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秋森良樹編 第四話『ずっとそばにいてくれたキミ』(4)

「ねぇ良樹……ぶつかった所、大丈夫?」
 下駄箱に向かう道すがら、美久が心配そうな視線を向けてくる。
「……あー、問題ねーよ」
 なにをいまさら、と俺はぶっきらぼうに返す。痛みでうずくまっていた俺を、
無理矢理引き起こして首までしめたのは誰だっつーの。
「つっ……」
 痛みに顔をしかめる。美久が野球ボールに激突した場所に手を伸ばしていた。
「あ、ごめん……」
「ごめん、じゃないだろ。触るんなら先にそう言えよ」
 ぽっこりと膨れたコブをさすりながらにらむ。美久は眉を下げて、
ひどく悲しそうな顔になった。
「そ……だよね。ごめん……」
 行き場に困っていた手を下ろし、美久は足を止めてうつむいてしまう。
たったこれだけのやり取りしかしてないのに、信じられないくらいの落ち込みようだ。
「美久? なんか変だぞ、お前」
 振り返り、うつむいたその顔を覗き込むようにする。
 「人が心配してあげてるのになによっ」といった反応を予想していた俺としては、
かなり戸惑う。
 痛みと発散できずに滾ったままの欲望のせいで、言い方がキツくなり過ぎたかとも思ったが、
そもそも、美久はその程度で落ち込むような柔な精神構造はしていない。この程度の事なら、
即座に言い返してくる奴なんだから。
「んー……なんでもない。ちょっと自己嫌悪してただけだから」
 そう言って、眉根をかすかに寄せたまま美久は笑う。俺は目を見張った。
いつもふわふわぽえぽえ、悩みなんかまるでないと言いたげな幸せそうな笑顔を見せる美久には、
もっとも縁遠い言葉だと思えたからだ。



「自己嫌悪って……」
「ほら、そんな事より! 急がないと遅刻になっちゃうよ!!」
 そう言うと、俺の手をつかんで早足に歩き出す。さすが(元)陸上部と言うべきか、
俺程度に小柄な体しているくせに引っ張る力がすごい。やはり布地を程よく押し上げて
ミニスカート栄えする、発育した尻に秘密があるのだろうと軽くたたらを踏みながら思う。
 美久の誤魔化している態度は気になるが、無理に聞き出そうとすれば痛い目に合うのは俺だ。
下手を打てばせっかく美久が持ってきた弁当が他の奴に渡るか、さもなくば見えないところに
大量にタバスコなりワサビなりカラシなりを仕込みかねん。今は持っていなくとも、
食にこだわる美久なら昼までには確実に用意できる。
 昔、悪戯の報復に食わされた『普通のコロッケに見せかけた、ゴーヤとワサビのすりつぶし餡
鷹の爪・唐辛子和え』という凶悪なブツを思い出し、口の中が苦酸っぱ辛くなる。

 しかめた視線の先で上履きに履き替えた同級生が振り返るのが見えた。
「ようっ、そこの小学生カップル! 夕べはがんばりすぎて夫婦仲良く遅刻寸前か?」
 ニシシ、と繋いた手を見ながら下品な笑いを浮かべる亮輔。
「……」
 くるりと振り返った美久にアイコンタクト。俺が頷くと同時に
二人で笑いを止めないバカに向かって駆け出す。
「そういう……」
 スプリンターの足を生かし、美久が素早く亮輔の背後に回りこむ。
「……い?」
「言い方を……」
 突然の事に歯を見せたまま振り向く亮輔の正面から、まっすぐ伸ばした腕を背後に引き絞る。
「「するなぁっ!!」」
 綺麗に上がった美久のハイキックと、俺のラリアットが亮輔の首をはさんで交差する!
「く゜き゜ょっ!??」
 文字にもならない悲鳴をあげて、クロス・コンビネーションの餌食となった大馬鹿者は
白目をむいて崩れ落ちた。



「……まったく、だぁれが小学生だっつーの」
 ぴくぴくと震える亮輔を見下ろしながら靴を履き替える。本当にこいつは、
毎度のように俺たちをからかっては撃沈されるというのに学習しない。長久や時人とやった
中学卒業打ち上げの時だって、階段上からのダブルライダーキックを受けて伸びてたってのに。
「ほんと、失礼しちゃうよ。いくら背が小さいからって」
 美久も多分に呆れを含んだ表情で亮輔を見ている。怒りが冷めやらないのか、
急に動いたためなのか、うっすら顔が赤い。……けど、妙に明るい感じがするのは気のせいか?
 それにしても、亮輔の脇から見えたんだが……
「なに? 良樹」
「いや、なんでも」
 パンティの股布って、結構のびるのな。あんな細い布地がパイパンの丘の下を
ぴったり覆い隠して、少しも中を覗かせやしない。……ヤベ、中身思い出したら
ちょっと勃っちまった。

