*  *  *

まだ、信じられないと言う顔つきで目を見張っている三百代言を前にして、
応接セットに掛けた俺様はテーブルに二台のICレコーダーを置く。

「大事な話ですからな、録音の上、メモリカードの一枚はそちらで保管いただきたい」
「分かりました」

弁護士が落ち着きを取り戻した風に返答し、話は始まった。
時間は十分にある。相談料としては規定よりはるかに過分な貸切料を支払っている。

「緊急にして極秘の資金調達でして、是非とも先生の力をお借りしたい、これこの通り」
「い、いや、頭を上げて下さいよ会長」

大まかな説明の上で遂行された俺様の我ながら臭い猿芝居に、
応接セットのテーブルを挟んだこの事務所の所長である弁護士が慌てた様子を見せる。
大筋の話がまとまった所で、向こうにもよくよく確認させた書類に俺様直々に署名を入れ、印鑑を押す。
「ソノウソホント」が今の俺様の肉体に合致させた筆跡が淡々と書面に刻まれる。

「それでは、今申し上げた通り。報酬は全額前金で」

俺様が鞄から取り出した札束は、三百代言が垂涎するには十分過ぎる厚さだった。

「今回、先生には色々とお手数を掛けますからな。まあ、私も歳ですからなぁ。
報酬に多少の誤差はあるかも知れませんが、領収書の額面は契約書通りで一向に構いませんぞ」

実に卑屈な笑みだ。薄汚い世界をうろちょろしている三百代言には相応しい。

  *  *  *

弁護士事務所での商談を終えた俺様が隠れ家であるマンションの一室に戻ると、
リビングでは見慣れた顔の若い男が座布団の上に正座をして、
墨汁を満たしたバケツを脇に黙々と写経を続けていた。

その静粛なる光景を脇に、俺様はと言えば挿入していた「俳優」の「能力カセット」を外し、
俺様の筆跡を変化させていた「ソノウソホント」の効果を同じ道具を使って撤回する。
それから、写経する男の脛の横に「ウルトラストップウォッチ」を置いた俺様は、
写経する男の背後に回り、彼の頭部を取り囲む「集中力増強シャボンヘルメット」を専用針で破裂させる。

「シナリオライター」できっかけを作られた写経を中止し、きょろきょろと周囲を見回す男に、
「入れかえロープ」の一端を握った左手に俺様は間髪入れず右手に握った「シナリオライター」を着火、
目の前の男にロープのもう一端を握らせる。

一瞬途切れた視界が蘇るが早いか、俺様の右手は「ウルトラストップウォッチ」のスイッチを押していた。
うむ、やはり自前の肉体はいい。
少しの間、脚を伸ばして血行を回復させた俺様は、チラと後ろに視線を走らせ、
両手にライターとロープを握って立ち尽くすと言う実に趣味人な初老の男性がいる事を確認する。
「シナリオライター」には、一瞬だけロープを握ると書かれているだけなので何等問題は無い。

後は、時間停止を解除して、「メモリーディスク」で写経中の記憶を改ざんし、
適当な場所に放り出す。いつもの手順だ。

  *  *  *

全国展開している某居酒屋チェーン本部第一営業部長に似た男。
それが今回のコンセプト。

まず、肉体的に似通った男のクローンを「クローン培養基」で作り上げる。
クローンのオリジナルは大昔の、それもアジア大陸で発見した。

次に、そのクローンに「モンタージュバケツ」で顔を移植する。
その際には、「モンタージュバケツ」の写真を数値化し、部長本人の写真を基準として、
「最も近い形の別人」の写真パーツを取り揃えて移植する。

顔を移植されたクローンに、今度は心を移植する。
そう、この俺様の気高き心を「入れかえロープ」で移植する。
その後で、クローンの肉体を得た俺様は「ソノウソホント」を装着し高らかに宣言する。

