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①「照れてるんじゃないかな」

「そうなんだ……わかった! 僕のカッコがみんなと違うから照れちゃうんだね」
チハルはポンッと音をさせて、男子の制服姿になった。
「この姿なら、みんなと一緒だよ。これならいいかな?」
「きっと言ってくれると思うよ。ねぇ、一郎くん」
そう言いながら、私は一郎くんに目配せをした。
一郎くんも観念したのか、諦めたような溜息を吐いている。

チハルはクルクルとまわりながら、一郎くんの元へ駆け寄っていった。
「変身したよ。だから、チハルって言ってよぉ」
「…………チハル。これで、いいのか?」
「うん。やったー! 愛菜ちゃん、言ってくれたよ」
また私のところに駆け寄って、抱きついてくる。
一方の一郎くんは、どっと疲れたような顔をしていた。

キーンコーン

三時間目の予鈴が鳴った。
私たちは部室を出て、一郎くんがドアのカギをかけている。

「大堂は気をつけて帰るように。君が帰ったことは俺から先生に伝えておこう」
「やっぱり、帰らなきゃ駄目?」
「当たり前だ」
「はぁ……、仕方ないけど、わかったよ。あとね、隆にも言っておいて欲しいんだ」
「ああ、了解した。後は頼んだぞ、精霊」
「精霊じゃなくって、チハルだよ!」
「……チハル。頼んだぞ」
「うん。任せて!」
どこかやりにくそうな顔をしながら、一郎くんは去っていった。

「あれ? 冬馬先輩は授業に戻らなくてもいいの?」
私は残ったままの冬馬先輩に話しかける。
「はい。僕も愛菜を家まで送ります」
「でも……授業があるでしょ?」
「……大丈夫です。さあ、行きましょう」
「本当にいいの?」
「はい。送ります」

冬馬先輩は送るのが当たり前のような口ぶりだ。

どうしようかな?
①授業にでるように言う
②送ってもらう
③理由を聞く

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②送ってもらう

「それじゃあ、お願いしようかな……」
私は立ち上がって、部室の戸を開けふと動きを止める。

「先輩傘もってきてますか?」
朝から降っていたのだからもってきていて当然だと思うけれど、相手は冬馬先輩だ。

「……」
冬馬先輩は無言で私を見つめ返した。
どこか不思議そうな顔をしているように見えるのは気のせいだろうか?

「……記憶」
しばらくしてポツリと先輩が呟く。

「記憶……?」
記憶といえばおそらく過去の記憶のことだろう。
それと傘とどう関係があるのか首を傾げる。

「剣の力は龍の力」
静かに先輩が言う。
その言葉に、ふっと記憶がよみがえった。

(あ、そっか……)
草薙の剣、それは蛇の剣。
蛇は龍に通じる。
そして龍とは水神をあらわすことが多い。
剣の力自体はそれだけではないが、水を操る力に長けているのも事実だった。

(ということは……、まさかあの雨の中傘も差さずに学校に来たとか……?)
冬馬先輩ならありえそうだ。
かといって、見る限り制服が湿っているとかそういうわけでもない。

「ねえねえ、愛菜ちゃんかえらないの?」
いつまでたっても動かない私にじれたのか、チハルが軽く私の袖を引っ張る。

「あ、ごめん帰るよ」
とりあえずチハルにはストラップになってもらう。
いくら学校の制服を着ていても、先生に見つかったら生徒ではないことがばれてしまう。

さて、どうしよう?
①徒歩で帰る
②タクシーを呼ぶ
③雨がやむまで待つ

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①徒歩で帰る

(身体はなんともないし、徒歩でいいかな)

「傘が無いなら、私のでよければ一緒にどうぞ」
校舎を出たところで、私は声をかけた。

「……僕は大丈夫です」
先に雨の中に飛び出した冬馬先輩は、少し歩いて立ち止まった。
普通だったらずぶ濡れなるはずなのに、冬馬先輩の制服は全く濡れていなかった。

(やっぱり、水を操って……)

「冬馬先輩。やっぱり、一緒に傘に入って行こう。それじゃ、目立っちゃうよ」
私は冬馬先輩に傘を差し出した。
だけど冬馬先輩はそれを避けてしまう。
「愛菜が……濡れてしまいます」
「それより、私は冬馬先輩がヘンな目で見られる方が嫌だよ。いくら濡れなくても、傘をさすべきだと思うよ」

