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③「そういう隆の料理の腕はどうなのよ?」

隆の言う事は正しいのかもしれないけれど。
なんとなく釈然としないものを感じてそう問い掛けると、隆はふふんと笑った。

「人並み程度には。まあ、お前よりはまっとうな料理作れるぜ」
「まっとうなって……さっきから随分な言い様じゃない」
「だから言ってるだろ。料理が上手くなりたいんならマズイものを作ったらマズイって気付かなきゃ駄目だ。お前のとこの春樹やおばさんみたいに黙ってちゃ愛菜はわからないだろ」

散々な言われように言いたい事もあったはずなのに、隆の言葉に私は思わず口をつぐんでしまった。
(春樹も、お義母さんも……私に気を使って何も言わなかったのかな?)
「そう、だね。……我慢してマズイもの食べさせるなんて、可哀想だよね」
「愛菜?……やれやれ」
押し黙ってしまった私の前で、隆は困ったような顔で溜息をついた。

「春樹やおばさんに関しては確かにそうかもしれないけどな。その点、俺なら大丈夫だ。さっきから言ってるけど、お前にマズイ物喰わされたらちゃんとマズイって言ってやる」
下がり気味だった視線をゆっくり上げると、真っ直ぐにこちらを見る隆と目があった。
「だから、お前は遠慮無く俺を実験台にすれば良い。俺の胃腸は頑丈なんだ、ちょっとやそっとじゃびくともしねえよ」
「隆……ありがとう」
隆なりの優しさが嬉しくて、素直にお礼を言うと隆は照れたようにそっぽを向いてしまった。
「別に。礼を言われるほどのことでもないだろ。……俺自身のためでもあるし」
「? そうなの? 隆ってば食いしん坊なんだね」
「……」
「隆?」
「あーもう良いよ、そういう事で!」
隆はどことなく不機嫌そうにお皿に残っていた八宝菜を口に詰め込んだ。
(? 変な隆)

それから二人で黙々と食事をとっていると、丁度会話の切れるタイミングを計ったかのように携帯が鳴った。

「おい愛菜、誰からだ?」

ディスプレイに映し出された番号は……
①周防さんの携帯の番号 (周防)
②一郎くんの携帯の番号 (一郎)
③修二くんの携帯の番号(修二)
④春樹の携帯の番号(春樹)
⑤電場ボックスからの着信(冬馬)
⑥未登録の携帯の番号(美波)
⑦固定電話の番号(あれば近藤先生)
⑧非通知での着信(592の選択に続く)


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⑧非通知での着信(592の選択に続く)

「非通知だ……」
テーブルの上で鳴っている携帯のディスプレイを覗き込むと、非通知着信だった。
私は首を傾げて隆を見る。
隆はかすかに眉をしかめている。
私はとりあえず、携帯に手を伸ばした。

「きゃっ」
携帯と指先が軽く触れた瞬間、バチンと激しい火花が発生して携帯をはじく。
携帯はくるくると回りながら、テーブルの端で止まった。

「な、なに?」
「なんだ?」
突然の出来事に携帯を呆然と見る。
隆も何がおこったのか分からないというように、携帯と私を交互に見ている。
携帯は何事もなかったかのように鳴り続けている。

「静電気……じゃないわよね」
「静電気が携帯はじくわけないだろ」
いいながら、隆が立ち上がり携帯に手を伸ばす。
携帯は何事もなく隆の手に納まった。
いまだ鳴り続ける携帯を調べるように、ひっくり返したりしていたが特に何もおかしな事はなかったらしい、私に携帯を差し出してくる。
私がそれを受け取ろうと、手を伸ばし携帯に触れた途端。

「あっ」
「うわっ」
バチンとまた携帯がはじかれる。
落としそうになった携帯を、隆が慌てて持ち直す。

「なんだぁ?」
隆が不思議そうに鳴り続ける携帯を見ている。

「隆、おかしいよ……」
鳴り続ける携帯に、私はだんだん不安になってくる。

「マナーモードじゃなくても、一定以上電話にでなかったら伝言モードになるはずなのに……」
「!」
電話が鳴ってから結構な時間がたつが、いつまで経っても伝言モードに切り替わらず鳴り続けている。

