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  *  *  *

「この契約書の事、聞かせてもらいましょうか?」
「これは、私の名前?いや、知りません。見た事もない」
「ほお、知らない…いつまでてんご抜かす気ぃや、ああっ!?」

大阪府警某警察署の取調室で、それまで落ち着いた口調で事務的な話をしていた刑事が、
書類の乗った挟み、史郎の目の前で豹変した。

「見た事聞いた事ない委任状から何で自分の筆跡自分の指紋出て来てるんや?
伊西田みたいなモンにに会社の持ち株叩き売ってや、
それでどうしたその代金どこしまいこんだとっととうとうて楽になろうや、なぁ」
「会社の株、鈴木の持ち株をそんな、私がそんなバカな事を…」

刑事の咆哮と共に、ばあんと机が揺れた。

「自分前は会長だか何だか知らんけど警察甘もう見るのも大概にしとけよああっ!」
「い、いや、私は、京都でも検事さんからその様に、しかし、本当に身に覚えが…」
「おいっ!!」
「ぼ、ぼぼぼ、暴力を…」
「舐めるなおらあっこの極道があっ!!」

史郎の胸倉を掴んだ刑事がキスしそうな距離で怒号を挙げる。
取調室のドアが開き、ガタイのいい、いかにもマル暴な刑事が無言で横に立ち史郎の髪の毛を掴んだ。

「い、いっ、ま、待て、この様な事が、弁護士に」
「やかましいこのヤー公っ!」

目の前の刑事が唾を飛ばして絶叫する。

「大人しう聞いとったらずのぼせよって大阪の四課ナメてるんやな、ナメてるんやろええっ!?
鈴木財閥かなんか知らんけどなぁ、いい加減シャブボケかましよって、
自分らこっちのマルBにどんだけじゃぶじゃぶ垂れ流した思とるんやええっ!?

自分らわしらから見たら只のフロント、企業舎弟極道以下の腐れボンボンや、
極道には極道のなぁ、大阪の四課のやり方あるんや、地検も裁判もそんなん今さらや。
精々今の内に紳士面しときや、いい加減運動不足やろなぁ、
柔道場でうちの若いモンがアップ始めとるさけ、楽しみにしときや」

「ち、違う、私は、私は知らない、私は知らない本当に…」
「言うとれ言うとれ」

  *  *  *

「局の方は?」
「私にもプライベートぐらいあるわ」

首都高を走る乗用車の後部座席で、水無怜奈が皮肉な笑みを浮かべる。

「昨日の一斉摘発、当然我が社も無縁じゃないわよね」

怜奈の言葉に、運転席の男は皮肉な笑みを浮かべる。

「あの辺の動向は当然気に掛けていた。我が社の利益とも決して無縁ではない以上」

怜奈の本来の職場の連絡員が、運転席から幅広い回答を返す。

「捜査の中心になったのは服部平蔵ね。
元々、この摘発のために大阪のトップに就いた、とも聞いてるけど」
「警察庁にその含みは確かにあった。サムライであり策士としても知られる服部平蔵、
そして、懐刀であり盟友と言うべき遠山銀司郎。
警察庁のキャリアの中で、あの人脈と対決出来る人材は他にそうはいない」

「それが安他茶振。闇のフィクサー、とでも言うべきなのかしら?」
「大阪の裏と表の接点として、税金と市場の利益を裏社会へと吸い込んできた。
最早、その様な存在が許される時代は過ぎ去った。
言わば、これはこの国がようやく到達した国家意思だ」

「国家意思、この国の、ね」
「無論、我が社、そしてその関連と法務省、
つまり検察幹部や警察庁のキャリア官僚の留学組、公安警察とのパイプは常に維持されている。
それでも、今回の摘発に関しては限られた情報しか入って来なかったのも実際の話だ」

皮肉な笑みを浮かべた怜奈の言葉に、連絡員は淡々と応じた。

「それだけ、厳しく情報を閉じて捜査に臨んでいた、そういう事ね。
実際、こっちにもほとんど伝わって来なかったから」

「現場の警察官、国税職員からキャリア官僚、検察、そして政財界の大物まで、
安他の人脈は裏社会に留まるものではない。
そのメスが鋭いものである程、えぐり出す病巣の深さ、広さを恐れたのも警察庁だが、
だからこそ、それが出来る者は他にはいない。
最早摘発は避けられないと踏んだ警察庁がそう判断して任せた。
その様な状況で大阪入りした彼らが細心の注意を払ったのは当然過ぎる程当然の事」

