ゼロの奇妙な使い魔 まとめ

第十二話 『帽子旋風』

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第十二話 『帽子旋風』

事件は昼時のシエスタの一言から始まった。
「ウェザーさんって帽子をお脱ぎにならないんですか?」
厨房にいるウェザーに会いに来たキュルケとそれを止めに来たルイズと流れで連れてこられたタバサはたまたまそれを聞いてしまった。
イタリアのとある医者はこう言った。
『好奇心が強いから人間は進化した』
その言葉が示す通り、彼女たちの好奇心が鎌首をもたげた瞬間であった。
「確かにウェザーが帽子を外したところを見たことないわね」
「フーケに泥々にされても洗って舞踏会に被ってきてたわよ」
「頭に秘密が?」
額をくっ付けひそひそ話をする辺り年相応の仲の良い女友達と言った感じだ。
「まさか・・・禿げてるとか?」
「やめてよねルイズ!あるわけないじゃない!」
「だけれど不自然。あれだけ激しく動いても外れなかった」
「確かに、ただの帽子ならとっくに外れてるわよね。そうだルイズ、あなた彼が寝てるとき外してなかったの?」
「え?でもウェザーっていつもわたしより寝るの遅いし、朝起こしてもらうときにはもう被ってるのよね」
う~ん、と唸る三人。好奇心がさらに刺激される。


一方厨房でも好奇心を刺激されている人間がいた。
「いつも同じ帽子を被っていらっしゃるので・・・」
「そうだな」
「何か理由でも?」
「いや、特にないな」
本当にどうでもよさそうに言うのでシエスタは外してくれるよう頼んでみようかと思ったが、
「それは無理だ」
とピシャリと言われてしまった。
「あの、やっぱり何か大切な物なんですか?」
「いや、全然。ただ今まで一度も帽子の中を見せたことがないから、何となく見せたくないだけだ」
特に理由がないと知ったシエスタは、何とかして見たいと思考を巡らし一つの奸計を思い付いた。
「あ、ウェザーさんおかわりいりませんか?」
「ん?いや俺はもう・・・」
「おかわりいりますよね?」
「もう二杯も食べ・・・」
「くすん・・・食べて・・・くれないんですか?」
泣き落としである。
「いやお前たかが料理で泣くことは・・・」
「私が作ったんです・・・ヒック・・・ウェザーさんのために」
そこまで言われては断れない。ウェザーはとうとう観念した。
「じゃ・・・スープおかわり」
「はーい!」
涙はどこへ飛んだのか満面の笑みでおかわりをよそってウェザーのもとへ運ぶ。
「はい、特製スープですよ~・・・そおい!」
が、目の前で華麗に躓いてみせ、ウェザーの頭にスープを叩き込んだのだった。ウェザーは咄嗟にシエスタを支えたが、スープを皿ごと頭で食べるはめになった。
「あー本当にすいません。すぐに乾かしますから・・・あれ?」
しかしシエスタがウェザーの服をさわると全く濡れていないのだ。
「次からは気を付けるんだぜシエスタ」
ウェザーは皿だけ渡すと呆気にとられるシエスタを残して厨房をあとにした。
「『ウェザー・リポート』雲に吸いとらせた」

食事をすませたウェザーは中庭の木にもたれて『お天気おじさん』を読み進む。ルイズやタバサの協力もありこれ一冊ならぎこちないながらも何とか読めるに至ったのだ。
「やあウェザー」
「ギーシュか」
決闘のせいかややぎこちなかった二人もフーケの事件以来はわだかまりなく話すようになったのだ。
「まだその本を読んでいるんだね」
「まあな。この一冊くらいは楽に読めるようになりたいしな」
元の世界に帰る必要はなくなったものの、字が読めないぶんにはできることが少なすぎるので勉強は続けている。
「どんな話しなんだい?」
「何かおじさんが世界を回って日照りや冷害地に雨を呼んだり晴れにしたりする話しだ」
「あれ?読んだことあるかな?」
「お前は何やってるんだ?あの巻き毛の彼女はどうした?」
「モンモラシーならまだ食堂じゃないかな。僕は、その、非常に言いにくいんだが・・・」
ギーシュは口ごもりながら杖を取り出すといきなり『練金』を唱えたのだ。手だけのワルキューレがウェザーを地面に固定する。
「何のマネだギーシュ?」
ジロリと睨むと本当に申し訳なさそうにな顔をしている。
「すまないウェザー・・・僕だってやりたくはないんだが・・・キュルケに脅されてね。僕から言えるのは一言だけさ」
その時ウェザーがもたれている木からガサガサと音がした。
「危なァーーい!上から襲ってくるッ!」
意外!それはフレイムッ!
防御が間に合わないウェザーの頭にフレイムがのしかかろうとするが空中で弾んでしまい横に落ちた。
「今のはフーケの時のエアバッグ!」
それには答えずにワルキューレを腐食させて枷を外すと中庭の茂みに向かって、雨を蛇のように伸ばして飛ばすと、
「あいたッ!」
と茂みから声が漏れた。
「あんなデカイトカゲが落ちてきたら首が折れるぞ。俺を殺す気かキュルケ?」
キュルケがおでこを押さえながら茂みから出てくる。
「あーあ、バレちゃった。だって帽子を取ったダーリンも見たかったんだもの」
「ならもうちょっと策を練るんだったな」
ウェザーは本を持って立ち上がると角でギーシュを小突いてから中庭を立ち去った。