「今の俺様の筆跡は…」

俺様が告げたのは、本来縁もゆかりも無い某海外在住日本人の住所氏名。

「…と言う男に酷似しているらしい。どんな精密な筆跡鑑定でも同一人物で矛盾無しと言う程に」

そう言い終えた俺様は、「ソノウソホント」を外し、「俳優」の「能力カセット」を挿入する。

  *  *  *

「なるほど、秘密裏に現金を調達したいと言う事ですか」

中国地方の某県庁所在地、とある金融業者の事務所応接セットで、
事務所の主たる金貸しが目の前の顧客に確認する。

「はい、非常に秘匿性の高いプロジェクトでして。担保はこちらを」

顧客が差し出したのは、約束手形だった。

「もちろん、融資を頂けるのでしたら、部長として裏書きをした上で、
表には私個人がサインをいたします」
「ほう、つまり、会社としても個人としても保証人になる、と、仰る?」

金貸しの口調はソフトなものだったが、それだけに確かなものを求めていた。
目の前の客は、大手の居酒屋チェーン営業部長の名刺と運転免許証を示し、
その身元は業界用のデータベースでも確認した。
それに、最近経済誌にも登場したやり手部長なので、それとなく誌面から面を割る事も出来た。

「はい。このプロジェクトには社運がかかっています。
そして、私個人の命運もこのプロジェクトにかけています」

やはり、静かに熱意を伝える言葉を聞き、金貸しは隣の部下に促す。
手形のコピーを取り、金貸しとその部下は一度ソファーを離れコピーを手にパソコンを操作する。
検索するのは表のデータベース、そして、取捨選択に技術が必要な裏のデータベース。

手形の振出人は東京都内の金融業者。ここの事務所とは代紋が違うケツモチがついている。
しかし、その後に並んでいるのは、そこそこ優良なカタギの関連業者。

「確かに、御社の信用ならば、その条件での融資はむしろ有り難い。
しかし、現金でその金額と言うのは、当方ではかなり…」
「三割」

競りを仕掛ける金貸しに、俺様が告げる。

「現金が三割。三割が一週間、四割が十日のサイトの手形。ここが限度です」
「…いいでしょう…」

カタギの大手にしてはなかなかのやり手だ、と、金貸しは思う。
ここまで、それだけの静かな駆け引きがあった。

手形に裏書きをする、手形の表面に自筆でサインする、と言う事は、
この手形が飛んだ場合、保証人として額面通りの金額を支払うと言う意味。

営業部長名の裏書きで代表権が認められるのかに若干の疑義があるとしても、
相手はカタギ、そこまでやってもらったら厳密な法解釈以前にやり様もある。
裏のデータベースからは部長個人の浪費借財も見あたらない。

部長の勤める、裏書人の名義となる会社の経営情報、そしてそれ以外の取引先らしき企業のそれを見ても、
利益は薄くても手堅く稼ぐ事が出来る。街金の利子の高さは踏み倒しへの保険。
この相手なら、ここで示されたギリギリ安い利子でも十分に行ける。

  *  *  *

(株)「レッドモー商事」は、とある雑居ビルの一室に小さな事務所を構えていた。
事務所の言わば唯一の常任メンバーである女性事務員は、自分と主任と社長をメンバーとして認知していた。

事務員の仕事はと言えば、毎日主任から渡される書類の中から指示通りの手順で数字を抜き出し、
それを指示通りの手順でエ○セル処理する。それだけ。
定時通勤に一片の問題もない仕事量であるため、ちょっとした資格で採用されたこの仕事は実に有り難かった。

主任は外回りと称して勤務時間の大半を外で過ごし、社長は輪を掛けて滅多に顔を出さない。
この日、ちょっと変わった事と言えば、書留郵便が届いた事、
その時は珍しく社長が在社しており、社長が直接郵便を受け取り、
社長は事務員が全く与り知らぬまま郵便を持って事務所を後にしていた。

  *  *  *

「既に、県知事選の裏公約として市街化調整区域の解除は内諾を得ています。
それは当選後にも念書を取りました。カゲツラさんには非常にご尽力いただいた。
しかし、地元対策などがありますから、あくまで極秘にお願いしたい」

