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①八尺瓊勾玉の存在

なぜか八尺瓊勾玉だけを聞き取ることが出来なかった。
でも、私の知っている祝詞は三種の神器がすべて揃っていたはずだった。

(幼い私が力を捨ててしまった時のように……勾玉も心の枷になってるという事?)

剣と鏡と勾玉はご神体だった。
私は巫女として祝詞を奉読したり、神楽を舞ったりしていたのだ。
そして、神託を帝に……。

「私は……巫女として…神様の声を…神託を告げる役目だったよ」

声に出して認めた瞬間、ぼやけた映像が鮮明に変わっていった。
まばゆい光に包まれて、意識が吸い込まれる感覚に襲われた。

――ずっとずっと昔、人々がまだ八百万の神々だけを信じ、祈りを捧げていた時代。
日本がようやく一つの国として成り立ち始めた頃、私は生まれた。
でも、混乱した時代はまだ続いていた。内乱は収まらず、国の存在もまだ強固なものではなかったのだ。

先代の巫女から選ばれ、帝の元で私は託宣の巫女として生きていくことになった。
豪族の娘だった私は故郷を離れ、神殿に幽閉され、日々を泣いて過ごしていた。
まだ子供で、巫女としても未熟だった私には、味方になってくれる者がだれも居なかったからだ。
そんな時、一人の少年と出会ったのだった。

ガタッという物音を聞き、私は身をすくめた。
「こんな遅くに……だれ?」
怖くなった私は女官を呼ぼうとして闇に目をこらす。すると、一人の少年が立っていた。
「君こそだれ? ここはだれも入っちゃいけないはずだよ」
少年は質問を質問で返してくると、私の傍まで歩いて来た。
「……まだ童だね。この神殿にいるっていうことは、君は巫女かな」
闇の中、ジッと探るような視線で見られている事に、沸々と怒りが湧いてくる。
「あのねぇ……あなたもまだ童でしょ。それに、女性の寝所に入ってくるなんて、失礼よ」
「あっ、ごめんっ」
ようやく気付いたとばかりに驚くと、少年は膝を折り、丁寧に頭を下げてから再び口を開いた。
「数々の非礼をお許しください、姫君」
少年はうやうやしく詫びてきた。
その仕草から、この男の子は下賎の者ではない、と思う。
「じゃあ、ここからすぐに出て頂けるかしら」
私は突き放すように少年に向って言った。
「わかったよ。だけど、一つだけ質問していいかな?」
「いいよ。何?」
「君……泣いてたよね。何か辛い事でもあったの?」

辛い事って
①寂しいのかもしれない
②悔しいのかもしれない
③考える

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①寂しいのかもしれない

「辛いというより、少し寂しいのかも。だけど……こんな名誉な事は無いって父様も母様も喜んでくれたのよ。
私のような者でも、お仕えさせて頂くことができるんだもの」

大役を任されたからには、精一杯尽くさなくてはいけない。

「君って偉いね。感心しちゃったな」
「そ、そんな事ないよ」
私は恥ずかしくなって、俯いてしまう。
「あのさ、もう一つだけ質問。君の名前……聞いてもいいかな?」
少年は照れたような笑顔を向け、私に尋ねてきた。
人さらいや賊の類ではなさそうだと安心し、私は口を開く。
「私の名前は壱与。壱与って呼んでくれていいわ。あなたのお名前も教えて?」
「君が…出雲の大豪族からの人質……」
「どうしたの??」
「……あぁ! そういえば、君に出て行くように言われてたよね。ごめん、すっかり忘れてたよ」
そう言って少年は立ち上がろうとする。
私はそれを慌てて止めた。
「ま、待って」
「どうしたの?」
「私ね。もう少しだけ、あなたとお話ししていたい……」
「いいの? 泣き声が聞こえてきて迷い込んだだけだし、僕が居たら迷惑じゃない?」
「とっても故郷が懐かしくなっちゃったんだ。お願いだよ、もう少しだけ……」
「わかったよ、壱与。君の故郷の話、たくさん聞かせて?」
「うん。あのね……」

少年は私の語る故郷の話を楽しそうに、興味深く聞いてくれた。
久しぶりの楽しい会話に、心が弾む。

「でね、手習いも沢山あって。難しくって、すごく苦手だったんだよ」
「僕も手習いは嫌いだな。やっぱり僕たちって、似てるね」
二人とも顔を見合わせて笑い合う。
クスクスと声を抑えて、口うるさい大人に見つからない様にするのがとっても楽しい。

