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①黙って頷く
「ちょっとまった、いま高村って言わなかったか!?」
私が頷くのと同時に、修二くんが春樹に聞く。
「…ええ、それが?」
「それがって……」
「修二落ち着け。高村なんて珍しい苗字でもないだろう。それより、このままだと遅刻だ」
「そうだな、さすがに二日続けて遅刻ってのは勘弁。歩きながら話そうぜ」
春樹の言葉に修二くんがなんと言っていいかわからない顔をし、一郎くんがそんな修二くんをたしなめ、隆が一郎くんに同意する。
言われて廻りを見ると、すっかり人通りがなくなっている。
「チハル、またストラップになって春樹と一緒にいてくれる?」
「うん!」
春樹にしがみついたままだったチハルは、ポンと軽い音を立てて春樹の手に納まる。春樹はチハルを胸ポケットに入れた。
それを確認して、私たちは歩き出す。
(一郎くんは私たちの会話をちゃんと聞いていなかったからああ言ってたけど…桐原さんは、はっきり高村のおじ様は研究者だって言ってた)
研究者の高村といったら、高村研究所に関係があるとしか思えない。
日曜日に冬馬先輩が言っていた言葉を思い出す。
『優秀な能力者であり、研究者であり、権力者でもある……それが高村の名を持つ者なのです』
あの言葉からいけば、能力者ではない春樹は高村になれなかったということ。
逆を返せば、高村を名乗っている春樹の本当のお父さんは、能力者でもあるということだ。
(なんか、おもわぬ方向から研究所のことが少し分かったかな…)
「愛菜ちゃん?」
いろいろ考えながら歩いていたら、皆から大分遅れてしまっていた。
修二くんの言葉に皆が振り向く。
修二くんはその間に開いてしまった距離を戻ってきて、私の手をとった。
「ほら、急いで」
「あ、うん」
私は手を引かれながら小走りで皆に追いつく。
「ご、ごめん」
皆の足を止めてしまったことを謝ると、修二くん以外複雑そうな視線を投げてくる。
修二くんだけ妙に楽しそうだ。
①「どうしたの?」
②「遅刻しちゃうよ、行こう」
③「……?……!修二くん、手!」
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②「遅刻しちゃうよ、行こう」
刺すような視線が私と修二君に向けられている。
「愛菜ちゃんの手って、小さくてスベスベだよね~」
そう言いながら修二君は、突然、その手に頬擦りをしだした。
「お、おい!」
「ちょっ、修二先輩」
隆と春樹が同時に叫んだ。
そこでようやく、私は修二君と手をつないでいることに気付く。
「…………!修二くん、手!」
私は焦りながら、自分の手を引っ込めた。
昨日のキスのせいで、修二君のスキンシップに対して情けないほど過敏に反応してしまう。
(あれは治療だったんだから、意識しちゃだめよ)
そう思うのに、どんどん顔が熱くなっていく。
「愛菜ちゃん、赤くなってる。ホントかわいいよなぁ」
うつむいく私を修二君は楽しそうに覗き込んだ。
いつもならここで一郎君のキツイ一言が入ってもよさそうなのに、何も言葉が返ってこない。
むしろ私たちの姿を視界から外すようにして、横を向いていた。
(一郎君…?)
「愛菜。担任に嫌味言われたくないし、急ごうぜ」
修二君と手をつないだ事にムカついたのか、隆は不機嫌な声で私に声をかけた。
「う、うん…」
私たちは走って教室に向かった。
遅刻はなんとか免れ、HRを終える。
日中の授業を慌しく受けていると、いつのまにか放課後になっていた。
これから、どうしようかな。
①今日も文化祭の準備
②春樹の様子を見に行く
③考える
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①今日も文化祭の準備
「香織ちゃん、準備今日は何をやればいい?」
「えっと、大きいものは大体作っちゃったし…小物係もいっぱい居るから、今日は放送委員のほうに行ってもいいわよ?」
「え、でも…」
「大丈夫大丈夫、当日放送委員は大変でしょ?ちゃんと打合せしないと、当日バタバタしちゃうわよ」
香織ちゃんはそう言ってからちょっと回りを気にして、私に顔を寄せてこそっとささやく。
「それに、いとしの一郎くんと一緒に仕事できるチャンスじゃなーい」
「…え!?」
「ふふふ、前に言ったこと覚えてるわよ?」
笑いながら、ちょっと意地の悪い笑みを浮かべて香織ちゃんが言う。
言われて1週間くらい前の会話を思い出した。
香織ちゃんに彼氏を紹介しようかと言われたとき、一郎くんのことをとっさに言葉にしてしまったのを覚えているのだ。
あの時一応否定したけれど、香織ちゃんはすっかり私が一郎くんを好きだと思い込んでいる。
(確かに嫌いじゃないけど…恋愛感情の好きとは違う、よね…?)
