*  *  *

「あー、どうもどうも」

「架空人物たまご」を割った俺に、
そこから現れた四○○月はぺこりと頭を下げた。素直なのはいい事だ。

「早速依頼したいのだが、こういう料理を作って欲しい」

○葉五○は、俺から渡されたメモを受け取り注視する。
俺よりちょっと年下だが、全体にふくよかな感じに温かみが感じられる。
だが、普段は穏やかで愛嬌があるそのつぶらな瞳からは、今はプロの光が鋭くかいま見える。

「取り敢えず調理場に案内する」

かくして、俺は○葉○月を連れて二階から一階に移動する。
ここは、とある小さな中華料理屋。
ここに至る迄、「タイムベルト」で些か過去に遡った俺は金融関係の髪の毛を片っ端から採取して回り、
「アンケーター」で良心的だが金銭的に苦しい店を聞き出した。

そして、これと決めた店、つまり今いるこの店の店主とは
「フリーサイズぬいぐるみカメラ」と「うそつ機」で恩人にして友人の関係となり、
負けたらチャラの条件で金を貸し付けてインターネット競馬で馬券を買わせて恩義を不動のものにしてから、
「うそつ機」で強大なバックを匂わせつつ絶対に迷惑を掛けないと約束して、
こうして本日、店の面々には「慰安旅行」に出かけてもらった。

「必要な材料を書き出して欲しい。
予算の事は一切気にせず、料理長が依頼を呑み込んで作りたいものを作る事が出来る材料。
俺のバックは極めて強大なものであるから、ま、駄目元と思って書くだけ書いて見てくれ。
駄目なら後で変更する。検討結果は十分ほどで出るから」
「分かりました」

澄んだ声で答えた○葉五○は、
それでも熟考の上で渡されたノートに書き出して行く。

「それでは、これを」
「ん」

ノートを受け取った俺は、
一旦○葉五○を「瞬間固定カメラ」で固定して二階の寝室に移動する。
そこで、ノーパソを開く。
俺の本来の年収からすればスーパーハイスペックの部類に入るノーパソである事は認めるが、
このノートに書かれた材料に関して必要事項を把握する事に関してはトンデモパワーに頼るまでもない。

後は、「時差調節ダイヤル」つきの「どこでもドア」と「リザーブマシン」を組み合わせて
調べ上げた食材を金に糸目を付けずに買い漁り、
「石ころぼうし」を蕪って調理場に戻って四○五○の瞬間固定を解除する。
別に彼女に宇宙人か未来人か超能力者か何かなのではと疑われても構わないのだが、
一応もったいぶって四○○月の体感時間では十分ほど待たせて、食材を抱えて調理場に戻る。

「あー、こんなモンでいいか?それから、台所と機材の方も足りてるか?」
「はい、これなら大丈夫です」

可愛らしい声なのだが、その返答にはどこか力強さが漲っていた。
「グルメテーブルかけ」ってオートマチックな道具もあるにはあるし、
まあ、大体の事は出来るんだろうが、細かなニュアンスを一方通行すると
情報伝達の齟齬とか言うのが発生する可能性もあるからな。
後は後片付けまで一晩でやってくれましたって事さ。

その間に、俺としてはもう一仕事。
店の二階にある寝室に侵入した俺は、「チッポケット二次元カメラ」の写真を温水の霧吹きで二度吹きする。
その写真に撮影されていたのは、「ペタンコアイロン」で圧縮されていた国木田だった。

ああ、客船に戻って分身と本体の肉体を「入れかえロープ」で再交換した結果、
心身ともに本物になった国木田だ。
あの後シャワーは使わせてやった。妙な真似をしない様に
禁則事項を書き込んだ「キンシひょうしき」は突き立てておいたけどな。

それから、ジャージ姿で客船のリビングに戻った所を「グッスリまくら」で本格的に眠らせて、
「ペタンコアイロン」と「チッポケット二次元カメラ」で収納しておいた。
倒れ込んだ先の枕に仕込んだ「ねながらケース」に反応し、
むくりと動き出した国木田を俺は「分身ハンマー」で一撃する。

