ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔の鎮魂歌~終曲~

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匿名ユーザー

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(しかし何か妙ですぞ…)
コルベールは一人思考を巡らせていた。
(先程サラマンダーの炎を浴びた時、影は炎と反対側に出来るはずなのに実際出来た影は私から見て反対の方向!今もその方向にある!これは一体どういう事だ…?)
惜しいかな。コルベールはボスほど勘が働かず、後一歩のところで考えが及ばなかった。
(一先ず時間をとるべきか…!)
「ミス・タバサ、ミス・ツェルプストー!再びあやつの足止めを!」
「え!?あ、はい!フレイム!」
「お願い」
主人から命令を受けた二匹は再び足止めをしだした。

「皆さん、あやつの影を見るのです。」
コルベールが影を指差した。
「影がどうしたのですか?」
「シルフィードが吐く炎と反対に出来るはずなのに、私たちから見て反対にある事に気付かないのですか!?」
コルベールは熱弁を奮うが、四人の態度は「それがどーした?」というものだった。
「そんなしょうもない事より倒す方法を考えましょうよ。」
「ツェルプストーの言う通りです、ミスタ・コルベール。」
「…(コク)」
「だから禿げるんですよ。」
一瞬『爆炎』で全員窒息死させてやろうかと考えたが、さすがに思い止まった。
「な、何かヒントになるかと思ったのですが…」
「倒すにはあの矢をどうにかして取り上げればいいみたいです。」
今更何を言わせるんだこの禿は、という態度でルイズが言った。
「しかしですな、その事が矢を取り上げる事に繋がりませんかな?」
コルベールが食い下がる。

「そんなわけが」…ぁごぁあぁ…「ないでしょう。ん?僕の顔に何か付いているのかい?」
その場にいた全員がマリコルヌの顔を穴が空くほど見つめていた。
「ま、マリコルヌ…な、なな何よそれ……!!」
ルイズは震えながらマリコルヌの顔を指差した。タバサも表情こそ変わってなかったが、足がガタガタ震えていた。
「な、なんなんだよ!」…ぉげぁあぁ…「僕の顔に何か付いてるならそういってくれよ!」
ザッザッとマリコルヌはルイズに近寄ろうとした。
「こ、来ないでぇぇっ!!」
ルイズが無我夢中で杖を振り、マリコルヌの顔面で爆発が起きる。
「あぎゃっ!」
爆発をもろに喰らい後方へ吹っ飛ばされたマリコルヌはピクピク痙攣した後、やがて動かなくなった。
「や、やったの…?」
「分からない…気絶したみたいだけど…」
…ぁごぉおぉ…
「「「ひっ…!?」」」
マリコルヌの顔の中から現れた『それ』は地獄で苦しみ続ける亡者のような声でまだ泣き続けていた。
「ほ、本当になんなのよ!何が起こってるの!?魂と身体が入れ代わったり、ギーシュが殺されたり…!今度はマリコルヌから変なのが出てきたり…!」
キュルケがパニクって叫び出した。それを聞いたルイズは全ては自分のせいだと思った。自分がサモン・サーヴァントであんな奴を呼び出したばっかりに…!
ルイズは駆け出した。
「ちょ、ちょっとルイズ!?いきなり何を!」
「全部私の責任なのよ!私があいつをなんとしてでも止めてみせる!倒してみせる!!」
「無理よ!魔法が効かないどころか、あなた魔法を使えないじゃない!」
「まだ分からないでしょ!」
キュルケはルイズを止めようとしたが、タバサの身体では走り出したルイズに追いつくことは出来なかった。



『そいつ』はフレイムとシルフィードに足止めされていた筈だったが、既に五人から遠く離れた所まで移動していた。
ルイズは追い掛ける途中、マリコルヌ同様、身体のどこかから別の『何か』が蛇が脱皮するように出て来ているというグロテスクな姿で地面を転がるフレイムとシルフィードを目撃していた。
しかし、二匹だけではなかった。空を飛んでいた鳥も、地面を徘徊していた蛇や蛙も、同じ様な姿になっていたのだ。
しかも、最悪な事にルイズの身体にも『それ』は始まった。

バリバリ…
…あがぃぃぃ…

ルイズの顔と腕から見たこともないものが出てきたのだ。
「あ、あ、あ あ あ あ あ あ」
ルイズはそれを見て声にならない悲鳴をあげた。


気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い気持ち悪い。
ここまで来て全てが虚しく感じた。今更あいつを追い掛けてどうする?倒せるの?希望はあるの?なら何故追い掛ける?もういい、私も楽になろうじゃない…
追い掛けてくる皆の声が後ろから聞こえてくる…。
あまりの虚無感からその場にへたりこんでしまった。このまま奴を倒さなければどうなるのか。分からなかったが、予想は着いた。きっと私は私じゃ、皆は皆じゃ無くなる。
皆きっとそうなる…お父様やお母様も、姉さま達も、キュルケやタバサ達も…そして…私の憧れだったワルドも……『平等』に……

