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あいつが来る/本編/第29話」(2009/09/04 (金) 17:15:26) の最新版変更点

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「関西事業本部第一営業部長ですか」 ゴルフ場で一汗流した後、目の前の男に俺様は言った。 「まあ、出だしはこんなもんですやろ」 ゴルフスタイルでガッチリとした体格、柔和な表情で言う目の前の男は、一見紳士と言うに相応しい物腰。 その経歴を知っていれば、「闇の紳士」と言うに相応しい。 「最初っから取締役に推挙する言われましたが、それは待ってもらいました」 「そうですね」 そう、食い尽くすためには調子に乗る事なく、位打ちにはまる事なく掌握しなければならない。   *  *  * 「とにかく、完全に信頼を勝ち取るんです。いくらかかっても構いません」 ゴルフ場の駐車場に移動した俺様は、 同行している某中堅商社関西事業本部第一営業部長に言いながら乗用車のトランクを開ける。 「こりゃあ…」 声こそ小さいが、文字通り車のトランク一杯に積み込まれた手提げトランク一杯に詰め込まれた万札が 十分に効いている事は「かたづけラッカー」で消された「さとりヘルメット」で十分受信出来る。 「内部での買収、事業成功のための裏金、個人的な私的流用、使い方は一切お任せします。 とにかく、今は盤石の信頼を勝ち取って、それから…」 悪党同士、不敵な笑みを交わしている、と、目の前の馬鹿は思っているのだろう。 貴様が今目にしているのがいかなる高みにある存在であるかなど、貴様が知るに値しない。 「フリーサイズぬいぐるみカメラ」で福岡の業界紙の主筆に化けてこうして近づいてはいるのだが、 今は携帯電話と言う便利なものもあるし、 主筆本人についても事ある事に「メモリーディスク」で記憶を捏造して辻褄を合わせている。 元はサブコンの社長だが、些かややこしい方面に顔が利く小器用な男だと言う事で、 まずは「ニクメナイン」を一服して接近し、 株式のインサイダー情報で散々に儲けさせてから今の会社に移させた。 それからも、俺様の陰のサポートで数々の事業を成功させ、 本社会長の娘婿である事業本部長の全幅の信頼を得ている。 その信頼自体も、こいつ自身に多少のテクニックがあるのは認めるとしても、 「とうめいマント」で姿を隠した俺様がこの無自覚操り人形に会う人間に会う人間に 「こいつは信頼出来る」と「うそつ機」で囁いているからこそ、等と知る由もなく 今でも十分これぞ我が実力とおだてられるままに木登りしているのだから世話は無い。 獲物を見定めた俺様がその準備のために「タイムベルト」で年単位で遡ってこうして下準備。 「タイムテレビ」で入念に確認し、少し未来に行って今度は東の企業舎弟を踊らせてからだ、 満足覚めやらぬ内に牝奴隷塚本数美をボコボコにシメていい汗を流し 跪いてしゃぶる忠実なる牝奴隷七川絢を堂々と見下ろし主たる威厳に満足を新たにするのは。 「なあに、大船に乗ったつもりでいて下さいよ、前にも申し上げた通り…」 そっと「うそつ機」を装着した俺様は、関西系の裏社会の超大物の名前をすらすらと口に出す。   *  *  * 「大きな話、ですか」 新宿のビルの応接セットで、そこに事務所を構えている金融会社の社長がむしろ愛想良く言う。 実際、今までの俺様との関係、利益を考えるならば愛想がいいのだろう。 顔で騙すのも仕事の内であろうが、それでどんな顔を作ろうが、 「かたづけラッカー」を吹き付けた「さとりヘルメット」を被っていれば、 計算と共に心に冷たい笑みを浮かべて乗って来ている事はすぐに分かると言うもの。 「ええ、簡単です。