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青空の住人」(2007/05/12 (土) 05:08:35) の最新版変更点

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……始まりは、単なる意地の張り合いだったのかも知れない。 少なくとも、国民に害は及ばないと思っていた。 しかしそれは、平和ボケした俺達の勝手な妄想だった。 …兄貴は、翌年に戦地に送り出された。 * * * * * * * * * * * * * * * * * * 1 「ギコ起きろーっ!」 けたたましく鳴り響く目覚ましの音。兄の怒鳴り声。 「るせーな、もうちょい寝かせろ」 「何だその言葉遣い」 「他人の睡眠を妨害する奴にはこれで十分だ」 「…ほほーう」 フサの関節が鳴る。 「あ、ごめ…ギャアアアア」 その声は、お隣のしぃにも聞こえた。 「また兄弟ゲンカかしら」 彼女は笑って、窓を開けた。 「ギコ君おはよう」 「よっ、しぃ」 頭を両手で押さえたギコが、あいさつを返す。 「朝から元気ね」 「いやー、鬼のような兄貴がうっとーしいの何のって」 その時ギコは、頭の後ろにバキリゴキリという音を聞いた。 振り向くと、そこで目を光らせていたのは… 「あ、兄貴?今うっとーしいって言ったの俺じゃねえぞ?俺の口を借りて悪魔 が…ギャアアアアアア」 ギコの頭の上のタンコブは、二段構えになった。 ここはモナ国。 隣国のモラ国とのゴタゴタは日常茶飯事だが、緑豊かでほのぼのしたいい国だ。 ギコの家はその郊外にある。 「早く朝メシ食えよー」 先程のグーパンチの事など忘れたかのように、ギコの兄、フサは声をかけた。 「人を殴ってもすぐ忘れる酷い奴、それが俺の兄であり魔王である」 「ギコ、何か言った?」 「いっ、いや何も言ってねえ」 1月生まれのフサ(19歳)は、かなりの地獄耳である。 何の気無しにギコはラジオのスイッチを入れ、牛乳とコップに手を伸ばした。 「では続いて政治です」 ギコはコップに牛乳を注ぐ。 「我が国とモラ国の国境の上にある金鉱から、モラ国が勝手に金を掘りだしているという事実が発覚しました」 耳を傾けながらも、政治に対してギコは無関心だ。政治なんかよりも今は牛乳の方に神経が行っている。 「この事実に対してモラ国は、シラを切り通す方針をとっており、モナー大統領は『立ち退かない場合は武力で排除する事も視野に入れているモナ。戦争に発展するかもしれないモナよ』とコメントしました」 「ぶっ!!!」 ギコは牛乳を吹き出した。 「な…何だってェ!?」 朝から物騒な事を言うラジオである。 「どうしたギ…何じゃこりゃあ!」 運悪く、吹きこぼした牛乳をフサに発見されてしまった。 「あ、ちょっと待て!これには伊豆海溝よりも深ーいわけが…」 「問答無用っ!」 「待て!落ち着k…ギャアアアア」 今日3回目の叫び声が、ご近所にこだました。 ここで少しモナ国について説明しておこう。 モナ国の男の子は、たいがい剣術や武術を習っている(中には銃の使い方を習っている子や、稀に女の子もいる)。 家の跡継ぎには女子が多い。 昼になった。 朝が遅かったギコは、まだ空腹感を感じていなかったので、とりあえずそこら辺をふらついて腹が減るまで過ごす事にした。 足をふらつくがままにさせていると、いつの間にかギコは懐かしい原っぱへ来ていた。 「…もう何年も来てなかったなあ、ここ」 辺りを見回すと、次々と目に留まる思い出の物。 その中の木を見て、ギコは1つの思い出を思い出した。 * * 「待てクマー」 「へっ、追いつけるもんなら追いついてみやがれ」 「は、速いよギコ君~」 後ろから走ってくるいじめっ子。息を切らせながらも何とかギコと並んで逃げるしぃ。 「しぃ、あの木に登るぞ」 「わ、私もうそんな体力残ってないよ」 「そんだけ喋れてたら大丈夫だって。ほら、そこの瘤を足がかりにしたら登れるだろ」 ダウン寸前のしぃを何とか促して、ギコは木に飛びついた。しぃもその後に続いて木に登る。 2人は一番上の枝に到着した。   「そんなんで逃げられると思ったら甘いクマー」 とうとう木の所にまで追いついたクマーが、勝ち誇ったように声を張り上げる。 しぃがモウダメポと思った、その時。 「こらー、いつまで遊んでるの!」 クマーの母の怒鳴り声が飛んできた。 「あ、ちょっ…待ったクマー」 「さっさと帰って宿題しなさい!」 「ちっ、今日は勘弁しといてやるクマー」 「ちょっと!『ちっ』て何よ」 「え!?な、何でもない…クマアァアア」 クマーは、母にひきずられながら帰っていった。 「へへっ、作戦大成功」 ギコは満足げに笑う。 「こないだアイツん家の前通った時に、宿題やってなくて怒られてるのが聞こえたんだ」 「さっすがあ、ギコ君」 しぃはほっと胸をなでおろすと同時に、ギコの事をまた、ちょっぴり頼もしく思った。ギコの活躍のお陰で、クマーの驚異をかいくぐって無事に生還できた回数は、今までを含めると数え切れない。 「じゃ、そろそろ帰るか」 そう言うとギコは、するすると木を降り始めた。 しかし、しぃは降りてこない。 「どうした、しぃ?」 「うっ…ギコ君…」 しぃは泣きそうな声で言った。 「降りるの怖い…」 * * あの事件(?)からもう10年が経って、2人とも16歳になった。 