ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

タバサの大冒険 第2話

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匿名ユーザー

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 ~郊外の森林 地下5階~

『奴ガ近付イテ来ルゾッ!』
「フー・ファイターズ!」
 縦横無尽に飛び回って接近して来るタワーオブグレーに対し、タバサはフー・ファイターズの弾丸射撃を叩き込む。
 命中を確認すると共に、ダメージを受けて飛行がおぼつかなくなったタワーオブグレーに接近して攻撃用DISCのエコーズAct.3を展開、トドメの一撃を放つ。
『Act.3、FREEEEEZE!』
「ゲェェェ~~ッ!!」
 エコーズAct.3の拳を受けて、目の前のタワーオブグレーは完全に消滅する。
 何処かで本体と思しき中年男性の悲鳴が聞こえて来た気がするが、タバサは気にしない。
「………はぁっ」
 周囲にもう敵がいなくなった事を確認してから、タバサは軽く嘆息を付く。
 ――彼女がこの異世界に迷い込んでから、それ程時間が経っている訳では無いが、自分がこの世界に少しずつ順応して来ていることは、皮膚感覚としてはっきりと実感出来る。
 それもこのエコーズAct.3のおかげだ。もしエコーズAct.3から、この世界のルールや仕組みについて色々と聞いていなかったら、自分は今頃生きてはいなかっただろう。

『コノ世界ニイル「スタンド」ヤ「スタンド使イ」ハ「DISC」ニナッテナイ奴ハホボ全部アナタノ敵デス。
逆ニ言ウト「DISC」ニサエナッテイレバ、全テアナタノ好キニ出来ルッテ事デスネ。Son of a bitch!』

 この世界について一言で説明するなら、先程エコーズAct.3から聞いたこの言葉に尽きるだろう。
 また、今に至るまでに、タバサはスタンド使い以外の存在にも何度か襲われている。
 そして彼らを倒した時は決まって、その姿はまるで魔法で練成したゴーレムのように掻き消えて行ってしまう。
 エコーズAct.3は、この世界にいる全ての存在はただの幻、記録に過ぎないのだと語った。
 ハルケギニアでもこの世界でも無い、何処かの世界で実在した人々の記録が、この世界を構成している“何者か”によって形を為しているだけであり、本当の意味でこの世界に存在しているのは、今のタバサのように別の世界から迷い込んで来た旅人達だけだと言う。

 ここはもしかしたら、死者の世界なのかもしれないとタバサは思う。
 記録とは成功も失敗も含めて、人間が生きて成し遂げて来たことの証明である。
 だが、積み重ねられた記録は遠い過去でしか無い。
 確かに過去は現在と繋がっている。どれだけバラバラにして埋葬しようとしても、必ず何処かで蘇り、現在に対して影響を与えて来る。
 しかしそれでも、人間は未来に向かって、現在を生きているのだ。
 未熟だった過去に打ち勝ち、思い描いた未来を現実まで手繰り寄せなくてはならない。
 負けるわけにはいかない。
 自分の過去をただ哀しいだけの物にした伯父一族に復讐を遂げ、新しく出来た友人達と共に幸せに生きるのだ。
 その為に、まずは目の前の障害を一つずつ乗り越えて行く必要がある。
 自分を元の世界に帰してくれると言うレクイエムの大迷宮は、きっとその先で見つかるはずだ。
『オ、ヤル気ガ充実シテマスネ。コノ先ハ今マデヨリ更ニヘヴィニナリマスヨ。HOLY SHIT!』
 返事は返さず、しかしタバサはエコーズAct.3の言葉自体は無視してはいなかった。
 確かに、厳しい。既にここまでの探索で、装備DISCの他にもフー・ファイターズを始めとする射撃用の赤色のDISC、特殊効果の発動に必要な銀色のDISCも幾つか入手している。
 そして、何に使うのかはわからないが、所々に落ちていたお金もとりあえず回収していた。
 しかし深い階層を下る度に、敵も少しずつ強力になって来ている。
 防御用として使っているイエローテンパランスのDISCでも、どこまで持ち堪えられるかはわからない。
 この先、もっと強い敵が現れるだろう。
 その時、落ちているDISCを拾い集めるだけで大丈夫なのか?
 せめてDISCの他にも魔法が使えれば――
 いや、そうでなくても、手持ちのDISCを強化する方法さえあれば、何とかなるかもしれないのに。
 そんなタバサの心の内を見透かしたように、エコーズAct.3はいつも通りの口調で言う。
『マ、敵ガヘヴィナラ、コチラモ更ニヘヴィナパワーをゲットスリャイインデスケドネ。
 発動用ノ「DISC」デドウニカスルノモ、限度ッテモンガアリマスシネ。Over Limit』
「……どうやって?」
『ソレハ階段ヲ降リテカラノオ楽シミ。運ガ悪ケリャアウトデスガネ』
「……………」
 本当に大丈夫なんだろうか。不安な気持ちを隠しきれぬまま、タバサは次の階層へと向かった。

