ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第九話 『柵で守る者』前編

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ギーシュの奇妙な決闘 第九話 『柵で守る者』前編

「ふむ……」

 草木も眠る丑三つ時。
 書類処理も終わったオスマンは、自室の窓から王都へ向かう馬を見つめていた。馬上の人影は自分のいる塔を見返る事すらせずに、駆け抜けていく。
 ギーシュに追っ手としての資格があるのならば、引き返してきて来ると言うのが約束であったから……グラモンの馬鹿息子は、承太郎のお眼鏡に適わなかったと見ていいだろう。

 オスマンの手元には、5名の名前が書かれた紙があった。タバサ、キュルケ、ルイズ、才人、ギーシュの名前が書かれており、オスマンはギーシュの名前に横線を引いて、嘆息する。

「この四人……タバサのシルフィードならば捜索範囲も広いじゃろうし……早速、明日の朝一で召集するかのぉ……教職員も一人つけたいところじゃな。ズォースイ君なら適任じゃな……あ」

 思いついてから、自分が彼の傭兵時代の情報網を頼りにして、土くれの捜査をさせていることを思い出した。早くても明日の夜まで戻らない筈だ。
 時刻は既に、夜と言う時間帯も半ばを過ぎた頃。そろそろ寝ておかないと明日が辛いのだが、オスマンに寝る暇などあるはずもない。
 たとえあったとしても、寝ずに別の事をしているだろう。

 ――やりきれなかった。貴族としての責務があり、禄も貰っている自分たちではなく、平民に近いミス・ロングビルが犠牲になった事が。

 彼女自身はオスマンを騙し通せたと思っていたようだが、オスマンはとうの昔にロングビルが堅気の人間でない事には気付いていた。
 何気ない仕草から垣間見える用心深さは、普通の人間のそれではない。(最も、現在進行形で犯罪をしているとは思っておらず、足を洗った人間としてとらえていたが)
 オスマンに拾われるまで、艱難辛苦を舐めてきたのであろう。最近になってようやく、仮面の下の険もとれて、自然な笑顔を見せるようになってきたというのに。

(ミス・ロングビル! 君の敵は絶対に討つぞ……始祖ブリミルにかけてじゃ!)

 それが、余りにもあっさりと……せめて、ロングビルの死に報いるために、何かをしていなければいけないという強迫観念が、オスマンの老体を突き動かすのだ。

(あれは、まだ発展途上だ)

 夜の街道を駆け抜けながら、承太郎は思う。
 ギーシュ・ド・グラモン。とてもじゃあないが、戦場に出るようには見えなかった、なよなよした少年……
 臨戦態勢のときに見せた覇気は中々の物だったが、承太郎に言わせればまだまだ甘い。
 自分のスタンドを把握する事すらできていない人間を、フーケの追撃に回すなど愚の骨頂である。
 下手をすれば、自分の能力を間違った使い方をして、足を引っ張りかねない。

(時間が足りねえ)

 時間があれば、彼のスタンドの把握に付き合って、アドバイスをして……そこそこ戦えるスタンド使いにする自身が、承太郎にはある。だが、時間がないのだ。
 承太郎のスタープラチナの能力は、『時間停止』……ただし、自分以外動けない停止の世界。書類整理などでは結構役に立つのだが、今の状況で役に立つはずもなく。

 元々、この手の犯罪捜査は早期の捜査に早期の行動こそが尊ばれる。
 フーケがDISCの存在を知っているかどうかは分からないが……知っているのならば、事は一刻を争う。
 普通の犯罪捜査ならばこんな事気にせずとも、迅速な捜査が行われるのだが、事が姫殿下に対する大逆に至ったせいで、逆の現象が起こった。
 フーケの捜査が今までにない大掛かりな物となる事が決定したせいで、動因人数が一気に膨れ上がり、足並みをそろえる為に時間がかかってしまっているのである!

(フーケの野郎……まさか、コレを狙ってやがったのか?
 やれやれだぜ……)

 事ここに至ってしまっては、騎士団と言う組織に組み込まれた承太郎に出来る事など、少ししかない。
 その『少し』を完璧にするために、承太郎は愛馬の腹を蹴り上げ、王都へと急いだ。


 少しでも早く。少しでも早く。
 そんな意気を持って夜の道をひた走る承太郎の背中を見送ったのは、オスマン一人ではなかった。

「……行ったか」
「みてぇーだな」

 城門の傍らに設けられた厩舎の中から、承太郎の様子を伺う二人の人影……彼らは、承太郎にその顔を見られると非常に困る立場にある人間だった。
 承太郎が馬を厩舎に入れる手間すら惜しんで城門付近に繋ぎとめたおかげで、命拾いをしたようなものだった。
 男達の一人……黒尽くめのメイジが、己が蝙蝠の使い魔を使って盗み聞きした内容を反芻しながら、驚嘆を漏らす。

