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①放つ

(お願い!)
私はそう願いながら、光り輝くチハルの矢を放った。

光の矢は雨粒を切り裂きながら、真っ直ぐにとんでいく。
そして、秋人さんの肩の付け根ぎりぎりのところでく、見えない壁に阻まれて減速した。

(届いて……)

矢先はより強い光を帯びていく。
そして、秋人さんの肩を見事に射抜き、その光を失った。
「私の矢が……当たった……」
「……ぐっ!」
秋人さんの顔が苦痛で歪む。

「障壁は無くなった。今だ!」
一郎くんの声で、弾かれるように春樹が動く。
両手で剣を握り、春樹は秋人さんの首にめがけて剣を突き立てた。

(春樹……!)
ふたりは揉みあうように、同時に倒れこむ。
春樹は射抜かれた秋人さんの肩を掴むと、馬乗りに押さえ込んだ。
炎にも似た八握剣が、秋人さんの喉もとでピタリと止った。

「終わりです。兄さん」
「残念だが、そのようだな」
「……………」
「どうした、春樹。私を仕留める絶好の機会だぞ」
「………なぜ…昔の兄さんはこんな人じゃ…なかった…のに…」
「私は私だ」
「そんな事わかってる……! でも……」

赤い剣先は震え、まるで定まっていなかった。

「どこまでも甘い奴だ。私を殺せなかったことをあの世で後悔するがいい」
赤黒い光を纏った秋人さんの右手が、春樹の胸を狙う。

「詰めが甘いのはお前だ。高村秋人」

いつの間にか、一郎くんが私の傍らから消えていた。
春樹と秋人さんに向ってゆっくり歩きながら、一郎くんは指をパチンと鳴らす。

「くっ。身体が…この拘束は……」
「逃げられはしない。矢に仕込んだ呪術、これが鏡の力だ。さあ、大堂。力の移行の儀式を」

私は……
①儀式をする
②しない
③修二くんをみつけた

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①儀式をする

私は一郎くんに頷くと、元の姿に戻ったチハルを見る。

「チハルお願い、鈴になってくれるかな」
「すず?」
「そう、巫女神楽で使う鈴」
「わかった!」
チハルが軽い音を立てて、私の手に納まる。

「姉さん……? 一体何を」
私は春樹には答えず、ただ笑ってみせる。
目を閉じ、チハルを胸の前まで持ち上げて、神へ祝詞を捧げる。
祝詞が終わると今度は、奉納の舞。そしてそれは力を私に降ろす舞でもある。
手を動かすたびに、シャンシャンと鈴の澄んだ音が響く。

(懐かしい……)
壱与が何度も何度も練習して来た舞。
そして、流れ込んでくる力。
そのどちらもが、とても懐かしいものだった。

(そっか、神宝は鬼の力に近いから……)
だからこんなに懐かしいのだろう。

「な、なんだこれは……力が……!」
秋人さんの驚愕する声が聞こえる。
けれど、今の私にそれを気にしている余裕は無い。

(なんて、大きな力なの……)
この八種の神宝の力が一人の人間の内にあったなど、にわかには信じられない。
鬼として目覚め、神宝の力に近い私だからこそ自我を保っていられるけれど、普通の人ならば心が歪んでしまうだろう。

(それに……力が大きすぎる……)
どんどん流れ込んでくる力に、息をするのも苦しいくらいだ。
けれどここで舞を止めるわけには行かない。
流れ込んでくる力に、腕を動かすのもつらくなってくる。

一体どれだけの時間が経ったのか、気付くと流れ込んでくる力が止まっていた。

(終わった……?)
朦朧とする頭で、次の行動を思い返す。
通常ならばこの後、別の器に力を移す舞を舞うけれど別の器が無い今は、その舞を踊ることが出来ない。
私は再度最初の姿勢に戻ると、祝詞を唱えた。

(無事全部、おわった……)
自分の内にある強大な力に、どんな動作をするにも尋常ではない精神力を使う。
舞を終え疲労した私には、ただ立っているそれだけが出来なくて、身体が倒れそうになる。
貧血を起こした時のように、視界が一瞬闇に飲まれた。

(あ、倒れる)
思考だけがやけに明瞭で、はっきりした意識で地面にぶつかるのを覚悟する。
もう受身を取るだけの力がない。
けれど地面にぶつかる前に誰かに抱き止められた。まだ暗い視界を凝らして、相手を見る。

