ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

仮面のルイズ-3

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匿名ユーザー

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ルイズはベッドの中で、今日の授業を思い返していた。

小石を材料に練金するというもので、一般のメイジならほぼ100%成功する程の簡単なものだ。
しかしルイズにはそれすら難しい。
いつものように魔法を使い、いつものように失敗し、いつものように爆発した。
爆発の後に聞こえた、ミセス・シュヴルーズの悲鳴が耳に残っている。

ルイズははじめ『爆発に驚いて悲鳴を上げたのだろう』と考えたが、机の下から顔をのぞかせた生徒達まで悲鳴を上げ始めたのを見て、おかしいなと思った。
ふと自分の杖を見てみると、杖を持った右手が酷く焼けただれているのが見えた。
その手で自分の顔を触ると、ぺちゃりと水の感触がした、顔も同じような惨状なのだろう。
しかしルイズは慌てない、今の自分なら、この程度の火傷はすぐにでも再生できる…
と思ったが、人前で皮膚を再生させたら吸血鬼だとバレてしまう。
このまま何食わぬ顔で立っていたら怪しまれる、そう考えて、ルイズは気絶するフリを選んだ。

気絶した(フリ)のルイズを真っ先に抱き起こしたのはキュルケだった。
キュルケに続いてタバサが火傷を冷やし、モンモランシーが治癒の魔法をかけてくれた。
レビテーションで私を浮かせ、部屋まで連れて行ってくれたのはギーシュ。
どこからともなく包帯や薬草を持って駆けつけてくれたのは、マリコルヌ。
そして他の生徒達も、交代で治癒の魔法をかけてくれた。

不思議なきもちだった。
『ゼロのルイズ』と言って、ルイズをからかう連中ほど、怪我をしたルイズを心配して治癒の魔法までかけてくれたのだ。
ルイズは『気絶したフリも悪くないな』と思った。

ただ、教室の後ろから「自業自得だぜ」とか「散々爆発に巻き込んでくれたんだ、いい気味だよ」という声も聞こえてきのだが、そいつらには後でお仕置きをしてやろうと心に決めた。

それにしても…と、ルイズはベッドから降りて窓に近づき、月を見上げた。
吸血鬼になってしまったというのに、何の焦りも感じない、むしろ『私は吸血鬼になるのが運命だったのだ』と思わせるほど、ごく自然にこの現実を受け入れていた。

それに、吸血鬼は太陽の光に弱いと言われるが、太陽の光を浴びても、特に何も感じなかった。
太陽の光を浴びても平気な吸血鬼など聞いたこともないが、実に幸運だ。

今日の授業で起こったアクシデントも、考えてみれば幸運かもしれない。
今までは、自分の起こした爆発で自分が怪我することなど無かったが、今回は一時的にとはいえ酷い火傷を負ってしまった。
魔法が失敗して爆発するなど、古今東西の話で聞いたことはない…ということは、自分の弱点を自分だけが持っていると分かったのだ。

なんて都合の良いことだろうと、ルイズは笑みを浮かべた、



気分を良くしたルイズは、大きめのローブを身に纏うと、地面に耳を当てて物音を聞いた。
足音は皆無だが、サイレントの魔法を使われている可能性があるので、皆が寝静まったからと言って油断は出来ない。
再生した顔を見られたら、いくら何でも怪しまれるだろう。
ルイズは髪の毛をセンサーのように働かせて、空気の流れを読みつつ、廊下を歩いていった。

さて、なにを食べようか。

寮塔を出たルイズは花壇の側で空を見上げた、くんくんと鼻をふくつかせ臭いを捕らえる…すると、使用人達の宿舎から、新鮮な排泄物の臭いを感じた。
普通の人間には分からない程微量な臭いだが、吸血鬼の五感なら十分に感じることが出来る。
その臭いが若い女性の臭いだと気づき、ルイズは口を半開きにして、臭いのする方へと歩いていった。