二人並んでパズルをスタートしようと言うタイミングでその二人を「入れかえロープ」で交換し、
パズルが終わった所で二人仲良く「ペタンコアイロン」で圧縮して「チッポケット二次元カメラ」で撮影する。

  *  *  *

「はーい、先輩達起きて下さい起きてくださーいっ!」

俺の言葉に、毛布にくるまって寝息を立てていた現役ENOZ所属の諸先輩達がもぞもぞと動き出した。

「ん、んー?」
「あれー?」
「何?ん?」

自宅で就寝中に侵入した俺に「グッスリまくら」で熟睡させられて運び込まれたガールズバンド四人組は、
当然と言えば当然だが全く事態を把握出来ていない。

「えーっと、ここは…」

俺がまず説明したのは、ここがどこであるか、である。
学校からでも歩いて行き来が出来る公営体育館なのだから、名前さえ言ってしまえばその点の問題は無い。
と言うか、ここまでは嘘では無いので、ここからが「うそつ機」の本領発揮だ。

「先輩達には昨夜からここで合宿に入ってもらってる訳ですが、
今朝がいよいよ本番です。
何が本番なのかと言いますと、これから予定通りプロモーションとジャケットの撮影を行います。
今日、ここで合宿をする事とそれに伴う欠席扱いは、既に学校側からの承認も得ています」
「え、えっと、ちょっと待って」

身を起こしてパンパンと顔を叩いていた中西先輩が慌てた様子で言った。

「そ、そう、確かに予定通り、なんだけど、えっと、なんか準備とか、ジャケットって確かCD?
ああ、そうなんだよね…」
「寝起きって事で、もっぺん詳しく説明します、いいですか?」

予定があった事だけ覚えていて中身はすっからかん、これ以上の恐怖は無いだろう。
そんな恐怖体験、責任を持ってキッチリ緩和しなければなるまい。

「正確に言えば、これはリハーサルです。
今は重大な企業秘密が絡むために詳しくは言えませんが、
今回のリハーサルを踏まえて将来本格的に撮影したものを、
とある有名プロデューサーに音楽と一緒に見てもらう、その目途が立ちました。

これも、先輩たちの才能と実力、不肖プロデューサーキョンの地道な営業活動の結果です。
そういう訳で、今日はその本番撮影に備えたリハーサルを行います」

「でも、これから撮影ってどんな感じで撮るのかしら?」

さすがリーダー、的確な質問です榎本先輩。

「まうその辺は、今日はあくまでリハーサル、気楽にいきまっしょう。
とーにーかーくー、ガールズバンドの合宿って事で、明るく清くに和気藹々と、

ついでに、若く弾けるアーティスト魂にありがちな酒池肉林モトイ
無軌道でインモラルで若気の至りで健康的でアナーキーにアーティスティックなお色気の
障子の五枚や十枚ブチ破る若きエロス満載のハイパワー青春路線って事で。

つまり、俺と麗しき先輩達がここまで過ごして来た熱く激しく楽しい青春の日々を
写真と映像でぶちかまさうぜベイベーって感じです。
とにかく、これから時間いっぱいそんな感じで撮りまくって、
どこをどんだけ削るかは後から考えます。今日はとにかく勢いのまんま突っ走る、そういう事です」

飛び跳ね髪の先輩達は、座り込んだまま顔を見合わせ、頷き合う。
何とか納得してもらえたらしい。

「と、言う訳で、今日のここでの合宿の間、
俺の呼び方はプロデューサーキョン、或いは略してキョンP、これで統一してもらいます。
ハッキリ言って先輩達の事、思う存分放し飼いにして撮影しますけど、
撮影として最後の手綱は握らせてもらう、そういう事です。分かりましたか?」
「分かりましたプロデューサーキョン」
「了解キョンP」

