561
①隆にも一緒に家に入ってもらう

「いまお義母さんから電話が来て、春樹が連れて行かれたっていうから慌てて帰ってきたところなの」
「春樹が?」
「そしたらチハルは泣いてるし……とりあえずチハル、ぬいぐるみにもどってね」
「……うん」
いつものように軽い音を立てて、チハルはぬいぐるみに戻る。
チハルをいったん隆のスポーツバックに入れてもらって、玄関をあける。

「それでお義母さんすごく取り乱してるの……、とりあえず入っ……」
「愛ちゃん!春樹が!あの人に連れて行かれてっ」
玄関の扉を開けた途端、お義母さんがものすごい勢いで走ってきた。
サンダルも履かずに玄関から出てくる。
お義母さんはもう泣いては居なかったが、その目は真っ赤だ。

「お、お義母さん落ち着いて」
「おばさん、こんばんは」
「あ……、隆くん、こんばんは」
慌ててなだめる私の後から、隆がいつもどおりにあいさつしてくる。
それにお義母さんは我に帰ったらしく、少し笑って隆にあいさつした。
とりあえず他人の隆が居ることで、落ち着きを取り戻したらしい。
私はホッとして、感謝を込めて隆を見上げる。
隆はちょっと笑って頷いた。

「お義母さん、中入ろう?」
「うん、ごめんね愛ちゃん、隆君。そうよね少し落ち着かなくちゃ」
いいながら、お義母さんは靴下を脱ぎながら玄関を上がる。
そのまま3人でリビングまで行き、とりあえずソファに座る。

まず何から聞こうかな?
①いつ春樹が連れて行かれたのか?
②誰が連れて行ったのか?
③春樹は抵抗しなかったのか?

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②誰が連れて行ったのか?

お義母さんは電話口で泣きながら、あの人と言っていた。
今、私が一番知りたいことは誰が春樹を連れて行ったかということだ。
嫌な胸騒ぎを感じながら、なるべくお義母さんを刺激しないように優しく問う。

「お義母さん。春樹を誰が連れて行ったのか教えて」

お義母さんはその時の状況を思い出したのか、また少し涙ぐんでしまった。
私はその様子を見守りながら、お義母さんが話し出すのを辛抱強く待つ。

「……いまさらあの人が…春樹を連れて行ってしまったのよ…」
お義母さんは涙声で答えた。
「あの人って誰かな? 」
お義母さんの背中を丁寧に擦りながら、ゆっくり尋ねる。

「……高村よ。高村が春樹を連れて行ってしまったの。春樹も…春樹も大丈夫だから心配しないでって……」
「それは、春樹の父親の?」
お義母さんは涙を拭きながらコクリと頷き、「愛ちゃん、知っていたのね」と呟いた。

高村。今朝、桐原さんが言っていた言葉を思い出す。
春樹の実の父親で、立派な学者で、たいへんな権力者。
お義母さんに暴力を振るっていた人で、春樹の最も憎んでいた人……。

私はその人の事を何も知らない。
きれぎれの情報のみで判断することはできないけれど、身勝手で独断的なのは想像がついた。

「おばさん。春樹は本当に心配しないでって言ってた?」
手を前で組みながら黙って座っていた隆が、納得いかないという顔を向ける。
「……ええ。俺が望んだことだから、心配しないでって……そう、はっきり言ったわ」

「あいつ、今朝まであんな男の息子じゃないって言ってたのにな」
歯に衣着せぬ、ありのままの言葉使って隆は言った。
その顔色から、隆も相当困惑しているのが見て取れる。

(春樹の意志で父親についていったということ?)

私自身、どうしていいのかわからないほど不安で、この事実を受け止めるのが怖かった。
今も手の震えが止まらないのがなによりの証拠だ。
だけど、私は困惑しつつも心のどこかで冷静に受け止めている。
それは予感めいたものがあったからだった。

その予感とは……

①夢を見る寸前に聞いた「…姉さんに、これ以上無理はさせない。……絶対だ」という言葉
②今朝聞いた「もう高村春樹だった頃のような子供じゃないんだからね」という言葉
③チハルが「きもちいい」言っていた力の事

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①夢を見る寸前に聞いた「…姉さんに、これ以上無理はさせない。……絶対だ」という言葉

