ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第五話 【自分からの第一指令:『食事をゲットせよ!』】

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匿名ユーザー

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だれでも歓迎! 編集
(やはり声をかけるべきなのだろうか・・・)
フーゴは己の主人を見て考える。
教室に残っているのは二人だけ…。
といっても、『ドキドキの放課後告白タイム』だとか
『アーミーナイフを持った委員長に襲われるフラグ』とかでは断じてない。

ルイズの所為でメチャメチャになった教室の後片付けという
実に侘びしいイベントである。

しかし、当の本人は机に突っ伏して譫言を呟いているばかり…。
落ち込んでいるその姿は端から見ていて痛々しいものがある。
そんな彼女に向かって『掃除しろ』なんて誰が言えようか!?
(何とかしないといけない!…のかな?)

フーゴは軽く溜息をついた…。

なんかデジャブを感じるな…と思いつつ。

『紫霞の使い魔』

第五話 【自分からの第一指令;『食事をゲットせよ!』】

「あのぅ…こんなことで 気にする必要はないと思いますよ」
掃除する手を止めて、気さくに話しかけてみる。
「…………」
反応なし。敵機沈黙。沈思黙考。
いや、無理もない。いつも こうだから気にしているのである。
フーゴも、そんなことは生徒達の反応でわかっていた。
それでも彼女を元気づけるために話を続ける。

「昔から言うでしょう?『失敗は成功の母』だって!」
「…………」
そんな格言がここハルケギニアに存在するのか?
存在したところで『この娘』に成功が訪れるのか?

「つまり、諦めずに根気よく続けることが大切なんですよ?」
「…………」
されど、既に彼女は人一倍努力してきたのだ…。
これ以上やったところで、それは報われるのか?

「人生においては、魔法に限らず 失敗することなんか、よくあるこ──」
「……あんたに…」
今まで伏せていた顔を上げ、少女は立ち上がった…。

──怒りと悲しみの入り交じった視線を彼へ向けて──

「あんたみたいな『平民』に……
 あんたみたいな『露出狂』に……
 わたしの何がわかるっていうのよ…!!
 『ゼロのルイズ』って呼ばれる わたしの!何が!!」

その美しい桃色がかったブロンドの髪を揺らし
その美しい鳶色の瞳いっぱいに涙を浮かべ
その美しい透き通った声を張り上げて

彼女は叫ぶ

メイジなのに魔法が何一つ使えない『ゼロのルイズ』
由緒ある誇り高き名家の落ちこぼれ『ゼロのルイズ』
使い魔契約の儀式で『平民』を召喚した『ゼロのルイズ』

─誰にもわかりはしない!知ろうともしない!
  わたしがどれだけ周りからの重圧に耐えてきたのかを!─

─誰にもわかりはしない!知ろうともしない!
  わたしがどれだけその重みに潰されそうになったのかを!─


──こんな『露出狂の平民』に一体
   そんな『ゼロのルイズ』の何がわかる!──

「…そうですね。ぼくにわかるとすれば
 あなたが『かつての友人』によく似ているということですね」
彼はとても穏やかな微笑みを浮かべていた。

「……えっ?」

「ぼくの友人も、勉強ができなくてよく嘆いていたんです。
 1つ年上なのに…掛け算もできなくて……」
懐かしげに…そして寂しげにフーゴは語り始めた。

「でも彼はそれを克服しようとしたし、別方面の『才能』もありました。
 計算高くは無いけれど、思いもつかない奇抜な発想を生み出すヤツでした…。」

路地裏で鼠のように残飯を漁る少年。その姿は小汚く、惨めったらしくて…。
けど、その少年の片眼には微かに『輝き』が見えた。薄汚れてはいたが…確かに!
コイツはここでゴミを漁るような男じゃない!その時フーゴは…そう感じた。

「あなたには彼と同じ『輝き』があります。魔法の才能なのかは解りませんが
 でも確かにあるように思えます!君の中には何かが『眠っている』…!」
嘘ではない…。彼女が指名されて立ち上がったその姿からは
キラリと美しく『輝くモノ』が見えた。

「あなたはきっと素晴らしい素質を持っています!
 お世辞だと思ってくれてもかまいません!けれども諦めちゃいけません!
 どんなに辛いことがあっても何事も諦めたら終わりなんです!」