穏やかな表情で言う榎本先輩と、元気よく答えてニカッと笑う中西先輩。

「オッケー、今日一日その調子でお願いします」
「りょーかいキョンP」

俺の言葉に、岡島先輩財前先輩もいい乗りで付いてきた。
プロデューサーキョンの活躍は今始まった事じゃないからな。
今や、プロデューサーキョンはENOZの企画演出雑用係としてメンバーから絶大な信頼を得て、
その信頼の程は毎回一仕事の後におけるベッドの上でも熱く激しい献身からも身をもって伺い知る事が出来る。

無論、俺としてもその心憎いまでのご奉仕のみに甘える事なく、
メンバーその5としての更なる信頼獲得のためにその時その時全身全霊を捧げたつもりであり、
かつ、あくまでメンバーとしての情熱とアーティスティックな交流であるとして、
一対一の関係は厳に慎みメンバー内では全てオープンにして来た。

ここで、俺は「ウルトラストップウォッチ」のスイッチを押す。
そして、同じ体育館内でやはり毛布から身を起こして
ここまでの説明は共有してもらった肉体的には分身であるが精神的には本物である国木田を
「ウルトラストップウォッチ」でコンと叩く。

「最初に言っておく」

まだ寝ぼけ眼の国木田を前に、俺は口を開いた。
目の前の国木田は肉体的には「分身ハンマー」で呼び出された分身であっても、
精神的には「入れかえロープ」により注入された本人の精神だ。
この作業は豪華客船を離れる前に実行しておいた。

「俺は、お前の同級生であるキョンの双子の兄貴だ。
で、業界人としてENOZをプロデュースしている。
だから、ここではプロデューサーキョンあるいはキョンPで通っている。

撮影の差し障りになるので、その辺の事はここでは触れないで欲しい。
あくまでここにはキョンPあるいはプロデューサーキョンがいる。
そして、お前は事情により応援に駆り出されてENOZの合宿に参加している。そういう事だ。

取り敢えず、それまで何があったかは関係無い。
キョンはキョンって事で他人行儀にならなくてもいいが、
呼称は今言った通りプロデューサーキョンあるいはキョンPで通してくれ。
それからもう一つ、これは非常にデリケートな問題なんだが」

なるほど、男同士で顔が近くて声を潜める、と言うのは演出上それなりに効果があるらしい。

「お前がこうして雑用係2号兼撮影係助手として参加している事に就いては、
既に学校側の理解も得ている、と、言うより、ぶっちゃけた話校長命令だ。

大きな声では言えないが、このENOZ売り出しプロジェクトは
文部科学省公認、北高とその上の教育委員会の全面協賛プロジェクトでな、
お前はそのプロジェクトに学校一優秀で期待出来る生徒、として参加を命じられたって事さ。

そして、ここがもっと大きな問題なんだが、ハッキリ言って俺もお前もENOZの先輩達も、
途方もない借金を抱えてしまっている、そういう事だ」
「え?」
「あー、つまりだな、ENOZのメジャーデビューのためにだ、
関わりを持った事務所が先行投資で巨額の資金を投入した。
ENOZやプロデューサーの俺はもちろん、
事情があってその話に噛んでいたお前の両親にその親戚一同に至るまで、
その事務所に莫大な出資をしたんだな、さる筋から巨額の借金をして」

まん丸く開いていた目をぱちくりさせている国木田だが、
この「うそつ機」にかけて信じない、と言う選択肢はあり得ない。

「もう一度言うが、この辺の事情は俺もENOZも同じ、
今回のプロモーションが失敗したら、俺としては夜逃げの一家離散、
あちらのお姉様達はAVにソープランドにフル回転しても十年は追い付かない修羅場に突入するって訳だ」

ガシッと俺の両手で両肩を掴まれた国木田は、目をぱちくりさせる事しか出来ないらしい。

「いいか、今回のこのプロジェクトは必ず成功する。
そうすれば借金なんて一発でチャラになる。そこん所はなんら気にする事は無い。
鍵になるのはアーティストであるENOZの先輩達だ。
そういう事情で、あれで結構ナーバスになってる。表面上はそうは見えないがな。
そこでだ国木田、お前にはサンドバッグになってもらいたい。

