ここまでのお話

  • プロローグ
若き財務官僚の「俺様」が量子ちゃんへの痴漢行為の報いとして
毛利蘭、塚本数美、佐藤美和子にボコにされて警察に突き出され、
その後偶然例のポケットを手に入れて逆恨みを誓うと言うお話。

  • エピソード・ゼロ
「俺様」が秘密道具の悪用の限りを尽くしての帝丹高校学園ジャックを実行。
陵辱の限りを尽くした挙げ句にそれを全国テレビ放送して逆恨みの限りを尽くし、
ダミーの操り人形を始末し完全犯罪を成功させた俺様だったが、
犯行前の自分が、未来から来た自分から、
それでも幸せを掴んでいると言う話を聞かされて路線変更を誓うと言うお話。

  • 本編(進行中)
東都環状線の満員電車内で実行された塚本数美徹底陵辱は、
「俺様」にとってほんの触りに過ぎなかった。
毎夜の「悪夢」の陵辱。
洗脳、記憶操作が生み出した「AV女優塚本数美」による学校中を相手にしたヤリマ○公衆便所アピール、
その果ての、コカイン中毒者としての逮捕。
数美本人が知らぬ間に、秘密道具で時間操作、記憶操作その他諸々の限りを尽くした「俺様」により、
数美は何も分からぬままに破滅していき、その事は後輩毛利蘭の心にも深く影を落とす。

新潟から関東各県へと、ネットの世界とリアルに跳梁する連続暴行犯“逃げ三矢”が東京に現れた。
コナン達の目と鼻の先である杯戸町を皮切りに、
コナンや蘭の顔見知りである中村実里や蜷川彩子もその毒牙に掛けて凄惨な凶行を繰り返す“逃げ三矢”、
その実は秘密道具を駆使して微かな足跡だけを残す「俺様」による凶行を前に、
殺人級の捜査体制を敷いた警視庁、その中で捜査一課殺人犯捜査係から捜査に加わった
目暮班佐藤美和子等も翻弄され続け焦りが募っていく。

ある夜に発生した暴行事件の初動捜査に当たる県警は、不審車両から標的「リープ」を特定、
強制捜査に着手する。




「え、何?ごめんもう一回…」
早朝の杯戸警察署の一角で、タオルケットをずらしてソファーに座り直した美和子が携帯に言った。
「だから、毛利探偵事務所で新潟県警が家宅捜索してるんだよっ」
電話から聞こえるコナンの声は、小さなものだったがかつてない程に切迫していた。

「家宅捜索、新潟県警?何それ?県警が毛利事務所のガサ入れやってる、そうなの?」
「うん、家宅捜索、容疑は強姦致傷と覚醒剤取締法違反、被疑者は毛利小五郎っ!」
「誰かと電話してるのっ!?開けてっ、開けなさいっ!!」
背景にドアを叩く音と女性の叫び声が聞こえる。

「コナン君、電話、代わってもらえる?新潟県警ね?」
「うん」
「もしもし、こちら警視庁捜査一課殺人犯捜査三係主任佐藤美和子警部補です。新潟県警の方ですか?」
「一課の佐藤主任ですが、お噂はかねがね。私は…」

所属氏名を名乗ったのは、新潟県警捜査一課の巡査部長。その話し振りから、美和子は同業者と直感した。
「新潟県警が東京で一体何をしているんですか?私は今“逃げ三矢”事件を担当しているのですが」
美和子は、務めて抑制的に言う。状況と容疑からして十中八九事件の見当は付く。
縄張り根性を前面に出すのは得策ではない。

「申し訳ありませんが佐藤主任、あなたが本人であると言う確認が取れない以上詳細はお話し致しかねます。
警視庁への連絡はこちらの上を通して、我々は帳場の割り当て通りに動いているだけですので」
確かに、それは道理だった。
「分かりました、ガサの最中にお手間を取らせて申し訳ありません」
「それでは失礼します」


大挙した男たちと少数の女性を前に為す術もなく、英理はようやく彼らを追いすがる様にリビングに戻った。
「これは、一体…」
言いかける英理に、もう一度、先頭の検事が令状を突き付けて名乗りを上げた。

「新潟地検及び新潟地検指揮新潟県警刑事部組織犯罪対策課による家宅捜索です。
無論、裁判所による許可も得ています」
英理の目は、男のスーツの襟元、秋霜烈日のバッジへと走る。
辣腕の刑事弁護士にしてかつての刑事の妻、彼らが本物である事は物腰一つからもとうに分かっていた。

