ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第十六話 『風を切る三騎 ~Three Bravemen~』

最終更新:

familiar_spirit

- view
だれでも歓迎! 編集
第十六話 『風を切る三騎 ~Three Bravemen~』

ギーシュは無様に地面にうずくまっていた。蹴られた顔が痛い。手から血が止めどなく流れている。横向きになった視界に、同じく倒れ伏すシルフィード、離れた位置でぐったりとして動かないタバサがいた。
ギーシュは後悔した。やはり戦うべきではなかったと。
少し視線を上げると、脇腹を押さえたキュルケが、口から血を吐きながら白仮面と向かい合っていた。
ギーシュにはなぜ彼女が立ち向かうのかがわからなかった。殺されたくない。死にたくない。その思いだけがギーシュの頭を支配していた。なぜこうなってしまったんだ。

時間を数分巻き戻すことになる。

フーケを避難させた三人はシルフィードの背に乗り白仮面に突撃した。
「作戦は?」
「この子の速度を活かしたヒット・アンド・アウェイで行く」
「オッケー」
「ちょ、ちょ、待ちたまえよ!」
テンポよく作戦を決定していく二人にギーシュは異を唱えた。当然だ。ヒット・アンド・アウェイなんだから接近する。そうなれば自分にも攻撃手段はあるが――
「この速度でかよッ!」
シルフィードは背の人間を振り落とさない限界ギリギリの速度で白仮面に突っ込んでいるのだ。この状況で魔法を唱えて、なおかつ命中させるなどできるものか。
ギーシュは必死に背びれにしがみついて落ちないようにするのが精一杯だったが、タバサとキュルケは詠唱を開始した。
「『ウィンド・ブレイク』」「『ファイヤー・ボール』!」
白仮面と交錯する瞬間を狙って二人が魔法を放つ。

「ぬう!」
白仮面は回避しきれずに煙を上げて墜落していった。
「やったわ!」
「まだ」
タバサはシルフィードに着陸の指示を出し、地面に転がる白仮面から距離を取った。タバサは白仮面の状態を確認するために近づくつもりだった。どうにもこの位置からではマントしか見えないのだ。
「待ちたまえ。偵察ならば僕のワルキューレが適任だ」
「それもそうね、へたに近づくのは危ないし」
ギーシュはワルキューレを二体出して近づけさせる。キュルケもワルキューレを盾にするように移動してハンドサインで挟み撃ちにするように指示を出す。ギーシュが頷きワルキューレを左右に分ける。その時、シルフィードが弾けたように転がってきた。
「シルフィード!」
慌てて反転して後方を睨みつける三人。タバサはシルフィードに近づいてみたが完全に気絶していた。強力な『ウィンド・ブレイク』をくらい頭を打ったのだろう。
三人の視線の先にはフーケのゴーレムが壊れてできた石の山しかなかったのだが、たしかにそこから声が聞こえてきた。
「これで厄介な飛行能力は使えなくなったというわけだ」
「バ・・・バカな・・・いつの間に石の中に・・・」
ギーシュのワルキューレがマントを剣で突くがそこには何もなかった。ガキンッという地面に金属が刺さるむなしい音だけしか聞こえては来なかった。
「そして次の手だ」