このメイキングの撮影、先輩達のストレス解消も兼ねている。
真面目なお前には理解出来ないかも知れないが、
無秩序にアナーキーに徹底的に爆発的に悪ふざけに徹する。
その中から光るものを編集して見つけ出してメイキング映像にする。そういうコンセプトだ。

本当にヤバイ所は俺がうまく止める。
それまでは国木田、ちょっと、いや、かなり度の過ぎる悪ふざけに見えるかも知れないが、
先輩達のノリを大事にして変に突っ張ったりせずに流れに任せて、
先輩達の指示には絶対服従、先輩達の小間使いやらパシリやら雑用やらに徹してくれ。

そうしないと撮影自体がおじゃんになって俺もお前も
ついでにお前の知ってるキョンも実家が保証人って事で身の破滅だ。この通りだ」
「う、うん、分かったよキョン、あ、プロデューサーキョン」

両手を合わせて頭を下げる俺に、国木田はおどおどとして返答する。
ああ、悪人の俺は心の中で後ろを向いて舌を出している、否定しないよ。
こうやって「うそつ機」で信用させるにしても元々になる話は必要だからな。

「詐欺師」の「能力カセット」が上手く舌を回してくれる。
流石に通常の詰め合わせには無いカセットだったから、
「自動販売タイムマシン」でのオーダーメイド注文が必要ではあったが。

「この撮影中、雑用係兼助手として、お前は俺の完全指揮下に入ってもらう。
お前ぐらい利口な相手に心苦しいんだが、
さっきも言った通り真面目なお前の常識とは勝手が違う。
俺が仕切らなければ成功するものも成功しなくなって夜逃げ一択になっちまうからな。
つー訳で国木田、悪いがそこでちょっと待っていてくれ。

その通り、きょとんと座り込んでいる国木田を置いて、
俺は「ウルトラストップウォッチ」の時間停止を解除。
再びENOZのお姉様達への説明を補足する。

「あー、あっちで待ってるのが、
今回の雑用係二号兼撮影助手兼ENOZエンターテイメント班補欠の国木田です。
至って真面目な奴でそれがいいトコなんだが、今回は撮影の内容が内容ですから、
そのギャップを狙ってやってる訳なんで、
ここは一つ、そういう奴の意外な反応を撮影出来る様に…」

ここまで言って、俺は四人を集めて核心の部分を囁く。

「…てな相手してやって下さい」
「はーい」

説明を終えた所で、「マジックハンド」の見えざる手に掴まれた「ワスレンボー」が
国木田の脳味噌から今の説明を消去する。

  *  *  *

まずは、こちらで用意した水入り洗面器とタオルで顔だけ洗って、
パジャマに跳ね飛び髪のままでの朝飯だ。

「あははっ、何これ面白っ」

別に、中西先輩は怪しいノートを拾ったイケメン優等生の生態を見ている訳ではない。
「スポンジふりかけ」で作った水座布団を気に入って貰って何よりだ。

「でも、この床面白いわね」

榎本先輩も周囲を見回して言う。

「ええ、色々暴れても大丈夫な様に全体を特殊コーティングしました」
「手間掛かってるわね」

これに関しては、俺の説明に嘘は無い。
細かい所は以前に説明した通り、体育館の床全体に、
「水加工用ふりかけ」で作った「鉄ふりかけ」と「スポンジふりかけ」の板状ブロックを敷いて、
結果、「スポンジふりかけ」製ブロックが表面となっている床は畳よりやや柔らかい硬度になっている。
無論、一つ一つふりかけて手ごねする程暇ではないので、
「水ビル建築材」で大雑把に作った材料を大量にコピーして製造した。

そんな体育館の床の一角にちゃぶ台を置いて、
その上に置いた大鍋を囲んで朝食を取っているのが今の俺達だ。

鍋の中身は、先日「架空人物たまご」の○葉五○に作ってもらった雑炊。
丸まんまの鶏と細かく刻んだその臓物をアクを取りながらよくよく煮込み、
そのスープに薬味を合わせて、一度炊いて湯通しした大麦と玄米をもう一煮立ちさせたもの。