「強姦致傷、覚醒剤取締法違反、被疑者、毛利小五郎?」
英理は、令状の記載事項を一つ一つ確かめる様に言う。
今すぐ飛びかからんばかりの激情が渦巻いている事を否定できない。
だが、英理のロジカルな頭脳構造は、そうであるからこそ最善を導き出そうとする。

「これが、ここを捜索すると言う事がどう言う事か、分かった上での事ですね検事?」
「無論です…」
検事は、東京地検公判部に所属する検事の名前を出した。

「…修習所の同期でして、そうでなくてもこの世界にいて法曹界の女王の事を知らない者はいません。
それだけにこの様な事になって残念です。
しかしながら、昨夜新潟県内で発生した婦女暴行事件への関与と覚醒剤の所持。
これに就いて先生の戸籍上の夫である毛利小五郎氏の容疑が揺るぎない程の物証が発見されています。
そのため、裁判所も先生の自宅の捜索もやむなしと許可をした次第です。
遺憾な事ではありますが、ご協力いただけますか先生」

「冗談じゃないわ、ここをどこだと思ってるの?弁護士の自宅よ。
勝手に手帳を見ないでっ、令状があっても侵せない刑事事件の守秘義務もあるのよっ!」
「ええ、ですから、合法的な範囲でご協力をお願いします妃先生」
「…まさか、蘭の所も…」

「ああ、電話は使えませんよ。
既に毛利探偵事務所と自宅も県警の捜査一課と組織犯罪対策課で着手しています」
「そう、それで私の所は地検が直々に出張って来たって訳」
「ご理解いただけますか?」


「もしもし、千葉君、何が起きてるの?」
ワンコールすら許さず携帯の通話ボタンを押した美和子が鋭い口調で言った。

「毛利さんが引っ張られました」
「毛利探偵事務所にガサ入れ入ってるわ」
「でしょうね、すいません」
「いいから何が起きてるの?」

「発見された手配車両から、シャブの粉末と毛利さんの指紋が出てたんですよ。
それが分かった時点で、県警刑事部は極秘に毛利さんを追跡する捜査班を編成してたんです。
車が見付かった近辺のホテルに泊まってるのを確認した時点で、
機捜隊を中心にした捜査班がシャブの容疑でガサ掛けて、
そこで何かブツが出たみたいなんですが、とにかく口が硬いんです。
ただ、決定的なブツなのは間違いないです。当初見送られてた妃先生のガサまでやってるんですから」

「ちょっと待って、妃弁護士の所にも?」
「ええ、シャブとツッコミ(レイプ)の両方の容疑。地検が直々に出張ってガサ入れです」

「弁護士は場合によっては捜査に優先する守秘義務を持ってる。
令状が出たとしても法律家じゃない警察が下手に触ったらトラブルになる。辣腕の妃先生なら尚の事。
裁判官だって、それも当人が被疑者でもないのにそうそう弁護士の自宅に令状は出さない。
ただ事じゃないわね。それで、毛利さんは?逮捕されたの?」

「いえ、任意です。任意でどっかのPSに引っ張られたのは確かなんですが、
それがどこだかまだ分かっていないんです。
とにかく刑事部でも毛利さんの扱いは極秘に当たってるみたいで異常に口が硬くて。でも、時間の問題ですよ」

「そうね、オフダ(逮捕状)も取れない状態で毛利さんの身柄取って、
しかも東京のど真ん中、弁護士の自宅で新潟がガサ入れしてるんだから、それで取れなかったら首が飛ぶ。
とにかく、何か分かったら連絡して」
「分かりました」

電話を切った美和子が特捜本部に入り、目暮警部、松本管理官と目が合う。
「共助課経由で新潟から連絡があったよ」
松本が苦り切った口調で言った。

「事後承諾、ですか」
美和子が言う。
「連絡に手間取って行き違った、と言う事なんだろうな」
目暮が言った。


普段は気丈でも流石に不安を隠せない表情の蘭が、はっと下を見る。
蘭の手をぎゅっと握ったコナンですら、コメカミに汗を伝わせ、緊張した面持ちで蘭の足下に立っていた。
為す術もないままのコナンの脳裏には、ついさっきの事がリフレインされる。


「何ですかあなた達はっ!?」
蘭の悲鳴にも似た声に、起き抜けのコナンの頭はしゃっきりと目覚めた。
「蘭っ!?」
コナンがパジャマのまま駆け付けた時には、スーツ姿の男たちが住居のリビングまで押し寄せていた。

