*  *  *

「ほいさぁーーーーーーーーーっ!」
「あーーーーーーーーーうーーーーーーーー」

地獄の坂道を上り終えた頃、俺は、宙に舞う男子高校生の大群を目にしていた。他校生だ。

「あ、ありがとう。街で会った総長とかヘッドとか番長とか言う人がどうしても付き合ってくれって」
「んー、困ったモンにょろねー。
ま、うちの方でそっち方面話し付けといて上げるからさー、当分行き帰り送ってあげるにょろ」
「ありがとう。あ、キョンくんおはようございます」
「あ、お早うございます朝比奈さん」ソソクサ

  *  *  *

パタンとハードカバーが閉じられ、団長様が本日の解散を宣言する。

「じゃあ有希、戸締まりお願いねー」

三々五々部屋を出る中、長門がすすっと俺に接近する。

「読んで」

おいでなすった。

  *  *  *

「午後七時、光陽園駅前公園にて待つ」

帰宅した俺は、長門に渡されたハードカバーより発掘した栞を翳し、
そこに書かれたメッセージを目で追っていた。
右手に栞、左手にポケットをぶら下げる。
このポケットを、捨てるか。

相手は長門だ、既に全てを知っていてもおかしくはない。
着々と感情豊かになりつつある長門はどう思う?やっぱり軽蔑か?
シラを切って済む相手ではないとして、じゃあどうする?

ポケットを明け渡して謝り倒せばわざわざ言い触らしたりはしない、と、思う。
「観測」上もいい影響はないだろうし、この巨大な力それ自体が、
今のところ文芸部で平和に拮抗している三大勢力にも波紋を広げかねない。

逆に、長門は存在自体がこのポケットみたいなモンだ、今さら手に入れてどうこうと言う事もあるまい。
長門を敵に回したら、生半可なトンデモパワーで対抗出来る相手ではない。
生半可なトンデモパワーでやろうとした奴がどうなったか、俺は目の当たりにしている。

手放すか、うん、手放そう。トンデモパワーは長門がいれば十分だ。何でもありだからなあいつは。
美味しいお茶とMIKURUフォルダの脳内補完があれば俺的には十分ですよマイエンジェル朝比奈さん。

パスワードの向こうにコレクションされた天使の微笑みに秘かに撮り溜めた
瑞々しい弾力と申し分ない質感に満ち溢れた深い深い谷間。
その下、その下のたわわな実り可憐な蕾をいやそんな神々し過ぎて
のおお朝比奈さん目がー、目が焼けるー。

「おかーさーん、キョンくんがー」

  *  *  *

一足先に、公園にたどり着く前の夜の路上で俺の目の前に現れた長門は、ちょっとだけ驚いた表情を見せた。
長門がここに来るのは「予定メモ帳」に書き込まれた既定事項、って奴さ。

「時間があったからブラブラしてた」
「そう」
「話、あるんだろ?」

俺の言葉に、長門はちょっとだけ頷く。

「朝比奈みくるに異なる時間平面からの干渉が行われている」
「ほう…」

無駄と言う考えを頭の奥に押し込めて、ポーカーフェイスで耳を傾ける。

「ただ、朝比奈みくるの時間平面を基準とした場合、干渉の技術は大幅に旧式。
恐らく、外部動力式時間平面移動機器をデフォルトとする世代のものと思われる」
「そうか」
「そう」
「長門、俺からお前に言うべき事は何にもない」
「そう」
「長門、お前は普通の人間じゃない、と言うかそもそも人間じゃない。
この銀河を統括する情報統合思念体によって造られた
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイス。それがお前長門有希だ」

「タイムテレビ」すら危険な相手が長門有希だ。再現には苦労させてもらった。

「そうさ、この宇宙にはお前の親玉、肉体を持たない超高度な知性を持つ情報生命体。
情報統合思念体が確かに存在してるんだよっ!!」

おーし来いナ○ヤ・タナ○。

「そうさ、お前は照れ屋で純情可憐な眼鏡っ娘文学少女なんかじゃない、
全然普通の人間なんかじゃない無敵の宇宙人アンドロイド様、
それが長門、お前なんだよ」

タッ、と、地を蹴る乾いた音を背後で聞いた。
何か、変なスイッチを入れちまった気がした。

  *  *  *

「っ、てぇ…ヤベェってこれ…
こりゃ、今すぐ傷が塞がって完治する、なんて事はあり得ねーな」

随分楽になった。

「立てない、立てないってこれ、こんだけ出血してんだから、
今すぐこの貧血状態が改善されて立ち上がる事が出来る、なんて事ある筈ねーだろ」

ごくごく当たり前の常識的な事を口走りながら、
ふーっと息をついてよっこいせと立ち上がる俺の姿を見て、
朝倉涼子は目をパチクリさせていた。
あいにくだったな、明日の朝、自宅のベッドで爽やかに目覚める事は
とっくに「あらかじめ」ってタイトルの日記に書き込み済みなんだ。