大きな買い物をして欲しいのです。ただし、色々な名義で」 「大きな買い物?」 「ええ。取りあえず、そちらの自由になる会社をいくつか見繕って下さい。 そこの口座に代金を振り込みます。その金で買い物をして欲しいんです」 「大きな買い物と言いますと、どのぐらいの…」 「手始めに、十五億」 「十五億ですか」 会談は、むしろ淡々と進んだ。 「フリーサイズぬいぐるみカメラ」で外見を真似た広島の業界紙主幹の姿と名前で接近した俺様が、 ここまで持ち込んだ儲け話に一つの外れもなく、 疑ったら最後指をくわえて利益をさらわれると言う経験を何度もしているのだから。 その筋の実力者もバックに付けて倒産整理の世界ではやり手と言われている男。 本人は強者は強者を知るとでも思っているのだろう。 “…わ、笑うな、まだ…” 懸命に自らを戒めながら、俺様は「ウルトラミキサー」を使って「かたづけラッカー」仕様虫眼鏡と合成した 眼鏡越しにしか見えない「うそつ機」を装着する。 「そう、金はこちらで用意しますから、その金で買い物をして欲しいと言う事なんですよ。この話には…」 暴力団の系列組織の事をエダと言う。 それならば、俺様はこの整理屋のバックに就いている極道のミキのミキの…である 関東でもトップクラスの大物の名前をさらりと口走る。 「…さんよりの全幅の信頼を受けた上でのお話ですから…」   *  *  * 男は、金融庁証券取引等監視委員会特別調査課の自分の机で、 自分を名指しして郵送された一通の封書を開けていた。 A4版の厚い茶封筒から出て来たのは、大量の文書のコピー。 その文書のコピーは、およそ二種類に大別された。 一つは約束手形、もう一つは売買契約書。 手形の大半は英文だった。 本職は検察官で東京地検特捜部に在籍した経験もある男は、 取りあえずそれが異常な契約書である事にはすぐに気付いた。 特に、表面に長いサインが書き込まれている約束手形。 もし、本物なのだとしたら、とんでもない事が起きていると。 この仕事をしていれば密告など珍しくもないが、まずは、筆跡のサンプルが欲しい、話はそこからだった。   *  *  * 「特捜の事情聴取?」 警視庁の駐車場で、トントン自分の肩を叩く美和子に由美が言った。 「やめてよ、洒落にならないでしょそれ」 「でも、そうなんでしょ?」 「当時の一課の担当として聞かれただけよ。まさかこんな形で浮上して来るなんてね」   *  *  * その夜、美和子と由美は、小料理屋の小上がりにいた。 「逃げ三矢」に続く榎本梓事件も、手がけていた主要な事件から利害関係を疑われて遠ざけられると言う 最も屈辱的な理由で、最近の美和子は少し手が空いていた。 「確か、女のトコから帰りで…」 チャンコをつつきながら由美が尋ねる。 「そう、マンションの駐車場でナイフで抉られて、腹部大動脈直撃であっという間だったみたい」 「ホシはまだ挙がってない」 「防犯カメラからも人物の特定には至らなかった。四課の情報網にも掛かって来ない」 「カンは?」 「表看板は金融屋、マルBとも繋がったやり手の倒産整理屋。掃いて捨てる程出て来たわ」 「それが、特捜マターになってる訳?」 由美の言葉に、ビールで喉を潤し美和子は頷いた。 「元々、私達が捜査してた時点で、マルサがガサ入れてた。 マルサが最初狙ってたのは、別の資産家の脱税事件。 簡単に言えば、マル害の整理屋が実質所有するダミー会社に資産家が一億円貸し付ける。 会社は、その一億円で土地を買って二千万円で転売、その二千万円を資産家への弁済に充ててから倒産。 だから、八千万円の貸し倒れって事で税務署には申告してた。 だけど、裏では整理屋が資産家に八千万円を現金で支払っていた。 もちろん、その八千万円の支払いは税務署には申告していない。