抱きとめてくれたのは……
①一郎
②春樹
③チハル
④秋人

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④秋人

(秋人さん……)
私を抱きとめてくれたのは、意外にも秋人さんだった。

「……えっ、あの……」

私はとても驚き、恐ろさも手伝ってか身体を強張らせてしまう。
何も答えず私の顔をジッと見た後、秋人さんはポツリと漏らす。

「こんな平凡な少女が、最も高貴で、最強と恐れられた鬼とは。
私の心に棲まう闇こそが、本物の鬼……だったという訳か」

それだけの言葉を残して、秋人さんは公園を出て行ってしまった。
私も春樹も一郎くんもチハルも、あえてその空しい背中を追おうとする者は無かった。

「大堂。君はこれからずっと、強大な力を留めておくつもりか」
「うん。代わりの器がないからね」
「このままでは、君の身体が持たないだろうな」

そう言うと、一郎くんは私の前に跪く。

「過去の契約を破棄し、大堂愛菜を我が主と定める」

私の右手に自分の額を当てて、言葉を紡ぎだした。

「八咫鏡の半身として、尊き願いの為に、千里を見通す目となろう。
そして、知恵と力を貴女のために振るうことを誓う。主たる君の望みのままに……」

私の手の甲に唇を寄せられ、私は少しだけ気恥ずかしくなった。

「一郎くん……。ありがとう」
「いや。君を危険な目に遭わせてしまった。それに、君と修二の間に何かトラブルがあったようだな。
学校での気配も俺から隠すようにしていたし、気も酷く乱れていた。
俺の言うことを聞くかはわからないが、大堂と契約するように言っておこう」
「うん。お願い」

(修二くんと仲直りできるといいな……)

次は……
①チハルを見る
②春樹を見る
③香織ちゃんを見る

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③香織ちゃんを見る

ベンチに横たわったままの香織ちゃんは、まだやまない雨ですっかり濡れて真っ青だ。

(濡れてるのはみんな一緒だけど……)
「チハル」
「なに、愛菜ちゃん?」
私に呼ばれて、子供の姿になったチハルが私を覗きこむ。

「香織ちゃんの所まで運んでくれる?」
「うん、いいよ」
即座に成年の姿になったチハルに抱き上げられて、香織ちゃんのいるベンチまで運ばれる。
腕を動かすのも億劫だけれど、香織ちゃんの負担を少しでも軽くしてあげたかった。
神宝の力を取り込んだ今の私なら、命を削ることなく香織ちゃんへ力を分け与えることが出来る。
取り込んだ神宝の力は陰の力が強い。
そして勾玉である香織ちゃんも陰の力が強い存在だ。
術を返されたダメージを癒すことが出来るだろう。
私は香織ちゃんの手を握り念じた。
ゆっくりと私の中の陰の力が香織ちゃんに流れていく。
力を流し込んでいると、徐々に香織ちゃんの顔色が良くなってくる。

「ん………」
小さく呻いて、香織ちゃんが目を開けた。

「香織ちゃん、大丈夫?」
「あい、な?」
ぼんやりとした目で、香織ちゃんが私を見上てくる。

「もう大丈夫だよ。今はゆっくり休んで、ね?」
「……うん」
私の言葉に、少し微笑んで香織ちゃんは再度目を閉じた。
すっかり元の顔色に戻った香織ちゃんに安心すると、どっと疲れが押し寄せてくる。

「姉さん?」
「大丈夫、ちょっと疲れただけだよ」
「大堂、無理をするな。いくら大堂とはいえ、八つの神宝を身に宿したままではつらいだろう」
心配そうな春樹の声に、こたえると、間髪入れずに一郎くんが私の状態を見極めて反論する。

「姉さん……無理しないでっていってるだろう?」
「ご、ごめん」
「今は大堂と長谷川を休ませるのが先だが……、修二とも契約を交わせば少しは大堂も楽になるだろう」
陰の力の強い神宝と違い、陽の力のつよい神器。
神器との契約が正式になされれば、陽の力で陰の力が多少は中和される。

とりあえず……
①家に帰って休む
②修二くんに会いに行く
③周防さんがどうなったか聞く

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①家に帰って休む

「家に帰るよ。ちょっと疲れたしね」
「そうだな。無理は禁物だ」

一郎くんも納得してくれたのか、私の答えに頷いてた。
私はこの中で一番元気そうなチハルに声をかける。

「ねぇ、チハル。香織ちゃんを家まで送ってあげてくれないかな?」
「でもボク、香織おねえさんのお家を知らないよ」
「それならば、俺が道案内をしよう。俺も家に帰って、身体を休めたいと思っていたんだ」