ホテルの一室で、応接セットに掛ける高桐野の前で男が言った。

中部地方の某県庁所在地で、自らの名から取った「タカキリ金融」を経営する高桐野。
今日は、大仕事を持って来たと言う加下連に求められ、この部屋を訪れていた。
目の前のソファーに掛ける男は、加下連が言う通り、
大型スーパーマーケット、ショッピングセンターを傘下に持つ巨大流通グループの支配人を名乗る。
高桐野は、一応、免許証と代表権のある支配人として登記された法人登記で身元を確認していた。

「確かにそちらで買い取る。そういう事ですね?」
「それは保証します」

高桐野の言葉に、支配人は明言した。

「加下連さんにこの用地を上げていただきましたら、それは私どもでこの値段で引き取る。
その事はこの通り、私が職をかけて保証します」

高桐野は、加下連と支配人が結んだ契約書に目を通す。
加下連は、表看板は開発業者であるが地元ではちょっとした政商としても通っている。
このぐらいの事はあり得る。

「金額が金額です。全額とは言いません。
三割まで小切手でいただけるのでしたら、残りはサイト一週間の手形でも。
その代わり、こちらでも配慮はいたします」
「配慮とは?」
「融資はあくまで高桐野さんが加下連さんに貸し付けるもの。
しかし、応じていただけるのでしたら、加下連さんが担保として差し入れる手形に
私が支配人としてサインをしましょう」
「これだけの大仕事ですからね、私も個人としてサインしますよ」

支配人の言葉に加下連も続く。

「ただし、事はあくまで極秘に願います。
政治的にも地域的にも、そして社内的にも、この出店計画は非常にデリケートな問題です。
だからこそ、最悪の事態となっても、あなた方に迷惑はかけない。
それだけの手を打って協力をお願いしたいのです」
「…いいでしょう…」

  *  *  *

神戸市内で辛うじて営業を続けている株式会社「火乗馬電気」(全国一店舗)
本店事務所応接セットで、俺様は社長と面談する。

「至ってシンプルな話です。借金を全て返済しあなたを含む全員が退職しその後で全権を私に譲る。
その条件で判を押して下さるなら、このお金をお貸しします。

そして、約束を実行して下さった時点で、あなたへの個人保証は無効となります。
もし、金を借りて期限内に約束が実行されなかった場合、
私は大口債権者として即座に会社、個人共に破産を申し立てる事になる。

その場合、否認権は行使されますし私が最大の債権者になりますから、他の債権者から非常に恨まれる。
そうなると再出発に当たってのマイナスは極めて大きい。
全てこの契約書に明記してある。いかがですか?」

テーブルに契約書と公正証書作成用の委任状、
預金小切手を並べての俺様のソフトな誘いに、目の前の商売人は経営者としての踏ん切りに揺れ動く。
だが、「うそつ機」で超大物暴力団の名前を出してその筋の地元金融屋から聞き出した所では、
彼らの基準では葬式準備中。
無論、聞き出した事自体、「メモリーディスク」によってその記憶は消去されている。

「条件を満たすには十分過ぎる金額の筈ですよ。
後は、あなたとは縁の切れた会社の名義の借金が残る、それだけの話です。
間違いなく倒産する、その事はあなたが一番よくご存じの筈。
だったら、恨み辛みなし迷惑かけずに有終の美といきましょうよ。それなら再起だってあり得る」
「…そうですね…山田さんにお任せします」

社長が、俺様が今ここで使用している名前を呼んで回答した。
その名前は、「うそつ機」によって俺様の事を大恩人だと思い込んだ大物極道に
札束を積んで購入した戸籍について来たもの。滅多なキズは無い筈。
無論、そんな暴力団ごときが「メモリーディスク」を駆使する俺様の事を覚えてなどいる筈も無い。

