選択肢を選んで1000レス目でED @ ウィキ
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選択肢を選んで1000レス目でED @ ウィキ
ja
2022-03-23T12:39:47+09:00
1648006787
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【15年後】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/218.html
[[【ループ50回目③】]]
【15年後】
あの後、高村は名実共に解体した。
過去の悪行が明るみになり、多くの逮捕者が出た。
その中にはもちろん兄さんも含まれていた。
世間でも当時は大きく取り上げられていた。
高村総合病院も非難に晒され、取り壊される寸前だった。
けれど、桐原製薬の関連病院として再出発する事で取り壊しを免れた。
後から聞いた話だと、元婚約者だった桐原さんが自分の両親を説き伏せてくれたらしい。
それを親友がこっそり教えてくれた。
俺は今『元高村総合病院』だった所の救急医として勤務している。
本当は大学に残り上を目指す様、周りには説得されていた。
だけど高村が奪っていった命の分だけ、命を救いたいと考えて……あえてこの街に戻ってきた。
近くに実家はあるけれど、30歳すぎの大人の男がいつまでも親の世話になる事も憚られ病院にほど近いマンションで暮らしている。
(本気で疲れた……)
四十時間連続勤務だった。
特に俺のような救急医は常時人手不足だ。
労働基準なんてもの無視されるのが当たり前のブラックな環境。
若手が多いのにはそれなりの理由がある。
歳をとってまで続けるには、気力も体力も使いすぎるからだ。
ざる蕎麦の入ったコンビニの袋を持って車から降りる。
さすがに今日は夕食を作る気が起きない。
エントランスで溜まった郵便物を受け取る。
と、いつものダイレクトメールの中に一つ、『大堂春樹様』と書かれた真っ白で立派な封筒を見つけた。
(これは……)
それは桐原さんと親友の友也の結婚式の招待状だった。
彼らとは幼稚舎から一緒の幼馴染だ。
友也はずっと桐原さんを想っていたけど、ひた隠しにして彼女を支えていた。
昔から、とても我慢強い男だった。
俺に向けられていた好意が彼に移ったのは、ごく自然な成り行きだったのだろう。
(でもこの日付……学会の日と丸かぶりじゃないか)
お世話になった教授から論文の発表を頼まれている。
あれもこれも安請け合いしてしまうのが悪い癖で、寝る時間が全然足りていない。
身体が二つに分裂すれば……と願ってみても叶うはずはなかった。
残念だが、どちらか一方を取らなくてはいけない。
(今は頭が働かない。まずは食事だ
2022-03-23T12:39:47+09:00
1648006787
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【ループ50回目③】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/217.html
[[【ループ50回目②】]]
【ループ50回目③】
舞台演劇を観に行ったことがある。
それも偶然に同じ劇団の去年と同じ演目だった。
なのにその舞台は俺の目に全く違う物として映った。
去年と違う様に感じるのは、演出家が変わったからだとその時の母さんは言った。
俳優の演技も大袈裟なくらいの方が良い。
それも観劇で感じた事だった。
小学生の時に学芸会で王子役を演じた事もあったけど、かなり酷い出来だった。
もう二度とやりたくない、そう思っていたはずなのに。
(わざわざ手足まで縛っているんだ。姉さんも御門先輩も……上手く乗ってくれよ)
「春樹さん、ですね」
俺はゆっくり顔を上げてうなずいた。
「はい。俺が春樹です」
「…………」
「それよりさっき姉さんの声がしました。姉さんもここに来ているんですね」
「僕たちはあなたを助けるためにやって来ました」
恐らく姉さんは、御門先輩が安全な所にかくまっているのだろう。
一応、怪しまれないよう尋ねておく。
「姉さんは、どこに?」
「愛菜は無事です」
「会わせてください」
「それは無理です」
「無理……どうして?」
「春樹さん。僕はあなたを疑っていますから」
(御門先輩なら、当然そう来るよな)
そんな考えとは反対に、あえて大袈裟に尋ねる。
「疑う? 何を」
「あなたが僕を殺そうとしているかもしれない、という疑いです」
「俺が御門先輩を?」
「はい」
(初回の状況を冷静に判断できれば、犯人なんて簡単に見つけられるはずだしな)
ただ、姉さんは俺を信じきっている。
