ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-4

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匿名ユーザー

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トリスティン魔法学園で働く使用人シエスタは、長い間右足が不自由だった。
しかし、その足がある日突然治り、てきぱきと働けるようになると、厨房の仲間達はそれを訝しんだ。
厨房の仲間はどうやって治したのかと質問して来たが、シエスタは約束通り誰にも本当のことを話さなかった。
足の治ったシエスタは配膳も任されることになり、毎日毎日元気に働いている。

ただし、マルトーだけは、シエスタが食堂でデザートを配り負えてからため息をついているのに気づいていた。
「今日も居なかったかあ…」
シエスタは、まるで恋する乙女が思い人を待ちわびるかのように、ため息を漏らしていた。
マルトーはそれを知り、シエスタはメイジに治して貰ったのかと気づいたが、自分が口出しする事でもないので黙っていた。

ある日。
配膳を終えたシエスタが、暗い表情で厨房に戻ってきた。
シエスタは心ここにあらずといった感じで、元気がない。
テーブルクロスを洗い忘れたり、食器を落としたりと、明らかに調子がおかしいので、マルトーはシエスタに「今日はもう休め」と指示した。
一日の仕事が終わってからシエスタの部屋に行き、今日は一体どうしたのだと質問した。

シエスタは、最初は黙っていたが、マルトーの熱意に根負けして話し始めた。
「私の足を治してくれた貴族様が、明日、この学院を退学されるそうなんです」
「やっぱり、誰かに治して貰ったのかい」
「はい。…貴族って、怖い人ばかりだと思ってました、でも、その人は違うんです、私のことも気にかけてくれるし、デザートを配った時なんか、ありがとうって、いつも言ってくれて…」
「そんな奴が貴族にもいるのか」
「…その人、だけです」
「そういう貴族ばかりなら、俺も貴族を嫌ったりしねぇんだけどなあ…ところで、その貴族様はどうしてお辞めなさるんだい」
「魔法が一つも成功しない、使い魔も召喚できない、このまま落第するより退学するって言ってました、私…まだ、何のお礼もしてないんです、その人に」
「そうかぁ、シエスタ、おめえその貴族に惚れたのか」
「えっ!?」
「いや、若いうちはそういうこともあるさ、だがなぁ、身分の差ってのはどうしても覆せねえのさ」
「あ、あの、マルトーさん、ヴァリエール様は女性ですよ」
「ヴァリエールって言うのか…って、女性!?」
「…………」
「……そ、そういえばヴァリエールと言ったら、かなりの公爵様じゃないか、ご実家に帰られたら、俺たち平民にも気を遣って下さる領主様になって下さるよう、祈るしかねえよなあ」
「そう、ですね。私、ヴァリエール様に笑われないように、自分の仕事を頑張ります」
「そうそう、その意気だ、湿っぽい顔で料理を配ったら料理にカビが生えちまう、俺たちは俺たちの仕事をしよう」
「はい」


シエスタとマルトーが話している頃、ルイズは宝物庫の扉の前で星空を見上げて佇んでいた。
昨日ルイズの退学決定を知ったキュルケは、ルイズの部屋に押しかけ、ルイズをさんざんバカにした。
曰く、諦めるなんて貴族らしくもない。
曰く、性根までゼロなんて知らなかった。
曰く、爆発するのも特技として遣えばいいじゃない。
曰く、あんたがそんなんじゃ張り合いがない。
ツェルプストーの家とヴァリエールの家は、国境を挟んで隣り合わせにある。
古くから犬猿の仲で喧嘩ばかりしていたが、どうやらお互い意地を張り続けているのが原因らしい。
「張り合いがない」
この言葉にすべてが集約されている。
キュルケは私をバカにしているくせに、怪我をしたときは真っ先に心配してくれた。
たぶん、私がライバルとして成長するのを楽しみにしていたのだろう。

ルイズは二つの月を見上げる。

あの二つの月は、どんな気持ちなのだろう?
寄り添っているのか、競い合っているのか、どちらにせよ二つあって当たり前なのだ。
一つしかない月なんて、寂しくて仕方がないだろう。
でも、今の自分は吸血鬼、いつかは気づかれ、いつかは討伐される。


「…!」
突然、何者かの視線を感じ、ルイズは身構えた。
こんな時間にこんな場所で視線を感じるなんて考えられない。
周囲の物音には気を配っていた、ネズミの足音も、モグラの音も聞こえなかったのに、視線だけを感じる。
一つだけ思い当たるものがある、学院長オールド・オスマンの部屋にあると言われる、『遠見の鏡』だ。
噂では、全盛期のオールド・オスマンはハルケギニア全土を『遠見の鏡』で監視できたと言われている。
ただの噂なら問題ないが、念のためという事もある、ルイズはその場を離れることにした。

