581
①「組織は周防さんが生き返ったことをなぜ公表しなかったの?」

「身内から反逆者が出たとあっては、権威に関わりますからね。
組織にとって、死んだままのほうが好都合だったのでしょう」
「で、でも……周防さんはちゃんと生きているのに……」
「それが組織のやり方なのですよ」
美波さんは苦笑を浮かべた。

「あ、あの…力を使った綾さんは、一体どうなったんですか?」
綾さんの事がどうしても気になって、私は美波さんに尋ねた。

「綾は脱走犯として隔離棟の厳重な監視下に置かれ、二ヶ月後、誰にも会うこと無くこの世を去りました」

私は何も言葉をかけることが出来ず、冷めた紅茶に口をつけた。
隆も黙ったまま、美波さんをジッと見つめている。

「綾の死後半年以上が経ち、私は周防と面会の機会を得ました。
本来、会わす顔も無いのですが、一言でも詫びたいと思ったのです。
周防はとても冷静に私を迎え入れてくれました。
そして、『俺が死ぬ間際、こよみに“兄を許して欲しい”と頼まれた。だから、お前を許すことにした』と、言ってきたのです。
また、『こよみと似た境遇の人達を助けること。それがこよみを救えなかった俺に与えられた罰だと三ヶ月間寝ていて気付いた。だから、力を貸して欲しい』とも。
私に罪を償う術を、妹の声無き願いを、周防は伝えてくれたと思いました」

「それで反主流派になったんですね」
「はい。私たちはまず、隔離棟の少年に的を絞りました。この少年は能力がとても高く、前に居た部屋を破壊し、綾の部屋に移ってきたばかりでした」

「その少年って……」

「コードNO.673。現在は御門冬馬と名前ですね。少々強引な手を使って、私たちは少年の自由を手に入れました。
そして、信用のおける女性にその少年を託したのです」

「私のお母さん……ですか?」
「ええ、あなたのお母様です。彼女も研究員の一人で、人文学の見地から能力の解明を進めるチームの主任をしていました」

人文学。聞き慣れない言葉が美波さんの口から出てきた。

(そうだ。お母さんの居場所が分かるかもしれない)

けれど、このままお母さんの居場所を聞いていいものかと考える。
お父さん、お義母さん、春樹は何て思うだろう。
まして、春樹もお父さんも居ない今、心細いお義母さんを支えるのは私しか居ないのだ。

どうしよう…
①お母さんの居場所を聞く
②話しの続きを聞く
③考える

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②話しの続きを聞く

「あなたのお母様は表の研究に携わっていました」
「表の研究?」
「はい。研究所は表向きは普通の研究所です。当然裏の事情を知らない普通の研究者も多数存在します。
 力の解明の研究と言いましたが、あなたのお母様の研究はいたって健全なものでした。
 あなたのお母様はとても優秀な方で、研究所に来て半年もたたないうちに主任に抜擢されるほどでした」
お母さんが研究所にいたということで、不安になった私に気付いたのか美波さんは微笑んで言葉を続けた。

「そうですね例をあげると、言霊などの研究ですね」
「ことだま?」
隆が不思議そうな顔をしたが、私は以前周防さんに似たようなことを聞いていたのですぐに理解する。

「言葉に力が宿るっていう?」
「そうです。たとえば『がんばれ』と応援されたら力がわいてくるような気がするでしょう?そういう言葉・語学なども、人文学の範囲です」
美波さんは隆に軽く説明をする。

「ですから、あなたのお母様は裏の仕事には携わっていませんでした。ご安心ください」
「そんな愛菜の母親に、冬馬先輩を預けたのか?危険だろ?」
最もな隆の意見に、私も頷いて美波さんを凝視する。

「確かに彼女が何も知らなければ私たちも彼を預けたりはしなかったでしょう。
 けれど、彼女はどこで聞きつけたのか裏の研究についても知っていました。そして周防に接触してきたのです」
美波さんは交互に私と隆の顔をみて続ける。

「あなたのお母様は周防にこう言ったそうです『私の大切なものを守るために、あの子を助ける手伝いをさせてくれませんか?』と」
「それって、愛菜を守るために周防先輩を助けたいって言ったってことか?」
「おそらくそうです。あなたのお母様にも何か力があったか、もしくは幼少の愛菜さんがお母様に何か伝えたか……どちらかでしょう」
「愛菜が……?」
「私はなにも……」
「まだ小さくて覚えていないと言うこともありえます。あなたのお母様が組織へ入ったのは9年前。
 事件の起こる1年前です。何者かの意図が感じられませんか?」
お母さんが私の前にから消えたのは10年前。
その1年後に組織に入り、さらに1年後に冬馬先輩を助けた。
言われて見れば、繋がっているように感じられなくもない。