あのときだってどちらかというと憧れが強かった。
1週間しか経っていないけど、その間にいろいろあって一郎くんへの感情も変化した。
「ま、どっちにしろこっちは目処がついてるからさ、ほらいっといで」
困った顔をしている私を、香織ちゃんは私を教室から押し出す。
「じゃ、いってらっしゃーい」
そういってヒラヒラと手まで振られて、私はあきらめて放送室へ向かう。
(もぅ、香織ちゃんってば余計な気を回しすぎよね…)
香織ちゃんの行動に苦笑する。
放送室まで来てノブに手をかけあけようとして私は動きを止めた。
戸が少し開いていて、中から話し声が聞こえる。
この声は…
①一郎くんと修二くん
②一郎くんと水野先生
③水野先生と桐原
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②一郎くんと水野先生
耳を近づけると二人の会話がはっきりと聞こえてきた。
「それで……あなたたちの方は具体的にどうなっているの?」
水野先生は一郎くんになにかを確認するような口調で尋ねている。
「一応、現状で出来るだけのことはしているつもりです」
いつもの冷静な調子のまま、一郎くんは答えた。
(放送委員のことかな?それとも、力の話なのかな…)
もし力の話だったら、なぜ私が狙われているのかわかるかもしれない。
今のままでは不安が募るばかりだ。
少しでも情報が手に入るなら、ぜひ耳に入れておきたい。
悪趣味だと思いながらも、もう少し立ち聞きをすることに決めて耳を澄ました。
「最近のあなた達、あまり協力的では無いようだけれど?」
「協力? そんなつもりは初めからありません。俺達は組織と取引をしたいだけです」
「あらあら…私に反発できるほど偉くなったつもりでいるね」
水野先生の放った一言は、まるで一郎くんを見下すような口調だった。
(やっぱり、力の話みたいだよね……)
私は緊張しながら、再びドアに耳を近づけた。
「今まで、あなた達の意見を尊重してあげていたけれど……揺さぶり程度ではなく、本格的に組織が手を下すほうが早そうね」
「待ってください。下手に時期を誤れば、困るのは組織側だと思いますが」
「悠長にあなた達だけに任してはいられないわ」
「俺達には目という手札があります。
大堂愛菜の力へとつながるカギを俺達が握っている以上、取引としては十分な対価だ。
現状維持もその時に交わした取引項目のひとつだったはずです」
(一郎くん……)
私自身が取引に使われていたと思うだけで、胸が締め付けられるように痛んだ。
入学当時からの憧れていただけに、一郎くんの言葉がつらい。
「まあいいわ。せいぜい強がっていられるのも今のうちよ。所詮は君も修二くんも道具に過ぎないのだから。
よく肝に銘じておくことね」
まだ一郎くんと水野先生の会話は続いているようだ。
私は…
①もう少し話を聞く
②逃げ出す
③放送室に入る
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①もう少し話を聞く
一郎くんは大きなため息をついた。
「あなたも覚えておくといい。取引をしている以上、条件を一つでも破ったら取引は反故です」
「………」
一郎くんの言葉に、水野先生が沈黙する。
強く出ていても、やっぱり一郎くん達の力は必要だということだろうか。
「そうそうあなたの態度がとても不快でしたので、新たな情報が一つあったのですがこの報告はしないことにしました」
「何をいっているの!?」
水野先生のとがめるような声がする。
「そういえば、取引をする以上立場は対等であること、という条件がありましたね。
けれどあなたは俺たちを道具といった」
「ちょっと待って頂戴!」
あせる水野先生とは裏腹に、一郎くんの声はどこかすがすがしささえ感じる。
「ということで、今後一切俺たちは組織に…いえ、こういったほうがいいですね。主流派と取引しない、と」
「!あなたそれをどこでっ…」
「それに答える義理はない。ということだ。修二、大堂」
急に名を呼ばれ、私は硬直する。
「いやー、兄貴かっこいー」
硬直した私の真後ろから、修二くんの声がする。
いつから居たのだろう。一郎くんと水野先生の話に集中しすぎて気付かなかった。
修二くんは放送室の扉を開ける。
「あなたたち……まさか…?」
驚いた顔の水野先生が私たちを見ている。
先生の言葉に、私もふと思う。
(もしかして一郎くんは私たちがそろうのを待ってた?)
