ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

エンヤ婆-2

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「はて…ここはいったい……?」
エンヤと名乗った老婆はキョロキョロと辺りを見回した。

近くには草原と森、やや遠くに石造りの大きな城が見える。
自分がいるのは草原の中に開けた広場のような場所だった。
何故か自分のいる場所を中心に地面が抉られており、クレーターのような凹みが無数に出来ていた。
この場所だけ絨毯爆撃を受けたのだろうか?

「ふむ、ヨーロッパの片田舎といったところか。しかし何故わしはこんなところにおるんじゃ?」

覚えている限りの記憶を引っ張り出す。
自分はあの時パキスタンの荒野の墓場に罠を張り、ジョースターどもを迎え撃った。
だが、力及ばず敗れた―――憎っくきポルナレフを追い詰めておきながら、肝心なところで承太郎に敗れたのだ。
炎を操るアブドゥルは既に始末され、自分の『正義』に少しでも敵うスタンド使いなど奴等の中にはいないはずだった。
だが負けた。
何の特殊能力もない近接スタンドが、無敵の正義を降したのだ。

ジョースターの血は侮れない―――かつて主人と崇めた男の言葉が蘇る。
当時は杞憂だと笑い飛ばしたものだ。だが今は、言葉でなく心で理解できた。
ジョースターの血統は――奴等の持つ精神、魂は――真っ先に始末すべき脅威だった。

「だがそれでも…それでもDIO様が敗れるはずがない……ザ・ワールドは世界を支配する。どんなスタンド、どんな能力だろうとDIO様には敵わんのじゃ…」

「何してるの、グズグズしてると置いてくわよ!」
少女の甲高い声でふと我にかえる。
そういえばこの少女には先程名前を聞かれたような気がする。

「ここはどこじゃ?あとおぬしは誰じゃ?」
「ここはトリスティン魔法学園で、わたしはあんたのご主人様よ!さっさと付いてきなさい!」
少女はそう言い放つとエンヤが付いてきてるか振り返りもせず、スタスタと歩いていく。
行き先はどうやらあの城のようだ。

(なんじゃこの頭のカワイソーなメスジャリは……じゃがまあ、取り敢えず情報が欲しい。付いていってみるか…)
エンヤはその辺りに落ちていた枯れ枝を杖にしつつ、少女の後を追い始めた。

「ここがわたしの部屋。まあとりあえず座んなさいよ」
自室に戻ったルイズはエンヤに椅子を勧めると、自分も疲れたように椅子に沈んだ。
背が低いためよじ登るように椅子に座るエンヤを見つつ、ルイズはため息をついた。
「はぁ…なんで平民なんかを……もっと強くて格好いいのが良かったな……。まあ今更そんなこと言ってもしょうがないけど」

「ふむ、多少狭いが良い部屋じゃな。…さて小娘、ちいとばかり質問に答えてもらおうかい」
「ああん?誰が小娘ですって?口の利き方に気をつけなさい!さっき私が言った事を忘れてるようだからもう一回だけ言ってあげるわ。
 私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール。このトリスティンに誉れ高きラ・ヴァリエール公爵家令嬢にして絶世の美少女!そしてあんたのご主人様よ!」
ルイズは椅子にふんぞり返り、高々と名乗りを上げた。
自分では完璧にキマったと思っているようで、かなり得意げだ。

(…なるほど、ここは精神病患者の隔離病棟じゃったか。となると医者か看護婦を探して話を聞くべきじゃな…
 しかしもう日も落ちてしもうた。今晩はとりあえずこの頭のゆるい小娘に話を合わせてここに泊まらせてもらうとしようかい)

