ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サーヴァント・スミス-4

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決闘直前。
ナランチャの不安要素は2つあった。
1つは、体調不良。休めば治るかもしれないが、そんな時間も無く、スタンドパワーを全開にすることが出来そうに無い
そしてもう1つ。『相手は魔法を使う』ということ
まだ魔法についてよく知らないナランチャは、どんな魔法がとび出すか、想像もつかない
不意にとんでもない攻撃をされる可能性もある。
それが一番の不安であったが、負けるわけには行かない。決闘なのだから。
これからにも生かすことの出来る勝負だ。ある意味で好都合。

「諸君、決闘だ!」

ギーシュが声を張り上げる。
周りにはギャラリーが大勢いた。どうにもナランチャにとってはなれない雰囲気だ

「僕はメイジだ、だから魔法を使わせてもらう」

まあ、予測できていた事だ。
軽く頷くと、トントンと靴を整えた
木々の葉が擦れる音が、ザワザワと広場に広がっていく

「一応、逃げなかった事は評価に値するよ」

「まあ、なんで逃げなきゃならないのかも分からないからな」

小細工なしで本当に分かっていない
ナランチャの性格からして、逃げる事はもともと考えられないし、勝てる自身もあったからだ。頭は痛いが。
ギーシュはもちろん、ナランチャの秘められた力を知る術はなかったし、あの『ルーン』のことも、知らなかった
それは不幸か否か、彼に迷いなく決闘に向かわせることとなった

「そうかい、じゃあ行かせて貰うぞ。ワルキューレッ!」

薔薇の造花が振われて、花びらが舞い散る
その花びらを錬金し、青銅の女戦士を2体作り出した。
ワルキューレはゆっくりとナランチャに近づいていく。
ナランチャ自身も、ワルキューレにゆっくり向かう
誰の目から見ても、勝負を捨てたとしか思えない暴挙だった
彼が特別の力を、持って居なければの話だが

「無防備だと?」

ワルキューレは拳を突き出す。風を切って進むパンチは、ナランチャがバックステップで回避した所で止まる
眼前で止まった拳に怯える様子も見せず、小さく呟いて、『スタンド』を出す
それだけのことだった
後は、『撃つ』。

「エアロスミス!」

エアロスミスを覚醒させ、そして――

(万全じゃあなくとも、ある程度ならッ!)

エアロスミスの機銃が光る。
ワルキューレも太陽の光を浴びて表面がぎらぎらと光っている
それに比べれば小さい光だが、それでいて、ありったけの力が込められたもの。
精神が具現化したものであったからこそ、ワルキューレとは違う質の光を伴って。

「うおりゃああぁぁッ!!」

叫びを合図にマシンガンのように次々と打ち出される弾丸。精密動作性は低いので無茶苦茶に、『一応』、加減しつつ乱射した。乱射している時点で加減とは思えない。
ほんの数秒間に数十発もの機銃掃射。青銅の騎士は崩れていく
確かに一発一発の威力は低くとも、続けて撃たれれば威力は急激に上がり、溜まったものではない。青銅さえも貫いていく。
最終的には穴だらけの青銅の塊へと還す結果となった
『スタンドの硝煙』は、風に吹かれて瞬く間に掻き消えていった
尤も、それは誰にも見えることはなかったが

「………」

一気に沈黙が広がった。ギーシュは固まっている
突然として、自慢のワルキューレが穴だらけにされたのだから無理も無かった
慌てたように薔薇を振い、一度に出せる限界である7体のワルキューレを出す
ズシン、と重量感を感じさせる音。それにも動じない。
ゆっくりと足を前に出し、睨みつけるのみ

「き、貴様!今、一体何を!!」

「違うね。どうせなら、スタンド使いって呼んでもらうことにするぜ」

ナランチャは自分の能力を秘密にする所まで頭が回らなかった。今後は秘密にするよう心がけていく事になるが……
そして、ギャラリーの騒ぎが大きくなった頃。


学院長、オールド・オスマンは、コルベールの報告を受けていた

何でも、ナランチャのルーンは極々珍しいものだというのだが。
とはいえ、オスマンはそれほど興味を示すわけでもなく、うんともすんとも言わない状態である
そこへ、秘書であるミス・ロングビルが息を荒げて駆け込んできた