「そこまでしてでも、切らなければならなかったのね病巣を」
「既に、こちらでは外資と呼ばれる企業の中からも、
むしろその病的状況に適応しようとする動きが、
その事を憂慮する…もしもし…」

一昔前ならとにかく、今時携帯電話運転などで引っ掛かったら、
等と、言う暇は急ハンドルが与えなかった。

「ちょっと!仮にも現役のキャスター乗せてるんだから…」
「あんたも戻った方がいい…」

運転席からの一報を聞き、怜奈の目が見開かれる。

  *  *  *

高速からも車からも降りた怜奈は、
表の仕事の携帯を使った後で別の携帯を掛ける。

「もしもし?」
「ああ、生きてたの」
「何のジョーク?」
「なんか、随分キレた話が飛び込んで来たから」
「アタイがあんなドジ踏む訳ないでしょ。
大体、今アタイらがやる理由が無い下らない」

  *  *  *

「早いなぁ」
「着替え取りに来ただけや」

時計の針を少々巻き戻すと、
寝屋川市服部邸の廊下でのんびりとしていながら緊張感を含んだ会話が交わされていた。

平次はそのまま二階に上がったが、乾いた破裂音を聞いて窓に走った。

「自分何してんねっ!!」

窓を開けて怒鳴った平次が慌てて身を伏せる。壁が弾ける音が聞こえた。

  *  *  *

平次が居間に飛び込むと、果たして庭に面して開かれたガラス戸の前に平蔵が倒れていた。

「もしもし」

手にした携帯を顔に当てると、向こうから声が聞こえる。
110番に発信したまま駆け込んで来たからだ。

「もしもしっ、消防署に繋いで救急車やっ!
俺は服部平次や寝屋川市…………で銃撃事件発生、重傷者一名、チャカ持って逃げた…
聞こえる、多分ナナハンや。それ以上はまだ分からん!!」

一度電話を切った平次が携帯の電話帳を開いて発信する。

「大滝はん和葉の親父に伝えてくれうちの親父が弾かれて重傷やてなっ」

「喚くな、ダボ…」
「おい、オヤジ!」

血まみれで倒れていた服部平蔵が渋い声で口を開いた。
平次が改めて110番通報しようとしたその時、その携帯が振動する。

「もしもし大滝はん…」
「平次…なんかあったん?」

電話の向こうからは、言いかけた和葉が、一瞬間を置いて尋ねていた。

「和葉か、悪い今…どないした?」
「平次、あんたうちに小包送った?」
「小包?」
「あんたからうち宛の小包届いたんやけど、明らかにあんたん字ぃちゃうし」
「!?開けるなっ!!さっさと警察呼ばんかいおばさん連れて逃げえっ!!」
「!?分かったっ!!」
「わしや、遠山刑事部長の自宅に爆発物処理班寄越せ、大至急や」
「何やってんね!?」

悲鳴の様な声と共に和葉が電話を切り、脇から聞こえる声に平次が喚いた。

「やかましぃ、かすり傷や喚くな言うてるやろ」

携帯電話の電源ボタンを押した平蔵がドスの聞いた声で言う。

「あんたぁ」
「おお、静か、ったく、けが人に大声出させよってダボが、
喉が渇いてかなわん、冷やで一杯」

  *  *  *

「寝屋川市での銃撃事件に関し、刑事部長遠山銀司郎警視監より本部所属職員全員に緊急通達を行う。
本部鑑識、捜査一課、機動捜査隊、警備部の担当係を第一班と呼称し、
第一班と必要な制服警察官以外、現場より半径××圏内の立入を厳禁する。

所轄においても制服と刑事一課以外の立入を禁止する。
現場においては受傷者救護、現場保全、鑑識作業を最優先。
妨害する者はどこの何様であろうと直ちに排除すべし。

第一班を除く本部警視正以上の者は、今から三時間は寝屋川市内への立入を禁止する。
受け持ちの本部オペレーションルームで待機すべし。
既に寝屋川市内全域の緊急配備は発令済みや、
服部本部長との事前取り決めにより、本日一日最高指揮官として全ての責めはこの遠山が取る。
浮き足立つ事なく、各自、大阪府警本部警察官として自分らの仕事をきっちりせぇ、以上」

  *  *  *

改めて、再び時計の針を少々巻き戻す。
黒いライダースーツの上に
「フワフワオビ」と「四次元若葉マーク」と「石ころぼうし」と「かくれマント」を装着した一人の男が、
服部邸の庭に潜伏していた。

