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選択肢B「引っ叩く」



”パンッ”

小気味良い、という形容詞がよく似合う、乾いた音が病室に響く。

ツンが驚いた目でこちらを見る。頬がかすかに赤く染まっている。



ツン「男君………?」

俺はツンの頬を叩いた右手の、微かにじんじんとくる痛みを感じながら言った。

男「何だよ……お前、残された俺の悲しみを考えた事は無かったのか!?」

ツン「!……男君……」



男「お前がそうやって、自分勝手に、生きる努力もせずに消えてしまって、俺は、俺は一体どうすれば良いんだ!俺の気持ちも考えろよ!」

俺は、ツンが俺を置いていってしまう事に怒ってるんじゃない、ただ何もせずにあっさりいなくなってしまうなら、俺が好きだなんて言葉は嘘だ、そう思って悔しかったのだ。

ツン「男君……ごめんなさい……私……いつか男君に愛想尽かされちゃうって思って……だったら幸せな時間を過ごしてさっさと死んでしまいたいって……」

男「ツン……俺……」

ツン「私……死ぬまでの短い間に男君が優しくしてくれたら、それで良いって…そしたら、私がいなくなったら男君も、もっと素敵な人と結ばれるから……」

男「そんな訳……ないだろッ……」

ツンは赤い頬をさすりながら泣いていた。俺も溢れる涙を抑えられなかった。

男「ツン、俺は、お前がどれだけ長く生きようと、愛想尽かしたりなんかしない。お前が一生懸命生きてる間は、絶対見捨てない。俺も、お前が好きだからだ」

ツン「男…君……私……」

男「何だよ、そんな弱々しい声出しやがって。ポニーテールして、喧嘩で本気になって怒鳴ってくるような負けず嫌いのお前はどうしたよ?そんな風にめそめそしてるなんて、ちっとも誇らしくも美しくも無いんだよ!お前らしくないぞ!」

ツン「ありがとう……私、生きたい!でも……ダメだったら………」

男「そん時は俺がちゃんと看取ってやる。お前が頑張って精一杯生きたって、認めてやるから、な?」

ツン「うん……あのね、男君」

男「何だよ?」



”パンッ”

聞き覚えのある音と共に頬に衝撃が走る。

ツン「レディーに手を上げるなんて、紳士としてなってないんじゃない?」

男「ツ、ツン………」

ベッドの上ではツンが不敵に笑っている。心なしか顔色も良くなっているようだ。病人のとは思えないような、力の篭った一撃だった。

ツン「口で言えばわかるっつの!ったくぅ……」

男「……すまん。…でも、それでこそツンだ」

二人は長い間笑い合った。



次の日着てみると、ツンのポニーテールは復活していた。

「男君、リンゴ取って」「あーんして食べさせて」「テレビつけて」

昔と変わらないワガママぶり。でもそんなツンはすごく幸せそうだった。俺も自然と笑顔になる。

ツンはもう、ワガママを言う時「すぐ死んじゃうんだから」とは言わなくなった。「精一杯生きてるんだから」、それがツンの口癖になった。



ツンは手術を受ける事にした。俺は手術費の足しになるように、とバイトで貯めた金を渡した。

「せっかくお金出してくれたのに失敗しても、恨まないでね」

決して笑い事ではない台詞を、冗談めかして言うツン。俺は医者と、ツンの生きる意志に全てを託すしかなかった。





手術日当日。

男「頑張れよ……!」

ツン「麻酔で寝てる間に何をどう頑張れって言うのよ」

男「……まあ良いや、行って来い」

ツン「うん、ほら、そんなお通夜みたいな顔しないでよ、きっと帰って来るから」

男「おう」



ツンのお母さんは、あれから俺が付きっきりで看病していたのでめったに病院には来なかったが、今日はツンの手術の連絡を受けてやってきた。

「私はあの子に酷い事を言ってしまった、あの子にもう謝れないかもしれない」と泣いていた。

俺たちは祈るしかなかった。神様なんているのか分からないけれど、いるのなら縋りたい気持ちだった。

男「ツン………頑張れ………ッ!……」

ツン『寝てる間に何をどう頑張れって言うのよ』

男「馬鹿野郎……こんなひねくれた言葉遺言にすんじゃねぇぞ……」

ツン母「あの子ったら……もう、本当に……馬鹿な子ねぇ……」

ツンらしい強気な言葉が、態度が、しぐさが、周りにいる者をも支えてくれる。

男「やっぱお前……強いわ……」



医者が手術を終え、結果を伝えに来た時には俺はとても安らかな気持ちだった。

男(どんな結果でもツンは精一杯頑張ったんだ、あいつの精一杯を、俺は素直に受け入れたい)

男「どうだったんですか、手術は」

医者「成功しました。今は麻酔が効いて眠っていますが、じき会えるようになりますよ」

男「本当ですか……!ありがとうございます!」

ツン母「ツン………!良かった……」





それから一年後。

俺とツンの指には、おそろいの指輪がはまっている。

ツンは今も毎日が綱渡りの生活だし、時々入院もする。いつツンがいなくなってしまうか分からないから子供は作らない。

だけど、俺たちは幸せだ。すごく、幸せだ。胸を張って言える。

そしてこれからもきっと幸せだろう。精一杯、生きている限り。



Fin





おまけ ツンの散る瞬間



男「ツン、朝だぞ。……おいツン?」

ツンはベッドで丸まっていた。その様子は普段と違い、胸を押さえているようだった。

男「………ツン!おいツン!しっかりしろ!ツン!」



すぐにツンは救急車で病院に運ばれた。意識は回復したが、今度こそ助からない様だ。

ツン「男……わた……し…………ダメ、なの?」

男「決まったわけじゃない!最後まで諦めるなよ!」

ツン「あの、ね……私、が、頑張った、よね………?」

男「ツン………」

ツン「今まで、精一杯生きてきたんだよ、ね………わた、し、ね……頑張った、よ……」

男「そうだよ!お前はよくやったよ!今も、頑張ってるじゃないか!」

ツン「こうやって、男、に…褒めて、貰うの……大好き、だったよ……」

男「お前……偉いよ……よく、やったよ……俺の自慢の女だから、な…?」

俺は溢れ出る涙を抑えることが出来なかった。ツンも涙を浮かべながら、それでも青白い顔に笑顔を浮かべていた。

ツン「か、勘違いしないで、よね……別、に………ぁんた、のため…に、ぃ、生き抜い、た…ゎけ、じゃない……か、ら…ねっ……!」

男「馬鹿………」

こんな時まで意地張りやがって。本当に馬鹿だよ、お前は。

ツン「でも、だぃ……すき、だから、ねっ……ぅ…ゲホゲホッ!」

男「もういい、しゃべるな」

ツン「ありが……と……ぅ……」





……………

………

……








男「ツン………ッ!」





ツンは幸せだった。俺も幸せだった。そして、今も。胸を張って、そう言える。

もうツンはいないけど、俺はこれからも精一杯生き抜いていく。





さようなら、俺の愛しい人よ。



Fin