541
②「逃がした人は、どうなったんですか?」

私の問いに、明るい周防さんの表情が一瞬だけ曇った。
「あー、うん。逃げ延びて、普通に暮らしている人もいるぞ」
「よかった」
逃げ延びて、元気に暮らしている人がいると思うとうれしくなる。
だけど、もし逃げられなかったらどうなるのだろうと、ふと不安になった。
「もしも、逃げ切れなかったらどうなるんですか?」
「それは……だな」
周防さんは口ごもって、頭を掻いた。
その仕草に不安が膨らんでいく。
「……逃げられずに処分された人もいるってことだ」

「そんな……」
血の気が引き視界が歪んで、膝の力が抜けていく。
「だ、大丈夫、愛菜ちゃん!」
眩暈で倒れそうになる私を、すかさず修二君が私を支えてくれた。
「ありがとう。大丈夫だよ」
私は修二君に心配をかけまいと笑顔で応え、なんとか立ち上がった。

そんな私たちの姿を硬い表情で見ていた周防さんだったが、美波さんに肩をポンと叩かれ、弾かれるように顔をあげた。
「……彼らの様子を見ていて、過去の自分自身と重なりましたか?」
「どうかな」
周防さんはとぼけるように両手を挙げる。
「素直じゃないですね」
「……あんまり昔のこと過ぎて、ここでの出来事なんてすっかり忘れちまったさ」
いつもと変わらない、明るい口調で周防さんは言った。
けれど、美波さんは試すような視線を向けながら話を続ける。
「周防の少年時代ですか。その頃の周防はさぞひねくれた少年だったのでしょうね」
「どうしてそう思うんだよ」
「子供の頃から素直だったら、こんな嘘つきな大人にはなりませんからね」
そう言って、美波さんは周防さんに添えた手をゆっくりはずした。

次は何を聞こうかな。

①「今、この先はどこにつながってるんですか?」
②「じゃあ、私たち侵入者だと思われたんですね」
③「周防さんのここでの出来事って何ですか?」

542
①「今、この先はどこにつながってるんですか?」

私が周防さんたちがやってきた方向を指差すと、周防さんはいたずらっぽく笑っていった。

「どこだと思う?」
「学校からずっと南西の方向に歩いてきたはずだけど……」
周防さんの言葉に、修二くんが首を傾げながら考える。
修二くんに言われて、私も頭の中で地図を広げた。

(学校から南西って言うと、オフィス街よね。あ、でも手前は商店街か)
廻りが暗くて、用心しながらゆっくり進んできたとはいえ結構な距離を歩いてきているはずだ。
修二くんも私と同じことを考えていたらしく、ぶつぶつと呟く声にオフィス街の主な建物の名前が混じっている。
そんな私たちを、周防さんは楽しそうに見ている。
美波さんも考える私たちに助言をしてくれる様子もなく、微笑んだまま成り行きを見守っている。

(でも、完全にまっすぐって分けでもないわよね?)
わずかではあるがこの通路が右にいったり左に行ったりと蛇行していたことを思い出し、ますます混乱する。
もともと組織が使っていた施設というのなら、この先につながっている場所は、出来てからそんなに時間が経っていないのではないだろうか。
最近出来た、もしくは改装された場所?
それを思い出し思い浮かべる。

「さて、そろそろ分かったかな?」
周防さんが答えを促す。

えーっと…
①「病院?」
②「百貨店?」
③「ヒントください!」

543
①「病院?」

(たしか……以前、改装していたし)

「そ、正解。よくわかったな」
周防さんが感心したように言った。

「研究所って、建物の構造が病院に近いだろうなって思ったんです。
病院が以前改装していたのを思い出してピンときました。
あと、病院の一部が研究施設なら、周りの住民の目も欺きやすそうですよね」

私の言葉を聞いて、美波さんはゆっくり頷いた。
「鋭いですね。愛菜さんはなかなか見所がありますよ」
「愛菜ちゃんはいつも見所ありまくりだよ、ね?」
修二君が私を覗き込んで、にっこり笑った。
「そ、そんなことないよ」
褒められるのが恥ずかしくて、私は思わず下を向いた。

「愛菜さんが言う通り、あの病院は以前、研究施設が併設されていました。
そして旧研究施設は改装され、現在は病院の入院棟となっています」
美波さんは私たちによどみなく説明してくれる。

「でも、皮肉だなー。俺が子供の頃にいた施設って、家からめちゃくちゃ家と近かったんだ」
修二君はようやく謎が解けたというような声をあげた。

(そうだった。たしか、一郎君と修二君は施設にいたんだよね)