「……僕、そろそろ戻らなきゃ」
「そっか、もう遅いもんね。また来てくれるかな……えっと」
まだ名前を聞いていない事を思い出す。
少年は胸元をゴソゴソと探り、首にかけていた翡翠の勾玉を取り出した。
「これは僕の宝物なんだ。次に会う時まで預かってて」
私の手に、深緑の宝石が握られる。
月光を浴びてキラキラと光って、綺麗で、この勾玉は少年みたいだな、と思った。
「じゃあね、壱与。さよなら」

私は少年の背中を見送り、寝床に戻る。
(いい子だったな。でも、名前は教えてくれなかったよね…)
上手くはぐらかされてしまった気がする。
少し残念だったけど、宝物を預けてくれたということはまた会えるということだ。
私は翡翠の勾玉を握り締め、目を閉じた。

①現在へ戻る
②続きを見る
③考える

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②続きを見る

(そうだ……でもあの子には結局しばらく会えなくて……)
私の手元には少年が残した勾玉だけがあった。
それだけが、あの夜のことが現実にあったことだと教えてくれる唯一のものだった。
私は少年に預った勾玉をいつも懐に忍ばせていた。
首にかければ大人に見つかって取り上げられるかもしれなかったからだ。
それでもこの地へきて唯一楽しかった記憶は、私に少しの強さをくれた。
次に少年に会ったときに笑顔でいたいという思いが、泣き暮らしていた私から涙を消し去った。

「壱与は最近明るくなったわね、よかったわ」
先代の巫女は優しい人で、私の母のようでも姉のようでもあった。
私と同じように前の巫女に選ばれ、神殿へ入った人だ。
私と違うのは帝の血縁者ということくらい。
先代の巫女の下、いろいろな儀式や占い、舞を覚えていく日々。

「壱与は本当に力が強いわね。私なんか足元にも及ばないわ」
「そんなことは……」
「ふふ、謙遜ししないの。あなたを選んだ私の目に狂いはなかったってことでもあるのだから」
「……はい」
「それに、これなら私もなにも思い残すことなく安心して巫女を降りられるわ」
「え!?」
唐突な言葉に、私は驚く。

「驚くことではないでしょう?代替わりの為に次の巫女を選ぶのだから」
「そう……ですよね」
「これからはあなたが帝の為に、神託をうけるのよ。あなたなら大丈夫」
「はい……」
それから、ほどなくして巫女の代替わりの儀式の日取りが決められた。

そして儀式の前夜、私は眠れずぼんやりと勾玉を見つめていた。

「壱与」
唐突に名前を呼ばれハッと顔を上げると、勾玉をくれた少年がたっていた。
あの日からほぼ一年近い時が流れていたけれど、私が彼を間違えるはずが無かった。
それくらい、少年の印象は色あせることなく私に残っていたのだ。

「あなた……!」
「久しぶりだね壱与。元気にしていた?」
驚く私に少年は微笑んだ。

もう会えないかと思っていた私は…
①うれしくて微笑み返した
②なぜ今まで会いにこなかったのかと怒った
③感極まって泣いた

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②なぜ今まで会いにこなかったのかと怒った

「なぜ今まで会いに来てくれなかったの? ずっと待ってたんだよ!」

何度も思い描いた出会いの光景なのに、想像のように可愛く振舞えなかった。
会ったら笑って迎えようと思っていたのに、不意に出たのが恨み言だなんて子供過ぎる。

「あの……違うの、これは、えっと……」

どうにか取り繕おうとする私の傍らに、少年は微笑んだまま腰を下ろした。
その横顔は記憶していた少年より、幾分大人びている印象だった。
一年の間に、背も伸びて、体つきも男の子らしくなっていた。

「待たせて、ごめん。少し大和から離れていたから、会えなかったんだ」
「離れてたって……」
「これは僕からのお祝いだよ。壱与にとっての宝物になったら嬉しいけど……」
そう言って手渡してくれたのは、メノウの勾玉だった。

(このメノウ……もしかして……)

「出雲のメノウだよ。これで壱与が元気になってくれたらいいな」
「ど、どうして! 出雲だと知って……」
「故郷の話をしてくれた時に、もしかしてと思っていたからね。
壱与が一番喜んでくれる物は何かなって、これでも、随分考えたんだよ」

私は受け取ったメノウの勾玉をギュッと握り締める。
王国だった故郷も、この大和王権に下って十数年。今はただの一豪族に過ぎない。
メノウは王国として栄えていた故郷の誇りと、懐かしい潮の香り、なにより父と母の笑顔を運んでくれた気がした。

