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秋森良樹編 第三話『美人教師の秘密』(8)


 うっすらと夕焼けに染まり始めた教室は静かなものだった。学校の中でも通常、
ほとんど人気の無い特殊教室を納めた校舎棟だからそれも当然の事だ。
 遠くから新入生を部活に勧誘する元気のいい声が聞こえてくる。小さいはずの
その声は、教室に降りている、奇妙な静けさを際立たせているようだった。
 教室――正確には生徒会準備室――で動いているのは真里菜先生と、その手伝いを
言い渡されていた俺の二人だけ。がさごそとダンボールの中身を整理している音以外、
二人の間に流れる物は無い。
 時折、
「良樹くん、棚の箱を調べてくれない?」
 とか、
「これ整理し終わったから、ロッカーにお願い」
 という先生の指示が出るくらいだ。俺はそれに最低限の返事だけして従う。6時間目からずっと、
これ以外の会話はしていない。先生は不機嫌そうに見える俺を少し扱いかねている様子で、
いつものようにあれこれと話し掛けてくる事はしなかった。二人とも、黙々と作業に集中する。
 予定の作業が三割ほど片付いた頃には、上級生の勧誘の声がほとんど消えて、
教室に差し込む夕日がその濃さを増していた。
「……一つ、訊いても良いですか?」
 俺は先生が立ち上がり教室の奥に行くのを見計らって、話し掛けた。
「え……う、うん。なに?」
 先生は黙りこくっていた俺が急に話し掛けた事に少し驚いたようだったが、
すぐに嬉しそうに顔をほころばせた。普段なら誰しも見惚れるような楽しげな表情。けれど、
俺はなんの感慨も抱かずに先生に近づく。
「なんで、ロープで縛ってるんですか?」
「……ロープ?」
 先生は周りを見回した後、訳がわからない、といった風情で訊き返してきた。

「……俺、見ちゃったんですよ」
 にじり寄るように先生に向かう。先生は俺の雰囲気が違うのに気付いたのか、戸惑うように
手を所在無げにさまよわせた。
 俺の脳裏には先ほどの――荒縄で縛られ、しっとりと濡れた彼女の股間が思い浮かぶ。
「今日、下着つけてないっスよね?」
 ハッ、と息を呑む声が聞こえ、先生は祈るように組まれた両手で口元を隠した。聡明な彼女の事、
俺の言いたい事に気付いたに違いない。そして俺が何をしようとしているのかも。
「ど、どうして……」
 うろたえ、一歩下がるが、すぐに壁にぶつかってしまう。先生は恐怖3割、不信1割、
希望6割の視線を俺に向けている。
 ……ダメですよ、先生。そんな嗜虐心をくすぐる目をしたら。
「偶然ですよ」
 ゆっくりと間合いを詰める。距離を縮める毎に先生は体を壁に押し付けて縮こまるようにする。
「や……やめて……ね?」
 それでも俺から目をそらさずに、震える声を最大限優しくして俺を諭そうとする。
 やめて……だと?
「ふん……」
 俺は鼻で笑うと先生との距離を一気に詰めて、スカートをめくりあげた。
「やぁっ……!」
 先生はすごい勢いでスカートを押さえ込むが、それより一瞬早く俺の手が先生の下半身を包む
荒縄にかかった。手の甲をくすぐる何かを感じながら、逆手に持ったそれを引っ張りあげる。
「あうっ……!」
 先生は小さな悲鳴をあげた。俺は恐怖から色を失ってわなわなと震える顔を覗き込んだ。
「気持ち良かったか?」
「え……」
「下着の代わりにこんなのをつけて、気持ちよかったかって聞いてるんだ!」
「や、やめてぇぇ……」
 ぎりり、と縄を絞る。先生は――真里菜はか細い悲鳴を上げた。目には涙が浮いている。
 それを見て、俺の中でドス黒い凶悪な何かが動き出した。

