ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

ゼロの奇妙な白蛇 第一話

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匿名ユーザー

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 ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエールは、万全を期していた。
 トリステイン魔法学院で二年生に進級する時に行われる『春の使い魔召還の儀』に向けての練習、そしてコンディション。共に完璧。
 魔法が使えなくとも、せめて使い魔だけはと言う思考があったのは認めるが、彼女が召還に拘ったのは別の理由がある。
 そもそも使い魔とは召喚者。
 つまりはメイジのその後の属性を決めるのに重大さを持っている。
確かに、自らのパートナーとしての側面も持ち合わせてはいるが、それは飽くまで二次的なモノ。その証拠に使い魔には代えが利くが、新たに呼び出される者は全て、決定された属性に関係のある生物だからだ。
 ルイズは、この属性を決めると言う箇所に望みを掛けていた。
 つまり、自らが召還した使い魔の属性を辿れば、自分の魔法の属性を知ることが出来るのでは無いかと。
 それ故に、ルイズはこの召喚に失敗する訳にはいかなかった。


「宇宙の果てのどこかを彷徨う私のシモベよ……神聖で美しく、そして強力な使い魔よ、
 私は心より求め、訴えるわ! 我が導きに…答えなさいッ!!」
 呪文はオリジナルのモノであったが、自分の中にある全ての魔力を注ぎ込んだ呪文は、それに見合っただけの大爆発を起こしてくれたのだった。

「ゲホッ……ゴホッ……」
 爆発によって舞い上がった粉塵が、喉に張り付く不快感に咳が出る。
 こんなはずじゃない。こんなはずじゃない。
 自分は、最高の使い魔を召喚するはずだったのに、なんで爆発が……
 己が『ゼロ』であると再認識させられたルイズは、心の中にあった最後の自尊心すら、自らが放った爆発で粉々に吹き飛ばしてしまい、力なく、その場に座り込んだ。
「あっはっはっ、見ろよ。やっぱり失敗だったんだ」
「所詮、『ゼロ』は『ゼロ』って事よねぇ」
「あ~、これであいつも、ようやく退学になってくれるだなぁ~」
「これで、やっと授業を安全に受けられるよ」
 ゲラゲラと耳障りな嘲笑を受けながら、ルイズは空っぽになった心で思っていた。
 魔法学校を退学になった自分は、どうなるのだろう。
 実家に戻る? あの由緒正しきヴァリエール家に、魔法も使えない自分が?
 それは我慢ならない。プライドがどうこうでは無い。
 そんなものは、先で述べたように砕け散っている。
 あるのは、家族に迷惑が掛かるという思いだけだ。
「どうしよう……」
 失意の呟きを口に出すが、答えてくれる者はこの場に居ない。
 ただ、ゲラゲラと耳障りな笑い声だけが辺りに響く。

 何が引き金だったのか、行動を起こしたルイズ自身、分からなかった。
 単に堪忍袋の尾が切れただけなのかも知れないし、もしかしたら、ただの気紛れだったのかも知れない。
 ともかく、ルイズは思ったのだ。
 この喧しい笑い声をしている連中を今すぐ黙らせたいと。

 変化は劇的だった。

 一際大きな笑い声を上げていた肥え過ぎた生徒の悲鳴が響いたかと思うと、辺りの生徒達もまた、一斉に悲鳴を上げ始めた。
 あまりにも煩わしい悲鳴だったので、ルイズはなんとなく顔をそちらへ向けた。
 何か、白い何かが生徒の身体を殴りつけている。
 その何かは、ルイズがこちらを見ている事に気がついたのか、精肉場に胸を張って持っていける生徒に最後の蹴りを入れ、青草を踏み鳴らしルイズの目の前へと立った。
 奇妙な姿だとルイズは思った。
 全身が太い白の線と細い黒の線の横縞模様で、その縞模様の間に「G」「△」「C」「T」という形のマークがある。
 そして、これが一番の特徴になるのだろうが、頭部に黒いマスクを被っている。
―――こいつだ
 妙な確信がルイズの中で蠢き、契約の呪文を紡がせる。
 全ての言葉が自分の口から出終わり、相手の唇に口付けをしようとすると、奇妙な姿の者もルイズが何をしたいのか分かったらしく、膝を折り、中立ちになってルイズの唇を受け入れた。
「あんた……何?」
 契約が完了したと同時に、ほぼ無意識の内にルイズの口から言葉が漏れる。
 その漏れた言葉に、契約が完了し、左手にルーンを刻まれている奇妙な姿の者は

