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あいつが来る/本編/第48話」(2011/10/07 (金) 03:52:33) の最新版変更点

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  *  *  * 「機械トラブルにより停止操作が受け付けられなかったとの報告が」 「あれだけの時間をか」 「その様に報告が。 BPOが審議入りを避ける事はあり得ない状況。 総務大臣から即座に出頭する様にと、停止以上の処分は避けられないとの…」 「他には?」 「警視庁による強制捜査が始まっています。既に任意と言う形で連行されています」   *  *  * 「東都テレビが昨夜のニュース番組で児童の淫らな姿を含む映像を放映した事件で、 警視庁少年育成課は今朝、新たに東都テレビプロデューサー…………容疑者など五名を 児童買春児童ポルノ禁止法違反の疑いで逮捕。 昨夜に引き続き東都テレビ本社など関連箇所の家宅捜索を行いました。 調べに対し…………容疑者は取材中に入手した映像データを取り違えて再生させた、 停止しようとしたが機械トラブルで停止しなかった、意図的なものではなかったと容疑を否認していますが、 警視庁では早期の映像停止が技術的に容易だったと判断… この事件に絡み東都テレビ…………会長は今日、総務省を………… …………総務大臣は閣議後の記者会見で、東都テレビの免許…………検討を…………BPOも審議入りを…」 「東都テレビ、根こそぎですね」 午前中の聞き込み先で、通りがかりの電機屋に視線を走らせた高木が呟く、 「それはそうよ」 高木の隣で美和子が言う。 「挙げられた面々はみんな機械が停止しなかったってうたってるみたいだけど、 あれだけの長時間放映しておいて、素人が聞いても誰がそんな言い訳信じるって言うのよ。 もちろん生安部でも専門家の意見を聞いた上での逮捕だって言うけど」 「結局、録画されたのほとんど全部放映しちゃいましたからね。 しかし、東都テレビもあれ、どっから入手したんでしょうね?生安部の狙いも…」 「多分、そこね」 そう言った美和子は、既に信号が青になった横断歩道へと踏み出していた。   *  *  * 「あら」 しんと静まり返った深夜の警察署廊下で、お手洗いの帰りに呟いた美和子の正面で、 一人の女性がぺこりと頭を下げていた。 「そうですか帳場が」 「ええ。只、カンがハム関係みたいだから一課はぼちぼち引き揚げになると思うけど」 「公安事件ですか」 「そっちは?」 「京都案件」 何となく、既に人気の無い自動販売機コーナーに落ち着いた美和子が、 何となく同行した知己のハイテク担当捜査官がぽつりと答えるのを聞く。 「そう…」 「はい。関係データの中の一件がこの管内でやり取りされていたと言う解析結果が出ましたので ガサ入れして疎明して逮捕しました」 「そう。京都って言えば、東都テレビの件も生安部の扱いだったわね」 「東都テレビ操作の主管は少年育成課です一応児童ポルノ案件ですから。 しかし例の映像データの関係でこちらのセンター(ハイテク犯罪対策総合センター)も関わっています」 「狙いは東都テレビに渡った出所?」 「主管はそのつもり身柄を取って吐かせるつもりです。 確かに我々による追跡ではあのデータの流れは押さえ切れていません」 「あの映像データ、現場、京都のホテルの現場から流れたものよね」 「そうです。あそこで逮捕補導された三人の女子中○生が撮影したものです。 京都からの情報では現場に残されたノーパソに映像データを外部に発信した形跡があった。 京都のハイテク担当が押さえようとした。 でも送信先が捜査協力ネット捜査環境に乏しい第三国で対応に時間が掛かった。 その間に問題の映像データが複数のルートで流通している事が分かりました。 警視庁を含む管轄の本部がそれをやり取りしている人間を何人か児ポ法で摘発済み。 東都テレビも取材中に恐らくそうしたルートの中から入手したものと思慮されます」 「京都の事件、そっちにも色々来てるみたいね」 「はい。鈴木会長のPCHDDその他が押収されましたから」 「ウィルスの巣窟だって聞いたけど?」 「京都府警はホテルの部屋でノーパソを押収。 事件の性質上鈴木邸に踏み込んで鈴木容疑者の私物は全て押収しました。 