ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

精霊! ほんとのきもち その②

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精霊! ほんとのきもち その②

月が三十ほど交差するほど前の晩――約二年前――もっとも濃き水の底から、人間が秘宝を盗み出した。故にゆっくりと水で侵食する。
なぜならば水がすべてを覆い尽くせば、秘宝の在り処が解るから。
そのためだけに世界を水で埋める。それが水の精霊であった。
秘宝の名は『アンドバリの指輪』
偽りの生命を死者に与えると言われる水のマジックアイテム。
偽りの命を与えられた者は使用者に従うという恐るべき代物。
秘宝を奪った者の名はクロムウェル。

聞き出した情報からルイズは戦慄を覚える。
クロムウェルとはアルビオン新皇帝の名前、つまり今説明にあった指輪はレコン・キスタの親玉の手にある。
そんな物を取り戻せなど、無理難題もいいところだ。
四人のメイジは、どう返答すればいいか困り果てる。
「はい」と答えて無視してしまうという手段もある、水の精霊の涙はもう手に入れたのだから。
だがそうするといつか再び水の浸食が始まるかもしれないし、嘘をついた報復をされるかもしれない。

そんな迷いなど無縁だというように彼は答えた。
「確かに承ったぜ。何としてでもその指輪は取り戻そう。いつまでなら待てる?」
承り……否、承太郎だった。
「お前達の寿命が尽きるまでで構わぬ」
「ずいぶんと気長だな。いいのか?」
「ガンダールヴは昔にも約束を守った。だから信用に値する」

ルイズと承太郎、そしてデルフリンガーが意外な単語に反応する。
この水の精霊は虚無の使い魔を知っているの?
この水の精霊はガンダールヴを知っているのか?
この水の精霊が言ったガンダールヴって何だっけ?
上から順にルイズ、承太郎、デルフリンガーである。
二人と一本の疑問など知らぬまま、水の精霊は湖に帰ろうとした。
それをタバサが止め質問する。
「水の精霊。あなたにひとつ訊きたい。
 あなたは私達の前で『誓約』の精霊と呼ばれている。その理由が聞きたい」
「単なる者よ。我とお前達では存在の根底が違う。
 故にお前達の考えは我には深く理解できぬ。
 しかし察するに、我の存在自体がそう呼ばれる理由と思う。
 我に決まった形は無い。しかし、我は変わらぬ。
 お前達が目まぐるしく世代を入れ替える間、我はずっとこの水と在った。
 変わらぬ我の前故、お前達は変わらぬ何かを祈りたくなるのだろう」
タバサはうなずくと、目を瞑って手を合わせた。誰に何を約束しているのか?
キュルケだけはその事情を察したらしく、タバサの肩に優しく手を置く。
そんな二人を見てモンモランシーがギーシュを小突く。
「あんたも誓約しなさいよ」
「何を?」
プッツン。モンモランシーがギーシュの胸倉を掴んで怒鳴る。
「何のために私が禁制の惚れ薬を調合したと思ってるのよ!
 愛よ! 私への永久の愛を今! この場で! 誓約の水精霊に! 誓いなさい!」
「わ、解ったよ! ええと、ギーシュ・ド・グラモンは誓います。
 これから先、モンモランシーを一番に愛しますと」
「『一番』じゃない! 私『だけ』! どうせ二番三番を作る気なんでしょう!?」
渋々といった様子でギーシュは誓い直した。モンモランシーだけを誓います、しくしく。
プッツン。モンモランシーはギーシュを湖の中に突き落とした。

そんな光景を見ながら、ルイズはふと思いつき、承太郎に声をかけた。
「あんたは、誓わないの?」
「……何をだ?」
「ほら、その……私への愛とか」
「今は誓えねー」
承太郎は後ろから優しくルイズを抱きしめた。ぬくもりにルイズは顔も胸も火照る。
「惚れ薬の効果が切れたら……改めて誓う。俺の本心からな」
「……うん、誓って」
か細い声でそう答えたルイズに、キュルケ達の視線が集中していた。
「ジョータローは惚れ薬を飲んでるから仕方ないとして、ルイズやっぱり……」
「ややや、やっぱり何よ!? ち、誓うのは、その、使い魔として当然の事でしょ!?」
デレからツンへ一転早変わり。何とも微笑ましい光景だとキュルケは笑った。
何はともあれ、後はモンモランシーが解除薬を完成させれば万事解決。元通りだ。

深夜のトリステイン王宮。
そのもっとも堅牢であるべき女王の寝室をノックする者があった。
「誰? 名乗りなさい。夜更けに女王の部屋を訪ねるなど……」
「僕だ」
短すぎる返事。だがそれにアンリエッタにはその一言で十分だった。
「……そんな、嘘……。だって、あなたは……」
「僕だよアンリエッタ。この扉を開けておくれ」
頭の中で絶対にありえないと理解していながらも、アンリエッタは恐る恐る戸を開ける。
そこには、愛する従兄、昔――ラドクリアン湖で愛を誓った相手、ウェールズがいた。