だから一生掛かっても犯人を見つけられないままだろう。
「春樹さんは高村の血を引く者。神宝の力が覚醒していても少しもおかしくは無い」
「俺が御門先輩を……冗談でしょう」
「……最初にショッピングモールでお会いした時から因縁のようなものを感じていました。春樹さんも同じように感じたのでは無いですか?」
「そうだな……どれだけ頑張っても御門先輩を好きになれる自信はないよ」
「殺意を抱くほど、憎いですか?」
「自分でもよくわからない。でも姉さんを守るためなら俺はいつでも鬼にだって邪にだってなるよ」
そういうと、俺は怠慢な動
2022-03-23T12:36:34+09:00
1648006594
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【ループ50回目②】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/216.html
[[【ループ50回目①】]]
【ループ50回目②】
俺は直ぐに兄さんを説得し始めた。
全ての責任は俺一人で取るから、このまま街に戻って欲しい。
ここに集った能力者も一緒に連れて帰って欲しい。
もし失敗して巫女を取り逃がす事があれば……俺の八握剣を渡しても構わないと言った。
巫女が行う能力継承の儀。
それ以外での能力の継承はすべて相手の死をもって完遂する。
(覚醒へのカードは揃っているはず。後は……運を天に任せるだけだな)
兄さんにとって俺は邪魔な存在だ。
俺が死ねば、もう高村での地位を脅かす者は誰も居なくなる。
砂上の城になった高村家。
いつ崩れ去るかも分からない物にしか縋れない兄さんは哀れだが、同情はしない。
秋人兄さんは険しい表情だったが、首を縦に振って了承した。
そして多くの能力者を連れ立って山を降りていった。
残ったのは巫女を信奉する一部の狂信者達だった。
彼らはすべて施設外の配置にした。
狂った彼らが俺の計画の邪魔になるといけないからだ。
俺は出発前の裕也さんに声を掛ける。
ちょうど、車に乗り込もうとしていた所だった。
「もうそろそろ出掛けるんだね」
「ああ、坊っちゃん。正直、面倒くさいですが立場上やらなくちゃ」
裕也さんの配置先は道中での敵勢の排除。
主流派のさきがけをお願いしていた。
「あのさ、お願いがあるんだよね」
「坊っちゃんが俺に? 一体何でしょう」
「なるべく全員を無傷のまま通してやって欲しいんだ」
「ええっ? どうしてですか?」
兄さんから聞いていた命令と違う事に面食らっているようだった。
(ループして全てが真っ新になってる。また一から話すか)
今の裕也さんは俺の事をほとんど知らない。
信じてくれるか正直分からない。
それでも、俺は今までの経緯を手短に話した。
「へぇ。ずいぶんと大変な事にってたんですね」
「まぁね」
「それで……このループは最初から数えて何回目なんですかい?」
「50回目……」
「25年か。こりゃすごいな」
「いや、繰り返ししているから時間は進んでいないんだよ」
「それくらい俺にだって分かりますって。その話なら、記憶の残っている坊っちゃんだけは40歳って事ですね! 大人だなぁ」
「茶化さない
2022-03-23T12:33:42+09:00
1648006422
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【ループ50回目①】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/215.html
[[【ループ49回目②】]]
【ループ50回目①】
確認すると、時刻は4時ちょうどだった。
(マナは約束……ちゃんと守ってくれたんだな)
罪悪感で胸が少しヒリついた。
俺の家には電源タップを模した盗聴器が、各部屋に何台もある。
それは主流派が密かに仕掛けていったものだ。
その傍受した電波を遠方の研究施設まで転送してもらっている。
装着したベッドホンから、男女の声が聞こえてきた。
「冬馬先輩。もう一度、私の治癒を受けてくれないかな」
「しかし先ほど受けたばかりです」
「次こそちゃんとできる気がするんだ」
「……わかりました」
御門先輩の言葉の後、微かに衣擦れの音がした。
「冬馬先輩、傷の割に血があんまり出てないのも能力を使ってるから?」
「そうです」
「そっか。血も液体だもんね」
「適度に止血しないと服が汚れてしまいます」
「本当にすごい能力だよね」
「じゃあ、もう一度試してみるね」
今は姉さんの治癒を試しているのだろう。
しばらくすると、御門先輩にしては珍しい感嘆の声が聞こえ始める。
「愛菜……痛みが……無くなっていきます。これだけの治癒をたった1日で……美波でもここまでできるかどうかわかりません」