あの時の決意を秘めた呟き。
春樹はきっと何か考えがあって、父親についていったのだろう。
それは分かっている。
春樹はお義母さんも、私も裏切るようなことは絶対にしない。

(信じているけど……)
春樹の身が心配だ。
春樹は大丈夫だといって出て行ったというけれど、今日周防さんたちに組織のやり方を聞いてしまっている。
冬馬先輩も非人道的な行為をしていると言っていた。
春樹が洗脳されてしまう可能性だって捨てきれない。

「おばさん、おばさんは春樹の父親の研究所のある場所を知ってるんですか?」
唐突に隆がお義母さんに尋ねる。

「ごめんなさい……、分からないの」
お義母さんは、悲しそうに首を振った。
もし分かっていたらお義母さんは私に電話などせず、春樹を取り戻すために直接高村の研究所に乗り込んでいたかもしれない。

「そうか……こうなったら、水野にファントムをつけるか……」
小声で隆がブツブツと言っているのが聞こえる。

「隆、それじゃあ時間がかかりすぎるよ……」
私はお義母さんに聞こえないように、隆に言う。
ファントムをつけても1週間は水野先生を操ることは出来ない。

「そうか、そうだよな……」
隆はいらだたしげに頭をがしがしとかきむしる。

どうするのが一番いいだろう?
①周防か冬馬先輩に連絡を取る
②一郎くんと修二くんに連絡する
③春樹を信じて待つ

564
①周防か冬馬先輩に連絡を取る

このままじゃ、春樹が危ないかもしれない。
私はポケットから、周防さんの連絡先が書かれた紙切れを取り出した。

「どうしたんだ、愛菜?」
私の様子が気になったのか、隆が尋ねてきた。
その声にお義母さんも顔を上げ.る。

「今から、研究所に詳しい人に連絡してみる。高村周防さんって知り合いなんだけど、研究所の場所を教えてもらうね」
「高村周防? 愛菜、いつの間に組織の奴と知り合いになってんだよ」
高村と聞いた瞬間に隆は眉をひそめ、怪訝な顔を向けた。
武君の手紙で組織の存在を知った隆にとって、研究所の縁の者を信じることなんて出来ないのだろう。

「以前、私を助けてくれたの。とてもいい人だから、大丈夫」
隆にそう言うと、私は携帯を取り出して、番号を震える指で押していく。

「愛……ちゃん。今、周防さんって…。高村周防って言ったのよね」
赤い目をしたお義母さんが私に視線を向けた。
「うん。それがどうかしたの?」
私は手を止めて、お義母さんの視線を受け止める。

「春樹の従兄弟に周防という名前の子がいたわ。けれど…本当にその人は周防と名乗ったの?」
「うん。今日も会っていたよ」
どこか含みを持ったお義母さんの言い方に引っかかりを感じながも、私は頷いた。
お義母さんは目頭をハンカチで拭くと、心苦しそうに口を開いた。

「愛ちゃんを助けてくれた人に対して悪く言いたくないのだけれど、亡くなった人の名を騙るなんて悪戯にしては悪質だわ。電話をかけるのは止めて頂戴……」
「え?」
お義母さんが言った事が理解できず、呆然とするあまり携帯を落としてしまった。
「春樹より八歳年上の従兄弟に周防という子がいたの。けれど、16歳で亡くなっているのよ」

(亡くなった人?周防さんが?)

春樹は何も言わないで居なくなって……、周防さんが亡くなっていた人で……。
なぜ春樹は出て行ったの? 私が会っていた周防さんは誰?
もう、何がなんだか訳が分からない。

「次に……愛ちゃんまで居なくなってしまったら……。お願い、そんな人に電話しないで」
またお義母さんは泣き出してしまった。
「わかったよ。もう電話しないから、泣かないで、ね?」
肩を抱き、そっと手を握った。
心が折れそうになる。こんな時、春樹ならどうやってお義母さんを慰めるのだろうと思った。

私は
①周防さんについて考える
②春樹について考える
③飲み物を用意する

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①周防さんについて考える

(周防さんが8年前16歳のときに亡くなってる?)
私が会った周防さんは、同姓同名の別人なのだろうか?
けれど、周防さんは24歳だといっていた。
お義母さんが言った周防さんと、私が会った周防さん。8年前はどちらも16歳だ。
そしてやはりどちらも高村研究所に深く関わる人物。
そんな人物が二人、同じ名前で存在するだろうか?

