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あいつが来る/本編/第38話」(2009/11/09 (月) 02:24:58) の最新版変更点

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  *  *  * 「ちょっと」 「ちょっとちょっと」 「………」 身を起こした鈴木綾子は、人に囲まれているのをぼんやりとした頭と視界に感じる。 率直に言って、ここはどこ、私は誰と言う状態。 シンプルな木造の部屋、ベッドの上である事は理解した。なんとなくどこにいるかは分かって来る。 周囲を見回すと、ハイカー姿の男女がそんな綾子を取り巻いている様だ。 スースーするものを感じた綾子は、そこで、ようやくバスタオル姿で他人に囲まれていると言う状況を その意味と共に理解した。辛うじてではあるが。 「えっ?あ?え?あのっ…」 「さあっ、起きて起きてっ!」 ハイカーの口調には、綾子が余り経験した事の無い荒っぽさがあった。 とは言え、綾子の状況はまだましだった。 リビングでは、壁際で尻を突き出した肌色の尺取り虫と課した裸女二人と テーブルの上下で堂々フリチ○大の字を展開していた野郎共が踏み込んだハイカー集団に叩き起こされていた。   *  *  * 「何ですか?困りますっ!」 優雅な豪邸の穏やかに見えた一日は、終盤近く、尋常ならざる使用人の声が急展開を告げた。 「どうしたの野入さん?」 「何ですかあなた達はっ!?」 悲鳴を上げたメイドに園子が尋ね、 立ち上がった鈴木朋子が乱入するスーツ姿の集団をキッと睨み付ける。 「夜分遅くすいません、関東信越厚生局麻薬取締部の家宅捜索です。 そのまま動かないで下さい証拠隠滅になりますからね」 先頭の男が令状を示して言った。 「麻薬?家宅捜索?パパ」 園子が奥に座る父に不安げな眼差しを向ける。 「それはご苦労様です。もう少し詳しく説明して下さいますかな?」 鈴木史郎が穏やかに、しかし威厳ある声で言った。 「綾子さんの出席しているパーティーにコカインとマリファナと合成麻薬が持ち込まれておりまして、 関連先として捜索を行っています」 「まさか、皆さんよく知っている、社会的地位のある父兄を持つ方ばかりです。それがどう言う事か…」 「すいませんがねお母さん」 嘲笑すら覗かせる朋子の前で、ずいと前に出た取締官の言葉にねちっこさが浮かんで来た。 「既に、何人もの尿から大麻の陽性反応が出ているんです。 そういう訳で、お嬢さんにも向こうの所轄で取り調べを受けてもらっています」 「何と言う、バカな事を、綾子がそんな」 「朋子。何かの間違いでしょう。弁護士と連絡を取ってもよろしいですかな?」 朋子をたしなめた史郎が落ち着いた口調で言った。 「名前を教えていただけますか?こちらで連絡をとりますので」   *  *  * 「…長野県内の山荘で大麻などを使用したとして、関東甲信越麻薬取締部は…」 翌朝、鈴木家の食堂は、テレビのニュースに沈黙する。 綾子の名前が無かった事にほっとしたと言うのが正直な所だったが、 それでも、知っている名前がいくつも含まれていた事に園子の胃も重たいものになる。 「まさか…あの人たちが…」 朋子も、いまだに信じがたいと言う口調で呟く。 「それで、姉キは?」 「弁護士の先生に朝一でホテルに行ってもらっている」 「これから私も行きます」 「ああ、頼むよ」 朋子の言葉に、史郎が同意する。 「大丈夫だ。先生からも、綾子の逮捕はなかったと報告を受けている」 史郎が落ち着いた口調で言う。   *  *  * 清々しき朝、俺様は朝刊を広げ、計画通りである事を確認する。 いいドラマとは、意外な脇役が光るものである。 例えば、一人だけ大阪で逮捕されたと言う飲食店従業員の女。 これが、なかなかにいい女だった。 近畿厚生局麻薬取締部の取締官一人一人を「ウルトラストップウォッチ」その他を使って 俺様の隠れ家に迎え入れ、「イイナリキャップ」を被った俺様が直々に相対して 俺様の質問に対して知り得る限り精確な報告書を書かせた後、 「メモリーディスク」でその事を忘れさせて解き放った。 