ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

サブ・ゼロの使い魔-28

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匿名ユーザー

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ルイズはまた夢の中だった。今回もあの夢だろうかと彼女は身を固くしたが、今日の夢はどうやらそうではないようだった。
周りを見渡すと、どうやら自分は小舟の上にいるようらしい。ああ、とルイズは思う。ここはヴァリエールの屋敷だ。
そしてここは自分が「秘密の場所」と呼んでいた中庭の池――・・・。
魔法が使えないことで幼い頃から周囲に白眼視されていた彼女は、悲しい時悔しい時、いつもこの小舟の上で毛布を被り、ひっそりと泣いていた。
「泣いているのかい?ルイズ」
頭の上から声がかかる。はっとして顔を上げると、大きな羽帽子にマントを被った立派な貴族がルイズを見下ろしていた。
隣の領地を相続している、憧れの子爵だった。幼いルイズはそんな彼にみっともないところを見られて慌てて顔を隠す。
「子爵さま、いらしてたの?」
「今日はきみのお父上に呼ばれたのさ あのお話のことでね」
その言葉にルイズは紅に染まった頬を更に赤くして俯く。
そんな彼女を見て、子爵はあっはっはと頼れる声で笑った。そして彼はおどけた調子でルイズを元気づける。彼女にとっては大切な、懐かしい夢。
その時ざあっと風が吹き、子爵の帽子をさらっていった。
「へ?」
いつの間にか今の自分に戻っていたルイズは、帽子の下に現れた顔を見てぽかんとした。その顔は、どう見ても己の使い魔――ギアッチョのものだった。
「な、何よあんた どうしてここにいるのよ」
ルイズは当惑して叫ぶ。しかしギアッチョは、相変わらず感情の読めない眼でじっとルイズを見ている。
「何か言いなさいよ!ねえったら!」
しかしルイズの言葉などまるで耳に届いていないかのように、ギアッチョは何も言わず何もせず、ただルイズを見つめている。
そしてそのまま、一言も言葉を発さぬままにギアッチョの姿は掻き消え、そして小舟も、池も、世界も、ルイズも消えた。

廊下から聞こえてくる声で、キュルケは眼を覚ました。外は薄暗く、恐らくはまだ教師達も眠っているであろう時間帯だ。
静謐な学び舎に響く二人分の囁き声をキュルケはまだ半分寝ている頭で聞いていたが、それがルイズとギアッチョの声であること、そして会話のところどころに「姫さま」とか「任務」などという単語が混じっていることに気付いて飛び起きた。
物音を立てないように急いで着替えと支度を済ませると、ルイズ達が門へ向かったのを確認してから彼女はタバサの部屋へ飛び込んだ。
「タバサおはよう!寝てる場合じゃないわよ、面白いことが――」
部屋に入るなり早口にまくし立てるキュルケの言葉は、サイレンスの魔法によってあっという間に掻き消える。ドアの開く音で目覚めた瞬間反射的に杖を取って呪文を唱える、タバサの瞠目すべき早業であった。
無声映画のように身振り手振りを続けるキュルケを寝起き直後の胡乱な眼で眺めると、掴んだ杖もそのままにタバサは再びベッドの中に潜り込んだ。
キュルケはしばらくジェスチャーを続けていたが、タバサが完全にシカトする構えだと知ると、ならばとばかりに両手でタバサの肩を掴んで揺さぶる作戦に移行する。
最初のうちは無視を決め込んでいたタバサだが、キュルケが一行に諦めようとしないので仕方なくサイレンスを解除すると、
「・・・何?」
ウインド・ブレイクを唱えたくなる前に話だけは聞くことにした。

そんなわけで、タバサは今いそいそと支度を済ませている。
アンリエッタからの秘密の任務でギアッチョ達がアルビオンへ向かうらしいというのはキュルケ程ではないにしろタバサの興味を引いた。
それにキュルケも言っていたことだがルイズの身が安全であるという保障はない。
ギアッチョがいるのだから大抵のことは大丈夫だろうが、彼の魔法も万能ではないことはフーケ戦で証明済みである。
一瞬の思案の後、タバサはシルフィードによる尾行――キュルケに言わせると護衛――を承諾したのだった。
ちなみに当のキュルケはと言えば、何か野暮用を済ませてくると言ってどこかに行ってしまった。まぁそのうち戻ってくるだろうなどと考えながら、タバサは制服のボタンを留め始める。


キュルケはタバサの部屋に続き、またしても堂々とアンロックの魔法で部屋に侵入する。薔薇や宝石で派手に飾られた部屋――ギーシュの私室だった。
「ギーシュ!起きなさいってば ギーシュ!」
キュルケは周りの部屋に聞こえない程度の声でギーシュを起こそうとするが、幸せそうによだれを垂らしたまま彼は一向に目覚める気配がない。
キュルケは少し苛立ったような表情を見せると、ギーシュの耳元に口を寄せて一言ぼそりと何かを呟いた。
「うわあああああ!!待って、待ってくれたまえ!やってるから!ちゃんとやってるからマンモーニだけは――ぁああ!?」
効果覿面、その一言でギーシュはうわ言と共に跳ね起きた。「何だ夢か」と呟くとギーシュは息を吐きながら辺りを見回し、
「うわぁ!!」
キュルケと眼が合った。
「やれやれ・・・やっと起きたわね」
「キュ、キュルケ!?こんな夜も明けきらない時間に一体何の用・・・ハッ!?
ダ、ダメだキュルケ!僕にはモンモランシーという女性がヘヴンッ!!」
ギーシュが言い終える前に、キュルケのカカト落しがギーシュの脳天に炸裂した。
「寝言は起きる前に言いなさい」