(亡くなって……?)
ふと、夢のことを思い出す。
綾さんの腕の中で傷だらけになっていた周防さん。
力なく落ちた手。

(あの、時……?)
あのときに、亡くなったというのだろうか?
けれどあの少年の顔は確かに周防さんの顔だった。
年齢による差異は多少あるにしろ、どう考えても同一人物。

『周防、とは……彼が16の時に知り合いました』

ふと、冬馬先輩の言葉が脳裏によみがえる。
周防さんが亡くなったという8年前に知り合ったという冬馬先輩。

(そういえば、あの時冬馬先輩の言葉に引っかかりを覚えたんだ)

『ただ、僕に出会った頃の周防はあなたの知る周防とほぼ変わりありません』

何に引っかかりを覚えたんだっけ?
①話の内容
②冬馬先輩の歯切れの悪い話し方
③考えても仕方ない冬馬先輩に直接聞く

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①話の内容

(ほぼ、変わりないって…)

あの時は、何か含みのある言い方だとくらいしか思わなかった。
バラバラだったパズルのピースが繋がる。

(八年前の周防さんと今の周防さんは、ほぼ一緒の別人だったという事?)

昨日、一郎君が『あれが、高村周防……?……だが、彼は確か……』と呟いた言葉。
信じられないという態度をとても不思議に感じていた。
周防さんが亡くなっている事を知っていたとすれば、あの時の一郎君の態度に説明がつく。

研究所とは、集めた能力者やそのクローンを、洗脳し、自在に操る場所だと聞く。
冬馬先輩や美波さんも言っていたし、武君の手紙にも書いてあった。

という事は、隆と武君のように、一人の人物を二人にしてしまうことだって出来るということだ。

(……今の周防さんはクローンなのかな…)
想像したくない考えが頭をよぎる。

(だから冬馬先輩は……ほぼという言い方をしたの?)

でも…。
仮に今の周防さんがクローンだとしても、八年前、更にそれ以前の記憶を持っているのは間違いない。
研究所にどれくらいの技術力があるのか知らないし、専門的な知識は皆無だから大きな事は言えないけれど、
亡くなった周防さんの記憶までも移植したり再現したり出来るものなのだろうか。

やっぱり、分からない。
クローンは一つの可能性に過ぎないし、なにより私の考えすぎかもしれない。

①冬馬先輩に直接聞く
②思ったことを隆に話す
③お義母さんに休むように言う

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②思ったことを隆に話す

隆は武くんのこともあるし、もしかしたら何かわかるかもしれない。これは私の考えすぎかもしれないけれど、こうして悩んでいても事態は何も変わらないのだから。
「ねえ、隆……」
「おばさん、今日はもう休んだほうがいいでしょう」
声をかけた私を制するように、隆はこちらに視線を投げてよこした。確かに私が肩を抱く今のお義母さんは、青白い顔でこうして支えていなければ今にも倒れてしまいそうだ。
(そうか、どっちにしたってお義母さんの前でこんな話はできないよね……)

「ありがとう、隆くん。でも私は大丈夫よ」
「大丈夫って顔してないよ、お義母さん。春樹が心配なのはわかるけど、お義母さんまで倒れちゃったら私お父さんに何て言ったらいいか」
「そうですよ。今のおばさんを見れば、きっと愛菜じゃなくても休めって言います」
「でも、とても今は休めるような気分じゃ……」
辺りの重い空気を振り払うように首を振って、なおも言い募るお義母さんに隆は静かに、でも力強くこう言った。
「春樹なら大丈夫です。『大丈夫』って、春樹がそう言ったんでしょう?あいつはおばさんや愛菜に心配かけるような真似は絶対にしませんよ。出て行ったってまたすぐに帰ってくるかもしれない」
「隆の言う通りだよ。もしかしたらこの後春樹から連絡があるかもしれないし、お義母さんは上で少し休んでて。何か連絡あったらちゃんと起こすから、ね?」
「二人共……」