ウェザーは久々に授業に出た放課後にタバサに呼び止められた。
「・・・何だ?本ならちゃんと手で読んでいる」
するとタバサは小さく頭を振り『お天気おじさん』を指差した。
「返却期限」
「・・・そうか、それは忘れてたな」
「まとめて返しておく」
「重いだろ?俺が持ってってやるよ。新しいのも借りたいからな」
タバサは返事をするでもなく歩き出した。
ウェザーは図書館につくとタバサが本を返しているあいだに本棚を物色する。
タバサはシエスタとキュルケの失敗を踏まえた上である作戦を考えた。彼女たちの失敗は帽子を直接とろうとしたこと。
ならば帽子を脱がざるをえない状況にすればいいのだ。
まずはウェザーに適当な本を選び一緒の机に座る。キュルケと話をつけてフレイムを近くにしのばせてあるので、室温をどんどん上げて図書館を真夏に変える。
そうなれば必ず帽子を取る。名付けて『ヒート・ライブラリー作戦(帽子を奪え!)』。
ちなみにシルフィードに話したら「素直に『北風と太陽作戦』って言えばいいのに」とダメだししてきたので反省のため『はしばみ草部屋』に叩き込んでおいた。
この作戦が終わる頃には従順になっているだろう。
自分の作戦に内心ほくそ笑みながらタバサは本を読み始めた。しばらくすると室温が三十度を超える。
「熱くない?」
「そうか?」
どうやらこの程度ではまだまだらしい。フレイムに合図を送りさらに室温を上げさせる。
「・・・熱くない?」
「は?いや全然」
「本当に?」
「ああ」
確かに本当なのだろう。タバサの顔は上気して汗だくなのに対してウェザーは涼しい顔で汗一つかいていなかった。室温は四十度に届いている。
しかし室温を上げ始めてから三十分が経った頃とうとうタバサがダウンした。いきなり突っ伏したタバサをウェザーは慌てて担ぎ上げて保健室まで運んだ。
「・・・完敗」
赤くなった顔にはなぜか清々しい笑みがあった。
タバサの敗因はウェザーの能力を知らなすぎたことだろう。ウェザーは自身の周りの空気の温度湿度をベストの状態に保つことで快適に本を読んでいたのだ。
言うなれば『人間エアコン』である。


ウェザーがタバサを運んでいる時、ルイズは自室で考えていた。シエスタとキュルケとタバサの作戦の失敗を見て知っているルイズは考える。
(三人の失敗は他力本願なところ。やはり最後にものを言うのは自分の力よね)
しかしルイズが作戦を練っている途中でウェザーが帰ってきてしまったのだ。徐々に開いていく扉。
「今日は災難だったな・・・」
(マズイ!まだ作戦が固まってないのに!や、やるしか・・・当たって『砕けろ』よルイズ!)
ルイズは椅子の上にかけ上がるとウェザーに向かい飛んだ。
「かかったなアホが!稲妻十字空烈刃!」
「何ィッ!」
ルイズが腕を交差してウェザーに体当たりを敢行するがウェザーもさるもの、咄嗟にルイズの足を払いかわす。それによってルイズは顔面から床に墜落したが。
「大丈夫か?」
ウェザーはしまったと思いながらルイズを助け起こそうとした。するとルイズが片方の鼻の穴を塞ぎ、フンッと鼻に息を通し鼻血を飛ばしたのだ。
「ぬうぅッ!」
「ふふふ・・・鼻血入りの目潰しは痛かろう・・・そしてどうだ!この鼻血の目潰しはッ!勝ったッ!死ねいッ!」
目が見えないウェザーに冷酷なるルイズの蹴りが飛ぶ!
しかしルイズの蹴りはウェザーの帽子を蹴り飛ばす直前で止まった。いや、止められた!
「バカなッ!貴様は目が見えぬはずッ!」
「忘れたのか?俺の能力を。お前程度なら空気の乱れで動きは読める!」
ウェザーの拳がルイズの鳩尾に決まった。
「ば・・・ばかなッ!こ・・・このルイズが・・・!このルイズがァァァァァァ~ッ!」
「てめーの敗因は・・・たったひとつだぜ・・・ルイズ・・・たったひとつのシンプルな答えだ・・・『てめーは我を忘れすぎた』」
「きゅう」
実際には触れる程度の拳なのだが何かがとり憑いたルイズはそのまま床に倒れてしまった。
何だかどこにいても身の危険に晒されそうな気がしたウェザーは、ルイズをベッドに寝かせると外へ出た。