「修二君。ぜんぜん気がつかなかったの?」
私は不思議になって尋ねた。
「うん。子供の頃すぎてあんまり憶えてないけど、塀に囲まれていたから周りの様子はわからなかったよ」
「確かに、塀に囲まれて逃げられないようなっていたな」
周防さんは眉間にしわを寄せて、心底施設を嫌っているようだった。

「それだけではありませんよ。
子供は特に無垢ですから、ここから出られないと思い込ませるなんて、施設側には容易いことだったのです。
さらに深いマインドコントロールを施して、何も疑うことなく施設側の言いなりになる人間を大勢作り出していました。
ですから、多くの施設出身者は今も施設に逆らうことができないのですよ」
美波さんは施設の内情を私たちに淡々と説明してくれた。

①美波さんに施設関係者なのか尋ねる
②主流派が私を狙う理由を尋ねる
③周防さんにこの通路で起こった出来事について尋ねる

544
①美波さんに施設関係者なのか尋ねる

「美波さんはもしかして……施設の関係者、だったんですか?」
すらすらと美波さんの口から語られる内容はどうしたって部外者は知りえない情報に聞こえる。美波さんは私をちらりと見て、目が合うとにっこり笑った。
「まああなたがそうおっしゃるのも当然でしょうね。こんな話を真顔でする部外者がいたら私も会ってみたい」
はぐらかすようにそう言って、美波さんは目を伏せた。薄明かりに照らされた長い睫毛はこころなしか少し震えているように見える。
なにか、まずいことを聞いてしまったんだろうか。

美波さんに謝らなければいけない様な気がして、私が口を開こうとした所で修二君が痺れを切らしたように言った。
「で、結局の所あなたはどういう人間なんです?施設の運営に関わっていたことでもあるんですか?」
「修二君!」
「良いんですよ、愛菜さん。素性のはっきりしない人間と共に行動などできませんからね。いずれはお話しなければならない事ですから」
美波さんの言葉に、隣りの周防さんも「そうだな」と頷いた。

「先ほどの修二さんの質問ですが、現在私の表向きの職業は医師です。表向き、と言ってもきちんと資格はありますよ」
「こいつは腕は良いんだが、治療が少々荒っぽいのが難点だ。……二人共、覚えておいたほうが良いぞ」
横でそう付け足した周防さんは、そこで何かを思い出したかのように小さく身震いした。
「……他の患者さんはあなたのように無茶はしませんからね。あなたは特別待遇なんですよ、周防。良かったですね、嬉しいでしょう」
「ああ、ほんとに」

(二人共、仲が良いんだなあ)
二人のやりとりを聞きながら美波さんにお手上げ、といったかんじの周防さんを見ているとなんだか可愛らしくて自然と笑みがこぼれた。
「さて。私は長年この不良患者と行動を共にしている訳ですが、周防との付き合いはかれこれ九年位になります。知り合ったのはご推察の通り、この施設内です」
美波さんはそう言って、辺りを見回すように周囲へ視線をめぐらせた。相変わらずあたりは暗闇に覆われている。
「私がこの施設に入所したのは小学校にあがる前でした。幸か不幸か、入所してほどなく私の能力は開花し、長年にわたって研究対象として所内で丁重に管理されることになりました。
当時の私はマインドコントロールを施されていましたから、非常に従順な良い模範でしたね。成長するに従って、研究員達の代わりに他の被験者たちの管理を任されるようになり、何の疑問も持たずに組織に都合の良い人間を次から次へと養成していた訳です」
「マインドコントロールされてた人間が、どうして反主流派に?」
修二君の問いかけに美波さんは困ったように笑った。
「修二さんは意外とせっかちですね。かいつまんで言うと、マインドコントロールが解けたからです」
「マインドコントロールって簡単に解けるものなんですか?」
「いいえ、愛菜さん。組織の施すマインドコントロールは特別強力です。なにしろ非合法ですからね、被験者の健康など省みる必要がないのですから」
それまで黙って聞いていた周防さんが、美波さんの後に静かに付け足した。
「だが、人の精神に作用するものだ。強いショックを受けると稀にマインドコントロールが解けることがある」
「幸い、研究員達は私のマインドコントロールが解けた事に気付かなかったようでした。その後自責の念に苛まれる私を救ってくれたのが、ここにいる周防です」
「よせよ、救ったなんてそんなたいした事しちゃいないだろ」
美波さんにまっすぐにみつめられて、周防さんはなんでもないというふうに両手をひらひらさせた。
「いいえ。あなたは私の罪を償う術を、妹の声を伝えてくれたんです。……それからの私は表向きはマインドコントロールされたまま、反主流として周防と共に活動するようになりました。
どうでしょう、修二さん。これで先ほどの質問の答えになるでしょうか?」
「そうですね、だいたいわかりました。愛菜ちゃんは?」
修二君が私の顔を覗き込む。そんなに何か聞きたそうな顔をしていたのだろうか。
(確かにちょっと気になることはあるけど……)