「ありがとう……。ずっと、ずっと大切にするから!」
「そう言ってもらえて、僕も嬉しいよ。貸して、つけてあげるから」
手が首元にまわされ、紐が結ばれる。くすぐったくて、思わず肩をすくめた。
「ごめん。嫌だった?」
「ち、違うの。続けて」
つけ終わったのを確認して、私はずっと預かっていた少年の勾玉を返した。
少し寂しいけれど、私には少年から貰った新しい宝物がある。

それから、私たちは自然とお互いの出来事を話し始める。
一年間を埋めるように、夜通し語り合った。

「あっ! 僕、もう行かなきゃ……。もっと壱与と話していたかったな」
「私も。でも、もう私は……」
(託宣の巫女になったら、簡単には会えないよね)
「そんな顔しないで。すぐにまた会えるから。それじゃ」

(あっ、行っちゃった。そういえば、また名前を聞けなかったな)

①すぐに会えると言った意味を考える
②少しでも休む
③メノウの勾玉を見る

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③メノウの勾玉を見る

メノウにはたくさんの色があるけれど、青メノウは出雲でしか産出しない。だから、青メノウは出雲石ともよばれている。
けれど出雲の民は青メノウのほかに大事にしている色があった。
それは、彼が持ってきた赤いメノウだった。
通常より大きなつくりの勾玉は、昔、玉祖命が出雲のメノウを使って作った八尺瓊勾玉を模したものだろう。

(偶然かもしれないけれど、もしそうならうれしいな)
出雲の民にとって、出雲で産出したメノウが大伸に献上されたことは誇りだ。

(あれ?)
そう思って首にかけられた勾玉をぎゅっと握ると、懐かしい故郷の波動とは違う、けれど不思議と安らぐ波動が感じられた。
巫女としての修行を積んできた私だから感じられる波動。
巫女に選ばれる前の私なら気付かなかっただろう。
どこまでも穏やかで、静かな……そう、月のような。

(本当に八尺瓊勾玉を忠実に再現したのかな……?)
八尺瓊勾玉は陰、つまり月をあらわしているといわれている。
まだ正式な巫女ではない私は本物の八尺瓊勾玉を見たことはないけれど、きっとこの勾玉に近いのではないだろうか?
私はそっと勾玉から手を離し、床につく。

(あしたは大事な儀式だもの、ちゃんとやすまなくちゃ)
目を閉じてしばらくすると、ふと身体が浮き上がるような感覚に襲われる。

(あ、また……?)
(そうだ、私はずっと前から夢を見ることが多かった)
巫女に選ばれる前から、不思議な夢を見続けていた。
巫女に選ばれ、修行をするにつれはっきりとした夢を見るようになった。

(今度はどんな夢だろう……)
(この夢は……だめ、見てはいけない……!)
過去の私と現在の私の意識が交じり合う。

この時私が見た夢は……
①過去の夢
②近い未来の夢
③遠い未来の夢

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②近い未来の夢

(この夢は……駄目……!)
それは私が封印しておきたい、最も思い出したくない過去だった。
月の波動に導かれるまま、押し込めていたはずの記憶が再生されていった。

八咫鏡には、変わり果てた故郷の様子が映し出されている。
「な、なんで……こんな事に……出雲が…」
身体が震えて、涙が溢れてくる。
真実を見通す鏡が映し出したのは、大和の兵が出雲の村々を焼き払っているところだった。
収穫間近の稲田も、家もすべて炎に包まれている。
たくさんの人々は戦火に逃げ惑い、無残に殺されていた。

「壱与。とうとう視てしまったんだね」
振り向くと、そこには冷たい表情をした少年が立っていた。
私は立ち上がり、少年に掴みかかると叫ぶ。
「帝……あなたがやったの!!」
少年は観念したように肩をすくめると、溜息を漏らした。
「そうだよ。八尺瓊勾玉を模して作ったものでも、君の力を抑えることはできなかったんだね。
できれば何も知らないまま済ませたかったんだけど……巫女としての才がこれほど秀でているのは誤算だったな」
帝は悲しげな顔をすると、私から視線を逸らすように胸元にある赤い勾玉を見た。
そして、さらに言葉を続ける。
「出雲は元々は根の国だ。民草でさえ怪しげな鬼の力を使いこなす。
とくに王族は君も含め、優秀な鬼道の使い手ばかりだ。
今は大和に支配されていても、その強い力は必ず仇となる。だから、滅ぼすんだ。この国を守るためにね」

(そんな……)
父は争いを避け、無血で王の座を退いた。
託宣の巫女も、名ばかりの人質に過ぎなかった事だと最近の夢見で知った。
それでもここで暮らした日々や、先代の巫女、何より帝を信じていたかった。
すべて無駄だったというなら、いっそ大和国と戦って散った方がマシだったとさえ思う。