それらの物証の解析は伝統ある京都府警のハイテク対策室が担当。 その過程において京都府警における名目上の申請内容を逸脱した各種経費の実質的使途支出先。 主に刑事部組織犯罪対策課警備部公安課及び所轄の系列部署が把握している反社会的集団の組織構成員情報。 運用している情報提供者及び潜入捜査官の身元その他が世界中で閲覧可能な状態となりました。 以後把握されているだけで反社会的集団に潜入中の捜査官及び組対や公安の捜査官の個人的知人28名が 両腕両脚骨折の上文字通り路上に屍を晒し49名が行方不明です」 「それで、ウィルス以外のものは?」 尋ねた美和子の右掌は黒髪を押さえていた。 「ホテルで押収されたノーパソに加えて自宅からも外付けHDや各種大容量記憶媒体が発見されたため ウィルス感染防止に最大限の注意を払いつつ京都府警と情報交換の上当方でも解析を行いました。 出て来たのは児童ポルノの画像データ動画データが万単位で その大半は過去に市販されあるいは犯罪として摘発されたもの。 それを鈴木PCが拾える状態にしあるいは直接送信した人間 鈴木PCからの送信を受け更にそれを公表送信した人間。 それらを挙げるだけでも日本中のハイテク担当少年担当が総動員です」 「その大半、に当てはまらないものがあった」 「伝説のerojii」 「伝説のerojii?」 「元々は2ち○んね○に出没していたトリップつきのハンドルネーム、それがerojiiです。 ニュ○ス速○+板で児童ポルノ関連事件のスレが立つ度に、 ま○のお叱りに合わせて児童ポルノをzip公開して三○様からお褒めの言葉を頂いていました。 実際にはこれに当てはまる投稿は確認されているだけで五回だけです。 しかしその後同一人物によると見られる児童ポルノ頒布がネット上で何度となく行われています」 「どうして同一人物だと?」 「一言で言えば質が非常にいい最近作られたものでしかも日本人被写体の児童ポルノ。 それだけでも一つの特徴と言えます。他にも色々と判別する癖の様なものはありますが マニアの間ではネット上に偽物が出た即刻吊し上げられて終わる程に良品質児童ポルノとして知られていた。 だから「伝説のerojii」が通り名になっていたんです」 「そんな状態で放置されていたの?」 「我々も他の県警も何度か着手して拾いものの二次頒布三次頒布は何度も立件しました。 しかしギリギリまで突き詰めたケースでもネット捜査の協力が難しい第三国のルート。 あるいは失踪中の多重債務者の名義でその先に進めないのが実際でした。 その間にも「伝説のeroji」と思しき児童ポルノ映像が様々なルートでネット上に流出。 その度に拡散先を躍起になって追跡しても大元にはたどり着けなかった。 しかし今回呆気なく反対側から壁の内側に入る事が出来た」 「それが、今回の事件だったのね?」 「しかも今まで「伝説のeroji」として我々が認知していたものが ほんの一部だと言う事も判明しました全て完璧に保存されていましたから」 「残りはため込んでいたと?」 「そういう事です。 大元のデータでは一人の児童に対して二つのパートに分かれた写真集を作成。 様々なコスチュームやランジェリーからヌードを撮影した ヌードだけなら二、三十年前の有名写真家レベルとすら言われているパート。 いわゆるハメ撮りを初めとしたAV的それも非常にハードなシチュエーションを網羅したパートの 二つのパターンを撮影保存していました。 その全てが無修正で女性器の拡大写真映像付きです」 「それで…被害児童はどういう状態で撮影されていたの?」 「被害児童やその周辺者親を含め仲介者として立件された人物の供述では非常に巧みな話術や多額の報酬で 直接的な暴力は一切無く公表された意味を知るまで児童本人には全く悪印象がなかった程です。 過去の何件かの摘発で身元が割れていた被害児童からマル被の似顔絵はとっていたのですが 説得役のメインの実行犯はどちらかと言うと特徴の無い中年男性。 そしてもう一人準備が終わってから比較的短い時間一緒に撮影される形で関わっていた人物がいます」 「その、もう一人の似顔絵は?」 「こう言ってはなんですが似顔絵を取る事が出来た被害児童は主に地方の人間。 そちらの県警にはまさか鈴木会長本人と言う発想は無かった。 erojiの被害児童は都道府県にして三十を上回りました。 