白仮面は杖をタバサに向けた。タバサも咄嗟に反応して杖を向け、二人が詠唱を同時に完成させた。
「「『ウィンド・ブレイク』!」」
同じ魔法が至近距離で衝突し、辺りに衝撃の波が走り瓦礫をいくつか吹き飛ばしてしまった。しかし拮抗は一瞬。白仮面の風がタバサの風を砕き襲いかかった。
「っ!」
直撃を受けたタバサは羽のように宙に舞い上げられ十メイル近くも飛んでいき、そのままぐったりとして動かなくなってしまった。
「ふむ、やはりトライアングル・・・それもかなりの使い手だったらしいな。なんにせよ貴様は優先的に倒すつもりだったがな」
「あんたよくもタバサをッ!」
怒りに燃えるキュルケが『ファイヤー・ボール』を打ち、ギーシュもワルキューレを突撃させたが、杖の一振りで起きた風によってどちらもかき消されてしまった。
「無駄だ。トライアングルではスクウェアには勝てん。そして――」
白仮面は閃光のような素早さで一気にキュルケの懐に潜り込むと、そのゼロ距離で『エア・ハンマー』を腹にぶつける。発生の早い魔法にキュルケはろくなガードもできずに地面に倒れ伏した。
風の下級呪文とは言えスクウェアの力で撃たれたのならば恐らくは肋骨がイッてしまっているだろう。
「折れたな。もうお前は終わりだ。王女の依頼など聞かずに魔法学院で大人しく授業でも受けていればよかったものを」
「姫様の依頼を知っている?お前一体何者だ!」
ギーシュは震える声で尋ねるが白仮面はまるでギーシュなどいないかのように無視してフーケがいる場所に歩いていく。

フーケは傷口に当てた布で止血されてはいるが確実に顔色が青くなっていた。白仮面は横たわるフーケを見ると憎々しげに呟く。
「まだ生きているとは・・・身を捻ったおかげで心臓を外れたらしいな。幸運な奴だ。いや、今まさに死に面していることを考えればその逆、苦しみを鑑みればむしろ不運だな」
「僕を無視するなッ!質問に答えろォーッ!」
ギーシュがワルキューレと共に剣を握って白仮面に迫る。ワルキューレが斬りかかるのを半歩下がってかわすと風の刃で胴体を真っ二つにし、横合いから薙払ったギーシュの剣はさらに一歩退いてかわし、風の刃でギーシュの手首を切り裂いた。
「う、うわあぁぁーッ!血が、止まらない!」
「ドットごときが・・・お呼びじゃあないぞッ!」
蹴り飛ばされたギーシュは手首を押さえてうずくまった。それを確認もしないで白仮面は再びフーケに向き直ろうとしたとき、今度は火球が横から襲いかかってきた。瞬時に後方に大きく飛び退いて火の発生源を睨みつける。
「貴様・・・まだ動けたか」
「おあいにく様、この舞台の主演はあたしよ?幕が下りてないのに・・・舞台から降りれないわ!」
しかし脇腹を手で押さえ、時折うめく姿は、気丈に振る舞ってみせるがあまりにも痛々しかった。しかし、その目だけは死んではいなかった。『覚悟』をした眼だった。



そして、時間軸は現在に追いつく。キュルケと白仮面が対峙する。白仮面は、その仮面の下で酷く不愉快な顔を作っていた。
「一つ・・・気付いたことがあるわ・・・あなた『偏在』でしょう?」
キュルケの言葉に白仮面は感心したような仕草を見せる。余裕たっぷりに手を顎に当て、首を微妙に傾ける。
「ほう・・・どこで気付いた?」
「確信が持てたのはタバサと『ウィンド・ブレイク』を撃ち合った時ね。タバサの風をうち負かすだけの風を撃てるなんて、フーケとあれだけの勝負を繰り広げておきながら疲労した様子がまるでないもの。
 別人の線も考えたけれど、スクウェアクラスのメイジが、それも全員風のスクウェアが、そうそういるわけないわ。そうなれば答えは一つ――」
「風の『偏在』・・・と言うことか。その通りだ。フーケに砕かれたのも君たちに打ち落とされてあげたのも全て私だ。それで?それがわかったからどうだと言うのかね」
キュルケはその言葉に胸を張り、髪を掻き上げて答えた。
「べつに、どうもしないわよ。ただあなたを倒すだけ。でもね・・・『王女の依頼』・・・そんな事はもう・・・どうでもいいの。
 『任務』が動機であなたと戦う訳じゃないわ・・・あたしはね、タバサを・・・友達を傷つけたあんたが許せないから戦うのよ・・・塵も残しはしないわ」
キュルケが杖を構えて詠唱を唱え出すと、杖の先に五メイルに達しようかという大きさの火球が出来上がる。感情の高ぶりがいつも以上の力を出させているのをキュルケは感じた。
「タバサのケリはつけさせて貰うわッ!『ファイヤー・ボール』!燃やし尽くせェェェェェ奴をヲヲヲヲヲオオオオオオオオオ!!」
咆吼と共に特大の火球が放たれた。キュルケの力を大分下と見ていた白仮面も驚きはしたがこれをうち破るべく魔法を放つ。白仮面の直前で風と炎がぶつかる。
「アアアアアアアアアア!」
「オオオオオオオオオオ!」
二人の咆吼を受け、更に激しくぶつかり合う風と炎だったが、一瞬炎が押したかと思った次の瞬間に風によって爆発して消えてしまった。
「ははは!圧し勝っ――なんだとッ!」
爆散した炎と風の真ん中を突っ切ってキュルケが目の前に飛び出してきたことに白仮面は驚いたのだ。自慢の体は風に切り刻まれ、その美貌を誇った顔も煤で汚れているというのに、それでも彼女の眼は輝いていた。


