551
①周防さんはここに居て良いのか聞く

「周防さんはここに居ていいんですか?」
私は美波さんが消えていった方を見ながら尋ねた。

「俺も退散するよ。穴に入り込んだネズミ退治に来ただけだしな」
周防さんはそう言って、私と修二君を交互に見ながら笑った。

「ネズミって、俺と愛菜ちゃんのこと?」
修二君は不服そうに口を尖らせながら、抗議する。
「あの連中と勘違いしたんだよ。じゃあな、お二人さん」
そう言って周防さんは片手を挙げながら、美波さんが去っていった方向に歩き出した。
けれど、二歩ほど進むとピタリと歩みを止めてしまった。

「あーっと、忘れるところだった。この前はいきなりの襲撃で渡せなかったからな」
周防さんはポケットから紙を取り出すと、私に渡してきた。
「俺の携帯番号が書いてある。困ったときは連絡くれればいいから。あと、修二も愛菜ちゃんから聞いといてくれ」
「はい」
「りょーかい」
私と修二君は、ほぼ同時に答えた。

「それともう一つ。修二、ちょっといいか?」
周防さんはちょいちょいと手まねきをして、修二君を呼び寄せる。
そして、耳元で何かを伝えていた。

(私には内緒の話なのかな…)
置いてきぼりにあったみたいで、なんとなく面白くない気分のまま二人の様子を見つめた。

周防さんの耳打ちを聞いて、修二君の顔が段々真剣なものに変わっていく。
そして、周防さんの話を聞き終わると、修二君は声には出さずに「わかった」と口を動かした。

「て、ことなんだ」
「…マジかよ」

「あのー、私には内緒なんですか?」
一応、確認のつもりで周防さんに尋ねる。
「それは、修二の判断に任せたからな。知りたいなら、修二から直接聞いてくれ。それじゃ、またな」
周防さんは闇に溶けるように、消えてしまった。

どうしようかな。

①修二君に内緒話の内容を尋ねる
②修二君が言うまで、内緒話の内容を尋ねない
③どれくらいで一郎くんが来るのか聞く

552
①修二君に内緒話の内容を尋ねる

「修二くん、周防さんなんて言ってたの?」
「あぁ、うん、後で説明するよ。兄貴も一緒のほうが一回で済むし」
修二くんはそう言って、一度周防さんたちが消えた方向を見据えると、いつもの顔に戻りにっこり笑った。

「それじゃ俺たちも戻ろうか」
「うん」
私は歩き出した修二くんについて、一歩踏み出す。

(……っと、っと、と?)
その途端めまいがして思わず壁に手をつく。

「愛菜ちゃん!」
気付いた修二くんが、すぐに私を支えてくれる。

「だから言ったでしょ?無理してるって」
「……ごめん」
本当に修二くんの言ったとおりだった。
歩き出すまでぜんぜん自覚がなかった自分に落ち込む。

「ほら、掴まって。早くここから出よう、兄貴ももうすぐ合流するから」
「うん、ありがとう」
修二くんに支えられて歩き出してすぐに、闇の中に小さな明かりがゆれているのが見えた。

「大堂、大丈夫か?」
やって来た一郎くんは真っ先に私に尋ねてくる。
やっぱり一郎くんにも、私の状態が『見える』のだろう。

「何とかね、ちょっとふらつくけど……」
「修二、お前が付いていながらなんて無茶させるんだ」
「ごめん、配慮が足りなかったよ」
「……修二くんが悪いわけじゃないよ。私が大丈夫だって意地張っちゃったから」
一郎くんの言葉に、言い訳することもなく修二くんが謝る。
とっさに私が口を挟むと、一郎くんがなんともいえない顔で口を閉ざした。

「……とりあえず、ここから出よう。大堂はここに長く居ないほうがいい」
一郎くんは一つため息をついてすぐにいつもの表情に戻ると修二くんの反対側から私を支えた。

「行くぞ修二」
「愛菜ちゃん、ちゃんと掴まっててね」
「えっ!?」
二人が同時にかがんで私の身体を持ち上げる。
二人が組んだ両腕に座っているような状態だ。
急に視界が高くなり、慌てて両隣にある一郎くんと修二くんの肩に手を添えて身体を支える。
それを確認して、二人は走っているといっていい速度で進み始めた。
何の合図もないのに、二人の呼吸はぴったりだ。

