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秋森良樹編 第三話『美人女教師の秘密』(1)


 いつもと変わらない学校。
 いつもの通りに靴を履き替え、いつもの通りに教室に向かい、いつもの通りに授業を受ける。
そんな当たり前の事がずーっと続いていく場所……のはずだった、昨日までは。
 今日から、ここは俺の『狩場』となる。俺が手に入れた『力』なら、ここに入る人間たちは
すべて哀れな子羊でしかない。
 さあっ、これからお前たち俺の生贄となるんだ……。

 ……なぁんてな。
 浮かんできた少しばかりダークな思考に苦笑しつつ、俺は上履き用のスリッパに履き替え、
教室に向かう。先を行く生徒の背中をばんやりと眺めながら、俺はポケットの中でスペアポケットを
いじりまわしていた。
 『タンマウォッチ』一つでさえあれだけの事が出来たんだ。ならば、他にも無数の道具が入っている
このスペアポケットさえあれば、なんだって出来るだろう。それこそ脱履場で浮かんだような
鬼畜な事も、誰にも気づかれもせずに……。
 まぁ、俺自身はそんな事をするつもりはない。せいぜい、女子達に色々と
楽しい悪戯をする程度で押さえるつもりだ。
 ……というより、それほどひどい事を出来るような道具を俺は知らないだけなんだが。俺が
知ってるのは、映画とかでおなじみの『桃太郎印のきびだんご』とか『ビッグライト』
『スモールライト』『通りぬけフープ』など有名所ばかり。子供の頃読んでた単行本にはもっと
いろんな道具があったわけだが、そんなのはほとんど忘れちまったし。

 だから、そういった物を見つける事が出来れば、それなりの事はするかも知れない。それでも、
俺は女を泣かせるような真似はする気はないが……。
「おはよーっ」
 教室に入った俺は、軽く手を上げて奥に固まってる3人の男たちに声をかける。
「おはよ」
 最初に良い体格をした、丸顔の気のよさそうな男が答える。
「ああ、おはよう……」
 髪を背中まで伸ばした、一見キザっぽい男が涼しげに言う。
「うっす」
 最後に、俺と同じくらいの背だが、スポーツマン風の奴が笑った。
 あまり友達を作らない俺の数少ない、そしてこの学校では希少な男の友人たちだ。
 なに分、この学校は元女子校。俺たちが小学校を卒業するかしないかくらいの時に
共学になったのだが、男子の入学率は低く、最初の年など二人しか入ってこなかったらしい。
今は随分と男子生徒の姿も見られるが、それでも一クラスの三分の二は女生徒で占められている事を
考えると、いろんな意味でこの連中は貴重だ。
「なんか盛りあがってたみたいだけど、なに話してたんだ?」
 自分の席に鞄を置いて話しかける。途端に丸顔の『鷲山 亮輔』がでれっ、とした
締りのない顔になった。
「いやよ~、夕べ面白い夢見ちゃってさ~」
「思いっきりエロエロな夢だったんだとさ」
 スポーツマン風の『平塚 長久』が苦笑して続ける。俺も笑いを浮かべた。
「なんだ、夢精でもしたか?」
「いや、あれで出さなかったのが不思議なくらいな夢でさぁ~」
 亮輔が悔しそうに、それでいて楽しそうに話し出す。
 要約すると、亮輔は有名AV女優たちを一同に集めたハーレムの主で、朝から晩までご奉仕を
受けていたと言う事だった。
「お前らしい夢だな」
 俺は何度も頷く。