だから、脱税でマルサが動いた」 「それだと、マル害の整理屋が八千万円損する計算になるわよね」 指折り数えて由美が言う。 「殺しの捜査で私もその情報は掴んでたんだけど、そこが分からないのよ。 ダミー会社が土地を売って、土地を買い取った側からバックしてるって考えるのが普通なんだけど、 元々その土地は、財閥系の鈴木崎建設が開発用地として購入したまま計画の頓挫で塩漬けになってたもの。 普通に売買すれば五千万にもならない。叩き売りだったから二千万円はいいトコの値段だったし、 ダミー会社が土地を売却した相手も大手系列の筋のいい業者で特に問題は無かった。 つまり、この八千万円はマル害の整理屋が自腹を切ったか 全く別のルートから整理屋を経由して資産家に流れてる」 「一体誰が、何のために?」 「そこが本当に意味不明なのよ。八千万円の貸し倒れで浮いた税金の中から 資産家はマル害にいくらか支払ってる、と、言うより、マル害は八千万円を裏で資産家に戻す段階で そのB勘(ビーカン、ブラック勘定の意味。主に脱税用の架空領収書作成を手口とする裏勘定)の 経費と報酬を差し引いてるけど、それでもマル害の大損害には違いは無い。 マル害自身が自腹を切っているんだとすればね。だとすると、別に金の出所があるとしか思えない」 「それにしたって意味不明よね」 「そう言う事。だから、資産家の筋からそんな得体の知れない脱税事件の内偵を進めてたマルサは 直接脱税した資産家と一緒に、整理屋の方もB勘の報酬を申告しなかったとしてこっちも脱税でガサ掛けて、 特捜部に引っ張らせて全容解明するつもりだった、その矢先に…」 由美が突き出した手首を捻り、美和子が頷いた。 「私が聞いた話だと、 どうも同じ手口でマル害のB勘で脱税してたのは一人や二人じゃなかったみたいなのよね。 まさか脱税のボランティアじゃあるまいに、例えば弱味を握る先行投資にしたって額が大きすぎる。 それで、マルサも特捜と協議して、この得体の知れない大損のB勘が一体何なのか、本腰入れて調べ始めてた」 「口封じ?」 「も、あり得るわね。 当時は私も結構踏み込んだし、色々耳に入る事もあったんだけど、 マル害のバックがバックだから捜査は自然四課の主導になって一課は第一期でほとんど撤収。 今の帳場(捜査本部)にも、地検筋から色々ストップが掛かってるみたい」 「それって…」 「何らかの政治的圧力、なんて話じゃないとすれば、地検、恐らく特捜部。 マルサと特捜部はその性質上深い関わりを持って調べに当たる。 マルサと特捜が目指すターゲット、その上にちょろちょろされたくないって所かしらね」 「それでも、美和子から何か聞き出そうとはするんだ」 「それでホシが焙り出されればいいんだけどね」 「美和子は顔だからね。公式には捜査から手ぇ引いたって言っても、 本部(警視庁本部)にも地検筋にも色々と伝手がある」 「探りを入れて来た、そう見るのが自然ね」   *  *  * 「新潟県警からです」 関東厚生局麻薬取締部の一室で、取締官の間にメモが流れる。 「榎本梓の事件で使われた…」 「ほう…こりゃあ、キンマにも報せにゃいかんな」   *  *  * 「元々、シャブ食う理由言うたら、大方がシモネタやから。 中でも、アンナカなんかの混ぜモンの配合が絶妙なのかそっちの方に無茶苦茶効く、 その上馬鹿安ちゅう評判で、一年ぐらい前にアメリカ村辺りで爆発的に流行ってたモンや。 府警もキンマも血眼で出所探し回ってた言うで」 「キンマ、近畿厚生局麻薬取締部か」 「ああ。けど、結局はよう分からんかった。只、えらい薄気味悪いのが噛んでるちゅうてたな」 「薄気味悪い?」 「ああ。面は割れてるけど全くの正体不明、そいつが、何人ものディーラーに格安で薬を流してた。 府警の四課、薬対、キンマもごつう締め上げた、ああ、府警の四課の調べは半端やないからな。 けど、どうしても割れんかった。