「ひるむ・・・と、思ったのかしら・・・これしきのことで!」
キュルケが杖を白仮面の眼前に構える。相手は完全に無防備だった。仮面の下が引きつるのがわかる。
「終わりよ」
しかし杖の先から出たものは、ぽしゅんという小さな火だけだった。それを見た白仮面が笑い出す。
「は、はは・・・ははははは!それはそうだ!傭兵相手に派手に振る舞っていたのだからな!」
そう、キュルケの精神力はとっくに空っぽだったのだ。しかしキュルケの表情に絶望はなかった。軽く首を回してうずくまったままのギーシュを見ると、薄く微笑んだ。しかしそれも白仮面の杖が折れた肋骨に刺さったことで歪んでしまう。
「もう一本貰っておくぞ」
キュルケは力無く地に伏せ、その首にトドメの一撃が振り下ろされる。
「終わるのはお前の方だったな!」
「させるかーッワルキュゥーレッ!」
白仮面が杖を振り下ろさんと瞬間、ギーシュが剣を杖がわりに立ち上がりワルキューレをけしかけた。マントを脱いで腕に巻くことで止血をしているらしい。
「安っぽい感情で動いているんじゃあないッ!」
しかし『エア・ニードル』でワルキューレの胴体ごと左肩を貫かれてしまう。
「私は『世界』を手に入れる男だぞッ!お前らはそれを邪魔しているんだ・・・少しばかりの人間が犠牲になったからといって・・・『ノー・ロ・オブストゥルヤ(邪魔をするな)!』お前は串刺しだ―――ッ!」
肩から『エア・ニードル』を引き抜いてギーシュに喉に突き立てようとした時、白仮面の視界が花びらで埋まった。
「これは――体中に花びらが!」

「『風』系統の魔法なら何でも良かった・・・花びらが舞えばそれで・・・お前のその魔法は杖の先が極小の竜巻なんだろう?本で読んだよ・・・
 お前は速いから花びらを造り出す時間が惜しかった・・・だからワルキューレの空っぽのお腹にあらかじめ花びらを詰めておいた。もちろん僕が造った、ね」
「だがこんな花びらごときで――」
「まだ気づいていないのか?この道は・・・お前に刺されるという『覚悟』の道はキュルケが教えてくれたんだ。キュルケの炎はすでにお前に燃え移っていた!」
白仮面が自分のマントの端を見ると確かに火が着いていた。
「まさかさっきの『ファイヤー・ボール』が・・・」
「むずかしい魔法はいらない・・・簡単(シンプル)がいい!」
ギーシュが花びらに『練金』を唱えて油に変えると、マントの火が一気に体中に取り付いた。白仮面が悲鳴をあげる。
「AGYAAAA!だが・・・しかし竜巻で吹き飛ばせる!」
自分の体の回りに竜巻を発生させて火を撒き散らして難を逃れるがそこにギーシュが剣を振り下ろす。
「舐めるなッ!お前の剣筋もリーチもお見通しなんだよ!」
白仮面はギリギリでのけ反ってかわした――はずだったが仮面が真っ二つになって地面に落ちる。慌てて手で顔を覆って隠した。
「お前が間合いを見きるのが得意なのはフーケとの戦いで見てわかっていた。だから足りない分はさっきうずくまった時に補っておいた」
ギーシュが右腕のマントを外すと、そこには青銅の手を握るギーシュの右手があった。
「暗くて気づかなかったかい?」
「この・・・ドットごときが私の顔にィ!」
「いいや違うね。お前を倒すのはフーケであり・・・タバサであり、キュルケ・・・みんなの力だ!」