 亮輔は自他共に認めるAVマニア。そのビデオの数はそれだけでレンタル屋を開業出来るほどで、
小遣いやバイト代のほとんどをビデオ収集と倉庫代わりにしているコンテナの維持費用に回して、
いつも金欠だ。なんでも、父親の趣味を継いだらしい。
 中学の頃から「○○と××して~」が口癖の男だ。その後「俺が監督だったら、こんな事
やらせるんだがな~」と続く。その発想力はかなりの物で、今からでもAVの監督になったら
絶対に売れる物を作れるだろうという確信を俺は持っている。
「でもありえねーよなぁ。そもそも、そんな企画があったって、一般募集なんてしねーだろうし」
「いいじゃねーかよ、長久。夢ん中でくらい、妄想を炸裂させたって。ああ、ほんと○○とか
△△とかいっぱい集めて、思いっきりご奉仕されてぇよな~。夢の中みたいに、つり革に
ぶら下がった俺にフェラとアナル同時舐めして、他のやつらはいろんな所舐めたりオナったり
レズったりしてんの。俺が監督だったら、この企画やってみるんだがなぁ」
「だったら、俺を男優にしろよ。体力なら自信あるぜ」
「うらやましすぎるから却下だ。それなら俺が自分ででるっ」
「ああ、ずっけぇ!」
 ふざけ合う二人を眺めながら、俺は再び自分の立場を確認していた。この道具さえあれば、
亮輔が言っている事なんて何を使えば良いかは分からないが、簡単に出来るだろう。
 『何を使えば良いか分からない』……か、ふむ。
「それってさ、ドラえもんの道具を手に入れたら出来そうだよな」
 俺の言葉に二人は「おおっ!」と手を打つ。
「そうだよな~、ドラえもんの道具があれば、なんだって出来るよなぁ」
「そうそう。俺だったら、まず『タケコプター』使って空飛びたいな」
「長久、いきなりそれか? 俺も空飛びたいけど、もっといい使い方あるだろうがよ」
「『悪魔のパスポート』使って、好き放題とか?」
「それそれ! あとは、『石ころ帽子』とか姿隠す道具使って、更衣室覗きとかな」
「でも……」
「やっぱり……」
「「『もしもボックス』最強だよなぁ」」
 そろってため息をつく二人。俺は思い通りに話が運んでいる事に内心ほくそ笑んだ。
「だったらさ、『こんな道具を使ってこんな事が出来る』っての考えたら面白くないか?」
 俺はなるべく自然に聞こえるように言う。
 どんな道具を使うにしろ、その効果はしっかりと覚えておいた方がいい。残念ながら俺は
道具の種類もあまり知らないが、ここは『三人寄れば文殊の知恵』ってヤツだ。すくなくとも
企画力抜群の亮輔がいる。きっと俺だけでは考え付かないような事を思いついてくれる事だろう。
「……『ポータブル国会』を使って、ブルマ復活は基本だろう?」
 亮輔と長久が答えるよりも先に、長髪のクールガイ『池内 時人』が白皙の顔をずいっ、と
近づけて言う。その切れ長で鋭い瞳は真剣そのものだ。
 亮輔も声を潜めて頷く。
「だよな。俺たちが入った年からブルマ廃止なんて、冗談だろって感じだったしな」
「ああ……無くなってみると、その大事さが分かるな。別に興奮するとかいう話じゃないんだが、
アレって女を可愛く見せるしな」
 長久も小さな体をさらに縮めるようにして顔を寄せる。内容が内容だけに、増えてきた女子たちに
聞かれる訳にはいかない。
「……いや、けっこうエロいだろ、ブルマって。とくに尻が大きくて太ももがおいしそうな奴が
はいた時とか」
「俺、細い奴が好みなんだよ……それより、『何とか国会』ってなんだ?」

「『ポータブル国会』だ。この机を占領するくらいのサイズの国会議事堂の模型でな、
新しく追加したい法案を入れると、日本中でそれが守られるんだ」
 時人が流れるように答える。
 実はこいつ、眉目秀麗・学年主席・運動神経抜群の超優等生なのだが、俗に言う『ヲ』のつく
人間なのだ。『黒歴史』の年表の暗唱など当たり前で、相当昔のアニメや特撮の主要登場人物の
名前・役者・当時の年齢・メインスタッフの構成などもあっさりと答えてしまう。それこそ、
こいつなら全秘密道具の説明くらい朝飯前だろう。
 また、成績からも分かる通り、『ヲ』の知識以外にもかなりの知識量を誇っている。特に
歴史に関しては教師顔負けだったりする。
 亮輔が目を輝かせた。
「じゃ、なにか? 『若い女はみんな超ミニスカでノーパンにしなくてはならない』って入れたら、
それが守られるって? いや、『ミニスカは股上五センチで下は必ず生パン』の方がいいか……」
 腕を組んで真剣に悩む亮輔を見て、時人がメガネケースを取り出した。時人がなにかを
説明する時の癖で、俺たちは『講釈モード』と呼んでいる。
 時人はメガネをかけた。長方形の細いメガネで、ツルの一部が稲妻をかたどった様にぎざぎざに
なっている。なんでも『俺が最も尊敬し、師事するお方の一人にあやかっているんだ』との事だ。
「どんな物でも、『国会』がOKを出せばそれが守られる。だがな、同志亮輔よ。あのアイテムは
あまりに無茶な法案を入れると、解散して2度と使えなくなるという欠点をもっておるのだ」

