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  *  *  *

「白鳥君」

現場近くの駅の男性用トイレで、KEEPOUTをくぐって現れた白鳥に美和子が浮かない表情を見せる。

「状況は?」

白鳥の言葉に、高木が小さく首を横に振る。

「近くを流していた機捜隊が、マル被の人着に近い挙動不審者が駅に入るのを発見して、構内に入った。
今聞いた限り機捜は慎重に行動してたわ。
だけど、マル被は振り返った所にいた複数のサラリーマンにテンパッて、
拳銃を抜いて喚きだした。
機捜も拳銃を抜いたけど、二人ではパニックの中撃つも追うも思うに任せず、
それでもここまで追い込んで…」

破壊されたドアの向こう、大便所の壁に特徴的な赤い飛沫が見える。

「自殺ですか?」
「見た所はな、自殺で矛盾はないなぁ」

無駄に渋さダダ漏れな刑事調査官が、死体のベテランとして返答する。

「各種の位置関係、硝煙反応などに矛盾はありません。
今後詳しい分析は行われますが、自分で口にくわえて撃った、以外は考えにくい状態です」

まだうら若い女性鑑識員もきびきびした口調でそれに続いた。

「予定メモ帳」によると、この時刻に駅構内に現れる事。
「予定メモ帳」によると、この時刻に拳銃自殺を遂げる事。

「あらかじめ日記」によると、
本日、東京都内に於ける拳銃による死亡者は一名である事。
「あらかじめ日記」によると、
本日、東京都内で、他人の発砲した拳銃の弾丸が当たった事で重傷を負った者はいなかった事。
それぞれの記述の作成者により、以上の記述が行われた事が確認されていた。

  *  *  *

少々時計の針を逆に進めると、
地検幹部との協議を終えた大阪府警遠山銀司郎刑事部長らが、地検庁舎内の廊下を進んでいた。
府警と地検の緊密な連絡は欠かせない情勢、その筈だったのだが、協議は途中で打ち切り。
東京からの連絡を受け、大阪地検もそちらとの連絡を優先する様に指示を受けたからだった。

「おう、ご苦労さん」

気さくな口調の遠山に、台車を押してすれ違おうとする清掃員が小さく頭を下げる。

「あー、兄ちゃん、忙しい所ちぃと悪いんやがな、警察や。
見ての通り、今この大阪地検も厳重警戒中やさかい、ちぃと職務質問で身体検査させてくれんか」

遠山が警察手帖を広げて言い、同行していた府警幹部が思わず遠山の顔を見る。

「下がって」

服部平蔵銃撃事件を受けて遠山に付いていた個人警戒員は、
遠山の視線に気付き、さっと遠山の前に立つ。
同行していた捜査一課、捜査四課の課長も、
遠山の視線の先で作業服の脇が膨れている事に気付き、遠山の前に立ちながら携帯電話を使う。

「ゆっくり手を上げて、ゆっくり」

警戒員が、懐に手を突っ込みながら指示を出すが、清掃員は静かに下を向くばかりだ。
その間にも、バタバタと足音が聞こえる。昨日の事件を受け、
府警、地検の庁舎にも機動隊を含めて通常以上の警察官が配備されていた。

既に短銃を抜いた警察官が今正に殺到する。そんな足音も遠くに聞こえる様な緊張感の中、
天井近くでは「かくれマント」と「石ころぼうし」と「フワフワオビ」を着用した男が、
「たましいふきこみ銃」で清掃員に吹き込んだ魂を吸い出す。

ほぼ同時に、リモコンで「かたづけラッカー」を吹き付けて近くにセットしておいた機械箱を作動させ、
機械箱の中の「シナリオライター」を着火させる。
そして、「予定メモ帳」の空欄に日時を書き込む。

「ほれ、もう逃げられへんて、観念してお縄頂戴しぃや…よせっ!!」

柔らかく宥める遠山の口調が一変した。
警戒員が飛びかかろうとしたが、清掃員の袖口から抜かれた剃刀は持ち主の首に突き刺さり、
それでも倒れ込みながらもぎ取った警戒員の全身には大量の鮮血が直撃していた。