「ホワイトスネイク―――ソレガ私ノ名ダ」

 神託のように深き言葉を紡ぎだした。


「それでコルベール君、被害の方はどの程度に治まったのかのぉ」
 厳格な態度と雰囲気を持つ、このトリステイン魔法学校の長であるオールド・オスマンは、冷や汗でただでさえ光を反射する頭皮を、さらに鏡近くまで存在を昇華させている、
 コルベールを見ながら厳かに問い質した。

 ミス・ロングビルに蹴られながら

 どうかと思う。

「はい、その、ミス・ヴァリエールが呼び出した使い魔は、召喚されたショックからか、生徒達の中で最も肥満な……失礼、最も体積が大きく目立った、ミスタ・グランドプレを襲って、彼に全治半年の大怪我を負わせました。
 幸い、すぐに治療した甲斐もあって、半年が一ヶ月に縮まりましたが、それでも大怪我には変わりありません」
 コルベールは必死だった。必死で目の前の光景から目を逸らし続ける。
 見たら終わりだ。見たら自分もアレに巻き込まれる。
 そんな思いで冷や汗を掻きながらの報告を終えると、丁度良い感じに蹴られ続けたオスマンが立ち上がり、革張りの椅子へ蹴られ続けたお尻を気にしながら座る。
 ロングビルも、蹴り飽きたのか自分の仕事へと戻っていた。
「ほ~、中々酷い有様のようじゃったらしいが、ミス・ヴァリエールは『コンタクト・サーヴァント』は済んだのかの?」
「はい。ミスタ・グランドプレを医務室に運んだ後に、私自身が使い魔のルーンを確認しました」
 ふむ、とオスマンは一度頷き窓の外へと視線を向ける。
 窓の外では、黒い髪のメイドと料理長が雇ってくれと頼み込んできた黒髪の少年が洗濯物を干し、太陽の光を体一杯に浴びていた。
 そんな如何にも平和な光景を目にしながら口を開く。
「契約が完了したのならばそれで良い。ミスタ・グランドプレには災難だが、召喚の際の事故は誰にでもある。
 このわしでさえ、召喚したての使い魔には色々と苦渋を舐めさせられたものじゃ」
 そういって、顔を顰めるオスマンにコルベールは、確かにと同意を口にする。
 オスマンの使い魔をコルベールは見た事は無かったが、彼ほどのメイジならばドラゴン並みの魔獣の類を召喚したのだろう。
「では、ミス・ヴァリエールにはお咎め無しと言うことで?」
「うむ」
 重厚なオスマンの頷きにコルベールは先程の光景をすっかりと忘れ、では、自分は仕事に戻りますと部屋を出て行った。
 オスマンとロングビル。
 二人きりになった部屋で、ロングビルが思い出したように呟く。
「先程……」
「んっ?」
 何かな、と疑問な顔でロングビルのお尻を撫で回そうと手を伸ばすオスマン。
「召喚したての頃は色々と苦渋を舐めさせられたと言っておりましたが、それは今も変わっていないのでは?」
 静かに返答をしながら、伸びてきた腕を思いっきり抓るロングビル。
「何を言っておる」
 痛みの所為か涙目になっているオスマンが言葉を返すと、机の一番上の引き出しを開けた。
 そこには、彼が楽しみにしていた菓子折りが入ってるはずであったが、
 開けた瞬間、彼の目に飛び込んできたのか、白いハツカネズミ。
「なっ、モートソグニル……お主……わしが楽しみにしていた、ゲルマニア産の菓子折りを……」
 オスマンは苦渋を舐めたような渋面で、菓子折りの中身をボリボリと食べる使い魔のネズミを見つめるしかなかった。


