ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-20

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 中庭には眼鏡とキュルケがいた。勉強会でもしていたのか、眼鏡は本とノートを持っている。
「ちょっとルイズ。あなた使い魔に逃げられたらしいわね」
 うわ……もう広まってるじゃないの。わたしをここから追い出そうっていう闇の勢力でもいるわけ?
「キーシュの使い魔は大活躍だったって聞いたけど。同じ平民でも随分違うものねぇ」
 何よ、あんな爺さんがいいの? 見境なし! 淫乱! 色魔! 肉欲の権化!
「コントラクト・サーヴァントまでしておいて従わせることができないなんて」
 あーもうやだやだ。こいつ無視無視。おっぱいおっぱいおっぱい。
「あなたらしいわ。さすがゼロのルイズ」
 おっぱいおっぱいおっぱいおっぱい。
「ねえ、あなたわたしの使い魔見なかった?」
 眼鏡は首を横に振った。役に立たないわね。
「そっちのあなたは見なかった?」
「見てはいねェー……だがヨォ、ラッキープレイスはルイズの部屋って感じダぜェ」
 おおお、このドラゴン口をきくんだ。主に似て物言いは無礼だけど素直に凄いわ。
「……今のは腹話術」
 えええええっ、そ、そっちの方がスゴイッって!
 ここで腹話術を出すセンスはともかくとして、意外にユーモアあるのね、この眼鏡。
「ルイズ。あなたタバサのドラゴンが見えてるの?」
「見えてるのって……見えるに決まってるじゃない!」
 どこまで人を馬鹿にすれば気が済むんでしょうね、このおっぱい的存在は。
「アンタもスタンド使いになッたンだなァールイズ。ビックリだッツーの」
 スゴイわねえ。唇なんて全然動いてないじゃない。この子にこんな芸があったなんて驚き。
 ところでスタンド使いって何だろ? 無知を晒すみたいで恥ずかしいから聞かないけど。
 あとでグェスにでも聞いてやるか。あいつ下らないこと詳しそうだし。

「いつまでそこにいるつもりだ?」
 少女は伏せていた顔を上げた。話しかけられていたのかと思ったが、そうではないらしい。
 普段の口調には、静かに抑えられた蔑みと上っ面以下の敬意が込められていた。
 今の言葉からは、ある種の親しみが感じられた。同族への友好的感情といってもいい。けして少女には向けられることの無いものだ。
 自分達以外の誰かがいる恐怖、唐突に動いた使い魔への困惑、場違いな嫉妬、それらが混化し、本人さえ理解しがたいものになり、少女は使い魔を見た。
 使い魔の目は少女から逸れ、部屋の端へ向けられていた。何も無いはずの空間を凝視していた。
 部屋の中には少女と使い魔しかいない。いくつかのパーツに分かれた使い魔が部屋のあちこちで蠢いている。
「顔くらい見せてもいいじゃあないか」
 使い魔の口は動いていない。だが、声は聞こえる。
 使い魔の声質に似ていたが、決定的に違う部分があった。
 その声は空気を震わせることなく、頭の中へ直接割り込んでくる。
「私は君に従おう。君の目的は知らないが、なんとなく想像はつく。協力させてほしいだ」
 口をきいているのは使い魔ではなかった。
 少女はベッドから半身を起こし、悲鳴を飲み込んだ。右手で左腕を強く掴んだ。爪が食い込み、血が滲むほど力を入れた。
「主は君だ。私は従で充分だ」
 使い魔の傍らに緑色の「何か」がいた。人ではない。人の形に似ていたが、絶対に人ではない。
 下半身は醜く潰れ、肩や頭部からは無数の管が突き出ていた。
 人形の全身にこびりついた緑色のカビが、少女の使い魔と関係があることを証明している。
 目は二つあるが、人間の黒目にあたる部分は存在しない。全体が大雑把でいびつな造りをしていた。
「私には過程があればそれでいいんだ」
 幻覚を見せられているのだろうか。握り締めた左腕が悲鳴を上げていたが、少女の耳には「何か」の声しか聞こえていない。
「君と戦おうとは思わん。それだけは分かってほしい」
 緑色が薄れ、その声が遠くなっていく。少女はベッドから立ち上がった。この部屋にいたくない。