当然のように言った一郎くんに、私は驚いてしまう。

「え? 一郎くん、香織ちゃんの家を知っているの?」
「ああ。長谷川の家は帰路にあるからな」

気を失った香織ちゃんを、チハルが背負う。
私は帰ろうとする一郎くんに、ひと言だけ声をかける。

「今日はありがとう。一郎くんもゆっくり休んでね」
「大堂らしい言葉だな。だがその言葉、そっくりそのまま君に返そう」
「一郎くん……。また私が無理をしてるって言いたいの?」
「自覚があるなら、少しは悔い改めることだ」

そう言うと、一郎くんにしては珍しく、とても穏やかな笑みを浮べた。
緊張の糸が切れ、素の顔が出たのかもしれない。
私は手を振りながら、先に公園を出ていった三人を見送る。

「さてと、俺たちも帰ろうか」

一郎くんと香織ちゃんの背中が見えなくなったところで、春樹が話けてきた。

「そうだね」
「はい。乗って」
「ん? どうしたの春樹」
「姉さんは鈍感だなぁ。おぶってあげるって言ってんだよ」

少しだけ耳を赤くしながら、春樹が背中を差し出してきた。

「でも、春樹だってたくさん怪我してるよ」
「平気だって」
「ほんとに?」
「いいから。はやく」

春樹はぶっきら棒に言いながら、私の身長にあわせて姿勢を低くした。

私は……
①おんぶしてもらう
②断る
③タクシーを拾う

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①おんぶしてもらう

「わかったわよ……」
私は春樹の背中に体を預ける。

「ちゃんとつかまってなよ」
「わかってるって」
「よっと」
軽く声をかけて立ち上がった春樹は、いつもと変わらない足どりで歩き出す。
いつもより少し高い視界で、景色が違ってみる。
何気なく後ろから春樹の顔を見ると、あちこちに擦り傷が出来ていた。

「あ、傷になってる……」
私は無意識のうちに、春樹の傷に手をかざしていた。
この程度の傷を癒すのは神宝の力と、鬼の力、そして神子の力のほとんどが目覚めた今の自分には息をするのと同じくらいにたやすい。
特に鬼に近い神宝の力は、時間がたつにつれ身になじんでいくようだ。

「姉さん、なにしてるのさ」
「春樹の治療」
「そんなことしなくてもいいよ。どうせすぐ治るんだし」
「でも、怪我してるのを見たらお義母さんが心配するじゃない。見えるとこだけでも治しておかないと……」
「……母さん怒ってるかな」
「怒ってないよ、すごく心配してたけど……。あ……」
「なに?」
「隆が……、春樹がもどってきたらぶんなぐってやるって言ってた」
「はは……、まぁ殴られるだけのことはしたし甘んじてうけておくよ」
「ついでに、私とチハルも便乗することになってるから」
「なんだよそれ……」
眉を顰めた春樹が少しこちらを振り返る。
至近距離から春樹と視線がぶつかった。

「ねえ、さん……?」
「どうしたの?」
一瞬驚いたように呆然とつぶやいた春樹に、私は首をかしげる。

「……なんか違和感が、いや気のせい……だよ」
けれどすぐに、何事も無かったかのように前を向いて歩き出す。

「変な春樹……」
ため息混じりにつぶやいたら、春樹は何かいいたげに再度私を見たが結局何も言わずに私を背負い直す。
一定のリズムで進む春樹の背中は思いのほか心地よくて、疲弊しきった私の意識がゆっくりと薄れていく。

このまま眠ってしまいたい気もするけれど……
①寝てしまう
②春樹に話しかける
③眠らないように何か考える

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③眠らないように何か考える

(春樹が言ってた違和感って?……ん、ポケットに何か入ってる……)
それは秋人さんから渡された、ムーンストーンだった。

(そうだ。冬馬先輩……!)