「・・・それで、後をつけるって言うのかい?」
後頭部をさすりながらギーシュが言う。
「失礼ね、護衛と言いなさいよ あなたは行きたがるかと思ったからわざわざ声を掛けてあげたわけ それで?行くの?行かないの?」
腰に手を当ててキュルケは身体を乗り出す。姫さまとか秘密とかヤバいんじゃないのと言ってみるが、キュルケはそれがどうしたという顔でギーシュの返答を待っている。
ギーシュはうーんと唸りながら数秒考えた後に、まあなんとかなるかと実にギーシュらしい結論を下した。


ギアッチョとルイズは馬を駆って学院を出る。正門の先では一人の男が彼らを待ち構えるように待機していた。
「ワルドさま!?」
ルイズが驚きの声を上げると、ワルドと呼ばれた男は人好きのする笑みを浮かべてそれに答えた。
「久しぶりだな!ルイズ!僕のルイズ!」
ワルドはルイズに駆け寄ると、その華奢な身体を抱き上げる。
「お久しぶりでございます」
そう言って恥ずかしげに頬を染めるルイズを見て、ワルドは豪快に笑った。
「まるで羽のようだ! 相変わらず軽いね、君は」
「・・・お恥ずかしいですわ」
睫毛を伏せるルイズを、ワルドは優しげに見つめている。そしてそんなワルドをギアッチョが見つめていた。
「あいつは・・・昨日の護衛じゃあねーか」
ルイズがぼーっと見つめていた男だ。確か魔法衛士隊の隊長だとギーシュが言っていた。
「あのヒゲが従えてるのは、ありゃあグリフォンだね 正真正銘の魔法衛士隊、トリステインじゃあエリート中のエリートだ」
デルフリンガーがそう言って鍔を鳴らす。「妙な偶然もあったもんだな」と呟いてギアッチョは首をすくめた。

ルイズがギアッチョとデルフリンガーを紹介する。ルイズを下ろしたワルドは大げさな身振りで両手を広げると、
「君がルイズの使い魔かい? 人とは思わなかったな」
おどけた調子でそう言った。


「僕の婚約者がお世話になっているよ」
「婚約者ァ?」
彼らの意外な関係に、デルフリンガーが妙な声を上げる。ギアッチョはワルドをジロリと遠慮無しに観察すると、
「どういう縁だ?」
とこれまた遠慮無しに疑問をぶつけた。ワルドは帽子を取って被りなおしてから、「幼馴染さ」と答えた。
「領地が隣同士でね、ヴァリエール家とは昔から懇意にさせていただいているのさ」
その縁で、父親達の間でルイズとワルドの婚姻の約束が交わされているのだとワルドは説明した。
――結婚って・・・いくらなんでも歳が離れすぎてるんじゃあねーのか?
ワルドはどう見て二十代後半だ。対するルイズは、とギアッチョは彼女に視線を移す。
「な、何よ」
いきなり眼を向けられてルイズは心臓が飛び跳ねた。「け、結婚なんて小さい頃の約束で」だの「もう何年も会ってなかったし」だの、ルイズの口からは無意識の内に次から次へと言い訳が飛び出すが、肝心のギアッチョは一切聞いていなかった。
――歳は聞いてなかったが・・・いいとこ十四歳って所だよなァァ
犯罪だろ、とギアッチョは思った。イタリアでは結婚可能な年齢は十八歳からだった。そうでなくても歳が一回り前後は離れていそうな二人である。
もっとも、実際は発育が少々哀れなだけでルイズはもう十六歳を迎えているのだが。


じろじろと自分を見るギアッチョをどう解釈したものか、
「なぁに、任務のことなら心配はいらないさギアッチョ君 こう見えても僕はスクウェアメイジだ 大船に乗った気でいてくれたまえ」
そう言ってワルドは自分の胸を拳で叩いて見せた。
「任務?」
ルイズがきょとんとした顔でワルドを見上げる。
「アンリエッタ姫殿下から直々に拝命したのさ 君達と共にアルビオンへ行かせてもらうよ」
そう言ってワルドはルイズに微笑んだ。
――ま、確かにこんなガキと平民の使い魔を手放しで信用は出来ねーわな
ギアッチョはそう納得して馬に跨る。ワルドはそれを見て、
「さあルイズ、こっちにおいで」
グリフォン隊の象徴であり、彼ら隊士の乗り物でもあるグリフォンを呼び寄せると、それに跨ってルイズを手招きする。
ルイズはちょっと躊躇うようにして俯くと、何故だかギアッチョが気になって横目で彼を見た。ギアッチョはデルフに眼を落として会話をしている。
まるでルイズに全く興味がないと言われているようで、ルイズは軽くショックを覚えながらとぼとぼとワルドの元へ歩き出した。
グリフォンの横まで来るとワルドはひょいとルイズを抱きかかえる。そうして手綱を握り、ギアッチョのほうを見てから杖を掲げて叫んだ。
「さあ諸君!出撃だ!」
その声を合図にグリフォンがばさりと飛び立ち、ギアッチョがそれを追って馬を駆る。
深くけぶる朝もやの中、こうして任務は始まった。

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