──そう。このぼくのようにならないためにも──

「本当にあるの?そんなのが わたしに…」
「少なくとも、ぼくは そう信じていますよ」
不安げに問いかけるルイズに対して、フーゴは力強く答える。

「わたしも魔法が使えるようになれる?」
「大丈夫!きみならできますよ」
まだ涙ぐんでいる顔はとても愛らしく、彼の心に保護欲を掻き立てた。

「わたしみたいな『ゼロのルイズ』でも?」
「あなたみたいな『ゼロのルイズ』で ぐほゥッ!」

ふいにフーゴの腹にルイズの鉄拳がめり込んだ!
痛い!と言うより、苦しい!鳩尾にクリーンヒットした!かいしんのいちげき!
「わたしを『その名』で呼ばないで…!食事一回抜きよ!」
既に彼女の顔は『小動物』から『鉄面皮』に戻ってしまっていた…。
引っかけたのはあんただろ!と抗議したかったが
呼吸器官がイカレてしまって声が出ない…。
ルイズはプイッとそっぽを向くとまっすぐ教室の入り口へ向かう。
結局、掃除せずに出て行くつもりのようだ。
{{お前の罰だろ!やれよ!やってけよ!やらなきゃ殺るぞ!}}
また殺意が鎌首を擡げ始めたが、突然振り返ったルイズを見た瞬間
綺麗に吹き飛んだ。


「あんたの言葉…お世辞半分だろうけど
 一応『妄言程度』に信じることにするわ」

そういうと少女は駈け出していった。

教室に残ったのは、ようやく窒息の危機から脱したフーゴのみとなった。
(まぁ『苦しい思い』はしましたけれど、一歩前進!…したのか?)
このままいけば微妙なところだが『信頼』してもらえるかもしれない…。
あとはこういったことで解り合い、積み重ねて『絆』にしていかなければ…
(そのためには、まず…!)

  グゥゥゥゥーーーーッ !
どうも、腹に受けた衝撃の所為で胃が目覚めてしまった様だ。
思い出したがこの三日間、ろくなものを食べてなかった。
しかも今朝は、粗末な『エサ』しか口にしていない…。
食事一回抜きにもされた!
このままだと体力・精神のどちらか…もしくは両方切れてしまう。
(どっかで栄養補給できないもんですかねぇ…)

フーゴは空きっ腹を抱えたまま、掃除を再開した…。


そんな時だ。掃除が終わり、食堂前で
忠犬のように主人を待っているフーゴのところに
同じくらいの年ごろのメイドがたまたま通りがかった。
名前をシエスタといった。
シエスタは食堂の裏にある厨房にフーゴを引き入れると
給仕の仲間と厨房のコック長に向かって叫ぶように言った。
「こいつにシチューを食わしてやりたいんですが
 かまいませんね!!」
すると、その仲間達は
(中略)
「なんでもやりますッ。あんたのところで仕事させてくださいッ!」
「なら、デザートを運ぶの手伝ってくださいな」
『情けは人のためならず』。その言葉の持つ意味は重い…。

「すみませんね。わざわざ手伝わせてしまって…」
ケーキを配りながらシエスタが話しかけてきた。
「いえ、食事をおごらせて頂いたんです。これくらいは当然ですよ」
なぜか今日はナランチャ関連の事ばっかり思い出す。
何故だ?やはり生きているかどうか心配なのだろうか?
まあ…もはや、知ることはできない問題だが。
「ところで…どうして、ぼくを助けてくれたんです?」
「困っているときはお互い様ですよ。人は助け合っていかないといけませんから…」
そういうと、黒髪の少女は優しく微笑む。荒んだ心が癒されていく…。
それは、自分の主人とは違う美しさ…『母性』を思わせる微笑みだった。
何と暖かく眩しい笑顔だろう!フーゴもその笑顔に釣られて顔が綻ぶ…。

あれ…?どこからか突き刺さる視線を感じるぞ?
痛い!イタイ!射殺すように降り注ぐ視線が痛い!
でも振り向くな!振り向くんじゃない!パンナコッタ・フーゴ!
振り向いてしまったら!お前は確実にナンテコッタな事態になってしまうぞォォォ!
「どうしたんですか?」
「いえ…なんでもありません…」
必死に首をその『負のオーラを放つモノ』へ向けぬように曲げると
今度は別の『見てはいけないモノ』を見てしまった!