 『講釈モード』になると、時人の話し方が変わる。いつもよりさらに落ち着き、
どこか偉そうになる。いや、威厳がある、と言った方がいいのか。言葉遣いもどこか時代がかった
物になる。師匠の真似らしいのだが、時人が言うには『師匠が降りてくるのだ』そうだ。
 途端に、亮輔はがっくりと肩を落とす。
「なんだよ、それじゃああんまり使えねーよ」
「いや、『あまりに無茶な』と言ったろう? 同志亮輔が言うようにミニスカにこだわるのなら、
『魅力のある女性がスカートの中を覗かれるのは、男たちがその魅力の虜となった証拠。よって
女性はスカートの中を覗かれても怒ったり、隠したりしてはならない。それは自分の魅力を
自ら摘む事に他ならないのだから』とでも書けば良い。そうすれば少しは法案が通りやすいだろう」
 ふむふむ、なるほど……。
「じゃあさ、もっとエロくするにはどうしたらいいと思う? トップレスが当たり前になるとかさ」
「それは簡単だ、同志長久。『女性の服装文化をクレタ文明に準ずるものとする』とすれば良い」
「? なんでクレタ文明なんだ?」
「それはだな、マイブラザー亮輔よ。あまり知られていない事だが、クレタ文明の盛りには
女性は乳房を完全に露出させる服装をする事が常識だったからだ」
「……マジかぁっ?」
 信じられないような物言いに、長久が目を剥いた。
「ふっ、このような事で嘘を教えて、我輩になんの得がある? よしんば、トップレス状態に
ならずとも、胸の露出はより多くなるに違いない。何しろ現代風にアレンジする事を
禁じてはいないのだからな」
 亮輔は感心したように何度も深くうなずいている。
「なるほどな……直接的なエロがダメなら、遠回りにやれば良いわけだ。それなら無理なく
出来ると……」

「なんか、そうやって考えるのって面白そうだな。よし、俺だったら……」
「おいおい、別に『ポータブル国会』に限らなくったっていいんだぜ? 秘密道具は山ほど
あるんだし」
 話が別のところに流れそうなのを慌てて止める。というか、そっちばっかりに行ってもらっても
困るんだ、道具を実際に持ってる俺としては。
 幸い、三人はあっさりとそれに乗ってくれた。
「そりゃ、そうだな。まだまだいっぱいあるわけだし。
 ……よし、なら俺は『六面カメラ』を使うか。スカートの奴を取れば、正面からでも真下が
写るしな」
「で、それを投稿するとか?」
「お、いいねぇ。逆さ撮り専門誌とかあるから、採用されれば良い値段になるな。できれば
ビデオの方が値段が良いんだが」
「マイブラザー亮輔、金に困ってるお前に、ぴったりの秘密道具があるぞ。そんな事をするよりも
確実に早く儲かる物がな」
「なんだ?」
「もったいぶらずに教えてくれよ」
 時人がニヤリ、と笑う。
「『カネバチ』と『フエール銀行』を使うのだよ、同志亮輔、同志長久。『カネバチ』は
色々な場所から落ちている金を拾い集めてくる。一週間もすれば小銭が山ほどたまるだろう。
それを『フエール銀行』に預けるのだ」
「……利子に頼るのか? すぐには儲からないんじゃないのか?」
「ふっ……無知とは罪だな、同志良樹よ」
 ちっちっち、と時人は指を振って見せる。
「この世の中、0金利政策のおかげで利子なんぞつかず、折角ついた利子も税金で全額
持っていかれる始末。そんな状況では銀行に預けようなどとは普通は思うまい。しかしな、
『フエール銀行』は超がつくほどの高金利で預かってくれるのだよ」
「高金利って……年に3%とかか?」