「気持ちよくないはずがないか。そうでなけりゃ、股のところが変色するほど
濡れやしないだろうしな」
 自分でも驚くほど荒々しく、軽蔑しきった声が出た。真里菜はビクリと震えると、
いやいやをするように首を振る。
「淫乱なんだな。いままでも授業中、俺たちの視線を受けて濡らしてたんじゃないのか?」
 いつも人好きのする笑顔で俺たちを魅了してきた先生。その屈託の無い綺麗な笑顔に
俺は憧れていた。
「今日はそれでも足りなくて、服まで変えて自分で縛ってきたんだな?」
「……ち……がう……」
 俺たちをいとおしそうに見つめる先生の瞳。なんだかくすぐったくて、でも悪い気はしなくて、
照れながらもその瞳の問いかけに答えたいと思ってきた。
「違うもんか。いつも俺たちを舐めるような視線で見ていたくせに……欲情してたんだろ?」
「……ちがう……の」
 昼休み。深い悲しみと喜びと、その両方を一緒に見て、決して先生は憧れるだけの人形ではなく、
血肉の通った人間だったと知った。姉弟の契りを結べた時には、とても嬉しかった。
「……それとも男か? 誰かに調教されてるんだな? 先生を奴隷にできる幸せな男は
どんな奴なんだ?」
 「大切な人にだけ……」そう言って俺が弁当を摘むのを拒んだ先生。抱きしめられた時に感じた
柔らかさと暖かさと甘い匂い……それらを自由に手に入れる事が出来る男がいる。
 奉仕させ、唇を吸い、柔肉をむさぼり、先生を好きに蹂躙出来る奴がいる……。
「……ちがう……違う……」
 そう思った途端、急激に胸が苦しくなり、吐き出しそうになるほど荒れ狂う嫉妬の感情を
歯軋りをしながらうつむき、懸命に堪える。
 渡さねぇ……真里菜は俺のモンだ。他の誰にも渡すわけにはいかねぇ……誰かの物なら、
無理矢理にでも奪ってやる!!
 俺は覚悟を決めて、うわ言のように「ちがうちがう」とつぶやく真里菜を再び見つめた。
「……あ……」
 しかし、俺の決意は彼女の星を散りばめたような目を見た瞬間に瓦解した。

「違う……違うのよぉ……」
 ころころ……ころころと……。
 彼女は玉のような涙を流して、切なげに泣いていた。
 頭が急速に冷やされ、荒縄にかかっていた手を離す。先生は崩れ落ちるようにしゃがみこむと、
まるで小さな子供のように顔をくしゃくしゃにして泣いた。俺はその場に立ち尽くす。
 俺……なにやってんだろ? 自分をぶん殴りたい衝動に駆られた。
 一時の感情に身を任せて、憧れの人をこんなにも悲しげに泣かせてしまうなんて……バカだ。
 俺は制服のポケットから、ハンカチ代わりに持ち歩いているハンドタオルを取り出すと、
泣きつづける先生の前にひざまずいた。そのまま無言で頬にタオルを押し当てる。
「……良樹……くん?」
 不思議そうな顔で先生は俺を見上げた。その半ばうつろな視線を、俺は真正面から受け止める。
「詳しい事、話してくれますか?」


 とあるマンションの一室。分厚い壁をくりぬいたようなデザインの玄関の奥、
こげ茶色に塗られたドアを俺は鋭い視線でにらみつけた。
「ここか……」
 『尋ね人ステッキ』をしまい、『石ころ帽子』の位置を直しながら、
俺は先生の言葉を思い出していた。

「……先生ね、脅されてるの……」
 ひとしきり泣いて落ち着いたのか、先生はぽつりぽつりと語り始めた。
「脅されてるって……」
「昨日、家に帰ったらこんな物が……」
 そう言って先生は懐からなんの変哲もない茶封筒を取り出した。
 先生に断ってから中を見る。そこには何枚かの写真が……。
「……!」
 俺はそれを見て硬直した。
 先生の盗み取り写真……それもシャワーや着替え、それにムダ毛処理中の光景など、
女性なら見られたくないはずの恥ずかしい物ばかりだ。背景に写っているものは
俺には見覚えが無いが、多分先生の自宅なんだろう。