「なあ、ギーシュ!お前、今は誰とつきあっているんだよ!」
「つきあう?薔薇は多くの人を楽しませるために咲く花……
 その美しさは誰にも縛られるものではないのだよ!」
ギーシュと呼ばれた生徒は、その金髪を掻き上げた…。周りに薔薇トーンが舞う。
(ああ…見るんじゃなかった。気色悪い。クラスに一人はいますよね?ああいうヤツ。
 『同族嫌悪』?少なくとも、ぼくはあんなナルシストじゃありません…。
 この服は肌を露出したいわけじゃありません。ファッションですんで。
 と…いうか、ぼくは誰に向けて語っているんだ?)

その時だ!
『紫色の物体』がギーシュのポケットから落ち、フーゴの足下に転がってきた。
(何ですか…コレ?)
拾ってみると、それは液体の入った小壜だった。
おそらく『常備薬』もしくは『化粧品』の類であろう。
「ああ…君。落としましたよ」
小壜は軽く放り投げられ、放物線を描いて持ち主にナイスキャッチされた。
これでよし。フーゴはデザートを配る作業に戻ることにした。
もうこんなヤツと関わるのはゴメンだとばかりに背を向ける。

「おい!待ちたまえ。これはぼくのじゃないぞ」
またまた…ご冗談を。じゃあ盗んできたんですか?そんなわけないでしょう。
断固無視。
「ギーシュさま…それはミス・モンモラシーの……」
「違う!違うんだ!ケティ!彼女とは何に ごふゥ!」
…背後でゴキブリを叩き潰すような音が聞こえたがきっと気のせいだ。
断固無視。
「ギーシュ…やっぱり、あんたまた……」
「違う!違うんだ!モンモラシー!彼女とは何に ぐふゥ!」
…背後でガラスを殴りつけた様な音が聞こえたがこれも気のせいだ。
断固無視。
「クソッ…おい!そこの平民!いい加減こっち向け!」
…背後で蚊が耳元で喚くような声が聞こえたが気のせいにしておきたいな。
ダンゴムシ。

「何か…用ですか?」
フーゴが気怠げに振り向くと、
そこには、顔に指紋判別できそうな手形をつけ…
ワインでずぶ濡れになったナルシストが立っていた。
「『何か?』じゃない!君はなんてことをしてくれたんだ!!」
「小壜を拾っただけですけれど…?」
ただそれだけだ。他は何にもしていない。
「気を利かせて後で渡してくれればいいじゃないか!!」
「今必要なものだったら困るでしょう?」
あっさりと返された答えにギーシュの端正(?)な顔が怒りに歪む。
「…ともかく!君は間接的に二人のレディの名誉を傷つけたんだ!
 これをどうしてくれるんだね?」
「どうしようもありませんよ。ぼくには関係ありませんから…」

周りの生徒たちから笑い声が巻き起こる!
「そうだぞギーシュ!『関係』があったのはお前だぞ!」
「それも二人にな!!」
ギーシュが真っ赤になっているのはワインだけの所為でもなさそうだ…

「…僕が『知らない』といったとき、もっと機転を利かせるべきだったんだぞ…
 わかっているのか!平民風情が!!」
憎々しげにフーゴを睨み付けるギーシュ。
「…………どうして…関係がないのに……
 …ぼくの所為にしたがるんですか……!」
フーゴの顔が俯いた。その両肩は微かに震えている…。
泣いているのか…?思ったより気が弱いんだな。
ギーシュはそう判断した。そう考えると強気になれるからだ!

「確か、君はミス・ヴァリエールが呼び出した平民だったな!
 …まったく。よく美的センスの欠片もない服を着ていられるね?
 その服と同じようにスカスカな 君のおツムに期待した僕の方───」

  ザ グ ゥ ッ !

「ガァッ!?」
突如右頬に走る激痛と衝撃!何が!?一体!?何故!?
ちらりと見てみると目の前に『露出狂の平民』の左腕が見えた。
この身の程知らずめ…!!平民の分際で貴族を殴るなんて…

…殴る?よく見るとヤツの拳は僕に到達する手前に停止していた。
しかし、その手には『銀色に光る何か』が握られている。
じゃあ まさか…この右頬に感じる『痛み』の正体は───


予想通り!それは『フォーク』!!


「あぎゃアアアァーーーーーーーーッ!!!!!」

痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!
痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!
痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!痛い!

既にフーゴの手から離れ
ブラーンブラーンとブランコのように揺れ動くフォーク。
その度にギーシュに激痛が襲う!思わず、反射的に屈みこむが…!