(やっぱり双子なんだな……)
恥ずかしいのも忘れて、思わず感心してしまう。
速度が速度だっただけに、降りてきた階段まで到達するのにあまり時間はかからなかった。
降ろしてもらって体育館倉庫を出ると、すっかり日が落ちてしまっている。
下校時間も過ぎてしまっているようだ。
春樹たちも心配しているかもしれない。

どうしよう……
①今日はもう家に帰る。
②周防さんの話が気になるので聞く。
③とりあえず、春樹に電話する。

553
①今日はもう家に帰る。

私が家に帰る事を告げようとする前に、二人は同時に口を開いた。

「日がすっかり落ちているな、送っていこう。大堂」
「話はまた今度でいっか……送ってくよ、愛菜ちゃん」

一郎君と修二君の視線が私の頭上でぶつかっている。
口火を切ったのは、一郎君の方だった。

「修二。さっき文化祭実行委員の藻部がお前を探していたぞ」
「げっ。それ、マジ?」
「嘘をついても仕方ないだろう」
「やばっ。アイツ、絶対に怒ってるよー。もう帰っちゃったかなぁ」
悪戯が見つかった子供のように、修二君は頭を抱えている。

「愛菜ちゃん、ゴメン。俺、やっぱり一度教室に戻るよ」
「あっ、うん。そうだね」
「ホント、ゴメンね」
私に手を合わせると、修二君はすごい速さで校舎に戻っていった。
その姿が見えなくなると、私は一郎君に向き直る。

「修二君、またクラスの仕事をサボってたのかなぁ。私には今日は暇だって言っていたのに」
「だろうな。藻部は修二が逃げ出したと言っていた」
「やっぱり」

(仕方ないなぁ……)

ぼんやりそんな事を考えていると、一郎君が私の鞄を黙って手渡してくれる。
鞄までしっかり用意してある辺り、さすがとしか言いようがない。
「あ、ありがとう」
「では帰ろうか」

一郎君と私は校門に向かう。
体調の悪い私を気遣うように、一朗君がゆっくり歩いてくれている。

「大堂。大丈夫か?」
「あ、うん。へいき……」
そう言いかけたところで、さっきの修二君とのやり取りが頭をよぎった。
(私がやせ我慢しても、一郎君にはお見通しなんだよね)

私は…
①「ちょっと歩けそうにないかも」
②「ごめん。タクシー呼んでもらっていい?」
③「平気だよ、ありがとう」

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①「ちょっと歩けそうにないかも」

修二くんが言うように、自分には分かっているのに無理をされるというのは気持ちのいいことではないだろう。
そう思って、素直に口にする。
正直、自分でもこんなに影響されているなんて思っていなかった。
うまく足に力が入らない。
しっかり気をつけていないと、そのまま座り込んでしまいそうだった。

「大丈夫か?」
一郎くんはすぐに私を支えると、顔を覗き込んでくる。

「だいぶ疲れているようだな」
「あの通路に居るときは特に感じなかったんだけど、戻ろうとしたら急に、ね」
「そうか。だが今回は大堂自身の気が乱れているわけではない。
 外から影響を受けて、うまく気が巡らなくなっているだけだ。
 気のめぐりが悪くなって疲労しているが、少し休めば回復するだろう」
そう言って、一郎くんは私の額に手を当てた。

「少し影響を取り除いておこう」
そう言って当てられた一郎くんの手がとても暖かく感じる。

「何をしてるの?」
「大堂に影響を与えている思念を散らしている。
 俺の力はこういうことに向いてはいないから完全に取り除くことは出来ないが、時間がたてば自然に消えるものだから心配しなくていい」
一郎くんはしばらく私の額に手を置いていたが、しばらくしてその手をおろす。

「さっきよりは良くなったんじゃないか?」
「うん、ありがとう」
確かにさっきまでまとわり付いていた疲労感が和らいでいる。
一郎くんにお礼をいって笑うと、一郎くんも少しだけ微笑んだ。

「いや、たいしたことはしていない。さぁ、行こうか」
一郎くんは私を支えたまま促す。
私は一郎くんに支えられたまま歩き出す。

(ずっと無言って言うのも、気まずい、かな?)

