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①「……春樹の話してくれた昔話、男の人が幸せになる結末だったらいいな」

「そう思う?」
「うん、今までの努力が報われるといいなって思う」
「……うん」
春樹に向かって笑いかけたとき、ふと身体が引っ張られるような感覚がした。
遠くで名前を呼ばれている感じがする。

(あ、そろそろ起きる時間かな)
「姉さん?」
「春樹、そろそろ起きる時間だよ。いい? くれぐれも無茶しないでね?」
「わかってるよ。まったく……なんで夢でまでなんでこんなに………」
春樹の呟きが徐々に遠くなり、ふっと景色が変わる。
どこまでも続く草原。

(あれ?)
相変わらず遠くでは私を呼ぶ声が聞こえているが、どういうわけかその方向へ向かおうとしても何かに邪魔をされているような、妙な抵抗感がある。
廻りを見渡しても見えるものは何も無く、見たことのない場所だった。

「ここ、どこ?」
「初めまして、大堂愛菜さん」
思わず呟いた瞬間、背後から話しかけられた。
振り向くと先ほどまで誰も居なかったはずの場所に男の人が立っている。

「だれ?」
記憶を探るが今まで会ったことは無いはずだ。
年のころは二十歳前後だろうか。

「とりあえずそれはどうでもいいことだと思うね」
「え?」
「本来の姿ではないからね」
「?」
どこか人をからかうような物言いに、ふと最初に会ったころの周防さんが重なる。

えっと……
①「ふざけないでください」
②「私になにか用ですか?」
③「……」

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②「私になにか用ですか?」

私は警戒しながら、その男の人に話しかけた。

「彼の意識に飛んでみたら偶然鉢合わせしただけだよ。
君との会話が有益とも思えないが……まあ、いいだろう」

「………」
やはり少し周防さんと似ているようだ。
でも、眼鏡のせいか、繊細で神経質そうにも見える。
穏やかな薄い笑みの裏に、何か隠している気がする。

(この感じ……誰かに似ているけど……)

『お前らなんか必要ない!』
そう叫んで、突き刺す様な恨みの篭った視線がフッと脳裏によぎった。
(春樹だ……昔の春樹にも似ているんだ)

「大堂愛菜さん。君は今、幸せかい?」

唐突に尋ねられ、答えに窮していると、その男の人は可笑しくもなさそうに笑った。

「そうだよね。急には答えられるはずが無い。
大堂愛菜さん。私の考えではね、世の中に本当に幸せな人なんて居ないと思うのだよ」

「ど、どうして……そう思うんですか?」

「それはね、人はどこまでも欲深いからだよ。
愛されたい、金が欲しい、権力が欲しい……満たされても、それは一時的なものだ。
もっと欲しいと必ず不満を漏らす。では、大堂愛菜さん。なぜ人の欲が尽きないのかわかるかい?」

「……わかりません」

「それはね、人の心が貧しく空っぽだからだよ。一時的に満たされても、どこか空虚……君自身にも覚えがあるだろう?
では、大堂愛菜さん。なぜ人の心が貧しく空なのかわかるかい?」

「………わかりません」

「それはね、人があまりに愚かだからだ。驕り、妬み、欠点ばかりに意識が奪われてしまうからだよ。
では、大堂愛菜さん。なぜ人が愚かなのかわかるかい?」

まるで謎かけのように、数珠つなぎに質問を投げかけてくる。
私は明確な回答を一つも答えられないでいた。

「残念だよ、大堂愛菜さん。もう少し、聡明な娘かと思っていたんだがね。
おや? その手に握っている物は……サンストーンか?」

私はゆっくり手を開いて、石を確認する。
いつの間にか周防さんに渡すはずのサンストーンが握られていたようだ。
(どうしてこんな物が……)

「これは失礼した。かりそめの魂とはいえ、やはりあなたはすべてを見通しているということか。
本来の姿では無いただの器だと軽視していたが、話の分かる方のようだ」

男の人の態度がガラリと変化した。
私は呆気にとられたまま、石を見つめる。

①男の人に話しかける
②黙っている
③夢から醒めるように願う

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①男の人に話しかける

分からない事だらけだけれど少し時間がたつと落ち着いてきた。
男の人に特に敵意を感じないことにとりあえず安心したのもある。
私は手に持っているサンストーンから男の人に視線を移して口を開いた。

「あなたは……いつもそんなことを考えているんですか?」
なぜサンストーンがいま手の中にあるのか、この人は誰なのか気になることは他にもあるけれど、私の頭の中を占めているのはこの一つだった。