 ~紅海の浜辺 地下6階~

「………DISC」
 階段を下りた直後、早速タバサは発動用のDISCを一枚発見する。
 階層内に落ちているアイテムの位置を把握し、効率的にダンジョンを探索出来る「重ちーのDISC」だ。
 早速、タバサはDISCを頭に差し込んで能力を発動させる。

『オラにはわかる理由があるんだど!あんたにはわからない理由だけど!』

 能力を発動させた代償として、重ちーのDISCが力を失って消滅していく。
 そしてタバサの脳裏に、階層内のアイテムの位置が青い光点のイメージとなって浮かんでくる。
 その中に、一箇所だけ幾つもの光点が集まっている場所があった。
「…………?」
 こんなことは初めてだった。大概、ダンジョンにアイテムが落ちてる時は小部屋の中に1つか2つ、何も落ちていない時だって珍しくは無い筈なのに。
 これは一体どういうことなんだろう?
『オヤ、早速ラッキーガヤッテ来マシタネ。ディ・モールト、ベネ(トテモ良シ)』
「これは?」
『行ッテミレバワカリマスヨ。上手ク行ケバ「DISC」モ強化デキルカモ』
「わかった」
 今までエコーズAct.3が嘘を言ったことは無かった。
 それを信じて、タバサは罠や敵の存在に注意しながらもアイテムの光点が集まっている場所へ向かう。
 狭い通路をくぐり抜けて、ようやくタバサは目的の小部屋へと足を踏み入れる。
 そしてその刹那、タバサに向かって放たれた何者かの声が、小部屋の中に響き渡る。
「レストラン・トラサルディーへようこそ!」
 小部屋では、白く清潔そうな調理服を着込んだ、優しげな風貌の男性がタバサを出迎えてくれた。
 だが客に料理を出すレストランと言う割には、テーブルも無ければ椅子も無い。
 その代わりに、部屋の真ん中には先程からタバサが感知していた沢山のアイテムが置かれている。
「……レストラン?」
「ああ、これはハジメマシテ。ワタシはこのレストランのオーナー、トニオ・トラサルディーデス」
「………タバサ」
 丁寧に自己紹介をしてくれたトニオと言う店主に釣られて、思わずタバサも名前を名乗ってしまう。
 トニオは穏やかな微笑を絶やさぬまま、タバサに向かって言葉を続ける。
「本来ならワタシ自慢のイタリア料理をお出しする所なのデスが、ココでは大迷宮に挑まれるお客様方ニ対シテ色々なアイテムをお売りするのがワタシの役目なのデス。
 勿論、料理の方を取り揃える場合モございますのデ、この先マタお会いするコトがございマシタラ、是非トモ当店ニお立ち寄リ下サイ」
 なるほど。何故こんな所でレストランなのかと思ったが、“実在の”トニオという人がレストランのシェフなのだと考えれば納得は行く。
 しかしイタリア料理とは聞いたことが無いが、一体どんな料理なのだろう?
 何だか美味しそうな響きなのはわかる。そう言えば、あの平賀才人が「たまにはイタリアンも食いてぇ~」とか言っていたような気もする。
 もしかしたら、この人やスタンド使いは、才人と同じ世界の人間なのかもしれないとタバサは思った。


