まだ薄暗い内に目覚ましに起こされ、天井を見て、寝室を見回して、それは夢ではなかった事を実感する。
「お早う、蘭」
「お早う、お母さん…」

リビングで、バスローブ姿で朝の牛乳を傾ける英理の姿に、
蘭はじわりと瞼から溢れそうになるのを懸命に堪える。堪える。
だが、ダイニングに辿り着いた時には、既に座り込んで顔を覆っていた。
夢ではない、この先の長い長い時間の始まりの予感に。

そんな蘭に覆い被さる英理を前に、コナンは立ち尽くす事しか出来なかった。
もしかしたら、これは失策だったのかも知れない。
マンションの中では迂闊に抜け出して電話をする事は出来ない。阿笠邸も遠すぎる。

しかも、外には、かつてテレビ局で助手をしてしまった事もあるため、
コナンにマイクを向けようとする輩がいる。
工藤新一としては色々世話になった事もあるが、この時ばかりはマスコミの行為も邪魔になる。
そうは言っても、今の蘭の側から離れると言う選択肢はコナンにはあり得なかった。

「さあ、早いけど朝ご飯食べちゃって、支度しないと」
英理の言葉に、コナンの顔つきは戦闘態勢に入った。


「はい」
「警視庁です、チェーン外していただけますか?」
「ええ、いいですよ」
英理が素直に応じ、朝の毛利探偵事務所住居スペースに捜査員が踏み込む。
「警視庁です、婦女暴行及び覚醒剤取締法違反容疑で家宅捜索を行います」
「ええ、どうぞ」
滑稽すぎて冷笑すら浮かべたくなるシチュエーションなのだが、さすがにその余裕は英理にも無かった。


「弁護士の塩沢です。ここの住人である毛利英理さんの代理人として捜索に立ち会います」
「分かりました」
英理の自宅では、リビングでコナンと蘭が見守り、
部屋に踏み込んで令状を見せる警視庁の捜査員を前に、塩沢弁護士が委任状を示していた。

「警視庁の捜査員が毛利探偵事務所に入って行きます。女性が応対している様です」
「警視庁の捜査員が家宅捜索に入りました」
「警視庁捜査一課、組織犯罪対策5課と杯戸警察署の特別捜査本部は、
杯戸市内で発生した婦女暴行事件の関係先として、毛利小五郎容疑者の自宅等を強制捜査…」

「既に別の婦女暴行事件で逮捕された毛利容疑者について、
新潟、東京他関東各地で発生していた“逃げ三矢”を名乗る連続暴行事件に関わった疑いがあるとして、
東京都内の事件の関係先として毛利容疑者の自宅等を…」
「…グラムを所持、尿からも覚醒剤の陽性反応が出た事から、新潟県警と警視庁などは
覚醒剤の入手先について…」

「毛利小五郎ってあの名探偵だろ?」
「“逃げ三矢”かよ…」
とある食堂で、テレビを見ていた客から呟きが漏れる。

その脇で、高木と美和子が黙々と食事を続けていた。
最早自分達とは関わりの無い事も、それでも余りに馬鹿馬鹿しい、
警視庁の腕章と段ボールを抱えた行列、この画を撮るための茶番である事も分かり切っていた。


「そんな事、新潟の刑事さんに聞いて下さいっ!」
米花警察署の取調室で、任意同行に応じていた蘭は声を荒げていた。

「…すいません…」
蘭が疲れ切った声で小さく言うが、取り調べている側も蘭の反応は当然だと思っていた。
「…いい加減にして…何回も何回も同じ事…ごめんなさい…」
「少し、休みましょう」

元々は被害者担当も長い女性刑事が、蘭の目の前で嘆息する。
只でさえ父親を売る事になりかねない精神的に厳しい尋問、絶望的な状況。

取り調べに当たっているのは捜査一課性犯罪担当、蘭とは初対面だ。
一課でも性犯罪担当がこの事件の主管係である上に、
被疑者に極めて近い関係者である以上顔見知りに任せる訳にはいかない。

新潟が一切合切根掘り葉掘り事情聴取した事は想像が付く。
だが、警視庁に伝わって来る内容が限られているため、
警視庁としても一から聴取するに等しい無駄手間を取らされていた。