「ウェールズ様……戦死なされたはずでは?」
「誰かが僕の死体を確認したのかい? レコン・キスタがそう発表しただけだろう?
 腕は一本失ったが僕は生きている、生きているんだ。その証拠を聞かせよう」
優しく包み込むような微笑みをウェールズは浮かべる。
「風吹く夜に」
ラドクリアンの湖畔で何度も聞いた合言葉。
それは二人が短い逢瀬をすごす時に使ったもの。
「水の、誓いを……」
震える唇でアンリエッタは懐かしい合言葉を言うと、ウェールズの胸に飛び込んだ。
涙と喜びがあふれ、アンリエッタの心は幸福で満ち冷静な判断力を失う。
「今日は……君を迎えに来たんだ」
「迎えに……?」
「僕と一緒にアルビオンに来てくれ。アルビオンをレコン・キスタの手から解放する。
 そのためには君の協力がいるんだ、国内には僕の協力者もいる。
 頼むよ、時間が無いんだ。君がいなくてはこの戦いに勝利は無い。
 愛している。アンリエッタ、僕と一緒に来てくれ」
ゆっくりとウェールズの唇がアンリエッタの唇をふさぐ。
甘い思い出にアンリエッタが浸っている間に、ウェールズは眠りの魔法をかけた。

一方その頃、トリステイン魔法学院女子寮の一室にてついに調合が完了した。
「できたわ! 解除薬の完成よ!」
おおっ、と歓声が上がる。
モンモランシーの部屋には水の精霊と話をした全員が集合している。狭い。
さっそくルイズは承太郎に飲ませようとしたが、その強烈な臭いに顔をしかめる。
「じょ、ジョータロー……。ちょっときついだろうけど、飲みなさい」
「やれやれだぜ……」

嫌そうな顔をしながらも、承太郎は解除薬の入ったビンを受け取った。
「酷い臭いだな」
「まあまあ。アレよりはましだろう?」
ギーシュが言うと、タバサが睨みつけてきた。
他の三人は「アレって何?」といぶかしげな表情をしている。
大きく溜め息をついて、承太郎はルイズに優しい眼差しを向けた。
「これを飲む前に……言っておくぜ」
「な、何よ」
「お前の事は……いつだって大切に思っていた」
「そ、そう。早く飲みなさいよ」
「それだけは、この惚れ薬を飲む前も、この解除薬を飲んだ後も、決して変わらない」

なぜだろう。
今の承太郎の言葉だけは、素直に心から信じられた。
本当に惚れ薬に関係なく、承太郎がそう言った気がした。

承太郎は解除薬を一気に飲み干す。それから数秒、彼は目元を押さえて頭を振った。
「ジョータロー、大丈夫?」
「……ああ……おかげで、スッキリしたぜ。
 そしてもう一度『誰が一番悪いのか』タイムと洒落込もうじゃあねーか……。
 この場にいる人間で、一番悪いのは誰だ? ルイズ」
「モンモランシーと迷うところだけど、精霊の前でも渋々誓ってたギーシュかな」
「キュルケ、おめーは誰だと思う?」
「モンモランシー。とはいえ精霊の前でのあの誓いを見るとギーシュにも思えるわ」
「タバサ、おめーはどいつだと思う?」
「ギーシュでいい」
「モンモランシー、てめーはどうだ?」
「ギーシュよ」
「ついでにデルフ。おめーはどう思う?」
「みんなギーシュだって言ってんだから、ギーシュでいいんでないの」
「ギーシュ、この一連の騒動のツケ……誰が支払うべきだと思う?」

いつの間にか、全員が後ろに下がっていた。
取り残されているのはギーシュだけだった。
静かなる怒りを燃やす承太郎が歩み寄る。
ギーシュは乾いた笑顔を浮かべた。
「は、ははは……ジョータロー、これは不幸な事故だ。
 僕は君に惚れ薬を飲ませるつもりなんて無かったし、アレ(タバ茶)を飲んでしまった君にも責任はある。
 だから……許してくれるよね? 僕達、友達だろう? ねっ?」
「質問だ……。右の拳で殴るか? 左の拳で殴るか? 当ててみな」
「ひ……一思いに右で……やってくれ」
「答えはNOだぜ」
「ひ……左?」
「おっと残念。こちらもNOだ」
「えっ、ええー!? じゃあ、その、どうするつもり……」
ギーシュは笑みを恐怖に引きつらせて後ずさった。
怖い沈黙の中、タバサがボソりと答える。
「両方?」
それを聞きキュルケも問う。
「もしかしてオラオラ?」
正解とばかりに承太郎は拳を振り上げた。
不正解に終わったギーシュは哀れ、豚のような悲鳴を上げた。
スタープラチナを使わなかった事がせめてもの救いであるが、承太郎のパンチは子供時代であっても大人を気絶させる威力がある。
つまり十七歳の承太郎の生身パンチの威力も十分オラオラなのだった。
ちなみにギーシュはあまり悪くない、承太郎の完全な八つ当たりである。

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