 ぐう。

 そういえば、あちこち歩き回ったせいでお腹が空いて来た。
 このままでは目を回した挙句に飢えて倒れてしまうかもしれない。
 この世界にやって来た時に何故か手元にあった大盛りのはしばみ草も、痛んではいけないと思って少し前にお腹が空いた時に食べてしまった。
 空腹を意識した瞬間、タバサは急に我慢できなくなって来た。
 顔色そのものは微動だにしていないが、心の中では食べ物を求めてレストラン内のアイテムに対して意識を向ける。
 今のタバサならば、例え道端のカエルを食べても元気一杯になれることだろう。
 ――そして、その中でようやく、食べられそうな物を見つけた。
 白い皿の上にに乗っかっているのは、何やら麺類のようだった。
 太過ぎず、細すぎずに、噛み千切るのに最適そうな太さの麺の上には、湯気と共に香ばしい香りを漂わせたアツアツのソースが絡められている。
 その脇に、値札と共に「娼婦風スパゲッティ」と言うこの料理の名前が書かれているのが見える。
 名前の由来は少し気になった物の、実に美味しそうだ。
 今まで拾い集めてきたお金も、今この時の為にあったのだとタバサはようやく理解した。
 もう我慢出来ない。お行儀は悪いかもしれないが、レストランの中には敵もいないことだし、安全なこの場を借りてすぐに食べてしまおう。
「……ここで、食べてもいい?」
「ハイ、勿論デス。後デお会計ヲ頂くコトになりますガ」
「それなら、大丈夫」
 タバサは財布の中に溜めていたお金を確認して、もう一度「大丈夫」と呟いた。
 少なくとも、このスパゲッティの代金分を支払うくらいは造作も無いことだった。
「それハ良かっタ。ではドウゾ、オ召し上がりクダサイ」
 いただきます、と言う言葉も惜しんで、タバサはスパゲッティ一掬いして口に入れる。
「――美味しい!!」
 普段は無表情なタバサが、大きく目を見開いて感動の声を漏らした。
 これが他の人間だったら力一杯に「うンまぁァ~~~~い!!」と雄叫びを上げている所だろう。
 それ程までにこのスパゲッティは美味であり、「雪風」の二つ名で呼ばれる程のタバサの冷えた鉄面皮を突き崩してしまう程の美味さを持っていたのだ。
 強い辛味はタバサの舌の隅から隅まで余す所無く絡まり付いて、彼女の味覚を刺激する。
 そしてその辛さは新しい刺激を求めて、次の一口を誘導する。
 やがて辛味の中に溶け込んでいた旨味が口の中に染み渡り、
脳髄から全身にまで達する程の快感へと変わっていくかのよう。
 その口の中に生じる辛味状態の圧倒的破壊空間はまさに歯車的旨味の小宇宙!
 タバサは人生15年目にして味に目醒めると共に、自分がいかに狭い世界しか知らないちっぽけな存在であったのかを、痛烈に思い知らされたのだった。