その報告書から逆算してぶつかったのがこの女。 大阪ミナミでは高級な部類に入る店のホステスと言うだけあって、まあ、悪くはなかった。 それまで情報だけが蓄積され続けていたのは小物だから、と言うだけで、 実際には側をうろついていたキンマの犬から筒抜けになっていたのが実際の所。 であるからこそ、「入れかえロープ」で大手広告代理店サラリーマンの肉体を借りて さり気ない札束と共に通い詰めた俺様としては、 「ソノウソホント」で特定の成分は一切吸収されず排泄される特殊体質であると宣言した上で 「俳優」の能力カセットを挿入してから事に及んだものである。 うむ。そのお陰で、元々悪くない素材がラリラリハッピーに濡れ濡れためくるめく思い出は、 下らぬ効能で些かも損なわれる事のなかった俺様の究極にして至高の脳機能により こうしていつでも引き出す事が出来る。 あのレベルなら玄人の相手も悪くはないものだ。と、言う訳で、その記憶は俺様のズボンの中で形となる。 おあつらえ向きに、テーブルの下で俺様の足の指をしゃぶり終え、 靴下をはかせた我が奴隷メイド数美がズボンと下着をずらし、 引きずり出してグッドモーニングのキスからブレックファーストに味わい頬張ろうと言う所である。   *  *  * 「お早うございます」 「お早う」 日売テレビ報道局フロアはいつものごとくせわしない。 「それで、鈴木綾子は釈放?」 水無怜奈が取材記者に確かめる。 「ええ。逮捕もされていません」 「一人だけ逮捕を免れた…」 「ええ、マトリ(麻薬取締官・狭義には関東の)も真っ青と言うか真っ赤と言うか、 中じゃ大変な事になってますよ」 「どういう事なの?そもそもマトリがマークしてたのは彼女だったとも聞いてるけど」 「ええ、そうです。別件で彼女の名前が出て来ましてね。 ただ、そのネタがハッパ(大麻)だったもんで、知っての通りあれは他のドラッグよりも立件の要件が厳しい。 それに相手が相手です。慎重に内偵を続けていた所に今回のパーティーの情報が入った」 「一緒に挙げられたホステスね」 「この、広告代理店勤務のボンボンがこのミナミのホステスを、まあちょっとした現地妻ですね。 まー、向こうに行くたびに飴玉やハッパキメて楽しんでたって事ですよ。 そのホステスの周りにS(エス=スパイ)が入ってたもんで、 その辺の事は実の所みんなキンマ(近畿厚生局麻薬取調部)に筒抜け。 少数精鋭のマトリ、キンマじゃあ手が回らない小物ってのが実際だったんですが、 ボンボンが今度パーティーやるって事でまとまった量のドラッグ調達を女に依頼した。 そのキンマの情報が、綾子嬢を内偵していたマトリのチームと日時・人脈がカチッとはまった」 「うまくハマッたものね」 「マトリは少数精鋭、慢性人手不足でやってる分、その手の情報はピタッとはまるんですよ。 相手が相手です、確実にブツが入った所で有無を言わせず一網打尽。 女から宅配便を受け取った東京都内の若き多重債務者が自分で別荘に配達。それを見届けて踏み込んだ…」 「でも、肝心の鈴木綾子の逮捕は出来なかった。 別荘にいた他の面々。それも日本トップクラスのセレブ二世集団をごっそり逮捕したのに」 「ブツが全く出なかったそうです。 他の面々は尿検査も黒、現場のマリファナから指紋や唾液や唇の痕跡、所持品や自宅のガサでも押収、 でも、鈴木綾子嬢だけその全部に当てはまらなかった。 他の面々は、そこら中にドラッグが散乱してたリビングで、真っ裸でダウンしてた所を叩き起こされましたが、 綾子嬢だけが二階の個室でバスタオル一枚巻いてベッドで爆睡中に踏み込まれた」 「一人だけ別行動だったと?」 「当日の夜の事については、今の所誰からもまともな自供は取れていないみたいです。 綾子嬢自身はワインで悪酔いして休んでいたのかも知れない、と供述しているみたいですが、 実際の所はリビングでのオージーパーティーにはしっかり参加してる。それはビデオにも残ってる」 「ビデオに?」 「ええ。デジカムが二つ、リビングの三脚にセットされた状態で発見されています。 時々人の手に渡りながら破廉恥パーティーをホームビデオしてたってんですから。 ただ、そこからも綾子嬢だけ、ドラッグ使用の映像が入っていない。 