私は……
①無言のまま帰る
②どうして修二くんの居る場所が分かるのか聞く
③組織と決別してこれからどうするのか聞く

555
②どうして修二くんの居る場所が分かるのか聞く

「一郎君。よく私たちの居場所がわかったね」
背中に添えられた一郎君の手に少しだけ意識を向けながら、私は尋ねた

「……修二の意識を追っていけばわかる。ただし、集中して追わなければ場所の特定まではできないが…」
「修二君の意識?」
「俺達は双子だから、特にアクセスしやすいのだろうな」
「うーん。じゃあ、修二君の意識にアクセスするって、どんな感じなの?」
「そうだな……」

一郎君はしばらく考え込みながら歩く。
その横顔を見ながら、私はじっと待った。

「ラジオのチューニングをあわせる感覚に近いだろう。修二の周波数を合わせ、意識を受信するんだ。
あと、空間の認識と言う上では、カーナビなどのGPSシステムにも似ているのかもしれない」

(あれ……この話、どこかで聞いたことがある)

どこだっけ?と真剣に考え始めたとき、突然、目がくらむほどの光を受ける。
「危ない!」という一郎君の声で我に返った。

プップープップー

グイと力強い腕に導かれ、すぐ鼻先を車が横切っていく。
けたたましいクラクションの音と共に、車は勢いを保ったまま、強引に右折してしまった。

「なんて乱暴な運転だ! 大堂も何をぼんやりとしている」
「ご、ごめん…」
「あ……いや、俺の方こそすまない。君は体調が優れなかったのだな」
身を竦めている私を気遣ったのか、口調が穏やかなものに変わる。
「もしかして…今のは組織の仕業……」
急に怖くなって、私は呟く。
「それは絶対に無い。主流派は君を傷つけてはならないと命令しているはずだ」
そう言うと、一郎君の腕に力が篭った。

私たちは住宅街の十字路、電柱の影に隠れるように体を寄せ合っている。
しっかりと抱きすくめられているせいなのか、少し息苦しい。顔を上げると、一郎君の瞳とぶつかった。
淡い街灯の明かりのせいなのか、その瞳に暗い影が落ちて、ひどく悲しげに映った。

私は…
①「あ、ありがとう」
②咄嗟に離れる。
③一郎君の瞳を黙って見つめ続けた。

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①「あ、ありがとう」

なぜかその目に耐えられなくなって私は一郎くんから視線を外し、お礼をいってやんわりと離れようとする。
けれど一郎くんの手は緩む様子がない。

「一郎くん?」
私はおそるおそるもう一度一郎くんの顔を見る。
一郎くんはやっぱりさっきと同じ目で私を見ていた。
私の声が聞こえていないかのように、ただ見つめてくる。
まるで私の中の別の何かを見ているような、そんな気さえする。

「ねぇ一郎くん、どうしたの?」
「……すまない、なんでもない」
もう一度声をかけると、一郎くんは目を伏せて私を放す。
それから何事もなかったかのように、私を支えなおすと今度は前を向いたまま話し出す。

「大堂、君は自分の力を使いこなせるようになったほうがいいと思う。
 少なくとも、自分の身を守る方法は覚えたほうがいいだろう。
 契約である程度の危険からは守られているとはいえ、今回のようなことがまったくないとは言い切れないからな」
一郎くんに促されるまま歩きながら、私は頷く。

「そうよね……、こんなふうに何度も疲れてちゃ日常生活もままならないもんね」
私はため息をつく。
いままで、ただそこに居るだけで疲れてしまう、というようなことはなかった。
力があることを自覚したからなのだろうか?それとも他の要因があるのだろうか。