「まさか、組織が何か仕掛けてきてるのか……?」
「そうかも……だから私が電話に出ないように冬馬先輩の契約かなんかが働いて携帯がはじかれるのかも……隆は平気みたいだし」
鳴り続ける携帯が不気味だ。

「で、これどうするよ……?」
一向に切れる様子のない携帯に隆が顔をしかめる。

どうしよう……
①隆に出てもらう(隆)
②電源を切ってもらう(トゥルー)
③隆に電話を持ってもらったまま自分で対応する(秋人)
④そのまま鳴らし続ける(チハル)


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②電源を切ってもらう

「お願い。電源切って……」
私は恐ろくなって、隆に携帯を渡した。

「ああ」
隆は携帯を受け取って、ボタンを押す。
すると、何事もなく電源が切れた。

「ほら、これ返す。しかし、不気味だよな。
とりあえず、明日になるまで携帯の電源は切っておいた方がいいぞ」
携帯を差し出した隆は、相変わらず不思議でならないという顔をしていた。

「でも、春樹からまた連絡があるかもしれないよ」
「俺がここに居ることは、さっきの電話で知っているんだ。もし、どうしても連絡を取りたかったら俺に掛かってくるだろ。
確か、春樹は俺の番号を知っているはずだしな」
「そうだね」

また静電気のように、はじかれたら怖い。
組織の仕業だったら、他にどんな細工がしてあるかも判らない。
ずっと鳴り続けるのも不気味だし、隆の提案通り、夜の間は切っておくことに決めた。

私は夕食の後片付けを始め、その間に隆にはお風呂に入ってもらった。
片付けも終わり、お継母さんの寝室をそっと覗く。

美波さんのまじないが利いているのか、安らかな顔で寝ていた。

(心配だったけど、大丈夫そうね。お継母さん、おやすみなさい…)

ドアを閉め、リビングに下りると隆がお風呂から出てきた。
私は隆の次にお風呂に入り、そのまま自室に戻った。
携帯の電源は切ったままにして、充電の卓上ホルダに差し込む。

(すごく疲れたなぁ。今日はもう横になろう)

チハルを起こさないように、ゆっくりベッドに入る。
そして、瞼を閉じた。

私は……
①今日一日を振り返ってみる
②夢をみた
③冬馬先輩に連絡をとってみる

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①今日一日を振り返ってみる

(今日は朝からいろいろあったな……)
朝は桐原さんとの一件があった。
昼は普通に何事もなく過ぎて言ったけれど、放課後は文化祭の準備をするはずだったのに修二くんと地下道を見つけた。
そこで周防さんの無事を確認して、美波さんに会って、こよみさんが美波さんの妹の綾さんだったことが分かった。
その後は一郎くんが迎えに来て修二くんと別れた後は、力をコントロールできるようにカードでの訓練の仕方を教えてもらった。
その途中でお義母さんから電話があって、春樹が連れていかれてしまったことを聞いて……。

(なんか、本当に今日はいろいろあったんだなあ)
途中まで思い返して、思わずため息をつく。

「……ぅん、愛菜ちゃん?」
自分で思っていた以上にため息が大きかったのか、小さくうなってチハルが目を開けた。

「あ、チハル、ごめん起こしちゃった?」
「んー、大丈夫。ボクいつの間に寝ちゃったんだろう?」
不思議そうな顔をして首を捻るチハルを軽く抱きしめる。
少し高めの体温に、とても安心する。
さっきの携帯電話の件が自分で思っていた以上に怖かったみたいだ。