「話に聞いていた以上に、厄介な男だな……ジョウタロウ・シュヴァリエ・ド・クージョー……もうこちらの動きを予測していたとは。
 馬を厩舎に入れられていたら、私達は本気で終わっていたな」
「けっ……クソ忌々しいビチグソ野郎だぜ」

 もう一人の男が嫌悪を下品な言葉遣いで吐き出すが、メイジの言葉を否定しようとはしなかった。
 事実、彼は承太郎が厄介極まりない男だという事を、骨身に染みて知っている。

「だが、幸運でもある……今、この場で彼は警告で済ませた。
 という事は……我々が既に動いている事を知らないという事だ。
 今日はいい日だ。ついている」

 ぱたぱたと、厩舎の入り口から舞い込んできた蝙蝠を指にとまらせて、メイジは男の眼前に突き出した。

「もう一度確認する。誘拐するのは?」
「ギーシュ・ド・グラモンと、サイト・ヒラガだろ」
「敵の部屋の位置は?」
「ばっちり記憶済みだぜ」
「輸送手段」
「テメーのゴーレムの腹ん中に入れる」
「……最後に、『肉』の補充」
「しったこっちゃねーなぁー」

 念を押すようなメイジの言葉に、男は獰猛な笑みを浮かべた。
 肉食獣のような笑み、と言う表現は間違いになるだろうと、メイジは考える。この男は『ような』ではなく、最も正しい意味での肉食獣なのだから。

「そこに肉があるんならよぉ……腐れ脳みそも含めてブヂュルブヂュルと食い尽くしてやるぜぇ!」
「……ま、君にその手の『節度』は期待してないが……名前を裏切るにも程があるな、君は」
「あン?」
「ホル・ホース君から聞いているぞ……君のスタンドは『節制』を司るんだろう?」
「あんなぁ……博士さんよぉ……逆位置って知ってるか?」
「逆位置?」
「ああ。節制ってのは、逆さまにすると『暴走』って意味になるんだぜぇ?」
「……君達の占いはよくわからん」

 やれやれと頭を左右に振りながら、博士と呼ばれたメイジは懐から手を出す。
 握られていたのは、小型軽量化された魔法の水時計だった。博士はそれを覗き込むと、

「1時間だ。1時間以内に速やかにあの二人を私の前に連れてきてくれ。メイジのスタンド使いにガンダールヴ……貴重なサンプルだが、この際手足の一本くらいはなくてもかまわん。
 肉については目の前に立ち塞がれば喰らっていいい、という事にしよう」
「へへっ! 了解~」
「ちなみに、不用意に食ったら、報酬から差っ引くからそのつもりで」
「ゲ……わーったよ」
「それは結構。無駄に貴族を敵に回す事はないからね」

 こっそり無差別に食うつもりだったらしい男に、博士の出した罰則は中々きつかったらしい。結果、グチグチと言いつつも行動を開始した。

「……ひひひひ……ラッキーな上にボロい仕事だぜぇー。オムツにクソとションベン垂れ流すメイジのクソガキ攫って来るだけでよぉ、山ほど金が手に入るんだからな~」

 立ち去っていく男の背中を見送ってから、博士は嘆息して辺りを見回す。

「……コレだけ食い尽くしてもまだ足りないのか。あの男は」

 彼の周り、厩舎の中……そこは、鮮血が壁を染め肉片があたりに散らばる地獄絵図となっていた。

「しかし、これだけの肉があればあの男の能力も生きるだろう……今日はいい日だ」



 ギーシュは己のスタンドの拳を見つめながら、考える。
 夜も遅いからとモンモランシーと別れ、自室に帰る道すがらの事である。
 アカデミーの事、スタンド使いは惹かれあうという法則、暴走の事、そして――ギーシュは歩きながら、承太郎に言われた言葉を反芻し、その中で最も重要であろう事柄に思いをはせていた。
 他の用件が全て霞んでしまうほどの、重要な事柄を。

「名前、かぁ……どんなのがいいかな」

 ……アホか貴様と言う無かれ。格好つけしーのギーシュにとって、スタンドの名前ともなると、かなり重要な事なのである。
 下手におかしな名前をつけて、モンモランシーを初めとするレディたちに引かれては元も子もない。
 そもそも、操るゴーレム『ワルキューレ』のネーミングも、三日三晩徹夜して考え抜いたのだから……己の半身であるスタンドの名前ともなれば、気合も入ろうと言うもの。それに比べれば、他の話など髪の毛ほどの価値も無い。
 アホである。この男、まるっきりアホである。

「ワルキューレ……は女性型だし、男の名前で僕に相応しい物と言うと……
 オーディン? トール? ヨルムンガンド?」

 先程から、微妙にあれでなおかつギーシュの琴線に触れる名前が、いくつも脳裏をよぎるのだが……どうにもしっくりこないのだ。
 承太郎は、己のスタンドを『スタープラチナ』と呼んだ。
 ジョリーンのスタンドは、ブラックサバス戦での言動から察するに『ストーンフリー』なのだろう。
 彼らのスタンドの名を聞いてから、そのスタンドを思い描くと、他の名前など絶対に有得ないと言う奇妙な、言葉に出来ない何かを感じるのだ。
 なんと表現するべきか……ギーシュが思い浮かべた名前とスタンドを並べても、どれもしっくりこない。