「じゃあ、わたし、職員室に寄らなきゃいけないから」
 失神している亮輔を無人の保健室に放りこむと、いつのまにか機嫌が直っている美久と
分かれる。鼻歌が出ているあたり、かなり上機嫌だ。
「わかんねーなぁ……」
 ついさっきまでの様子を思い返しながら、ふりふりと動きに合わせて大きくゆれるスカートを
見送る。途中で知り合いらしき女子に会って普通に挨拶をすると、曲がり角に消えていった。
「……『あらかじめ日記』、機能してないのか?」
 眉を寄せて周りを見る。もうすぐ予鈴が鳴るせいか、早足で教室に向かう生徒達が
多く目に付くが、廊下で立ち話している生徒もちらほらと見える。が、その全てが
どこの学校でもある、ごく当たり前の光景なのだ。
 『男の目を気にせず女子の間でスカートめくりが大流行』って書いたのだけど、
『日記』の機能じゃ無理なのか? この程度の事でダメだとすると、それ以降に書いた
イロイロな事は全部無効になるだろう。『日記』に書いた中では、
これが一番エロさが低く、無理が少ないからな。
「……ひょっとして、『日記』も故障か?」
 停止している腕時計を見て舌打ちする。



 秘密道具と言う奴は、結構肝心なところで故障したりバッテリーが切れたりする。
それを回避するために作業ロボットたちにメンテさせていたんだが……。
 学生服からもしもの時の予備として入れておいた『タンマウォッチ』で時間を止めると、
向かった地下室で『あらかじめ日記』に故障チェッカを当てる。
「どういう事だ?」
 結果は正常動作中。故障チェッカを改造して詳細を見られるようにした所、
書き込んだ内容に無理はなく、全て実行可能とあった。
「じゃ、なんで書き込んだ通りになってないんだ……」
 バリバリと頭をかく。ひょっとしたら『あらかじめ日記』は『チョージャワラシベ』みたいに
実行までに時間がかかるのかも知れないが……俺は内容の頭に『今日学校に行ったら』と
時間を指定したんだがな。
 考えても理由がわからないので、とりあえず保留する。少なくとも『日記』の内容は
実現可能という事が分かったんだから、少し待ってみてダメならその時だ。
……ヲの字の時人なら、即座に答えてくれそうな気もするが。
「マスター」
「ん?」
 振り向くと胸に『1』と書かれた作業ロボットが立っていた。下へと促すそいつについて
第二の『ポップ地下室』に入ると、『フエール銀行』の横に貨幣が山積みになっていた。
「なんだ、こりゃ?」
 調べてみると、ドル札を始めとする外貨だった。フランやマルク、
それ以外に俺も知らない名前の硬貨や紙幣もある。『カネバチ』たちが
日本円と一緒に拾ってきたのだろう。案外、日本には外国のお金も落ちている物だと感心する。
「で、なんでこれが入金されてないんだ?」
「ワカリマセン」
 尋ねると作業ロボットはそっけなく答える。俺は、なんでそれぞれの秘密道具に
取り扱い説明書がついてないのか疑問に思いながら、『宇宙完全大百科端末機』から
原因を調べる。その間に壊れた『タイムウォッチ』の修理をするようロボットに命令した。
「……日本円専用か」
 表示された結果にため息をつく。扱える貨幣は『フエール銀行』の正面に張り付いている、
国旗のエンブレムの物のみに限定されるらしい。


「なくてもそんなに困らないんだろうが……」
 拾う頻度は少ないのだろうが、無造作に置かれている外貨はやはり気にかかる。
せっかくだからと作業ロボットたちに外貨も使えるように改造を指示すると、
先日クラスメートから巻き上げた下着の山に寝転がった。『タイムウォッチ』は
構造が複雑化した分、修理には時間が掛かる。その間に、発散できなかった欲望を
処理しておこう……。

 肉棒からしたたる、たっぷりと吐き出した精液の残滓を手ごろな下着でぬぐい、
汚れ物を『ないしょごみすてホール』に捨てる。人肌に温まった『ルームスイマー』の、
ゴムのような溶液を流し込んで張りを持たせ、擬似的な乳房の枕とした、
返し損ねの桜塚先輩の爆乳ブラから顔を持ち上げると、作業ロボットが修理を終えた
『タイムウォッチ』を持ってきた。
「ん、ご苦労さん」
 修理品を受け取って、純白ブラと『ルームスイマー』をポケットに片付ける。
射精後の疲労感からもう少し休んでいようかと考えていたら、そのロボットがとんでもない事を
伝えてきた。
「マスター、『たんまうぉっち』ガコワレタヨウデス」
「なに!?」
 慌ててポケットから『タンマウォッチ』を取り出す。外見上壊れた様子は見当たらないが、
別のロボットが持ってきた『タイムテレビ』には、時間の流れている外の世界が映っていた。
「ついさっきまでは使えてたんだろ?」
 壊れやすいのは『タケコプター』だけじゃないのかよ、と舌打ちをして時間を止めなおす。
やはり、未来じゃ子供の小遣いで買えるような道具だ、使用中に唐突に壊れる。
 ……だからか? 『フエルミラー』でコピーした、同一品を合成した『タイムウォッチ』が
この前と今朝と、不具合を起こしたのは。……いや、この前はただのバッテリー切れか。
「いったい、いつから動いてたんだ……?」
「オヨソ4プン37ビョウマエカラデス」
 独り言のような呟きに答えが返ってきて、俺は胸をなでおろした。その程度の時間なら
予鈴は鳴っても、本鈴は鳴っていないから遅刻にならなくて済む。
俺は壊れた『タイムウォッチ』を投げ渡すと、修理と部品の強化を命令して地下室を出た。