ちゅうかほんまに知らなかったんやな。 ほんまに飲み屋で知り合っただけの、全くの正体不明の男を信じてそっから薬を買い取ってバラ撒いた。 信じられへんけど、それが実際に起きてたちゅう事や」 「何だよ、それ。薬の取引でそんな事が…」 「ああ、薬の世界には仁義もへったくれもない。そんな世知辛い連中にどんだけ口がうまいのか 天才的な詐欺師ちゅうてもいいけど、連中にして見れば、ブツ自体は上物だったっちゅう事やからな。 けど、それも、府警とキンマの徹底捜査でディーラーまとめて上げられて ここしばらくは見かけんかったらしいけどなぁ」 「それが、今回、梓さんに使われた」 携帯電話越しに、ぎりっと歯がみするコナンの顔も見えそうだった。 「ああ、薬物指紋が一致した。それで協力要請が来てる、東京からも、新潟からも」 「新潟、実行犯の頭が消された事件…」 「死体が上がったのが阿賀野川やからな、新潟県警が殺し担当してる。 只の嫌がらせにしては手が込みすぎてる、毛利小五郎絡みで何ぞ裏あるんやないか言うて、 新潟県警は殺しの現場掴んだのいい事に自分らで徹底的にやるつもりや」 「実際、被疑者も挙げたしな」 「阿賀野川に揚がったチンピラの頭が半ゲソ(準構成員)で出入りしてた組のモンやな。 向こうで証拠あがった言うて、わざわざ東京の組事務所まで新潟県警が乗り込んでの捕り物や」 「その後で大阪のマルBも挙げられたな?」 「ああ、新潟の現場や東京のやあさんの筋から大阪の絡みも出て来てな、 そっちは新潟から要請を受けた大阪の四課が身柄取って新潟に引き渡した。 ガサ入れは合同やったけど、大阪との繋がりは連中の作ってた裏ビデオとかシャブとか色々あるさかい、 大阪の四課が背後関係洗ろうとる。事件の裏側引っぺがすにはこっちの協力は不可欠言うて 新潟も大阪府警には腰低うしてるみたいやけど、東京の方はな…」 「警視庁を疑ってる、か」 「ああ、間違いない。警視庁がわざと半ゲソの頭が外出してるタイミングでカチ込みかけて、 口を封じてクライアントと実行犯の拉致ビデオ屋グループを繋ぐ糸を切る時間を稼いだ、 新潟県警はそう見てる。今回の件で大滝はんに聞いても、新潟完全にキレてるでホンマ。こりゃあ…」 いかに無遠慮な平次でも、 コナンの文字通りの歯がみが電話越しに聞こえてはその先の言葉は容易には出て来ない。 “…おっちゃん…” 「工藤…お前ら、一体何に巻き込まれてるんや…」 「分からねぇよ」 それを吐いた相手が誰であるかと立場を考える時、その回答は余りにも重かった。   *  *  * 「和葉ちゃんが来はったでー」 「あ、又な、工藤」 間一髪、無遠慮な幼なじみが平次の前に姿を現したのだが、 その表情はここ最近の特徴でどこか浮かないものだった。 「平次ぃ、やっぱり蘭ちゃんにあの事…」 「そんなん出来るかダボッ!」 「でもっ!…でも、只でさえ蘭ちゃん、こんな時に、そうなったらホンマに…」 「だったら余計や、そんなん出来る訳ないやろ。もう手遅れや」 「でも平次…」 「そんなん、出来る訳ない。お前かて分かってるやろ。 それにもう、手遅れなんや。今さらジタバタした所で傷が深くなるだけ、分かってるやろ和葉…」 「どうして、こんな事に…」 “…お前ら…一体何に巻き込まれてるんや工藤…”   *  *  * 「ドえらいモンが出て来よった」 国道163号線を流す乗用車の運転席で、ハンドルを握った遠山部長がうめく様に言った。 「あれだけの肩入れする筈やで、日本経済の問題になる、地検も真っ青や」 「東京待ち、言うてられる状況ちゃうな」 助手席の服部平蔵が、細い目の片方をうっすらと開いた。 「元々、事件のメインは大阪、の筈なんやがな」 「ああ、その通りや。東京本社のワンマン会長もその娘婿の関西本部長もまとめてあいつに絡め取られてる。 