「ブロンズチャリオット……は、どうしようもなく駄目な気がする……
 マジシャンズブロンズ、ハイエロファントブロンズ……」

 なにやら、虚空の彼方から変な電波を受信してしまったらしく、次々と珍名奇名が飛び出してくる。
 それを片っ端から口に出してしまう物だから、ビジュアルは完全に電波にやられた可愛そうな兄ちゃんだった。
 普通の奴なら絶対に係わり合いになろうとしないだろうし、話しかけろと言われても断るだろうが……

「ブロンズデイ、ブロンズヘイズ……」
「ぎ……ギーシュ??」
「ブロンズフィンガーズ、ブロンズスミス……?」

 いた。
 魔王に挑む一市民を超える勇気を持って、ギーシュに声をかける人間が一人だけ。
 自分に声がかけられたことに気づいて、ギーシュはようやく現世へ帰還を果たし、振り向いて……自分に声をかけたその少女と、その使い魔の名前を呼んだ。

「……ミス・ヴァリエールに才人じゃないか。
 どうしたんだい、こんな夜中に」
「それはこっちの台詞よ……」
「お前こそ何やってんだ」

 自分自身の行動の怪しさについて一切自覚しない切り替えしに、ルイズと才人はげっそりとした表情で言い返した。


「……はぁ」

 月明かりに照らされながら、キュルケは夜の広場を散策する。
 普通の生徒ならば、眠りに落ちて夢を見ているような時刻でも、夜型の彼女にとっては宵の口。
 散歩に出る事に違和感は覚えなかったが……常日頃から彼女が発散している、男をひきつけてやまない色気が今の彼女にはない。姿かたちは全く替わっていないのに、だ。

 理由は明白だった。信じがたいことに、あの明朗快活なキュルケが、肩を落としてとぼとぼと歩いているのである。

「はぁ……」

 嘆息しながら思い出すのは……先日の、ブラックサバスの一件。品評会に参加していた人間全員を巻き込み、あわや大惨事となるところだったあの事件において、彼女は何も出来なかった。

 ギーシュと才人が血眼になって戦っている時、自分はただ遠くでおろおろしていただけである。
 ブラックサバスの性質に気付いたり、味方を巻き込む危険性に気付いてあえて何もしなかったりと、結構戦闘には貢献しているのだが、そんな事は慰めにもならない。
 彼女自身には別の見解があった。
 戦いが終わって一晩もすると、あの時もっと出来る事があったのではないかと、そう思ってしまうのだ。たとえば、あのバケモノのいる影を、キュルケお得意の火の魔法で掻き消す。
 それだけで大分状況は変わってきたはずだ……!
 あの時は『下手に火を放って影がおかしな方向に伸びたら、取り返しがつかない』と思ってやめたのだが。
 今なら分かる。あの時の自分は、只単に攻撃する事であのバケモノが自分に向かってくるのが、怖かっただけだ。不気味なほど虚ろなあの悪魔を、恐れた。

(……情けない!)

 魔法が使えないあのゼロのルイズですら、才人の背中に張り付いていたとはいえ、悪魔に恐れず立ち向かおうとした。
 才人は悪魔の姿が見えないというのに奮戦し、片腕を切り落とすと言う快挙をなした。
 彼女が常日頃から鼻にもかけなかったギーシュに至っては、あの悪魔を完全に滅してしまった。

(私はフォン・ツェルプストー。破壊と情熱の火の家系の女。それが、あの醜態は何なの?)

 彼女は、イラついたからといって回りに当り散らすような真似も、表情に浮かべるような真似もしない。それが醜い行為だと知っているからだ。その代わりに……彼女は、己を叱咤する。

(二度目はないわよ、キュルケ・アウグスタ・フレデリカ・フォン・アンハルツ・ツェルプストー……)

 もう二度と怯惰に陥ったりはしない。次は、必ず……そう決意はしても、過去の己の惨状が消えるわけではなく。
 こうして、キュルケは思い出すたびに陰鬱なため息を漏らす事となったのである。

「……全く、大したもんねルイズも」

 戦えなくとも、役に立たずとも、恐怖に負けなかった仇敵の事に、キュルケは素直に感心させられた。
 ブラックサバス戦以降は何か思うところがあったのか、生き生きとした表情を浮かべるようになった。
 その魂だけは尊敬できる……ライバルの意外な一面を、キュルケは見直した。

 ――キュルケの視界に見慣れた青い髪が見えたのは、そんな時だった。

「あら? タバサじゃない」
「…………」

 キュルケの親友である青髪の少女は、月明かりの下でシルフィードの頭を撫でていたのだ。
 こんな真夜中に何をしているのか。
 彼女が幽霊の類を大の苦手としていることを知っているキュルケは、眉をひそめた。
 まさか、何かがあったのでは? そんな疑問が頭をもたげ……それは、的中する事になる。