 俺は写真と先生を見比べる。先生は軽くうつむいたままだ。
「……あの、先生……脅されてるのは分かったんですけど、俺が見ても良かったんですか……?」
「え……?」
 蒼白の顔を持ち上げ、俺と写真、交互に視線を走らせ……瞬時に首まで赤く染まった。
「きゃぁぁぁぁぁぁっ! み、みないでぇぇぇぇぇっ!!」
 耳に痛い悲鳴をあげ、先生はひったくるように写真を奪い取ると胸に抱え込んで
背中を向けてしまった。
「あ、あのね! これは家に置いておくと不安で持ってきた物でっ、けっして他の人に
見せるつもりじゃなくてぇっ……」
 先生はしどろもどろになって聞いていない事まで話してくれた。どうやら、
俺が先生に襲い掛かったショックがまだ抜けていなかったらしいな。おかげで良い物が見られた。
「……そっ、それに……さっきの良樹くんの剣幕じゃ、見せないと
信じてくれそうになかったし……」
「うぐ……それは悪かったよ、先生……」
 とってつけたような言い訳だったが、肩越しに羞恥と悲しみの視線を送られては
俺としても黙るしかなかった。
 話を詳しく聞くと、その写真を見ている時に盗撮者から電話があって、今日一日中
パンティの代わりに荒縄を巻くように指示されたらしい。ご丁寧に縛り方を書いた紙まで
封筒に同封していたそうだ。
「私……どうなっちゃうんだろう……? 知らない人にこんな写真取られて、
言う事聞くなんていやぁ……」
 切なそうに自分自身を抱きしめる先生。家を知られた上に、知らないうちに
カメラを仕掛けられたのだ。いつ最悪の事態に陥っても不思議ではない。俺は不安に震える
その肩にかけられた手を包み込むように自分の手を置いた。先生が濡れた目を上げる。
「俺がなんとかします」
 それが俺の意思だったのか『タスケロン』の効果のためだったのかは分からない。
けど、俺は本気で先生を助けたいと思った。
 時人との会話が思い出される。『困っている人の所に誘導する』? 上等だ。
大切な姉の力になれるのなら、やってやろう。幸いにも、俺にはその力があるのだから。

 それから仕事の途中とは言え先生を家に――盗撮カメラが仕掛けてあるからイヤと
言われたけれど、犯人を油断させるためと頼み込んで――帰して、地下室に走った。
メンテとバッテリー交換の済んでいる分だけの秘密道具をポケットにねじ込んで外に出る。
 後は『グレードアップ液』で性能を上げた『尋ね人ステッキ』で犯人の居場所を特定したのだ。
 ……まぁ、『タスケロン』の効果が切れてなかったもんだから、途中で
何度となく人助けせざるを得なくて、ここに着いた時にはすっかり夜になってたんだけどさ。
「さて、どうするか」
 ドアを前に考え込む。ここに犯人が居るのは間違いない。人の気配もあるし、
『タケコプター』で外から確認したときにも、まるで放送局で使われているような
ビデオの編集機器に囲まれた貧相な男がいた。
 『取り寄せバッグ』を使えばすぐにマスターテープやネガを奪う事は出来るが、それじゃあ
根本的な解決にならない。男が居ない時を見計らって機材を破壊する方法もあるけど、
壊れたら直すなり新しく買えば良いわけだから、一時しのぎにしかならない。
むしろ機材を壊された事で先生を恨んで、直接襲いに行く可能性もある。盗撮ヤローに
そんな勇気があるとは思えないが……念のためだ。
「……となると……」
 スペアポケットから黒光りするライフル銃、『原子核破壊砲』を取り出して眺める。
「……」
 無言で仕舞い込むとため息をつく。16の身空で、殺しなんてやりたかないからな。
「ようは、先生に二度と近づかないようにすればいいんだよなぁ」
 壁にもたれてリストを検索する。
 『空飛ぶ荷札』でどこかに飛ばす……途中で荷札を切られたら終わりだ。
 『絵本入り込み靴』を履かせて本の中に叩き込んだ後、それを奪ってくる……それなりに効果が
ありそうだけど、その後の男の生活が気にかかってしまうな。それで死んだら後味悪いし。
次善策としよう。
 『創世セット』で新しい地球を作って送り込む……時間がかかりすぎる。
 『宇宙救命ボート』でどこかに飛ばす……これもその後が気にかかるから次善だな。
 うーん、なかなかいいのが無い……。男を徹底的に怖がらせて、先生を害する事を
トラウマにしてしまうのが一番なんだけど……。