(一郎くんなら、何か分かるかな……?)
「どうした?」
私のもの問いたげな顔に気付いたのか、一郎くんが私を見る。

「あ、えっと……いままで、どこに行ってもこんなに疲れることはなかったのにな、とおもって」
「……?」
一郎くんは少し首を傾げる。

「今回はあの通路の残留思念の毒気にやられてるって、修二くんが言ってたけど、そういうのって人の思いの強く残っている場所には必ずあるものなんでしょ?」
「まぁ、そうだな」
「それなのに、いままで影響を受けたことがなかったから……こんなに疲れるのだって今回が初めてだし……」
いったん言葉を切って、一郎くんの目を見る。

①「一郎くんは理由が分かる?」
②「私の中で何かが変わってるのかな?」
③「『封印』が解けかけてるとか?」

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②「私の中で何かが変わってるのかな?」

私の問いに、少し間を空けてから一郎君が口を開いた。
「大堂自身が、力を自覚したからだろうな」
「それだけ? 他に要因は無いの?」
「契約による作用も関係しているが、一番の理由は自覚することによって、力が少しずつ形を成してきている為だ」
「それは……私が力を使いこなせてきていると言う事?」
私は期待を込めて、一郎君に尋ねた。
「いや。力を使いこなすと言うよりは、ようやく目覚め始めたところだろう」

(なんだ…生まれたてみたいなものなのね)

がっくりと肩を落としてしまった私に向かって、一郎君はゆっくり語りかけてきた。

「一朝一夕でどうにかなるものでもない。しかし、身を守る力は必要だ。
力を使いこなすにはまず集中力が必要になる。そこでだ……」

手のひらサイズの箱を手渡された。

「すぐにどうにかなるものではないが、努力は必要だ。
それはESPカードと言って、丸、四角、プラス、波、星の形が描かれている。
きり混ぜたカードを伏せ、コールしながら一枚ずつ図柄を当てていくのが、一人で訓練できる最も簡単な方法だろう」

カードケースを開けると、トランプのようだったが表は数字ではなく、図柄のみが印刷されていた。

「これ、テレビで見たことがあるよ。神経衰弱みたいにして当てていけばいいんだよね」
つい嬉しくなって私はカードを取り出す。
なんだか、自分が急にテレビに出ているような超能力者になった気分だ。

「それを大堂に渡しておく。カードをすべて当てることができるまで集中力を養うといい。
君は不器用だから、少し時間がかかるかもしれないが」

(不器用は否定できないにしても…。今、すべてのカードを当てるって聞こえた気がするんだけど)

「あー。私の聞き違いかな? 今、すべてのカードを当てるって聞こえたんだけど」
「聞き違いではない。伏せた25枚をすべて当てるんだ」

(そんなの、無理に決まってるよ!)

私は…
①一郎君に試しにやってもらう
②自分でやってみる
③カードを返す

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①一郎君に試しにやってもらう

「どうした、大堂。突っ立ったままでは家に帰れないぞ」
歩き出した一郎君が、立ったままの私に振り向いて言った。

「ね、ねえ。……このカードって本当に25枚全部当てられるようにならないと駄目なの?」
数歩先にいる一郎君に追いつくために、小走りに近づく。
「それくらい初歩中の初歩だ」
「五枚のカードを当てるとかじゃなくて?」
「くどい。俺は25枚すべてを当てるように訓練するように言ったはずだ」
「……じゃあ、一郎君は出来るの?」

初歩だというけれど25枚全部当てるなんて、奇跡に近い確立だ。
そんな無茶を真顔で言う一郎君の正気を疑ってしまう。

「当たり前だろう。くだらない質問だな」
「本当に?」
疑いの眼差しを向ける私を見て、一郎君は小さく溜息を吐いた。
「確かに、確立で言えば、1/ 24,800,000,000 だ。しかし、君も俺と同じ能力者だろう。君は自分の力が信じられないのか?」