「どうかしたの?」
「……シルフィードが」

 ぼそりと告げられた言葉は、とてつもなく剣呑で、夜の嵐を到来させる物だった。

「血の臭いがする、って」
「――! どこから?」
「厩舎の方角」

 表情を引き締めて杖を取り出すキュルケに、タバサは無表情に告げた。
 否、他人にはそう見えるだろうが、親友であるキュルケには、彼女の緊張が手に取るようにわかる。どうやら、使い魔の共感で血の匂いを察して、ここに来たらしい。

「昨日の今日だって言うのに……」
「どうする?」

 先生に通報するか否か、という意味を含んだタバサの問いに、キュルケは顔を左右に振った。
 この学院の教職員と来たら、実力的に彼女たちよりも頼りにならない奴らばかりだし……例外であるギートは精神的に頼りにならず……
 そこまで考えて、最近学院に来た頼りになる男が脳裏に浮かぶ。

「……ズォースイ先生だけなら、援軍に呼んだほうがいいわね」
「フレイム」

 に、呼びに行かせろという事だろう。
 月明かりの中では、尻尾に煌々と明かりをともすサラマンダーの存在は、邪魔になりこそすれ助けにはならない。ならば、せめて伝達役にしたほうがいい。

 タバサの意思を読み取ったキュルケは、頷いて脳裏の接続を使ってフレイムに指示を出す。
 自室で寝転がっているフレイムがズォースイを呼びに行くのに、どれくらいかかるか……

「……シルフィードはなんて言ってるの?」
「……分からない。血の臭いがするだけ」

 フレイムがやってくるのを待つ間、キュルケとタバサは油断なく厩舎を見据えて語り合う。
 何があったのか知らないが、もし血の匂いが人為的なものならば、犯人がいるはずであり、それを逃すわけには行かない。

「ただ、量が凄いって……多分、厩舎の馬は全滅してる」
「……! 狼とかが侵入したんじゃ、ないのね?」
「そうだったら、馬が騒ぐ。多分、サイレントの魔法を使ってる」
「……よくわからないわねえ」

 犯人の動機がである。
 サイレントを使ってまで馬を殺しまくる動機など、何があるのか……?

「ボーンナムみたいな変態、いたかしら?」
「もういない」

 つい先日まで同じ学び舎にいたメイジの名前を引き合いに出し、二人が頭を悩ませていると、馬小屋から大柄な衛兵が飛び出してきた。
 互いに顔を見合わせて……

「無関係、じゃないわよね。どう考えても」
「追う」

 このままズォースイを待っていて、あのいかにも怪しい男を取り逃がしては事だった。
 短い会話の後に、二人はその男を追って走り出す。
 ……その男が、衛兵どころか全ての生き物を暗い尽くす捕食者だという事を、キュルケ達は知る由も無かった。


「スタンドの名前?」
「スタンドって……あんたがさっきから出してる幽霊の事?」
「そうさ」

 訝しげに問うて来る才人とルイズに、ギーシュはバラの花を咥え、無駄に格好をつけて答えた。
 後ろのスタンドも、いわゆるジョジョ立ちでかっこつけていて……なんというか、いかにもギーシュのスタンドといった感じだ。

「この僕の華麗な『スタンド』に相応しい美しい名前を考案中だったんだ……ヴェルダンデのように力強く美しく、モンモランシーのように可憐で美しい、そんな名前をね」
『…………』

 本人は格好いい事を言っているつもりなのだろう。
 が、それを前にした才人とルイズの反応は……呆れ交じりの沈黙だった。
 当たり前だ、『何をぶつぶつ呟いていたのか』と言う問いの答えがこれでは、呆れるしかないだろう。なんで名前を考えてて電波な行動に繋がるのやら。
 ってか、今の表現はモンモンに失礼じゃね? と才人は思うのだが。

「それで、名前は思いついたの?」
「それが、全然でね」

 ルイズの率直な質問に、ギーシュは肩を落として、

「色々考えてみたんだけど、何かがしっくり来ないんだ……なんというか、僕にその事を教えてくれた男のスタンドには、名前との一体感みたいな物があったんだ。僕の気のせいかもしれないけど」
「何か、方針はあるのか?」
「この身はレディを守る盾……いや、柵だ。
 やはり、守るものとしてのイメージは欲しいな」
「……うーん。守るか……一応、俺の故郷の言葉じゃあ、守は『ディフェンス』だけど。ちなみに接続詞はオブ」
「だめだ……いまいちしっくりこないよ。すまない才人」

 ギーシュの様子を見て本当に悩んでいるらしいと察した才人は、どうしたものかと腕を組む。まさか、人間と同じ勢いで名づけるわけにもいかないし、彼はハルケギニアの一般的な名前と言う物を全く知らない。
 苦し紛れに、才人は背中に背負ったインテリジェンスソードに向かって問いかける。