ん…平…等…?…『平等』……私だけじゃなく…皆『平等』に…
そうだ。あいつは一切の加減無く『平等』に皆の魂を入れ替えた。何故そのような事が出来る?一人一人の魂を支配しているから?でもどうやって…
ルイズは二つの事柄を思い出した。それは『矢』と『影』である。
あいつは矢を守ろうとしている。ならば矢を奪い取るのが倒す方法だと思っていた。
だが、触ったらギーシュの様になってしまうだろう。攻撃も与える事もシルフィードが示したように、出来ない。
それは何故だ?ひょっとしたら矢が本体じゃないのか?あの黒い人影は矢がそれを守る為に生み出した『物』と考えられないか?
もしこれが正しいなら、矢を奪うことは間違っている。矢が全てを支配している『方法』があるはずだ。それが倒す方法だ。
そしてそれはコルベールの言っていた『影』じゃないのか?
あいつの影は私のいる方と反対にある。何故夕日や炎の光を無視してそんな所にある?
答えは簡単だ。『光』がそっちに差し込んでいるからだ。ならその光を出しているのはどこにある?

答えはコルベールが言っていた事にある。
『私たちから見て反対にある事に気付かないのですか!?』
コルベールにも見えていた。影が自分と反対にあることが。つまり『皆』そうなのだ。『皆』の反対にあいつの影がある。
ならば光源は…!
「あたしの頭の後ろ!」
ルイズが頭の後ろに目掛けて杖を振った。


…だが、不幸な事に、鎮魂歌の本編は進みすぎていて、終曲に向かいつつあった。


「何でよ…何で腕が動かないのよ…」
ルイズの顔から出た何かはその長く太い腕を伸ばし、ルイズの腕を握りしめていた。そのためルイズの腕はそこから動かなくなっていた。
「は、離しなさい!」
ルイズが開いた手でその腕を引きはがそうとした。だが、何かは腕を離そうとせず、それどころか更にもう一本腕を出すとルイズの首を締め付け出した。
「が……はぁ………ッ…!」
普通他人の首を絞めると頸動脈を締め付ける為、気絶するのに一分もかからない。だが、その腕は体勢が悪い為か呼吸器のみを締め付けた。
肺に空気が入らず、ルイズは自らの意識が次第に遠退いていくのを感じた…………


その時、ルイズは気持ちのいい、暖かい『風』を感じた。その『風』は黄金に輝いていた。ルイズの魂はそれに乗って空高く浮上していった。

「……ズ!」声が聞こえてくる。
「…イズ!」誰だろうか…目をゆっくりと、光に慣らすようにして開けていった。
「ルイズ!」私はベッドの上にいて、目の前にキュルケとタバサがいた。泣いていた。何でだろう?
「良かった、本当に良かった…」キュルケが抱き着いて来た。いきなりの行動に私の頭は真っ白になった。
「死んだかと思ったのよ…覚えてる?首を絞められて…」思い出した。あの時私は自分から出てきた何かの腕に首を絞められて意識を失ったんだっけ…
「ぎりぎりのところで先生があいつを倒したの。貴女の叫んだのがヒントになってね…」
私はハッとして自分の身体を見た。起伏のない胸板は相変わらずだが、白い手、そして何より長い桃色のブロンドの髪。
「元に…戻ったの…?」「ええ。ただ…」「ただ…?」
話の先は分かっていた。だが、言いたく無かった。
「ギーシュとマリコルヌは戻れなかったの。」
ギーシュはあいつに殺されて、マリコルヌの身体にマリコルヌの魂は戻れなかったから…とキュルケは悲しそうに言った。
ルイズは俯いた。二人が死んだのはあいつのせいじゃない。あいつを喚び出してしまった自分のせいなのだ。私が二人を殺した…
二人の遺族や友人にどう謝ればいいのだろう。何をしても許してもらえるとは思えない。
「貴女のせいじゃない」
タバサが静かに言った。
「…タバサ…」
「貴女はあいつを喚んだけど、誰かが犠牲にならなくては倒せなかった。」
それに倒したのは貴女だから借無し、と付け加えた。ルイズは小さく、ありがとう、と言った。

後で聞いた話だが、私はあの日から二日も目を覚まさなかったらしい。その間、キュルケとタバサが付きっきりで介抱してくれていたそうだ。
そして目が覚めてから三日が経った今、私はミスタ・コルベールと親友二人に見守られながら、ルーンを唱えた。
また爆発するだろう。だが、きっと中からは一人の少年が現れるに違いない。そして紆余曲折を経て、私と彼は恋に落ちるだろう。
そんな気が、した。


使い魔の鎮魂歌-fin

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