「有り難うございます。それでは、先ほど説明した通り、
債権者にはあくまで、閉店のために知り合いからかき集めた金であると言う説明で…」

  *  *  *

東京都内の事業所の一室。
応接セットのテーブルを挟み、目の前の男は些か訝しげに「火乗馬電気」社長の山田を名乗る俺様を見ている。
無論、この肩書きと名前を使う以上、これを手に入れた時と同様に「入れかえロープ」で入手した
大昔のアジア人の肉体と「ソノウソホント」で全くの別人のものに酷似した筆跡を入手して交渉に臨んでいる。

「パソコンその他もなかなかに大きな買い物ですが、
初対面でスパコン購入希望とあってはそちらさんの反応も無理はおへん。
ですから、こうして東都銀行が振り出した預金小切手で全額前払いすると申し上げているんです」

言いながら、俺様は目の前のスーツ男の目を読む。
俗に言う一流メーカーのエリートだと言っても、特に、今月はノルマは厳しい状況である事は調べ済み。

「それで、設定などは…」
「ああ、うちで契約した倉庫に運び込んでくれるだけでかめへんよ。後は当てがありますさかい」

取りあえず、倉庫への搬入が終われば、一旦「チッポケット二次元カメラ」で撮影して
「フエルミラー」で写真ごとコピーする。
それから、オリジナルは叩き売り今度こそ「火乗馬電気」は閉店させる。

と、言うより、閉店自体はとっくに終了しているので、
後は建物のオーナーに報せて物理的に抹消するだけでいい。

ブツに関して事情を聞かれたら納品する筈だった取引先に騙されたのが分かったから
閉店ついでに通常ルートで叩き売ったと言う事にでもしておく。

どの道、俺様以外誰が損をすると言う話ではない。
俺様も即金の必要な金銭的に厳しい所厳しい所を入念に調査、利用している訳だから、
余計な詮索などする暇も無い筈。

  *  *  *

少なくとも大概の熱風なら無効化する程に広々とした地下ホール。
そんなものを簡単に造成できる道具と言えば、はい、ポップ地下室ーっ。
と言うシンプルなルールに則り、「ポップ地下室」で造成して
快適にしつらえた巨大地下ホールで俺様は技術者達の指揮を執る。

「うそつ機」によって俺様と言う絶対的上司の指示による
通常業務をこなしていると信じて疑わない一流の技術者達は、
大は小を兼ねると言う格言を地で行くために、スーパーコンピューターに
パソコンその他周辺機器と接続して指示通りに設定していく。

大量の「つづきをヨロシク」を動力に出来る様に「設計機」と「メカメーカー」で製造した
巨大手動発電機を関係機器に接続し、順調なテスト結果を見届けた俺様は、
思い通りの設定が済んだらしいスパコンから今の所無駄に伸びている一本のケーブルを手にする。

そして、そのケーブルを、「宇宙完全大百科端末機」にあるアダプターに接続する。
アダプターと言っても表面に吸盤で貼り付けているだけなのだが、
その辺の所は「無生物さいみんメガフォン」で小一時間熱烈な説得を済ませているので問題は無い。

かくして、「宇宙完全大百科端末機」のサブ端末である事を
「無生物さいみんメガフォン」によって宿命づけられた
スパコンを通じて「宇宙完全大百科端末機」と接続されたPCの乗る机前の椅子に掛けた俺様は、
早速本題に入る。

まず特定の地域内の特定の年度の特定のカテゴリーの学校に入学を許可されて在学している
売春経験者の名前、と言うワードを、「宇宙完全大百科端末機」の通常仕様である
音声入力マイクの代わりにサブ端末機による文字入力で送信し、

その回答を通常仕様であるプリントアウトの代わりにサブ端末のサーバーに用意した
第一フォルダに直接送信させる。

その次に、特定の地域内の特定の年度の特定のカテゴリーの学校に入学を許可されて在学している、
特定のカテゴリーに分類される病原体保有者の名前、
と言うワードを、「宇宙完全大百科端末機」の通常仕様である
音声入力マイクの代わりにサブ端末機による文字入力で送信し、