「なぁデルフ。お前の名前って……」
『悪いな相棒。自分の名前の由来なんて、そんな昔の事覚えてねえわ』
「そ、そっか……」

 余りにもあっけなく、質問を全て口にする前に即答されてしまい、呆気に取られてしまう。ちらりとルイズのほうを見てみると、ギーシュの悩みになど興味が無いといった様子だった。
 それもそうだろう。目下のところ、ルイズはギーシュの悩みなどに関わっている暇はなかった。彼女には彼女で、別の悩みがあるのだから。
 付き合いが短いとはいえ、同じ部屋で寝泊りしているのである……彼女が何か深刻な悩みを抱えている事くらい、察する事ができた。
 悩み方がネガティブな物ではなく、ポジティブな……いうなれば、問題を前向きに解決しようとするような悩み方だったので、心配はしていなかったが。

 こうなると、ギーシュの悩みには才人一人で対応しなければならなくなる。放っておいてもいいのだが……才人の中に根付くギーシュ・ド・グラモンという人物像が、それを拒絶させた。

(なんか、このままだとスタンドの名前考えるので徹夜しそうなんだよなぁ……)

 ……付き合いの長くない筈の才人にまで人格を完璧に把握されてるギーシュって一体……?

『そんなに気になるなら、あそこの奴に聞けばいいじゃねえか……』
「へ?」
『ほれ、向こうから来る衛兵』

 デルフリンガーの促す言葉に、その場にいた三人はいっせいにそちらを見る。
 光源が月明かりのみなので細かいところまでは分からないが、確かに厩舎の方からやってくる大柄の衛兵の姿が見えた。


「おや……?」

 三人を見つけた大柄な衛兵は、貴族が深夜に外出する事が珍しいらしく、眼を白黒させて立ち止まった。が、あえて何も言わずに通り過ぎようとする。
 下手に関わりたくないのだろう。平民にとって、メイジである貴族の存在は恐怖の対象であり、触れると火傷する焼けた鉄棒のような存在だ。この衛兵も、同じように考えたのだと才人は思い、慌てて声をかける。
 実際には、この男の中にメイジに対する恐怖感などありはしなかった。単純に相手をするのが面倒くさかっただけであり、一刻も早く目的の場所に行かなければならなかったのだ。

「あー、一寸待ってくれよ」
「……どーかしましたか?」

 いかにも迷惑だと言わんばかりの目つきで振り返られて、呼び止めた才人も面食らってしまう。あまりに衛兵らしくない口調に違和感を覚えたが、こういう衛兵もいるんだと自分を納得させて、意見を仰ごうとした。

「いや、ちょっとネーミングの事で……」
「才人、一寸待ちたまえ」
「へ? ギーシュ??」

 思わぬ方向からかかった静止の声に、才人は思わず間の抜けた声を上げる。
 問いかけようとした才人を止めたのは、事の渦中にいて誰よりも意見を必要としているはずの、ギーシュその人だったのである。
 ギーシュは眉をひそめて衛兵を睨みつけ、杖を構えた。

「少し、いいかい?」
「……はぁ、なんでしょ」

 いかにも不愉快だと言うように表情を浮かべ、鬱陶しげにギーシュを見る大男……どう考えても貴族に対する礼儀作法ではなく、コレには才人も違和感を覚えた。同時に、己を静止したギーシュや、こっそり杖を手にしたルイズの思惑に気付く。

(ギーシュの奴、この衛兵を怪しんでるのか?)

「確か、僕の記憶では君のような衛兵はいなかったはずだが……?」
「……ひょっとして俺、疑われてるんですか?」
「聞いているのは僕達のほうだ」

 警戒するギーシュに対して、衛兵は合点がいったとばかりに表情を改め、頬をぽりぽりと掻いた。そして、突きつけられた杖を全く恐れずに弁明する。

「いやー、それがなんか手違いがあったらしくて」
「手違い?」
「盗賊が出たから警備の強化の為っつって、貴族のお偉いさんが雇った傭兵なんですよ。俺」
「傭兵なんて、そんな話聞いてないわ!」
「それで俺達も困ってんるんですよ。学院の連中に聞いても、そんな話は聞いてないって言うし……教えられた住所はコレであってんのに!」

 ルイズの言葉に男は苛立ちをあらわにして怒鳴り返す。
 平民が貴族に怒鳴り返すと言う所業に、ルイズの理性は灼熱しかけたが……間一髪のところで焼き切れる事はなかった。

「教職員の誰かが先走ったんだろうって話だけで……他の連中は帰っちまったけど、俺は帰るつもりにはなれなかったんで……せめて、お偉いさんに一言言ってやろうって思ったんですよ」
「…………」