無駄手間と言えば今朝のガサ入れもそうだ。見せられたのは空の戸棚空の引き出し。
しかも、その中身について、持ち去って行った新潟県警は精査中を繰り返すばかり。
それでも、警視庁は都内で八件もの事件を起こされたこの事件を鋭意捜査している、
その事を示すためだけに、段ボールを抱えて行列しなければならなかった。

自分達の無駄手間なんてどうでもいい、目の前の高校生の少女、
彼女に対する無駄手間と言うものがどう言う意味を持つか、
状況は違えど刑事として傷ついた少女を数多く見て来た身としては、苛立ちを禁じ得ない。


「“逃げ三矢”…まさかとは思ったがな」
数人の男たちの中で、年かさの男が嘆息と共に言った。
そこは、千代田区九段南、関東甲信越厚生局麻薬取締部の一室だった。

「“逃げ三矢”、毛利小五郎、とんだ名探偵だったって訳だな」
言いながら、年かさの取締官が書類に目を通す。
「随分、ため込んでたモンだ。すんなり出して来たな」
「こう言ってはなんですが、あの事件以来新潟の組対とうちとは良好ですからね。
これだけの量、一人で扱ってる筈が無い」
別の取締官が言う。

「奴の普段の言動についても情報が集まってます。
奇声を発してハイになるかと思えば突然眠り込む。眠り込んだかと思えば急に頭の冴えが鋭くなる…」
「キメてるときはハイ、切れたらダウン。だから、隙を見て又キメて又元気を取り戻す。典型的だな」
「ええ。それから、シャブは普通に検出されましたが、精密鑑定の結果、
何らかの麻酔薬を常用している可能性が出て来ました。正確な成分までは分からなかったのですが…」
「ドラッグ・カクテルか、シャブで叩き起こされた脳味噌を眠らせるために使っていたのか…」

「しかし、一人でやってる訳が無いって言えば、一連の“逃げ三矢”の犯行自体がそうだ」
取締官の一人が言う。
「新潟は、どうだ?」
年かさの取締官が言った。

「もちろん、一人でやったなんて考えていませんよ。
関わった人間全て、徹底的に締め上げて引きずり出す腹です。何が出て来ようがね」
「何が出て来ようが、か」
皮肉な笑みを浮かべて一人の取締官の一人が言った。

「他に、考えられませんからね。
ここまで犯行を成功させて、捕まらずに来た以上、そう考えるのが自然ですよ」
「だから、新潟もあんた強引なやり方でまとめて持って行ったって事だな」
その問いに、新潟との折衝に当たっている取締官が頷いた。

机の上に、写真が広げられる。
「これが、特に親しい面子か」
「ええ、シャッポ、キャロット、ハッケンデン、ネゴシエイター、サニー、
東京ではこの辺り、地方にも何人かいますが…」

「余り広いネットワークだと、犯行の性質上発覚する危険が高い。
新潟は徹底的にやるんだな、背後関係を含めて、ギリギリまで?」

「ええ、新潟は県警全部が完全にキレてますよ。
まあ、ここまでやっといて最後があれじゃあ無理もありませんがね。
上がこの事件で下手な手出しをしようものなら、三日と警察にいられないでしょうね。
少なくとも県警のノンキャリ全てを即刻敵に回す。
しかも、マスコミや県議会でキャリアの刑事部長や本部長も大恥掻かされてる」

「当然だな。問題は、誰がそのシャブ中外道探偵とつるんでやがったか、それだ。
県警もやるだろうが、警察は警察だからな。一体誰があんな…」
「犯罪者とは言え、ここまで検挙されずに来たんだ。只の白ネズミに出来る芸当じゃない。
それだけの頭の切れと、
これだけ広範囲な事件をバックアップ出来るだけの何かを持っているとすれば…」
「…ですか…」

「手ぇ出すってなったら、うちも覚悟要りますね。
向こうは総監の首が飛ぶ。現場とも全面戦争だ…」

「こっちだって責任者まとめて更迭の大恥さらし、身内殺られて、
それより何より、俺らが逃したシャブ食ってあれだけの事件が起きてるんだ。
出て来た量からも一目瞭然、毛利小五郎は只のシャブ中の変態強姦魔なんかじゃねぇ、
シンジケートの一端だ。麻取の看板上げといて誰が退けるかよ…」