「救急車や救急車っ!」
「死なせるなあっ!!」
「おいっ、おい誰に頼まれたおいいっ!!」

この清掃員服姿の男は分かりやすく言えば中国の殺し屋。
殺し屋と言っても、中国本土のマフィアの下の方のチンピラに近い男で、
金さえ払えば人殺しも厭わないと言う程度の男だ。
それが分かろうが分かるまいが、さしたる問題はないと、秘かに天井に張り付いた男は踏んでいた。

  *  *  *

大阪府警察本部記者クラブは、戦場の様相を呈していた。

「だから、どないやっ!?」
「ネソやネソっ!!」
「それでっ!?」
「だからネソのどこで、はあっ!?」
「間違いないかっ!?」
「間違いない間違いないっ!!」
「死亡や死亡確認死亡確認っ!!」

  *  *  *

改方学園高校の教室で、遠山和葉は惚けていた。
ほーっとアンニュイな和葉など、
教室でそんなものを見かけた日には普段であれば台風の心配をしなければならない所であるが、
それを不審に思う級友もいないし何と言って声を掛けていいのか分からないと言うのも実際の所。
そんな教室の中で、ぎょっと目を見開いた女子生徒の一人が和葉に駆け寄った。

「和葉…」
「何?」

怖々と声を掛ける級友に、和葉は椅子に掛けて半開きの目を向ける。
そんな和葉に、級友は黙って開かれた携帯を手渡す。
その携帯に向けられた和葉の半開きの目がぎょっと見開かれた。

「…嘘…」
「遠山さんっ!」

そんな教室に教師が駆け込んで来た。

「平次いっ…」

相方の姿は、今朝からこの教室より消失していた。
その事を思い出し、和葉の脚はへなへなと力を失う。

  *  *  *

時計の針を少し巻き戻す。
大阪地検での血の惨劇を受け、
機動捜査隊による事情聴取を終えた遠山銀司郎刑事部長は、
地検内拳銃所持事件の特別捜査本部設置の前に曾根崎警察署に足を運んでいた。
ここでも小さいとは言えない別の事件に関する協議が予定されており、
遠山らが玄関に到着すると、直接話を聞きたいとたっての希望を伝えておいた
捜査一課大滝警部が駆け寄って来た。

「…おやっさんっ!!」

建物に入る前に、その大滝が遠山に飛び付いた。
遠山と大滝が地面に倒れ込み、銃声と共に玄関のガラス戸にひびが入る。
遠山の後ろに回り込む形で片膝をついて振り返った個人警戒員が発砲し、
その先で、先ほど遠山とすれ違った制服警察官が拳銃を抜いたままぶっ倒れる。

「確保おっ!」

大滝の怒声と共に、何人もの警察官が銃口を向けながら倒れた警察官に近づくが、
次の瞬間には、倒れた警察官は自分の貸与拳銃で喉を撃ち抜いていた。
その前に、「かくれマント」と「石ころぼうし」で身を隠しながら
倒れた警察官に「命れいじゅう」を撃ち込んだ人物の存在に気付いた者はそこにはいなかった。
「あらかじめ日記」にここで起こる事件として書かれた顛末の通りに。
さすがに、同じ時刻に刑事部長に発砲して自決する制服警察官が
その未遂も含めて二人も三人も四人も登場すると言う異常の上の異常事態は発生しなかった。

  *  *  *

曾根崎警察署の署長室に、大滝が姿を現し首を横に振る。

「あかんかったか」

遠山が言い、大滝が頷く。

「私物のプリペイトを含めて本人の携帯履歴出ました。
ノミ屋や闇金が仰山入ってました」
「ま、まこと、まことしねもといまことに、まことにまことにもって…」

遠山は、署長の震える手から退職願をひったくり、引きちぎる。

「帳場や帳場、ブツも敷鑑もなんもかんも全部引っ繰り返して
地の果てまででも追い込んで奥歯がーたがた言わせたり、はよせんかいだぼっ!!」

  *  *  *

「結局、関西の枝ですか」

弁護士銃撃事件の特別捜査本部が置かれた所轄警察署で、資料を手に高木が言う。

「これは、又組対の仕切りになりますね。
肝心のマル被の口が割れない以上、敷鑑って事になりますから」
「昔は関西は都内に事務所を置かなかったって言うけど、
色々と様変わりしてるから。でも、随分前に破門されてるわね」