他の面々はドラッグ使用の映像があって編集の痕跡が無かったにも関わらずです。 現場じゃあ綾子嬢も共同所持で引っ張れって意見がかなり有力でしたが、自供も共犯供述も取れず。 その内に元検事総長からの問い合わせなんかもあって、地検のしゃぶ係からも慎重論が出て来た。 結局、ブツが取れない以上身柄を取る事は出来ないって筋論に落ち着いたって事です」 「確かに、筋論ではあるわね」 「相手が相手って事もありますからね。だから、マトリやその上は今大変な事になってますよ。 夜間執行までかけて鈴木の長女を侮辱した。それで立件出来なかった。 鈴木の側がどう思おうが、鈴木ほどの相手にそんな無茶をした。 その事自体で本省や官邸、永田町も絡んで来る。次の異動でぶっ飛ばされるか、それとも…」 「次の異動までに…」   *  *  * 心配をかけまいと笑みを作りながらも、下校した園子を迎えた綾子は、明らかに疲れ切っていた。 そうやって、柔らかな笑みを浮かべながら、綾子は自分の部屋に引っ込む。 「ママ…」 「かなりひどい取調だったみたい。綾子がそんな事する筈が無いのに。 このままでは済まさない、弁護士さんとも相談して…」 園子の問いかけに答え、朋子は鋭い憤りを浮かべて答えた。 史郎も早くに帰宅し、家族で夕食を囲んで綾子もようやく落ち着いて来た様だった。 「お休みなさい」 「お休み、姉キ」 「お休みなさい」 「園子も、早く寝なさい」   *  *  * 翌朝。この休日を楽しく過ごす事が出来たなら。 目覚めた園子は胃の奥に重いものを感じながらも、頬をパンと張ってリビングに下りた。 これから朝食と言う時、鈴木家の面々は、既視感を覚えた。 「何ですか?困りますっ!」 セレブな朝食を前に、やや重苦しさの残る空気を、尋常ならざる使用人の声が打ち破った。 「どうしたの野入さん?」 「何ですかあなた達はっ!?」 悲鳴を上げたメイドに園子が尋ね、 立ち上がった鈴木朋子が乱入するスーツ姿の集団をキッと睨み付ける。 「証券取引等監視委員会です。金融商品取引法違反の疑いで家宅捜索を行います。 動かないで下さい。裁判所の令状出てますから公務執行妨害になりますよ」 「金融商品?」 朋子が繰り返す。 「昔で言う証券取引法、インサイダー取引の疑いです」 「インサイダーだと、馬鹿な、我が社は…被疑者鈴木綾子、鈴木朋子、何だねこれはっ!?」 令状を見た史郎が怒号を挙げる。 「何れご説明します」 令状を示した男が慇懃にいなした。   *  *  * 「さっきから、あなた達は何を言ってるの? 鈴木財閥関係のインサイダー取引だと言うから協力をと思えばこそこうして時間を割いているものを、 先ほどから聞いていれば言いがかりの数々、それがどう言う事か…」 「あのねぇ、いくら鈴木財閥、代々あなた方がやって来た会社って言っても、 もう全部割れてるんですよ奥さん」 証券取引等監視委員会の一室で、苛立ちを隠せない鈴木朋子に調査官は落ち着いた態度で迫っていた。 「資金繰りの苦しい中小企業に融資を斡旋する代わりに、 社長夫人の名義で株取引をやらせてその上がりを吸い上げる。 もちろん、インサイダー情報の絶対儲かる株取引、名義人の社長夫人が躊躇しない様に、 あんたは直筆の利益保証書を書いて、精算の度に破り捨てていた」 調査官が置いたのは、ビニール袋に入った名刺の束だった。 「あんたが金融業者に出した保証書、みーんな押さえてるんですよこっちは。 金融屋としては、保証の無い中小に貸し付ける程の余裕は無い。 だけど、鈴木夫人が保証人となれば話は別。インサイダーの余録があれば尚結構。 この名刺の裏に書かれているの、一見すると只の挨拶文だが、債務保証としての形式はきちんと整ってる。 しかも、あなたが務めている会社の代表や役員の肩書き付きとなると、 これは特別背任の疑いまで出て来る。まあ、そっちの方は特捜部の直轄になりますがね」 「そ、そんなもの、知らない、そんな事私がする筈が無いっ!」 「じゃあなんであんたの指紋、これは名刺だから流れ流れたとしても、 何であんたの筆跡なんですか、これだけの枚数の一字一字どれを調べてもっ!?」 虚を突かれた様な朋子に、目の前の調査官は続けた。 