「……父様、母様も殺したの? もう私の故郷は無いというの?」
密かに抱いていた恋心や尊敬の念は吹き飛んで、憎悪だけが心を埋め尽くしていく。
どす黒い感情のせいで、ひどく吐き気がした。

「僕に話してくれた沢山の出雲での出来事、兵をさし向けるのにとても役に立ったよ。
残念だけど、君の親や親戚の鬼はすべて殺した。だけど、壱与だけは僕の大切な宝物だ。
この翡翠よりずっと美しい鬼の姫君。伊勢に宮を用意させてあるんだ。そちらで……」

ドンッ

「触らないで!」
抱きしめようとする帝を突き飛ばすと、奉ってある神器の一つ、八咫鏡を地面に思い切り叩きつける。
青銅の鏡は真っ二つに割れて、転がった。
(信じるものすべて、無意味だった……嘘で塗り固められていた……)
そして、草薙剣を手に取る。

①帝を刺す
②自分を刺す
③思いとどまる

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③思いとどまる

ずしりとした剣の重さと、柄のひやりとした冷たさに私は我に返る。

(私は、今何を……)
剣先を帝に向けたまま呆然と立ち尽くす。
そんな私を帝は静かに見ていた。
それから再度私にゆっくり近づいてくる。

「壱与、君に人を傷つけることは出来ない……。君は僕とは違う。優しい人だから」
「……父様だって優しい方だったわ」
「……壱与の親なら、優しい人だっただろうね」
「そうよ、争いを好まない優しい人だった……」
「そうだね……だけど、君の父上が亡くなったら?他の王族は反旗を翻さないと言い切れるかい?」
言われて私は言葉に詰まる。

(言い切れない……)
私は父様の弟を思い出す。
父様と違い、大和と徹底的に争う姿勢を示していた。
手から力が抜け、剣が足元に落ちる。

「僕には大和の民を、大地を守る義務がある」
(私はこの地と民を守ることが役目だ)
帝の言葉と父様の言葉が重なる。
私にだって分かっているのだ、国を治めるためには時に非情にならなければならないことを。
胸の内の憎悪が見る見るしぼんでいく。

「壱与、僕とおいで。君だけは僕が守るから」
私は差し出された手をぼんやりとみつめる。


「……っ!」
「大堂!?」
「愛菜ちゃん!?」
二人の声に意識が現実に戻っていることに気付く。
そしてすべてを思い出したわけではないけれど、分かった事もある。

「私が……私が……神器の力を解放してしまった……」
「大堂落ち着くんだ」
「愛菜ちゃん、神器ってなに?」
「修二、今は黙っていろ」
「なんだよ、兄貴は何か知ってるのか……?」

もしかして……
①「一郎くんには記憶が残っているの?」
②「修二くんは何も覚えていないんだね?」
③「私は、償うために生まれてきたの?」

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③「私は、償うために生まれてきたの?」

「……償う必要は無い。神器の力の解放は必然だったのだろう。鏡が二つに割れたのも、また必然だ」
「でも……私が神器のバランスを崩したから……」

鏡を壊したせいで、神器の力は開放され、人の魂に取り付いたのだ。
一時の激情に流されて、私は取り返しのつかない事をしてしまった。

「俺は……過去の過ちを責めるつもりで催眠療法をしたのではない。
ただ、始まりを知っておくべきだと判断したからだ。
俺達の能力は神々の呪いだ。決して歓迎すべきものではないと……それを知っていて欲しかったんだ」
「……兄貴」
言葉を選んで話す一郎君の様子に、修二君も黙り込んだ。
雨音を含んだ沈黙が部室に落ちる。
その沈黙を破ったのは意外にも一郎君だった。

「このままでは、君の力の開放は不完全なままだったな。
美波という人物が言っていたように、君自身が望まなければ力は得られない。
過去での出来事、今までの経験から君の意見を今一度問いたい。いいだろうか?」
「うん」
私は頷くと、一郎君を見た。
「声は完全に戻っていると思う。だが、それ以上の能力が欲しいのか尋ねたい。
忌わしい力だが、正しく使えば大堂の助けにもなるだろう。
もちろん誰かを傷つけることもある。時には非常さも必要だ。それでも、君は力を望むのか?」

(力……)

昨夜、隆も言っていた事だ。
使えない予知夢では誰も傷つくことはなかった。
隆は一緒に逃げようと言ってくれていたけれど、その場になったらやっばり身を挺して守ってくれると思う。