最初の方の会話は水野先生を引き止めるような言葉の運びだった。
それが急に組織の主流派との取引はしないとの宣言。
まるで私たちに聞かせようとしたみたいではないか。
「ま、俺はもともと組織の連中と取引する気はまったくなかったし」
修二くんは分かっていたのか、にやりと笑って一郎くんの隣に歩いていく。
「今までだって、してこなかったけど?」
「……修二」
「はいはい、分かってるよ」
一郎くんと修二くんはそろって水野先生へ手を伸ばす。
水野先生はあわてて身をよじるが、二人に腕をつかまれる。
「それじゃ先生、組織に伝言よろしくね」
修二くんがにっこり笑って言った途端、空気がピリピリと震える感じがした。
それが納まった後、先生の抵抗がピタリと止まり、私たちが見えていないかのように放送室から出て行った。
①「先生に何をしたの?」
②「組織に逆らって平気なの?」
③「これからどうするの?」
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②「組織に逆らって平気なの?」
操られるようにして立ち去る水野先生を見送りながら、私は尋ねた。
そんな私を見て、修二君は「俺の事、心配してくれるんだ?」と楽しそうに覗き込んでくる。
「だって…逆らうと怖そうだよ」
「へーき、へーき。愛菜ちゃんがいるだけで俺、がんぱっちゃうしさ」
修二君は不安がることも無く、いつもの軽口を言いながらにっこり笑った。
「組織への接触は資料の収集と力の応用に関する知識が欲しかっただけだからな。
欲しい情報がほぼ手に入った以上、ここが引き際だろうと判断したまでだ」
一郎君もさっきの出来事など意に介さず、机の上にある放送委員の資料を片付けている。
(二人とも平気そうだし、心配しなくていいのかな)
「そういえば、前にファントムを消滅させていたのは、力の応用だって言っていたよね」
私はあっという間に黒い影を退治してしまった修二君の姿を思い出す。
「どれだけ強力な力を持っていても、使い方を理解できていなければ無駄ばかり生じてしまう。
正しく使ってこそ、少ない力で最大の威力が発揮できるというものだ」
「同じことをするにしたって、少しでも楽できた方が良いしね。
さっきの水野に暗示をかけたのも力の応用だし。まあ、記憶までは弄れないからじきに上層部の耳には届くと思うけどさ」
修二君といい、一郎君といいやけに自信たっぷりに見える。
どうして組織が怖くないのだろうか。
「本当に一郎君も修二君も逆らって怖くないの?」
「だから、へーきだって。愛菜ちゃんは心配症だなぁ。俺達にこの目がある以上、主流派は手出しできないんだよ。
俺達が見つけなければ、封印を解くこと――」
「修二!」
封印と言ったとたん、一郎君が制すように叫んだ。
修二君はしまったという顔で一郎君を見た後、誤魔化すように頭を掻いている。
私は…
①「封印?」
②「今の話、私に関係あることなのね」
③「一郎君が話していた資料の収集ってなに?」
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②「今の話、私に関係あることなのね」
一郎くんがここまで過剰に反応するということは、きっと私に聞かせたくない話なのだろう。つまり私に関係があるということだ。
修二くんもさっきの反応をみると、私には知られたくないと思っていると見て良い。
(封印…)
私の中の何かが誰かに封じられている?