「新潟県警です。家宅捜索を行いますからそこを動かないで下さい」
「新潟県警?とにかく、警察手帳と捜査令状をちゃんと見せて下さい」
蘭の要求に先頭の男が素直に応じる。その間にも捜索は着手されている。

「強姦致傷、覚醒剤取締法違反、被疑者、毛利、小五郎?…」
「どうやら、本物みたいだね」
警察手帳と後続の作業着姿の鑑識員を見て、コナンが言った。

「どう言う事ですかっ!?父が、父がっ!…」
「あー、後で説明しますから大人しくしてて下さいね、下手に動いたら公務執行妨害って事になりますから」
「コナン君…」
不安げに下を見た蘭の足下でぐっと真剣な顔つきで作業を見据えていたコナンが、不意に絶叫した。
「僕トイレーッ!」


「コナン君」
「何?」
しゃがみ込んだ女性刑事の問いかけにも、コナンの口調はぶっきらぼうなものになってしまう。

「コナン君、佐藤さんと知り合いなの?」
「うん、僕、少年探偵団だからー」
煮えくり返るハラワタを押さえ、コナンは得意気に言った。

既に、家宅捜索を実行する県警の捜査員にもコナンの緊張が伝わっていた。
確実に、監視されている。
最初はまさかと思ったが、この年端もいかない少年、男児は、間違いなく自分達の捜索を監視している。
それも、恐ろしい程に切れる視線で。コナンにもそれを隠す余裕は無かった。
彼らもプロだ、ガサ入れの経験は幾度も重ねている。
それが妄想ではない事を県警の精鋭捜査チームは確信していた。

「…ねえ、お姉さん」
「何?」
「…毛利のおじさん、逮捕されちゃうの?…」

静かすぎる程静かな声の問いかけに、声を掛けられた女性刑事は背筋の冷たさすら覚えた。
「分からない。だから、調べているの。だから調べているの、真実を見付けるために。
だから、大人しくしていてね」

ギリギリの嘘と共に、真摯に返答した。
嘘だ、と、コナンは思った。
有名人で警察との関わりも深い小五郎を被疑者に指定して、それも新潟県警が単独で出張ってガサ入れ。
そんな事、逮捕を前提にせずに出来る筈が無い。人権蹂躙はもちろん、警視庁をまともに敵に回す。
それでも有無を言わせず逮捕する、それだけの材料が無ければここまでの事はしない、出来ない。

「これは、一体どう言う事ですかな?」
佐藤、高木を従えて路上に現れた目暮が、
毛利探偵事務所から出て来る新潟県警捜査員の先頭に向けて言った。
県警側では、ガサ班の指揮を執った警部が残って警視庁側と挨拶を交わし、説明を始める。

「現在、新潟県内で身柄を確保した毛利小五郎を任意で事情聴取しています。
昨夜県内で発生した婦女暴行事件と彼が所持していた覚醒剤に就いてです。
今日中にワッパを填めます。
どちらの容疑でも、すぐにでもオフダを請求出来るだけの鉄板の物証が揃っています。
この際ハッキリ言います、毛利小五郎は“逃げ三矢”です。
現在本鑑定中ですが、ホンボシでなければこれほど幾つもの簡易鑑定結果が合致する事はあり得ない。
随分と回り道してしまいましたが、物証は鉄板、徹底的にやりますよ。東京の一課の協力者でもね」

新潟が東京都内で見せた剥き出しの敵意には穏やかな高木すら鼻白んだが、
美和子にドンと肘鉄を打たれ我に返る。それだけの理由がある事を思い返す。
その美和子は、頭を下げていた。

「“逃げ三矢”であると言うのなら、東京都内でも八件に渡る婦女暴行事件を起こしています。
何れも極めて凄惨な内容です。検挙したのであればご協力を願います」

「こちらで挙げたマル被、こちらで抱えている事件をまずやらせてもらいます。
何しろ数が多いですからね、全く情けない話ですが。
無論、警視庁に協力するのはやぶさかではない、しかし、あなた方に協力するのは難しいでしょうね」
そんな県警警部の背後で、女性警察官を含む捜査員と共にコナンと蘭が車に乗り込む。

「蘭君をどうするのかね?」
目暮が言う。
「事情聴取です。マル被のスケジュールに就いて色々確認しておきたい事がありますからね。
既にホテルの手配は済ませていますし、任意の事情聴取と言う事で本人、保護者の同意は得ています」