この前、香織ちゃんが冬馬先輩に良くない噂が立っていると言っていた。
雨の日に傘をささずに佇む冬馬先輩は、やっぱり変わった人に見えてしまう。
私が知らないだけで、他にもたくさんの奇異の目に晒されてきているのかもしれない。

「お願い。一緒に入ろう?」
私の言葉で、冬馬先輩はようやく傘に納まってくれた。
強い雨の中、私が傘を持ちながら、ゆっくり歩き出す。
校門を出たところで、珍しく冬馬先輩から私に話しかけてきた。

「……昔、周防にも同じ事を言われました。愛菜も周防も……どうして傘をさすべきだと思うんですか?」
「周防さんが言ったの?」
「はい。周防に言われて、仕方なく傘をさすようにしていました。けれど、今日は忘れてしまったのです」

(周防さんも冬馬先輩が心配なんだね……)

「あのね。この前、私が学校は大切な場所って言ったこと、憶えてるかな」
「はい」
「学校って、とっても大切で素敵な場所なんだけど、集団生活だから目立ち過ぎるのは良くないんだよ。
特に力の存在なんてみんなに言えるわけないから、誤解されちゃう事も多いと思うんだ」
「でも愛菜は、分かってくれています」

冬馬先輩にしては即答で、しかも、はっきりとした口調だった。
その言葉は素直に嬉しいけれど、同時に胸が痛くなる。

「私だけが冬馬先輩の事を理解していても駄目なんだよ。それじゃ、寂しすぎるよね。
冬馬先輩の周りには、クラスのみんなや、先生もいるでしょ?」
「はい」
「無理してすべてを合わせる事は無いけど、もう少し能力者じゃない普通の人にも目を向けて欲しいんだ。
そうすれば学校が大切な場所だって事、もっと分かるはずだよ」

私の言葉が理解できないのか、冬馬先輩は何も答えない。
ただ窮屈そうに、私の傘に入って歩いていた。

どうしようか……
①「冬馬先輩は寂しいと感じたことは無いの?」
②「私の親友の香織ちゃんは普通の人だよ」
③「冬馬先輩はもっと自分に関心を持たなきゃ駄目だよ」

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①「冬馬先輩は寂しいと感じたことは無いの?」

少し見上げ、心配に思いながら冬馬先輩の横顔を伺う。
いつも通りの乏しい表情のせいで、何を考えているのかわからない。

「寂しいと感じてはいけないと、そう思っています」
「え…?」

不意に発せられた冬馬先輩の言葉に、思わず私は聞き返してしまった。

「寂しいと感じてはいけない……僕はいつも自分に言い聞かせています」
「寂しいなら我慢する必要なんてないんだよ?」
「我慢ではありません」
「じゃあ、何? 感情を押し殺すなんてよくないよ。嬉しいのなら喜んだ方がいいし、悲しいなら泣いてもいいって……私はそう思うな」
「僕は喜んではいけないし、泣いてもいけないのです」
「さっきの怪我でも感じたけど、先輩は自分を粗末にし過ぎているんじゃないかな」
「僕のような者は、そうなって然るべきです」
「なぜ……どうして、そう思うの?」

頑なな冬馬先輩に、言い知れぬ不安を感じた。
私は立ち止まって、冬馬先輩に向き直る。

冬馬先輩は自分の手のひらをじっと見つめ、やがてそれを握り締めた。
そして、ようやく重い口を開いた。

「日曜日に公園で言ったと思いますが、僕が引き起こした能力の暴走により、多くの犠牲が払われました。
幼いために制御が出来なかったとはいえ、僕はこの両手でかけがえのないものを沢山奪ってしまったのです。
この大罪が消えることは、決してありません。
むしろ、穏やかで明るい世界に居るほど……この罪の意識は強くなっていくのです」

穏やかで明るい世界は、きっと学校での生活も含まれているのだろう。
私は今まで、冬馬先輩は単純に感情の起伏が少ない人だと思っていた。
でも、本当は違う。
深く暗い闇の中で、冬馬先輩は今も苦しんでいるのかもしれない。

「僕は剣です。行く手を阻む草があれば薙いで道を作る、そういう役目を負っています。
愛菜は過去の力を得て、強くなりました。
その力をどうか、破壊する力ではなく、生かす力として使ってください。
僕には出来ない事でも、あなたになら出来るはずです」