①「きっと偶然ですよ」
②「何者かのって、一体誰の?」
③「私が何かしたと思っているんですか?」

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②「何者かのって、一体誰の?」

「さぁ、私にも分かりません。あなたかもしれないし、あなたのお母様かもしれないし、他の誰かかもしれませんね」
美波さんはゆっくりした口調で答え、一呼吸置いてから言葉を続ける。

「……周防について話を戻しますね。事実上死んだことになっている周防は地下に潜って、現在も反主流で活動をしています。
それは愛菜さんもご存知ですね。長くなりましたが、これが私の知っている周防の過去です」

そう言って、美波さんは私を見た。
相変わらず、穏やかな表情を大きく崩す事は無い。
だけど、周防さんにとってつらい過去を話させる結果になってしまった。

「あの……美波さん。ごめんなさい」
「気分を沈ませてしまって、私こそ申し訳なかったですね。
でも、綾の事をあなた達に話せてよかったと思っています。あの子を知るものはごく僅かの人間だけですから」
美波さんは寂しそうに笑って、今度は隆に向き直った。

「隆さんにも、気持ち悪いものを見せてしまいましたね」
「別に気持ち悪くなんてなかったさ。あれくらい、どうって事無いぜ」
顔色は悪いままだったけれど、隆は空元気で答えた。

(隆なりに、気を使ったのかな)

「なあ、美波さん……だっけ」
隆は美波さんに向って、話しかけた。
「はい。何でしょう?」
「愛菜の母親は、今どこに居るんだ?
愛菜は長い間、母親の帰りをずっと待っていたんだ。もし知ってるなら、教えてくれないか」

「すみません、私は知らないのです。愛菜さんのお母様は反主流に属しているわけではないし、研究所もすでに辞められている。
もしかしたら周防なら知っているかもしれませんが……」

今の生活を壊すことになるなら、お母さんの居場所について知らないままの方がいいのかもしれない。
けれど、冬馬先輩を引き取ったのは私のためだと判った以上、会わなければならない気もする。
私の横で寝息を立てるチハルの頭を撫でながら、お母さんについて考えた。

美波さんは腕時計で時間を確認すると、ソファーから腰を上げた。
「では、時間も遅いですしそろそろ失礼させていただきます。最後に何か尋ねたいことはないでしょうか?」

私は
①もう無い
②美波さんは周防さんをどう思っているのか
③隆に尋ねるとこは無いか聞く

584
③隆に尋ねるとこは無いか聞く

「いいえ、私はもう大丈夫です。隆は何かある?」
私は美波さんにお礼を言って、チハルを起こさないように注意しながら立ち上がり、ふと隆を振り返って聞いてみる。
隆はソファに座ったまま、美波さんをじっと見つめて口を開いた。

「ところで、組織って言うのは今現在何を目的として動いてるんだ?」
「……」
美波さんはその問いに一瞬考え込むように目を閉じた。

「目的まではわかりませんが16年前の春までは……能力者の人工的な作製と能力者の力の増大について研究がなされていました。
 けれど16年前に何が起きたのか、能力者を人工的に作る研究は既存のものを除き新規研究は突然打ち切られ、能力者の力の増大についての研究と、力の解析についての研究に重点がおかれるようになりました」
「16年前の春……?」
その言葉に隆が一瞬眉をしかめ、それから私を見た。

「愛菜が生まれたとき、か?」
「え……?」
言われて私もハッとする。
確かに16年前の春……3月は私が生まれた年だ。

「組織は、愛菜が生まれたときから愛菜を狙っていたってことか?」
「わかりません。私には上層部が何を目的として動いているかは知らされておりませんので……」
美波さんは考えるようにそう言って、隆を見返す。

「けれど、可能性はありますね。隆さんのクローンが作られたのはその約半年前、学年で言えば愛菜さんと同じ学年ですが、ぎりぎり既存の研究対象ということで残されたのでしょう」
美波さんはそう言って小さく呟く。

「周防は当時8歳ですか……おそらく詳しいことは分からないでしょうね」
そういう美波さんだって当時は11歳だったはずだ。
私の心の内を察したのか美波さんは、チラリと私をみて微笑んだけれど何も言わずに隆に視線を戻す。

「この件については私ではお役に立てないと思います。周防に直接聞いたほうがいいでしょう。
 反逆者として扱われているとはいえ、彼は高村の名をもつ能力者ですから、経緯はともあれ現在の組織の目的は知っているかもしれません」
そう言って美波さんは再度時計を見る。

「では、これで失礼いたしますね」
私は美波さんを玄関まで送っていく。

「ありがとうございました」
「いいえ、何かありましたら周防に連絡してこき使ってやってください」
再度お礼を言うと、美波さんは微笑んで出て行った。
閉まった戸をなんとなく見つめていると、リビングから隆が私を呼んだ。

「おい、愛菜!携帯なってるぞ!」
「え、あ、うん」
隆の言葉に、慌ててリビングに戻ってディスプレイを覗く。

相手は
①春樹
②周防さん
③修二くん

585
①春樹

(……春樹からだ!)