  *  *  *

「だーかーらー、あんな野郎とっくの昔に破門したっつってんだろーが!
羽振り効かせ過ぎてケチなタタキ(強盗)でパクられやがってよぉ、
出て来てからも知りゃあしねぇよおっ!!」
「ほー、そうかいそうかい」

「あー、大体、現職のヒマワリバッジ?それもヤメ検で特捜部?
そんなの弾く程バカに見えるかよ俺がよおっ!!」

「あー分かった分かった、
とにかくだ、半年ぐらい前だったな、シマの巡回中にだ、
おめぇについてた若いのがほれ、看板蹴倒しただろ。
オフダ(逮捕状)な、器物損壊の共謀共同正犯って事だから。
ま、ガサ状も出てっから頭冷やしてゆっくり考えて、な」

  *  *  *

「ちょっと、頼みあるんやけど」

それは、いい女の頼みだった。
「分身ハンマー」で分離され、「役者」の「能力カセット」を挿入された上に
「ソノウソホント」で更に特技を付与されている、
「うそつ機」によってエージェント設定を拝命した本体は只の分身女子○○生、
等と言う事は知った事ではない。

何しろ、本体の本人からして「ワスレンボー」でその事を覚えてはいないし、
分身が分離する直前、「モンタージュバケツ」で顔からして少々変化しているのだから。
がやがやとかしましいアメリカ村のクラブのカウンター席。
その一言と共に、まずはトイレに直行する。

そこで、手付け代わりの一発。と、言っても跪いて飲み干す方のやり方だったが、
多少は遊んでいるつもりの男から見ても、それは抜群に上手い技法の持ち主だった。
加えて、いい女。ジャンパーに赤い系のメイクがケバ過ぎずによく似合っている。

事によっては大人びた中○生かも知れず、
二十歳以上ではないだろうが実際よく分からない、だが、それがいい。
分かっているのは、この女は実に気前がいい。
パーッと飲み代を支払う事もあれば、旨いハッパやコークを大盤振る舞いする事もある。
ついでに腕っ節も想像以上に強いと言う事だけで、それだけでここ最近意気投合していた。
結果、彼女がぐしゃっと握った手を男のポケットに突っ込んでのお願いも、
至って簡単に引き受けてから、男は改めて洋式の大便所に着座した。

  *  *  *

建設中のビルの一角で、俺様は長身の女と共に双眼鏡を覗いていた。

「目印は理解していただけたかな?」
「確かに」

その色黒のいい女はクールな表情を崩さずに応じる。

「道具はこれを使ってもらう」
「レミントンM700」
「米軍使用のスタンダードだ」

米軍裏面史の実力者とか言う男に「フリーサイズぬいぐるみカメラ」と「うそつ機」を使って接近し、
確実な信頼と確実な札束で手に入れた堅実な品物だ。

「ふむ。まあいいだろう。どの道断る術はない」
「確認しておくが、三発の銃撃、無傷で頼む」
「ああ、分かった」

「自動販売タイムマシン」で魔法ショタ関係の原作指定で購入した
特注「架空人物たまご」からこの女を呼び出した訳だが、
やはりどこからどう見ても十代中盤と言うのは嘘だろう。
それを言った場合生命維持レベルでいい事もなさそうなので口は慎んでおく。

「架空人物たまご」のワンオーダー制限が無ければ
なんとかこじつけて一度ぐらいベッドを共にしても悪くはないが、
今回は仕事優先。まあ、やってくれるだろう。
本当は恐らく日本最強に有名な漫画狙撃手が一番確実だったのだろうが、
その辺の遊び心は忘れてはならない。