ウェザーは人気のない場所を選び、はずれにある建物の裏手に回った。
その時ウェザーの背後の土がゆっくりと人形に盛り上がっていき、完成したと同時にウェザーに襲いかかった。
「接近には気付いていたぞ!」
ウェザーも振り返りざまに『ウェザー・リポート』の風圧のパンチを土人形に叩き込む。
しかし一撃で呆気なく崩れた土人形の陰から人影がおどりだし、ウェザーのパンチを上方に飛び上がりかわして建物の屋根に着地した。
「お前は・・・フーケかッ!」
ウェザーが見上げた屋根には縁に腰かける『土くれ』のフーケの姿があった。しかもその手にはウェザーの帽子があり、くるくると回して遊んでいる。
「・・・やるじゃあないか」
「盗賊の面目躍如ってところかしら」
そう言うとフーケはウェザーの帽子を被って見せる。
「あら、温かいわねこれ」
「驚いたな・・・今朝衛士に連れていかれたと聞いたが」
「ああ、衛士っつったって所詮男ね。連れてかれる途中で『あ~ん衛士さん、太ももの裏が痒いの~お願い、か・い・て』ってなもんよ。したらあいつら鼻の下伸ばして鍵を開けて入ってきたから股間に膝を埋め込んでやったわ」
得意気にはしゃぐフーケだった。
「で、ここに何の用だ?次見つかったらさすがに逃げれんぞ」
「なんだいつれないねえ・・・言ったじゃない、『脱獄したらいの一番にあんたのところに行って一泡吹かせてやるからね』って。まあ忘れ物とか取りに来たのもあるけど」
フーケが脇に置いた袋から錆びた刀の柄が見えた。
「これからどうするんだ?」
「さすがにほとぼりが冷めるまでは大人しくしてるわ」
「そうか。わかったから帽子を返せ」
「別になくたって格好いいわよ。もちろんあたしに泥だらけにされた時が一番男前だったけどね」
嫌味タップリにそう言うって帽子を投げて寄越す。
「じゃあね。もう会わないことを祈るわ」
「それがいい」
ウェザーが帽子を被り直している間にフーケはどこかへ去ってしまった。
ウェザーが部屋に戻るとルイズは起きていたが数十分記憶がないらしいので適当に言っておいた。


夜の帳が完全に降りた頃、フーケは一人町の裏路地にいた。
「送金は済ませたし、しばらくはトリステインから離れて情報収集に努めるかな」
あの錆びた剣はインテリジェンスソードだったので売ろうとしたが「出番をください姐さんッ!」と五月蝿くて売る店売る店で買い取り拒否されたのでお金と一緒に送っておいた。暇潰しにでもなるだろう。
町を出ようと歩き出したとき、いきなり目の前に白い仮面が現れた。長身に黒いマントをまとった怪しげな人物だ。
フーケは咄嗟に杖を引き抜いて魔法で攻撃しようとしたが、それよりも早く白仮面が魔法を唱える。
強烈な風により杖を弾かれてしまったフーケは手を押さえながら白仮面を睨むしかなかった。
「いきなり杖を抜くとは物騒だな、『土くれ』のフーケ」
白い仮面の向こうから年若く力強い男の声が聞こえた。
「常識のある人間は目の前に仮面被った変態野郎がいきなり現れたら普通攻撃するわよ」
フーケは精一杯虚勢をはった。正直言えば今の一瞬の攻防で相手の実力は見えていた。
(恐らくは『風』の『スクウェア』クラス。しかもかなりの手練れ!)
体術には自信があるが『スクウェア』相手では意味がないだろう。しかもフーケの正体を知っているということは、魔法衛士隊か貴族の刺客だろうと推察できた。
一人のところを見ると後者だろう。
悪事に手を染めた時から命を失う覚悟をしてきたが、みすみす殺されてやるつもりはなかった。しかし――
「そう怯えることもあるまい。なあ、マチルダ・オブ・サウスゴータ」
瞬間フーケが男に飛びかかった。杖も持たず、生身で、しかも何の考えもなしに。
数多の貴族を翻弄し、冷静に分析し大胆かつ繊細に盗むのを信条としたフーケが、鬼のごとき気迫で白仮面を殺すためだけに躍り懸かったのだ。
彼女がそうなるほどに、その名前は禁忌だった。
常人ならば気迫と速度に気圧されるだろうが白仮面はまるでそうなるのを予想していたかの様に迎え撃った。
呪文を唱えて杖を振るうと、杖の先から空気のハンマーが飛び出し、フーケを壁に叩きつけた。
「やれやれ、穏便にすませたかったがしかたない」
頭を打ったのかぐったりとしたフーケを担ぎ上げて白仮面は笑う。
「我が『世界』の礎となれることを光栄に思いたまえ。マチルダ・オブ・サウスゴータ・・・いや、『土くれ』のフーケ」

アルビオンから強い風が吹き始めた。さらに大きな嵐がやってこようとしているかのように・・・

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