「それだけに、証拠固めは慎重の上にも慎重に、噛む時は有無を言わせないだけの材料を揃えて、
今回の新潟みたいにな」
「はいっ」
取締官が一人二人と割り当てへと向かっていく。

「…子供がいたな…」
年かさの取締官が、側の後輩にぼそっと言った。
「毛利探偵事務所に…」

「ええ、いましたね。なんでも知り合いから預かっているとか…」
「ハーフっぽい女の子と一緒だったが」
「ガールフレンド、ですかね。でも、あの二人…」

「ああ、6歳7歳にマトリが何言ってんだって事になるが、ありゃあ只のガキじゃねーぞ」
「気付いて、ましたよね」
「間違いなく気付いてた。俺達が張ってるのを二人共、間違いなく感づいて警戒してやがった。
あの坊主、あの目は、デカの目…いや、むしろ…」

「むしろ?」
「むしろ…探偵の目だ」
「探偵、ですか?」
「ああ、あの目、一度だけ見た事がある。工藤新一…」
「例の高校生探偵ですか?確か毛利小五郎周辺とも無関係ではない筈ですが」

「ああ、周辺の関係者として名前が出て来てるな。
俺はあの坊主と一度だけ関わった事がある。仕事の上でだ。
ヤク絡みの殺しだったんだがな、あの小生意気な小僧、
何一つ見逃す事なく自殺を引っ繰り返してホシを完璧に立証しやがった。
あれが、探偵の目、探偵の耳だ。死んだって噂もあるがどこで何してやがる…」


「ご飯出来たよー」
「はーい」
コナンは、敢えて余計な事は言わなかった。
怒濤の如く、しかし、ひたすら閉じこもった静かな籠城の日々が幾日か流れ、
コナンと英理は、蘭の朗らかな声と共に朝食のテーブルに着いていた。
昔、遠い昔の様にも思える近い昔を思い出させる蘭の手料理。
昔に戻ったかの様な穏やかな朝食を終え、蘭はさくさくと制服に着替える。
「蘭…」
英理の心配そうな声を、蘭は完璧なスマイルでガードしていた。

「おはよ、蘭」
「お早う園子」
「蘭、何て言うか、その…色々、大変だったね…」
「うん」

それだけの挨拶を交わし、二人は校舎に入って行く。
好奇の視線やひそひそ話、時には突き刺さる様な視線が気にならない訳ではない。

「まだこの学校いたのかよ?」
「塚本先輩の次は“逃げ三矢”って…」
「蜷川先輩まだ全然駄目だろ」
園子が、ぎゅっと蘭の手を握る。
教室に入っても、普段通りの挨拶は交わすがそれ以上は何となく近寄りがたい。
それでもその日の授業が始まる。

淡々と時間が流れる。淡々と授業が行われ、休み時間は園子のお喋りに相槌を打ち、
放課後は英理、どうしても都合が付かなければ阿笠博士と待ち合わせて
マンションの駐車場まで入れて貰って帰宅する。
喧噪を雑音にしていられるのは、まだ本当の痛みが届いていないから。

そんな、どこか虚ろな気持ちでの学校と家の往復も幾度目になるのか、
一緒に帝丹高校に通い、守る事が出来ないコナンの歯がみする視線に気付いているのかいないのか、
その日もいつも通り登校し、本当に毛利蘭はそこに実在するのかしないのか、そんな雰囲気ですらある。

何となく気になりながらの体育の授業も行われる。
体育の授業が終わり、蘭と園子が2‐Bの教室に戻って来ると、
先行した同級生が何やら黒板の前に固まっていた。

「何々、どうしたの?」
「鈴木?」
「って事は毛利!?」
「おいっ」

「駄目蘭っ!」
不穏な気配を察して人波をかき分けた蘭に、一足早く到達していた園子が叫ぶ。
蘭は、立ち尽くした。

そこに貼られていたのは、見開きノートほどもある写真だった。
ラブホテルらしい同じ部屋で撮影された数枚の写真。
全裸で跪きしゃぶっている女を、しゃぶられた黒い付け根も露わに上から、横から撮影した写真。
シャワーを浴びる女のヌード写真。