そうしてしばらく押し問答が続いていたが、最終的に12時までこのまま連絡を待って、もし何も連絡がなければ警察に相談するという事で話はついた。
私たちが押し切る形にはなったが、お義母さんはそれまで自分の部屋で横になっていると約束してくれた。
一人で大丈夫とよろめくようにリビングを出たお義母さんの背中を見送って、振り返りながら隆が言う。
「で?愛菜、さっきは何を言おうとしたんだ?」
「ああ、えーと……ね」
「うん」
「さっきの周防さんて人のことなんだけど」
「死んだはずの、って話か?」
問いかけには頷きつつも、隆の「死んだはず」という言葉に嫌な気持ちが胸に広がる。
(隆は周防さんに会った事がないから仕方ないんだろうけど……)
「私が会ったのが、その周防さんのクローンって事はあるのかな」
隆はうーんと唸って腕を組んだ。
「どうかな、無いとは言い切れないと思うが……ただ」
「ただ、何?」
「おばさんの話は確かなのか?なんたってあのインチキくさい研究所のお偉いに連なる人間だろ?都合が悪けりゃ死んだ事にして外部の目を欺くような事もあり得るんじゃねえの?」
(そうか、もしかしたら重傷を負った周防さんを死んだ事にして……?)
そういえば、美波さんも周防さんに『瀕死の重傷を負わせた』と言っていた。
「……愛菜?」
黙り込んでしまった私に、隆が声をかける。

どうしよう?
①お義母さんは上で休んでいるので周防さんに直接尋ねる
②冬馬先輩に心当たりがないか尋ねる
③ひとまずチハルに春樹が出て行った時の状況を聞く

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①お義母さんは上で休んでいるので周防さんに直接尋ねる

(ゴメン。お義母さん)

私は再び、周防さんの携帯番号が書かれた紙切れを手に取る。
「愛菜。やっぱり周防ってヤツに連絡をとるのか?」
「うん。周防さんのことだし、本人に聞くのが一番いいと思うから」
そう言いながら、私は書かれた番号を押していく。
隆は複雑な表情をしていたけれど、黙って私の様子を見守っていた。

プルルル、プルルル…

無機質なコール音が今はやけに長く感じられた。
そして、何コール目かでようやく「もしもし、愛菜ちゃん?」と、周防さんの声。

「はい、愛菜です。夜遅くにすみません。今、大丈夫ですか?」
「ああ、構わないよ」
「実は、周防さんの過去についてお聞きしたい事があるんです」
「ん?」
「八年前の事についてなんですが…。あの時、一体何があったんですか?」
「そうか。八年前の事で電話があるんじゃないかなーとは思っていたんだ」
取り立てて驚く様子もなく、周防さんはいつも通り明るい声のままだった。

「愛菜。そんなまどろっこしい聞き方じゃ、いつまで経っても本題に入れないだろ」
私の聞き方が気に入らないのか、隆が横槍を入れてくる。
「隆は少し黙ってて」
「どうした?お前さん以外に誰か居るのか?」
受話器の口を手で押さえたつもりだったけれど、周防さんに私たちの会話が漏れてしまったようだ。

「あのーごめんなさい。私の幼馴染の隆って男の子も一緒なんです。隆も能力者で……」
私が隆を紹介しかけたところで、周防さんの声が被さるように聞こえてきた。
「武のオリジナルだな。よく知ってるから説明は要らないさ」
「え? 武君を知っているんですか?」
周防さんの口から武君の名が飛び出したのが意外で、思わず声がひっくり返ってしまった。
「おいおい、愛菜ちゃん…まさか武の事まで知ってるんじゃないだろうな」
「はい。話したこともあります…」

「おい、愛菜。何を話してるんだ?」
隆は私達の会話が気になるのか、話に割り込もうとしてくる。

「そうだな……。自分語りもむず痒いし、ここは美波に任せるかな。
隆君にも聞いてもらわなきゃならないし、尋ねたいこともある。美波を愛菜ちゃんの所に向わせよう。いいよな、美波?」
周防さんの声が遠くなる。どうやら、一緒に居る美波さんに確認を取っているようだ。
「いいってさ。愛菜ちゃんは今どこ?」
「自宅です。でも周防さん、私の家を知りませんよね」
「家くらい知ってるよ。ここからだと……20分ってところかな。だけど、もう夜か。愛菜ちゃんがよければ今から向わせるけど、どうする?」