 もつれる足で扉へ向かい、ノブに手をかけた。回そうとするが、汗で滑って上手く回せない。
「……お夜食、もらってくる……ね」
 聞かれてもいない言い訳を口にした。
 貴族嫌いの料理長に頭を下げるのも毎夜のことで、いまさら言葉にするようなことではなかったが、この異常な状況下、言い訳の一つも無しに部屋を出れば何をされるか分からない。
 なんとかノブを捻り、扉を開け、外へ出ようとしたところで足を止めた。
 少女の意思で止めたわけではない。足首に纏わりつく使い魔の指先を感じ、少女は足以外の動きも止めた。痛いほどに鼓動を速める心臓だけが、例外的に動き続けている。
「スカラファッジョ、あなた見えていましたね?」
 千切れた左腕、ねじくれた右腕、胴体から生えた脊椎のような触手、どんなに気持ちが悪くとも払いのけることは許されない。
「ふむ……ふむ、ふむ」
 右手で鼻をつままれ、左手に顎を押さえられた。口をこじ開けられ、使い魔が鼻を差し込んで匂いを嗅いでいる。
 足が服の内側で這い回っている。そこに劣情は全く感じられず、それゆえ尚の事恐ろしい。
 眼窩に指が差し込まれた。蚯蚓じみた長い中指が深く潜り、眼球の裏を撫でた。
 震える足を気力で支え、倒れはしないように耐えていたが、使い魔の傍らに緑色の人形が現れた時点で少女の膝は恐怖に屈した。
 緑色が腕を振り上げた。親指を内に握りこみ、それ以外の指は伸びた状態で揃えられている。
 何をしようとしているのか理解したが、目を逸らすことはおろか、瞬き一つできない。
 振り上げられた手が、何のてらいも無く、振り下ろされた。
 見開かれた瞳から涙が一滴、それに合わせ、閉じることを忘れた口の端から唾液が糸を引いて床に落ちた。
「……違うな」
 手刀が頭を割る直前で人形は消え失せた。だが、少女はへたり込んだまま動かない。
 光彩を淀ませた瞳からは次々に涙が零れ落ち、口元は震えるだけで開くことも閉じることもない。
 使い魔は少女に興味を失くしたのか、全ての体を元いた位置に戻し、活動を再開した。
――スタンド使いを召喚した者にもスタンドが見えるのか? スタンド使い使い……ふん。

 ――スカラファッジョか。たしか意味は……へっ、いい趣味してやがる。
 どれほどだいそれた力を持っているとしても、種が割れていれば恐ろしくはない。
 一瞬で壊れた物体を直そうが、光速を超えて時間を止めようが、いくらでもやりようはある。
 策を練ることはけして不得意ではなかった。むしろ得意だった。
 自分をより強い快楽へと導くための作戦を立てるため、じっくりと事を煮詰めるその時間は、時として実行時の愉悦を上回る。
 だがそれも相手を理解していてこそだ。
 仕事が終わってからの一杯をかかさない。
 髪の毛をけなされればブチ切れる。
 毎朝牛乳を飲んでいる。
 母親が美人。
 些細な情報でもかまわない。蟻の穴がきっかけで堤防が決壊することは珍しくない。
 ――だが、野郎は……。
 能力を尻毛の先ほども見せない。大切な物が分からない。主を人質にとも考えたが、現状を見る限り喜ばせるだけだろう。
 水蒸気になって忍び寄る。雨に紛れて寝込みを襲う。闇雲に行動を起こすのは簡単だ。
 だが相手の能力がこちらの意図を上回るものだったとしたら?
 人間でないことは見た目で丸分かり。そんなわけの分からない生き物の体内に入っていいものなのか?
 全て罠だったらどうする? 液体にさえダメージを与えるような力があったら?
 何かに閉じ込める、全てを凍りつかせる、そんな能力だったら? すでに本体を認識されていたら?
 そのいずれか一つだけで全てが終わる。
 ――しかも、このオレに気づいてやがった。
 その上で気づいていることを教え、さらに余裕を崩さずこちらに呼びかけた。自分のスタンドを曝け出し、全てを明かしているポーズをとって話しかけてきた。
 その態度、そして泡を食って逃げ出した自分自身に腹が立って仕方ない。