どうしようかな?
①美波さんが受けた強いショックとはどんなことだったのか聞いてみる。
②美波さんの妹さんと周防さんの関係について聞いてみる。
③なんだか悲しそうな美波さんが気になるので何も聞かない。

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②美波さんの妹さんと周防さんの関係について聞いてみる。

「妹さんと周防さんは知り合いなんですか?」
「……ああ、綾のことはよく知っているよ」
周防さんは複雑な表情で答えた。

(妹さんは綾さんっていうのね)

「綾さんは二十歳くらいですか? 美波さんの妹さんなら、きっと綺麗な方なんでしょうね」

美波さんの妹さんなら、きっとすごい美人に違いない。
妹が欲しいな、と小さい頃から思っていたから妹さんがいる美波さんが少し羨ましく思えた。

「愛菜ちゃん……それは…」
周防さんは言いよどんで、美波さんの方を見た。
美波さんはその視線に応え、小さく頷くと私に向き直った。

「私の妹、綾は16歳から永遠に歳をとることはありません」
「え……」

美波さんが言った意味が飲み込めず、私は言葉に詰まった。
修二君も驚いた顔で、美波さんを見た。

「綾は…妹は16歳で死にました。直接的に手を下したわけではありませんが、私が殺してしまったようなものです。
それが、私が背負っている罪なのですよ」

美波さんは真っ直ぐ私を見つめたまま言った。その瞳に、嘘や偽りは無い。
16歳といえば、私と同じ歳だ。
美波さんに何か言わなくちゃいけないと思うのに、思考が停止してしまったように上手く言葉が出てこない。

「それはお前の考え過ぎだ、美波。あの頃のお前は精神を組織に支配されていただろうが。
当時の状態でマトモな判断なんて出来なかったんだよ」
自分自身を責める美波さんを咎めるように、周防さんが強い口調で言った。

「支配を受けていたとはいえ、綾の逃亡計画を組織に告発したのは、他でも無い私です。
そして、周防に瀕死の重症を負わせ、妹の命までも削る結果になってしまった。
マインドコントロール施されてもいても、いなくても、この事実がある以上は罪を背負い続けなければならないのです」

美波さんの口調に全く迷いはなかった。
きっと罪を償おうとする決意に迷いがないからだろう。

私は…
①二人の様子を黙ってみている
②「妹の綾さんって……もしかして」
③「逃亡計画ってこの通路のことですか?」

546
②「妹の綾さんって……もしかして」

(待って、だけど……あれはこよみさんのはずじゃ)

夜の校庭の半分近くを、オレンジのような何かが照らしている夢を思い出す。
そして、私の腕の中で―――私とそう年の変わらない周防さんが傷だらけで横たわっていた。

夢で見た光景と美波さんの話はリンクしている。
逃げ出した綾さんと周防さんが通路の出口で組織に捕まったとすれば、辻褄も合う。
だけど、私が見た夢では周防さんと逃げていた女の子は綾さんではなく、こよみさんのはずだ。

「あの…周防さん。ひとつ聞いてもいいですか?」
私は顔を上げると、周防さんに話しかけた。
「ああ。なんだい、愛菜ちゃん」
「こよみさんって……誰ですか?」

私の言葉に、周防さんが一瞬息を呑んだ。
美波さんも目を見開いて、私を見つめた。
「愛菜ちゃん、どうしてその名前を知っている? 誰かから聞いたのか?」
「いいえ、夢をみたんです。周防さんは一緒にいた女の子に向かって『こよみ』と話しかけていました。
病院の中庭で一緒にいる光景や、傷ついた周防さんを抱きしめる光景――いつも周防さんの傍らには『こよみ』さんがいたんです」

「そうか……。愛菜ちゃんには隠し事はできないなー」
周防さんは参ったと言いたげな様子で、大げさに頭を掻いた。
「ご、ごめんなさい」
「いいって、いいって。少し驚いただけだから。うん、愛菜ちゃんの夢に出ていた女の子、その子は間違いなく綾だな」
「でも、周防さんはこよみと呼んでいましたよ?」