「おや、この状況では少し予想外の質問だ」
男の人は私の質問には答えず少し楽しそうに口元に笑みを浮かべる。
なんとなく予想していたので、気にせずに口を開く。

「それはあなたが幸せじゃないからですか?」
「そうかもしれないね」
私の言葉に動じることもなく、男の人はあいまいに答える。

「あなたがどこまでも欲深い人間だから?」
「なるほど、そう来るのか。
 ……おや、あなたともう少し話をしたいところだが邪魔が入りそうだ。」
男の人がそういうと、ガラスにヒビが入るときのような音が響く。

「な、なに!?」
「では、私は帰るとしようか。 またいずれ」
私が辺りを見回している間に、男がそういった。
視線を男に戻したときにはすでにそこに男の姿はなく……。

「きゃっ」
突然風景がかわり体が落下する。
とっさに目を閉じて、この次に来るであろう衝撃にそなえる。
けれど突然何かに包まれたかと思うと、落下が止まった。

恐る恐る目を開くとそこには……
①周防さん
②冬馬先輩
③一郎君と修二君

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②冬馬先輩

「………大丈夫ですか?」

いつも通りの淡々とした口調で冬馬先輩が尋ねてきた。
きっと、危険を感じて来てくれたのだろう。

「あ、うん。ありがとうございます」

そういい終えて、冬馬先輩に抱きかかえられていることに気付いた。
私自身、落下が怖かったのか先輩の首周りにしっかり抱きついている。

「本当に…大丈夫ですか?」

覗き込むようにして、冬馬先輩は更に顔を寄せてきた。
間近に端整な顔が迫ってくる。

(ち、近いよ! 冬馬先輩)

私は助けてもらって「離して」とも言えず、絡ませた腕をパッと放した。

「冬馬先輩、もう大丈夫なんだよね?」
「大丈夫とは言い切れません」
「どういう事?」

顔にこそ出さないけれど、好ましい状況ではないらしい。

冬馬先輩が辺りを見渡して、警戒の色を強める。
私もつられてあたりを見回してみた。

辺りは霧に包まれたように霞んでいて、周りを見渡してもぼんやりとした影を
うっすらと確認できる程度だ。

「おいおい……アイツから大切な器だと聞いて楽しみにしていたのに、青臭い普通の女じゃねぇか!
どんな美人かと思っていたが、ガッカリだぜ」

霧の向こうから、体つきのいい短髪の男性が現れた。
無骨で気さくそうな人のようだが、冬馬先輩は警戒を解こうとしない。

私は……
①黙って様子を見守る
②男性に話しかける
③冬馬先輩に話しかける

605
③冬馬先輩に話しかける

「冬馬先輩。あの人は……だれ?」
慎重に私を下ろす冬馬先輩に向って、話しかけた。

「わかりません。ですが、あの男……臨戦態勢に入っています。
あなたは僕の後ろを決して離れないでください」

そう言って、冬馬先輩は片手で私を庇うようにしながら一歩前に出た。

目の前の男性は不機嫌そうにボリボリと頭を掻きながら、私達をジロリと睨みつける。

「おい! そこの小娘」
「…………」
「お前だよ、そこの背に隠れてるお前! ここに女なんてお前以外に居ないだろ!」
指をさされて、ようやく私が呼ばれていることに気付く。

「はっ、はい!」
威勢よく呼ばれて、思わず大きな返事をしてしまった。

「俺が女子供に手を出すほど、外道に見えるか!?」

「い、いいえ!」
怒鳴るように尋ねられ、ブンブンと首を大きく振って否定する。

「怪我したくなけりゃ、どいてな。待っててやるからよ」
「いいんですか?」
「当たり前だ。とっとと行け」

(どうしよう。言うとおりにしていいのかな)
動いていいものか迷い、冬馬先輩に目で問いかける。

「行ってください。結界を張るには時間が足りません。他に気配を感じないし、罠とは考えにくいです。
僕の後ろ側、距離を取って隠れていてください。
なるべく体勢を低くすることを忘れないで」

男性を見つめたまま、冬馬先輩は小声で私に指示をした。

どうしようかな?
①距離を取って隠れる
②男性に話しかける
③冬馬先輩に話しかける

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③冬馬先輩に話しかける

「でも…先輩。これは夢なんですよね?」

(夢だったら、怖がることないよ)