 ――ケツ穴がいい気になりやがってるな。オレの前で調子に乗ってやがるな。
 いい気になっているやつを許す趣味は無い。例外なく後悔させる。
 近寄らずに消す手段は一つだけあった。そして、その手段はもうすぐこの学院へやってくる。
 ――クヒヒッ、ヘハハハッ、フウウッヘヘヘヘ……ああ楽しみだァ。思うだけでも気分が晴れるぜェェェェ。
 自分の強みは「情報」にある。下水の中、天井裏、排水溝、人が嫌がるあらゆる場所を這い回り、この学院を知ろうと努めた。
 結果、表から裏までの全てが自分の中にある。部屋の中で本の表紙を眺めているだけの使い魔には手に入れられない情報を持っている。
 食堂で大暴れした爺使い魔、ルイズの下着のローテーション、飽く事の無いキュルケの情事、ロングビルの裏仕事。
 近いうちに開催されるであろう使い魔大品評会。
 使い魔大品評会。
 ――それまでは我慢してやるぜ。オレの性にゃ合わねェがよォ。
 使い魔品評会は実にいい機会だ。実戦に近い模擬戦には事故がつき物。そうとくればやることは一つしかない。
 一つ一つの挙措に隙が無いハゲ教師。裏で汚れ仕事をしているらしいチビ眼鏡。おかしな力でメイジを一蹴した糞爺。世界有数のメイジと噂される学院長。あとは自分以外のスタンド使いとその主人。
 緑色を消し、これらの邪魔者もいなくなれば、この学院は自分の天下になる。
 ここは一年ごとに新しい子供が自動供給される天国のような場所だ。誰にも譲ることはできない。
 犯してやろう。切り取ってやろう。抉り出してやろう。打ち付けてやろう。ぶちまけてやろう。
 中から苦痛と快楽を繰り返し与えてやろう。親友同士で楽しませてやろう。
 魔法を使うのもいい。小利口な貴族連中では思いもつかないやり方を考えてやろう。

 全ては使い魔大品評会だ。そこから始まる。そこから始める。

 別にタバサの使い魔信じたわけじゃないけど……あ、あれ腹話術だったっけ。
 別にタバサの言うこと信じたわけじゃないけど、自分の部屋に戻ってみることにした。
 わたしはわたしなりに反省したけど、グェスだって反省しかもしれないしね。
 部屋の中で正座して待ってるかもしれない。
 ここまでポジティブに考えてるのに、渡り廊下でマリコルヌに遭遇するし。またよりによって。
 ううう、普段人通りが無いところを選んで歩いてきたのに。
「……」
 ん? からかわれることを覚悟してたのに、マリコルヌは元気なさげ。
 いつもゼロゼロゼロしか言わない風邪ッぴきがおかしいわね。
 どうしたんだろ。食堂の騒ぎが伝わってないのかな。だったらラッキー。
「どうしたのマリコルヌ。元気無いわね」
「いや……別に」
「わたしの使い魔見なかった?」
「……別に」
 わたしに目を合わせず、腕にひっついた使い魔の蛙をジッと見ている。
 これは怪しい。何か企んでいるようね。
 どうやってわたしを陥れてやろうか、そんな雰囲気が漂ってるわ。
 ふん、そっちがその気ならわたしだって受けてたってやるんだから。
「あのね。病気じゃないならもっと胸を張りなさい。人をからかってばかりいる不遜なあんたはどうしたの」
 バァーンっと背中叩いてやった。マリコルヌはむせてるけど、わたしはちょっとだけスッとした。
 マリコルヌは放って渡り廊下を後にする。あーあ、こんなことでしか憂さを晴らせない自分が情けない。
 今のわたしって、この学院で一番不幸な女の子なんじゃないかしら。


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