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 学校帰りの高校生達が行き来する往来。アスファルトの照り返しが厳しい夏の午後。
 聖カトリーナ女学院に通う見目麗しい令嬢と言えども、ギラギラ照りつける太陽は容赦しない。
 年々スカートが短くなってゆくのはお嬢様学校とて例外でなく、若い淑女達の汗ばんだ太ももを、
 ふくらはぎを、はだけ気味の胸元からのぞくたわわな果実達を、夏の日差しはジリジリお仕置きするのであった。
 中でも一際目を引く美少女がいた。小学五年の頃までは『しずかちゃん』の名で親しまれたみんなのアイドルである。
 今では彼女も十七になり、見知らぬ男達ばかりか女達まで振り返らせる魅力を嫌味無く放つほどになっていた。
 源静香(みなもとしずか)は新発売の日焼け止めをチェックしにドラッグストアへと入る。
 ――あ~、涼しい。朝比奈ったら、こんな暑い日にわたしをほったらかして、どういうつもりかしら?
 その日、静香専属の運転手である朝比奈は、妻の急病を理由に欠勤していたのであった。
 ――仮病だったらただじゃおかないんだから。
 お目当ての日焼け止めを見付け、静香の眉間からようやく縦皺が消えた。
 肌に優しくて長持ちする上に、心地良い香りがするという乳液タイプの日焼け止め。静香はテスターのキャップを外して顔をしかめた。
 ――くっさいわ。こんなニオイのどこが『いい香り』だっていうの? やっぱり世間知らずの馬鹿娘達が選ぶ物は違うわね。
 テスターを棚に戻して立ち去ろうとする静香だったが、ふと棚に向き直る。
 ――ここのカメラは角の天井に一台、レジの後に一台……。
 周囲を見回し、学生鞄にパッケージを滑り込ませる。その素早さが彼女の常習性を物語っていた。物憂げなため息一つ。静香は出口を目指した。
「ご、ごごご、ごめん!」
 陳列棚の切れ目で、さえない学ラン姿が静香にぶつかってきた。ひょろりと背が高く、時代遅れの丸めがねをかけた男に、静香は見覚えがあった。
「あなたひょっとして、のび太さんなの?」
「し、し、しず……じゃなくって、えと、その、み、源さん」
 静香は殊更明るい様子でかつての級友に話しかけた。平静を装ってはいたが、柔らかな双丘を揺らさんばかりに鼓動は高鳴っている。
「懐かしいわ。あれから何年経ったかしら?」
「六年だよ」
 のび太は即答すると、静香に目を合わせられないままヘラヘラ笑った。
「ごめんなさい。せっかく会えたのに残念だけど、わたし用事があるの。では、ごきげんよう」
 にこやかに会釈して歩きかけた静香の手首を、湿った熱い手が引き止める。
「のび太さん? そういうのはちょっと……迷惑なんだけど」
 静香の顔から笑みが消えた。許可無く触れてくる無礼者に対してお嬢様は冷淡であった。
「そうかい? ごめんよ」
 あっさり手を放したが、丸めがねの奥は暗い光を帯びていた。
「源さん」
「何よ?」
「僕、見ちゃったんだ」
「何のことかしら?」
「お嬢様があんなことしちゃっていいのかな? 源家のご令嬢がさ」
 源家のご令嬢。静香の祖父が亡くなる間際に絶縁状態だった静香の父を許し、
 古くは源氏の流れを汲むといわれる一族の巨大コングロマリット『源グループ』の跡継ぎに指名したのであった。
 その由緒ある家柄で許嫁まで用意されている静香にとって、このスキャンダルは致命的である。
 だが、静香にはまだ勝算があった。のび太程度の相手に負ける気などない。

「のび太さんは勘違いをしているわ。わたしは世間に疎いでしょう? だから間違っちゃっただけなの」
「へえ~。どう間違ったら鞄に未払いの商品が入っちゃうのさ?」
「ほら、巷では買い物袋の代わりに自分の鞄を使うのが流行っているんでしょう? エコバッグといったかしら?