冬馬先輩は、契約の時のように私の手を取った。
そして、あの時と同じ言葉を口にする。

「あなたが望む道を切り開くために、僕は戦い続ます。
……この身が朽ち果てるまで」

なんて答えよう……
①「わかったよ。一緒に頑張ろう」
②「『この身が朽ち果てるまで』なんて言わないで?」
③「……同じことを契約でも言っていたね」

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③「……同じことを契約でも言っていたね」

あの時には分からなかった言葉の意味も、今なら分かる。
同じ言葉でも、まるで違って聞こえた。

「はい。言いました」
先輩が握る私の手には、今も契約のアザがはっきりと刻まれている。

(そういえば、冬馬先輩を年下だと勘違いしていて御門くんって呼んでたっけ)

「あの時はまだ、冬馬先輩って『心』が欠けているんだと思ってた。
ほとんど自分の意見は口にしないし、人の言葉に従うことが多いし。でも、違ったんだよね。
ちゃんと持ってるのに、どうして気づけなかったんだろう」

そう言って、私は冬馬先輩を見ながら「ちょっと失礼だったかな」と付け加えた。
冬馬先輩はそれに「いいえ」と答えて、首を振っていた。

「最初から、行くべき道を教えてくれていたのにね。ここまで来るのに、時間がかかっちゃった」

言葉が足りなくて、誤解ばかりされてしまう冬馬先輩。
私も冬馬先輩の考えている事が判らなくて、随分もどかしい思いもした。

けど、さっきの告白で先輩の心が見えてきた。
先輩は人形でもないし、化け物でもない。
不器用で、純粋で、頑固で、自分に厳しくて、少しだけ常識を知らない……そんな人だ。

「…………」
冬馬先輩は手を取ったまま、ただ黙って私を見ている。

「正直、どこまで出来るか分からないけど……、先輩の期待に応えられる様にがんばるよ。
だから、今度は自分を大切にする事で、冬馬先輩の勇気を示して欲しいな。
そうすれば、先輩の周りから誤解や偏見が消えて、好転していくと思う。
そして、もうこんな事を終わらせよう。それが私たちの出来る、一番の償いだよ」

「愛菜の望みなら、僕の全霊をかけて叶えます」
「うん。けど。自分を大切にね」
「はい。……誓います」

そう言って、冬馬先輩はもう片方の手で、私の手を包み込んだ。
冷えた私の手に、冬馬先輩の体温が伝わる。
秋雨は相変わらず降り続けているのに、傘を共有している私の肩は濡れていない。
(これも冬馬先輩の力、だよね)

「……体温が下がっています。寒いですか?」
「少し、ね。雨が降ってるし」
「わかりました」
冬馬先輩は制服を脱いで、私の肩にふわりと大きなブレザーを掛けてくれた。

私は……
①「ありがとう」
②「冬馬先輩は寒くない?」
③「優しいね」

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②「冬馬先輩は寒くない?」

私が訊くと、冬馬先輩は黙ったまま首を横に振った。
「それじゃ、これ借りてるね」
「…………」
「どうしたの? 返した方がよかった?」
「……傘、持ちます」
そう言って、冬馬先輩は私から傘を奪ってしまった。
「あ、ありがと……」
「いいえ。さあ、行きましょう」

私たちは、家に向って再び歩き出した。

(にしても、冬馬先輩に大きな事言っちゃったなぁ)
つい勢いで『期待に応えられる様にがんばる』なんて言ってしまったけど、本当は自信が無い。
だけど、組織のやり方を絶対に許すことは出来ない。
高村の組織のせいでみんな辛い思いをしているし、なにより春樹の身が心配だ。

現時点での組織の狙いは、三種の神器と託宣の巫女の確保だろう。
目的は多分、三種の神器の力を私に宿らせること。
いわゆる、神おろしだ。
神器を使って、何を叶えようとしているのだろうか。

(組織から春樹を助けるなら、神おろしの時がチャンスだろうけど……)

神おろしを私の力で制御できればいいけど、成功する保証は無い。
もし主流の思惑通りになってしまったら、一郎くんたちや周防さんたちが今まで組織に抵抗した事が水の泡になってしまう。

(とにかく、勾玉を見つけなきゃ……)
勾玉が揃っていないために、主流も動く事ができないはずだ。
それを主流より先に探し出すことが最優先なのだろうけど、見える一郎くんと修二くんも見つけられていない。

(うーん。どうしよう……)

「――菜。愛菜」
「はい?」
「家に着きました」

考えているうちに、いつの間にか家についていたようだ。

どうしようかな?
①家に入ってもらう
②礼を言って別れる
③冬馬先輩に尋ねてみる

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①家に入ってもらう

「先輩、寄っていきませんか? せめてもう少し雨が弱くなるまで」
雨は先ほどより強くなっている気がする。
水を操れる先輩なら、どんなに雨が降っていようと関係ないのだろうけれど、それはそれ、気持ちの問題だ。
先輩はしばらく思案しているようだったけれど、頷いた。