「何の関係も無い零細企業の社長夫人がこぞって株で順調すぎる利益を上げている。 内部事情を知っている人間以外あり得ない、怖くて出来ない内容の取引でね。 社長夫人も金融屋も自供してるし、実際、あなたが教えたとしか考えられないんですよ、取引の内容自体。 そして、名義人となった社長夫人には取引で得た利益はほとんど残らず あなたの所から税務申告からも逸脱したタマリ、隠し財産もたんまり出て来ている。 財閥夫人でもなんでも、ここまでやっといておとぼけって、 SESC(証券取引等監視委員会)ナメるのも大概にしといた方がいいんじゃないですかねぇ鈴木夫人」 余裕すら伺わせながらずいと迫る調査官を前に、朋子はようやく恐怖を覚えていた。 「まずは、見も知らないと言っている金貸しの事務所から指紋やら陰毛やらがうじゃうじゃ出て来た辺りから、 ご説明願いますかね?」   *  *  * 「マトリの次はSESC(証券取引等監視委員会)か」 ゴルフ場からとんぼ返りの車内で、服部平蔵は重い口調で呟く。 「ああ、次々出張って来よる」 平蔵と同じく、ゴルフを装った某トップ会合を打ち切られた遠山刑事部長が口走る。 「マトリが出張って、しかも綾子嬢の身柄を取れんかった。それで証拠隠滅を恐れた」 「ああ、そやろな。SESCには二つのルートからネタが入っとる。 マリファナ・パーティーでマトリに挙げられたボンボン大学生が綾子嬢のツバメで、 神奈川県警の二課が破産法違反、 破産した債務者の財産隠匿に手ぇ貸した金融屋が奥方とよろしくやっとった。 大学生と金融屋の金の流れを追ったマトリと県警が どっちも女がネタ元のインサイダーやうたわせて、地検からSESCに上がった」 「無論、SESCの後に控えとるんは…」 「東京の地検特捜部。元々、SESCはその成り立ち、人事、実務、地検の特捜部と切っても切れない関係や。 マトリがスタート切って、焦ったのは東京の特捜部も同じ事やろ。 大阪かて、特捜部は内心相当キテる筈やで。もちろん…」 運転席の遠山の言葉に、ルームミラーの中で服部の狐目が薄く開いた。   *  *  * 「会長」 「う、うむ、大丈夫だ」 鈴木HD本社の薄暗い一室で、史郎は大番頭とも言える幹部の差し伸べる手を制した。 「申し訳ございません、やはり、会長のお目には…」 「いや、有り難う。それで、これはどこから?」 「ファイル交換ソフトと暴露系コンピューターウィルスでインターネット上に広まっていたものです」 「それでは…」 史郎は、蒼白な顔のまま、おぞましい机上のディスプレイにもう一度だけ目を走らせる。 既に美しく成熟した娘の、父親として決して目にしたくない、してはならない姿。 「わいせつ名目で削除される様に警察にしかるべき手は打ちました。 しかし、性質上全てを抹殺するのは不可能であると」 「…そうか…」 史郎の脚はいまだにもつれ、嘆息が途切れない。 「それで、これはどういう経緯のもの、なのかね?」 「以前、麻薬パーティーで逮捕された大学生のグループ。それが…」 「続けたまえ」 「はっ、その…大学生グループとお嬢様が加わったあのつまり、乱交パーティーを撮影した映像、であると… 大学生がたわむれに自分で撮影したものをパソコンに保存していた所、 ウィルス感染で流出したものであろうと。 厚生労働省のしかるべき筋より情報を収集いたしましたが、 麻薬取締部では既にこの映像の元となるデータを押収しており、あー、つまり、 まことにその、これは改ざん、捏造されたものではなく、 また、鑑定の結果、よく似た別人である可能性も極めて低いと。 そのため、麻薬取締部では、以前から綾子お嬢様を狙って内偵していたものであると…」 「…そうか…君が言うのなら間違いはあるまい…」 「申し訳、ございません」 「君が謝る事ではない」 「いえ、私がもう少し早く、何らかの情報を得ていたならば…」 ドサッと椅子に頽れた史郎の側で、大番頭はひたすらに恐縮していた。 「今なら、鈴木家に傷が付かない様に、全て私の一存で処置いたします」 「どう言う事だ?」 「客観的状況、としてご説明します。処置は全て私が会長の知る必要の無い所で。 