「なっ、な?どうして?」
「朝倉涼子の両脚は今すぐマヒしたりはしない」
「!?ちょっ…」

軍用ナイフを構えて今まさにこちらに向かおうとしていた朝倉が、
前のめりにぶっ倒れた。

「ちょっ、な、何これっ!?」
「朝倉涼子は今、ギンギンに目が冴えて眠れない」

終わった、な。
さすがにこう何遍もとなると、後でこってりお礼させてもらわないとな朝倉。
大いびきの朝倉を避けて、俺は歩を進めた。

そこでは、眼鏡を掛けた長門が地面にくったりとしている。
どうやら気を失ったらしい。
あのポーカーフェイスの完璧アンドロイド長門有希にあるまじきだよな、長門。

大丈夫だ、これからは俺が守ってやる。
まあ、当分の事になるだろうがな、
実際俺の周囲に実物がこんだけうじゃうじゃしてたんだ、たまには神様ってのもいいかも知れん。
だから、たまには普通の女の子ってのもいいんじゃないか長門。

  *  *  *

そういう訳で、最後のトンデモ仕事といこうか長門。
俺は、長門の口に「ソノウソホント」を装着する。
そして、腕時計を確認してから書き込んだメモを「シナリオライター」に挿入し、着火する。

「………が…時…分に飲んだ「ウソ8OO」の効力は三十分。
過去の言葉は嘘のままだけど、失効した後に何を言っても「ウソ8OO」の効果は発生しない」

はいよく出来ました。お休みなさい。
改めて長門にシャミから抽出した「ネムケスイトール」を発砲し、
安らかな眠りを与えた。

  *  *  *

「んー…」
「よう」

むずかる様なうめき声とともに、ソファーの上の長門が身を起こす。

「…あなたは…ここは…私の家…」
「お前が夜のお散歩の最中に貧血起こしてたからさ、ちょうど通りかかった俺がここまで運んで来たって訳だ」
「私は…」

寝ぼけ眼の長門は、自分の両手を見ていた。

「だから、あれだ。お前はこの銀河を統括する情報統合思念体によって造られた、
対有機生命体コンタクト用ヒューマノイド・インターフェイスなんかじゃないって事だ。
お前は無敵の宇宙人アンドロイド様なんかじゃない。
お前は普通の人間で普通の女の子で照れ屋で純情可憐な眼鏡っ娘文学少女だって事さ、そうだろ」
「…そう…」

俺の口に装着されている、「かたづけラッカー」を吹き付けた「うそつ機」は、
少なくとも今の長門には見えていない筈だ。

  *  *  *

「な、なんなのよこれ?」
「殺人鬼には言われたくないな」

「チッポケット二次元カメラ」の写真の中から湯を浴びて復活したばかりの朝倉は、
長門のマンションの和室で、俺に見下ろされながら這いつくばっていた。
立ち上がろうとしてべたんとうつぶせに倒れた所で、俺は、「きせかえカメラ」で朝倉を撮影する。

「なっ、な?…」

白い靴下とスニーカー以外何も身に着けないと言うファッションセンスは
朝倉にとっては驚愕するほど革命的なものだったらしい。

「こう何度もじゃあ、礼の一つや二つじゃ収まらないよな朝倉」

笑みがこぼれた俺の顔を見て、朝倉はバッと両腕で自分の胸を抱く。
どの様な礼にになるか、その形式について心当たりがあったのだろう。当たらずとも遠からじと言った所だ。

「いいか朝倉、お前はこのままこの格好で北高のグラウンドまで走って、
朝礼台の上で開脚倒立で三回回ってワンと唱えてそのままこの格好のまま帰宅するんだ、いいな」
「はあっ!?何を言っているのっ!?」

「ウルトラストップウォッチ」で時間を止めた俺は、
それでも呆れた口調で叫んだ朝倉の足首に、「階級ワッペン」を貼り付けた革リングを装着してから
時間停止を解除し、同じ言葉を繰り返してやった。

「い、や、いやあああああ…」

安心しろ、
警察に捕まる事なく無事帰宅出来る事は「あらかじめ日記」とかってチート道具が保障してくれている。

  *  *  *

「よう」
「…あ…こんにちわ…」

翌日放課後、文芸部室に足を向けると、
本から顔を上げたこの部屋の本来の管理人が、椅子に掛けたままぺこりと頭を下げた。
こういう長門もなかなか可憐なものだ。

「こんにちわ、キョンくん」
「ああ、こんにちわ朝比奈さん」
「これはどうも」

宇宙人未来人超能力者の揃い踏み。
ただし、最初のは「元」がつく。
長門本人を含め、俺が作った長門の現状はそれこそが本当の事であり昔から本当の事であると、
昨夜の内に「うそつ機」を使ってこの三人にはこってりと吹き込んである。