「確かに夢です。あなたの体はベッドで休んでいると思います」
「じゃあ……」

私と冬馬先輩の会話を黙って聞いていた男性が、フンと鼻で笑った。

「どこまでもメデタイ小娘だな。
いいか? ここで怪我すりゃ、肉体の方もただじゃすまねぇんだよ。
この夢は普通じゃねぇんだ」

「どういうこと?」

男性の言っていることが分からず、冬馬先輩を見る。

「ここは精神世界と呼ばれています。別次元の現実と思ってもらったら早いかもしれません。
あなたが以前、周防と迷い込んだ場所でもあります」

(見たことあると思ったら…)

「あの時、周防さんは私が願えば反映されるって言ってたよ。私の言霊で、争わずに済むかもしれない」
「それは無駄でしょう」
「どうして!?」
「ここが春樹さんの精神世界だからです」

(春樹の?)

「でも、春樹が居ないよ」
「精神世界は広大で、現実のそれと変わりありません。ですから、春樹さんは別の場所に居るのでしょう」

「そういうこった。納得してもらえたんなら、大人しく下がっていた方が身のためだぜ」
男性はニヤリと笑うと、構えをとる。
「行くぜ673!! 派手にやろうや」

その声を聞き、冬馬先輩は私を庇いながら更に一歩前に出た。

私は……
①距離を取って隠れる
②考える
③なるべく遠くに逃げる

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②考える

(春樹は居ないけれど春樹の精神世界……)
ふと、嫌な考えが浮かぶ。
私はあわてて二人の間に割って入った。

「ちょ、ちょっとまって!!!」
「なんだよいい加減じゃますんじゃねー」
「だめ!ここは春樹の精神世界なんでしょ!?そんな所で争って春樹に何かあったらどうるすのよ!」
「そんなこたぁ、俺には関係ねぇな」
「私にはあるのよ!だからここで争っちゃだめ!」
「ごちゃごちゃうるせーな、どけこら」
ぶんと、男が手を振ると男を中心に風が吹き荒れた。
ただの牽制だと分かるが、思わず悲鳴を上げてしまう。

「きゃっ」
顔の前で手を交差して、くるであろう風に備えるが一向に風は襲ってこない。
おそるおそる目を開くと、私の周りだけ円を描いたように草はピクリとも動いていなかった。

「な、なに? ……もしかして、冬馬先輩?」
後を振り返るが、冬馬先輩は風に煽られ片腕で目をかばうように立っている。

「なんだぁ?」
男も不思議そうに私を見た。
風はすぐに止み、冬馬先輩がどこか遠くを見るように視線をさまよわせ、呟いた。

「ここは、精神世界。この世界の主があなたを守っているんです」
「じゃあ、春樹が私を……?」
「おそらく」
春樹は私を守るといった約束を、ここでもちゃんと実行してくれているのだ。

「かなり強力な護りです。あなたはこの世界に居る限り安全でしょう」
「そうなの……? それじゃあ」
私はそういって、冬馬先輩のすぐ前に立つ。

「こうしていれば、冬馬先輩には手出しできないわよね?」
「……ったく」
男は小さく舌打ちをして、大げさに肩をすくめて見せた。

「なるほど……どうやら器は器ってことだな。本当に伝承通りでいやになるぜ」
「え?」
「アイツの言ったとおりになるのは癪だが仕方ねぇ」
男はそう言って、無造作に近づいてくる。
冬馬先輩が私の腕を引っ張り背中に隠すように立つ。

「なにもしやしねぇよ」
そう言って男は冬馬先輩の後に隠れるようにして立つ私を、上から覗き込むようにして見下ろす。

「俺はナンバー535だ。外では熊谷裕也って呼ばれてる。小娘、覚えとけよ」
そう言って笑う顔はさっきまで臨戦態勢に入っていた人とは思えないほどさわやかだ。

なんて返そう?
①「熊谷……さん?」
②「大堂愛菜です。覚えておいてください」
③「……」

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②「大堂愛菜です。覚えておいてください」

「それに……小娘なんて名前じゃありませんから、私」
と付け加える。

生意気を言って、怒鳴られるだろうと覚悟していたのに、一向にその気配もない。
それどころか、熊谷さんの表情がさらに崩れた笑顔に変わっていく。

「ハハハッ…おもしれぇ。さっきは割って入ってくるし、お前、見た目より気が強いとみえるな。
気に入ったぜ、小娘」

「小娘じゃなく、大堂愛菜です…。それにこの人は、673じゃなくて御門冬馬って立派な名前があるんですから。
ね? 先輩」

「…………はい」

冬馬先輩はゆっくりと頷く。
そして、制服の胸ポケットを漁り、生徒手帳を取り出す。

「どうぞ」

「へぇ、本当だな……御門冬馬…3年2組か。ほらよ、返すぜ」

手渡された生徒手帳を黙って受け取り、冬馬先輩は黙ったまま胸ポケットに納めた。
クラス替えの後、初めて自己紹介をし合うような、少々照れくさい空気になっている。

「お前が大堂愛菜、こいつが御門冬馬、か。よし、憶えたぜ。
……って、どーして、 敵と和んでんだよ! 俺!! お前らも、なんとか言え!」

(ボケに乗っておいて、ツッコミに転じる……良いノリツッコミだ)

