ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-16

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匿名ユーザー

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 食堂はすでに閑散としていた。生徒たちの大半は教室を目指し、先ほどまでの喧騒もそれに伴い移動している。
「ご精が出るのう、お嬢さん」
 トンペティに声をかけられたメイドは、
「ありがとうございます」
 微笑み返し、少し頬を赤らめミキタカへも微笑みを投げかけた。ミキタカは静かに笑い返し、メイドの頬が一層濃い朱に染まる。
 掃除中のメイドが離れていくのを目の端で追い、ミキタカは口を開いた。
「どうでした、老師」
「ふむ……」
 手を開き、握り、また開き、握る。掌には幾本もの深い皺が刻まれ、それに倍する古い傷跡が走っていた。
「これは主の求めている答えではないかもしれんがの。ルイズ嬢は……なかなか面白い」
「面白い、とは?」
「うむ。パイプ、いいかね?」
「どうぞ」
 深く吸い、吐く。鼻から、口から。
「ルイズ嬢から感じ取った生命エネルギーは男のものと女のもの、合わせて二種類。といっても一種類」
「それは興味深いですね」
「その通り」
 紫煙をくゆらせ、より深く腰掛けなおした。
「強い絆。絶ち難き縁。恋や愛もあるが、それだけでは無かろう。ルイズ嬢の深い部分に食い込み、二つの生命エネルギーはもはや一つと呼ぶに相応しい。うらやましい話じゃ」
「多重人格のようなものですか?」
「違う。もっと根本の部分でつながっておる。双方がお互いを喜んで受け入れている。そうじゃの……自分の中にもう一人の使い魔がいる、とでも言えばいいか」
「使い魔ですか」

「陳腐な例えを使うとすれば『運命に逆らってでも離れたくなかった恋人たち』じゃな」
「なるほど。ルイズさんの内面にも何かしらの影響がありそうですね……」
 顎に指を当て考える。鼻のピアスと耳のピアスを繋ぐ紐が指をくすぐり、こそばゆい。
「判断材料は増えましたが、これは色々な意味で複雑な問題です」
 言葉とは裏腹に、口調ははずんでいた。トンペティも楽しそうに煙を吐いている。
「この問題は夜にでも考えるとして、今は実際的に動くとしましょう」
「別の男女のためかな?」
「義理が多いというのも大変です。正月に付き合いで子供とババ抜きする大人の気持ちです」
 やはり、言葉と口調は裏腹だ。パイプを離そうとしないトンペティをそのままに、軽い足取りで厨房の入り口に向かった。
 生徒達が食事をとった後でも料理人の仕事は終わらない。次の仕込み、洗い物、皆が皆休む暇なく動き続けていた。
「ちょっといいですか」
 その場にいた全ての人間が手を止め、声の主を確認し、一人の例外もなく笑い、作業に戻った。
 嘲りではない。声の主に対する「こいつは次に何をやってくれるんだ」という期待を覗かせている。
「マルトーさん。下のゴミ置き場に置いてあった大鍋をもらってもいいですか」
「なんだミキタカ、また何か面白いことでもしようってのか」
 コック、メイドといった学院内で働く平民達はミキタカに好感を抱いていた。
 貴族であっても偉ぶらず、他の貴族達を彼一流の諧謔で煙に巻く様は見ていて痛快だ。
 支持者筆頭が押し出しの強いことで知られるコック長のマルトーであり、ミキタカの頼みであれば多少の無理をも通してくれた。
「いいえ。もう少し切実なことですよ」


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