ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

使い魔ファイト-15

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匿名ユーザー

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「おはようございます、グェスさん、ルイズさん」
 ミキタカは、平常通りの、済まし面。字余り。字余りって何だろう。
 ねえ、首輪見えてないの? もうちょっと何か言うことあるんじゃない?
「おはよう、ぺティ、ミキタカ」
「ごきげんいかがー?」
「うむ。おはよーう」
「さあどうぞどうぞ」
 ミキタカに手招きされ、わたし達は彼の隣に腰掛け……ってあれ?
「ねえ、いいの?」
「何がです?」
「椅子よ椅子。人数分しかないはずでしょ」
「マルトーさんに頼んで借りてきたんです。まさか床で食べるわけにもいきませんからね」
 わたしとしては床で食べさせるつもりだったんですが。
「そうよ。ルイチュがあたしを床で食べさせたりするわけないじゃない」
 うっ。
「あたし達友達だもんね、ルイチュ」
 ううっ。
「そ、そうだ。椅子はともかく食事がないでしょう」
「安心してくださいルイズさん。マルトーさんに頼んでグェスさんと老師の分も用意してもらいました」
「あ……そう」
「まさか食べ残しを食べるわけにもいきませんからね」
 わたしとしては、ずばりそのつもりだったんですが。
「そうよ。ルイチュがあたしに残飯くれたりするわけないじゃない」
 うっ。
「あたし達仲良しだもんね、ルイチュ」
 ううっ。
「仲良きことは美しいもんじゃのう」
 ううううっ。

 平民をテーブルにつかせたりすれば、周囲からそれなりの反発があるものと思っていたけど、意外や意外、冷やかされることも怒鳴られることもなかった。
 キュルケの言ってた通り、今年の使い魔召喚はかなりの変り種が呼び出されているみたいね。平民程度でどうこう言うこともないってことか。安堵した反面ちょっと寂しくはあるかな。
 あ、あと下手な言いがかりつけてミキタカに絡みたくないってのもあると思う。絶対。
 グェスはマナーも何も無しにがっついていた。あんたきちんと祈ったの?
「ああ! 早い者勝ちじゃないんだ! 食券もいらない! 七不思議もない! なのにこんな豪華ッ!」
 ……今までどんな食生活だったんだろう。
 ぺティは器用にナイフとフォークを使いわけている。
 わたしは当然貴族的というか貴族そのものの完璧なマナー。
 ミキタカはきちんとしているようでどこか奇妙なミキタカの生き方そのものを象徴してるのよ変人め。
「ルイズさん。そういえばまだ教えてもらっていないことがありましたね」
 ミキタカが声をひそめた。自然、答えるわたしの声も小さくなる。
 食事中でも声が高いマナー知らずどもと彼らの食器がたてる音で、わたし達の声はさらに小さくなった。
「何よ」
「眼鏡の話です」
 ぐっ。鳥の肉が喉に詰まる。
「あなたは何かを見たんですね」
「見た……っていうか。見てないっていうか」
「なるほど。見なかったのですか」
「あったような、なかったような」
「見なかったんですか……」
 勝手に結論づけて納得された。納得してくれるならいいんだけど、それはそれで腹立つのよね。
「ねえルイズさん」
「何よ」
 今度は何だ。わたしまだつっこまれるようなことしてたっけ。

「図書室でグェスさんと老師のルーンを調べてみたんですが」
「なんでそんなことしたのよ」
「そうよそうよ」
「グェス、口に物入れて喋るのはやめなさい。こっちまで飛んでくるじゃないの」
「ちぇー」
 体を傾けてミキタカに向き直った。
 その話、わたしも気になるわね。ちょっと無理なサモンしちゃったし。おかしなことになってたら困る。
「で、どうだったの。グェスとぺティのルーンが何かおかしかった?」
「いいえ、何も。何の変哲もないまともなルーンでした」
 わたしは無い胸を撫で下ろしたけど、なぜかミキタカは不満そう。
「私の予想とは違ってきているんです。老師もそうですが、グェスさんの方は特に」
「人生予想通りにいかないことの方が多いものなの。あなたみたいな坊ちゃんには分からないでしょうけどね」
「私の予想では……」
 ミキタカの顔はどこまでも深刻そうだけど、こいつがこういう顔する時って……。
「グェスさんには伝説の使い魔ガンダールヴのルーンが刻まれるはずでした」
 出た、伝説。出たよ伝説。もういい加減現実を見つめなさいよ。
「なぜなら……私の観察によれば、ルイズさんは虚無の使い手なんです」
 ぷ……ぷ……ぷ……ぷふーっ! こいついい年して虚無とか言ってるよ!
 まともに存在確認されてないから伝説だっていうのにね。マジうけるんですけどー。
「ルイチュ、汚い」
「うるさいわね。吹くようなこと言うミキタカが悪いのよ。使い魔なら黙って拭きなさい」