「う~~~ん」
 部屋に戻ってきたルイズは唸っていた。
 拙い……拙すぎる。
 何が拙いと言うと、先程の自分の醜態である。
 召喚の際、爆発が起こり失敗したと思った自分は、一瞬、何もかもが馬鹿らしくなり、全てを投げてしまった。
 今になって冷静に考えてみると、一回の失敗であんな風に落ち込むなど自分らしくなく、明らかに普段思い描いている貴族像からも逸脱していた。
 さらに痛恨なのが、その落ち込んでいた場面を、あのキュルケに見られてしまった所だ。
(あ~、明日は絶対に弄られるじゃないっ!)
 キュルケがその豊満な肉体を見せつけながら、自分に対してからかってくる様を想像して、それがあんまりにもリアルだったので、ルイズの唸り声は、一段高くなった。
(それにしても……)
 とりあえず、キュルケの問題は棚上げにし、ルイズは自分の使い魔となった亜人と思われる生き物を見上げた。
 自分のすぐ傍に立っているその亜人は、ホワイトスネイクと名乗り、召喚してからすぐ、マリコルヌを精肉屋に持っていける程にしてしまった。
 その様を見たルイズは、胸がスッとしたが、とりあえずあの時は自分の召喚が 成功していたと言う事実の方が頭に浮かび、あまり記憶が残っていない。
 それでも、ファーストキスでもある『コンタクト・サーヴァント』をした事は、確りと憶えている。
(あっ、そうか、よくよく考えると、私ってこいつとキスしたんだ……)
 人間、何事でも始めての相手には情が移る者である。
 ルイズもまさにそのとおり――――――ではなかった。
(こんな……こんな奴が、私のファーストキスだなんて、ぜっっっっっったい、認めないわっ!!)
 流石に言葉には出さなかったが、頭を抱えて、う~う~と唸るその様は、傍から見ると不気味以外の何者でもない。
 その唸っている自分の本体を余所にホワイトスネイクは、ただ部屋の入り口に立っていた。