出来上がったものを
一旦「ペタンコアイロン」で圧縮して「チッポケット二次元カメラ」で撮影してしまっておいて、
ついさっき元に戻してこうして食卓に供している。
俺と国木田をENOZの先輩達がぐるりと取り囲む形での朝食で、
席に就いた時にはまだ寝ぼけ気味だった国木田も段々と視線が不審なものとなる。

「うん、これいいかも」

国木田の対面に座った中西先輩が、国木田の側に置かれた七味唐辛子に手を伸ばし、
取り上げてパッパッと振りかける。

「国木田くんも使う?」
「え、あ、いいです」
「ふーん」

そして、元の場所に戻した中西先輩に聞かれて、国木田は慌てた素振りで否定する。

「おい、国木田」
「う、うん?」
「ほら、早く食べないとなくなるぞ。撮影は体力勝負だからな。
先輩達も遠慮無しだからな」
「そうそう、美味しいんだから。早くしないと食べちゃうよ」

俺の言葉の後で、中西先輩が掲げた右手の指をパクパク動かしニカッと笑う。
その横ではリーダー榎本先輩もにこにこ微笑んでいる。
旨いのは旨いのだがどこか居心地悪そう、国木田はそんな感じで食事ペースを上げ始める。
結構結構。まあ、そのために朝は消化にいい、それでいてリキの入るメニューを選んだんだからな。
箸休めにはオニグルミの胡桃和えにオクラの酢の物、梅干しだって用意してある。

俺と国木田が一足先に着席していて、その周辺に、
ちょっと遅れて顔を洗ったパジャマ姿の先輩四人が現れて
三々五々席に就いた時点で国木田の表情は微妙だったからな。

やはりあれだ、こういうきっちりしてる奴だ。
下手するとズボンもずり落ちそうでさり気ない俺の指示でシャツボタンは全員全開って
ちょっと砕け過ぎた女子校乗りってのが、
国木田の真面目な脳味噌が若干腹下し気味ってのも分からんじゃない。
だがな国木田、このお姉様達との撮影現場はまだまだこれからだ。ダウンにはちょっと早いぞ。

  *  *  *

「ご馳走様」
「ご馳走様でした」

大方の食事が終わり、
パジャマ姿の先輩達がめいめい柔らかめの水の床に思い思いに寛ぎ
国木田の首があらぬ方向に向かっている中、俺はパンパンと手を叩く。

かくして、用意した大型バケツに食器を放り込み水を張って、
俺と国木田で一旦用具室に置いておく。
その水は、この体育館の一角にあるシャワーコーナーの壁に貼り付けた蛇口から出したものだ。

この壁には、床近くの高さに取り付けられた蛇口と
もう少し高い所に取り付けられたシャワーが幾つも設置されている。
ここで、改めて、有り余る財力と「天才ヘルメット」と「技術手袋」の各種機材に大いに頼り切りな
この体育館の基本設定を確認しておこう。

床の作りについてはちょっと前に書いた通り。
俺の持っているミニノートや簡略化したリモコン、
そこから発信された電波が体育館内にある受信機のアンテナに受信されると、
その受信機からケーブルを通って、
マンションの長門のフラットにある大型コンピューター内蔵の制御装置に伝わる。

そして、制御装置からの指令が別のケーブルを通って、
この体育館の中にある各種の機器に伝えられる。大方は秒以下の単位の時間差でだ。

AB二枚の防弾ガラスを用意する。
「スモールライト」で縮小した「スペースイーター」を使って、
その二枚を出入り口とする超空間トンネルを開通させる。
二枚の内の一方を体育館、もう一方を長門のマンションに「つづきをヨロシク」で固定設置して、
ケーブルは二枚を繋ぐ超空間トンネルを通して接続する。