「ごちそうさま」
 勿体無いと思いながらも、娼婦風スパゲッティを食べ終えて心地良い満腹感に浸るタバサ。
 だがその時、口の中に妙な違和感を覚えた。
 歯の一本がまるで別の生き物であるかのようにモゴモゴと動き出し、力づくで無理矢理タバサの体から抜け出すかのように抵抗を試みている。
 何が起きたのかと疑問に思うより早く、タバサの口からその歯が真正面に勢い良く飛び出していく。
 そのまま、たった今抜け飛んで行ったばかりの――少し虫歯気味だった歯の奥が、先程と同じように疼き始めたと思った瞬間、他と変わらぬ白く輝く汚れ一つ無い歯が生まれて来た。
 そして飛んで行った歯は、真正面にいたトニオに向けて一直線に向かって行き、そのまま――
「ウグッ!?」
 景気の良い音を立てながら、トニオの顔面に直撃した。
「……………」
 重苦しい沈黙がレストラン内に流れる。
 つい数刻前に美味しい料理を食べて絶頂に押し上げられていたタバサの気分は、一瞬にして下水の底で溺れ死ぬ哀れな水死体のようにどん底まで落ちて行く羽目になった。
 本来なら今すぐ謝らなければならない所だろうが、顔面を抑えて全身を振るわせるトニオの姿は、迂闊に声を出すのも憚れるような迫力があった。
 だが、何時までもこのままで良い筈が無い。
 なけなしの勇気を振り絞って、タバサは何とか口を開こうとする。
「……ご、ごめんなさい」
 タバサ乾坤の一擲に、トニオはゆっくりと――
 引き攣りが止まらない表情に無理矢理笑顔を貼り付けて、地獄の底から響き渡るような声で言う。
「フ、フフフ…オ気になさらないデ下サイ……
 ソノ料理にツイテ先ニ説明しなかッタワタシにモ責任ハございますカラ……」
 目が全く笑っていない。これ以上迂闊なことを言えば、片手に握り締めた石鹸で今すぐにでもタバサの頭を殴り飛ばしかねない、極めて危険な空気を纏っている。
 はっきり言って、とても怖い。騎士「シュヴァリエ」の称号を抱く百戦錬磨のタバサですら、今のトニオを前にして胸の内から込み上げて来る恐怖を押さえ込めそうになかった。
「あ…こ、これ……買って…帰るから……」
 床に散らばるアイテムの種類を見もしないで、タバサは部屋の中の商品を適当に掻き集める。
 そして足りるかどうかも計算していなかったが、トニオに押し付けるような形で手持ちのお金を全て渡して全速力でレストランから遠ざかろうと駆け出して行く。
「――タダじゃあおきませんッ!!」
 後ろから殺意に塗れたトニオの声が聞こえて来た気がするが、タバサは一生懸命素数を数えたりして聞こえないフリをしながら、見つけた階段を必死になって駆け下りて行った