(信じるって言っても、未だに半信半疑だし。……って、そうだ)
私は道の反対側にある、一郎君と以前過ごした児童公園を指差す。
「一郎君が本当に25枚全部を当てられるのか、あの公園で見せて欲しいな。そうしたら、自分の力を信じられるかもしれない」
「仕方がない。それで大堂がやる気になるのであれば、安いものだ」

静まり返った公園のベンチに、私たちは腰掛けた。
手のひらサイズの箱から、カードを取り出して、私は慎重にきり始めた。
そして、伏せたままのカードを一郎君の目の前に置く。

「上から順にカードの図柄を当てていく方法でいいな?」
一郎君の言葉に、私は黙って頷いた。

(――す、すごい…。手品じゃないよね)
結局、一郎君は当たり前のように25枚すべてを当ててしまった。

「驚いたよ、本当だったんだね。そんな力があったらカンニングし放題だよ!」
目の当たりにした奇跡に興奮してしまい、つい声が大きくなってしまう。
「大堂はカンニングの為に力を手にしたいのか?」
私の言葉を聞いて、カードを片付けながら一郎君が眉をひそめた。
「そ、そういう訳じゃないよ……」
「勉学もスポーツも力の向上も、すべて自分自身を高める手段に過ぎないだろう」
一郎君の正論にぐうの音も出ない。
「それに、大堂は今まで散々力を見ているのだし、今更驚くこともないと思うが」

そう言われれば、ここ最近、力や組織やらで驚くことばかりだった。
けれど、現実味に欠けるようなすごい事ばかりで、夢の中の出来事のような気さえしていた。
今のは現実味があるだけに、心の底から一郎君をすごいと思ったのだ。

私は…
①自分でもやってみる
②訓練をやる気になったと言う
③やっぱり無理だとカードを返す

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①自分でもやってみる
「私も、ちょっとやってみようかな」
私の言葉に一郎君はカードを片付けていたその手を止める。
「うん?君が、今ここでか?」
「そう。一郎君を見てて、できそうって思った訳じゃないけど。一郎君に見ててもらった方がなんとなく上手くいきそうな気がするし」
一郎君は束ねたカードを手渡しながら不思議そうに言った。
「そんなものか?」
「そんなものです。それに一郎君の言う通り、私不器用だからね」
そう言って口を尖らせた私を見て、一郎君は困ったように小さく笑った。
「気にしていたのなら、悪かった。……だが、そうだな。君がそう言うのならそうなんだろう。俺でよければいくらでも力になろう」
「……」
私は一瞬言葉を忘れて一郎君に見入ってしまった。それくらい、今の一郎君の声は優しかった。
(なんだか、まるで……)
「? どうした、大堂?」
急に黙り込んだ私を前に、一郎君が気遣わしげに問いかけた。我に帰った私は取り繕うように慌てて首を振る。
「あ、ううん!なんでもないの。じゃあ、ちょっと私もやってみるね」
意識して笑顔を作ると、なんでもなかったかのように手元のカードに向かう。一郎君は何か言いたそうだったが、集中し始めた私の様子に黙ってそのまま腕を組んだ。

(よーし、集中集中……)
「一番上は……波、かな」
ゆっくりとカードをめくる。一郎君の視線に緊張しているのか、上手くめくれずに少々戸惑った。表に返されたカードの図柄をそろそろと確認する。
「……星だな」
「あれ?じゃあ、次は……丸とか」
「四角だ」
私の声に一郎君はカードをめくるよりも早く図柄を言い当てた。なんとなく焦りを感じて意識を集中するのもそこそこに次のカードに挑む。
「えーと次のは……」
「プラスじゃない」
私の心を読んだかのように、一郎君は言おうとしていた図柄を口にした。言いかけたまま一郎君の顔に目を向ける。
「一郎君……読心術も、できるの?」
「まさか。君の場合は特別だ。すぐに、顔に出る」
(私、そんなにわかりやすい?)
暗に単純だと言われたようで釈然としないまま改めて続きに挑戦したが、その後の結果はそろいも揃って目も当てられない無残なものだった。