「えぇと、ルイズ・ナントカカントカ・ブランドー・エリエール様ですな?ほほう、奇しくもわしの前のご主人様が昔使われてたのと同じ姓ですじゃ。これも何かの縁ですかのう?」
「全然違う!ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール!」
「長いですのう。年寄りには難しくて覚えられんですじゃ。ルイズ様とお呼びしても良いですかな?」
「まったく物覚えの悪い使い魔ねえ……まあそれでいいわ」
「ルイズ様はわしの新しいご主人様、それはわかりましたじゃ。で、使い魔とはなんのことですかの?」
「メイジの使い魔も知らないの?……ああそうよね、平民だもんねぇ? いいわ、お優しいご主人様が特別に教えてあげるわ」
それくらいの事も知らないのかと見下すような眼でエンヤを見ると、恩着せがましい台詞とともにルイズは椅子から腰を上げた。
ピンと人差し指を立てると教師のような口調で得意げに語り出す。

即ち使い魔とは、
――主人の目となり耳となる存在であり
――主人の望む物、たとえば秘薬などを見つけてくる存在であり
――そして何より、敵から主人を守る存在である

ルイズの米神を一筋の汗が伝う。
(うう、全部ダメじゃない…)
感覚のリンクは全く感じられず、平民に秘薬など見つけてこられるはずもない。
無論戦闘など以ての外だ。単純な腕力でも自分の方が強いだろう。
せいぜいお婆ちゃんの知恵袋的なことでしか役に立つまい。
エンヤを見下ろし、ルイズは本日何回目かとなる溜め息をついた。
改めてどうしようもない現実を目の当たりし、無知な平民に対するほんの少しの優越感など消し飛んでしまった。

「まったく……………で、あんたどこの平民なわけ?」
「今はエジプトのカイロに住んでおりますじゃ」
「エジプト…カイロ…?聞いたことないわね。どの辺りの村?」
「……エジプトは国ですじゃ。正確にはエジプト・アラブ共和国。カイロはその首都ですじゃ。
 まあ多分ここからはちと遠いですからの、ルイズ様が知らなくても無理はないですじゃ」
「エジプトねえ、少なくともこの近辺じゃないわね。ロバ・アル・カイリエの国かしら?」
「まあそんなところですかの」

適当に話を合わせるエンヤ。
どうせ今晩の寝床を借りるだけで、明日にはサヨナラだ。無理して正しい知識を与える必要もない。
(明日はまず現在位置の把握とカイロへの帰還方法の調査じゃな。DIO様……あなた様の身に何がおきたのか……
 この眼で真実を確かめんことには死んでも死に切れんですじゃ…)

「さてと、しゃべったら眠くなっちゃったわ」
ふわと可愛いらしいアクビをすると、ルイズはおもむろに服を脱ぎ始めた。
エンヤを放っておいて速攻で寝るつもりのようだ。
「あー、ルイズ様。わしの寝床はど……………!?」
服を脱ぐルイズの肩越しに開け放たれた窓が見えた。
既に夕日も没し、夜空には美しい月が―――

窓越しに夜空を見上げ、呆けたように目を見開くエンヤ。
次の瞬間年寄りとは思えない勢いで身を翻すと、まるで窓の外の何者かの視線から逃れるようにベッドの陰に飛び込んだ。

「な、なに?どうしたっていうのよ!?」
「スタンドじゃ!」
「すたんど?」
「おぬしに言ってもわから…………いやまて……ルイズ、あの『月』が見えるかの?」
ベッドの陰から杖だけを突き出し、月を指し示すエンヤ。
「はあ?わたし視力はいいのよ。月なんて模様までくっきりと見えるわ。それからご主人様を呼び捨てにしない!」
「それじゃそのいい視力で見てくれますかのォご主人様。月は……『いくつ』ありますかの?」
「今日は2つ出てるけど……それがどうしたのよ」

(見えているのか……まさかこやつもスタンド使い…むしろこやつが本体か?…いや、このマヌケ面…心の底から当たり前だと思っている顔じゃ…)
ルイズは不審げな顔でこちらを見下ろしている。まるで異常なのは窓の外ではなくエンヤだとでも言いたげだ。
(わしがそうであるように、スタンド使いであればこの異常性を認識できるはず。だとすればこの小娘は一般人で、あれは一般人にも見えるスタンドということか…
 いや、この小娘はおつむがアレじゃからして…実はスタンド使いで…しかし月が2つなのが当たり前で…そうすると敵スタンドの影響を受けてるわけで……
 えぇいクソ、ややこしいのう…)