第二の男に限定するとその多くが鈴木会長の過去の行動記録勤務実態と一致しており 少なくとも矛盾は発見されていません。 しかも鈴木会長は様々な名義で30を超えるマニア向けサイトを運営していました。 どういうルートか情報を交換した愛好者のみが複雑なパスワードの向こうで erojii提供画像を閲覧していた事も内側からの摘発で発覚。 マニアの間で伝説的な評価を受けながら画像がやり取りされていた事も分かっています。 東京でキーボードを叩いていた以上それに見合う評価はこちらできっちり受けてもらいます」 「何、考えてるのよ…」 「最悪なのはその写真集データに共に被写体となった児童の個人情報が一つ一つ添付されていた事です」 「こっちにも聞こえては来てるけど、それってどこまで…」 「住所氏名生年月日学校名家族構成両親の勤務先に至るまでです。 先ほど触れました通り押収された各種の記憶装置にはそのほとんどにおいて ファイル交換ソフトと○検キ○○○その他諸々のウィルスがインストールされ 押収時には既にほぼ全てのデータに関して発動済み恐らく摘発の直前の時期です。 被害児童については把握されているだけで自殺者3名9人の行方が把握されていません。 これはerojiに限定した数字です。 他に万単位で保存されていた過去ポルノデータについては把握以前の問題です」 ぶつぶつと報告していたハイテク担当捜査官が、近くでべきっとコップを潰す音を聞いた。 「それって、本当に鈴木会長に間違い無い?ハッキングとか色々あるって聞くから 何と言うか、余りに信じがたい突拍子も無い話だし、正直言って私達は鈴木会長とは知らない関係じゃない。 あえて言うけど良識ある紳士、経営者でありよき父よき夫だった」 「私もそう思いました。 しかしデジタルと同時にアナログの証拠も多く出て来ています。 書類筆跡指紋佐藤刑事向きの証拠も色々と。 それに書斎の机の引き出しの二重底から そうした鈴木会長の痕跡をたっぷり残した暗号手帳が見付かっています」 「暗号手帳?」 「はい。 正直言ってそれが無ければ東京本部の我々もウィルス被爆で首都の治安情報を全面公開していました。 手帳の暗号を解いて読み方が分かれば押収した全てのデータの場所も安全装置も理解する事が出来る。 逆に言うと鈴木容疑者本人の頭脳又はこの手帳なしに読み解く操作する事は 危な過ぎてとても出来るものではありませんでした」 「…ごめんなさい、疑うみたいな事を。私達もよく聞くもの、まさかあの人が…」 「いえ当然の疑問です。アナログで聞き込むとよくある事とは言え 当方でもまさかあの人がと言う反応が今回もうじゃうじゃ出て来ていますから」   *  *  * 「東京地検特捜部が今回の件でガサ入れかけました」 「何ですって?そんな話…」 「容疑は東京都内での児ポ法違反関連と鈴木邸での大麻取締法違反。極秘です。 担当である我々と組対とは形式上合同捜査と言う事で仁義を切っていますが厳重な箝口令が敷かれています」 「一体どこに?」 美和子の問いに、ハイテク捜査官は小指を立てて応じた。 「当時の鈴木会長の逮捕直後東京地検に出頭した女性がいます」 「それが鈴木前会長の特殊関係人だった?」 美代子の問いに、ハイテク捜査官は頷いた。 「痛くもない腹を探られると思って大学同窓の弁護士を伴い出頭しています。 その供述を受けて彼女名義となっていたマンションの捜索を行いました」 説明を聞きながら、ふと、美和子は自分の顔がじっと見られている事に気付く。 「?」 「失礼しました。 その愛人というのが鈴木HD本社の企画課主任。 学歴も実績も申し分なし。佐藤主任と同年配女盛りのなかなかの美人です」 言いながらハイテク捜査官は小首を傾げる。 「私の聞いた範囲では鈴木前会長はその女性主任を至ってノーマルに それも非常にエネルギッシュに愛していたと言う話です」 「弱者を性欲のはけ口にするタイプとは対極だと言う事ね?」 美和子の言葉にハイテク捜査官が頷いた。 「実際、逮捕して見れば良き夫良き父親だったと言うケースもあるから、 単に守備範囲が広すぎると言う事も考えられるけど。 或いは、愛人には雄々しさを誇示するために薬物を使用していたか…」 「そういうものですか」 美和子の言葉に納得した様なしない様な女性ハイテク捜査官の仕草を見ながら、 美和子は、警察官としてはそれなりに経験を積んでいる筈の彼女のどこかデオドラントな感性が面白かった。 