同じ様に超空間トンネルが開通した二枚セットの防弾ガラスは必要なだけ用意して、
同様のケーブル接続などに利用する、と、こんな感じだ。
もし以前の説明との矛盾があれば、それは以後に改良したものとして解決していただきたい。

「じゃあ国木田、着替える前にシャワー使っちまえ。撮影はさっぱりしてからだ
時間の関係もあるからな。ざっくばらんに行くぞ」
「うん、分かった」

俺の指示を受けて、国木田は衝立の向こうでパジャマと下着を脱ぎシャワーコーナーに入る。

「冷たっ!」

衝立の向こうから聞こえた声に、ENOZのお姉様達がくすくすと顔を見合わせる。
シャワーコーナーは壁際の一角で、その部分だけちょっと床を低くしてある。

シャワーコーナーの床は中央に向けて非常に緩やかな下り先となっており、
中央にミニサイズの「スペースイーター」が超空間トンネルを開通させた
防弾ガラスが埋め込まれてそのトンネルにステンレスの網が被せられている。

超空間トンネルの出口は別の防弾ガラスに開通していて、
その防弾ガラスは「つづきをヨロシク」によって長門の自宅マンションの風呂場に浮遊。
防弾ガラスの超空間トンネルには強化プラスチックのパイプが接続されており、
そのパイプは「タイムホール」を通って営業終了後の大規模入浴施設の浴槽に到達する。

パイプが到達している大規模入浴施設の浴室は、
「人よけジャイロ」で確実に無人化した上で「吸音機」をセットしておく。
なお、体育館側の排水口は複数で排水口の数だけ排水パイプが伸びているが、
行き着く先の浴槽は一つだ。

シャワーコーナーの頭上には「かるがるつりざお」と「つづきをヨロシク」で
鉄板が床と平行に浮遊していて、鉄板には床に向けてスプリンクラーが取り付けられている。
排水先と同じ時間、場所の入浴施設大浴場の、排水先ではない複数の浴槽の中に、
「つづきをヨロシク」でノート大のプラスチック板を床と垂直になる様に浮遊させる。

プラスチック板には「スモールライト」で縮小した「スペースイーター」で超空間トンネルが開いており、
トンネルの行き先は別の浴槽に同じく浮遊しているプラスチック板と言う事になる。
浮遊の高さは、大体八分目まで浴槽を満たせば沈む高さだ。
結論として、指定した複数の浴槽が超空間トンネルで連結される形にしてから、
それらの浴槽の栓をして水を張る。

水を張る際には、予め作り置きして「フエルミラー」で量産コピー出来る様に
「チッポケット二次元カメラ」で撮影しておいた、
「水加工用ふりかけ」製ミネラルウォーター水粘土を大量に浴槽に詰め込み、
一斉に「水もどしふりかけ」を振りかけた。

水を張った浴槽の中でも最大の浴槽に浴槽に給水用のポンプを沈めて、
「タイムホール」と「スモールライト」ミニサイズ「スペースイーター」の超空間トンネルが開通して
「つづきをヨロシク」で固定された二枚の防弾ガラスを経由して
給水ポンプのホースとスプリンクラーに接続される。

「天才ヘルメット」と「技術手袋」を使ってもう一つ二つ工夫をしておいて、
給水用の電動ポンプには、「つづきをヨロシク」で稼動している手動発電機を接続しておき、
スプリンクラー不使用時には給水された水はそのまま同じ浴槽に排水される様に別のホースも接続しておく。

又、長門の部屋の制御装置、つまり俺の持っているミニノートやリモコンからの指示で、
同じ大浴場の床に設置した「温泉ロープ」から汲み上げているポンプのホースと水源を切り替える事も可能だ。
こちらも、用事が無い時は別の「温泉ロープ」の中に排水されている。

長門の部屋の制御装置から発せられる電波の一部は、必要に応じて更に別の機械に受信され、
その機械内を通って同じ機械の別のアンテナから発進される。
そして、その機械の本体は、大浴場と繋がった「タイムホール」に突き刺さり、
受信側のアンテナが長門の部屋、発進側のアンテナが大浴場に突き出している。
そして、スプリンクラーは、今正に国木田が体感している通り、
下に人が立ったら稼動する様にセンサーが内蔵されている。