「ルイズ様、とりあえずカーテンを、カーテンを閉めてくだされ」
ベッドに隠れつつ杖でカーテンを指し示すエンヤ。
割と厚手のカーテンのため、とりあえず姿を隠す程度はできるだろう。
「あのね、あんたさっきから生意気よ!なんでご主人様が使い魔の言うこと聞かなきゃならないのよ!?」、
「お願いしますじゃ、わしはその……月光に当たるとギックリ腰になる持病を患っておりましての。窓の傍に近寄れんのですじゃ。
 うおぉ、痛い痛い、死にそうなくらい痛いですじゃァーーーッ!」

(なんかすっごい嘘臭いんだけど……)
ベッドの影で暴れるエンヤをジト目で見つつもルイズは開け放っていた窓を閉じ、カーテンを閉めた。
月光が遮られた室内をランプの光が照らす。

「よし」
エンヤはベッドの陰から窓辺に駆け寄り、カーテンの端をわずかにズラして隙間から外を確認した。
(く…さすがに本体が見つかるところにはおらんか…)

「あんたやっぱりギックリ腰とか嘘じゃないの!」
「……いやいや、ご主人様に嘘などつきませんわい。月光に当たればギックリ腰になる。月光が無くなればギックリ腰も治る。エジプトの年寄りには多い病なんですじゃ。
 ささ、わしのことなど気にせずに寝てくだされ」
営業スマイルを浮かべながらルイズの背をベッドまで押していく。
ルイズはそんな都合のいい病気なんて聞いたこともないわとか明日の朝食を見てなさいなどとまだブツブツ言っていたが、結局睡魔に負けたようで大人しくベッドに戻った。

(しかし何故わしをターゲットに…?…いや、案外全然別の奴を監視しているのかもしれん)
そんなことを考えつつ窓辺に戻るエンヤの頭の上に、何かがパサリと落ちてきた。
手にとって見ると、レースの付いたキャミソールとパンティだった。
キメの細かい生地で作られ、精緻な刺繍が施されている。そして生暖かい。
「それ、明日洗っておきなさい」
「…………」
(…ダメじゃな。こんなひょろひょろの小娘一匹操ったところで屁のツッパリにもならんわ)
一瞬正義を発動して盾の一人でも作ってやろうかと思ったエンヤだったが、ベッドにもぐりこむルイズのあまりにも凹凸のない身体を見て考え直した。
(それに奴がわしに気付いていなかった場合を考えると正義を出すのは拙い。いきなり建物の中から霧が発生するのは不自然すぎる…)

「あ、あと床は冷えるでしょ?お優しいご主人様がこれを貸してあげるわ」
そんな台詞とともに今度は毛布が飛んできたが、既にエンヤに眠る気など全く無くなっていた。
敵の可能性のある新手のスタンドがいる以上、そんな隙を見せる行為など出来るわけがない。

「それじゃ明かり消すわよ」
そんな台詞とともにルイズが何かをすると、ランプの明かりがフッと落ちた。
(ふん?かなり年季の入った建物のようじゃが、照明のリモート操作くらいはできるんかい)

エンヤは杖を抱え込むようにして胡坐を組むと毛布を羽織り、カーテンの隙間から『月』の監視を始めた。
(向こうから仕掛けてくる気配はない……これは持久戦になりそうじゃな…)

「すぴ~」
いきなり聞こえてきたおかしな音にエンヤが振り向くと、鼻から提灯でも出しそうな勢いで爆睡するルイズがわずかに漏れた月明かりに浮かび上がっていた。
(早ッ!?なんちゅう寝付きの良さじゃ。赤ん坊かこやつ…)
「……う~んきゅるけ~……あなぼこちーずになりなさい~……すぴ~…」

「………やれやれ、長い夜になりそうじゃな…」

エンヤの孤独な戦いは空が白み、二つの月が地平線に没するまで続いた。

To Be Continued →

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