その回答を通常仕様であるプリントアウトの代わりにサブ端末のサーバーに用意した
第二フォルダに直接送信させる。

取りあえず、第一フォルダ内データのプリントアウトを一読した俺様は、
まずはその数に盛大に嘆息する。全く世も末である、嘆かわしい。

「うそつ機」により通常作業を指示する絶対的上司と化した俺様の指示を受け、
待機の技術者達が第一、第二フォルダの重複分を削除する設定をせっせと組み立て、走らせる。
第一フォルダと第二フォルダの性質からして相当数いるのは当然と思いながらも、
その結果残った名前と最初に印刷した名前、その数の落差に俺様としては憂国の嘆きを禁じ得ない。
嗚呼我が国の行く末如何に。

一通り悲憤慷慨した俺様はと言えば、
特定の地域内の特定の年度の特定のカテゴリーの学校に入学を許可されて在学している
20××年現在の、と言う枕詞の後に、削除されずに残った名前を一つ一つ、
「宇宙完全大百科端末」サブ端末の検索画面に打ち込み、送信して回答をサブ端末のサーバーに保存させる。

無論、我が国の将来を憂うるに十分な人数が残っていたので、
実際の作業はプリントアウトを示して指示を出した技術者に任せておく。

作業が終わるのを見届けた俺様は、「うそつ機」によって納得ずくとなった作業を終えた技術者達を、
「メモリーディスク」で記憶を改ざんしているべき場所へと送り出しておいた。

その後で、改めてサーバーに送信されたデータをプリントアウトする。
まずは写真選考を行った上で、最終選考に当たっては、本では読めない実地調査が必要となろう。
厳正なる審査をパスした選ばれし我が祝祭の生贄候補達よ。ここからが本番である名誉な事であるぞ。

  *  *  *

「石ころぼうし」を被った俺様は、大邸宅の廊下を悠々と行く。
その懐には一通の書留郵便。

これを見た家人のほとんどは、その存在を忘れている。「メモリーディスク」によって。
ただし、家政婦だけは、この郵便を受け取った上で、
主人によって他言無用である事を厳命されたと覚えている。「メモリーディスク」によって。

細工は隆々、そろそろ、仕上げの時間に戻るとしよう。
故に、未来に向けた「タイムベルト」を装着する。
どうせだから、様々な確認を行った上である所の、大邸宅に相応しい浴場の一角で。

  *  *  *

次々と切り替えられる画面、それを全く不自由とせず、そして不自由とさせずに示される解説。
理知的でいて丁重。それでいて朗々と展開される彼女のプレゼンに、
社会的にはエリートと呼んでもいい面々は水を打った様に静まり、ただ、聞き入っている。
それが怜悧な程に理性的であればある程、どこか隠しきれない、成熟した色香が漂うのは、
肉感的な程の腿を覗かせるやけに短いタイトスカートのせいばかりではない。

「………からは以上です…」

一礼し、席に戻った彼女の僅かな仕草。
ほんのり染まった頬に掛かったほつれ毛をすっと戻し、ふうっと小さく息を吐く。
プレゼン用に薄暗い会議室ではほとんど視覚はされず、男の第六感に僅かに記憶される。

それに続いて繰り出される質問。立場が上であれ下であれ、動じるでも驕るでもなく、
自らの企画の有用性に対して最善の回答を的確に発し続ける。

同席したデパートの社長とのやり取りも、現場で実務上の責任を負う事にもなる叩き上げの社長と、
彼女一人の判断ではもちろんないが、あえてこの時代にデパートを選んだ、
コンセプトに明確な肉付けを持っている彼女とのやり取りは熱の籠もったものになる。