 余りにも無茶苦茶な口調で、無茶苦茶な事を言い出す男に、三人は一斉に沈黙した。余りにも言ってる事や目的が荒唐無稽だったし、メイジに対する反応も可笑し過ぎる。確かにオールド・オスマンは平民貴族を気にしない人格者だが、だからといって傭兵などに面会するほど暇では無い。


 どう考えてもおかしい。言っている事は100%嘘で、こいつは衛兵ですらないだろう。
 と、言うよりは……『衛兵を演じる』という気持ちすら、この男からは感じ取る事ができない!
 それが分かったとして、一体、今の自分たちでどう対処するべきか……? ルイズが迷っている間に、他の二人は行動を起こしていた。

「シャラァッ!」
「デルフ!!」

 ギーシュはスタンドを発現させ顔面にストレートをぶっ放し、才人はデルフリンガーを抜き放って太ももを横なぎに切り裂く!

 どぎゃぁっ!

 ザンッ!

 顔面にぶち込まれた拳の音と、いともあっさり肉を切り裂いたデルフリンガーの音が夜陰に響いく。殴られ、足を切られた大男は衝撃で吹っ飛んで、仰向けに倒れこんだ。
 その行動はいい。目の前の男はどう考えても敵であり、許容してはならない存在なのだから……
 先制攻撃に成功し、優位に立ったはずのギーシュと才人だったが、その表情は驚愕に歪んでいた。

「な、なんだ今のは……眼の錯覚か?」
「おいデルフ……なんか、今手ごたえが凄く変だったぞ!?」
『おでれーた……何の生き物だありゃあ』

 ギーシュ、才人、デルフリンガー……衛兵を攻撃した三人は、三者三様の反応を見せた。
 二人の攻撃が早すぎて、その異常性に気付けなかったルイズはその反応が理解できず、首を傾げる。

「別によぉ……気付かれた事はどうでもいーんだ」

 三人を驚愕させた大男は、横たわったままで朗々と語りだした。殴られ、切られたと言うのにその声には何の苦痛も滲み出していない。

「お前らがギーシュ・ド・グラモンと、ヒラガサイトだってわかった瞬間からよぉ、こんな不細工なクソヤロウの変装する必要なんざ、全然なかったからなぁ。
 まぁ、テメーらの攻撃の速度は大したもんだったぜ……実際無防備で喰らっちまったからなぁ。実際、下手な近距離パワー型よりずっと強ぇだろうしな。まぁ最も」

 告げてから、大男の体が起き上がり……その相貌を直視したルイズは、悲鳴を抑えることができなかった。

「ひっ!?」
「てめえらの鼻クソ以下のヘタレた攻撃じゃあ、全然ダメージにならなかったけどなぁっ! ゲヒャハハハハハハハッ!!」

 下品な笑い声を上げるその男の顔は崩れていた……いや、崩れていると言うレベルではない。
 普通の人間が同じ顔になろうとしたら、砲丸投げの鉄の玉を高速でぶち込まなければならないだろう。
 眼球はつぶれ、顎は片方がちぎれてぶら下がり、骨も砕けているのか顔の造詣そのものがグシャグシャに潰れていた。
 ダメージにならないどころか、コレ以上ない程の重症であるというのに、男は笑う。しかも、千切れそうになっている舌で潰れた鼻の穴をほじる余裕すら見せた。
 足を切り裂かれたにもかかわらず、それを感じさせない動きで立ち上がり、男はなおも笑う。

「人気の無いところに連れて行ってから仕事しようと思ったんだがなぁ……まぁどっち道手間はかわらねえか」
「こ、こいつ――血が流れてない!」

 そして才人は、異様な形に変形した顔の衝撃で見過ごしていた、とてつもない違和感に今気付く。
 太ももの切傷からも、顔面のクレーターからも……この男の体からは、一切血が流れていないのだ。
 しかも、会話を交わしている間に、その体躯が少しずつ少しずつその体積を増やし、元から大きかったその体躯が2メートルを超えようかと言うものになっていた。
 それを見たデルフリンガーの脳裏に、記憶の彼方にあった情景が浮かんできた。武器屋の店頭で腐っていた時に、店の親父と客が話していた『傭兵』の事。

『そうか……! 相棒! 気をつけろ! こいつ……魔法の肉襦袢か何かを着込んでやがるぞ!』

 デルフリンガーが、味方に向かって警告の言葉を発するのを聞いて、男は興味深げにそちらに視線をやった。

『確か、そんな物を使って戦う傭兵がいたはずだ! 名は確か……ラバーソール!』
「ほぉ~? この俺の名前まで知ってんのか、オンボロ剣」
『聞き齧りだがな! 醜男!』
「傭兵……? そんな奴がなんで……!」
「だが1つ言っとくぜ。俺様のコレをマジックアイテム風情と一緒にするんじゃあねぇぜ」

 状況を把握できないルイズをよそに、男が、ゆっくりと右腕をデルフリンガーに向けて掲げて――

「こいつは、俺の『スタンド』……」

 どろりと、突きつけられた腕が一瞬で溶解し、ヨーグルトのように滴り落ちる。
 腕だけではない、その全身のいたるところ……鎧から髪の毛にいたる全ての部分が、どろどろと溶け落ちて、黄色い肉の塊へと姿を変える!