『冬馬先輩。冬馬先輩……返事して』
私は心の中で冬馬先輩に何度も呼びかける。
そして、何度目かの呼びかけで、ようやく冬馬先輩の意識と繋がった。

『愛菜……。愛菜ですか』
『無事だったんだね。冬馬先輩、怪我は大丈夫?』

私の問いかけに、冬馬先輩はしばらく黙り込んだ後、ゆっくり答えた。

『……今は動くことが出来ませんが、心配は要りません。美波と周防が治療にあたってくれています』
『動くことが出来ないって……そんなに悪いの?』

石にべっとりと付いた血を思い出し、とても不安になった。
けれど、冬馬先輩は何事もなかったかのような口調で話し出す。

『僕の場合、三日もあればそれなりに動くことが出来るようになるはずです』
『よかった。はやく元気になってね』
『はい。ありがとうございます』

(僕の場合か……やっぱり、秋人さんが言っていた通り冬馬先輩の身体は特別なのかも……)
私は冬馬先輩の身体のことに触れるに躊躇い、別の話題を探す。
なるべく明るい話題をと思い、文化祭の話を振ってみた。

『三日後といえば、ちょうど文化祭ですよ。あっ、でも冬馬先輩はたしか不参加でしたよね?』

再び、しばしの沈黙が続いてから答えが返って来る。

『愛菜が参加するよう薦めてくれたので、今は有志の企画に混じって仕事を手伝っています。
途中参加なので、雑用程度ですが』
『え? 聞いてないよ』
『あなたが尋ねてこなかったので、何も言わなかったのです』
『そ、そうなんだ……。それで、参加してみてどう? 楽しい?』
『楽しいかどうか分かりません。ですが……』

また冬馬先輩は何も言わない。
以前はそのことが無性に不安だったけれど、今はその沈黙も怖くない。

『ですが……、悪くないと思えます』
『悪くないんだ。うん。そう思ってくれることが、素直に嬉しいよ』

急に楽しめと言われても、無理なのかもしれない。
少しずつでも、先輩が学校生活に溶け込んでいければ、それで良いような気がする。

『愛菜。あなたはやはり、お母様によく似ています。
あなたのお母様も僕のために、喜んだり、悲しんだりしてくれました」

私は……
①お母さんについて尋ねる
②もう少し文化祭について話す
③考える

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①お母さんについて尋ねる

『ねえ、私のお母さんって今どうしてるの?』
『………』
『冬馬先輩?』
『……あなたのお母様は5年前になくなりました』
『そっ……か……もしかして組織に……?』
なんとなく覚悟をしていたから、思っていたよりショックを受けていない。

『いいえ、あなたのお母様は車に轢かれそうになった子供をかばって亡くなりました。組織とは関係ありません』
『子供をかばって……』
『当時、新聞にも載ったそうです』
『新聞に……』
それじゃあ、もしかしてお父さんはお母さんが事故で死んだことを知ったのかもしれない。

(だから春樹のお母さんとの再婚を決めた……)
もしお母さんが生きていたら、きっとお父さんは再婚を考えなかっただろう。
いつまでも私のお母さんを待ち続けていたはずだ。
本人に確認したわけではないけれど、きっとそういうことなのだろう。

『すみません』
『え?』
『僕がそばにいながら、あなたのお母様を助けることが出来ませんでした』
『まさか、事故の現場にいたの……?』
『はい』
5年前といえば冬馬先輩は中学に上がったばかりだったはずだ。

『あなたのお母様は最後まで僕を気にかけてくれました。置いていってしまうことを許して欲しいと』
『……そう』
『そして、愛菜をよろしく頼むと』
『………』
「ねえさん? どうしたの!?」
「え?」
春樹の声に、冬馬先輩とつながった意識が途切れる。

「どこか痛いの? 体がつらいとか……」
すごく心配そうに私を見る。
私はいつの間にか泣いていたらしい。

①「お母さん5年前に亡くなってたよ」
②「大丈夫、どこも痛くないよ」
③「そういえば春樹のお父さんどうしたの?」

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②「大丈夫、どこも痛くないよ」

私は春樹を心配させまいと、涙を拭って答えた。

「辛かったら言うんだよ。わかった?」
「うん……」

(お母さん。せめて一度だけでも会いたかった……)

『愛菜……愛菜……』
『冬馬先輩、どうしたの?』
『意識が途切れたようですが……』
『春樹が話しかけてきたから、しゃべっていたんだ。急に閉じてごめんね』
『いいえ』