   ド ガ ァ ッ !

「ぐぇげぇえええ!!!」
鼻面にトゥキックをかまされ、顔が蹴り上げられる!

ガシィ!ブチブチチィィ!!
その瞬間!自慢の金髪が、引きちぎられるかのような力で掴まれて
ゆっくりとその体が浮いていく。

彼は…本当によく耐えてきたが…!
『平民』パンナコッタ・フーゴは

ついに『切れた』…!


「この…ナルシストが……!!

 オ レ を ナ メ て ん の か ァ ア ア ア ッ ッ ! ! ! ! !」


暴風雨のようなその迫力は!一瞬で食堂全体を包み込んだ!!
ヒィィ!と小さく呻くギーシュ。他の生徒達は恐怖で悲鳴すら上げることができないッ!!
一緒に給仕していたシエスタの顔には死相さえも浮かんでいる!

『ゼロのルイズ』にはお似合いの使い魔。『ただの平民』…
ナヨナヨした優男の『露出狂野郎』…
もはやそんなことを言えるヤツは一人としていないだろうッ!

今!ギーシュ・ド・グラモンを片手で持ち上げて
その頭を握りつぶそうとしているソイツの形相は…

───『悪魔』そのものだった!───

「こちとら!無理矢理使い魔にされて!!」
  ガ ス ゥ ッ !
テーブルにギーシュの頭を叩き付ける!
その際に彼が蟇蛙のような声を上げるが
気にせずに再び持ち上げて…

「露出狂呼ばわりされて!!」
  ゴ ス ゥ ッ !
叩き落とす!

「小娘にバカにされて!!」
  ボ グ ゥ ッ !
「やたらこき使われて!!」
   ド ゴ ォ ッ !
「てめぇの罰押しつけられて!!」
  ボ ゴ ォ ッ !
「メシは生ゴミ同然のモン食わされて!!」
  ゴ シ ャ ア ッ !
「しかも!理不尽な理由で一食抜かれて!!」
  グ シ ャ ア ッ !
「それでも!『我慢してきてやった』っつーのに!!」
  メ シ ャ ア ッ !

その言葉を聞き、ルイズはようやく理解した…。
今起きている惨劇は本来、自分が受けるべきモノだということを…!
もはや、止めようとしても体が震えて、動くことも声を出すこともできない…。
『自分の使い魔』はその笑顔の下に、コレほどの不満を溜め込んでいたというのに!
自分は何故わからなかったのだ!?
彼も、何故わからせようとしなかったのだ!?
何故……こんなことになってしまったのだ!?

「それなのに…何だー!?テメェは!!何様のつもりだ!?」

されど、今のフーゴの目に映るのは自分を散々コケにしてくれた主人ではなく!
関係がない自分に『罪』を擦り付けようとするスケコマシ…
ギーシュ・ド・グラモンの姿だけであった!!

「二股がバレたのはオレの所為だとッ!?フザけてんじゃねーッ!!」

ゆっくりと…テーブルにあるギーシュの頭を自分の目線にまで持ち上げる。
顔は深紅に染まり、鼻は潰れ、目は腫れあがり、
唇からは僅かに空気の漏れる音が聞こえるのみ…。
先刻出て行った二人の少女が戻ってきて、彼を見たとしても
数分前まで愛していた男と同一人物だとは思いはしまいッ!

「テメェが……テメェのようなクズ野郎が…!
 このクソ狭い生活空間で二股するような『バカ』で!!
 『浮気の証拠』を大事に持ち歩くような『アホ』で!!
 こんな人が集まる場所で落としちまうような『マヌケ』で!!
 救いようもねえ『種馬野郎』なのが悪いんだろうがッ!!!」

もう彼は充分に…いや、余りあるほどにその『報い』を受けただろう…
けれども、フーゴの中の『殺意』は まだ治まりはしなかった!!

「そんな簡単なこともわからねぇのか!!!!!」

ギーシュを掴んだ腕をめいっぱいの高さまで持ち上げ
そのまま一気に腕をテーブル目掛けて 振り抜き……!


「……この…………

   ド  低  能  が  ァ  ーーーーーーーー  ッ ! ! ! 」


  ド グ シ ャ ァ ア ア ア ! ! !


───『何か』が砕けた…。大切な『何か』が……───


To Be Continued…

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