「あーあ、もう10年かあ…」 ギコは大きく伸びをした。 同時に、大音響でお腹が鳴った。 「…じゃ、そろそろ帰るか」 ギコは帰り道を歩き始めた。 「モナ国の分まで採ってんの?金を、モラ国が?」 「そうらしいぞ」 「やばいじゃんそれ。戦争起こるかもしんねーんだろ?」 フサと2人の、昼の食卓。話題は朝のニュースだ。 「もし戦争でも始められようもんなら、俺来年には徴兵されるな」 やってらんねーといった顔つきで、フサは溜め息をついた。たった1人の家族である父親を、記憶もうつろな昔の国境戦で、兵隊に取られて失った彼は、大の軍人嫌いだからだ。 「いつだったっけ?その国境戦があったの」 「今から14年前。お前が2歳の時だから、覚えてないだろ、父さんの顔」 「うん。じゃ、ごちそーさま」 ギコは空になった皿を持って席を立った。 「俺が洗うから早く食ってよ」 「へいへい」 そう言いながらも、フサは別に急ぐ様子も無く、ゆっくりと口を動かしている。 「早く食えって言ってんだけど」 「ゆっくり食わせろよ」 「仕方無えな…」 今度はギコが溜め息をついた。 + + _モラ国都心_ とある酒場。 たくさんの大人に混じって、子供が2人居た。 その片方の青い男の子は、携帯電話のようなもので何やら話し合っている。 程なく電話を切ったその子は、少し離れた所でくつろいでいた赤い女の子に向かってこう言った。 「仕事が入ったぞ、つー」 「ドンナシゴトダ?」 「戦争だってさ」 2 その日の夕方。 「こちらからの警告にも耳を貸さず、金鉱を掘り続けているモラ国に対して、モナー大統領はただ1言『マジギレだモナ』とコメントし、モラ国との戦争を始める事はすでに決定済みのようです」 ラジオは信じられない事実を伝えた。 「マジかよ…っ、畜生!」 ギコは、テーブルに拳を叩きつけた。 どうしてこんな酷い事を、お偉いさんはそう簡単に決められるんだろう。 大統領に対する怒りと、来年には兄も徴兵されてしまうという絶望とが、彼の心の底でもやもやとしたものになり、ギコは息苦しさを感じた。 夕食。 いつもは食欲旺盛なギコだが、今日は箸が進まない。 それもそのはず。 14年前の悲劇がまた繰り返されると思うと、ギコはやるせない気持ちになった。 「どうしたんだギコ」 弟の気持ちを敏感に感じ取ったフサは、少し心配になって尋ねる。 今日のメニューはギコの大好きなカレーなのに、10分経ってもまだ半分しか食べていない。 「何でもない…」 フサも夕方に報道されたニュースは知っている。 ギコが食欲不振になっている理由ぐらい、分かっていた。 だから努めて明るく振る舞おうとしていたのだ。 「本当に何でもないのか?」 「…分かってるくせに」 フサは笑った。 でも無理して笑っているように見えた。 「大丈夫だって。戦争なんかで死ぬわけないだろ」 「……」 「…まあ、来年までに戦争が終わればいい話だけどな」 そう言うとフサは、ごちそうさまも言わずに部屋を出ていった。 「…畜生」 ベッドの上に座り込んだフサは、口の中で呟いた。 また戦争が始まるのか。 父の命を奪った、あの憎い戦争が。 俺が死んだら、ギコはどうなるだろう。 彼は、そんな事まで考え始めていた。 あいつも徴兵されてしまうかも知れない。 さっさと戦争が終わればいいんだけど。 心配だ… 「…もう欲しくねえや」 ギコはカレーがまだ残っている皿の中に、スプーンを放り込んだ。 腹が減っているようには感じない。 かと言って、腹がいっぱいになったようにも感じない。 食べるだけ時間が無駄だと思った。 ギコは皿にラップをかけると、部屋の電気を消した。 今は5月だから、電気を消しても真っ暗にはならない。 それでもギコは、何だか暗いような気がした。 翌日。 ギコはすることがなく、ボーっと外を見ていた。 どこからか、国軍の勇ましい歌が聞こえてくる。 …そういえば国境線を始めたんだっけ。 家の前を通り過ぎていく軍隊を、何の気なしに見ていたギコは、その中に見覚えのある顔を見つけた。 「あ…クマー!」 急いで外に飛び出したギコは、旧友の所に駆け寄った。昔こそいじめっ子であったが、ギコと同じ剣術の塾に通い始めてからは、クマーとは友達だ。 「あ、ギコ」 「よっ、久しぶりだな。で、お前何でここにいるんだ?徴兵は20歳からだ  ろ?」 「志願したクマー」 「ふーん…」 志願してまでなるものなんだろうか、とギコは思った。 自分から死にに行くようなもんだ。 どうして、そこまで… そこまで考えた時、ギコの頭の中に、1つの言葉が浮かんだ。 “自分は死ぬのが怖いんじゃないか” その通りだった。 自分は… 死ぬのが、怖い… 「…、ギコ?」 「え?あ、何だ?」 ボーっとしていたらしい。 クマーに呼ばれた。 「一応行ってくるクマー」 「おう」 …一応? 緊張感が無いな、とギコは思った。 自分も、あいつぐらい軽く気を持った方がいいだろうか。 ……うん。そうした方がいいだろう。 ギコはクマーの敬礼に手を振って答えると、家に帰った。 ++ 「…あれ?おかしいな……」 同時刻のしぃ。 彼女は今、昔の歴史書を調べていた。 それは…モラ国の歴史。 さっきから同時代の本ばかりを見ているのだが、やはりおかしい。 これらの本によると、あの金鉱は… 「モラ国の所有物」とされている。

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