「…………あなたが望むなら」
先輩の答えに、なんとなくがっかりとかなしさの入り混じった気持ちになる。
けれどそれに対してどう反応すればいいのか分からず、あいまいに微笑んで家の鍵を開けた。

「どうぞ、座っててください。私、先に着替えてきます」
リビングに先輩を通し、冬馬先輩が頷いたのを確認してから、私は部屋で着替えを済ませた。
それからキッチンに寄り、手早くインスタントのコーヒーを入れリビングに戻ると、先輩はぼんやりと外を見ていた。
外は相変わらず激しい雨が降っている。

「先輩、コーヒーですどうぞ」
私の言葉に冬馬先輩の視線が外から私へ移る。

「ありがとうございます」
カップを受け取って、先輩はコーヒーを一口飲んでじっと私を見た。

「先輩?」
「……なにか聞きたいことがあるのではないですか?」
「え?」
「まだあなたの記憶は完全に戻っていません。僕は記憶を戻す呼び水です」
(呼び水……)
そういえば、さっきも『剣の力は龍の力』という言葉を聴いただけで、先輩の力を思い出した。
きっかけがあれば、過去の記憶がスムーズによみがえるのだ。

「僕の知る範囲でお答えします」
先輩はいつに無く口数が多い。

えっと……
①勾玉のこと
②高村一族のこと
③冬馬のこと

698
②高村一族のこと

(そういえば……高村一族ってどうなんだろう)

私の知っている事は、春樹が昔は高村春樹だったこと。周防さんと春樹が従兄弟だということ。
周防さんは直系ではないけれど才能をがあるために研究所にいて、今は亡くなったことになっている。
高村の一族は能力者で、権力もあるらしいこと――そんな今までの断片的な情報を冬馬先輩に話した。

「もっと高村一族のことを教えてくれる?」
「……高村一族だけでは、お話しするのは難しいです。もっと内容を絞っていただけませんか?」
冬馬先輩はいつも通りの抑揚の無い言い方で、私を見る。

(内容を絞って……か)

「やっぱり春樹の父親について一番知りたい、かな。でもこれじゃ、記憶の呼び水にはならないよね」

(今朝の夢、春樹が話してくれた性格とはかけ離れてて、すごく違和感があったけど……)
冬馬先輩はしばらく黙っていたけれど、ゆっくり口を開いた。

「わかりました。春樹さんの父親、高村博信についてお話します。
周防から聞いた話ですので、知らない事もあると思いますがよろしいですか?」
「うん。構わないよ」
私は姿勢を正して、冬馬先輩に向き直った。

「高村博信……高村研究所の所長をしている男です。
三年前までは、この近くの総合病院で院長を兼任していましたが、研究に専念したいという理由で退いたようです。
現在、妻はいません。子供は二人、秋人とあなたの弟の春樹さんです」
「秋人……?」
「夢の中で一度会っているので、あなたは知っていると思います」

(夢の中……そうだ、あの謎掛けをしてきた人かな)
「春樹の夢の中で会った人?」
「そうです。秋人は妾との間にできた子供ですので、春樹さんとは腹違いですが」
(春樹にお兄さんが居たんだ……でも腹違いって……)

「腹違いって……どういうこと?」

「元々、あなたの継母の前に博信には妻がいたのですが、子供には恵まれなかったようです。
その時に妾との間に出来た子が秋人です。それから前妻と死別し、あなたの継母と再婚したのです」

「でも待って。春樹は力が無かったから、お継母さんは暴力を受けていたのよね。秋人さんが居るなら最初から……」

「秋人は妾との子供ですので、博信にとっては認知していても、気持ちとしては実際の子供と認めたくなかったようです。
あなたの継母との離婚が成立しても、秋人に対する態度は変わらなかったと聞きました。
能力のある秋人ですが、父親から認められることなかったようです。
しかし、三年前に状況が一変しました。施設の移転と同時に、独裁者のように振舞っていた博信が突然……高村研究所の実権を秋人に一任したのです」

「ちょ……ちょっと待って」

え……?
①考える
②三年前に秋人さんに何かあったって事?
③三年前に春樹の父親に何かあったって事?

699
③三年前に春樹の父親に何かあったって事?