妙に感心していると、突然、グラリと世界が歪んだ。
地面が揺れ、立っていられなくなる。

「ど、どうしたの?」
「春樹さんの目覚めのようです」
「いいか! 今回は見逃してやったが、次は容赦しないからなー!!」

どこかで耳にしたような捨て台詞を聞いた後、眩い光に包まれる。
自分の意識が浮上するのを感じた。

(熊谷さん……悪い人には見えなかったな。
それよりも、気になるのは、あの眼鏡の人。
一体、誰なんだろう)

目覚めるとそこには……
①チハル
②隆
③お継母さん

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①チハル

「愛菜ちゃん?」
心配顔のチハルが私を覗き込んでいた。

「チハル? おはよう」
「大丈夫? よんでも起きないし、むかえに行こうと思ったのになんかに邪魔されるし、すごく心配したんだよ」
「大丈夫だよ。春樹の所に行ってたの」
「春樹?」
春樹の名前を出した途端、チハルの顔が曇る。
昨日、春樹を守れなかったことをチハルは気にしているのだ。

「うん、春樹元気そうだったよ。大丈夫」
「ほんとう?」
「うん、春樹は春樹がやりたいことのために自分で行ったんだって。
 だからチハルが気にすることは無いよ」
「うん……」
まだ、少し元気の無いチハルの頭を撫でて時計を見る。

「え!? うそっ」
思わず目をこすり、もう一度時計を見直す。
いつも起きる時間を20分も過ぎている。
ベッドから飛び降り、慌てて着替えて部屋を飛び出す。
洗面所へ直行し顔をあらってキッチンへ顔をだし、首を傾げる。

「あれ?」
お義母さんも隆も居なかった。
そういえばこの時間まで起こしにこないのもおかしい。
私はもう一度二階へ上がり、お義母さんの部屋を覗いた。

「居ない?」
(今日は早く仕事にいく日だったっけ?)
でも、春樹のこともあるし何も言わずに出て行くとは考えにくい。
今度は隆が使っている客間を覗く。

「あ……」
隆はまだ眠っているようだ。

とりあえず……
①チハルにお義母さんがもう出て行ったか聞く
②隆をたたき起こす
③朝食を準備する

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①チハルにお義母さんがもう出て行ったか聞く

「お義母さんがもう出て行ったのか知ってる?」
慌しく用意する私の後ろを、ずっとついて来ているチハルに話しかけた。

「うん。とっても朝早く出て行ったよ」
「仕事かな……」

仕事だったらいいけれど、春樹を探しに行ったとなれば心配だ。
(携帯で連絡とってみようかな…)

「ねぇ、愛菜ちゃん」
考え込んでいる私の袖を、チハルが引っ張った。
「どうしたの?」
「これ、なんて書いてあるか教えて」
「その紙……お義母さんの字だ」
「居間のテーブルに置いてあったから、愛菜ちゃんに読んでもらおうと思って持ってたんだ。
お手紙だよね」

チハルから手紙を受け取り、目を通していく。

「ねぇ、愛菜ちゃん。なんて書いてあったの?」
「えーっとね。やっぱり、お義母さんは朝早くからお仕事に行ったみたい。帰りも遅くなりますって。
それと、元気だから心配しないでって書いてあるよ」
「ボク、昨日からママさんの事が大丈夫かなって思ってたけど、元気なんだね。よかったー」

チハルは胸を撫で下ろすように、フーッと息を吐いて笑った。

本当はもう一つ、チハルには言わなかったけれど、血の繋がった父親のところに行きたいと言う息子を止める権利までは
無いと思い至った事。最後に、私と父にまで迷惑をかけてしまった事への謝罪が添えられていた。

(お義母さん……)

いろいろ考えたいことはあったけれど、今は時間が無い。
とりあえず、急がなくては。

どうしよう?
①隆をたたき起こす
②朝食を準備する
③やっぱり止めて、学校を休む

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