「大変です、オールド・オスマン!」

「なんじゃね?尻でももんでべッ!?」

コルベールが容赦ない肘打ちを顔面にくれる。
上下関係もへったくれもない、無慈悲な一撃であった

「黙ってください。で、ミス・ロングビル、何があったんですか?」

「広場で……生徒同士が決闘をしているので、『眠りの鐘』の使用許可が欲しいと」

オスマンは眉をしかめ、それを拒否する。

「そんなもんに秘宝を使えるかい、放っておけ」

「相手は……誰です?」

「ミス・ヴァリエールの使い魔と、ギーシュ・ド・グラモンです」

だが、その言葉を聞くなり、そばにあった『鏡』に向き合う
急変した態度にたじろぐが、コルベールは問う

「ど、どうしたんです?」

「珍しいルーンの力が見れるんじゃと。ほれ、一緒に見んか?」

興味がないといったくせに、と、コルベールは一人愚痴を言う
その後、ロングビルの尻に手を伸ばしてオスマンは撃沈
あまりにもあっけなさすぎる結末であった

ナランチャは、エアロスミスで攻撃を仕掛けようとする
だが、今のこの体には負担が多い。なんとかなるか分からないが、ナイフを懐から取り出した
それと左手の甲のルーンが光るのは、ほぼ同時。
劇的に向上した瞬発力であっという間に接近していく

「?」

いつもと違う感覚に頭を傾げると、髪が揺れる。
新たに生み出され、なおも向かってくるワルキューレ3体を相手にし、真横へジャンプ。
拳は地面を叩き、しぶとく獣のように追いすがるワルキューレをひょいひょいとかわす。
パンチが背中を掠め、その反動で回転し、ナイフを、突き立てる。
甲高い金属音が、空気を震わせる

「硬い……、うあ、イッテェ!?」

ジーン、と手に響く痛み。ナイフに少しひびが入っているのが見える。
だが、ワルキューレには、かすかに穴が開いていた。
追撃で繰り出されるパンチ。腕の上に乗り、頭の上に陣取った
ナイフでは決定力に欠ける。ならば。
あの一体のワルキューレが持っている剣を奪うべきか。
明らかに運動力の上昇している体で跳躍。頭を踏みつける形でその剣を持ったワルキューレに乗り、奪い取る

首の付け根に当たる部分を剣で斬る。パカァッっと一太刀でワルキューレは両断された
中身が空洞であったため、幾分か斬りやすい。
降りるナランチャを狙うワルキューレのパンチは空振り。
たった今突き出された腕の下で、ナランチャがにやりと笑う。アッパーを模した構えで腕を切断

だが、それで剣は限界に達し、折れて刀身は地面に突き刺さった
もう一本のナイフも、ワルキューレの拳を受け止めるのに使い、折れた
投げ捨てると左手の甲のルーンは消え、いつもの身体能力へと戻る

「武器は……ないか」

何故か戻ってしまった身体能力を惜しむ。
こうなっては仕方がないと、エアロスミスで再びワルキューレに攻撃しようとした瞬間、自分の体が異変を訴えた
先ほどスタンドを全力ではないとは言え、打ち砕く為に結構な力を使ったためだ
さらに、限界を超えた派手な運動もした。体の節々が痛むのを感じる
頭痛がひどくなってくる。

「……?ふぅん、体調でも悪いのかい?遠慮なくやらせてもらうよ」

(コイツ外道だ)

ギーシュの非道な宣告も、耳に入らない。
周りのギャラリーも流石に異議を唱え始めるが、ギーシュは聞き流している

(……コレぐらいの痛み、あってもおかしくはねーよな……あんだけこき使われたし)

確かに、今は生きているから、寝て休めば回復するだろう。
だが、そんな時間が有るはずがない。『頭が痛いので休憩させてください』など言えるはずもないのだ
傷の痛みはそれほどでもないが、頭痛が一番ひどい。

容赦ない一撃。軽いナランチャの体は2メイルぐらい吹っ飛んだ
ギャラリーの悲鳴。鮮血が空を染めた
なぶるようにワルキューレがナランチャを殴る。

「ちょっと!何やってんのよ!?」

そこへルイズが駆けて来る。ギーシュに問うが、まともに取り合ってはくれない
やれやれといった様子で嗜める。

「ルイズ、平民との決闘は禁止されていないぞ?君が口出しできる問題ではない」

「あれは私の使い魔よ!」

「あっちが了承したんだ、引っ込んでいたまえ」

そう言って遮ると、またナランチャを甚振り始める
エアロスミスで反撃をする、だが、たかが数発で破壊できるわけが無かった

(負けるか……こんなヤツに負けたら……何か嫌だ)