「……お、これは……」
 ……そうだな、この道具を使えば一番か。

 準備を終えると、装備の点検をする。
 念入りに考えた脅し文句は暗唱OK。ちょうど下に来ていた運送屋から時間を止めて
コピーしてきた服装も、大きめな事を除けば問題ない。これで男は不審に思う事無く
ドアを開けるだろう。中に入るだけなら『通り抜けフープ』でもいいんだが、この作戦は
インパクトが大事だ。
 俺は時間を動かすとチャイムを鳴らした。
「すみませーん、○×運輸ですが~、お届け物です~。印鑑お願いします~」
 無害そうな声で呼びかける。すぐに中から「はーい」と言う声がし、ガチャガチャと
カギをはずす音がした。俺はダミーの荷物を置くと、丸いボールを取り出した。
「はい、お待たせし……ぅぐ!」
 扉が開くと同時に男の顔を引っつかむと、室内に放り投げる。男は数メートルほど廊下を飛んで
背中から床に叩きつけられた。俺はドアにカギをかけると土足で部屋に上がりこむ。
「……い、いきなりなにを……ヒィっ!!」
 体をさすりながら文句を言おうとした男は、俺の顔を見て悲鳴をあげる。
俺はそれ以上声をあげられないように口をふさいだ。男はあまりの事に逃げ出そうとするが、
『スーパー手袋』の力で怪力の持ち主となった俺には蚊の鳴くような抵抗だ。
「……俺が、怖いか?」
 低い声で、ゆっくりと話し掛ける。男はコクコクと頷いた。その驚愕に見開かれた瞳に映るのは
狼の顔……狼男となった俺だった。
「だが、貴様は運がいい……姫様のご慈悲によって、今日は警告で済むのだからな」
 口元をゆがめ、獣の笑みを見せつける。男に震えが走るのが分かった。
「貴様が盗撮し、脅迫した、船田真里菜という女性を知っているな? あのお方こそ、
我ら狼男を束ねる姫様よ」
 開かれたままの男の瞳がさらに大きく開かれ、ガクガクと全身が震えだした。……よしよし、
予定通りだ。
 俺はさらにドスを利かせて言い募る。

「本来なら、姫様を汚した罪、その体を5つに引き裂いても償い切れん。しかし慈悲深き姫様は
盗撮をやめて全ての記録を引き渡すのなら許してやろうとおっしゃっておるのだ……」
 俺は男をにらみつけながら立ち上がる。男を掴んでいる手は離していないので、
無理矢理引き起こす形になる。
「さあ、選べ……姫様の慈悲にすがって生きるか、今この場で俺に食われるのかをっ!」
 膝立ち状態の男を投げ捨て、鋭く言い放つ。男はグラスや空き缶、お菓子の袋などが乗った
低いテーブルの上に落下したが、その衝撃を省みる事無くばね仕掛けの人形のように立ち上がると
ドタバタと必死の形相で部屋を引っかき回しだした。この分ならすぐに目的の物が手に入るだろう。
 俺は急いで玄関先まで戻ると時間を確認した。変身してから4分弱。あと少しで
『狼男クリーム』の効果が切れるところだった。安堵のため息をつくと、変身に使った
丸いボールを再び眺める。この薬は洗い落とすまで効果が続く代わり、一度に5分しか
狼男になれない欠点がある。定期的に丸い物を見続ければ、ずっと変身はしていられるのだが……。
「……あ、あの……用意が、出来ました……」
 おびえた声に振り返ると、男が震えながらモノを差し出してきた。ネガにディスクに……
かなりあるな。
「多いな、袋に入れろ」
「は、はいぃぃっ!!」
 男は情けない悲鳴をあげて居間に戻ると、大慌てで袋を探しているようだ。俺もその後について
部屋に入る。よく見れば、窓からは見えにくい位置にパソコンが置いてあった。床を見れば
編集機器のケーブルがパソコンに延びている。
「……これも念のためにもらっていくぞ」
 男の返答をまたずパソコンに手をかけると、筐体を力任せに引き剥がす。プラスチックが
砕ける音と金属がこすれる音がして中身が剥き出しになった。四連装になっている
ハードディスクを引きちぎり、外部接続のハードディスクとまとめて男に投げ渡す。
 パソコン使って画像編集しているやつが、その中にデータを残していないわけが無い。
少し可愛そうに思ったが妥当な処置だろう。壊したパソコンはもったいないが、
どうせ破損してるのはケーブルと筐体だけだしな。 この程度の芸当は『スーパー手袋』の力があれば簡単だ。