男女でベッドに入り、不敵に笑う男に後ろに回した腕で肩を抱かれ、ピースサインを出す女。
真ん中の写真では、男が女の中に串刺しになっているのがそのまま剥き出しになっている。
顎を反らして恍惚の表情を浮かべ、M字型に大きく脚を開いたその中心の女を
ベッドの縁に座った男が不敵な笑みと共に後ろから貫き、その全身には何一つまとうものは無い。

「…お…父さん…数…美…先輩…」
黒板に貼られた大判の写真は、園子の手でむしり取られる。

「駄目じゃないお父さん」
へらっと笑みを浮かべた蘭の周囲から男子生徒がじりっと退く。
「寝たばこなんかして、火事になっちゃうよお父さん…」
「蘭!蘭っ!?」
「毛利っ!?」


「蘭!蘭っ!?」
叫び声を聞きながら目を開けた蘭は、自分の体が動かない事に気付く。

「蘭っ!」
「園子?」

蘭が横を見ると、涙を浮かべた園子の横顔が見えた。
客観的に言ってしまえば、蘭と、その右隣の園子は、マットレスの上に大の字に寝かせられ、
その両手両足首は広げられた手足の外側に置かれた水のポリタンクに繋がれていた。

蘭が気配にハッとすると、側にはもう二人の人物がいた。
共にジャンパーにジーパン姿。だが、片方は黒覆面でもう片方は青覆面、
そして、デジタルビデオカメラを手にしている。
デジカムを手にした青覆面を背後に、黒覆面が両足の間に園子の腰を挟む形で仁王立ちし園子の顔を見る。

「な、な、な、何なのよあんた…」
「園子っ!」
黒覆面は物も言わずしゃがみ込んで園子の頬を何度も平手打ちし、絶叫が周囲に響く。
黒覆面は、言葉を失った園子の制服に手を掛ける。上着とブラウスのボタンを引きちぎって押し開き、
スカートをまくり上げる。

「や、やだっ、やだっちょっとやっ…」
もう一度パシーンと平手打ちが飛び、むしり取られたブラジャーと刃物で切られたショーツが
ぽんぽーんと宙を舞うのを蘭は呆然と目で追っていた。

「やあっ!」
「やめてっお願いやめてえっ!」
若さのままに突き出した膨らみに黒覆面がむしゃぶりつき、
悲鳴への返答は、叩き付ける様な園子への平手打ちの繰り返し。

いかに力自慢の蘭でも、それも初期ではなく中期以降の蘭では、
手足一本に就き18リットルポリタン二個と繋がれている状態では、
少しでも園子の助けになりたければ黙る事しか出来なかった。

「…あ、ああ、あああ…」
乳房を舐められ、吸われ、もっとおぞましい所にまでそれが及んでも、
その顔にも精神にも普段の面影の見えない園子は只、震えて汚辱に耐える事しか出来ない。

両足の間に園子の腰を挟み、ずるりと無遠慮にズボンと下着を下ろす黒覆面を目の前に、
禍々しく反り返るものを目の当たりにしても、園子は歯を鳴らす事しか出来ない。

「いいいっ!」
恐怖が悲鳴を止めても、その痛みは耐え難いものだった。

“…レイプ、ヴァージン、初めて、強姦、暴行、妊娠…”
軽く見えても安くはない、園子の事はよく分かっている蘭の脳裏に最悪の言葉がぐるぐると駆け巡る。
見たくない、だが、逃げる事は出来ない。のし掛かり、貫きせっせと腰を動かす黒覆面と、
天井を見る事しか出来ない園子。もう、その心は死んでしまったのかと言う姿。

ふーっと息をつき、ずるりと液体に塗れてやや柔らかくなったものを剥き出しに引き抜き立ち上がる黒覆面。
女として、女性の体にとってそれが意味する所が閃き、蘭は我が事の様に恐怖を覚える。
「…真さん…真さん私ぃ…私…真さんに初めて私…」