「1日じゃないよ。150日以上かかっちゃった」
「しかし勾玉から今日教わったばかりだと、さきほど愛菜は言いました」
「今日教えてもらったばかりだよ。でもね、私、少し未来から来たんだ」
「未来? どういう事でしょうか」
「正確には今のこの状況は未来の私の見ている夢なんだよ」
「愛菜の夢……まさか胡蝶の夢ですか」
「これが能力で起こった夢なのか私にもまだ分からないよ」
「そうですか」
「でもこのままじゃ冬馬先輩が死んでしまう。私はずっと敵に軟禁されていたんだ」
「今日の作戦は失敗するという事ですね」
「そうだよ。ただの夢なら醒めたら終わり。だけどもし能力が起こしている夢なら、必ず現実に影響が出てくるはずだよ」
「わかりました。出来る限り愛菜に協力します」
ループする度に交わされる、いつも通りの会話だった。
俺はそのままベッドホンを外すそうと両手を掛ける。
すると不意に、御門先輩の声が聞こえてきた。
「どうしたのですか
2022-03-23T12:31:24+09:00
1648006284
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【ループ49回目②】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/214.html
[[【ループ49回目①】]]
【ループ49回目②】
「遅い」
開口一番、叱られてしまった。
これも毎回、恒例の事だ。
「俺にだって都合があるんだ。すぐに来れないこともあるさ」
「お前の言い訳など、どうでもいい」
「じゃあ、反省するためにこのまま帰るよ」
俺は引き返そうと、踵を返す。
その様子に、鬼は慌てて言う。
「ま、待て。頼んでいた例の物は持ってきたんだろうな」
「姉さんに出した夕飯の残りに入れただけどね。はい、どうぞ」
俺は彼女専用のスープジャーを手渡す。
「わたしの好物、ちゃんと入っているのだろうな」
「もちろん。言いつけ通り、煮込みすぎないようにしたよ」
鬼は機嫌を良くしながら、スープジャーの蓋を開ける。
そして一口啜って、舌舐めずりをした。
(美味しそうに食べるよな)
鬼はスプーンで掬って、御門先輩の目玉をツルンと口の中に入れた。
数回の咀嚼の後、ゴクンと飲み込む。
一回目の俺だったら、この様子を見ていられなかったかもしれない。
でも今は、全く抵抗を感じない。
「美味しい?」
「ああ。目玉を噛んだ時のプチッとした食感が好きなんだ」
鬼はスープジャーの中身をきれいに完食してしまった。
袋に荷物を片付けながら、日常会話のようにあえて気負わず話を切り出す。
「あのさ。ループの起点……それを早める事は可能なのかな」
「ループの起点?」
鬼は首を傾げて尋ねてくる。
「……もしできるんだったら、次回は始まりを少しでいいから早めて欲しいんだ」
起点はいつも夕方の5時からスタートしている。
とは言っても天候があまり良くないから、かなり薄暗いスタートだけど。
(裕也さんが言うように姉さんと御門先輩……二人に必要なのは時間かもしれないから)
「どうした? 何か問題でもあったか?」
「恥ずかしい話なんだけど、あの日は御門先輩との決戦前で緊張してて……起点の時にいつもお腹が痛いんだ。もう少し早めてもらえたら、薬も飲めるしマシかなって思ってさ」
とても緊張していたのは本当だ。
気を紛らすために単行本を読んでいたけど、あの時は全く頭に入ってこなかった。
さすがに腹痛は嘘だけど、起点に戻るといつも喉がカラカラに乾いている。
「そ
2022-03-23T12:28:28+09:00
1648006108
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【ループ49回目①】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/213.html
[[【ループ48回目③】]]
【ループ49回目①】
『黄泉醜女。まだ繋がっているなら返事をしてくれ』
夢の中で俺は必死で呼びかける。
『次のループが完全に始まれば、また鬼との契約に戻ってしまう。その前に一つだけおしえてほしい事があるんだ!』
姉さんの覚醒は不十分だった。
鬼を完全に抑え込めなかった理由がどうしても知りたい。
(俺の決死の作戦でも駄目だった。何がいけなかったって言うんだ)
『るき……足り……ない……』
微かに姉さんの声が聞こえる。
だけど契約が切れかかっていてよく聞こえない。
「聞こえない。何が足りないんだよ?」
『……絆……』
「絆? 一体、何の事だよ……」
それきり黄泉醜女との交信は途絶えてしまった。
(くそっ……!)