 ホワイトスネイクは、自分の存在について考えていた。
 天国へと行く為の方法によって、ホワイトスネイクと言う存在は、さらなる高みの存在へと昇華し、記憶をDISCとする能力を持った自分は、確かに別の存在になったはずであった。
 それが、今はどうだろうか?
 さらなる高みの存在―――『メイド・イン・ヘヴン』の時の記憶もあれば、世界が『一巡』した新世界における記憶すら今のホワイトスネイクは持っている。
(ドウイウコトナノダ、コレハ……)
 自分が、まったく別の存在になった時の記憶も持っている事に、本来ならそのようなモノとは無縁であるはずのホワイトスネイクに、言い知れぬ『不安』と言うものを感じさせていた。
……感じさせていたが、すぐにその『不安』をホワイトスネイクは忘れた。
『不安』に思う過去など自分には必要無い。何故なら自分はスタンドだ。
 自分に必要なものは、本体に絶対服従の忠誠心と能力だけである。
 他の事柄など、思考を割くのも無駄である。
 そうして、ホワイトスネイクは、自身が何故、存在しているかと言う疑問と、自分と言う存在でない者の記憶が何故あるのかと言う、二つの疑問を無意識のさらに底まで封印した。
 これで良い。これで自分は『不安』を持つことは無い。
 次にホワイトスネイクは、左手の奇妙な痣の事を考え始めた。
 ホワイトスネイクを現す四つのマークではなく、明らかにそれとは違う形をしているこの奇妙な痣。
 解析する為に、DISCとして形にしてみると、面白いことが分かってきた。
 どうやら、この奇妙な痣は使い魔のルーンと言うらしく、武器を持つことによって自分の上がるものらしい。
 さらに言えば、性能を上げるだけでなく、その武器の使い方を瞬時に理解することさえ可能と言う、まさに『兵士』の為のルーン。
(ダガ……私ニハ、不要ノ長物ダナ)
 ホワイトスネイクの戦闘方法は、まず、敵に触れることにある。
 記憶をDISCと出来る自分にとって、相手に触れると言う事は、すでに相手の命を手にしていると同意義なのだ。
 その敵に触れる攻撃が一番しやすいのが、徒手空拳。
 つまり、素手による殴打である。
 確かに、性能の補正は魅力的だが、補正の条件が感情を高ぶらせる事であり、スタンドで、尚且つ冷静と言うよりは、無感動に近い自分には大した補正は乗らないだろう。
 以上の事等から、武器などを使うと、逆に自分の戦闘能力は下がってしまうと、ホワイトスネイクは考えた。
 そして、最後の問題である現在の自分の本体をホワイトスネイクは見た。
 桃色の髪をした幼い少女。
 高慢であり自尊心だけが無駄に肥えたこの少女が自分の本体であることに、ホワイトスネイクは特に何の感慨も抱かなかった。
 ただ、前の本体のような性能を自分は発揮できないであろうな、と思っていた。
 スタンドとは、もう一人の自分である。
 肉体的な自分が本体とするのならば、精神的な自分であるスタンドの強さは、本体の精神の強さに依存する。
 その点で言うならば、ルイズの精神は、元の本体のような、『絶対の意思』を持っておらず、ただ只管に脆弱であるだけ。
 弱くなるのも当然であった。
「ねぇ、ちょっと、あんた」
 自分の使い魔に、精神的に弱い奴と思われていることを知らずに、ルイズはホワイトスネイクを呼ぶ。
 ようやく、あのキスは契約の為に仕方なくしたものであり、ノーカンであると言う結論に至ったので、ホワイトスネイクに使い魔として役割を言い聞かせることにしたのだ。
「召喚されたばっかのあんたに、使い魔の役割を説明してあげるから、ありがたく思いなさいよ
 良い、まず、第一に使い魔は主人と目となり、耳となる能力が与えられるわ」
 そこまで言ってから言葉を区切る。理由は些細な好奇心。
 ホワイトスネイクの見ている世界は、どんなものなのだろうと思い、意識を集中してみるが……見えない。
「ちょっと! どういうことよ!」
 詐欺られた気分だ。本来なら、簡単に使えるはずの使い魔との視聴覚の共有が出来ないなんて。
 心の奥底には、自分が『ゼロ』だから出来ないのでは? と言う考えも浮かんでいたが、それは認める事の出来ない原因だ。
 なので、使い魔の所為にすると言う暴挙に出たのだが、ホワイトスネイクは冷淡な目で自分を見るだけ。
 ルイズはもしかして、こいつも自分の事を見下しているじゃないのかと、段々と疑心暗鬼の思いで心が侵食されるのを感じていたが、その冷淡な目付きのまま、使い魔が口を開く。
「ソンナ『認識』デハ、出来ルコトモ出来ナイ。モット、強ク『認識』スル事ダ。
 空気ヲ吸ッテ吐クコトノヨウニ、HPノ鉛筆ヲヘシ折ル事ト同ジヨウニ、自分ナラ、出来テ当然ノコトト思ウノダ」
「わっ、わかってるわよ!」
 ホワイトスネイクの説教染みた言葉に、プッツンしそうになるが、なんとか堪えて意識をまた集中させる。
―――集中
――――――集中
―――――――――集中
――――――――――――っ!
 一瞬、ほんの一瞬だが、自分の姿が視えた。
 自分より背の高い者から見た、見下ろされた自分の姿。
 それが、ホワイトスネイクの見ている風景だと気付いた時、喜びと……怒りが同時に込み上げてきた。
「なんで一瞬なのよっ!」
 そう、何故だか一瞬で消えた映像にルイズは怒りを爆発させていた。
 もっと、持続できなければ視界を共有しているとは、まったくもって言えない。
「マダ、『認識』ガ足リナイラシイ。モット、時間ヲ掛ケテ、私ヲ、自分デアルト『認識』スレバ、自然ト見エテクル」
 悔しいが、使い魔の言う通りだろう。もっと、もっと、時間を掛けなければ、自分は使い魔の視聴覚を感じられない。
 しかし、逆に考えて見れば、時間さえ掛ければ自分は使い魔の目と耳を感じられると言う事だ。他のメイジのように。
「まったく、今、出来ないんじゃ意味無いわよ。次よ、次」
 さも不機嫌な感じで言葉を口にするが、内心は自分も、ようやくメイジらしいことが出来るようになるかも知れないと、今すぐにも踊りだしそうであった。
「次は、そう、使い魔は主人の望むものを見つけてくるのよ。例えば、秘薬とかね……
 と言うか、あんた亜人だけど、秘薬って分かるの?」
 秘薬を見つけるのは、主に動物系の使い魔の仕事だ。
 見るからに亜人なこいつでは、見つけるのは無理かなと、聞いてみると、予想通りに首を横に振ってきた。
「まぁいいわ。秘薬なんて、どうせ買えば済む話だし……
 それより、これが使い魔の役割で一番大切な事なんだけど、使い魔は主人を守る存在なのよ」
 マリコルヌをフルボッコにしたホワイトスネイクをルイズは見ていたが、それで満足する程、ルイズの使い魔に対する注文は低くない。
 自分の使い魔であるならば、最強、最優。
 そうでなければ、自分の使い魔として意味が無い。
「私を守る為の存在のあんたは、強いの?」
「世界ヲ操ル男ガ、私ノ元本体ニ言ッタ言葉ガアル。
 ドンナ者ダロウト、人ニハソレゾレノ個性ニアッタ適材適所ガアル。
 王ニハ王ノ…… 料理人ニハ料理人ノ……ナ」
「何が言いたいのよ」
「『強イ』『弱イ』ト言ウ概念ハ、ソレ単体デハ存在シナイ。
 ソレガ存在スルノハ、比較スル対象ガ居ル場合ニ限ル。
 ダガ、私達ニハ、比較スルベキモノガ存在シナイ。
 一人、一人、役割ガマッタク違ウノダカラナ」
 確かに同じ役割の中でなら強さを測ることは出来る。
 しかし、僅かにでも役割が違う者同士で強さを測ることなど不可能なのだ。
 スタンドもそれと同じ。
 スタンドの能力は、特別な場合を除き、被る事などありえない。
 それ故に役割は決して被らず、その為比較すべき対象が存在しないので『強さ』や『弱さ』も存在しないと言いたかったのだが、
 ルイズはその真意を汲み取る事など出来ず、訝しげな顔で饒舌な使い魔を見ている。
「そんな小難しいことを聞いてるんじゃなくて、私はあんたがどのくらい強いかを聞いてるのよ!!」
 これにはホワイトスネイクも参る。
 仕方なく、子供が遊びで話すスタローンとジャン・クロード・バンダムはどっちが強い?
 と言うレベルで説明するしかないかと思い、窓の外を飛んでいた梟を窓枠に近づいてきた瞬間、恐るべき速さで梟に反応される前に体をがっしりと掴んだ。
「あんた……」
 その早業にルイズは驚きで声を上げそうになったが、使い魔の手前、外見上は眉を動かすだけだ。
 こいつ……とてつもなく、早い。
 これは期待できるかも、と内心の期待からホワイトスネイクを見つめていると―――