そして、今正にそれは我が事として蘭に迫っていた。
蘭の形のいい鼻が摘まれ、異臭のするぬるりとしたものがぐにゃりと口にねじ込まれる。

「んっ、んんっ、んんんっ…」
吐き出す事も噛み付く事も出来ず、蘭の目には、引き抜かれてぬらぬらと濡れ光りながら
大きく反り返った姿が焼き付けられる。
そのまま、園子同様、制服を開かれまくられ下着をむしり取られ
卑劣な強姦魔に恥ずかしい姿を見せても、蘭は震える事しか出来ない。

「ウルトラストップウォッチ」が時間を停止し、それを手にした黒覆面が
スポイトに入った水を蘭の口に注ぎ込む。
「ソノウソホント」によって媚薬だと解説された水を蘭の口に流し込んだ黒覆面が、
「ウルトラストップウォッチ」で時間停止を解除する。

「…はっ!…あっ、ああっ、あっ…」
蘭は、自らの体に異常を感じていた。
卑劣な強姦魔の手で剥き出しにされた乳房を揉まれる、乱暴に揉まれる痛みと共に、
突き抜ける快感に既に蘭の背中が踊り出していた。

「あああーっ!」
汚らしい強姦魔の口で、可憐なピンク色の乳首をちゅううーっと吸われた途端、蘭は自分の悲鳴にゾッとする。
果ては、そんな男の右手が向かった下半身から、あのおぞましい、自分ですら恥ずかしい
ちゅぷちゅぷとした音が響き始め、何より下半身から全身に直接その感覚が貫く。

その感覚を蘭は知っている。他の誰でもない幼なじみとの一時を思い浮かべて
独りそこに指を走らせている時のあの感覚。
だが、自分の頭に描く幻想がもたらすものとは比較にならない程の、
凶悪な程に濃厚で強度な刺激、それは明らかに快感。
そして、今行われている事はレイプ。

「ああああっ!」
既にぬるぬるに溢れかえったねじ込まれた指が、自分では怖くて滅多に訪れないポイントを探り当て、
蘭は仰け反り絶叫する自分に絶望を覚え、この真っ白なものに何もかも委ねたい、そんな誘惑に駆られる。

“…犯される…レイプされる…初めて、こんなのが初めて…妊娠するかも…”
壊れそうな頭は、もう、するならさっさとしてくれと言う刹那的なものと共に、
ここまでがこれ程なのだから、本当にそれをしたらどれ程、と言う期待が心の、
或いはこの火照った体のどこかに、無いと言えば嘘になる。
そんな自分を、蘭はそれだけは必死に否定しようとする。

「あっ、やっ、あっ、ああっ…」
だが、その硬くたぎった肉の塊は、ずるっ、ずるっと、ぽつんと頭を出した蘭の可愛らしい突起の上を
ぬるぬるとした蜜を十分塗りたくって通り過ぎるだけでそこから先へと進もうとしない。

「は、やく…」
その声は、本当に自分で言ったのか心の声かも、蘭には分からなかった。

「はあああっ!」
こんな状況、新一以外の男なのだから、
それは只の卑劣な肉体に対する蹂躙、痛く、苦しいだけでなければならない。

その筈のロストヴァージンの第一声は、そんな蘭の誇りも何もかも、一瞬で打ち砕いた。
「いっ、いいっ!ああっ、いいっ!あっいいいっああっもっと、もっともっとずんずんっ、
ずんずんああっ、あああぁぁ…」
考えるのに、疲れた。意地を張るのに、疲れた。全てを忘れれば、こんなにも気持ちいい。


「くくっ、くくくっ、やぁーっはっはっはぁーっ!」
自己嫌悪と、それを忘れる程の快楽。快楽で忘れてしまおうと言う甘美な誘惑に浸っている蘭は、
高笑いを聞いてぎょっとした。
仁王立ちになった黒覆面が自ら剥ぎ取った覆面の下から現れた顔に、
蘭の目はまん丸く見開かれ、口はぱくぱくと無駄に開閉を繰り返す。

「えぇーっ、感じまくりのイキまくりかよぉー、エロくなったなー、蘭ーっ。
そーかそーか、あの探偵坊主のフニャチ○より俺様のがずっと良かったかー、
そりゃそーだろーよ、何せ俺様のモッコリって言やぁー、
十歳のガキから四十のババァまで関東一円百戦錬磨向かう所敵無しのビッグマグナムだからぁー、
ガキとは鍛え方が違うってーのひゃあーっはっはっはぁーっ!!」