俺は何も無い地面に思い切り拳を叩きつけた。
でも、痛みも……触れた感覚すら何も感じなかった。
こんなただの夢ですら、思うようにならない。
目を覚ますと単行本を握ったまま、自室でうつ伏せになっている自分がいたのだった。
・
・
・
黄泉醜女が言っていた『絆』の意味もわからないまま、四ヶ月が過ぎた。
今は別の事を考えていたくて、受験対策用の英語の勉強をしていた。
「….…ん?」
「どうしました。坊っちゃん」
「いや……長文を訳していたんだけど、この一文が浮いてしまったんだ」
裕也さんはよく俺の部屋に入って来ては、長時間居座ることがある。
最初は嫌だったけど、ノックをしないで勝手に入ってくる事と一緒でいちいち注意しても無駄だと分かってから気にならなくなった。
今は俺のために用意してくれたナイフの手入れをしてくれていた。
「ここのask for the moonって前後の文と繋がって無いんだ。月を求めるって……何かの慣用句なのかな」
「ああ、そりゃ無理難題をふっかけるって意味ですよ」
「えっ?」
「あっ……」
裕也さんはしまった、という顔をして他所を向いた。
前から怪しいとは思っていた。
ほかの教科の勉強をしていてもまるで興味なさそうなのに、英語になるとたまに覗き込む仕草をしていた。
「英語、できるんだ」
「まぁ、少し」
「もしかして。それ、周防さんと関係あるの?」
「
2022-03-23T12:25:20+09:00
1648005920
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【ループ48回目③】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/212.html
[[【ループ48回目②】]]
【ループ48回目③】
ハッと目を開け、俺はベッドから身を起こす。
すると鬼も同時に目を開け、上半身を起こした。
「……おはよう」
一応、声を掛けてみる。
今は夜中だから一番そぐわない挨拶かもしれない。
「お前……今し方、誰と会っていた?」
案の定、挨拶は返してくれなかった。
代わりに、問い詰めるような重々しい声で問いかけられた。
「誰って……」
「言えないのか?」
「いいや、言えるよ。俺は……黄泉醜女に会っていた」
隠しても仕方がない。
俺は正直に答える。
「黄泉醜女……それはどんな容姿だった?」
「彼女は姉さんの姿をしていたよ」
「そう……だろうな」
今回の一連の事を彼女の記憶から消せていない。
きっと気づいてしまったのだ。
「お前……私との約束、覚えているか?」
「一応は……」
「この部屋で最初に交わした約束を覚えているなら、言ってみろ」
こうなったら、彼女は頑なだ。
俺は仕方なく口を開く。
「絶対に姉さんと会ってはいけない。言葉も手紙も交わしてはいけない」
「そうだ。春樹……今し方、会っていたのは誰だ」
さっきと同じ質問が返ってくる。
このままだと、会話までループしてしまいそうだ。
「姉さんには直接会っていない。黄泉醜女は実体がないから、仮の姿として姉さんになってただけだ」
「お前……知っていたのだろう? 私を封じたのが、今し方会っていた者だと」
「確かに知っていた。だけど、貴女との約束は破っていない」
「本当にそうなのか? 黄泉醜女が器だったものと融合していると知っていた。それは器……愛菜と会っていたと、同じではないのか?」
(確かに、広い意味はそうかもしれないけど)
「それは解釈の違いだ。俺は約束を破ったと思っていない」
「そうか。では、どうして私との契約を破棄した?」
(やっぱり、言ってきたな)
「それは……」
「黄泉醜女の助けを借りて私を封じようと……そう目論んでいたのではないのか?」
(仕方がない。言うしかないか)
「それは違う。今まで黙っていたけど、今、貴女の中で寝ている姉さん……その姉さんが少しずつ力をつけてきていたんだ」
