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大人のポケット



               何故、これが俺の手元にあるのだろう?

そもそもこれをいつ、どこで手に入れたのかすら覚えていないのだから手に負えない。
嫌な上司に失敗を押し付けられて会社を解雇。飲めない酒に溺れてヤケを起こして
飲み屋を何軒かはしごしたまでは覚えているのだが、その先はまったく覚えが無い。
だがどうだが自分のアパートまでは帰ってきたみたいだ。そして

目が覚めると手に、ある布切れを握り締めていた。

正確に言うと布ではなく、布のようなモノとしか言いようがない。半円形の二重で色は白。
円周は綺麗に閉じてあり正に”ポケット”と表現するのが相応しいそれが、最初は何が何だか
まるで分からかった。酔いが抜けてない頭で考えてもラチがあかないし、水でも飲もうと
立ち上がったら、不意に本棚に頭をぶつけて崩れる本の波に呑み込まれた。
相変わらずの運の無さを嘆きつつも、何気なく手にした本を見て思わず唸ってしまった。
幼いころから夢中になった漫画のコミックス。すっかり変色し、所々傷んでいたが
何故か捨てられずに実家から持って来ていたんだ。その名も”ドラえもん”・・・・
「ま......まさかナ.... いや、現実にある話じゃない!あれはメルヘン。
 空想世界の、漫画だけでの話だろう。何をトチ狂ってるんだあ、俺?」
そうさ、これは誰かが自分に仕掛けたたちの悪いジョークに決まっている! そう思うと
ポケットに手を入れたりしたら、ますますそいつの思うツボになるだろう。見られている
訳でも無いのにむしょうに腹が立ってくる。精巧に出来ている悪意を机の上に投げ捨て
散らかった部屋をかたずけた。惨めだ、途方も無く惨めさを噛み締めながら、己の不幸を
嘆かずにはいらなかった。誰も彼もが憎くて憎くて気が変になりそうなのを、必死に堪え
仕事を探しに東奔西走する。不景気の風が冬の寒さよりも尚の事、身に凍みた。
現実は厳しく、新たな仕事はすぐには見つかりそうもない。
蓄えも間も無く、底をつきそうだ。このままでは住む所すら失うの時間の問題だろう。
夕暮れの街頭テレビにあの国民的アニメが流れているのを、思わず足を止めて眺めると
なにげに心で毒ついた。





「何故のび太だけが助けてもらえるんだ! 助けてもらいたいのは俺の方だろ!!」

不意に笑うと、自分のバカさ加減に呆れて家路と急ぐ。誰もいない部屋でふと、
机を見た時、ある意味正気を失ったのだろう。思わず例のモノを手に取り、片手を入れた。
 「 ハイ、タケコプターー!」
大山しのぶのダミ声を気持ち真似ながら、手を引き抜くと、昔、自分が作った竹トンボに
よく似た、漫画やアニメでしか知らなかったあの機械が手に握られてた。震える手で頭に載せ
スイッチらしき所を押すと体が浮き始めた。顔は引き攣り、乾いた笑いしか出ない。
思い切って外に飛び出した。どんどん上昇する。新月の闇夜だが
それが街の灯りを一層鮮やかに魅せる。

「飛んでる・・飛んでるよぉーーーー!!!! 俺が空を飛んでるーーっ!」

発狂したかのように一心不乱に飛び跳ねる、喉を潰さんばかりの絶叫。ちょっと落ち着くと
片腕に痛みが走る。部屋から飛び出る時、何かに引っ掛けたらしく出血していた。でも
この痛みが嬉しい。空を飛んでる自分は夢ではなく現実なんだ。ホントの事なんだ!
この四次元ポケットさえあれば、金も物も欲しいものは何だって手に入る、時間すら操れる。
当然、人だって手に入るはず。
「待てよ?....人...女...そうだ!女だよ お・ん・な。
どんな美女も抱きほうだい。世界が僕のハーレムに! うひょう~~っ!気が狂いそうだ。」

この力、いや道具を使って何をしようと考えるだけで心が躍る。
あの鬱蒼とした日々からの脱却が自分に生きている実感を与えてくれるのだ。
どんな欲望も思いのままなんて、素晴らしすぎる。VIVA! 四次元ポケット!!!
とりあえず部屋に戻り、込み上げて来る高笑いに身を委ね、なにはともあれパソコンを起動させ
ネットにアクセス。まずは情報の収集は必須。計画立てて遺漏なく事をやり遂げなけないと、
些細な事柄で折角得た力を失っては死んでも死にきれない。     
             俺は間抜けなのび太では無い。
俺は 山本 誠  25歳  元営業マンの無職。  中肉中背の童貞 彼女ナシ



ネットの世界は現代における混沌そのものなのだろう。
自分の正体を明かさずに欲望を表現できる唯一の無間世界。
ちょっと検索すれば、「ほらぁ、やっぱあるじゃん! 一度位は誰もが思いつくんだよ」
ドラえもんのひみつ道具を使った悪行三昧する妄想サイト。
使えそうなアイデアは片っ端からコピペしておく。そうそうひみつ道具のデータベースも
お気に入りに登録するのも忘れずにってか。彼らの努力や妄想に感謝しつつも
ついつい高笑いが止まらなくなる。そりゃぁそうだろう?彼らは何ひとつ実行できないだぜ。

正直な所、女性との経験値0の自分がいきなり世界をハーレムに出来ると言われても
どうして良いか悩む。んでだ、俺様を不幸のどん底に陥れた元上司に復讐をするついでに
家族どもを肉人形にでもして遊んでみっか。ブスなら速攻でポイでしょ。

神崎 浩二45歳 ○×商事の部長で俺の元上司で殺しても飽き足らねぇイヤな野郎だが
今はどうでもいい。それより家族構成をしらべて女達をいたぶる下準備に取り掛かるとしよう。
『とりよせバック』で会社から履歴書を取り出す。妻に三人の娘とは面白そうだ。
住所は...なるほどね大体判った。 後で御挨拶にでも伺うとしよう・・・クックックッ