  *  *  *

心ここにあらず、それも無理はない。クラスメイトは誰しもそう思っていた。
報道でも知られている通り、こちらの方は外傷自体は無かった事もあり、
遠山和葉は一日も休む事なく登校している。

だが、時折痛々しく笑ってはしゃいでは見せるものの、
和葉の普段を知っているだけに、周囲としてはなかなかそれに乗る事は出来ない。
それを解きほぐす事が出来る唯一の人物が、
これ又当たり前とも言える状況でここにはいない事が決定的に厳しかった。

そんなこんなで、和葉自身も切り替えなければと思いながらも、
何となく一日の授業が終わり、家路に就く。そして、はっとした。
当初は、たべりながら目の前を歩行する、同い年ぐらいのだらしのない集団に眉を潜めていたのだが、
背後から腕を掴まれる感触には鋭い反応を見せた。

次の瞬間、背後の悪ガキは鋭い動きで地面に転がり、
駆け寄ろうとしていた前方の悪ガキ集団の動きが一瞬停止した。
背後の相手も一人ではない。少々人数が多い。
些か腕に覚えがある和葉だが、一度にかかられると少々まずい。

「いてっ!?」

防犯ブザーに手を伸ばした所で、前方の悪ガキ共が悲鳴と共に後ろを見た。

「おい、何してる自分ら?」

それは、押し殺した様な声。

「何やあんちゃん、格好つけてるとイテまうぞ」

石ツブテを食らった悪ガキ共は、特殊警棒やらバタフライナイフやらの得物を手にする。

「あー、ちょーどええわ」
「あ、あ…」

書いていて嫌になる程ベタな記述になるが、
和葉の大きな瞳が我知らずじわじわと潤みを広げていく。

「温厚なわしでもちぃと堪忍袋の緒がブチギレ真っ最中ん事があってなぁ、
虫の居所めっちゃ悪いねん。正当防衛、言い訳抜きで行けるなこらぁ…」

ひゅん、と、木刀が空を切った。

  *  *  *

「口ほどにも無いわドアホが」
「平次」

和葉は、吐き捨てる様に言う平次を前に、
まずは、女の矜持として、飛び付こうとする脚にぐっとブレーキを掛ける。

「あんたぁ…」

そんな二人の間を衝撃波が通りぬけ、近くの枝が弾けた。

「え?…」
「和葉っ!」

二発目が塀に埋まる。
地面に倒れ込み全身に平次の体重を感じた、と、思った時には、
その重さは和葉の上で見る見る二倍三倍に膨れあがる。
三発目は近くの電柱に弾けたらしい。

  *  *  *

「ああ、分かった」

携帯通話を終えた大滝が平次に向かう。

「向こうの建設中のビルから、太夫は道具置いてドロンや。
レミントンM700、ライフルマークの前なんかはこれから当たるがな、
米軍流れやないかと」
「そうか」

まさか文字通りの意味でドロンした等とは大滝も平次も想像もせず、真面目な会話を交わす。
既に、狙撃現場と着弾点周辺にはSATが二隊に分かれて出動していた。
そして、大滝がくるっと向き直る。

「ほな、行こか。安心せぇ、警察病院くらい連れてってるさかいなぁ」

優しい声を掛ける大滝以下、クソガキを取り巻いている警察官が発する空気。
それは、殺気、以外の何物でもなかった。

「あ、ああ、あ…あー、あの、お嬢さん、もしかなんかお偉いさんとか…?」

悪ガキの一人が連行されながら引きつった声で言い、
刑事の一人が耳打ちするとその場でズボンを濡らして膝をつく。

「おー、しゃっきりせぇー、柔道場貸し切りで待ってるさかいのー」

ぞろぞろと引っ立てられていくクソガキ共をぱちくりと見送りながら、
和葉は向き直った。
まずは、女の矜持として、飛び付こうとする脚にぐっとブレーキを掛ける。

「な、何してたん平次。おっちゃんの病院やなかったん?」
「アホ、おかんがべたべたひっついてるだけで十分、いるだけで火傷してまうわ。
なんつーかなぁ、和葉のおとんがあんだけ狙われたんや、
後はもう他に考えられんちゅう事でな、大滝はんと相談してや…」