それきり、また冬馬先輩の声が聞こえなくなる。

『冬馬先輩、聞こえてる?』
『今、お母様の言っていたことを思い出していました。
愛菜は……お母様が言霊の研究していたのは知っていますか?』

(そういえば美波さんが言っていたっけ……)

『うん、知ってるよ。それがどうかしたの?』
『名前はその人を表す、最も強い言霊なのです。
あなたの名前の由来について、お母様から教えてもらった事がありました』

そういえば、自分の名前について考えたことが一度もなかった。
もし冬馬先輩が私の名前の意味を知っているなら、ぜひ聞きたい。

(私とお母さんを繋ぐもの……)

『名前に込められた意味……お母さんが私に何を望んでいたのか教えて?』
『はい。あなたの名前の『愛』、これは『かけがえのないもの、いつくしむ心』
そして、『菜』は『自然物やすべての者』という意味が込められているそうです』

(かわいい名前でお気に入りだったけど、愛菜って、すごく立派な名前だったんだ。
名前負けしてるかも……)

『要は、すべてを愛するってことだよね……。立派過ぎて、ちょっと気後れしちゃった。
けど、お母さんが望んでいたことなら、少しでも近づかなきゃね』

(残酷……修二くんは私に向かってはっきりそう言っていた。
今のままでは、お母さんに顔向けできないな……)

『僕は……今の愛菜をお母様が見たら、きっと喜んでくれると思います』
『えっ。そ、そうかな』
『はい』
『本当に、本当にそう思う?』
『……………』
『先輩?』
『すみません。少し褒めすぎました』

(うーん。なんだか悲しくなってきた)

①冬馬先輩の名前についてきく
②話を終える
③別の話をする

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②話を終える

気づくともう家の前まで来ている。
『先輩、お母さんのこと教えてくれてありがとう。ゆっくり休んで早く元気になってください』
『はい』
先輩の少し微笑むような気配を感じながら、私は現実へと意識を戻す。

「さ、ついたよ姉さん」
言いながら、春樹が家の戸に手をかける。
急いで出てきたから、カギは開けっ放しだった。
一旦春樹に玄関で下ろされて、私は自分だけではもう立っていることも出来ないことに気づく。

(変だな……もう、体が疲れてるとか……そういう感じは全然ないのに)
精神的にはいろいろ疲労しているけれど、意識のほうは疲れすぎて逆に鮮明になっている気もする。
体の方だって、どちらかというと力が満ちていて不調という感じはしない。
けれど、動かそうとするとうまくいかないのだ。

「ちょっと、姉さん、本当に大丈夫なの?」
立つことも出来ない私を春樹は慌てて支えてくれる。

「うん……どっちかというと、すごく体調はいいと思うんだけど……」
「確かに顔色が悪いわけでもないし、熱があるようにも見えないけど……」
「なんていうか……、いまちょっと体と意識がつながってない感じなんだよね」
「……そう」
春樹はため息をつくと、私を玄関に座らせて、靴を脱がせてくれる。

「どっちにしろ、姉さんはがんばりすぎだよ。早く着替えて今日はおとなしく寝ててよ」
「う、うん……」
確かに今動けないのは、神宝を移す儀式をしたからだ。
まさかこんなふうに、なるなんて思いもしなかった。

(壱与も儀式はしたことなかったもんね)
春樹に抱えられて、部屋までたどり着く。

「……っていうか、姉さん、自分で着替えられる?」
「え……」
言われて思わず顔を顰める。
何とか腕を動かすのはできるから、上は着替えられるだろう。
けれど……

「チ、チハルが戻ってきたら手伝ってもらうよ」
「なんでそこでチハルがでてくるのさ……? って、自分じゃ無理なんだね」
「だって、チハルならぬいぐるみのときから私の部屋にいて、チハルの前で着替えなんて今更だし……」
子供の姿のチハルの前では今までだって普通に着替えていた。

「チハルを待ってたら風邪引くだろ。とりあえずぬれてるからちょっと廊下座ってて、中はいると部屋の絨毯ぬれるから」
そう言って私を廊下にゆっくり座らせると、私の部屋に入っていく。

「はい着替え」
春樹が持ってきたのは、私がいつも来ている部屋衣だ。

「ありがと……自分でやるから……」
「できないんだろ?」
「な、なんとかなるよ」
「本当に……」

春樹の疑いのまなざしが痛い。
①「大丈夫だってば」
②「ごめんなさい、できません」
③「どうしようもなくなったら呼ぶよ」
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