私は意味が分からず、頭の中は疑問符で埋め尽くされてしまう。
その姿を見て、美波さんがクスクスと笑った。

「綾は『こよみ』なんですよ。愛菜さん」
「え?」
「コードナンバー.543。それが綾の施設での呼び名でした。施設で名前はいりませんからね。
周防は私に会うまで、綾という本当の名前すら知らなかったのですよ」
少しだけ笑顔に影を落としながら、美波さんが呟いた。

「ふーん。そっか、そういうことか」
さっきまで黙っていた修二くんが突然閃いたように声をあげた。

「修二はわかったみたいだな。愛菜ちゃん、俺が綾を『こよみ』と呼んでいた理由はわかったかい?」
周防さんが覗き込むようにして私に尋ねてきた。

なんて答えようかな。

①わかった
②わらない
③ヒントを要求

547
①わかった

「番号の543の言い方をちょっと変えたんですね」
「そうそう」
「何のひねりもなくて、つまらないでしょう?」
「わるかったな」
私の答えにすかさず美波さんが、周防さんを見ながら苦笑する。
周防さんも言われなれているのか軽く肩をすくめるだけだ。

(それじゃあ、あの後こよみさん、あ、綾さんって言ったほうがいいのかな、綾さんは……)
私が夢で見たとき怪我をしていたのは周防さんで、綾さんではなかった。
周防さんが気を失った後、私は目が覚めてしまってその後どうなったのかは分からないけれど、綾さんはその後亡くなったのだろう。

(そういえば……)
私は冬馬先輩の言葉を思い出す。

『僕が隔離された部屋の前の主は、力を暴走させた挙句病に冒され
再び日の光を浴びる事無く若くしてこの世を去ったと聞きました』

私はあれをこよみさん、つまり綾さんのことだと思った。
髪の長いきれいな女の子だったと、冬馬先輩も言っていたから間違いないだろう。
ならば、周防さんが気を失った後、綾さんは力を暴走させたあげく病に冒されあの部屋に閉じ込められた、ということだろうか?

(気を失った周防さんを見て、綾さんは自分を責めてた……)
気を失った直後、私はすぐに目が覚めてしまったが、その一瞬叫ぶ綾さんのなかで何かが壊れたような音を聞いた気がする。
病というのも精神的なものだったのかもしれない。

「愛菜ちゃん、どうした?そんな苦しそうな顔しない」
周防さんに軽く頭を小突かれ、私ははっと顔を上げる。
いつの間にか考え込んでしまっていたようだ。

「あ、ご、ごめんなさい」
とっさに謝った私に、周防さんが優しく笑って、いつものように頭にぽんと手をのせる。

「愛菜さん、顔色が悪いようですが大丈夫ですか?」
その横から美波さんが少し心配そうに私を覗き込んできた。

私は……
①「大丈夫です」
②「ちょっと、疲れただけです」
③「そう、ですか?」

548
①「大丈夫です」

私は心配してくれた二人に向かって、笑いかけた。
周防さんと美波さんはちょっと困ったように顔を見合わせた。

すると、今まで黙って話を聞いていた修二君が、溜息を吐くように私に向かって話しかけてきた。

「愛菜ちゃんてさ、いっつも見ていて思うけど……そんな風に無理して笑うから疲れちゃうんだよ」
「え? 別に無理してるつもりはないよ」
「無理してるさ。俺の場合、見ていれば疲れていることなんてすぐにわかるし」
修二君の見透かすような視線に、思わず目を逸らす。
「で、でも本当に無理してないよ」
私は言い訳のように繰り返して言った。

「愛菜ちゃんはこの通路にある残留思念の毒気にあてられちゃってるのに、どうして笑って誤魔化すかなー」
修二君は納得いかないのか、不満の色を露わにしている。
「誤魔化してなんかいないよ」
「茶道室での事といい…自覚がないなら、余計タチ悪いじゃん」
「タチ悪いって……」
修二君の言葉に、思わずムッとしてしまう。

修二君はそんな私を見て、「めんどくさ」と苛立たしげに言った。

「やぁ、若いってもどかしいな」
周防さんは私と修二君を見ながら、しみじみと呟く。
「こらこら、周防。そんなことを言っている場合ではないでしょう。
修二さん、心配ならもう少し優しく愛菜さんに伝えないと嫌われてしまいますよ。
愛菜さんもせっかく修二さんが心配してくれているのですから、もう少し甘えてみてはいかがですか?」