壁側の水道設備であるが、
こちらもミニサイズの「スペースイーター」が開いた超空間トンネルに強化プラスチックの水道管を通して
その隙間を専用パテで塞いだのが実際だ。

その水道管がどこと繋がっているのかと言えば同じく閉店中の大浴場であり、
大体が同じ仕掛けで足下近くの蛇口からは浴槽の水が、
シャワーからは「温泉ロープ」の温泉が出る仕組みだ。
以前の説明との矛盾点に就いては、その後に改良を重ねたと言う事でご理解いただきたい。

  *  *  *

「もう撮ってるの?」

デジカム片手で座り込んでる俺に、既にパジャマシャツを持ち上げ
瑞々しい膨らみをぷるんと弾け出した中西先輩が笑って言った。

「あー、メイキングメイキング、それに今日のはあくまで練習、
撮って笑って本番に備えましょう、ってね」
「あっ、そーお?」

丸出しおっぱいでこちらに向き直った中西先輩は、
そのまま堂々の脱ぎっぷりで指示通りにシャワーに向かう。

「へっ、はっ、わっ?」

衝立の向こうから、何やら間抜けな声が聞こえて来た。

「きゃっ、冷たいっ」
「でも気持ちいーっ目ぇ覚めるわ」

「ウルトラストップウォッチ」で時間を止めている間に「石ころぼうし」を被って
衝立の裏側に移動すると、
冷たいシャワーの中で中西先輩が財前先輩、岡島先輩を追い回す様にしてきゃいきゃいはしゃいでいる中、
棒立ちになっていた国木田が泡を食った様に動き出した。

「あっ、すす、すいませんっ今出ます失礼しま、…」

その国木田の動きも、背後から首っ玉に抱き付く中西先輩の不意打ちを受け、ガクッと停止する。

「いいのよ、国木田くん」
「へ?」

諭す様な榎本リーダーに、国木田が又間の抜けた返答をする。

「これから一心同体のチームであらゆる表現を限界まで一緒に撮影していかなきゃいけないんだから、
焦っても駄目だけど個人的な事でストップ掛けられないし、
アート、って言うのは裸の付き合いが出来るぐらいじゃないとそこまで踏み込めないの」
「は、はあ…」
「そーゆー事そーゆー事」

榎本先輩の有り難いお言葉の間にも、
中西先輩は国木田の腋の下に左腕を差し込み、
左腕で抱き付きながら右手でずぶ濡れの国木田の髪の毛をぐしゃぐしゃ撫で回していた。

「ふふっ、今日はよろしくね国木田君」
「綺麗に撮ってね国木田君」

降り注ぐ天井シャワーの中、国木田に後ろから抱き付いた中西先輩が囁き、
その国木田の真ん前に立った榎本先輩がパチンとウインクして微笑みかけた。
すらりとしていながら脱ぐとなかなか先輩なんですな榎本先輩は、
さり気なく両腕で胸を挟む様にしながら、小柄な国木田に合わせて腰を屈めている。

その真ん中の国木田が言えば只只真っ赤な頬で目をぱちくりさせているのは、
すっきり目覚めた所で水源を「温泉ロープ」に切り替えられた
無差別天井シャワーの身体的反応だけではないのだろう。

「はい、チーズ」

既に衝立など撤去されたシャワーコーナーの中で、
先輩たちに促されるままに滴るままに直立反り返り棒立ちの国木田を中心に、
その右横に立って国木田の右肩に手を置いて微笑む榎本先輩、
国木田の左脛の前に片膝立ちで座り込みグッと親指を上げる中西先輩、
その両サイドで腰を屈めてピースサインに笑みを浮かべる岡島先輩財前先輩。
で、俺はそのシャワーコーナーの外でシャッターを押している。
うん、どっからどう見ても犯罪だな。