 金利なんて物をほとんど気にしていなかった俺は、適当な数字を出してみる。それを時人は
「ふっ」と鼻で笑いやがった。
「一時間に一割だ」
「……す、すげぇ……ああ! 俺もその二つ欲しいぃぃぃぃっ!!」
 万年金欠男がのけぞって叫びをあげる。女子たちが何事かと一瞬だけ目を向けるが、
叫んでいるのが亮輔だと分かると「またか」と言いたげにそれぞれのお喋りに戻って行った。
 入学してまだ一ヶ月と経っていないが、時々起きるコイツのこの行動にクラスメートたちは
すっかり慣れてしまっているのだ。
「そ、それがあれば好みのAV女優たちを集めてハーレムを……いやいや、俺が会社の
社長になるのも無理じゃない……そうすれば好きにビデオ取りまくって、女優たちを
つまみ食いして……ふふふ……」
 亮輔は声を潜めてぶつぶつと呟きだす。亮輔が妄想の世界に浸るとしばらく戻ってこないのは、
俺たちにとっては周知の事。朝のホームルームまでには時間があるし、放っておく事にした。
 長久が苦笑する。
「亮輔じゃないけどさ、一時間に一割ってすごいよな。集まった金が一万だったとしても、
何日かたったら、相当な金額になるんだろうな」
「まったくだ。それこそ競馬で勝ったヤツみたいに風俗のハシゴとか楽に出来るんだろうな」
「え、やったことあんの?」
「まさか。エロ四コマで見ただけだ」
 とりあえず、その案はいただきだけどな。これで新しいCD買ったり服買ったりするのに気を
使わないですむ。うーん、やっぱり相談はしてみるものだ。
「……で、長久、お前は何の道具使ってナニしたいんだ?」
「俺? 俺は……うーん……『悪魔のパスポート』も『もしもボックス』も出たしなぁ……」

 バリバリと短い髪をかく。しばらくそうしていると、長久は「ひらめいた」という顔になった。
「『グルメテーブルかけ』で『女体盛り』を楽しむってのはどうだ?」
「……いいなぁ、それ」
 ムチムチの美女が全身に料理の衣をまとって俺の前に現われる。俺は箸と手と口でそれをゆっくりと
剥ぎ取って行く。だんだんと面積を増やして行くつややかな肌。時折上と下の肉芽を摘んで『皿』の
反応を楽しむ。からっぽになった『皿』の前に箸を置き、おもむろに服を脱ぐ。デザートは
てらてらと湿潤な水気を放っていて、俺に食べられるのを待っている。その熟れた果実が
どんな味なのか、俺は期待を込めて肉で作られたフォークをその中央に突き刺す……。
 その光景を想像して唾を飲む。『暴れん棒モード』に突入した下半身を隠すために少し腰を引いた。
 スペシャルメニュー『女体盛り』……絶対、今夜やったるっ!!
「時人は、なにか思いつくか?」
 俺はある意味最大の期待を込めて時人に尋ねる。亮輔がトリップ状態である限り、コイツ以上に
秘密道具を使いこなしたネタを出せる奴はいないだろう。
「我輩なら……そうだな」
 一つ頷くと時人は外に視線を送り、次にメガネの中央を押し上げて、ふいに目を見開いた。
「……我輩なら、このメガネに『手に取り望遠鏡』と『すけすけ望遠鏡』を『ウルトラミキサー』で
融合させるぞ」
「三つも使うのか? それより、その『なんたら望遠鏡』ってのは……」
「『すけすけ望遠鏡』はあらゆる物を透かして見る事が出来る望遠鏡だ。『手に取り望遠鏡』は
『すけすけ望遠鏡』に、映った物を手を伸ばすだけで取る事が出来る機能を追加した物だと
思えば良い」

「……じゃあ、『手に取り望遠鏡』だけでいいじゃないか」
「いや、『すけすけ望遠鏡』は機能特化している分、なにかしら『手に取り望遠鏡』以上の
部分があると思うのでな。『ウルトラミキサー』というのは、二つの物を合体させて、
両方の機能を持った物を作り出す道具だ。
 原作もアニメも、最後にドラえもんとのび太が合体して『ノビえもん』とか言う一人になって、
その状態で喧嘩をしていた事もあったな」
「それより、その三つを合体させて、なにかメリットあるのか?」
「……お前の頭は飾りか、マイ兄弟」
「……」
 お前に言われると、しこたま傷つくぞ。だが時人は俺の視線を気にもせずに続ける。
「いいか、マイ同志良樹。この二つの望遠鏡はその名の通り細長い望遠鏡の形をしている。
こんな物を常に持ち歩いていては不審者として官憲の世話にもなりかねない。
 しかし、これをメガネに融合させたらどうだ? 街中を歩いていも、『ちょっと変なメガネ』
程度の認識しか持たれまい。これなら透かして見る目標を探してうろついても、それほど
不審には思われははない」
「そうか、透視メガネみたいな使い方か」
 長久が納得した声を上げる。
「ああ、そうだ。それだけではなく、望遠鏡としてのズーム機能もそのまま使えるだろうしな。
 ……それに、もし気に入ったのなら、透かして見えた下着などをそのまま持ちかえる事も
可能になるであろうからな」
「よく思いつくな、そんな事」