 ちょうど精算しようと思っていたところに、あなたがぶつかってきただけのことなのよ。だからそんな意地悪な顔をしないでちょうだい?」
 静香は胸のすく思いで丸めがねを見つめる。それでも哀れっぽく懇願する目を忘れていない。
「なるほどね。わかったよ……」
 ――勝ったわ。所詮はのび太さんね。
 そう確信した瞬間だった。
「君がそんな狡いことを言う人だったなんて、よい子のみんなに顔向けができないよ」
 静香は駆けだしていた。店員やカメラではなく、のび太に見られただけなのだ。さっさと証拠を隠滅してしまえば全く問題ない。
 そう考えて近くのコンビニを目指す。のび太は足が遅いから、引き離してゴミ箱に入れてしまえば気付くわけがない。
 静香は思惑どおりのび太に水を空けてコンビニにたどり着いた。
 どうせなら女子トイレのゴミ箱に入れてやれば完璧だ。静香はほくそ笑んでコンビニに入る。
「いらっしゃいませ~」
 声をかけてきた女性店員に会釈して女子トイレに入った。
 パッケージとボトルを一緒に捨てたらまずい。ここにはパッケージを捨てていこう。
 ドラッグストアの値札が付いているから盗品騒ぎにもならないはずだ。そう考えてバリバリとパッケージを剥がす静香。
 ――これで一件落着ね。
 安心したせいか静香は急激な尿意を催した。
 かまととぶって履いている純白のパンティーをずり下げ、音姫を作動させながら用を足す。
 ペーパーを持った手が薄い恥毛のデルタゾーンに導かれたときだった。
「み~つけた」
 通り抜けフープからのび太が顔を出す。
「キャーーー! のび太さんのエッチーーー!」
 のび太は慌てるでもなく、ただ目を細めていた。
「懐かしいな~。しずかちゃんのその声がたまらないんだよ~」
「ちょ、ちょっと! 出て行きなさいよ!」
「そんなこと言っていいのかな? しずかちゃんは何をしたんだっけ?」
「あなたは痴漢してるじゃないの! 早く出て行ってよ、もう!」
 のび太は首を横に振る。
「僕が痴漢したって証拠は残らないけど、しずかちゃんの件はどうかな?」
 学ランをまくり上げたYシャツには四次元ポケットがあった。
「あなたまさか!? ドラちゃんを……」
「あのポンコツのことなら心配いらないよ。どら焼きにウィルス入りチップを仕込んで、今じゃ僕の言いなりだからね」
 静香は覚悟を決めた。この男は狂っているが、きっと何か要求があるのだろう。だから店員なり警察なりに突き出したりしないのだ。
「で、何が望みなの? お金? それともわたし?」
「そうだな、手始めに……そこを見せてよ。脚を大きく開いてさ」
 静香は憎々しげにのび太をにらんだあと、ツンとそっぽを向いて脚を開く。
「いい眺めだな~。お嬢様はビラビラまでおしとやかなんだね。でも、早く拭かないと乾いて痒くなっちゃうよ~?」


 言われるままに拭い、紙を捨てようとして手首をつかまれる。
「ちょうだい? それ、くれるよね? し~ずかちゃん?」
「この変態!」
 静香は震える手でペーパーを渡す。
 うっすらと黄色いシミがついた薄紙を、のび太は愛しげに見つめている。
「しずかちゃんもオシッコするんだね~? 女の子のくせにオシッコなんかするんだね~?」
「当たり前じゃないの! もういいでしょ! 出て行ってよ!」
 のび太は舌をチッチッチと鳴らしながら、人差し指を振ってみせる。それからおもむろにペーパーを鼻に近付けた。
「や、やめなさいよ。……不潔だわ」
「いいにお~い。しずかちゃんの恥ずかしい割れ目を拭いたなんて、このペーパー君は幸せ者だね」
 静香が目を伏せると、ちょうどのび太の学生ズボンが目に飛び込んできた。
 剛(たけし)にでも見せようものなら「のび太のくせに生意気な!」と怒鳴られそうなぐらい、見事なテントを張っている。
 驚いた静香は再びのび太の顔を見上げた。
「い、い、いいいやああああああああ!」
 のび太がペーパーに舌を這わせている。静香はもはや直に体を舐め回されている気がして、自分の肩を抱きしめた。
「大げさだな、しずかちゃんは。そんな大声出したら人が来ちゃうじゃないか。仕方がないから、今日のところはこれで帰ることにするよ」
 ちょうどフープが消えたタイミングで店員がノックした。
「どうしました? 大丈夫ですか?」
「ゴ、ゴキブリがいただけです。ごめんなさい。もういなくなったわ」
 言えなかった。言ったら全てが終わりなのだから。
 深いため息をついてパンティーを上げたところに再びフープが現われた。
「な、なによ……」
「お別れのチューをしてなかったからね。僕ら恋人同士だろ?」
 のび太がタコの口をして顔を寄せる。
 静香はとっさに横を向いてよけた。長年抱いてきたファーストキスへの強い憧れが、卑劣なキスを許さなかったのだ。
「いいのかな? 源家のお嬢様が万引きの常習犯だなんてことがばれても」
「でたらめを言わないで、常習なんて……」
「しずかちゃんのことなら何でも知ってるんだよ? ほら、タイムテレビとか覚えてるだろ?」
「見て……たの?」
「もちろんさ。名シーンは録画して大切に保管してあるよ? さあ、どうする?」
 静香は抵抗する気も失せて口付けを受け入れた。
 ついさっき汚れたペーパーを舐めた舌がねじ込まれ、静香は悟った。何もかもこの男に奪われてしまうのだと。
「しずかちゃんの舌ってすっごく甘いね。温かくてニュルっとしててさ、いやらしいな~」
 ファーストキスを奪われた上に侮辱され、静香の中で何かが弾け飛んだ。顔から一切の表情が消えた。
「帰って」
「じゃあ、帰ったら今のチューをオカズにしてもいいかな? もう僕ビンビンで我慢できないよ」
「帰って」
「どうしたの? しずかちゃんは僕とのチューが嬉しくないのかい?」
「帰って」
「もしも~し? しずかちゃん聞いてる~?」
「帰って」
「しょうがないな。このぐらいにしておかないと僕の大事なしずかちゃんが壊れちゃうもんね。
 でも、これだけは覚えておくんだよ? 僕は机に入るだけで失敗を何度でも取り戻せるんだ。
 君一人が騒いだところでタイムパトロールを呼べるわけもない。つまり僕は君にとって神に等しい存在なのさ」
 のび太は満足げに笑いながらフープをくぐっていった。
 緊張の糸が切れて静香は便座にへたり込んだ。声を殺して泣いた。
 侮り、軽蔑してきたのび太こそ、一番敵に回してはいけない相手だったのだ。
 それに気付いたとき、全てはもう手遅れだった。