少し距離を置いたところで視線を感じなくなる、宝物庫の周辺に視線を絞っているだろうか?
そしてルイズの耳に足音が聞こえて来た、誰かが私を連れ戻しに来たのだろうか…と思ったが、その足音はルイズの方ではなく宝物庫に向かっている。
ルイズは気配を消し、月明かりを避けて影に入り、地面に伏せた。
耳を地面に当てると、目で見るより明らかな情報が入ってくる、足音は軽い、おそらく20代前半、身長体重共に平均的(キュルケより少し痩せ気味?)、ミセス・シュヴルーズにしては軽すぎる…該当するのはオールド・オスマンの秘書、ミス・ロングビルだ。
「………」
サイレントの魔法が詠唱され、ロングビルの周囲から音が消える、しかし空気を伝わる音が消えても地面を伝わる音までは消しきれない。
聞こえてきたのは練金の詠唱、しかも長い。
ふと顔を上げると、宝物庫の扉を練金しようとするロングビルの姿が見えた。
こんな時間に宝物庫に何の用があるのかと思ったが、ふとマリコルヌの話を思い出した。
夜中に宝物庫に用があると言えば、泥棒意外に考えられない。

噂好きのマリコルヌが、「土くれのフーケ」という盗賊の話していた。
ある時は大胆に宝物庫を破壊し、ある時は金属の扉や壁を土くれに練金するという、凄腕の盗賊だ。
その手口から、土系統のトライアングル程の実力があると言われている。
マリコルヌは「そんな卑怯者、学院に現れたら僕が捕まえてやる」と意気込んでいたが、どう見ても無理だろう。

なぜ、無理だと分かるのか…
それは「臭い」と言うべきか、「味」と言うべきものなのか分からないが、とにかく、ロングビルの持つ魔力と血が「美味しそう」に見えるのだ。
同級生のキュルケや、タバサの実力はトライアングルだが、それに似た「質の良い魔力を含んだ血」の臭いがする。

ルイズは牙を剥き出しにしたくなったが、あの視線がルイズを見ている可能性がある。
その場はじっと我慢した。

…もっとも、牙を使わなくとも、この身体はどこからでも血を吸うことが出来るのだが。


翌日、ルイズは朝早くから荷物を運び出し、馬車の荷台に積んでいた。

トリスティン魔法学院も今日で見納め、そう考えると、少しだけ寂しい気持ちになる。
今までルイズはバカにされ続けてきた、実家では使用人達からもバカにされ、誰もルイズを見ようとしない。
貴族としての仕事をこなす父の姿には、憧れがあった。
厳格な母には恐怖していたけれど、理想の姿でもあった。
厳しいエレオノール姉様は貴族としての心構えと、成長を私に見せてくれた。
優しいカトレアちい姉様は、動物を飼い、博愛の精神に満ち、そして人間は基本的に寂しがり屋なのだと教えてくれた。

そんな家族を、これから裏切る。
いや、吸血鬼になった時点で裏切ってしまったと同等だろう。
自分が吸血鬼だとバレたら、ラ・ヴァリエール家にとっても不名誉極まりないことだ。
このまま失踪するのが一番良い。

しばらくしたら、どこかの街道で行方不明になるのも良いだろうか…。


荷物を馬車に積み終わったところで、衛兵が何名かやってきた。
衛兵の話だと、トリスティン魔法学院にアンリエッタ姫殿下が来られるのだとか。
そのついでに使い魔の品評会をするらしい。
なるほど。
いけ好かない教師が、しきりに自主退学を薦めてきた理由がやっと分かった。
『落第してでも自分の魔法を磨いて欲しい』と言っていたオールド・オスマンとは大違いだ。

衛兵達は、アンリエッタ姫殿下の道を遮らないようにして欲しいと私に言う。
馬車を使うなら、裏門から出て人通りの少ない道を使ってくれ…と。

これは好都合だと思った。
だが、私がこのまま失踪したら、この衛兵達は私を失踪の責任を取らされ、ラ・ヴァリエール家に処刑されかねない。
王都に立ち寄ると言って、適当に足跡を残してから失踪すべきだろう。

折角アンリエッタが来ているのに、会えないのは辛い。
けれど仕方がない。
せめて遠くから一目様子を見て、お別れをしよう。


退学届けを出した以上、学院の中をうろつくのは気まずい。
そのため厨房の裏手から学院に入り、廊下から中庭を見た。
すると中庭はたくさんの人で溢れかえっており、使い魔達もその周囲に並んで、一種異様な雰囲気を醸し出していた。
特設された姫殿下席の周囲には、グリフォンやマンティコアが並んでいる。
アンリエッタ王女の護衛を任された魔法衛士隊、その使い魔だろう。
あんな立派な使い魔を持つ衛士を護衛に付けておきながら、使い魔の品評会をするなんてどこか滑稽だ。

アンリエッタの姿を見ると、薔薇の君と呼ばれるのがうなずける程、清楚で可憐な笑顔を振りまいているのが分かる。
しかし、その笑顔には疲れが見える。

王女様…自由にならない王女様。
友達と遊ぶことも、外で遊ぶことも、自由に遊ぶことも、恋愛もできない王女様。
ルイズはアンリエッタに一礼して、その場を離れた。

(どこか遠くに行こう、そして、自分だけの世界を作ろう)

馬車に乗り、手綱を握って、さあ出発だというところで…

宝物庫から、鈍い音が轟いた。



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