「本題に入ります。 愛人宅で押収したPCを解析した結果児童ポルノの類は発見出来ませんでした。 それ以外に関してセンター(ハイテク犯罪対策総合センター)の役割は鍵を開けるだけ。 出て来た文書は全て特捜部に持って行かれてこちらでは上からストップがかかっています。 愛人宅のガサについては管理官クラスが厳重に目を光らせていて情報交換もままならないのが実際です。 しかし私が掴んでいる範囲では彼女は児童ポルノや違法薬物には関わっていません」 「私もそう思う。特捜部の目的が何であるかは分からないけど、 その容疑を呑んでしまうのは危険過ぎる。 京都府警や東京本部(警視庁)が黙っていないのはもちろん、 公判維持の問題を通り越して証拠隠滅犯人隠避で刑事事件にすらなりかねない」 「他に押収されたブツに関しては徹底した保秘が掛かっています。 私が聞き出した話もありますが」 小さく首を横に振るハイテク捜査官に美和子も小さく頷いた。 「ハッキリしているのは児童ポルノやドラッグに関するストレートなブツは発見されなかった事。 そして特捜部自体も本当はその容疑には関心が無いと言う事。 その証拠に二課も動き出しています」 「二課?」 「そちらの二課です。京都で押収したPCや携帯のデータに二課が関心を持っています」 「捜二が?」 「はい。二課の財務捜査官。銀行員出身者も多い会計捜査のプロ。 ネットバンキング絡みの巨額横領事件で組んだ事があります。 その方面からこちらに接触があります」 「特捜部と捜二が動いているって事は、鈴木財閥本体?」 そう言った美和子と静かにしかし真摯なハイテク捜査官の目が合う。 「東京本部(警視庁)だけじゃない。 大阪でも同様の動きがあるとサイバー担当同士のネットワークで情報が入っています。 刑事部としては格下の京都でもあれだけの事件の現場を掴んでいるんです自分達で仕上げようとします。 上からは鈴木関連でこちらに現場のある事件を徹底してあげろと指示が出ています。 多少強引でも管理人でもプロバイダーでも幇助で行けそうなものはどんどんいけと。 既に我々生安部とそちら(刑事部)の上。 恐らくは二課との間で何らかの決定がなされたものと考えられます」 「こちらに現場がある事件をどんどん摘発して京都側に情報提供を要求する。 ネット犯罪にも線引きはある、ってね。 京都以上の事件を警視庁で掘り出して主導権を奪い返す。 そこに、二課で狙ってる事件の手がかりがある」 美和子が苦笑の後、狙いを真面目に分析する。 「だから気になります京都地検の動きが」 「特捜部、特に東京地検特捜部が動いていると言う事は、高検最高検も噛んで来てる。 当然京都地検もその影響下にあるわよね」 「鈴木会長は拘置所にいます。 拘置所移送を求める弁護側の申立に検察が異議を唱えなかった」 「さすがはVIP待遇、と言う事かしら? 万が一にも野蛮なデカさんと調書の任意性で揉めないためにかしら」 首を傾げて美和子が言った。 「府警の現場はますますやりにくいそうです。 何より検事調べが非常に長くその事も府警側の不興を買っています」 本来ならば起訴まで警察署内の留置所に勾留して取り調べる。 善し悪しはとにかく、それが日本では慣例になっている。 検察庁への送致と共に検察庁を管轄する法務省管轄の拘置所に移送するのは建前ではそうだが、 特に警察逮捕の粗暴事案ではそれが実行される率は非常に低い。 取調を行う警察官の立場としては、拘置所はやり難いと言う部分は否めない。 「地検が供述、事件のコントロールを意図してる…」 顎の下で指を握る美和子の前で、話をしていた女性捜査官がぺこりと頭を下げた。 「ああ、佐藤さん」 「高木君」 トイレの帰りに何となく通りかかった高木が美和子に声を掛けた。 「あれ、彼女確か…」 廊下の端に消える女性の姿に、高木が言う。 「生安部のハイテク犯罪対策総合センター。この辺で京都案件の捕り物あったみたい」 「ああ、例の件ですか。まさか鈴木会長が、只でさえ蘭さんの周辺でゴタゴタしてる時になんて事を…」 高木の言葉に、美和子も嘆息する。 「しかしまあ、世も末ですね。 あんな何人も○○学生がオハルやっててマルBに引っ掛かってって言うんですから。 僕も生安の関係から聞きましたけどね、 押収したデータからそうやって写真撮らせてた女の子が続々出て来てるって…」 「そうね、それだけ子供食い物にしてる連中がいる。