「予定メモ帳」で通りがかった所を急襲した古泉に始まって、
森さんから更にその上に、手繰って手繰って「機関」についてはほぼ全面的に掌握させてもらった。

ターゲットに近づく手段は「ウルトラストップウォッチ」や「通りぬけフープ」。
「うそつ機」や「階級ワッペン」で必要な事を吐かせる。
そして、「メモリーディスク」や「ワスレンボー」で尋問の記憶を消去する。

地道な作業だったが何しろ相手は「機関」だ、
「宇宙完全大百科」で「機関」なんて単語を検索するなら、
その前にプリントアウト用の無人島が必要になる。

それよりは手堅い方法で、「機関」とやらの全容を把握し
指揮系統への介入や情報入手も簡単に出来る手を打った。まさか黒幕があの人だったとはな。
とにかく、「機関」の監視機能は今や俺の掌の中。
学校内や町内、関係者、情報統合思念体への監視は今や実質無効化している。

「ああ、今出ますね」
「そうですね」

だから焦る事は無い。今はこの笑顔だけで十分。
ドアの向こうの衣擦れを聞きながら、今や唯一 ネ申 として目の当たりにする事などいつでも出来る、
その余裕の空気を胸の奥まで吸い込む。

  *  *  *

「キョンくーん」
「あははっ、待って下さいよ朝比奈さーん」

きらめく陽光の下、オレンジ色の大胆ビキニに収まりきらない素晴らしいプロポーション、
特にぶるんぶるんと揺れてる辺りを強調する様に駆け出す朝比奈さん。
その向日葵の様な笑顔を、俺は追い掛けていた。

「あんっ♪」
「あははっ、捕まえたーっ」

その瞬間ビキニブラがはらりと落ちて、
俺の両手は掌に余るたわわな膨らみを後ろからわしっと、

  *  *  *

ベッドの上で身を起こしながら掌を見つめていると、
知らない筈の素晴らしい弾力が残っている気がした。
パジャマズボンとトランクスのゴムを黙って前方に引き、その中に滞っている感触が夢ではない事を確かめる。
いい加減、フロイト先生も腹筋崩壊か顎関節症で入院した頃だろう。

俺の思いは自然、数時間前に遡る。
その時、家族全員を「グッスリまくら」で熟睡させた俺は、
寝室に用意した「かべ紙秘密基地」の中へと移動していた。

広々としたホールの中央に鎮座するのは、四角い箱の形を借りた我が女神像「MIKURUフォルダすうぱあ」。
長門が普通の女の子になってハルヒの観察と言う任務から事実上解放された今、
必然的にトンデモパワーによる朝比奈さんの観察任務は俺が一手に引き受ける事となった。

だからこうして、日々の成果をその目で編集、確認している。
地道な観察作業の技術的視点は、かつて長門に阻止された、と言えばそれ以上の詳細は不要だろう。

「天才ヘルメット」と「技術手袋」で作った接続機器を介して
未来機材の映像データを現代の機器に移動し、
一次データを保存しつつ「能力カセット」で手に入れたクリエイターな才能で編集する。

そして至福の一時。
ソファーに寛ぎバカラグラスの葡萄ジュースを傾け、
完成された最も効果的に刺激的な編集済み映像とメイキング集を心行くまで耳目に焼き付ける。

「フリーサイズぬいぐるみカメラ」で適当な大人の姿を借りて競馬場に通い、
幾度ものバージョンアップを重ねた結果、今やこの神殿のご神体にはスーパーコンピューターが鎮座し
ホームシアターな大画面に音響設備と接続されて俺にその奇跡の姿を現している。

室内にあるレバーを下げると、「つづきをヨロシク」が普段はせっせと空回りさせている大量のハンドルが、
巨大な発電機と接続されて機器の供給を満たす。これも「天才ヘルメット」と「技術手袋」様々だ。

朝比奈さんのクラスの時間割を毎日欠かさず確かめ、体育の授業の前後には特に念入りに監視の目を光らせ、
団活でのコスプレショーの後先の目視確認。
そして、自宅で制服をリラックスした姿に着替えてお風呂に入ってベッドに入って、
不思議探索前にちょっと余所行きなお着替え、帰宅してからの部屋着へのチェンジ…

長門に察知される危険がなければ、その任務を遺漏無く把握できるだけの道具はいくらでも揃っている。
いや、把握するための道具でもなかろうが、これを把握するための道具ではない等と言い出す奴がいたら、
製造物責任PL法的見地からして馬鹿としか言い様がない。