私は急いで通話ボタンを押した。
「は、春樹!?」
「もしもし……姉…さんだよね」
いつもの春樹の声だった事に、とりあえず安心する。

「どうして黙って出て行ったの? お義母さんもすごく心配してるんだよ!」
「……ごめん」

春樹に謝られて、ようやく冷静さに欠いていた自分自身に気付いた。
心配そうに見つめる隆に向って、春樹は無事だと目で訴える。

「……今、どこにいるの?」
「実の父親の所だよ。しばらく家には帰らないけど、心配いらないから」
「それって、高村の研究所なの?」
「……………」
春樹は何も答えない。この沈黙は恐らく肯定だろう。

「俺のこと、警察に届けないで欲しいんだ。あと、学校には病欠ってことで連絡しといて。
色々勝手言ってるけど、必ず戻るから」
「お願い。すぐ戻ってきて」
「……それは出来ないよ」
「どうして? 」

暫く沈黙が続いた。
受話器の向こう側にいる春樹は、私に伝えるべき言葉を選んでいるのかもしれない。
そして、またポツリと話し出した。

「ここには、俺にも出来ることがあるから」

(ここにはって……私の傍じゃだめって事なの?)

「研究所なんて、危険だよ。春樹に何かあったら、私……」
「大丈夫だよ。あんな人でも父親だし、俺に無茶なことはしないと思う。もう、足手纏いにはなりたくないんだ。
無力なままじゃ、姉さんを守る事はできないからね」
その声は静かだったけれど、有無をいわせぬ響きがあった。

いつだって春樹は私を守っていてくれた。
『ずっと守る』と約束してくれてから、5年。
どんな時も傍にいてくれたのに。
春樹がいるだけで心強かったのに。

春樹の望む守ると、私の願う守るは違うのだろうか。
『これ以上無理はさせない。……絶対だ』と呟いた春樹の決意に気付けなかった事が、今になって悔やまれる。

私は
①正直な気持ちを言う
②春樹を信じてみる
③隆に替わってもらう

586
③隆に替わってもらう

春樹の決意は固いみたいだ。
助けを求めるように隆に視線を向けると、側で聞いていた隆が私に手を差し出してきた。

「春樹、隆が変わってほしいって、いま変わるから」
隆に電話を渡すと、隆はくるりと私に背を向け話しだした。

「春樹、俺だけど……あぁ……あのな、お前の母さん倒れそうなくらいショックを受けてたぞ」
隆の声だけが部屋の中に響く。

「……当たり前のことを言うな。だけどな、お前が思ってるほどお前は無力じゃない。……お前にだって……はぁ?」
春樹の声は聞こえないが、突然隆が驚いたような、あきれたような声を上げる。

(なにを話してるんだろう……?)
「……なにを言い出すかと思えば。はははっ……いや、バカにしてるわけじゃない。
 お前も年相応な所があるんだと思っただけだ。いやー、安心した。
 普段やけに大人びてるからなお前。いや考えすぎるだけか?」
再度笑いを洩らした隆が、次の瞬間にはまじめな声に戻る。

「お前の考えは分かった。けど、今回のお前の選択は誤りだ。
 ……いいから最後まで聞け。誰もお前にそういう力を望んでないんだ。
 お前にはこういうのとは違う別の力があるだろう。早く気付け、そして戻って来い」
隆の言葉は、春樹が特別な『力』を欲しがっていることをうかがえた。
けれど隆が言うとおり、私は春樹に隆や一郎くんたちのような『力』は望んでいない。
ただそばに居てくれるだけでいい。
普通で居られるならそれが一番だと思う。
私だって力を欲しいと昨日までは思っていたけれど、周防さんや美波さんの話を聞くうちに以前のように『力』が欲しいと思わなくなった。
以前冬馬先輩が言った言葉の意味が少し分かった気がする。

「……はぁ、分かったよ。けど、無茶するなよ。組織はヤバイとこだ。
 いくらお前の本当の父親だからって、信用するな。……あぁ、それじゃ」
そういって、携帯の通話を終わらせた隆は、私に携帯を返してくる。