「『黄の節制(イエローテンバランス)』! 『失敗』『不安定』『混沌』『暴走』『過信』『傲慢』を象徴する! マジックアイテムなんてちゃちなもんじゃねー、最強無敵のスタンドよぉー! そしてっ!」

 がぱぁっ!

 崩れた顔が一瞬で形を崩し、真っ二つに割れて……

「これが! 俺の本体のハンサム顔だ! ブオトコなんかじゃねぇーんだぜぇ?」

 その下から、顔つきだけはハンサムといえる男の顔が現れた。生憎と、その口調や雰囲気が全てを台無しにしてしまっていたが……あえて相手の顔の造詣には突っ込まず、才人は眉をひそめて言い返した。

「肉襦袢と言うか、肉そのものって感じだな……随分と余裕丸出しだし。
 その間に攻撃したらどうする気だったんだ? あんた、アホだろ」
「んっん~! 違うなぁぁぁぁぁぁ」

 ラバーソールは己を侮辱する才人に怒る事すらせず、ちっちっち、と指を振ってみせる。
 その表情は怒りを押し殺しているようには見えず、本当に何も感じていないようだった。
 それに、才人の言葉は正確ではない……才人たちは攻撃しなかったのではなく、出来なかったのだ。
 敵の放つあまりの得体の知れなさと、攻撃した際に二人の背筋を走った悪寒が、彼らの攻撃意欲を殺いでいた。
 状況が見えないという事もあった。何の前触れも無くいきなり現れた男に、自分たちを狙っているような事を言われて、どう反応していいのかがわからなかったのだ。
 その戸惑いが、彼らに攻撃と言う選択肢をとらせなかった。
 この状況把握における甘さこそが、承太郎がギーシュを討伐隊に選ばなかった一番の理由だった。

「コレは余裕の表れだヒラガサイト……貴様らはこの俺のスタンドに、手も足も出ないまま負けるのさ!
 そもそも、俺のような傭兵が、変装を解いて貴様らの前に顔を晒す理由が分かるか? これは、仕事を必ず遂行すると言う覚悟の表れであり、『死刑宣告』なんだよぉっ!
 そして何より――テメーらは既に俺の術中に嵌ってんのさ」

 ラバーソールは二人の足元を指差して見せると、にやりと笑って、

「足、見てみな」
『!?』

 その言葉が告げられるのと同時に、ギーシュの右手と右足の脛、才人の左足首に、引きつるような熱を伴う痛みが走る。慌ててそちらを向いてみれば……

「こ、これは――」
「肉が!」

 ギーシュのズボンと才人の靴を溶かし食い破って、肌に張り付いている黄色い肉の塊を見る事が出来た。
 ぐじゅぐじゅと蠢く肉片の姿は生理的な嫌悪感を刺激するのには十分すぎるものであり、しかも、ギーシュの場合は足だけではなく、スタンドの右の拳にも肉片がへばりついている!

「な、なんだこりゃぁっ!」
『下手に触れるな相棒!』
「そぉそぉ……その、錆付いた鈍らの言うとおりだぜ。やたらお触りしても広がるだけだからよぉー」
「スタンド……? お前のこの力、スタンド能力なのか!?」

 騒ぐ才人とデルフリンガーのコンビをよそに、ギーシュはようやく相手の連呼している『スタンド』という単語に気が付いた。

「何度もそう言ってんだろぉーがよぉー! テメーの脳みそはマヌケか? あぁん?
 我がスタンド『黄の節制』は、食った物を取り込み、巨大化するんだよぉ……お前らに張り付いた、その肉片もなぁ」
「!?」

 食われる。
 ラバーソールの説明から、生き物が持つ原始的な恐怖を思い出し、才人は己の手にした剣を、ぎゅっと握り締める。
 ギーシュも、自分の体が食われるという有得ない状況に、震える膝を無理やり押さえ込むのに苦労した。
 どうやら、敵のスタンドは彼の全身を包むあの肉そのものであり、肉は辺りの肉を喰らって巨大化するらしい、という事までは分かったが。

(僕のスタンドの腕にも『肉片』がついているところを見ると、あいつの纏っている肉……スタンドだろうと何だろうと、自分を攻撃した物に全自動で張り付くのか!? だとしたら……)

 もし相手の特性が今思ったとおりのものであるなら、例えスタンドによる物でも素手での攻撃など論外である。

 状況が全く分からなかった。何故こいつは才人とギーシュだけを狙うのか? 傭兵だというのならば誰に頼まれて動いているのか? その依頼とは何か?
 だからといって、頭を悩ませたからといって、状況が改善されるわけでもない。