「…あ…あああ…あああああ…」
崩壊の音が聞こえる気がした。

「しっかしよぉー、蘭ーっ、てめーあんだけ毎晩毎晩新一ぃ新一ぃ喚いてオナッてるおめーがよぉ、
ええ、チ○ポならなんでもいーのか、チ○ポぶち込んでくれたらゴーカン魔でも逃げ三矢でも
なんでもいーってかぁ」

「ややっ、やっ、やややや…」
「えぇー、チ○ポならなんでもいーんだよなぁ、チ○ポならブチ込まれたらなんでもあんあんひーひー
よがりまくりのイキまくり、しかも実の…」
「あああああーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!」
破壊的な超音波が響き渡った。

「いーじゃねーかぁ蘭ーっ」
「んんっ!」
「なぁー、このシチュエーションでちょっとオマメいじっただけでひくひくトロトロってよぉー、
終わってるぞオメーの淫乱もぉー、ま、オヤジがゴーカン魔で娘は超絶ド淫乱マゾ変態公衆便所、
セットにすりゃあちょーどいいじゃねーか、こーやってよおっ!」

「ああああっ!!」
脳味噌に、強制的に飛び散る白い火花。蘭は全てが粉々になって行くのを感じた。
「あっ!あっ!あっ!あっ!はあっ!はあっ!はあっ!…」

ただただ、壊れた心のまま、肉体が感じるままにしているしかない。
そう、自分もそう、自分もそうなのかも、そうなのだ、この忌まわしい肉体がその証拠。
あれだけ、口では頭の中では待ってる、彼だけにと言っておきながらこの浅ましさ汚らしさ。
これなら、何であっても不思議ではない、自分の周りに綺麗なもの等何一つないのだとしても。

「あんっ、あっ、あんっ、いくっ、いくいくっ、いくっ、
いくっ、いっちゃうの、いっちゃうのぉ、私いっちゃうのぉ、
ねぇ、お父さん私もうこんなに気持ちいーのぉお父さんのでイッちゃうのぉ新一ごめんなさあぃあぁー…」


廃屋の中でポリタンに拘束され、気力も折れて抵抗力の欠片もなさそうな無様な醜態を晒す
毛利蘭、鈴木園子の二人を見下ろしていた俺様は、
まずは俺様が自分自身にセットしていた「役者」の「能力カセット」を外す。

後は、「階級ワッペン」、「シナリオライター」で操り
「タイムふろしき」で肉体的な痕跡を消去し「メモリーディスク」と「ワスレンボー」で記憶を改ざんして
「タイムベルト」や時差調節ダイヤル付き「どこでもドア」、「グッスリまくら」でタイミングを調整しながら
元の場所に戻しておけばいい。

この、今現在の俺様の崇高なる精神の器となっている毛利小五郎も同じ事。
過去からかっさらって来た毛利小五郎と「入れかえロープ」で交換して得たこの肉体。
これも又、安全装置となる「シナリオライター」をセットしながらもう一度「入れかえロープ」を使い、
同じ様に記憶を改ざんし時間調整をして何の疑問も持たない様に元の時間と場所に
毛利小五郎を戻してやればいいだけの話だ。
この、ネ申 たる俺様にこそ相応しいポケットがあればくどくどと記録する程の事ではない。

「蘭、蘭っ…」
ガバッと跳ね起きて周囲を見回すと、側には心配そうな園子が立っていた。

「蘭、気が付いた…」
「園子…ここは…」
「保健室、蘭、教室で倒れちゃってさ」
「そっか…」

ベッドの中の蘭が周囲を見回す。
確かに、学校の保健室だ。
「夢か…」
蘭がぽつりと言う。

「何?嫌な夢でも見た?」
保健室に蘭を運び込み、付き添っている間にこっくりと居眠っていたが特に夢は見ていない、
そう思い込んでいる園子の言葉に、蘭が小さく首を横に振る。

蘭は思い返す。
教室で倒れて、あの廃屋でのおぞましい夢を見て、廃屋で記憶が途切れ、今に至っている。
「…しっかりしないとね…」
静かに笑みを浮かべる蘭に、園子は掛ける言葉も無かった。

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最終更新:2013年10月04日 21:38