……そうではなく、恐らく誰にも勝てない。
意地を見せようとした瞬間だろうか、ついに意識を失う。
体中から力は抜ける。
力なく倒れるナランチャの体を見て、ギーシュは笑った
それを見て、ルイズもその場にへたり込んだ

(ナランチャ……)

倒れこんでいるナランチャに、確かに声は聞こえた。耳ではなく、精神に直接。
目の前に映し出される鮮明なビジョンは、自分が尊敬していたリーダーを形作った
何故ここに彼が居るのかは分からない。だがここは自分の精神世界であり、そこに彼が居るという事は――

「ブチャラティ……まさか」

「死んだよ。だが、満足は出来た。それよりも……」

全てが白黒の世界で、二人は対面した。
地面は波を立てない水面のように静かで、周りには何一つない。

唐突に『リーダー』に会ったのは驚いた。
だが、彼は、変わらない。優しい声を発してくれる。

「死んだ俺よりも、生きているお前の方が重要だ」

「そ、そんなこと……」

「生き抜け、ナランチャ。どんな世界でもお前は生きていけるはずだ。例え異世界でもな。学校に行けて、よかったじゃないか」

死んでなお意思のこもった強い声を発するブチャラティ。苦笑する素振りを見せる
ナランチャは少し悩む素振りを見せるが、彼は話を続けた

「そのためにも、ここで負けるわけには行かないだろう?」

たかが言いがかりによる決闘だが、されど決闘。
ナランチャは知らないが、最低クラスのドットであるギーシュに負けるようならば、この先、さらに強力なメイジに歯が立たないだろう
戦うような事があれば、だが。
確かに体調不良もあるが、それを言い訳にする気は、ナランチャにはない

「なら立て、ナランチャ。勝って見せてくれ」

「……分かったよ」

「そして……意思を強く持て、これで最後だ……ナランチャ」

消え行くブチャラティ。ナランチャは、その姿を見送る
急浮上しつつある自分の意識。

そこへ、どこからか言葉が聞こえた
誰のものでもなかった、不思議な声が。
いつの間にか自分は、バスへ乗り込んでいた。それも一瞬の光景に過ぎなかったが。


――目覚める事で……何か意味のあることを切り開いていく『眠れる奴隷』である事を……―

死んだブチャラティは、どうやってか、自分に会いに来た
なら、その『意思』も、無駄にするわけには行かない。
ここで、打ち勝って、生きる意志を見せ付ける
もし戦いがあれば、その全てに打ち勝っていこう。
ゆらりと、満身創痍の体を強引に持ち上げる
唇が切れていたのか、血が顎をつーっと流れた

「……」

一度死んだ少年は、ブチャラティの思惟を見た。
それは無駄なことではなかった。
エアロスミスが鋭敏な動きを見せる。極限まで高まった精神がスタンドを『強制的に武器と認識』させ、瞬間的に左手の甲のルーンが激しく光る
いつの間にか、一時的に頭の痛み消えた。濃霧のようなもやもやも全て消えた。さっぱりした。
今は『勝つ事』、それだけが脳を支配。立ち上がる。鼻血を拭い、汗を拭い。

「ほう、立てるか?だが、今更……」

「ボラボラボラボラボラァァッ!!」

少年は、空を仰ぎつつ叫んだ。ラッシュの構え。思いっきり距離を取る
エアロスミスが加速しつつ、怒涛の機銃掃射。ワルキューレが軽く宙に浮く。
けたたましい金属音と共に風穴が開いていき、今度はワルキューレが吹っ飛ばされていく
ギーシュは唖然とした表情で、ナランチャを見た
急いでワルキューレを作り出すも、機銃掃射が続く。
体調不良さえなければこっちのものだ

「ボラボラボラボラッ!」

周りのワルキューレは全て飛んで行く。中が空洞のその体は機銃掃射に耐えられなかった
宙を浮かび、勢いがなくならないように機銃で押し続けられるワルキューレもあり。
地面を滑走路にし、ズリズリと引きずられるように飛んでいくワルキューレもあった。
それさえも撃つ、撃つ。何の変哲もない金属片になったワルキューレは良く飛ぶ。そして、ギーシュへと誘導し