「安心しな……依頼だから殺しゃしねえよ……最も、そっちのお嬢ちゃんには消えてもらう事になるがなぁー」

 ギーシュは薔薇の杖を振るい、花びらを地面に落としてから錬金する。
 花びらは一瞬で巨大なウォーハンマーに姿を変えて、それをスタンドに掴ませ、戸惑うルイズや混乱する才人に向かって口を開いた。

「ミスヴァリエール、才人……こいつが何で僕らを狙うのか、なんていうのはどうでもいい事さ」
「……ギーシュ?」
「今は! 僕達に襲い掛かってくるこの敵を倒す事と、生き残る事を考えるべきだ!」

 いわれて、二人はようやく戦意を取り戻した。才人は剣を構え、ルイズは杖を構える。
 そう、状況把握は後でも出来る……生き残る事は今しか出来ない。

 自分に対して立ち向かおうとするギーシュ達の姿は、ラバーソールの癇に障った。彼は表情を醜く苛立ちでゆがめて、

「無駄だつってんだろーがぁああん!? ションベンくせえジャリ共がいい気になってんじゃねぇぞ!」
「いい気になっているのはそっちだろーが!」

 才人が叫び返し、デルフリンガーを突きつけ……仕掛けた。
 ルーンが光り始めた瞬間に、地面を這うような低い体勢で走り出す。
 戦いが、始まった。


 自分に向かって駆け込んでくるサイトの素早い動きに対し、ラバーソールは両手を広げて――

「ブヂュルブヂュル潰して――」

 ガヴァァッ!

 身にまとった『黄の節制』を大きく開き、飛び込んでくる才人を押し包もうとけしかける。その姿は、まるで黄色い海星のようだった。

「!?」
「栄養にしてやんぜ! その足ィー!」

 飛び込んでくる自分に向かって大きく口を開ける黄色い顎に、才人は眼を見開いた。
 普通の人間ならば、ここで『黄の節制』に飛び込んで、消化されて終わりなのだが……そこは使い魔ガンダールヴ。伝説の使い魔であり、普通ではないのだ。

 ルーンの影響で研ぎ澄まされた反射神経と動体視力のおかげか、才人は相手の攻撃に反応し、無意識のうちに最善の策を取った。
 立ち止まっては間に合わない! デルフリンガーで切り払うにも、切り払うべき肉の量が多すぎる! ならば――

「うおおっ!」

 才人は吼えてデルフリンガーを振り上げ――右斜め前方に向かって跳んだ! 
 こうする事で、才人は己が対応すべき肉の量を、半分に減らしたのだ。デルフリンガーを一閃させ、自分を覆い包もうとしていた肉を切り裂き、敵の左側に着地する。

 才人は人を殺した経験など一度も無い、傷つけた経験すら無かったが……その時の才人には、漆黒の意思は無いが灰色の決意があった。
 この敵の手足の一本ぐらいなら切り落とせるという、灰色の決意が。

(狙うなら肉の中の本人! 悪いが足を切り落とさせてもらうぜ!)

「速いっ!?」

 思わぬ敵の動きに、ラバーソールは反応が遅れて――

「遅いんだよ!」

 己の方を振り向こうとしたラバーソールの動きを一喝し、その場でデルフリンガーを草を薙ぐような低さで一閃させた。
 奇妙な手ごたえと共に、ラバーソールの足元を包む『黄の節制』が切断されて――確固たる手ごたえの無いまま、肉全体を突き抜ける。

「……っ!」
『野郎……肉の下駄履いてやがったのか!』

 手応えから、自分の攻撃が本体に届かなかったことを悟った才人は、そのまま後ろに跳び下がった。刹那前まで才人のいた場所を、黄色い触手がえぐる。
 デルフリンガーのいうとおり、ラバーソールは地面に這わせた大量の肉の上に立っており、才人が切り裂いたのは踏みつけていた肉だけだった。
 低すぎる斬撃の軌道が仇となったのである。

「無駄だって言ってんだろーがぁぁぁぁぁぁぁぁっ! そこで黙って喰われてやがれぇぇぇぇぇ!」

 飛び下がったサイトに向かって恫喝しつつも、ラバーソールは追撃をしようとはしない。
 叫ぶ内容を聞けば、余裕を持って見逃したのだと判断できるのだが……実際には、先程の才人達と同じように、得体の知れない存在に対する警戒心から攻撃できずにいたのだ。

(い、今の攻撃……俺の『黄の節制』をあっさり切り刻みやがった!)

 自分のスタンドをあっさりと、何の抵抗も無く切り裂いたデルフリンガーの存在が、ラバーソールを警戒させる。
 不意を付かれたとかそういうレベルではない。 ラバーソールは自分の足元が切り払われると認識した瞬間に、刃を止めるために『黄の節制』を操作したというのに、あの剣はスタンドの抵抗を一切無効化して、豆腐のようにすんなりと肉を切り裂いた。

(あのインテリジェンスソードの力か? 兎に角、警戒するに越した事はない……!?)

 ――ラバーソールの頭上に影が差したのは、その時だった。

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