帰宅した服部平蔵が、何気なく居間のガラス戸を開く。
それに合わせて、黒ライダーは視覚可能な姿でぬっと庭先に現れ、
手にした22口径ベレッタを平蔵に向けて発砲していた。
ほぼ同時に、黒ライダーは携帯電話をワンコールする。
服部平蔵がこの時刻にガラス戸を開く事と一時間以内には生死の境で緊急手術を受ける事。
そして、一週間後の極めて良好な病状は「予定メモ帳」と「あらかじめ日記」により明記されている事だった。

黒ライダーが、中から正門の戸を開くと一台のバイクが停車していた。
運転手は大阪府内の別の地元の暴走族だったが、
暴力団関係の借金があって簡単に金で雇う事が出来た。
「うそつ機」で大物暴力団の関係をチラつかせたら尚の事だ。

携帯電話のワンコールでA地点からB地点に移動し、そこで人を乗せてC地点に走ると指示されていた。
又、この時間、管轄及び近隣の交番のパトカーと人員、
そして所轄警察署とこの地区を担当する機動捜査隊、機動警邏隊のパトカーの居場所は
全て「予定メモ帳」で個別に特定されて明記されていた。
黒ライダーを乗せたバイクは「予定メモ帳」に明記された通り、
C地点にある廃墟に到着する。

黒ライダーはそこに運転手を待たせ、廃墟に入る。
黒ライダーは、ライダースーツの中の「四次元ポケット」から機械箱を取り出す。
「天才ヘルメット」と「技術手袋」により「シナリオライター」を内蔵した機械箱を置き、
スイッチを入れる。

黒ライダーは一枚の写真を取り出して温水霧吹きを二度吹き付ける。
すると、「ペタンコアイロン」で圧縮されたまま「チッポケット二次元カメラ」で撮影されていた
黄色いジャンパーの若い男が姿を現す。
「シナリオライター」に導かれるままに、
黒ライダーと黄色ジャンパーは「入れかえロープ」で魂を交換する。

「オヤジからの指示だ、外にいるバイクに二人乗りしてD地点に向かってくれ、
D地点の場所は運転手が知っている」

機械箱に導かれるままに機械箱のスイッチを切った黄色ジャンパーは、
「うそつ機」を装着した口でそれだけを言って、
手袋をした手で数枚の万券を黒ライダーに押し付ける。
外からバイクの爆音が聞こえた所を見て、黄色ジャンパーは「どこでもドア」で無人島に移動する。
そして、「タイムベルト」で過去の世界にタイムスリップし、
そこに用意されている「予定メモ帳」にいくつかの書き込みを行う。

  *  *  *

たまには異文化交流と言うのも悪くはない。
ビールはそこそこに安手の焼肉を貪り食い、銭湯で一風呂浴びてから、
それでもまだ薄汚れた感じの男と共にタクシーで川崎の街を進む。

「おおー、ホントにいいのかよ兄弟」
「当然だともブロウ」

珍妙な会話を交わし、俺様の臨時の相方は意気揚々と反っくり返って店に突入する。
俺様としては、慌てず騒がず堂々とその後に続き雰囲気などを楽しむ。
俺様に言わせても、及第点と言ってもいいだろう。
まして、最高級との触れ込みが間違いではないソープランドの最高級サーヴィスなど、
あの様な男にはこの先一生無縁の筈だ。
ああ、この先一生無縁なのは当然過ぎるほど当然として、
この前の一生でも無縁である事も又確かな事だ。

  *  *  *

敢えて五番手、六番手それ以下に甘んじると言う俺様としては並外れた忍耐を見せつけながらも、
この際物量作戦でナンバー10迄攻略した俺様は、
はーひふーへほーな状態で出て来た自称myブロウと共にタクシーに乗る。
近くまでタクシーで乗り付け、最終的には徒歩で辿り着いた先は寿町の安宿だった。

さて、そろそろ、かつての恩人と言う肩書きに加えて、
もう一つ別の肩書きを明かす時が来た様だ。無論、「うそつ機」を装着した上でだ。
かつてその世界にいた薄汚れた男は、
「うそつ機」を装着した俺様の口からその世界の雲の上の存在の名前を聞き、腰を抜かしていた。

「つまり、この時間にこの男を弾くと言う事だ。
成功報酬は五千万円。弾いたら、とにかく東京都外まで逃げろ。
この件は極めて高度に政治が絡んでいる。
東京都を出たら、この番号に電話をする事。そうすれば後はこちらで対処する。
こちらで対処すると言う事は、警察からは間違いなく逃げ切れると言う事だ」