「こんばんは」
「!?」
トイレから出てきた使用人の少女は、突然声をかけられただけでなく、その声の主が包帯まみれなのを見て驚いた。
よく見るとピンク色の髪の毛にマントを羽織っている、声の主がメイジだと気付き、飛び上がるほど驚いた。
それこそお漏らししかねない勢いだったが、残量がゼロだったのが幸いした。
「ねえ…ちょっと、包帯を分けて貰えないかしら」
顔をフードと包帯で隠したルイズ、ハッキリ言ってかなり怪しい。
「ほ、包帯、ですか?」
少女が震えた声で聞く。
「ええ、ちょっと顔を火傷しちゃって…」
そこで少女は、今日貴族の一人が魔法を失敗して、顔に大やけどを負ったという話を思い出した。
「わ、わかりました、すぐお持ちします」
そう言って、使用人の少女は廊下の奥へと歩いていった。
ルイズはその後を追いながら、使用人の少女が右足を引きずっているのに気づいたが、なにも言わなかった。

使用人の部屋はルイズの部屋と同じぐらいの広さだったが、ベッドは五個並んでいる。
共同部屋らしいいが、荷物は一人分しか置かれていない。
おそらくこの少女は数にあぶれて、この部屋に一人で寝泊まりしているのだろう。
「こちらの包帯でお気に召すでしょうか」
「ちゃんと洗ってあるんでしょう?綺麗なら文句は言わないわ」
少女は包帯を巻くのを手伝おうとしたが、ルイズは困ってしまった。
なにせ怪我はもう治っているのだ、怪我を装うために包帯を借りるのだから、顔を見られるのは困る。
「一人で出来るからいいわ」
と言って、フードを被ったまま、器用に包帯を巻きつけた。
「そういえば、名前を言ってなかったわね、私はルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール、貴方に何かお礼をしたいわ」

ルイズがフルネームを名乗ったので、その少女は驚いて跪いた。
「平民などに名乗り頂けるなど、も、勿体ないです、あの、私は、この学院で厨房付きのメイドをしている、シエスタと申します」
「そう、シエスタって言うの…ねえ、あなたの右足、怪我しているの?」
「お見苦しいものを見せてしまって申し訳ありません、これは、子供の頃木に登って遊んでいたのですが、ある日脚を滑らせて足の指を折ってしまったのです、水のメイジ様に治療を依頼するお金もありませんでしたので…歪んだまま固まってしまいました」
「そう」
ルイズはシエスタの身体をひょいと持ち上げると、ベッドの上に乗せた。
そして、シエスタの右足を、何かを確かめるように撫でた。
突然のことに驚いたシエスタは、『犯される!』とでも思ったのか、思わず目を固く閉じた。
「もう大丈夫よ、ほら」
ルイズがシエスタの右足から手を離し、今度はシエスタの手を取って、立ち上がるように促す
訳の分からないまま直立するシエスタは、足の感覚がおかしくなっていると気づいた。
…と言うよりは、おかしかった足が、元に戻っていたと言うべきだろう。

「え?えっ?あれ?足が…足が!」
「しーっ、静かに、他の人が起きちゃうわ」
「あっ、ごめんなさい…あの、私、どんなお礼をしたらいいか…」
ルイズに注意され、シエスタは声のトーンを落とすが、興奮は冷めない。
「お礼なんていいわ、あなたの足は骨がちょっとズレていただけ、だから簡単に治せたの」
もちろんルイズの言葉は嘘だ。
血を吸うのと同じ感覚で指を突っ込み、歪んでいた骨の形を矯正した。
実験のつもりだったが、正直、ここまで綺麗に治るとは思っていなかった。
(それに血を少し貰ったしね…)
「?」
「何でもないわ、他の人には転んだら治ったとでも言っておきなさい」
「はい、あ、廊下はお暗いでしょうから、このランプをお使い下さい」
「いらないわよ、だって私、意外と夜目が利くのよ?」
そう言って笑うルイズの瞳が、一瞬、金色に輝いた気がした。



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