「愛菜ちゃん?どうしたの?」
心配そうなチハルの目が私を見上げてくる。

なんて答えよう。
①「チハルが居てくれてよかったと思って」
②「さっきちょっと怖いことがあったから」
③「なんでもないよ、寝よう?」

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①「チハルが居てくれてよかったと思って」

人の体温がこんなに心休まるんだと、チハルを抱きしめながら改めて感じた。

「やっぱり、春樹が居なくなって寂しいんだよね?
守るようにお願いされてたのに……引き止められなくてごめんね」

「ううん。チハルはいつも頑張ってくれてるよ。
それより、春樹が悩んでいることに気付いてあげられなかった私がダメだったの。
姉失格だよ……」

チハルは私の言葉を聞き終わると、黙ったままゆっくり手を伸ばした。
そして、ぎこちなく笑って口を開く。

「いつも愛菜ちゃんがこうしてくれると、ボクすごく安心するんだ。だから、ね?」

チハルの伸ばされた手は、私の頭の上にそっと置かれた。
前髪を梳くように、不器用に手を動かす。
いつも私がチハルにしてあげている仕草を真似るように、優しく頭を撫でてくれていた。

(チハル……)

チハルは一生懸命、私の真似をしてくれていた。
きっと、撫で方もぎこちない笑い方も私にそっくりなのだろう。
私は目を瞑って、しばらく撫でられ続けた。

「もういいよ、ありがとう。チハルのお陰で元気が出てきたみたい」
「元気に…なって……よか…った」

そう言って、手を止めると同時にチハルの寝息が聞こえてきた。
眠たかったのに、無理してくれていたのだろう。

私はチハルの小さな手に頬を寄せた。

(ありがとう。チハル)

どうしようかな?
①もう少し今日のことを考えてみる
②眠る
③携帯が気になった

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②眠る

チハルの規則正しい呼吸を聞いていると、心配や不安が和らいでくる。
ふわふわの髪に顔を寄せてチハルの体温を感じていると、自然と眠りに引き込まれていった。



「……姉さん?」
気がつくと家の前に立っていた。目の前に春樹がいる。
春樹は門の外に立っていて家を見ていたようだ。
門をはさんで春樹と向き合う。

「春樹……?」
私はすぐにこれが春樹の夢だと分かった。
春樹には力が無いはずだから私が春樹に同調したのだろう。

「どうして姉さんが?……いや夢なんだから、俺の希望って事かな」
春樹は少しうつむいて、ぶつぶつと呟いている。

(そういえば予知夢みたいなのを見るって話はしてるけど、同調すれば夢で会えるって詳しく言ってないっけ……?)
ちゃんと話すべきかどうか迷っている間に、春樹が話しだす。

「姉さんは怒ってるよね、俺があいつについていったこと」
「少しはね。お義母さんがすごい心配してるんだよ? もちろん私も」
「そうだろうね……でも、俺が行く必要があったんだ」
「どうして?」
「あいつに近づいて油断させることが出来るのは俺だけだから」
春樹の言葉をききながらふと思う。

(このまま夢だと思わせてたら、春樹の本心が聞けるかもしれない)

どうしよう
①このまま春樹と話をする
②普通の夢ではないことを話す
③とりあえず家の中で話そうと誘う

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①このまま春樹と話をする

「あいつって……春樹の父親の事だよね?」

春樹はコクリと頷いた。

「父親だと思いたくもないんだけどね。本当に、最低な人だよ。
でも……それをあいつに言ったら、きっとお前が不甲斐ないからだって一蹴されてしまうだろうね」

「どうして春樹が不甲斐ないなんて言うの?自分の子供なのに……」

会ったことも無い人だけど、悔しさがこみ上げてくる。
過去の出来事だとはいえ、私の大切な家族に暴力を振るっていた人はやっぱり許せない。

「ようやく分かったけれど……俺に力が無いって事が許せなかったんだと思う。
あの人はいつも母さんを痛めつけながら『どうして無能の子を産んでくれたんだ。高村の恥さらしめ』って怒鳴りつけていたからね。
俺は自分がどうして無能の子だと言われるのか、ずっと分からなかった。
母さんが暴力を振るわれないように、必死で勉強もしたし、どんな事でも誰にも負けないようにしたんだ。
だけど……」

春樹は言葉を切って、唇をかみ締めている。

「お継母さんへの暴力は収まらなかったんだね」

「それどころか、段々酷くなっていった。俺を見る目もまるで羽虫でも見るように、いつも冷ややかだった。
とうとう耐え切れなくなった母さんは俺を連れて、逃げるように高村家を飛び出したんだ」