「ぶあッ!?」

当てた。
ギーシュも巻き添えになって飛ぶ。
エアロスミスの機銃を受けたものが全部吹っ飛んでいく
穴だらけになって細切れになる。
しぶとく生き残ったワルキューレには爆弾を投下した。

高ぶった精神は、威力と、加えて若干ながら連射力さえも上げている。あちらこちらにはスタンドの硝煙が舞い上がり、共に舞い上がった砂煙は、ガラクタとなった青銅の騎士へと降りかかる
そして、ギーシュの杖である薔薇の造花も粉々に打ち砕く。
空を舞う花びらを、弾丸が撃ちぬいた。ついでにギーシュにも数発命中
ここで、左手のルーンは光るのをやめた。

「ボラーレ・ヴィーア(飛んで行きな)」

あっという間の終幕。唐突に、圧倒的な展開となった。どんでん返しだ。
ナランチャの腕を沿ってエアロスミスが消えていく。
凛とした瞳は、しっかりとギーシュを捉えている
と、思えば、うっすらと口元に笑みを浮かべ、『あの顔が出た。うっかり。』

「テメェよぉ……さっき俺が体調悪いの知って、調子に乗ってやがったな……?」

いつものナランチャではない。
完璧な裏ンチャ――真・裏ンチャである!
通常は頭が悪い事などをバカにされたときに発動する『真』。
今回は何故か普通に発動していた。要するにキレてます。

「ええ、おい?それによ、決闘仕掛けた理由……自分でよーく考え直してみろ、クソ野郎」

プッツン来ていた。喧嘩をする前は抵抗があるが、一度相手に殴られるとこちらも本気で殴り返して我を忘れる。こんな経験はないだろうか。
それはもう自分の髪型をサザエさんと呼ばれた青年の如く
いきなり近づいて、ぐわしっと首を掴んで締める

「ぐ、ぐるじい……」

「テメェーッ!俺は17だこの……」

エアロスミスを構えたまま、地面に向かって……
『友人』にされていたことを思い出しつつ、咆哮する
ちなみにギーシュはナランチャの年については全く言及してない。現実は――実に非情であった
友人の力を借りて!今、必殺の!

「腐れ脳ミソがァーーッ!!」

ちょっと違ったが、コレであっているのだ。ある意味
派手な音と共に地面の土が飛び散った。しかも、赤く染められて。
そして、機銃を顔のそばに数十発打ち込んで、決着。
頭に当ててはいない。殺すのは彼の良心が踏み止めた。 

ギーシュは考える。
降参する事は、貴族としても恥ずべき事だろう。
だが、どう見ても勝ち目はないし、杖も無い。
言えることは、一つしかなかった
言い訳ではない、真実を言うことで、自分のプライド(命含める)は保たれる

流れ弾と精密動作性皆無故、頭を狙った弾丸がいくつか命中した体でギーシュは必死に言う

「降参じゃないから!君の勝ちだからもう撃たないでアッー!」

ギャラリーから歓声が聞こえる。
ただの平民が、『魔法のような何か』を使って、貴族のメイジに打ち勝った
ボロボロの布キレのように横たわるワルキューレがその破壊力を示している。その傍らにはギーシュ。彼の体に出来た穴にハチが移住し始めていた。
瞬間、ナランチャは痛快といわんばかりの表情で指を鳴らした
体の限界と、再発した頭痛で、その場に倒れたが。

(これでさ、メイジにも勝てるって、証明したぜ、ブチャラティ……)

(いや、ナランチャ、それは方向性が違うと思うぞ……)

天国でブチャラティは泣いていた。

その一方で、ルイズは見直したように、倒れたナランチャを「むー」と見つめる
自分との差が広がった気がするが、ポジティブな思考で逆に考えてみたのだ
『こんな使い魔を召喚した自分には、何かしらの力があるに違いない』と。
そして『キレさせると結構恐い』。
それがうぬぼれであるか真実であるかがハッキリするのは、まだ先のことである……
実はキレるとナイフを振り回したりするのは事実だが(今回ナイフがひび割れた……というか、取り出そうとして、気づいたら完全に割れていたために不使用)

「カッコ……いいじゃない」

それを影で見つめる怪しい人。と、火を灯した使い魔一匹
次回、ナランチャが大変なことに。

To Be continued ...

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