①すぐに美波さんに来てもらう
②今度にしてもらう
③やっぱりやめる

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①すぐに美波さんに来てもらう

「急ですみませんが、お願いします」
「オッケーわかったすぐに美波を向かわせるよ、ってことだ」
最後の言葉は美波さんに言ったらしい。

「ありがとうございます」
「いやいや、愛菜ちゃんのお願いなら、出来る限りのことはするよ。命の恩人だしね。で、聞きたいのはそれだけ?」
「あ……あの、組織の場所を聞いても大丈夫ですか?」
「組織の?聞いてどうするの?」
「それが……、春樹が、私の弟が連れて行かれちゃったんです」
「愛菜ちゃんの弟……って確か……」
周防さんは考え込むように、電話の向こうで沈黙した。

「そっちは俺が調べるよ。愛菜ちゃんは危険だから組織には近づかないほうがいい。だから、俺が連絡するまで無茶なことはしちゃだめだよ」
「はい……お願いします」
「よし、それじゃ早速調べに行ってくるかな。俺のことは美波に遠慮なく聞いてくれていいから」
「ありがとうございます。あの、春樹のことお願いします」
「任せといて。じゃ、何か分かったら連絡するよ」
周防さんはそう言って電話を切った。

「どうなったんだ?」
「周防さんのことは、周防さんのお友達の美波さんって人が教えてくれるって。今、家に来てくれるの。20分くらいって言ってたかな。
 春樹のことは、周防さんが調べてくれるよ。……私が組織に近づくのは危険だからって」
私の横で、電話が終わるのを待っていた隆に私は答える。

「そうか、なんにしろ少し時間があるんだな」
隆が時計を見上げる。つられて私も時計を見上げる。
美波さんがくるまであと15分くらいだ。

どうしよう?
①とりあえずご飯
②チハルにも話を聞く
③春樹の携帯に電話してみる

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③春樹の携帯に電話してみる

「やっぱり私、春樹の携帯に電話してみるよ」
私は持ったままの携帯を、ギュッと強く握りなおす。
「でも、もうおばさんが電話してると思うけどな」
「多分、ね。……だけど、もしかしたら今度は出てくれるかもしれないから」
「まあな」
周防さんのことを信じていない訳ではないけれど、春樹の無事をどうしても知りたい。
私は携帯を開くと、春樹に電話をかけた。

「もしもし!春樹」
「……お留守番サービスに接続します。合図の音が鳴りましたら……」
無機質なアナウンスが耳元で流れる。
(春樹、電源切ってるのかな)

私は、「心配しているからすぐに連絡して欲しい」という内容のメッセージを入れて、溜息と共に電話を切った。

「……だめだったのか?」
「うん。電源を切ってると思う」
「そうか」
「春樹、大丈夫かな…」
「12時まで連絡がなったら警察に届けることも言ったんだし、心配していることも伝えたんだ。
愛菜やおばさんのメッセージを聞けば、俺の知っている春樹なら絶対に連絡を寄越すはず。そうだろ?」
「うん、そうだね。……そうだよね」
隆の言葉に少し元気づけられる。
(隆がいてくれてよかったよ)

そう思いながら隆を見ると、側に置いてあったスポーツバッグのジッパーが開いているのに気付いた。
ぬいぐるみのチハルがもぞもぞと顔を出し、バッグから自力で抜け出した。
テーブルにコロンと転げ落ちたところで、私は声をかける。

「もう人間になっても大丈夫だよ」
私の声を聞くと、ポンと軽い音を立てて泣きべそをかいた子供のチハルが現れた。
「うわぁ。な、なんだよ!急に変身するなっての!」
急に現れたチハルに驚き、隆はソファからずり落ちてしまった。

「愛菜……ぢゃ…ぁぁん……」
すがりつくチハルを抱きしめ、そっと頭を撫でた。
「チハル。もう大丈夫だよ」
「怖…かった…よぉ…。すごく怖いひとが……春樹を……春樹を…」
「ごめんね、傍にいてあげられなくて」

春樹が出て行く時に何が起きたのか分からないけれど、この怯え方は普通じゃない。
しゃくりをあげ泣きじゃくっている。
今朝の桐原さんの時みたいに、人の感情を敏感に感じ取ったのだろうか。

どうしよう?
①チハルが泣き止むまで待つ
②すぐにチハルから話を聞く
③美波さんが来るので、またぬいぐるみに戻ってもらう

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