電話番号の書き込まれた手書きの地図と写真を渡しながら、俺様が言う。
地図の方は回収する予定だが、どの道筆跡は「ソノウソホント」で全くの別人のものに変更済みだ。
こうして話をしているこの時点でも、
俺様の肉体は「入れかえロープ」で手に入れた国境の向こうの人間のものであり、
更に「モンタージュカメラ」で別の顔を移植してある。

取り敢えず、俺様の告げた時間、場所で
この男がこのシリアルナンバーが刻まれたこの機種の拳銃を発砲する事は、
「予定メモ帳」をもって保障しておこう。

「ネムケスイトール」でこの男を熟睡させた俺様は、
「どこでもドア」で居心地のいいマンションの一室に移動する。
そこで、リストを広げてサイコロを転がす。
後は、「タイムテレビ」と「どこでもドア」と「タイムベルト」を駆使して
サイコロで当たった番号の人物に接触し「うそつ機」を駆使して交渉する事だ。

今回は、影の総理の使いとでも名乗っておこうか。
超法規的措置により一切罪に問われる事は無いと。
このリストには、やりかねない人物がリストアップされている。
事件の顛末は既に「あらかじめ日記」に記載済みであるため、
後は、それに合わせて当選者に交渉してやれば主導権を握る事が出来ると言うものだ。

  *  *  *

徳素濃二は、昨夜以来のトップを独占している
服部本部長銃撃事件のテレビニュースに強い関心を抱いていた。
それは、決して他人事ではないからだ。
ほぼ白髪頭、堅い印象のスーツ姿で徳素が自宅マンション玄関を出ると、
自宅玄関からついてきた黒服の男は、マンションの入口で倍増する。

「あああぁーーーーーーーーーっっっ!!!」

徳素が奇声の方を見ると、
果たして、そこに仁王立ちした男の手には拳銃が握られていた。

  *  *  *

「警視庁より各局、各移動………警備保障より通報………
………で銃撃事件発生………受傷事故に注意し………」

「あっちゃー、朝っぱらから当たりだよ」

宮本由美巡査部長が、おちゃらけた口調と共に無線マイクを手にする。

「あの…銃撃事件、拳銃、って言ってますよね」
「何?撃ち合いになるとか?」

怖々と訪ねる相方に、本部への連絡を終えた由美が声を掛ける。

「まー、そんときゃ…三池さん伏せてっ!!」

ふいっと視界が開けて目的地であるマンション前にミニパトが滑り込む。
と、同時に、由美の視界には、
茶色いジャンパーの男が、こちらに振り返るや拳銃を手に仁王立ちする姿が目に入る。
その顔は、完全にテンパッていた。

「あぁあぁあーーーーーーーーーっっっっっ!!!!!」

相方の頭を押しながらダッシュボードに向けて顔を突っ込んだ由美の頭上から、
フロントガラスの不穏な音が聞こえる。そして、外から聞こえる絶叫もよりクリアに耳に入る。
スピンする車内で、由美は胸を叩いた。

  *  *  *

「緊急発信!緊急発信………交通部………宮本由美巡査部長より………」

既に、使用許可の出た短銃を懐に駆け出していた美和子は、
思わず天を仰いだ。
側の高木に目で促され、歩きながら無線機を耳に寄せる。

「こちらに受傷者無し、車両に拳銃を数発発砲して逃走。人着は…」

  *  *  *

「三池さんっ」

由美に肩を叩かれ、
その隣で顔面クラクション寸前だった三池苗子がガバッと身を起こす。
そして、苗子は自分の短銃を引き抜ききょろきょろと周囲を伺う。

「取り敢えず、マル被には逃げられたみたい」
「そ、そうですか。現場を…」
「気を付けて」

真面目な口調の由美に言われ、苗子は小さく頷きドアを開く。
注意深く外に出たが、黒服の塊を目にして小走りにそちらに向かう。

「あの、………警備保障の」
「はい」
「ケガなどは?」

苗子の問いに、精悍そうな黒服がスーツを開き埋もれた銃弾の見えるベストを示す。

「おケガは?」
「ああ、大丈夫だ。彼らのお陰だ。助かったよ」

黒服の中心にいた徳素は、落ち着いていると言ってもいい口調で返答する。
苗子は、一度だけ深呼吸をする。

「一度、建物まで戻りましょう」
「分かりました」

苗子の提案に班長らしき警備員が同意する。
苗子は映画の様に銃口を上に向けながら蟹歩きに近い歩行を行い、
その側で、黒服の塊が寸分の隙もなく移動する。
お互い芝居がかっていると言ってもいい、
苗子に至っては直感的見様見真似に等しかったが、ギョロギョロ獲物を探す彼女を笑う者はいない。
時が来たら、間違いなく彼女もそちらに身を投げ出すだろうと班長も確信していた。