「そうだったんだ……」

「生まれてからずっと、俺はあの人が怖かった。逃げ出したとき、正直、会わなくて済むとホッとしたよ。
そして、姉さんや継父さんに会って、ようやく本当の幸せを手に入れたと思った。
どんな事をしても、絶対に守り通すと誓ったんだ」

私の背後に建つ我が家を、春樹は慈しむように仰ぎ見ていた。
出会った頃の春樹は人を寄せ付けない雰囲気があった。
私を守ると約束してくれた裏には、春樹の悲壮な思いがあったんだ。

「だけど、ショッピングモールで姉さんが寝ている時……冬馬先輩から高村の研究所について教えられたんだ。
もう決して関わりたくない父の事も。その時、ようやく悟ったよ。俺に力が無い為に、母さんが傷ついていた事をね」

春樹は悲しそうな瞳を私に向けながら、話を続けた。

「話を聞き終えて、怖くなった。あの人とまた会うくらいなら、逃げたした方がいいと思った。無能な俺よりも、力のある人達が姉さんを守るべきだと思った。
だけど、それじゃ姉さんとの約束を守ったことにはならない。俺はずっと平常を装いながら、考えていた。俺にしか出来ない姉さんを守る方法を。
考えすぎて、あんまり眠れない時もあったけどね」

春樹は口の端を上げ、少しだけ笑った。
(『もうこれ以上の厄介事は、ご免なんだ!』と公園で言った事は…父親に対する恐怖心があったからなのね)

どう言おうか?
①「私を守る方法が……研究所へ行くことだったの?」
②「ごめんね、春樹」
③「辛かったら、相談くらいしてよ! 姉弟じゃない」

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②「ごめんね、春樹」

思わず口をついて出たのは、謝罪の言葉だった。

「どうして姉さんが謝るのさ。姉さんは何も悪くないだろう。
これは、俺自身のけじめでもあるんだから……」

春樹は色々な感情の入り混じった視線で、私を見つめる。
私は耐え切れなくなって、その視線を外すように下を向いた。

「春樹がそんなに苦しんでいるのに、ぜんぜん分かってあげられてなかったんだよ。
私、春樹の気持も考えずに頼ってばかりだったもの」

春樹を追い詰めてしまった一端は私にある。
今、思い返せば春樹の苦しみを理解してあげるチャンスはいくらでもあったはずだ。

「……困ったな。夢の中だと思って、少しおしゃべりが過ぎたのかもしれないね。
ホント、夢の姉さんまで悩ませるつもりなんてなかったんだ」

キィと軋んだ金属の音が聞こえる。きっと、春樹が門を開けたんだろう。
不意に、右肩に暖かな手が置かれた。
顔を上げると、すぐ傍らに春樹が立っている。

「姉さん、俺はね」
「どうしたの? 春樹」
「俺はね……」

黙り込んだままの春樹を、そっと覗き見る。
春樹の表情は硬く、肩に載せたれた手が小さく震えていた。

「俺は……」

(どうしたんだろう? 春樹)

「ねぇ、姉さん。……ある昔話をしていいかな?」
手の震えが収まった春樹はいつもの調子で私に話しかけてきた。

「いいよ。どんな話?」
「昔、ある男が居て…どうしても手に入れたい物があったんだ」
「うん」
「だけどね、その物を男が手にすると、男の周りにあるすべての大切な物が壊れてしまうかもしれないという代物だったんだ。
その男の周りにある物っていうのはね、男がコツコツと血の滲むような思いで集めてきたそれは大切な物だったんだ」
「うん」
「更にね、すべてを犠牲にしてまで欲しかった物自体、男のものになるとは限らないと分かっているんだ」
「その男の人が何もかもを失うリスクがあるのね」

「そうなんだ。でも、その男はすべて失ってもいいと思えるほど、手に入れたい物は魅力的で、大切で、かけがえの無いものなんだよ。
そして今、その男はかけがえの無い物を手に入れるか否かの最後の選択を迫られていたとする。
姉さんだったら、その男にどう助言をする?」