私の問いに冬馬先輩は答えなかった。
ぱっと考えれば、研究に専念したいと病院をやめた人が、せっかく研究に専念できる土台が出来上がった途端、その研究所の実権を別の人に譲るなんておかしい。
実権を別の人に譲るということは、研究が自由に出来なくなる可能性だってあるということだ。
自由に実験をしたいのならば、自分がトップにいて好きにしたほうが都合がいいのではないだろうか?

(そうでもないのかな……?)
上に立つということは研究所を経営(?)するという手間もあるといえばある。

「理由はわかりませんが、博信の性格は急変しました」
「え……? 性格が変わったの?」
ふと今朝の夢を思い出す。
父親の変貌ぶりに困惑する春樹。

「僕も博信には数回しか会ったことがありませんが、覇気がまったくなくなっていました」
「覇気……?」
「人の上にたつのに必要なものだと、周防は言いました」
その言葉にふと、過去の記憶がよみがえる。
自分の父と、自分の国を滅ぼした少年。
すべてを包み込み守る包容力を持つ父と、すべてを引っ張って進んでいく力強さを持っていた少年。
タイプはまったく違うけれど、確かに二人には共通する覇気があった。
それが上に立つものの資質といわれれば確かにそうなのだろう。

「当時、同じく性格が急変したといわれる人物がいます」
「……え?だれ?」
過去を思い出していた私は、冬馬先輩の言葉を理解するのに一瞬の間があく。
冬馬先輩はそんな私をじっと見つめて、言葉を続けた。

「秋人です」
「ええ!?」
「僕は性格が変わった後の秋人しかしりません」
「ということは、その噂が本当か冬馬先輩は分からないってこと?」
「はい」
おなじ時期に性格が急変した二人、関連がまったくないとは考えにくい。

①「秋人さんは元々どんな性格だったか聞いてる?」
②「春樹のお父さんの性格が変わったのは一回だけ?」
③「高村の一族ではよくあることなのかな?」

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③「高村の一族ではよくあることなのかな?」

「よく、は無いと思います」
「よくは無いってことは、少しはあるって事?」
「はい」
「そうなんだ。それって、いつあったかわかる?」
「五百年ほど前に、一度だけ同じような状況を見たことがあります」
「五百年前って、冬馬先輩になる前の記憶ってことだよね?」
「はい」
「五百年前の前世で先輩は何を見たの?」

なんとなく胸騒ぎを覚えて、私は冬馬先輩に尋ねた。

「……あなたは十種の神宝を憶えていますか?」
「十種の神宝……」

また冬馬先輩の言葉が呼び水になって、記憶が蘇ってきた。
十種の神宝。それは出雲に伝わる宝具だった。
鏡が二種、剣が一種、玉が四種、比礼が三種からなる宝で、出雲国の王位継承にも使われていた。

大和国の三種の神器に対して、出雲国の十種の神宝。
その力は死者をも甦生させるという、禁忌の秘術に使われていた。
出雲の民は皆、この十種の神宝を信仰していたのだ。

「出雲の宝……」
「そうです。その十種の神宝の一つ、死返玉(まかるがえしのたま) の力を持つ者が五百年ほど前に、
死者を傀儡のように操るのを見たことがあるのです。
僕が見た覇気の無い博信は、まるであの時の傀儡のようでした」
「それって……春樹のお父さんが亡くなっているってこと……?」

夢で見た春樹のお父さんはちゃんと生きていた。
私には、とても死人には見えなかった。
けど、死返玉の力なら……と納得している自分自身もいて、落ち着かない。
死返玉は死者を蘇らせる力を持つけれど、他の神宝がなければ完全な甦生は出来ない。
死者を傀儡として操る事なら、死返玉なら可能だろう。
春樹の父親を見たチハルが言っていた、精霊と反対の力とは死返玉が宿す鬼の力を指しているのだろうか。

「博信が死んでいるかは、僕には判断できません」
「わからないんだったら……」
「ですが、まるで気配が変わってしまう理由が他に見つかりません」
「ファントムで操られてる可能性は無いの?」
「ファントムはあり得ません。博信は優秀な能力者ですから」
「でも……冬馬先輩には判断できないんだよね?」
「五百年前に見たのは、鏡が僕に見える力を付与した為でした。剣の僕に、見る力はありません。
見る力に特化した鏡でないと、真実はわからないのです」

(力の付与……そういえば、一郎くんと修二くんが病院で春樹に力を見せていた事があったような)

①五百年前の話を詳しくきく
②なぜ秋人さんの性格が豹変したのかきく
③十種の神宝について思い出す

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