「とりあえず、しばらくは戻ってくる気はないんだと」
「え!?」
「春樹には春樹なりの考えがある。お前の思ってることはちゃんと伝えてやった。
 それを聞いても春樹の考えは変わらなかったんだ。後は春樹のしたいようにさせてやれよ」
隆はそう言って私の額を軽く小突く。

私は、
①頷く
②文句を言う
③春樹がなんといったのか聞く。

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①頷く

私は額を手で押さえて、小さく頷いた。

「文句は帰ってきてから、たっぷり言ってやれ。今は、愛菜がおばさんを守ってやらなくちゃいけない。泣き言なんて言ってられないだろ?」
「……そうだね」

春樹には、沢山言いたいことがある。
黙って出て行ってしまった春樹のやり方が、正しかったとは思えない。
それがたとえ、私のためであってもだ。

「さっき、コイツに右ストレートを教えてやったし。まぁ、チビから痛い一発を食らえば、春樹も目が覚めるだろ」
隆はチハルを指さして、微笑んだ。
寝息を立てるチハルと、羽織っていた上着を掛けてあげている隆を見ていると、歳の離れたお兄さんと弟みたいだ。
そんな穏やかな光景を見て、春樹のことも少しは落ち着いて話ができそうな気がしてきた。

「あのね、隆。春樹は電話で何て言ってたの?」
「あ? …ああ。俺に謝ってきたな。あと、何かあった時はよろしくお願いしますって言われた。俺が言うのも何だが、本当に勝手なヤツだよ。……ったく」
「他には? 他に何か言っていなかった?」
「力が欲しいと言っていた。お前を守れるだけの、強い力が欲しいってな」
「やっぱり……」
「それと、自分は無力だとも言っていた。春樹のやつ、勘違いしやがって」
隆はぶっきらぼうに言い放つと、溜息を吐いた。

「ねぇ、そういえば…。話の途中で隆、驚いていたよね。その後、年相応とか言っていたし。あの時、春樹は何て言っていたの?」
「それは……」
隆は言い淀むと、困ったように頭を掻いた。
そして、投げやりに口を開く。

「それは……春樹の口から聞いてくれ」
「え?」
「俺から、言うべき事じゃないからな。どうしても知りたいなら、帰ってから直接聞けばいい」
「どうして?」
「……って、お前。少しは俺の気持ちも察してくれっての」
「もったいぶって、何よ。意地悪しないで教えてくれてもいいじゃない」
「あ、あのなぁ……まぁ、いいや。とにかくだ。俺は絶対に言わないからな」

そう言って、私の視線から逃れるように、再びチハルに向き直ってしまった。
私には、どうしても教える気が無いらしい。

(何よ、意地悪ね)

①他に何か言っていなかったか尋ねる
②なんとしても聞きだす
③チハルをベッドに運ぶ

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③チハルをベッドに運ぶ

私はため息をついて隆に聞き出すことをあきらめた。
そして隆の横に膝をつきチハルを覗き込む。
すやすやと眠るチハルの顔を見ていると自然と顔がほころぶ。
私はチハルを起こさないように抱き上げて立ち上がった。

「私、チハルを部屋に寝かせてくるよ。遅くなったけど、ご飯食べるでしょ?」
「あぁ、そういや腹減ったな。おばさん、暖めるだけって言ってたよな。じゃ、俺暖めておくわ」
「うん、ありがとう」
私は隆にお礼を言って、チハルを部屋に連れて行く。
泣きつかれたチハルは目を覚ます様子がない。
そっとベッドにおろし掛布をかけて部屋を出る。
それから奥のお義母さんの部屋をそっとあけて様子を見ると、美波さんの力の効果か安らかな表情で眠っている。

(大丈夫そうね)
私は音を立てないようにそっと階段をおり、キッチンへ向かう。
キッチンでは隆が炊飯器からご飯をよそっている所だった。

「来たな、今日は八宝菜だったぜ」
まだ暖めている途中なのだろう、コンロにスイッチが入っている。
私がお皿とお椀を持って北京鍋の中を覗いてみると、もう少し時間がかかりそうだった。
隣の鍋を除くと、こちらももう少し暖めたほうがよさそうなスープ。