 ……奪ったハードディスクは、先生に渡さずに俺のパソコンで中身を確認するとしよう。
多分、先生以外にも盗撮してる事だろうし、今後しばらくは容量不足とはおさらばできるしな。
「あの……終わりました……」
 ずっしりと重くなったコンビニの袋を捧げ持つようにし、腕をぴん、と伸ばして
俺に差し出している。
 貧相とは言え、いい大人が俺みたいな小僧におびえペコペコ頭を下げている光景は
呆れを通り越して哀れに思えてくる。
「これで全部だな?」
「はいっ! 間違いなくこれで全部ですぅっ!!」
「……いいだろう」
 俺は袋を奪い取るとベランダを開けた。春とはいえ、肌寒い風が無遠慮に部屋に流れ込んでいる。
 振り向くと、俺はおびえながら俺が消えるのを心待ちにしている男にドスを利かせて言った。
「……身の程をわきまえぬ人間よ、己がした事を悔やむが良い。我らの警告を無視して
再び姫様を害するならば、二度と身動きできぬよう、五体をバラし、貴様のはらわたを
食らい尽くしてくれるわっ!」
 某有名竜探求RPG三作目のボスキャラの台詞をもじった俺の一喝に、男が腰を抜かすのが
目の端に映った。
「ではさらばだっ!」
 腕を大げさに振ってベランダの柵を飛び越える。演出を考えればマントが欲しいところだ。
 とはいえ、ここは高層マンションの53階。柵を越えた途端に落下が始まる。俺はすぐさま
『タイムウォッチ』に二つの思念を送った。
 一つは目立たないための時間停止。もう一つは……。
 俺は左腕を頭上に掲げて手首を内側に折る。すると時計の周りに小さな羽根が一斉に飛び出し
回転を始めた。その様は電動のこぎりのようだ。途端に俺の落下速度が低下し、
ホバリングを始める。俺は頭上に掲げた腕時計に吊るされるような形で空を移動すると、
マンションからは見えない位置で着地する。すぐに羽根は時計の中に収納された。
 種明かしをすると、『タンマウォッチ』と『狂時機』と俺の腕時計を合成して作った
『タイムウォッチ』に、『タケコプター』をさらに合成したのだ。

 なんでこんな物を作ったかというと、俺が秘密道具を使って移動する場合は、
たいがい『石ころ帽子』を使って姿を隠す。しかしそのまま『タケコプター』で移動すると
帽子が脱げて、そのままどこかに飛んで行ってしまう欠点があるのだ。それに空を飛ぶためには
いちいち『タケコプター』を身に付けなくてはいけなくて面倒くさい。それを補うために
常に身に付けていてめったに取れない物という事で、腕時計を選んだわけだ。
 結果、昔見ていた某Vガンの敵MSが使っていたビームローターのようなスタイルで
飛ぶ事が出来るようになったのだけど、無理な合成をしたせいか、航続距離が
極端に落ち込んでしまった。『タケコプター』は時速80Kmで8時間の運転が可能だが、
合成後は時速20Kmで1時間がせいぜいだ。昼間は太陽光で充電ができるのでもう少し飛べるが、
さすがに夜では無理だ。しかもバッテリーが共用だから、使い切ると『タイムウォッチ』の
他の全機能まで使えなくなる。……この辺は、完全に余談だな。
 とりあえず目的の物は取り返した事だし、家で不安がっている先生に渡すだけなのだけど……。

 ピカピカーン!

「……そうだ」
 良い事を思いついた俺は地下室に戻った。
 先生にしてみれば、俺は先生のピンチを救ったヒーロー。ちょっとくらい演出して
かっこよく見せたって、文句は言われないよな?