SESCも麻薬取締部も、いまだに決定的なものを掴めてはいません。 特に麻薬取締部は厚生労働省の中でも小さな組織です。 マスコミに出る前に、今なら通すべき所に話を通せば、これ以上の…」 「取るべき責任は取らねばなるまい」 「会長、今なら…」 「私は、父親だ。あるいは企業利益にも反するのかも知れないが、それは、出来ない。 父親として、娘の、我が家の将来のためになすべき事をしなければならない。 鈴木財閥として、鈴木一族、一人の父親として、そうしなければならない事であると…」 「それが会長の判断でしたら」 「済まない、迷惑を掛ける」 大番頭は、小さく首を横に振る。 史郎が、よろりと立ち上がり、その手は机上のキーボードを押し潰す。 次の瞬間、部屋に甲高い声が響く。 画面の中では、既にその異臭が伝わって来そうな粘液が方々に糸を引いている綾子が、 豊かに実った乳房をたぷんたぷんと揺らしながら腰を上下にくねらせている。 機関銃の様に男性器そのものを示す隠語卑語が喚き散らされる唇にはすぐに生々しい肉棒がねじ込まれ、 男の放出をその顔その肌に受け止める綾子の表情は、恍惚としている。 ちょうど、全裸のまま後ろから抱かれる様な形の綾子は、 M字に開いた脚の中心、まだピンク色がかった粘膜、 既にどろりと男の液体も女の液体も溢れさせた所に逞しく反り返った男をねじ込まれながら、 画面に見えないカメラマンとも親しげに笑って卑猥な冗談を交わしつつも、 その大半はよがり声に呑み込まれる。 史郎の右手はテーブルの縁に掛かり、左手は己のみぞおちの辺りを押さえ、 顔は下を向いて荒い息が漏れていた。 「会長っ!」 「う、うむ、大丈夫、大丈夫だようん…」   *  *  * マンション暮らしも嫌でも慣れ始めたそんな朝、 コナンは開いていた新聞をバッと閉じる。 振り返らないコナンが背後に感じる気配。 朝刊は、蘭の手ですーっと持ち上げられていた。 「…学校…行かないと…」   *  *  * 「鈴木財閥激震!相次ぐ強制捜査 麻薬パーティー参加・インサイダー取引 女系財閥鈴木一族の爛れた内情」 「なぜ即刻法的措置をとって下さらないのですかっ!?」 朝刊に掲載された実話系週刊誌の広告をバンバン叩きながら、 鈴木朋子は金切り声を上げてリビングをうろうろと歩き回る。 「あなたっ!」 「素直に反省すると思っていたのだが…」 どっかりとソファーに背を預け、黙って聞いていた史郎が口を開いた。 「あなた?」 「私だって綾子の事は信じたい。そんな事をする娘だとは思えない。 しかし、私も鈴木財閥の当主、その方面の情報源は持っている」 「警察は、綾子を…」 「担当は厚生労働省の麻薬取締部と証券取引等監視委員会だが、 鈴木に手を出す、それだけの証拠は掴んでいる。 背後にいる検察もそのつもりでゴーサインを出している。そう言う話だ」 「あなたは、それを信じるのですか?」 「私も綾子を信じたい。だが、捜査、報道、どちらに探りを入れても、極めて具体的な根拠を持っている。 綾子が道を誤っているのだとしたら…それも親の役目だろう」 「綾子が、綾子がそんな…」 震える声で繰り返す朋子に、史郎が悲しげな視線を走らせていた。   *  *  * 「姉キ、入るよ」 ドアを開ける事なくリビング前の廊下を後にした園子が、綾子の部屋に入る。 「園子…」 「災難だったねー姉キィー、こんなの生首遭遇以来ぃー?」 ベッドの上に膝を抱えて座り込んだ綾子に、園子がにかっと笑って言った。 「園子…私、知らない…本当に知らない…大麻の事も株の事も、本当に私知らない… でも、でも誰も信じてくれない、あんな取調耐えられない…怖くて怖くて、でも、本当に知らないの…」 「分かってるよ、姉キ」 ベッドに蹲りボソボソと言う綾子に、戦慄を覚えながらも園子は淡々と言う。 「分かってる。姉キがそんな事する訳ないじゃん。何かの間違いだって。 仮にそうだとしたら、ちゃんと謝る、そう言う人だよ姉キはさ。最近、変な事件多いからねー…」 ---- [[次話へ進む>あいつが来る/本編/第39話]] [[小説保管庫へ戻る>小説保管庫]]

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