「ルイズさん、私は真面目に言っているんです」
 はいはい、あんたの真面目はよく知っていますよ。
 これが始まると長いのよね。付き合うのも馬鹿らしいし、適当に聞き流しておこう。
 わたしの意識は食事が四割、汚く食べこぼすグェスが一割、忙しげに立ち働くシエスタの隠れ巨乳が三割、隠れってとこがポイントよね、わざわざわたしがチェック入れてるだけのことあるわ、残りがミキタカ。
「一年に渡って、この学院で共に過ごしてきました」
 まともに会話したのごく最近じゃない。
「あなたは魔法を失敗する。成功率皆無。だからこそゼロのルイズ」
 むっ。何よ、喧嘩売ろうってわけ?
「へえ、ルイチュがゼロってそういうわけなの」
 あんたは黙ってなさいよ。
「その失敗は本当に失敗なのでしょうか。爆発が起きているのではなく起こしているのでは?」
 わたしの胸が無いのではなく他の子が大きすぎるのでは? ってほっときなさいよ。
「眼鏡の件で疑念は確信に変わりました。遠くの物が見える、小さな物が大きく見えるといったことは他の人でもあるでしょう。眼鏡ですからね。でもあなたは『見なかった』」
 バ、バレてないよね。わたしが同級生のオールヌード堪能してたってバレてないよね。
 バレてたらどうしよう。こいつ口止めできるかな。わたしの知る中で誰よりも口が軽いような気がするんだけど。
「杖の時もそうです。使い慣れない杖を振るい、二倍の魔力で二人の使い魔なんてことが都合よくいく可能性はごく低い。系統魔法の常識でいえば」
 何か握らせるべきかな。お金? でもこいつ金の練成とかできるのよね。
「私の力はルイズさんが絡むとおかしな働きを見せる。眼鏡をかけ、『無くなって』見えた」
 肉体とか要求されたらどうしよう。それで応じれば本末転倒じゃない。

「そしてルイズさん。あなたは胸が『無』い」
 難しいわね。
「老師はすでに高齢です。つまり先が『無』い」
 どうしよう。
「グェスさんはやる気が『無』い」
「あんた本人目の前にしてえらく毒吐くね……」
「わしらは並より長生きできるんじゃがの」
 困ったな。
「つまり全てがルイズさんの虚無を証明しているんですよ」
 いやいやしてないしてない。ところで何の話?
「ですがここで一つ問題がハッセイしました。グェスさんのルーンは左手にある。ガンダールヴではない、普通のルーンです」
 まだその話してたのか。
「ミキタカ、普通で何が悪いの。普通でいいじゃない。あなたみたいな天才には普通並のことができるありがたみが分からないのかしら」
 食事を終え、口を拭き、感謝を祈り、そして立ち上がろうとしたところで手が差し伸べられた。
 見上げれば、そこにはニコニコと笑うぺティがいる。何こいつら。主人も使い魔もわけ分かんない。
 引き倒す勢いでその手をとったけど、ごく普通に立ち上がっちゃってびくともしない。修行者の肩書きは伊達じゃないってことね。
「ほら、いくわよグェス。はぐれないように鎖持ちなさい」
「はいはい」
「あなたも遅れないようにねミキタカ。授業くらいは真面目に受けなきゃダメよ」
「はい」

 はい、だなんて殊勝なこと言ってるけど、どうせ遅刻ぎりぎりで教室入ってくるのよね。ワンパターンなのよ。
「天才は普通のありがたみ知らないだなんて……ルイチュいっやみー」
「いいの。あれくらい言わなきゃ通じないんだから」
 振り返ると、ミキタカとぺティが何やら話をしているみたい。師匠と弟子みたいな感じ。
 しっかし使い魔が師匠ってどうかと思うわよ。なんか老師とか言ってるし。そういうのは思うだけにしとかなきゃ。
 髪の薄いあんたの先生が泣いてるよ。いや、ぺティも髪無いけどさ。
 わたしみたいに使い魔を付き従えて、肩で風切って歩くくらいしなきゃダメよね。
 首輪の効果はまだ消えないみたいで、他の学年の生徒までわたしを見てる。いい気分。


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