「このループの器がか?」
2022-03-23T12:22:44+09:00
1648005764
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【ループ48回目②】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/211.html
[[【ループ48回目①】]]
【ループ48回目②】
俺達……石見国に住む高村家が密かに伝えてきた能力。
それは十種神宝だ。
沖津鏡(おきつかがみ)、辺津鏡(へつかがみ)、八握剣(やつかのつるぎ)
生玉(いくたま)、死返玉(まかるかへしのたま)、足玉(たるたま)
道返玉(ちかへしのたま)、蛇比礼(おろちのひれ)、蜂比礼(はちのひれ)
品物之比礼(くさぐさのもののひれ)
十個の宝……だから十種神宝。
鬼と交わる事で維持し続ける黄泉由来の異界の力。
高村の家に一人につき一つ、その異界の能力が授かった子供が生まれてくる。
昔の環境では大人まで育たないまま亡くなってしまうことも多く、十種が揃う事などまず不可能だった。
そのために三種で力を発揮する三種の神器に、常に後れを取ってきた。
それでも神の力を持つ宝。
特に周防さんの『辺津鏡』と兄さんの持つ『死返玉』は三種の神器にも真似できない特別な力を持っていた。
『辺津鏡』は対象の心を透視する力。
『死返玉』は死者蘇生。
どちらも優れた能力だ。
でも秋人兄さんは愛人との息子だったし、周防さんは父の姉の子供だから姓は高村だけどあくまで分家の身。
正当な後継者だった俺に能力が無かったせいで、二人のどちらかが次期後継として争うことになってしまった。
統率力のある周防さんの方が優勢だったが父のやり方に反旗を翻し、高村の名前ごと戸籍を奪われる事になる。
秋人兄さんは根っからの研究者で上に立つ器では無かった。
高村は内部で瓦解していき、急速に権力を失っていった。
旧時代のやり方が通じるほど、社会が単純では無くなったのだろう。
(兄さんも周防さんもある意味、被害者だよな)
今回、二人とも俺が殺した。
だから『辺津鏡』も『死返玉』も両方持っている。
(さあ、辺津鏡。俺を導いてくれ)
口付けた鬼の中に入り込んで、意識だけになった俺は奥へ奥へと泳いでいく。
会いたいのはもちろん黄泉醜女だ。
黄泉醜女が姉さん。
そんな荒唐無稽な事を言ってきたのは御門先輩だった。
でも俺は壱与と帝の夢を確かに見た。
もう疑う余地は無くなった。
「黄泉醜女。お願いだ、俺の前に姿を見せてくれ!」
彼女の心の中で叫んでみても、返事はなかった。
辺津鏡の
2022-03-23T12:19:40+09:00
1648005580
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【ループ48回目①】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/210.html
[[【ループ33回目】]]
【ループ48回目①】
「壱与、何か食べないと体が持たない。少しでいいから何か口にしてくれないか?」
少年と青年の間くらい。
まだ幼さの残る帝が優しく呼び掛けていた。
「壱与……、お願いだ。僕を見てくれないか?」
少女は虚な瞳で帝を見ている。
御門先輩を殺した時に向けられた、絶望に染まった姉さんの眼差しとそっくりだった。
「ほら、口をあけて食べてごらん」
壱与の口許に穀物が差し出される。
だけど彼女には暗闇以外、何も見えていない。
「どうして口を開けてくれない。本当に死ぬつもりなのか? 僕は間違ったことをしたとは思わない。けれど……君を失いたくない」
帝は懇願するように、壱与を抱きしめる。
帝の熱量とは対照的に、壱与は人形のようにされるがままだった。
「君の望む事だったらなんでもしよう。だから、お願いだ。食べてくれ……」
