が踏み歩く。
新月の夜のため月明かりはなく、人が出歩くことはない。
それに、こんな街外れの森の中の道なら尚更だ。

手綱をとる男がチラリと荷台に転がっているものを見た。
アンリエッタだ。服は土に塗れて破れ、見るも無残な姿である。

牢を脱走した男は、見つからぬように城の馬車を盗み出して城外に逃げ出してきた。
アンリエッタは何を掴んだのか、落ち着ける場所で聞きだすために連れてきたのだ。
そのアンリエッタは途中でいつ目覚めるか分からないので、チラチラと確認していたが一向にその気配は無い。

だが男にとっては、その方が手間が省けて都合がいい。(手間とはもちろんブン殴って気絶させることだ)
そして男は尾行されていないか周囲にも注意を払いながら、目的地を目指している。

「ここ………だ」
フッと消えるような言葉で示した先は森の中、藪に隠された細い林道だった。
巧妙に隠された、いかにも何かありそうな細道。
そして実際に男が立ち止まっているということが、何かあるという証明だろう。

男は馬を巧みに操り、森に馬車を突っ込ませて木々で覆い隠す。
そして馬車から、体の痛みを堪えるように、ゆっくりと降りて馬を木に繋ぐ。
荷台に移動して乗り込み、まずアンリエッタの様子を確認。

特に気が付いている様子は無い。
手足は縛り、猿轡をかませているため声も出せない。
逃げるのは不可能だが、寝ている振りをしているだけかもしれない。
フイを突かれると多少面倒だ。

地面から落ちていた木の枝を拾い上げる。
つんつん、と木の枝でアラレちゃんのよーにつついてみた。
反応は無い。いつでもブン殴れるように身構えながら手で触れてみる。
それでも、反応は無かった。

問題ないだろうとアンリエッタの体を担ぎ上げる。
そして荷台から降り、暗闇の細道を歩きだす。

明かりも何もない中で、ともすれば道を外れて迷い込んでしまう所をサクサクと男は進んでいく。
とても夜目が利くのか、それとも通り慣れた道なのか。
おそらくは後者だ。

夜の森は静かで、男が足元の落ち葉を踏みしめる音しか聞こえない。
サイレントの魔法を使っているなら別だが、ここまで来ても尾行はなさそうだ。
一応ぐるりと暗闇の中を見回すが何も見えない。
逆に言うと、仮に尾行者が居ても向こうからはこちらを見ることが出来ないということだ。

どうやら何とか逃げ切れたようだと、心の中に多少の安堵感が広がる。
もちろん最後まで気を抜くことは無いが。

男は力を振り絞るようにアンリエッタを担ぎなおして、また歩く。
道を抜けると少し開けた場所に出る。

家があった。粗末と言うほどではないが、簡単な作りの家。(小屋と言ってもいい)
木で組まれた外壁に、ちっぽけな窓が一つ張り付いている。
土台はしっかりしているようで、中々頑丈そうだ。

家の脇を見てみると、割られた薪が積みあがっていた。
つまりは人が住んでいるということだろう。
最後にもう一度周囲を警戒した後に、男は家のドアを開いた。

家の中は明かりもなく真っ暗、男は慣れた手つきでランプを灯す。
ボウッ、と明るくなった室内はガランとしていた。
男はまず床にアンリエッタを転がして、椅子に腰掛ける。

呻きを込めた、大きな溜息を吐いて人心地つく。
拷問で痛めつけられた体に鞭打ち、人一人担いで来たのだから当然だった。
疲れからかグッタリとしていると、気が抜けたのか急に腹が減ってきた。
何でもいいから腹に入れようと、億劫そうに立ち上がる。

すると突然、前触れなく男の背後から風が吹き込んできた。

男は硬直した。背中が焼け付くような感覚。
躊躇うように、ゆっくりと振り返った。

二つ影。小さな二つの影があった。

男にとっては地獄に叩き落されるような気分だ。
片方は男にとっては忘れることなど出来ないヤツだった。

「どーも、お久しぶりです」
呑気な声の主は、使い魔の少年だ。
虜囚の身である間、一日たりとも忘れられなかった顔だ。

一瞬で憎しみが男を支配しそうになるが、グッと堪える。
冷静さを欠いては、この状況で生き残ることは出来ない。

男は床に転がるアンリエッタに飛び掛った。
生き残るためにはアンリエッタを人質にするしかない。
とっさの判断だったが、上手い判断ではある。

しかしそう上手くはいかなかった。

バギィッ!!

男は一瞬目の前が真っ暗になり、次の瞬間には壁に吹っ飛ばされていた。
「がっ……あ…あ?」
したたかに体を打ちつけ、脳ミソがぐらぐらと揺れる。

バラバラとアンリエッタの手を縛るロープが落ちる。
そして足のロープも切られ、床に落ちた。
アンリエッタが首を振って、ゆっくり立ち上がった

……いや、オカシイ。伸びている。
何故立ち上がっているのに段々と背が伸びているのだッ!
一晩であっという間に成長する夏の野菜のように、ニョキニョキとアンリエッタの身長が伸びる。
伸びる。伸びる。まだ伸びる。

だが変化はそれだけではない。
伸びていく背格好にあわせるように、纏っている服飾も変わっていく。
スカートはズボンに、ドレスは軽鎧へと。

アニエスだった。
いつしかアンリエッタがアニエスへと変わっていた。
腰の長剣をスラリとアニエスが抜き、男の眼前へと突きつける。
「ズイブンと酷くやってくれたではないか。
この礼はキッチリ二倍で返してやろう」
冷笑を浮かべてアニエスは言い放った。

ノイズが混じったテレビのように、アニエスの姿が歪んで見える。
ランプの光を反射して、妖しく輝くそれは大きな「鏡」であった。
人一人を完全に映し出せるような大鏡。
しかし鏡は目の前の者を映し出さずに、今にも消えそうになりながらアニエスを映し出す。

「…あぁ、ここからはもう見ることが出来ませぬ」
フッと鏡から消え去ってしまったアニエス。
消えた後、鏡に別の人物が映し出された。
アンリエッタだ。鏡の前で立ち尽くすアンリエッタだ。

「あと、わたくしに出来ることは祈ることのみです。
始祖ブリミルよ、わたくしの仲間にどうかその御手を差し伸べて下さいませ………」
膝立ちになって手を組み、か細い腕で縋るようにアンリエッタは祈りを捧げた。


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