「……イツツツツツツ……」
 赤タン青タンだらけの顔をさすりながら、俺は真里菜先生の住むマンションの廊下を歩いていた。
 あの時、俺が思いついたヒーローの演出は『傷跡』。派手な立ち回りの末に
困っている人が求めていた物を取り返し、その人はヒーローに大いに感謝するって
寸法だったわけだが……少し計算が狂った。まさか、一人で喧嘩ができる『喧嘩グローブ』が、
あそこまで強いとは思わなかった。
 一人相撲の結果、俺はタコ殴りにされ、1ラウンドKO負け。しかもそのまま気絶して
目が覚めたのがついさっき。3時間近く気を失っていた事になる。

 傷も歩くのにさしさわりがあるほどひどかったので、『お医者さんカバン』である程度
直そうかと思ったが、診断の結果出た薬が『これを飲めば完治する』とあったので
飲まずにきた。おかげで頭が朦朧とするわ足がふらつくわ、パンチドランカー状態だ。
 ……まぁ、昼間先生にひどい事したわけだし、その償いと考えればまだ受け入れられる。
「ふぅ……」
 揺れる頭を気合で固定し、両手を壁について体を支えるようにして先生の部屋の前に立つ。
 時計の針は10時をまわっている。今回のように大切な用事がなければ、
決して一人暮らしの女性の部屋に訪れて良い時間じゃない。
「……はい……」
 チャイムを鳴らすと、幾分警戒した先生の声がドアホンから聞こえてきた。
「俺です……良樹です。開けてくれませんか?」
「良樹くん? 分かったわ、今開けるから」
 パタパタとスリッパが床に擦れる音が聞こえ、少し置いてからカギの開く音がした。きっと、
俺が一人かどうかを確認したんだろう。
 昼間あんな事をしたわけだし、一人暮らしの女性としては当然の警戒だと思うが、
大切な『姉』にそういう事をされるというのは、少し悲しい物があった。
 ドアが開くと、髪を下ろしてはいるが、学校と同じ格好をした先生が顔を出した。その目が
俺を見るなり見開かれる。
「こんばんは、センセ」
「……こんばんは、じゃないわよっ! いったいどうしたの、その怪我……」
 俺ののんきな挨拶を切り捨て、先生は眉をしかめて心配そうに俺を眺めた。
「たいした事無いですよ。それよりこれ……取り返せました」
 コンビニの袋を差し出す。中身は無論、先生の盗撮画像が入ったディスクとネガフィルムだ。
「あ……」
 その一言で先生は全てを(俺の意図的な物があるとはいえ)察したのだろう。眼鏡の奥の
ブラウンの瞳が潤んでいく。
「もう二度と盗撮したり、脅迫するような事はしないって約束も取り付けてきました。
これでもう安心……」
 語尾を途切れさせる。俺の顔は先生の胸に埋まっていたからだ。

「ごめんね……ありがとう……ありがとう……!」
 先生は俺を抱きしめる腕にさらに力をこめる。おかげで先生の胸の柔らかな感触とブラジャーの
大まかなデザインまで、より強く感じられた。そして先生の甘酸っぱい匂いも……。
「イテテ……」
 少し腰を引く。精力剤は相変わらずその強力すぎる効き目を発揮していた。
「あ、ごめんなさいっ! 怪我をしていたのよね」
 けれど先生は俺のうめきを怪我による物だと勘違いして抱擁を解いてしまった。ぬくもりと
匂いが離れ、少しさびしく感じる。
 と、先生が俺の手を取った。
「いらっしゃい。手当てをしないと」

 初めて入った女性の部屋は、化粧と女性独特の甘い匂いに支配されていて、少し気後れがした。
「……」
 包帯を巻いた頭をぐるりと回して部屋を観察する。
 木目調が基本となってるタンスやローボードに挟まれるように中型のテレビが置かれ、
その上の一輪差しに造花だろうか、ガーベラが花開いている。少し広めのセミダブルベッドは
清潔な真っ白いシーツで覆われ、枕元にチョコンと可愛らしいペンギンのぬいぐるみが座っていた。
その隣には小さな鏡台と姿見があり、化粧品が整理されて置かれていた。窓には
淡いパステルピンクのカーテンがかけられ、夜の闇が部屋に進入する事をさえぎり、
何の変哲も無いはずのワンルームマンションに華やかな色を添えていた。
「あんまり見ないでよ、恥ずかしい」
 振り返ると、笑顔の先生がおぼんを持って立っていた。その上にはほこほこと湯気の立つ
コーヒーカップが二つある。
「インスタントだけどね」
 ソーサーと小さなティースプーンを添えてガラステーブルにカップが置かれる。
「すみません」
 俺は二つの意味で答えた。
 先生は俺と向かい合うように座ると、自分の分に砂糖を入れる。俺はブラックのままだ。
少しの間、コーヒーをすする音だけが部屋に流れた。