―――ぞぶり、と生理的嫌悪の走る、おぞましい音がルイズの耳に届いた。

 なるほど、梟の頭に自分の指を突き刺したのか。
 いきなりの使い魔の凶行に、ルイズは完全に思考停止し、その様を見つめていたが、きっかり三秒後には再起動を果たす。
「あっ、あんた、何してのよー!!」
 寮の窓近くを飛んでいた事から、誰かの使い魔と思われる梟を、自分の使い魔が、何を思ったのか、頭に指を突っ込んで殺してしまった。
 そのあまりのショッキングな内容に金切り声をあげるが、ホワイトスネイクは
「―――出来タ」
と謎の言葉を発し、指を刺した時から動かない梟を、
 興味を失った玩具を捨てる子供のように、ポイッと気持ちの良いぐらい、あっさりと窓の外に捨てた。
「なっ!」
 その行動に驚きの声をあげるルイズであったが、次の光景を目にした瞬間、自分は現実にいるのか心配になってしまった。

 頭に指を刺され、死んだはずの梟が、また窓の外を飛んでいるのだ。

「嘘っ……なんで」
 死んでなかった?
 いや、指を刺されてからぴくりとも動かなかったのに……そんなはずは……
 混乱しているルイズを尻目にホワイトスネイクが、片手を窓の外に振ると、梟がそれに気付き、窓枠に留まる。
 ホーホー、と良く響く声で一頻り鳴いた後、梟の頭から何かが出てきた。
 ピザをもっと平べったくしたような形をした何かが、からんと音を立てて床に落ち、それにあわせ、梟も先程のようにぴくりとも動かなくなる。
 ゆっくりとした動作で梟から落ちた円形の何かを拾う自分の使い魔に、ルイズは知らず、ジリジリと後退していた。
 それは恐怖か? それとも、驚きからか?
 どちらにしても、今のルイズには関係無い。
 空気を求める金魚のように、彼女はパクパクと口を開けて、ホワイトスネイクを見ることしかできない。
 ホワイトスネイクは、そんな自分の本体に見向きもせずに、手の中で梟から抽出した何かを弄んでいる。
「コレハDISCト呼バレルモノダ」
 感情の色がまったく込められていないはずのホワイトスネイクの声が何処となく得意げに聞こえるのは、その力が彼の存在理由だからだろうか。
「私ノ能力ハ、生物ノ『記憶』ヲDISCトシテ抜キトル事ガ出来ル」
 記憶を抜き取る。
 今、自分の目の前にいる使い魔は確かにそう言った。
「……本当に?」
 そんなことが出来るのか?
 いいや、できるはずが無いと否定の考えが頭に浮かぶが、部屋の床に転がった梟の虚ろな瞳を見て、もしや……と疑問が鎌首を擡げる。
 もし、仮にこの使い魔の言う事が全て真実であるとするならば、自分はなんてものを召喚してしまったのだろうか。
 記憶を抜き取る自分の使い魔の力に、ルイズの身体は震えていた。

 それは、恐るべきものを召喚してしまった恐怖か―――

 それとも、そのような強力な力を持つ者を召喚してしまった喜びか―――

――――――自分の身体だと言うのにルイズ自身、どちらなのか分からなかった。






『風上』のマリコルヌ……全身を乱打され、重症。
クヴァーシル……『記憶』DISCを抜かれ、生きる目的を失い、再起不能


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