冬馬先輩は母との約束を守り、何度も私を助けてくれた。
周防さんには、命を脅かすほどの危険な目に遭わせてしまった。
チハルは今も動かないままだ。
春樹だって、私を守る力を得るために家を出て行った。

もし私が能力を得れば、頼ってばかりじゃなく、一緒に戦える。

(一郎君が言う、正しい使い方が私に出来るのかな)
(修二君はこの力の事、どう思っているんだろう)
(そういえば、幼い冬馬先輩は力を制御できず、たくさん辛い思いをしたんだっけ。私もそうなるのかな)

考えが浮かんでは消える。

①力を望む
②望まない
③修二君に話しかける

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①力を望む

もう、守られているだけなのは耐えられない。
「それでも私は、力がほしい。自分で身を守れるようになれば……っ!?」
力がほしいと明確に口に出した瞬間、ぐらりと視界がゆがんだ。

「な、なに……、これっ?」
激しいめまいを感じて、ぎゅっと目を瞑る。
それと同時に身体の中の何かが作り変えられていくような、不思議な感覚に襲われた。
目を瞑っていても視界が回る気がする、それと同時に激しい吐き気が襲ってくる。

「大堂、落ち着け」
「愛菜ちゃん、ゆっくり呼吸をして」
一郎くんと修二くんの声が聞こえるけれど、その言葉の意味を理解する前に今度は身体の内から何かがあふれる感覚が来る。

「大堂!」
「愛菜ちゃん!」
「修二!」
「わかってる」
私の意識の外で、一郎くんと修二くんの声が聞こえる。

(なに?どうなってるの……?これが力?……押えられないっ)
本能がこのまま力を解放してはいけないと警告する。
けれど、押える術が分からない。

(ちがう……知ってる。知ってるはず……)
昔から自然と押えてきたはずなのだ。
何とかその方法を思い出そうとするが、内からあふれてくる力に思考を奪われうまく思い出すことが出来ない。

(?)
懐かしい何かが、私の身体を包む。それと同時にあふれ出て行く力が止まる。

「大丈夫か?」
「大丈夫?」
顔を上げると、私を挟むようにして立った一郎くんと修二くんが私を囲うように両手をつないでいた。
私は二人が作った輪の中にいる。
その輪の内に力が満ちている。

「鏡の力……」
「大堂、力を制御することはできるか?」
「え?あ……、うん、もう大丈夫」
私はさっきどうしても思い出せなかった力の制御方法を、思い出す。
私の言葉を聴いて、二人は手を離した。

「ありがとう」
「力が戻ったみたいだな」
「うん」
「気分は悪くない?」
「もう大丈夫だよ」
私は二人に笑ってみせる。
身体の中の内に、力が満ちているのが分かる。
過去に帝が鬼の力と呼んだ力と、巫女としての力だ。
そして、力がもどってふと疑問に思ったことを聞いてみる。

それは……
①剣の力をもつ人が誰か
②勾玉の力の行方
③二人に前世の記憶があるのかどうか

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①剣の力をもつ人が誰か

(そうだ。武君は二人が剣を見つけていたって言ってたよね)

「あの……ちょっと聞いてもいいかな?」
「ん? なに、愛菜ちゃん」
「なんだ、大堂」
二人がほぼ同時に私を見てきた。
その視線を感じながら、言葉を続ける。

「鏡は一郎君と修二君だよね。……剣って誰なの?」
(教えてくれるのかな……) 
不安の入り混じった視線を二人に向ける。
けれど私の事なんて眼中にないように、二人は顔を見合わせていた。

「早っ、もう来てるよ。あーあ、アイツのこと嫌いなんだよなぁ」
「力の解放で俺達の結界が弱まったからな」
「ちょっ……二人とも何を話しているの? 力が戻った私にも判らないこと?」
私の問いかけで、修二君がようやく私に気づいたみたいだ。

「ああ、ゴメン。なんだったっけ」
「剣が誰なのか教えて欲しいんだけど……」
「その剣さん、部室の前まで来てるよ。直接きいてみたら?」

(部室の前? 直接きく?)
「ストーカーみたいに付き纏って……いいかげんにしろっての」
ぶつぶつと文句を言いながら、修二君は部室のドアまで歩いていく。
そして、ドアを勢いよく開けた。

―ゴンッ

大きな鈍い音がして、ドアが途中で止る。
「あのさー。これ外開きだから、そこに居たら危ないよ」
「…………」
「と、冬馬先輩!?」
冬馬先輩がぼんやりと立っていた。
鮮血が額からツーッと伝い落ちているのに、相変わらずの無表情だった。

私は……
①冬馬先輩に駆け寄る
②修二君を怒る
③一郎君を見る

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