「それにしても……」
 先生が嫌悪の表情でコンビニの袋に手を入れ、長巻のままのネガフィルムを取り出す。
袋の中にはまだ数十巻分のフィルムが入っていた。
「こんなに撮られていたなんてね。それも動画まで……」
「これからはもうそんな事はないですよ」
 脇に置かれた盗撮機器を見る。
 先生は家に戻ってから、送られてきた写真を元にカメラの位置を割り出したのだそうだ。
それで俺の手当てを終えてすぐ、取れるもの全てを外してしまった。まとめられているカメラは
遠隔操作できるフィルム式が2、電波で動画を送るタイプが3。他にあるかも知れないから
後は警察に調査をしてもらうと言う。
 この時俺は、先生に内緒で取り切れていない盗撮機を撤去するつもりでいた。携帯と合成した
『宇宙完全大百科端末機』で調べたところ、これ以外にカメラが2基、盗聴器が5基
仕掛けられていて、どちらも一基ずつ撤去されないとあったからだ。
「良樹くん、本当にありがとう」
 先生はフィルムをグシャリと握りつぶすと、言った。
「これで胸のつかえが取れたわ……貴方のおかげよ。ありがとう」
「いや、そんな……」
 俺はそんな、先生の感謝に堪えないという心からの綺麗な笑顔に当てられて、上手く言葉が
出てこなかった。
 けれど、その笑顔は一転して真剣な――それも憂いと不安といささかの決意を秘めた――
表情に変わる。
「……ねえ……私、どんなお礼をしたらいいかな?」
「え……」
 その戦女神のように凛々しい表情に見惚れていた俺に、先生は手を伸ばした。少し冷たい繊手が
ガーゼの上から頬をなでる。
「写真を取り返してくれただけじゃなくて、こんな怪我までさせちゃったし……」
 頭の後ろに漫画のようにでっかい冷や汗が流れる。
 ごめんなさい、これ自分でつけた物なんです。
 本気で心配してくれている先生に、ちくりと良心がいたんだ。

「私……どんなお礼をしたら、こんなになるまで頑張ってくれた良樹くんに
答えられるか分からなくて……だから、なんでも言って? 私に出来る事なら、
なんだってするから……」
 先生の真摯な瞳に耐えられなくて目をそらす。それでもつい『なんでも』という言葉に
『ハリ千本バッジ』をつけておけば良かったと思ってしまった。
 でも……。
 ちらりと先生を見る。
 知的な顔、うずめると気持ち良い大きな胸、抱きしめたら折れそうな腰、いつもオカズにしていた
形の良いお尻、ムチムチとしているのにスラリと伸びた美しい足……。
 もし『先生を抱きたい』と言ったら、憧れの先生が全部俺の物になるのか? バカな、
それこそまさかだろう。だけど……
「そう……ですね」
 俺はゆっくりと顔を戻す。先生は相変わらず俺を真剣な眼差しで見つめていた。
 ……だけど、諦めるには魅力的過ぎる提案である事も確かだ……。
「……先生が欲しい……なぁんてもちろん無理……」
「いいわよ」
 冗談めかした言葉が止まる。俺はぱちぱちと瞬きをして先生を見つめた。
 俺、『先生が欲しい』っていったんだよな? つまりそれは『先生とSexしたい』って事で、
それで先生は『いいわよ』って……ええっ!!
「あの……先生?」
「いいわよ、って言ったの。……なんども言わせないで」
 そう言うと先生はうっすらと頬を染めて、拗ねたようにそっぽを向いた。
 予想だにしない答えに思考が完全に凍ってしまう。そのため、覚悟はしていたから、と
立ち上がる先生の動きを、俺は機械的な動きで追う事しかできなかった。
 先生は俺の後ろにまわると、ボレロの止め具を外して行く。背中を向けているので
表情は分からない。
「カメラを取り外している間……私はずっと考えていたの。良樹くんに、
どんなお礼をしたらいいかって」
 軽い音ともにボレロが床に落ちると、先生はブラウスのボタンに手をかける。