肩書きは関西本部の次長で上の判子こそ押してても、決めてるのはみんなあいつや」 「カタギ絡め取って潜り込んで食い潰して、連中の常套手段ではあるがな」 「元々、こっちのサブコンで社長張ってゼネコンの汚れ役しとった頃からわしらもマークしとったからな。 小ずるい上に後ろにややこしいのがいてなかなか尻尾掴めん内に引き抜かれよった。 しかし、あの会社よくよく呑まれてるで」 「そんなにか?」 「ああ、会長とその娘夫婦はあいつの事を信じ切ってる。 この手の事件色々見て来たが、こいつの飴と鞭の使い方はホンマ絶妙過ぎる、それに情報力も。 情報が漏れそうになるとピンポイントで金と脅しと一番いい方法でビタッと穴を塞いで、 あれだけの事しといてなかなか尻尾を出さへんし、あれだけの規模や、 普通なら不満分子の一人や二人いそうなもんやけど、 今回ばかりはチックリが出ぇへんて二課も四課も探偵も愚痴っとったわ」 「よっぽどやな」 「肩で風切るプロジェクトチームには成績見て惜しみなく呑ませ食わせ抱かせ それ以外も味方にも敵であってもまあ細々とマメに金使こうて、 女からの受けも抜群。そっちの関係になってるのも何人もいるみたいやけど、 そうでなくてもあそこにいる女性社員からの評判は上々や」 「なるほどなぁ、それで、地元でずっとマークして来た訳やが…我が二課の手には負えんか」 「ああ、情けない話やが、関西発言うても事件の規模がデカ過ぎる。 地検の特捜部とも協議してるが、金額、国際的大事件、何よりSルート、やりよう一つで国が一つ傾く。 大阪で手ぇ付けられる事件ちゃう、大阪地検の意見もそっちに傾いとった」 「東京の特捜や二課も動き出してるな」 「ああ、当然や。こっちの特捜も東京主導でしゃあないて見通しやったが…」 「そうも言ってられへんな。引けるか?」 「ここまでの事件や、引きネタの十や二十とうに用意出来てる。 今までは半端に手ぇ付けてとっちらかったら元も子もない思うてた、それだけや」 「…分かってるな?やるならとことんや」 「Sルートもか?」 「ここはあっち、あっちはこっちで、こうまでごちゃごちゃな事件でそんな器用な真似出来るか?」 「そやな…」   *  *  * 車は163号線を外れ、閑静な住宅街を安全運転する。 目的の玄関から、ぺこりと頭を下げた愛娘の姿を見留、遠山の瞼が微かに動く 「今さらながら、因果な商売や…ほなな」 「ああ」 見慣れた渋いおじさま、服部平蔵が、服部家を出た和葉に微かな笑みを見せ、和葉がぺこりと頭を下げる。 「お父ちゃん」 いつも通り元気よく言った和葉だったが、次の瞬間、その遠山部長が大好きな明るい表情に僅かな陰りが差す。 「ちょうど用事があってな、乗って帰るか?」 「…うん…」 和葉が、にこっと笑って後部座席に乗り込んだ。   *  *  * 眠りを妨げる様なストレスが加速度的に増加している昨今にあっても、 泊まり込む様な受け持ち事件もなくなった目暮は、習慣の早朝ジョギングを続けていた。 そんな目暮の前に、小さな人影が立ちふさがる。 「おや…」 目の前で、眼鏡の奥の目がにこっと笑った。 そして、目暮にメモを手渡す。 「これ、新一兄ちゃんから」 メモを受け取ろうと腰をかがめた目暮にコナンが告げた。 「工藤君から?」 「こんな事になって、新一兄ちゃんなりに真実に近づきたいって。 でも、今、直接連絡取るのは、まずいよね」 そのコナンの声には、静かながらどことなく凄みすら感じられた。 「今、新一兄ちゃん僕の携帯使ってるから。連絡方法はここに書いてあるから」 「ああ、分かった」 ---- [[次話へ進む>あいつが来る/本編/第30話]] [[小説保管庫へ戻る>小説保管庫]]

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