怨嗟の声を上げてギーシュを殺さんと杖を振り上げたがタバサとキュルケが起きあがってきているのを見ると悔しそうに『フライ』を唱えて飛び去った。
「しかしなんてことだ・・・あの仮面の下の素顔がまさかワルドだったなんて・・・このことを早くルイズたちに知らせなければ!」
ギーシュはタバサたちの元に行こうと足を前に出すがもつれて転んでしまった。自分の手を見て手首を切られたのを思い出した。血は止まる気配をいっこうに見せてはいなかった。
「うそ・・・あれ?僕ここで死ぬのか・・・な?あ、はは・・・うそぉ・・・」
だんだんと重くなるまぶたがキュルケを助け起こすタバサの姿を捕らえた。向こうもこちらに気づいたらしく何かを言っているようだったが聞こえない。
(まあいいか。女の子は守れたんだし、薔薇の役目は果たしたしね。ああ、でもやっぱり最期はモンモランシーの側で・・・できれば膝枕が良かったな・・・)
ギーシュの意識は深く深く落ちていった。


「・・・・・・・・・」
ウェザーの手のひらには青銅の欠片が置かれていた。恐らくは船の中の装飾品が欠けたものなのだろうそれを甲板で見つけたが、拾った瞬間に独りでに砕けてしまったのだ。
「ウェザー何してるの?」
「いや、外を見ていた」
後ろから声をかけてきたルイズに見えないように青銅の欠片を隠してルイズの方を向く。
現在ルイズ、ウェザー、ワルドの三人はアルビオン行きの船に乗り込んでいた。あの後ワルドが船長と交渉して『風石』にワルドの風が補うことで即時出発にこぎ着けたのだ。
空を飛ぶ船に心ならずもワクワクしてしまったウェザーだった。
すでに雲の向こうから朝日の頭頂部が見える時間になっていた。
「傷は大丈夫?」
眠そうな瞼を擦りながら船室から
「そこそこだな。一応雲のスーツで冷たい空気を当てているが、痛みが引いただけで正直微妙だな。それに心配するなら俺のケガじゃあなくちゃんと港につけるかを心配するんだな」

現在アルビオンでは反乱軍が王党派を押し込んでおり、港町は全て反乱軍に押さえられている可能性が高いのだ。
「なによ、あんたのこと心配してあげてるのに!」
ルイズが続けて何か言おうとしたのにかぶせるように船員の声が船内に響き渡った。
「アルビオンが見えたぞー!」
船員が向いている方向を二人も見た。ウェザーは息を呑んだ。
雲の切れ間から黒々と大陸が覗いていた。大陸は遙か視界の続く限り延びており、その地表には山々がそびえ、川が幾筋も流れていた。
「驚いた?」
「たまげたな・・・」
「浮遊大陸アルビオン。ああやって空中を浮遊して、主に大洋の上をさまよっているの。月に何度かハルキゲニアの上にやってきては雨の恵みをハルケギニアにもたらすのよ。
 ほら、下半分が霧で真っ白でしょう?だから、『白の国』とも呼ばれるの」
「『白の国』・・・」
ウェザーが感動しているのをルイズが隣で喜んで見ていると、船員が再び大声を出した。
「右舷上方の雲中より船が接近してきます!」
黒くタールが塗られたがゆっくりと迫ってきていた。
「・・・どうにも、中まで真っ白てわけにはいかないらしいな」
ウェザーの呟きは雲海の中に吸い込まれて消えた。


タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

記事メニュー
目安箱バナー