  *  *  *

東都環状線車内。
つり革を手にしたスーツ姿の初老の男に、別の男が耳打ちをする。
初老の男は、次の駅で降りていたが、その姿を外部から目視する事は困難だった。

「失礼」

駅ホームで、私服警備員の包囲を抜けた一人の男が、中心の初老の男に声を掛ける。

「SITの者です。事務所までご一緒させていただきます」

警察手帖を示しながらの短い挨拶。
かつて検察トップまで上り詰めた男にとって十分過ぎる説明だった。

  *  *  *

「由美っ!」

現場に急行した美和子が、無惨なミニパトの脇に立つ由美に駆け寄った。

「大丈夫だった?」
「えー、大丈夫。ったく、パトにもエスダボにもしまいにケータイまで、
あっちからもこっちからもギャンギャン言って来て喉ガラッガラ。
あんたらの指揮系統ってどうなってんのよ?重点警邏の指示来てたから流してたけど、
大事件の一番乗りなんてするモンじゃないわ」

実際、無線を聞いていても各方面からの説明要請にいつキレてもおかしくなかった由美が、
ガラガラ声で舌を出した。どうやら心身共に健康らしい。

「ナニモンなのよあの弁護士、大阪の関係とか?」

  *  *  *

「元特捜部長でしたね?」

コンビニのトイレで、白鳥は携帯電話に向けて言った。

「そう、かつての特捜のエース。それで、徳素さんは無事なのね?」

電話の向こうから九条が訪ねる。

「はい、現在所轄で事情聴取を兼ねて保護しています。
大阪の遠山刑事部長から来た警護要請でもトップクラスでした。
組対三課と鈴木関連企業が協議して、元々鈴木では主要な対象者に警備を付けていましたから、
こちらでもそれに連動して重点警邏の指示を出していました。大阪での摘発のキーマンでしたね」

「そう。徳素さんはかつて、東京地検特捜部の平検事、副部長、特捜部長を歴任して、
数々の重大事件で特捜部の一時代を作ったと言ってもいい辣腕。
退職後に弁護士として鈴木HDの事故調査室付顧問に就任した。
事故発生時には事故調査委員会の委員長も兼ねる立場でね。
その徳素弁護士に鈴木の役員を騙った社用封筒での告発文が届いたのが始まり。
当時の鈴木会長が伊西田に鈴木HD所有の株式の一部を売却した事を示す公正証書のコピーが同封されていた。
内容が内容で相手が相手だったから、徳素さんは監査役を通じて大阪の服部本部長に繋ぎを付けた」

「その、監査役もヤメ検。それもトップでしたね。
鈴木の負担で民間の警備と当方の重点警邏がついていましたが、
徳素弁護士の事件を受けて直ちにSITを差し向けました。
早速と言ってはなんですが、監査役の弁護士事務所があるビル内から、
見覚えのない観葉植物の鉢に仕込まれたプラスチック爆弾と起爆装置を冷凍回収しています」

「迅速な対応感謝します。監査役は元検事総長。自身も特捜部の出身で、
東京地検の次席、検事正、東京高検や最高検で徳素さんを惜しみなくバックアップしていた。
そして、二人とも、現職時代に服部本部長、遠山刑事部長との繋がりがあって、
二人に対する捜査上の信頼感や伊西田と言う存在の厄介さはよく知っていた。
二人が大阪に赴任した以上、何れ伊西田と対決する事になると言う事もね」

「服部本部長銃撃、遠山刑事部長に対する爆破未遂、そして今回の二つの事件…」

「検察は怒り狂ってる。捜査そのものに対する剥き出しの暴力、
只でさえ連帯感の強い法曹界で、特捜OBが的かけられた。
既に東京地検としては、刑事部に出向の形で、
特捜検事をそっちの帳場の本部付として大量動員かけるつもりよ。
恐らく大阪の、組関係の敷鑑に全面投入が指示される。
既に警視庁、と、言うより警察庁の上ともその方針で一致してる筈。
大筋で間違ってるとは思わないけど見込みに走り過ぎるのは危険過ぎる。
時間がありません。今の内に一課で足場の捜査を徹底して下さい」

「分かりました…」

言いかけて、白鳥は別の携帯を手にした。

「もしもし?」
「遅かった…」
「たった今、こっちにも恐らく別の連絡が入りました、現職です」