「は?つまりうちの事囮にしたん?」
「あー、ま、そういうこっちゃ。
ええか、見えなかっただけや、府警の精鋭が完全に張ってた、和葉には指一本…」
「しっかり掴まれたけど」
「それは言葉の綾や、こういう時やからなぁ和葉」

「平次」
「だから」
「平次がずっと張ってた訳?」
「ああー、大事な手がかりや。それで、今一番いい線行ってる手がかりや。
ちぃとでもストレートに繋がるんなら、我が手でふん捕まえたらんとなぁ」
「分かった」

  *  *  *

「あー、俺らは一課、殺しの係だ。風俗どうこう言うつもりはねぇから、
聞かれた事に答えてくれ」

東京都内の女子大で、部下と共にさり気なく一人の女子大生を囲んだ横溝参悟警部は、
警察手帖を見せながら近くの喫茶店に移動する。

「ややこしい事になりますね」

事情聴取を終えて、横溝の部下が手帖を開きながら口を開いた。

「ヤマが東京でマル被の足取りが横浜川崎でその時のが東京のお嬢様大学、と」
「言ってたろ、地元じゃ面ぁ合わせたくねぇ事情もあるってよ」

横溝が嘆息混じりに言う。

「しっかし、臭せぇなぁ」
「臭いって、それは…」

ここまでの経緯で、石鹸臭いと言いたいのかドヤ臭いと言いたいのか、
その言葉を部下は呑み込む。

「今回のヤマぁ聞いたろ、弁護士、それもヤメ検の元特捜部長。
そんなモンにチャカぶっ放したらどうなるかなんざ、マルBやってりゃ見当も付くだろ」
「実際、東京のB担当から総攻撃で間違いなく組潰れる勢いですからね。
しかも、大阪の事件と連動ですから上の上まで持って行かれる」

「に、しちゃあお粗末だと思わねぇか?
前の晩にこれ見よがしにタクシー乗り回して最高級の店で三輪車やら何やらの大盤振る舞い、
しかもチップも何もピン札と来やがった」
「プロの仕事じゃあないと。実際、ケチなタタキで破門されたチンピラ、
それぐらいしか出て来てませんからね。後は、この男」

横溝の部下が、いくつかのルートから入手した似顔絵を開く。

「ソープでもタクシーでもドヤでも、この男が同行していたのは間違いない」
「これもなぁ、只一緒に豪遊してたってんなら何の容疑だって事になるが…」
「タイミング的に無関係な筈がない。
事件が事件です。この男を重参で引っ張る事が出来たら神奈川の大金星ですよ」
「ああ…」

横溝は、どことなく気のない返事を返す。
苦虫噛み潰しているのは今に始まった事ではないので部下は気にしないが、言いたい事は分からないではない。

「これ見よがし過ぎて、何かに引っ張られてる」
「なら、その手ぇ掴まえて引っ張り返すまでだな」
「はい」

  *  *  *

「おう、メールくれたんやな」
「ああ、狙撃されたってどうなってんだ?蘭がとにかく心配してるおめぇじゃなくて」

「ああー、分かってる。俺も和葉もピンピンしてるかすりもせぇへんかった。
けどな、素人やないで。
太夫は凶器のレミントンだけおいてドロンしよったけど、距離と集弾、
当たった弾丸の集まり具合から見て相当のモンや生きてて運が良かったてな」

「つまり、脅しじゃないって事か?」
「微妙な所やな、SATに問い合わせても
あの現場からわざと外す言うのは出来るかどうか言うレベルやと。
一課に四課、それに公安もその道のプロを捜して…
けど、多分工藤の知ってる方面のプロちゃうやろなぁ」

「だろうな。あいつらならそんな悪ガキと連むのも不自然だ。
それは偶然かも知れねぇけど、今の大阪で直接手を下して来るかってなるとなぁ」
「ああー、そんな程度の組織やったら今までなんも分からんブラックの筈が無い。
今の大阪は裏社会の坩堝みたいなモンや」
「そうか…何にせよ、無事で良かったよ。それで親父さんの容態は」
「土手っ腹に風穴空いたけどな、急所外してピンピンしとるわ」