 ~紅海の浜辺 地下7階~

「……怖かった」
『マア逃ゲ出シテテ正解デシタネ。アノママアソコニイタラ、絶対ニアノ固ソーナ石鹸でブン殴ラレテ再起不能(リタイア)デスヨ』 
「うん」
 目に浮かんだ涙の珠を拭いながら、タバサはトニオの店から持ち出してきたアイテムを確認する。
 装備用DISCと発動用DISCが一個ずつ。傷を癒す為の「モンモランシー特製ポーション」。
 そして最後に――
「…………本」
 嬉しそうに口元を綻ばせて、タバサは表紙に極彩色の絵が書かれたその本を手に取った。
 トリステイン魔法学院を出発してから、もう何年も本を読んでいないような錯覚すら覚える。
 タイトルに書かれているのは、「ジョジョの奇妙な冒険 24巻」。
 表紙に書かれている絵からすると、画家が勉強に使う美術書なのだろうか、とタバサは思った。
『オ、コレコレ。コノ「コミックス」ヲ読ンデ「DISC」ヲ強化スルンデスヨ』
「え?」
 口を挟んできたエコーズAct.3の言葉は、タバサにとっては予想外の物だった。
「これで……?」
『マ、読ンデミリャワカリマス。Are you ready?』
 首を傾げながらも、タバサはエコーズAct.3に促されてその「コミックス」とか言う本のページを開く。
『コイツハ第三部ノ「コミックス」デスカラ…「イエローテンパランスノDISC」ヲ強化デキマスネ』
「どうすればいいの?」
『「DISC」ニ向カッテ「サッサト強クナリヤガレェェェ」トカ思イナガラ読メバドートデモナリマス』
 疑わしい気もしたが、それでも言われた通りに防御用に装備したイエローテンパランスのDISCを意識しながら、コミックスを読んでみる。
 まるで石の彫刻のような力強い体の男性達の絵や、犬がスタンドを出して邪悪な笑みを浮かべた鳥と戦っている絵などが並んでいる。
 どうやら最初に思ったような美術書では無く、子供向けの絵本らしかったが、書かれている文字が全然読めなくてストーリーが理解出来ないのがタバサには不満だった。
「!」
 コミックスの最後まで目を通した瞬間、イエローテンパランスのDISCが光り輝き、その力が高まった事がタバサにははっきりと実感出来た。
 しかしその代わりに、まるでDISCを発動したかのようにコミックスもその形を失って消滅してしまう。
「本当に強くなった……」
『コレデチットハマシニナルデショウ。アア、ソレト「コミックス」ハ強化出来ル「DISC」ニ制限ガアルノデ気ヲツケナキャナリマセンヨ』
「わかった」
 なるほど、こうしてコミックスを集めてDISCを強化していけば、探索も楽になるかもしれない。
 それに文字こそ読めなくても、この世界にも本があると言うのは悪い気はしない。
 出来れば書かれている文字を覚えて、物語も楽しみたかったが、そこまでは贅沢と言う物だろう。
『ソレジャ、コノ階デアイテム集メテトット先ヘ進ミマショウ』
「うん」
 エコーズAct.3の言葉に頷いて、タバサは通路を通って次の小部屋に出る。その瞬間だった。
「うっ!?」
 何者かの手が伸びたと思った刹那、一瞬にしてタバサの小柄な体を羽交い絞めにする。
「……へへへ。おい!観念しな悪党!」
「く………!」
 幾らもがいてみた所で、その男にガッチリ捕まえられたタバサの体は身動き一つ出来ない。
「テメエみてぇな小娘が、このブルート様から逃れられると思ってんのかァ?あ~ん?」
「クククッ!見事ねブルりん、そのままそいつを押さえつけておくね!」
 ブルりんと呼ばれた巨体の男の側から、もう一人の敵の姿が現れる。
 既に老齢とも呼べる姿でありながら、鮮やかな身のこなしで
こちらに近付いてくるのは、両手に長い爪を装備した吸血鬼、ワンチェンである。
「こいつで首筋を引き裂いて、お前の暖かい血をペロペロ啜ってやるね!ヒヒヒヒ」
 ペロリと舌なめずりをしながら、ワンチェンはタバサに近付いてくる。
 エコーズAct.3で戦うにせよ、このままではどちらか一方しか攻撃出来ない上に、絶対的なパワーに欠けるエコーズAct.3では一撃でトドメを刺し切れるとも思えない。
 そして攻撃を免れなかった片方が、確実にタバサに致命的な一撃を与えるだろう。
 万事休す。タバサの心に、再び暗い絶望の影が忍び寄ろうとしていた。
『……一発ダケ』
「え?」
『奴ラノ攻撃ヲ一発ダケ受ケル覚悟ガアルナラ、コノ状況ヲ何トカシマショウ』
「! 本当に……!?」
 エコーズAct.3の言葉に、タバサは目を大きく見開いて聞き返す。
『後ハアナタ次第デス。コノ「絶望」ヲ乗リ越エ、「運命」ヲ掴ミ取レルカドウカハ、
全テアナタ自身ノ「意志」ニ掛カッテイマス』
「え………?」
 いつもと違うエコーズAct.3の様子に、タバサはただ戸惑うばかりであった。
「あなたは、一体何を……」
「何をごちゃごちゃ言ってるね!この爪を食らって血ヘドブチ撒けるねー!!」
『Act.3、FREEEEE――――ZE!!』
 ワンチェンの爪がタバサの首筋を捉えるよりも早く、エコーズAct.3の拳がタバサを拘束していたブルりんに直撃する。
「ぬぅおォ!?」
 エコーズAct.3の拳によって、ブルりんの体に圧倒的な“重さ”が圧し掛かる。
 突然の衝撃に、ブルりんは思わずタバサを拘束していた腕の力を緩めてしまう。
「………!!」
「チィッ…!」
 その隙を突いて、全力を込めて体を横に投げ出すことでブルりんの拘束から逃れたタバサは、正面から振るわれたワンチェンの爪を紙一重の所で回避することに成功する。
「………Act.3!」
 何ということだろう。
 エコーズAct.3の体が、タバサの目の前で力を失い、ボロボロと崩れ去って行く。
 ――これは、DISCの発動。
 装備DISCには持ち主の攻撃や防御の底上げの他に、銀色のDISCと同様にその能力を発動する事が出来る。その引き換えとして、スタンドはDISCに宿っていたパワーを消費してしまう。DISCのスタンドパワーを使い果たした時、スタンドはDISCと共に朽ち果て、消え行く運命にあった。
 エコーズAct.3は確実にタバサを逃す為に、使えば100%成功するDISCの能力を発動させたのだ。
「Act.3……っ!」
『コレデイイノデス。私ハ「DISC」ニ宿ルスタンド。アナタガ「生キル」為ニ、ソノ力ヲ解キ放ツノハ当然ノコトデス』
 幻なのかもしれない。だが、それでも今のタバサにははっきりと見えていた。
 力を使い果たしたエコーズAct.3の「精神」が、天国に向けてゆっくりと昇っていく姿を。