それは力なのだろうか?けれど私は力を無自覚で使っているみたいだし、最近は意図的に通信をすることも出来る。
(それじゃあなんだろう…)
「愛菜ちゃん、そういえばなんか用事があって放送室に来たんじゃないの?」
修二くんが考え込む私の顔を覗き込む。
はっと我に返って顔を上げると、驚くほど近くに修二くんの顔があって思わずのけぞる。
「…?どうしたの愛菜ちゃん?」
修二くんはもともとスキンシップが激しいから、至近距離に当たり前のように踏み込んでくる。
以前はあまり気にしなかったけれど、あのキス以来過剰に反応してしまうのはどうしようもない。
不思議そうに首を傾げる修二くんから一歩下がって、私はあわてて笑ってみせる。
「あ、うん、なんでもないよ。えっと、ほら、放送委員の文化祭の準備なにかあるかなとおもって…」
私は修二くんから一郎くんへ視線を移す。
一郎くんは少し眉を寄せて私たちを見ていたが、私の言葉にいつもの表情に戻ると少し考えるようにあごに手を当てた。
「そうだな…、放送機材の点検をしなければならない。だがここの放送機材はほぼ毎日使っていて不具合はないから大丈夫だろう」
「それじゃあ、体育館とか?」
「そうだな、後はめったに使わない校庭の放送機材か」
「あれ?校庭に放送機材なんてあった?」
「運動会で使っただろう?」
「あぁ!そういえば…」
「時間的に今日はどちらか一箇所しか点検できないが」
めったに使わないからこそきちんと確認しておかなければならない。
けれど、うまく話をはぐらかされた気もする。
どうする?
①封印のことについて聞く
②体育館の機材点検に行く
③校庭の機材点検に行く
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③校庭の機材点検に行く
児童公園でも核心に迫った話になると、必ずはぐらかされていた。
(きっと、教えてくれそうにもないよね)
封印の話は気になったけれど、今は尋ねるのを諦めた。
「じゃあ……校庭の機材点検に行ってくるよ」
私は放送室から遠い校庭側をを選ぶ。
委員長として多くの仕事を抱えている一郎君に余計な手間をかけさせる訳にはいかない。
「では、俺は体育館の点検に行ってこよう。カギはこれを持っていくといい」
一郎君はそう言うと、私に鍵を手渡して放送室を出て行った。
「修二君はどうする? クラスに戻る?」
私は体育倉庫のカギをスカートのポケットに仕舞い込む。
「俺は愛菜ちゃんについていくよ」
「え?でも、クラスの出し物の手伝いをしなくちゃ駄目だよ」
「へーきへーき。今日は買出しメインだし。俺の係りは暇なんだ」
(本当かな? またサボろうとしてるんじゃ…)
そんな私の反応を知ってか知らずか、「校内デートだ~」と歌いながら一郎君は歩き出した。
校舎を出て、体育倉庫に向かう。
テニスコート沿いを歩いていると、ふと修二君が足を止めた。
「どうしたの? 修二君」
「テニス、したいなぁと思ってさ…。一週間も体動かしてないとオカシくなりそうだよ」
テニスコートのフェンスに手を掛け、だれもいないコート全体を見渡しながら呟いている。
その視線は毎日練習していていた自分自身を思い返しているようにも見えた。
(修二君は本当にテニスが好きなんだ…)
「今は文化祭期間中だし、練習できないんだよね」
「そうだ! 点検が終わったら一緒にテニスしよっか?」
私に向けられた修二君の瞳が名案を思いついた子供のように輝いている。
「でも…私、全然テニスできないよ」
「いいって、いいって。俺に任せておいてよ。手取り足取り腰とり教えちゃうからさ」
「腰とりは余計だよ! 」
「文化祭の準備ばかりしてたら腐っちゃうしさぁ。たまには羽をのばさなきゃ、ね?」
どうしようかな
①いいよという
②放送委員の仕事に戻るという
③クラスの仕事に戻るという
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②放送委員の仕事に戻るという