「……ある意味、すごいな」
「うう、頑張ったのに……」
一郎君の言葉にがっくりと肩を落とす。自分でもまさかここまでとは思わなかった。
「25枚全てをはずすのもそうそうできるものではないように思う」
「すみません……」
うなだれる私にやれやれといったように一郎君が苦笑した。
「これは随分時間も手間もかかりそうだ。……またいずれ機会を見てやってみよう」
「……?また、って……またつきあってくれるの?」
「俺がいた方が上手くいくと、そう言ったのは君だろう?」
何でもないようにそう言ってふいと目をそらした一郎君を見て、自然に笑顔がこぼれた。
「一郎君、ありがとう」
「礼を言われるほどの事でもない」

チャーラーラーチャラーラーラー

不意に携帯が鳴った。慌てて制服のポケットに手を突っ込むと、お義母さんからの電話だった。
「ちょっとごめんね、一郎君。お義母さんから電話みたい。……もしもし?」
「愛ちゃん、どうしましょう!春樹が、春樹が……」
「お義母さん?どうしたの、落ち着いて」
電話の向こうのお義母さんの声は今迄聞いた事がないくらい逼迫していた。お義母さんの動揺が電話越しに私にも伝染してしまいそうな、そんなただならない様子でお義母さんは続ける。
「あの人が、春樹を連れていってしまったの。迎えに来たって、でも今になってどうして急に!春樹も大丈夫だから心配しないでって、でも……」
話すうちにお義母さんは泣き出してしまったようだ。時折しゃくりあげて言っている事は要領を得ない。一郎君は少し距離をとりつつ、心配そうにこちらに視線を投げかけている。

どうしよう?
①お義母さんに再度落ち着いて何があったのかを話してもらう
②このままでは埒があかないのですぐに家に帰る
③一郎君に事情を説明して協力してもらう

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②このままでは埒があかないのですぐに家に帰る

(……一体、何があったの?)

「うん、わかったよ。すぐに帰るから、とりあえず落ち着いて。ね?」
泣きじゃくるお義母さんをなんとかなだめ、私は携帯を切った。
「どうしたんだ?」
ただならない様子を察したのか、一郎君が心配そうに尋ねてくる。

「あっ、うん……」
(『春樹を連れていってしまった』と言っていたけれど……)
一郎君に事態の説明をしようと思ったけれど、何もわからない以上、まだ言うべきではないと思いとどまる。

「お義母さんがね、少し取り乱していたの。心配だから急いで帰らなくちゃ」
一郎君には、お義母さんの様子だけ伝える。
「そうか」
「あと、ここからは一人で平気だから」
「わかった。気をつけて帰るといい」
早く家に帰りたい私を気遣うように、一郎君はベンチから立ち上がると私の鞄を差し出してくれた。
「それといい忘れてたんだけど、今日はいろいろあって機材の点検がまだなんだ。ごめん、今度するね」
「構わない。それより、早く帰って母親を落ち着かせてあげるべきだろう」
根掘り葉掘り訊かず、ただ見送ってくれる一郎君の察しのよさに感謝した。
「一郎君、送ってくれてありがとう。また、明日」

それだけ伝えると、私はきびすを返して公園を飛び出した。
体がまだ完全に良くなったわけではなかったけれど、走って家路を急いだ。

(あの子…チハル?)
「チハル!」
膝を抱き、玄関前に座り込むチハルに向かって叫んだ。

その声を耳にしたとたん、チハルは泣いている顔を更に崩しながら顔を上げる。
そして、突進するように私に駆け寄ると、腰に抱きつきながら顔を埋めてきた。

「春樹がぁ……いなぐ…なっちゃった……」
洟をすすり、目に涙を一杯溜めていている。

「おいおい、こんなところで喧嘩か? 近所迷惑だし、中でしろよ」
着替えの入ったスポーツバッグを抱え、隆がこちらに向かって歩いてきた。
この様子だと、まだ春樹が居なくなったことを知らないみたいだ。

どうしよう?

①隆にも一緒に家に入ってもらう
②状況を説明して帰ってもらう
③チハルに話しかける

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