私は…
①「手に入れた方がいい」
②「手に入れない方がいい」
③「わからない」

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③「わからない」

私は少し悩んで答えた。

「その手に入れたい大切なものは男の人のものになるとは限らないんでしょ?」
「うん」
「男の人が手に入れる決断をして手に入れようとしたとして、自分のものにならなかった場合、その大切なものはどうなるの?壊れちゃうの?」
「……」
何も答えない春樹に、私は言葉を続ける。

「その辺がどうなるかによって、助言はかわるかな?」
「もし壊れるものだったら?」
「壊れるものだったら、手に入れない方をすすめるよ。
 すごく大切なものが、手に入らない上に壊れたら男の人だってすごく悲しくなるし、自分のせいで壊れてしまったって自分を責め続けることになるかもしれないじゃない」
「じゃ、壊れないものだったら?」
「それなら手に入れる努力はするべきじゃないかな?
 もし自分のものにならなくても、その大切なものは壊れないで他の誰かが大切にしてくれるかもしれない。
 自分のものにならないって悲しみはあると思うけど、努力はしたんだからあきらめもつくんじゃないかな?」
「夢なのに……姉さんはやっぱり姉さんなんだね」
どこか泣きそうな顔の春樹に私は続けた。

「でもさ、きっとその男の人は私がどんな助言をしても手に入れようとすると思うよ」
「え?」
春樹が驚いたように私を見る。

「だって手に入る希望があるんでしょ?
 最後の選択っていうことは、今までは手に入れるための努力をしてきてるってことじゃないの?」
「……」
黙りこんだ春樹から私は視線を外して、空を見上げる。
どんよりと曇った空が春樹の心情を表しているみたいだ。

「それってさ、手に入れるって最初から決めてたって事じゃないのかな?
 私はその男の人じゃないから分からないけどね」
そういって視線を春樹に戻すと、春樹が肩を震わせている。
どうやら笑っているようだ。さっきまでの雰囲気がすっかり消えている。
心なしか、雲も薄れてきたようだ。

①「どうしたの?」
②「私、何か変なこと言った?」
③「元気になった?」

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②「私、何か変なこと言った?」

一生懸命考えて答えたのに、春樹に笑われてしまい、少々ガッカリしてしまった。

「ごめんごめん。……姉さんには敵わないと思っただけだよ。
そうだよね、その男の答えは最初から決まっていたじゃないか……」

笑いながら、晴れやかになっていく春樹の顔を見て、ホッと安心する。

「姉さん、ありがとう。
普段はボンヤリしていて頼りないけど、ここぞという時には必ず俺の欲しい答えを教えてくれるよね」

(ボンヤリって……ひどいなぁ。頼りないのは認めるけど)
褒められるのは嬉しいけれど、一言が余計で素直に喜べない。
春樹に文句を言おうとして、ようやく身動きが取れないことに気付く。
肩に載せられた春樹の手に力が篭っていたからだ。

春樹はそんな私を真っ直ぐ見つめたまま、ゆっくり口を開いた。

「……そんな姉さんだからこそ、好きになってしまったんだろうな」

「え!?」

心臓が大きく跳ねる。
体がカッと熱くなった。
反射的に、身を引くように春樹との距離を置く。

「わ、わ、私も……春樹のことが好きだよ。たった一人の弟だもんね」

声が上ずって、早口なってしまう。
私一人が酷く動揺してしまって、恥ずかしいことこの上ない。
春樹は手持ち無沙汰になってしまった手のひらを見つめると、少し困った顔をした後、優しく微笑んだ。

「……昔話に出てきた男が前途多難だということはよくわかったよ。
それに、夢でこんなに緊張するのなら、現実ではまだまだって事だよな……」

「? さっきの昔話の続き?」

私は春樹との距離を保ったまま尋ねる。
春樹はクスッと笑い、「内緒だよ」と呟いた。

私は
①「……春樹の話してくれた昔話、男の人が幸せになる結末だったらいいな」
②「ところで、さっき油断させることができるって言っていたけど……」
③「ところで、体は大丈夫なの?」

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