  *  *  *

会議の後、デパートの社長は、
威風堂々たる巨大ビルの玄関で彼女の営業スマイルな一礼を受けながら車に乗り込んでいた。

「相変わらず頭の切れる女だ、度胸もいい」

車が出た後で、社長が傍らの専務に言った。

「それに…」

社長と専務は、車の窓に目を向け、
ビルの中へと戻って行くその背中から、ショートボブのうなじに視線を走らせ言葉を交わす。

「企画課の主任とは言っても天下の鈴木HD(ホールディング)。これからの伸び筋か?」
「ええ、私が聞いた所でも。今や女性、いや、若手切っての成長株と言ってもいいでしょう」

どちらかと言うと店舗での販売で叩き上げた社長に、営業畑中心の専務が答える。

「鈴木HD…鈴木財閥のど真ん中か。いいトコ三十路か、少し、色っぽくなったか…」

  *  *  *

優良一部上場企業を多数、事実上の傘下に持つ鈴木財閥と呼ばれる巨大企業グループ。
その中枢である鈴木HD本社ビル。

資本的には鈴木の影響下にはあってもそうそう風下には立たない伝統実績を持つ、
そして現場で自分の企画に当たるデパートの社長を、
請われての打ち合わせがてらに玄関まで見送った主任は踵を返してロビーを行く。

気張って歩く程の事でもないが、やはり上質の床に響く乾いた音。
やり手の女性主任への眼差しを増やしている様だ。
何かのタイトル風に、そして、嘘にならない様に表現すると、
やり手の美人女性企画主任への眼差しを。

  *  *  *

やり手の美人女性企画主任は、平社員が道を譲る最早威風堂々レベルでの前進を経て、
エレベーターに乗り込んだ時には、独りを幸いドンッと壁に背中を預けて顎を反らし喘いでいた。

だが、そこはそれ、エレベーターがストップした瞬間、しゃきっと起立する。
メタルフレームの奥の目がキリリと変貌した瞬間、
「とうしめがね」でその変身シーンを確認し「ウルトラストップウォッチ」で時間を停止し
のたうち回って爆笑した不作法者がいた事など当然知る由もない事。

とにもかくにも扉が開いた時、
やり手の美人女性企画主任は深々と一礼し待ち人を籠に迎える。

「見事なプレゼンだったらしいね」
「ありがとうございます、会長」

最上級上司の一言に、主任は赤い頬に改めて喜色を浮かべ頭を下げる。

「あんっ」

スーツの上でも緩やかに示された膨らみをガシッと掴まれ、その声は女そのものだった。

「さすが、鈴木HDの次代を担うと評判の俊才キャリアーウーマンよ」
「あっ、ありがとうございます、会長っ」
「うむ、この発情ぶりでも素知らぬ顔であれだけのプレゼンをこなすと言うのだから見事なものだ」
「あっ、かっ、あああっ…」

スーツの下に滑り込んだ指が、ブラウスをつんと持ち上げた硬い蕾をきゅっと摘む。
その瞬間、主任は牝の声を籠に響かせ腰を抜かしそうに鳴る。

「あっ、か、会長、人がっ…」
「委細構う事は無い」

主任の目の前の会長は堂々口にすると、レディスーツのジャケットの前側をくるりと後ろに引っ繰り返し、
白いブラウスをこんもり盛り上げる双つの膨らみを両手でねっとりと揉み始める。

そのいただきで薄い布地一枚隔て、濃い色づきを半ば透かしてピッと突き出した蕾への指の悪戯も怠らない。
そんな手技の度に、とうに真面目腐った表情など放り出した主任は、
脚だけに力を込めて喘ぎ喘ぎ受け容れるしかない。

そんな有様であるからして、さり気なく「貸し切りチップ」を貼り付けられたエレベーターの籠の中では、
乱暴に前を開かれたブラウスから丸出しに乳房をはだけた主任が、
その先っぽまでちゅううと吸われながら天を喘ぎ随喜の涙を流す。

実はかなり強烈なミニのタイトスカートに十分な年輪を刻んだ手が滑り込み、
ぬるりとした感触をかき分けた指がつるりと尖った所に到達するや、
脳天まで鋭いものが突き抜けた主任は甲高い声を上げてあっけなく腰を抜かしていた。

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最終更新:2009年10月17日 22:11