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ポーケットのなっかには♪

(1)主人公がひっとり

「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅわぁあああああああ!」
おれは心の奥底から湧き出す恐怖を絶叫と踵に乗せて、
自分の机の引き出しから頭を出した悪魔に、アンディ・フグも真っ青な踵落としを叩き込んだ。
メキリ、といういやな音が体に伝わり、確かな手ごたえと共にターゲットは引き出しの中――おれの予想が正しければ、
ゆがんだ時計の模様でいっぱいの果てのない空間になっているはずだ――に落下していく。
「うぅわぁあぁぁぁぁぁ………。」とこっちも俺に負けず劣らずの絶叫を上げているが、もう二度とそれを聞くことがないことを俺は確信していた。

何でこんなことになったのか。
俺は手元にある、くたびれた便箋を握り締めて自問した。

俺、建宮淡希は近くのスーパーで特売争奪戦をパワフルなオバちゃん連中と繰り広げ、
孤軍奮闘の末に勝ち取ったアメリカンドック詰め放題一回百円(十三本ゲット)を高々とかかげて帰宅していた。
己を鍛え上げれば百円でおかずにもおやつにもなる魔法の食物を十数本手にすることも可能なのだ。彼女たちの目の輝きは半端ではない。
触れたそばから体の水分を奪われるような枯女スキンの中を泳ぎきった俺は、乳酸でパンパンの体を休めるため自分の部屋に入るなり思い切り倒れこんだ。
ろくに掃除もしてないが、そもそも物の絶対量の少ない俺の部屋だ、ばたんと倒れこんでも何も下敷きになるはずはない。
ないのだが。
「ん?」
腹の辺りに何か、やわらかい感触が。
なんか布っぽい感じ、むにょむにょしていて若干膨らんでいる。
「なんじゃこりゃ」
起き上がるのも億劫なので腹の下に手を突っ込んで適当に引っ張り出す。
その動作が某青狸に似ていたのでボソッと「ハイ、タケコプター」なんて言っちゃったのが原因かもしれない。
差し出した俺の手には、黄色いカップの上に竹トンボがくっついたような、おかしな道具が握られていた。
ハイ、ヘリトンボー。
「………なんじゃこりゃぁああああ!」

疲れているなんて言ってられない。謎の物体を放り出し、バッタのように跳ね起きると俺は腹の下の物体を凝視した。
きちゃない、くちゃくちゃの便箋しかない。
そうだよな、そうだよ、あんなものがこの世に存在してるわけないんだよ。
俺はなぜか安堵しながら便箋を手に取る。こんなものもらった覚えはないが俺の部屋にある以上俺のものだ。
これが何の変哲もないダイレクトメールなら、そんなものはないって完璧に証明できるじゃないか。
俺がもどかしげに便箋の封を開けると。きれいな鉛筆書きなのにどこか機械的な印象を受ける字が並んでいた。

『このポケットを手にする誰かへ、君はドラえもんというものを知っているだろうか? 
知らないのならこのポケットは君には無用の代物だ。この手紙をいますぐ破りたまえ。
ポケットは燃やすなり、ごみの日に出すなりして処分することをお勧めする』

ポケット? それ何のこと? やだなぁポケットなんて付いてないよ?
ほら、あれはとあるおうちのダメな息子さんの部屋の押入れに住んでる奇妙な生き物のおなかについているものじゃないか。
確かにそのダメな息子さんをいじめるガキ大将だのその腰ぎんちゃくだのの腹部にも節操なく引っ付くことがあったけどさぁ。
俺の腹にはそんな尻軽ポケットついてないよ。

『ここを読んでいるということは君はドラえもんを知っているんだね?
今からここに書かれることを心して読んでほしい。
なぜそこにポケットがあるのか、そのポケットが秘めるものは何か。そのすべてをここに記す。
だが、その前に君の家の勉強机に「彼」を迎えに行ってやってくれないだろうか? 
彼は自分のことを誰も知らない世界へやってくる。孤独な旅人なのだから。
できれば、君の家の押入れを、彼の寝床として貸してやってほしい』

勉強机? 彼? 押入れ? それじゃあまるで………。

『残念ながら、君が予想しているようなボディは都合できなかった。
AI、音声、ピタリハンド等各種装備は調達できたのだが、申し訳ない。
代わりと言ってはなんだが、フレーム部分は君たちの時代で「彼」のオリジナルの次に有名なヒューマノイドのものを使用しておいた』


そこまで読み上げたとき、俺の後ろでガタリ、と引き出しの開く音がした。この手紙に書かれている、「彼」が来訪したのだろう。
だがしかし、俺の目はこの手紙の次の文面に集中していた。
有名なヒューマノイド? はわわーなメイドか? マニアックでミソッカスなオ-トバランサーのついてないダメロボか? それとも最近とみに勢力を伸ばしつつある魔法使いの従者の茶々○か?

『その名も。








………「中華キャノン」だ』

「やあ、ぼくドラえも………」
「うぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅわぁあああああああ!」
俺は目をつぶりながら振り向くと、後ろから響くだみ声めがけて思い切り踵を振り下ろした。
そこにはみてはいけないものがあると本能が告げていた。





悪魔は去った。
俺は引き出しを乱暴に閉めると手元の便箋を机の上に放り出し、自分の腹部に目をおろす。

ポケットだ。四次元ポケットだ。
白くて半円形で少し厚みがありそして俺の腹にくっついていた。倒れこんだときにくっついたせいか、少し斜めになっている。
とびおきたときに放り出した竹トンボもどきを頭につけてジャンプすると、体が浮いた。
それをポケットに入れると。跡形もなくなった。
まごうことなく。四次元ポケットだった。


「………マジで?」
マジで。
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