美波さんの言葉に周防さんは大きく頷いていた。
(たしかに、心配させまいとして無理してたかも)
修二君を見ると肩をすくめて憮然としていたけれど、観念したように一歩前に出てきた。

「えっと…愛菜ちゃん、ごめん」
「あ、ううん、私こそ。それに、心配してくれてありがとう」
「俺、愛菜ちゃんの気持ちを全然わかってなかったかも。疲れてるのに、嘘つくなよって思ってた」

こうやってはっきり言葉にしてしまうのも、修二君らしいのかもしれない。

私は
①「次は疲れたらちゃんと言うね」
②「私もムカついて修二君のバカって思っちゃった」
③「素直に言うと、実はおぶって欲しいな」

549
②「私もムカついて修二君のバカって思っちゃった」

「……」
私の言葉が余程意外だったのか、修二君は目を丸くして固まった。予想外の反応に、抱えていた修二君に対するもやもやが次第に薄れてゆくのを感じる。
(珍しいもの、見ちゃったかも)

「えーと……」
戸惑ったように何か言おうとする修二君に、ほんの少しの優越感を持って笑いかける。
「って言っても、ほんとにちょっとだけだけど!これでおあいこだから、修二君も気にしないで。ね?」
「そう、だね。うん。ほんとごめん」
「だから気にしないでってば。心配して言ってくれたのはわかったから」
反省会のように延々続く私たちのやりとりを、周防さんと美波さんはやれやれといった様子で止めに入った。二人苦笑を浮かべつつ、それでもその表情は優しい。

「はいはい、お二人さん。その辺にしときな、修二も反省したよな?」
「愛菜さんも、これからはあまり無理はしないようにね」
二人に間に入られて、ようやくその場が収まった。修二君となにやら子供っぽいケンカをしたようで、私は今更ながら恥ずかしくなってきた。修二君もバツが悪そうに頭を掻いている。
(うう、変に意地張って子供っぽいって思われただろうな……)

そんな私の考えなどお見通しなのか、隣りにいた美波さんが慰めるように言う。
「相手を思うがゆえのすれ違いも、時に起こります。お互いがお互いのことを大切に思えばこそ、伝えなければならない事も出てくるものですし」
「ま、誰にも譲れないものはある。たまには本音でぶつかるのも良いだろ」
続けた周防さんはいつものように陽気にウィンクを飛ばした。

美波さんと周防さんの話を聞きながら、私はふとある人たちの事を重ね合わせていた。

私が重ね合わせていたのは……
①一郎君と修二君
②春樹と私
③周防さんと美波さん

550
①一郎君と修二君

(そうだよね、大事に思ってるならちゃんと話さないと……)
ふっと思いうかんだ一郎くんと修二くんの状態。
一郎くんは修二くんに何も言わず、一人ですべてを背負って行動していた。
修二くんもそんな一郎くんに何も聞くことはなく、それでも二人に一番良いと思われる行動をしている。
けれど気持ちは微妙にすれ違っているように思えて仕方がない。

(双子だって、何も言わなくても通じるわけじゃないのにね……)
そう思って、修二くんを見上げると一瞬目が合ったが、何かに気付いたように振り返った。

「どうしたの?修二くん」
「あ~……あまりにも俺たちの帰りが遅いから、兄貴が来たみたいだ」
「え?」
私も振り返ったが、見えるのは闇だけで人の姿は確認できない。

(そういえば……)
病院で会ったときも、なぜか一郎くんは修二くんの場所を知っていた。
あの時一郎くんは『分かるからだ』と言っていたけれど……。

「修二のお兄さんが来るのか?」
「みたいだ」
周防さんの言葉に修二くんは肩をすくめて答える。
微妙に突き放したような答えに周防さんが苦笑する。

「では、私は戻りますね」
そのとき唐突に美波さんがきびすを返した。

「え!?」
驚く私に、美波さんはにっこり笑う。

「先ほどお兄さんと一緒のほうが良く見えると言っていましたからね。これ以上私の力を見透かされるのも困ってしまいますので」
「あ……」
「では、またお会いしましょう」
美波さんは私たちが言葉を発する前に、闇に紛れて行った。
なんとなく沈黙が落ちる。

どうしよう……
①周防さんはここに居て良いのか聞く
②なぜ一郎くんは修二くんの場所が分かるのか聞く
③どれくらいで一郎くんが来るのか聞く

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