『「正義ノ道」ヲ歩ム「黄金ノ精神」コソガ、「絶望」ヲ打チ破リ「運命」ヲ導クノダトイウコトを、忘レナイデ下サイ。――タバサ。アナタノ「運命」ガ「希望」ニ満チタテイルコトヲ、私ハ信ジテイマス』

 そして、タバサの目の前で、エコーズAct.3は消滅した。
 それと共に、彼女が装備していたエコーズAct.3のDISCがら頭から零れ落ち、その形を失って行く。

「くッ、くそォ!一体どうなってやがるんだよォ!?」
「スタンドのDISCを発動させられたね。奴にDISCを使わせる暇も与えずに速攻で殺すつもりでオマエと組んだんだが…アテが外れたね」
「お、おいワンチェン!早くこの重てぇのを何とかしてくれ……はッ!?」
 得も言われぬ冷たい殺意を感じ、ブルりんとワンチェンは先程タバサが転がっていった方向を見やる。
 今まさに、タバサの頭にもう一つ別の、新しい装備DISCが攻撃用に収められた所だった。
「……Act.3は、逝ってしまった…」
 タバサの背後に、装備DISCに宿る新たなスタンドが形となって二人の前に現われる。
「あなた達の邪悪を……許す訳にはいかない――!!」
 タバサの怒りと共に、この世に存在する全て“もの”を削り取り、無へと還す――
「ザ・ハンド」の右手が、ブルりん達に向けて一直線に振るわれる。

 ガォン!!

「ゲ…――ッ!!」
 その真正面で足掻いていたブルりんが、ザ・ハンドの右腕の直撃を受けて悲鳴も残さず消滅する。
 続いてタバサは厳しい瞳で、呆然と立ち尽くしていたワンチェンの姿を視界に捉える。
「ウッ……チ、チ、チクショオォォッ!キィエェェェーーーッ!!」
 なりふり構わぬという勢いで、ワンチェンがタバサに向かって突っ込んで来る。
 タバサはその動きを冷静に見つめながら、発動用DISCを手に取り、自分の頭の中へと差し込む。

『ふるえるぞハート!燃え尽きる程ヒート!!』

「ヒッ!そ、そいつは……!!」
 タバサが使ったDISCの正体を知り、ワンチェンは顔色を更なる恐怖へと歪めた。
 そして、タバサは裂帛の気合と共に、地面を強く踏み出して逆にワンチェンへと接近する。
「山吹色の……波紋疾走ッ(サンライトイエロー・オーバードライブ)!!」
 一定期間のみ、吸血鬼が弱点とする「波紋」を操る「ジョナサンのDISC」。
 その力を発動させたタバサは、波紋を流し込んだその拳を力一杯ワンチェンへと叩き込む!
「ウ……ウギャアアアァァァアァッ!!」
 たっぷりと波紋を帯びた拳の直撃を受けて、体機能を完全に狂わされた吸血鬼ワンチェンは、ブスブスと煙を立てながら地面へと溶けて行き、やがて完全に消え去って行く。
 今、この場に立っているのは、タバサ一人。彼女以外に動くものは、何一つとして存在しない。
「……Act.3……」
 タバサは、つい先程消えてしまったばかりのエコーズAct.3に対して想いを馳せる。
 この世界にやって来て、右も左もわからなかった自分に沢山のことを教えてくれたエコーズAct.3。
 ほんの僅かな時間だったけれど、いつも自分の側に立って、
未熟な自分を最後まで守り続けてくれた、かけがえのない親友。
 天へと還って行ったエコーズAct.3の魂に向けて、タバサはありがとう、と呟いたのだった。





 ゼロの奇妙な使い魔「タバサの大冒険」 To be continued…



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