「もう少しかかりそうね」
「だな、冷蔵庫にはなんか入ってないのか?」
「見てみるね」
どうやら、空腹が限界に来ているらしい隆の言葉に冷蔵庫を開けてみる。

「えっと、漬物とか、味付け海苔とか、梅干ならあるよ」
「じゃ、とりあえず漬物」
「はいはい」
漬物の入ったタッパーの蓋を外して隆の前におく。

「サンキュ、いただきます」
隆は早速漬物をつまみながらご飯を食べだす。
なんとなくそれを見ていると、隆が顔を上げる。

「なんだよ、じっと見て」

えっと……
①「春樹ちゃんとご飯食べてるか心配になって」
②「おいしそうに食べるなーと思って」
③「なんでもないよ」

589
②「おいしそうに食べるなーと思って」

「ジロジロ、見んなって」
急に恥ずかしくなったのか、隆は反対側を向きながらご飯を掻き込んだ。

「ちいさい頃から、いつも美味しそうに食べるよね」
私は頬杖をつきながら、しみじみ呟く。

「だってなー。不味そうに食ったら、米も野菜も魚も肉も全部可哀想だろ」
「え?」
隆の意外な発言に思わず聞き返してしまう。

「ごくたまに聞こえるんだ。小さな声がさ」
「声?」
「そ、声。今だから言えるけど、たまに野菜や魚の声が聞こえたりするんだよ。
あれだ、チハルと一緒ですべての物にはそれなりに心ってもんがあって、好き勝手にしゃべってたりするんだ。
本当に俺の調子がいい時だけだけどな」

隆は秘密を打ち明ける子供のように、ぎこちない口調で続ける。

「もちろん、食われたくないってヤツもいるんだよ。でも食わなきゃ俺は生きていけない訳だから、なるべく美味しく食ってやろうってな」

そういえば、隆が食べ物を残しているのを見たことが無い。
私が作った料理を除いては。

「そっか…。だから、いつも綺麗に食べるんだ。でも、私の料理だけは残すよね」
「そりゃ、まぁな」

隆は言葉を濁して、漬物を齧った。

私は暖め直した八宝菜とスープを二人分用意する。
隆は「サンキュ」と言って受け取ると、2杯目のご飯を勢いよく食べ始めた。

「ねえ、私ってやっぱり……。料理が下手なの?」

八宝菜の白菜を一口食べて、私は尋ねた。
家族のみんなも美味しいと食べてくれるけど、私の作った料理は必ず残る。
もし私の料理が本当に下手なら、残された食材が可哀想という事だ。

「だから、ずっとそう言ってるだろ。
でも、もし愛菜が本気で料理が上手くなりたいって言うんなら、俺が実験台になってやってもいいぞ。
食べて欲しいって言うなら、残さず食べてやってもいい」

隆は食べる手を止め、私を見た。

(食べてやるって……。上からの言い方が気になるなぁ)

①「昨日、隆には絶対に作らないって言ったでしょ」
②「なら、今度実験台にしてあげてもいいよ」
③「じゃあ、この白菜が何を言っているかわかる?」

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②「なら、今度実験台にしてあげてもいいよ」

隆にならってえらそうに言ってみる。
すると隆はひょいと片眉を器用に上げた。
それからふと思い出したように首を傾げた。

「そういやお前、自分が作ったもんうまいと思って食ってるのか?」
「え? お母さんとか春樹にはかなわないけど、そこそこだとは……」
「なるほど、お前味覚がおかしいんだな」
「……は!?」
「よく考えてみろ? 他の誰もがマズイと思って食ってるもんを、お前はそこそこだとおもってるんだろ?」
「……そう、ね」
「ってことはだ、お前の味覚がおかしいってことだ。っていうかお前、今まで食ったものでマズイとおもったことってあるのか?」
言われて私は記憶をたどる。
そういわれればないかもしれない。
苦手と思う味はあっても、マズイと思ったことはない、ような気がする。
そういうと隆は一人で納得したように頷いている。

「やっぱりな、お前は味覚がおかしい!」
原因が分かったと、一人で悦に入っている隆に私は顔をしかめる。

(味覚がおかしいって……じゃあどうすればいいのよ?)
思ったことが顔にでたのか、隆は私の前にびしっと指を突きつける。

「お前が目指すのは春樹の味だ! それと少しでも違えば、お前が作ったのはマズイってことだ」
「春樹の味って……それってハードル高くない!?」
おいしいものはおいしいと思うのに、マズイものはマズイと思わないあたりどういう味覚だと自分でツッコミを入れたいところだが、春樹の料理ははっきり言っておいしい。
味覚がおかしいと言われている私もとてもおいしいと思う。

「ま、確かにそうだよな。最初はおばさんの味か」
「お義母さんの味……」
どちらにしてもハードルが高いと思うのは私だけだろうか?

①「もう少しランクを下に……」
②「わかったがんばる!」
③「そういう隆の料理の腕はどうなのよ?」

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