「たべる……」
その言葉に反応するように、壱与の瞳に宿る色が変わっていく。
野性を思わせる、妖しいほど力強い色だった。
「とてもおいしそう。あなた」
「なっ!」
壱与は抵抗できないように、ゆっくり帝を押さえつけた。
首元に舌を這わせて、不敵に微笑んでいる。
「おいしい。もっとちょうだい」
「何を……まさか……!」
「そう。たべるの……あなたを……!」
さっきまで八重歯ほどの大きさだったのに、壱与の口には鬼の持つ四本の大きな牙が生えていた。
その肉食獣のような鋭い牙をもって、押さえつけられた帝の肩に躊躇なく齧り付いた。
二口ほど喰らい付いた所で口を赤く染めた壱与が、突然、ハッと顔を上げた。
「……だれ? 懐かしい、あなただれ?」
壱与は帝の上に乗ったまま、キョロキョロと当たりを見回す。
「壱与……?」
帝が心配そうな声をかけた。
肩から酷く出血しているのに相手の心配をするなんて、さすがの精神力だ。
「懐かしい、お父様と同じ力……」
壱与は何かを探して視線をさまよわせる。
そして天井の一角に視線を止めると、口を開く。
「お父様。やっぱりお父様なのね!」
「お父様……壱与もお父様と一緒にそちらへ行きます……。お願いです。黄泉へ連れて行ってください
2022-03-23T12:17:35+09:00
1648005455
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【ループ33回目】
https://w.atwiki.jp/1000ed/pages/209.html
[[【ループ22回目】]]
【ループ33回目】
施設内の2階、東角の大部屋で俺は待機していた。
一時間ほど待っていると、ゆっくり扉が開いた。
そして男は部屋の中央まで歩いて、俺の前で止まった。
「春樹さん……」
何度も繰り返し殺し、内臓まで見たことのある相手と対峙する。
お互い、一定の距離を保ったまま立っていた。
「御門先輩、お久しぶりです。確かショッピングモールでお会いした以来でしたよね。家で主流派に襲われた時も助けてくれたかな」
「愛菜が捕えられました。そして僕はこの部屋に行くよう命令され、やってきました」
「姉さんを人質にとったんでしょ? 秋人兄さんにそうするようお願いしたのは、俺だから」
「春樹さん、あなたは変わってしまった。それは能力を手にしたからですか?」
「どうしてそう思うんです?」
「以前の焦りが無い。あなたからは余裕を感じます」
(カンが良いのは相変わらずだな)
「正解だよ。これが俺の能力、八握剣さ」
フロアタイルが赤く光り、床から八握剣がせり出てくる。
そして御門先輩に向かって構えをとった。
「それは、僕との交戦を望むという意思表示でしょうか」
「交戦の意思はある。だけど、あなたに聞きたいことがあって、無傷でここまで来る様に兄さんに頼んだんだ」
「僕に、聞きたい事ですか?」
「そうだよ。帝の生まれ変わりの御門先輩でないと答えられないから」
俺は構えを解いて、八握剣を床に突き立てた。
タイルの一部が割れて、下地が剥き出しになる。
それに倣って、御門先輩も青く光る草薙剣を氷のような鞘に収めた。
「僕が……帝だったと知っているのですね」
「当たり前さ。だって俺は大和の兵を束ねる臣下の守屋なのだから」
「大連の守屋……そうか。だから初めてあなたに会った時、懐かしさを覚えたのか」
「そうだよ。俺は謀反に失敗した哀れな男なんだ」
謀反は成されず、大和王国はより揺るぎないものになっていった。
「そんな事はありません。守屋は公平な判断で義を重んじる優れた重臣でした。僕の罪が許せなかったのも、その強い正義感からだったのでしょう」
(罪、か……)
「帝の罪……冬馬先輩は行いに後悔しているんですか?」
「いいえ。世を平かにするには犠牲無しには成
2022-03-23T12:10:52+09:00
1648005052