都内のホテルの喫茶店で、とうにアイスの溶けたパフェを前に、コナンは身動き取れずにいた。
新潟県警の女性刑事にガッチリと監視され、
例えそれを抜け出したとしても蘭の取り調べをどうにかする事は不可能。
せめて警視庁捜査一課目暮班の誰かと連絡を取ろうとしても、新潟の刑事に「お仕事中よ」と微笑まれるだけ。

全く信頼関係の無い子供一人、改めて信頼関係を築くには時間が無さ過ぎた。
新潟の刑事が決して無能には見えないからこそ、
よりによってレイプ事件の情報がそこから取れるとは思えない。

無能ではない証拠に、新潟の刑事の目配りはコナンに対して決して油断を見せない。
どうやらただ者では無い、下手を打ったら痛い目に遭うとその目は語っている。
コナンの立場にすれば、能ある鷹が爪を隠し損ねたのは、短期決戦を仕掛けるには逆効果としか言い様がない。

それでもこうしてここで大人しくしているのは、ここで下手を打てば警察と協力どころか、
コナンを知らない県警の要請でそのままホテルすら追い出されて
児童相談所に直行と言う事にもなりかねなかったからだ。

せめて出来るのは「蘭姉ちゃんを待ってる」と言い張る事だけだった。
女性刑事が携帯に出た。
「お迎えが来たわよ」


「コナン君、いい子にしてた?」
ロビーで合流した蘭の表情は、明らかに憔悴したものだった。
それでも、コナンを見ると明るく振る舞うその痛々しい表情に、コナンは自らの無力を痛感する。

「蘭」
目の前に見慣れた顔が並び、蘭の表情に明るいものが見えた。
「お母さん、佐藤刑事高木刑事」
「帰るわよ、蘭」
英理が気丈に振る舞う。英理も又、都内の区検察庁庁舎で新潟地検検事による取り調べを受けた後だった。
「送ります」


高木の運転する車が英理のマンションに近づいた時、コナンはぞわっとしたものを感じた。
蘭も青い顔で震えている。
マンションの前には報道陣が中継車や機材を引っ張り出して大挙していた。

「お母さん…」
「大丈夫、このまま駐車場に車を入れたら簡単には入って来れない」
「妃先生ですかっ!」
「妃先生っ!毛利探偵が…」

「駐車場に入れてっ!」
蘭が抱えた頭を胸に抱き、英理が叫んだ。
「分かりました」

「…被疑者、毛利小五郎…探偵業…」
どおっとどよめき、駆け出す音が響く。
「毛利小五郎容疑者、毛利小五郎容疑者逮捕です、毛利容疑者逮捕ですっ!」
「…今、捜査本部のある…警察署に車が到着しました…毛利さーんっ」
「数々の難事件を解決して、名探偵としてマスコミにも度々登場していた毛利容疑者、今回の逮捕で…」
「…覚醒剤約1グラムを所持…尿からも覚醒剤の陽性反応が出た事から…」
「…事件との関連も…」

膝を抱えた蘭の前で、ブツンとテレビが切れる。
「お母さん…」
背後でリモコン片手に立つ英理に、蘭が震える声で言った。

「嘘、だよねお母さん、嘘だよね、お父さんが、こんな、嘘、嘘だよね…」
振り返り、ふらふらと立ち上がる蘭を、英理がぎゅっと抱き締めた。
「当たり前よ。あの節操のないだらしのないヌケサクに、こんな事が出来る筈ないでしょう」
「そうだよね、お父さんなんだから、私のお父さん…」

「蘭、しばらくここにいなさい。事務所はとても戻れる状況じゃないから。
学校も、休んだ方がいい。コナン君は…」
「一緒にいるっ」
火花が散る様な視線のぶつかり合いだった。

「お願い、僕も、ここにいさせて…」
「そうね…」
ふーっと嘆息した英理が言った。
「あのロクデナシのヌケサクに随分前払いしてるみたいだし、
契約不履行はみっともいいものじゃないわ、戸籍上の妻として」

そう言って、英理はしゃがみ込みコナンに視線を合わせる。
何とか身を交わしたいコナンだが、逃げ場所は無い。
「蘭をお願い、可愛いナイト君」
囁く英理も、こくんと頷いたコナンも、その眼差しは真剣だった。

「さあて」
朗らかな声で英理が立ち上がる。
「牛タンとテールのいいのが手に入ったの。元気付けないとね。
仕事も切り上げて来たし、煮込むわよー♪」
既にして、決意が挫けそうになる己の惰弱なる精神を、コナンは懸命に叱咤していた。


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最終更新:2012年03月02日 10:51