「合体物ならまだあるぞ。時間を止める『タンマウォッチ』と
時間の流れを変える『マッドウォッチ』を腕時計に融合させて、時間を自在に操る
『タイムウォッチ』を作り出すのも悪くない。
 ふむ、他には『ハツメイカー』という注文した道具の設計図を出してくれる道具を知っているか?
最初に工作ロボットを『ハツメイカー』に注文して作り上げたら、それと合体させて
発明&自動工作機械にしてしまうのもよいな」
「……ならさ、『六面カメラ』とビデオカメラを合体させたらどうだ?」
「おお、同志亮輔。やっと彼岸の彼方から戻ってきたか」
「ああ、なんとか……」
 紅潮した顔をニヤケさせながら、亮輔は照れ笑いを浮かべるとより一層声を潜めた。
「『六面カメラ』とビデオカメラを合体させたら、最高の動画が撮れそうだと思わないか?
それをさ、『透明ペンキ』を塗って女の出入りの多いところに仕掛けておくんだよ。生半可な
盗撮ビデオより安全だし良い絵が撮れるぞ」
「……狙い目はやはりトイレか、同志?」
「良いところを突くな……確かにトイレだと、下からのアングルはなかなか撮り辛い。だがな、
俺はあえてプリクラやダンスゲームに仕掛けるぜ。ビデオじゃ、真下からのアングルが
せいぜいだから、顔出しは売れるぜ」
「……そういうものなのか?」
 盗撮物を見た事のない俺は首をかしげる。俺は真下からの絵でも十分だと思うんだが……。
「どんな女のか分からないパンティより、美女の物見たいだろ?」
 スゲー納得。
 亮輔はさらに続ける。どうやら、ようやくコイツの本領が発揮されるときが来たらしい。

「それとな、透明なカメラ仕掛けたって、そいつはメンテの時とかに見つかっちまう事もあるだろう。
だから、カメラを『スモールライト』で小さくして、筐体の中……そうだな、プリクラなら
カメラの中に隠すか。わざわざ下につけなくても簡単にローアングルを狙えるし、
元々のカメラ部分を改造してつければいいだろうし」
「改造なんて、そんな簡単に出来るのか? それにいつやるんだよ」
「それに関してはまったく問題ないぞ、マイブラザー長久。『いつ』という答えは、
『タンマウォッチ』が解答をくれている。『改造』という点についても、『天才ヘルメット』や
『技術手袋』といった便利な物がある。これで内部カメラとそのカメラを置きかえるなど
造作もないだろう」
「それでも心配だからな。念のため、『透明マント』か『透明ペンキ』を『石ころ帽子』と
合体させた物を塗っておくか? これなら、姿は見えないし存在も忘れ去られるしな」
「それだと、逆にメンテの時に一発でばれないか? 見えないなら、新しい物を突っ込まれるぞ」
「……あ、長久の言う通りだ」
 用意周到なクセに意外に間抜けな部分を指摘され、笑い合う。今度は長久が新たな案を
思いついたようだ。
「そんな大掛かりな事するより、ケータイに全部合体させたらどう? カメラも最初っから
ついてるんだし、ズームもあるし」
 俺たちは顔を見合わせる。なるほど、確かに長久の言う通りだ。携帯なら今なら誰でも持ってるし、
フタを開いて『楽園』の映る液晶を眺めていても、メールかゲームでもやっていると誰もが
勝手に考えてくれる。
 ……俺は今まで持ってなかったけど、契約なしで買うか。こういう怪しまれない使い方があるとは、
やはり相談してよかった。