無論、その度に自らの手でしかるべく処置して来た事は言うまでもない。
そうでもせねば歩行すら困難となり基地からの脱出もかなわなくなるのだから当然だ。

  *  *  *

回想終わり
と言う事はつまり、
俺の脳髄に刻まれた我が女神の魅力が俺の処理能力を大幅に上回ったと言う事になるのだが、
それは当然だろう。こうして回想しているだけでも、全く節操と言うものがない。

「どこでもドア」を床に立て、「時差調節ダイヤル」つきのノブを回す。
ドアの向こうに広がるマンションのリビングを進むと、
意外な事に、バスルームから水音が聞こえていた。

バスルームのドアを開けると、辛うじて華奢な腕でほの白い裸体を抱いた長門が、
目を真ん丸に見開いたまま呆然と突っ立っている。
スタスタと前進した俺はそんな長門をあっさり壁際に追い詰める。
ぎゅっと抱き締め、腰を締めるゴムをずるりとズリ下げ腰を落とす。

「はっあっあっあっあっあっ」ブルブルッ
「ふんふんふんふんふんっ」ブルブルッ

キツイ締め付けの中から肉体連結の解除を許可した俺は抱き締める腕の力をゆっくりと緩め、
その中に収まっていた長門の体がずるずるとタイルへとへたり込む。

顔を上げた長門がハッと目を見開いたその瞬間に、
シャミセンから充填済みの「ネムケスイトール」を長門に撃ち込んだ俺は、
目的通りパジャマズボンとトランクス、ついでに随分と濡れたパジャマシャツを脱ぎ捨てる。

手近な洗面器にシャワーを注ぎ、その中で持参の石鹸と共に脱いだものをじゃぶじゃぶと揉み込む。
泡を流し、絞った洗濯物を手にバスルームを出て、持参のバスタオルで水滴を拭い去る。
バスタオルと洗濯物を「チッポケット二次元カメラ」で撮影する。

「石ころぼうし」を被ってバスルームに戻った俺は、
「ゆめふうりん」で長門の脚を開かせて、楚々としたピンク色の花園をシャワーで清める。

その奥で何時何分に一匹残らず自然死を迎えると言う事は、
俺が先ほど体内から放出した精液中の精子の中の最後の一匹が迎える既定事項として
「あらかじめ日記」に明記した所だ。

洗剤で洗面器を洗いシャワーを戻し
「天才ヘルメット」と「技術手袋」で作った強力バッテリーと接続した強力換気扇を取り付けた
「どこでもまど」を二つ使い、シャワールームの空気を一挙に入れ換える。

「空中シューズ」でほぼ天井に張り付き状態となった俺はと言えば、
「ネムケスイトール」で長門から睡魔を吸収しつつ、
「マジックハンド」で握った「ワスレンボー」でちょっと記憶を飛ばしてやる。

ちょっとの間きょろきょろしていた長門は、小首を傾げてから再びその玉の肌に水滴を弾き始めた。
長門はシャワーを止め、脱衣所に出て、バスタオルで体を拭ってパジャマ姿になる。
ベッドに入り、照明を落とす。

「ん、んっ」

ベッドに入って小さくうめき声を上げた長門は、
断続的に小さく声を漏らし、白い頬を僅かに赤く染め小鼻をぷくっと膨らませて
掛け布団を僅かに波打たせてから安らかな顔で寝息を立て始める。

「グッスリまくら」で長門を確実に熟睡させた俺は、リビングへと移動する。
「チッポケット二次元カメラ」の写真に湯を垂らして実体化させた先ほどの洗濯物。
「つづきをヨロシク」を使って摘み上げる形でリビングの中の空間にぶら下げた。

ぶら下げた洗濯物には、やはり「つづきをヨロシク」で空中固定したドライヤーの温風が当てられている。
ドライヤーのコードの先では、「つづきをヨロシク」が手動発電機を回転させている。
少なくとも火のつかない距離を選んだ以上、普通に待っていては退屈は避けられないので、
「タイムベルト」で少し先の未来へと移動する。

洗濯物の乾燥を確認してからドライヤーのコンセントを抜き、
ドライヤーと発電機を「つづきをヨロシク」ごと「チッポケット二次元カメラ」で撮影する。
乾いたトランクスとパジャマを身に着け、「時差調節ダイヤル」つき「どこでもドア」で
未明の寝室に戻った俺は、ベッドに座り直して今回の反省点を振り返る。

深夜二時だとまだ長門は就寝していない可能性があるという事がこれで分かった。
次に出向く時は「タイムテレビ」で先に室内の状況を確認し、
「ネムケスイトール」とローションとエアマットと
ボールギャグと手錠と開脚式足枷と三脚と防水ビデオカメラを用意する必要があると言う事だ。
貴重な教訓だった。