平次の言葉に、コナンは安堵の息を漏らす。

「それで、犯人の方は?」

「本部長の自宅やさかいな、正門や建物のセキュリティーは金かけてる。
どうも原始的にご近所さんから塀超えて無駄に広い庭に潜伏してたらしいなぁ。
リビングから外見た所を見事に撃ち込まれた。
それで中から正門突破して迎えの単車で逃げよったはええけど、
単車ぶっ飛ばしてさっさと自爆してあの世行きや。

運転しとったのは地元がちぃと離れた、やーさんとトラブッて金詰まってたマル走(暴走族)、
撃ったのは資材会社の従業員ちゅう事になっとったけどな、その会社が安他茶振の裏の実行部隊や」
「安他…例の豆不二市役所ぐるみの…かなりヤバイ連中って事か?」

「ああー、こればかりは東京じゃ分からん事も多いやろな。
バックにちぃとややこしい団体ちゅうかなんちゅうか、
やぁさんもバッジ(国会議員)も引っくるめたもんが色々くっついとってな。

そのフィクサー安他が名目付けてその会社に仕事発注して、実の所は余所に丸投げ。
そのマージンが裏の報酬、そういう仕組みだったみたいやな。
今までも安他の不正に絡んで、監査請求人や強硬派の監査委員、議員、市民運動、
大概わやな嫌キチしとったらしいわ。確かに、安他はやぁさんとも連んどったけど」

「安他自身のバックは顔根阿留、そして安他は鈴木の件にも絡んで来てる」
「ああー、そうや顔根は大阪やけど…」

平次が、顔根が関西を本拠とする最大規模の暴力団の中でも指折りの実力者である事を、
平次は改めて説明した。

「…けど、安他が顔根と連むんはやぁさんの顔が利く時やな。
それ以外の荒事は資材会社の仕事だったらしい。今回のヤマはちぃとな…」
「そいつらじゃない?」

「一課が乗り込んで実行犯の身元と容疑説明したら、社長が真っ青になって今までやった事全部ゲロッた。
器物損壊や怪文書、汚物に死体にしまいにストレートな襲撃、マメドロ、殺しまでな。
一課と四課でその会社もケツモチの組も徹底的に叩いてる所やけど、今回の事件だけは否認し続けてる。

銃撃犯の自宅から封筒に入ったピン札が出て来てな、
その封筒に僅かに残ってた指紋が顔根の枝の下の方のモンやった。
四課から別件の逮捕捜索の絨毯爆撃で事務所空にされて枝の上のモンも大概引っ張られたけど、
指紋残した当の本人が失踪してもうてな、他のモンも関わりを完全否定や」

「現職の警察官、それも府警本部長と刑事部長、更にその家族まで手に掛けて無事で済む筈がない。
その事は暴力団が一番よく知ってる。しかも、ヤメ検弁護士二人狙われて東京でも大騒ぎだ。
しまいに地検のど真ん中に殺し屋だって?」

「ああー、間一髪和葉の親父さんが見付けたんやが、
後一歩ちゅう所で自殺されてもうた。仏さんのDNAなんかが中国の南の方やないかて、
分かってるのはそのぐらいちゅう話や」

「いよいよもってだな…そんな事して警察が黙って引き下がるなんて絶対に無い。
だから、仮にやるとなったら絶対確実に仕留めにかかる。なのに今回は杜撰過ぎる」

「ああー、そんなヤマにちぃとでもかすっとったら、その組は日本中の警察から叩き潰される。
だから、こうなったらバッジも極道も日本中探してもケツ持つ奴はいなくなる。
今回の件で、豆不二の所轄にも安他と連んでるのが大概おったんが分かったけど、
本部の猛者連中が柔道場借り切って親睦深めてる所や。
まして、顔根は古手のやぁさんや。やる時はやる言われてるけど、
最近そん中でもイケイケのモンどんぱちで亡くしてるし、
サツ官を弾くて発想自体出て来るとかちぃと考えられん」