「それと、もう一つあるんだけど……」
 長久がそう切り出すのと、チャイムが鳴るのは同時だった。
「みんなおはよう。ほらほら、ホームルーム始めるから席についたついた」
 それに少し遅れて、このクラスの副担任『船田 真里菜』がにこやかに入ってくる。「はーい」と
クラスのほとんどが答え、バタバタと自席に戻って行く。折角の話題の腰を折られた形の俺は
三人に「後でもっと話し合おう」と伝えてから着席する。
「……ん、みんなそろってるわね」
 ざっと教室を見渡した真里菜先生は出席簿に書きこむと、今日一日の予定を伝え始める。俺は
歌うような先生の声を聞きながら、その端正な顔立ちを眺めていた。
 『船田 真里菜』、23歳、O型、独身。長い髪を頭の後ろで短くまとめ、フレームレスの
メガネが良く似合う知的な美女だ。性格は温厚でお茶目。年上の美女に使う言葉ではないと思うが、
可愛らしい人だ。この学校の卒業生で、今年新任として入ってきた俺たちの先輩でもある。
年が近いせいか話もよく合い、『なんでも話せるお姉さん』として男女問わず人気がある。
 その副担任の彼女が、なんでホームルームを開いているかと言うと、正担任が
人気投票でリコールされたから……ではない。
 元々俺のクラスの担任は男の体育教師だったのだが、入学式の翌日にバイクで事故って、
骨折で入院してしまったんだ。それで新任の彼女が急遽担任の仕事をやる事になった。最初こそ
突然の事にドジも目立ったが、半月も経つと慣れてきたのか担任らしく振舞えるようになった。
 クラスメートの反応は上々。とっつきやすい性格もあるが、やっぱ、中年親父より
見目麗しい美女を見ていた方が心が安らぐって物だ。

「……以上が今日の予定よ。珍しく体育の時間が変更になってるから、間違えないようにね?」
 ファイルを閉じながら、にっこりと微笑む先生。その綺麗で柔らかなな笑顔に、男子の何人かと
女子の一部が「ほぅ……」とため息をつく。かく言う俺も、見た瞬間心臓が高鳴った。
 俺が無意識に胸に手を置いた途端、先生と目が合う。先生は先ほどとはまた別種の
可愛らしい笑みを俺に向けた。
 これまでもなんどか見てきたその笑顔に、俺は嫌な予感がした。
「秋森君、ちょっと手伝って欲しい事があるんだけど、いいかしら?」
「……はいはい、今度はなんですか?」
 予想通りの言葉に、小さくため息をつく。
 なぜだか知らないが、俺はよく彼女に頼まれごとをされる事が多い。そのほとんどは
教材を運んだりする事なのだが、たまに職員としての仕事も手伝わされる。……俺がスペアポケットを
拾った日に、帰りが遅くなった原因も彼女の『お願い』のせいだ。
 こうも度々だと断っても良いのだが、先生の笑顔を見るとどうにも断りきれない。ああ、俺って
良い奴。
「一限世界史でしょう? 栗田先生に資料を持っていくように頼まれてるんだけど、
ちょっと重くて……」
「今度はなにを用意してるんスか、栗田センセは」
 俺は重い腰をあげる。
 世界史の栗田は「本物に触れる事が一番の勉強だ」というのを口癖にする、定年間際の教師だ。
その信念のもとに授業には博物館から借りてきた本物の石器や古代の遺産と呼ばれる物を
資料として出してくる。今回もその関係だろう。
 教室を出て、先生の半歩右後ろに並ぶ。先生の背丈は女性として普通程度なのだけど、
俺からすると頭半個分ほど高いため、話すにはどうしても見上げる形になる。

「『始まってからのお楽しみだ』って、教えてくれなかったのよ。箱にもぴっちりテープが
巻いてあったし。昔っからそう。授業が終わったら、なんだったのか教えてくれない?」
「いいですよ。……ところで、今日は服が違うんですね」
 俺は先生の体を一瞥して言う。
 普段、真里菜先生は新任らしくスーツを着用している。下は膝上丈のタイトミニで、
そのくびれた腰からふくよかなヒップにかけてのラインをこっそり眺めるのがクラスの男たちの
密かな楽しみだった。
 しかし今日はスーツ姿ではなく、スタイルをぼかすようなゆったりとした服装で、スカートも
くるぶしまであるロングだ。……もしかしたら、俺たちの視線に気づいて変えてしまったのかも
知れない。
「……先生?」
 俺が聞いた途端、先生はビクリと震えて立ち止まってしまった。良く見ると、開け放たれた窓から
心地よい春の風が入ってきていると言うのに額にうっすらと汗をかき、目を見開いてで虚空を
睨んでいる。
 だがすぐに俺の視線に気づくと、先生は今の表情を取り繕うように笑顔を見せた。
「……な、なんでもないのよ。服が違うのは、ちょっと気分を変えたかっただけだから。
さっ! はやく行かないと授業に間に合わないわよ」
 先生は俺の手を掴むと足早に歩き出した。
「わっ、待ってくださいよ」
 引っ張られるようにして俺も後に続く。
 俺の疑問は、突然手を取られた驚きと、それが伝えてくるほっそりとしていながら柔らかく、
少しだけ冷たい感触によってどこかに吹き飛ばされていた。