「ダメだよ、点検が終わったら報告もしなくちゃいけないし、他にもすることがあるでしょ。一郎くんにだけ仕事させるわけにはいかないよ」
「兄貴のことなんかどうだっていいじゃん、兄貴は好きでやってるんだからさ」
「だめです!さて、急がないと下校時間になっちゃう」
私は後ろでぶーぶーと文句をいっている修二くんをそのままに体育館倉庫へ急ぐ。
「待ってよ、愛菜ちゃん!」
修二くんがあわてて追いかけてくる。
「も~、愛菜ちゃんもまじめなんだから」
「修二くんが不真面目すぎるんです」
倉庫の鍵を開け扉をあけると、カビとホコリのにおいが鼻につく。
「うわ~」
思わず顔をしかめた私の横を修二くんがすり抜ける。
「早く終わらせちゃおう、で、俺とあそぼ」
いいながら、修二くんは壁のスイッチを押し電気をつけた。
「えっと愛菜ちゃん、機材ってどこ?」
「たしか…、奥に部屋があってそこにあったと思う」
「奥ね」
修二くんは、ずんずんと奥に進んでいく。
私もあわてて修二くんの後を追いかけた。
「この戸かな?……あ、鍵がかかってる。愛菜ちゃん」
「あ、うん…えっと……これかな」
持っていた鍵の一つを差し込んでまわすと、かすかな音と共に鍵が開く。
扉を開けると、放送機材が所狭しと置かれていた。
「さて、さくっと片付けちゃおう」
「そうだね」
修二くんの言葉に頷いて、私はコンセントを探す。
壁をぐるりと見回してみたけれど、ものが多くて壁が良く見えない。
「コンセント、コンセント…」
乱雑に置かれた機材を覗き込むようにして、壁を確認していく。
最後の一面に来た所で、ふと床に違和感を感じた。
踏んだ感じが他の場所とは違う気がする。
(?)
私は少し戻って足踏みをし、さっき違和感を感じた場所でもう一度足踏みしてみる。
そうするとやはり足の裏に返ってくる感じが違った。
よくよく床を見ると、うまくカモフラージュされているが下に収納庫らしきものがあるようだ。
私は…
①修二くんを呼ぶ
②自分で調べる
③気にせずコンセントを探す
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②自分で調べる
(なんだろ……これ)
地面に埋まるようにして、錆びた色の蓋が薄っすらと見えている。
「どうしたの? 愛菜ちゃん」
配線用の長いコードを手に持った修二君が振り向いた。
「蓋? 錆び付いているな…」
修二君は歩み寄って、首をかしげた。
私たちは肩を寄せ合うようにして、その錆びた蓋を覗き込む。
「ずいぶん古いものみたいだね。この体育倉庫が建つ前からあるのかな?」
「開けちゃおうか?」
修二君は秘密を見つけた子供のように小声で話しかけてくる。
「重そうだよ……大丈夫?」
「任せといて。伊達に鍛えてないからさ。腕の太さだってこんなに違うんだよ、ホラ」
修二君は両腕を捲り上げて私に見せてきた。
たしかに、利き手である左腕の方が右腕よりも太くなっている。
チャラチャラして見えるけれど、テニス部の練習量はかなりのものかもしれない。
「俺的には、かっこ悪いから右も鍛えてはいるけどさ。仕方ないんだよなぁ」
修二君は苦笑しながら、制服の袖を下ろした。
「収納庫みたいだよね」
「開ければわかることだって。いくよっ」
修二君は錆びた取っ手を持って、おもいきり上に引っ張った。
だけど、蓋はビクとも動かない。
「あれ? 重いな…」
「無理しなくてもいいよ」
「絶対に開けてやる。くっそー、ひらけっての! 」
負けず嫌いな修二君はそう言うと、渾身の力で引っ張り上げた。
バキッ
その音を聞いたとたん、修二君の背中が勢いよく近づいてくる。
「うわぁぁ!!」
「きゃっ! 」
私達はマットにもつれ合う様にして倒れこんだ。
ドサリという音と共に砂煙が舞い上がり、走り高跳びの棒が乾いた音を立てて地面に倒れた。
最終更新:2007年08月27日 08:52