世も末だわ」 切り口上で言って、美和子がツカツカと寝床に向かった。   *  *  * 「ああ、そや、タマ取られよった!!」 「だから、何ボや言うとんね!?」 「支度や支度、叩き起こせだぁほっ!!」 マンションが建ち並ぶ深夜の街にも関わらず、大阪市福島区のその一角は異様な雰囲気に包まれていた。 黄色い縄張り、報道陣も動き出している。 だが、それより何より、あるいは口角泡飛ばしあるいはひそひそと、 携帯電話を使う得体の知れぬ男たちが右を見ても左を見てもうじゃうじゃと増殖していた。 「だから!!…何じゃおどれ…」 背後からの衝撃に振り返った男が、細い目から覗く眼光に射すくめられ背中にすーっと冷や汗が走る。 「な、な、何じゃい自分…」 「おおー、元気がいいのー」 言いかけた男の前に、遠山刑事部長がずいと進み出る。 「公務執行妨害でちぃと泊まってくかー、んー?たまには携帯無しちゅうのもええんちゃうか?」 言われた男がダッシュで逃走する。 「本部長?」 「服部本部長直々かよ」 報道陣の中からも驚きの声が上がり始めた。   *  *  * 「相当な手練れやな…」 マンションに入り片膝をついた服部平蔵が、合掌の後に呟く。 「鋭利な刃物で三人いっぺん、頸動脈かっ切られてますわ。抵抗した痕跡もほとんどなし」 大阪府警捜査一課のベテラン大滝警部も、恐れを隠せぬ口調で言った。 「こっちの二人、飾りやハッタリやない、プロやろ」 「はい」 平蔵の言葉に、大滝が短く答えた。   *  *  * 「伊西田データ?」 日売テレビ、朝の報道局フロアで、水無怜奈が取材記者に聞き返した。 「ええ、「伊西田データ」の伊西田社長、未明に殺害されたと」 「大阪の仕手筋よね。ここ最近の」 「ええ。元々は業界紙で北浜辺りをうろついてたトリ屋でしたが、 その内に自分で株の運用を始めて大当たりしてます」 「それだけじゃないわね。色々ときな臭い筋も関わってるでしょう」 「ええ。その的中率の高さから、裏社会や政治家からも秘かな資金の運用を任されていたり、 その人脈から最近ではフィクサー気取りの動きも目立っていました。 トリ屋上がりが不自然なほどの勝ち方をしていると、SEECや地検からもマークされていたと」 「インサイダー」 「としか思えないと。 しかも、その利益が裏社会にも流れていましたから、 府警初め警察や国税、地検特捜部も幾度か別件で着手したもののなかなか尻尾を出さなかった」 「それが、殺られた」 「ええ。どうもただ事じゃないですよ。 Y○V(日売テレビ大阪系列局)が現場行ったら、殺られたって聞いた途端に、 現場のマンションの周辺、携帯持ったその筋の人間が埋め尽くしてたとか、殺り方も…」 「猟奇殺人でもあった?」 「逆です。韓国海兵隊上がりのプロを二人連れて愛人の部屋に向かう途中、 駐車場で三人まとめて首筋かっ切られた。 司法解剖の結果はアーミーナイフか何かみたいですが、 一課も四課もどこの仕○人だって震えが来てるって言ってます」   *  *  * 「じゃあ、府警は本気なんやな。こう言う時のために…」 「ああ、こんな時になぁ、今まで散々たかってたOBも現職も、 府議会国会、どいつもこいつも自分の火の粉避けるのだけできゅうきゅうしとる。 わしも人の事言えんがな、教えたくても捜査情報ぴたーっと止まってるんや」 「服部遠山ラインか」 「そや。あいつら、裏で相当なプレッシャー掛けてあんたらに関わらん様に手ぇ回しとる。 俺も、助けたくてもいつの間にか蚊帳の外や」 「遠山か、サブコン時代からちょろちょろいちびっとったからなぁ」 「バックにいるのは服部、本部長直々や。本部長より上のサツ庁を動かすとなると時間が掛かる。 服部は堅物なだけやない、策師や。そんなん下手に茶々入れたら自分らに火の粉が来る。 サツ庁やバッジもそうそう手ぇ出せへん言うて腰引け取る」 「ダボがっ、一体連中にどんだけ突っ込んだ思てるんや」 「気ぃ付けや、こうなって来るとなぁ、いくらあんたがスポンサーや言うても、 むしろその事がヤバイ事になって…」 ---- [[次話へ進む>あいつが来る/本編/第49話]] [[戻る>◆uSuCWXdK22さん-2]] [[小説保管庫へ戻る>小説保管庫]]

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