「最初は私の手料理食べさせてあげようかと思ったけど……昼間の事を思い出してね」
 オレンジ色のブラウスを脱ぐと、目に痛いくらい白いブラジャーが現われた。
「良樹くんだって、やっぱり男の子だから……そんなにボロボロになるまで頑張ってくれて、
すごく感謝してるから……そのお礼」
 ブラウスをたたんでスカートのホックをはずす。ブラと同じ、白いレース編みのパンティ――
布地がすごく少ないから、スキャンティかも――と割れ目とえくぼが見えているお尻が顔を出した。
「今夜の事は夢……そう、夢なの。だから、教師である事もその教え子である事も忘れていいのよ」
 最後は自分に言い聞かせるような調子で、足から抜き取ったスカートブラウスの上に置くと、
彼女は眼鏡を鏡台に置いて髪を掻きあげると、振り向いた。
「ほらっ、女の子だけ裸にさせておくつもり? ……恥ずかしいじゃない……」
 耳まで真っ赤に染めて恥ずかしそうにしながらも、毅然とする先生の立ち姿に、
俺は息を詰めて見入っていた。


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☆次回予告
次回の話ですが、先に言い訳だけしておきます。愛すべき童貞野郎、秋森良樹君は、
先生の体に夢中になって秘密道具を使う余裕がありません。なので効果を発揮するのは
今現在効果継続中の精力剤のみとなります。

ボンボンボンボン……♪

作者「……はえ? キャラコメ時空の発生音?」
良樹「『のみとなります』じゃねぇぇぇぇぇっ!!」

 ちゅごぉぉぉぉぉぉん!

作者(黒焦げ)「そ、それは戦車をも吹き飛ばす『ジャンボガン』じゃないか……
   殺しはしないんじゃなかったのかっ!?」
良樹「ああ、殺さない。けど時人から聞いたぞ。キャラコメ時空ではどんな奴も
   ギャグキャラになると……(スチャッ)」
作者「そ、それは……(汗)」
良樹「そして、ギャグキャラってのは、なにがあっても死なないんだよなぁ?」
作者「(滝汗)」
良樹「こんな寸止め書いて、待っててくださった読者様に消し炭になって詫びいれて来いっ!!」

 どごぉぉぉぉぉん!

良樹「まったく……ようやく先生とHできると期待させやがって……」
作者「……け、結局そっちの憂さ晴らしがしたかったのか……」
良樹「すげぇ……腹に大穴空いて手足がちぎれ飛んだってのに、もう復活してやがる」
作者「作者は不死身だから……」
良樹「……ま、いいや。それより、このスレは『秘密道具を使ってH』が趣旨だろう?
   H書くのに秘密道具使わないってのは不味いんじゃないか? 前スレで二回くらい
   注意されてた気がするんだが」
作者「そうは言っても、真里菜先生相手の最初のHは道具無しってのは、
   プロローグ投稿したあたりから決めてたし、変更が出来なかったから……」
良樹「変更しちゃえよ」
作者「だって、こんな形で書いている以上、憧れの人相手に暴走してる最中に
   秘密道具の事に気が回るってのは不自然じゃないか。それに時期的には、あまり君は
   道具を知らないだろうに」
良樹「別にかまわないだろう、そういう妄想をぶつけるスレなんだから」
作者「うぐ……正論で返すなんてずるい……」
良樹「ずるくねー。それより、第四話ではちゃんとHシーンに道具からめるんだろ?」
作者「それはもちろん。四話のキーは『あらかじめ日記』。これ以上詳しい事は
   次回の後書き&次回予告で。そうそう、四話のヒロインは前の話で出てきた
   早瀬美久の予定だよ。経験積んでるから、H中に道具も使えるしね」

良樹「そうか、そこまで聞けば用は無い」
作者「……あのぉ~、『スーパー手袋』はめてお手玉してる、
   そのドラム管状の物体はナニカナ?(汗)」
良樹「作者なら説明するまでもないだろう……? 肩透かし食わされたスレ住人の怒りだ、
   食らえぇぇぇぇぇぇっ!!!!」
作者「いやぁぁぁぁぁぁぁっ! 『地球破壊爆弾』っっっっっっ!!!!!(泣)」

 ズガァァァァァァァァン……!

良樹「……悪は滅びた」(退場)

作者「……ううう、せっかくヒロインを10人くらいまで増やしてやったってのに、ひどい……」

 デンデデデンデンデン……♪(キャラコメ時空解除)