431
①修二君を追いかける

軽くなった体で部屋の扉を開けると、廊下にはすでに誰もいなかった。
「修二君……」

(どうして胸の締め付けられるような微笑み方をしたの?)

口説き文句か軽口で冗談と本気の区別がつかない修二君が、あんな顔するなんて思いもしなかった。
私が今まで思っていた修二君とはあまりにかけ離れていた。

(私……修二君を誤解していた?)

軽薄でたくさんの女の子のファーストキスを奪っても何も思わないような人だと決め付けていた。
だから私がファーストキスだって事も、言い出せなかった。
もちろん驚いて何も言えなかったのもある。
でも、それだけじゃない。
恋愛に疎いと思われるのが恥ずかしかったし、逆に『ラッキー』と幸運がられるのも悲くなるだけだからだ。

だけど、あの微笑はもっと複雑で優しさに満ちていた。
それに「ありがとう」の言葉も――まるで修二君を信じ、疑わなかった事へのお礼みたいにも聞こえた。

私は自分の唇にそっと触れてみる。
力の安定化が目的だったとはいえ、キスしてしまった事実に変わりは無い。

(修二君とキスしてしまったんだ……)

予知夢通りに起こった出来事。
けれど夢ではなく、これは現実に起こった事だとようやく実感が湧いてくる。
次に会うときは、普通に接することが出来るだろうか。
まして口説き文句に対して今まで通りに軽く流せる自信もない。

(困ったな……。とても冷静ではいられないよ)

私は…
①鍵を職員室に返しに行く。
②鍵はあとにして教室に戻る。
③頭を冷やしにいく。

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①鍵を職員室に返しに行く。

職員室に入ると、鍵と水野先生のブランケットを事務員の人に渡す。
(ほっ。水野先生がいなくてよかったかも)
教室に戻り、担当教科の先生に一言伝えて席に戻った。

「愛菜っ。愛菜」
つんつんと背中をつつかれ後ろを向くと、小声で香織ちゃんが話しかけてくる。
「愛菜ってばっ!」
「どうしたの? 香織ちゃん」
「あんた大丈夫なの?」

(そっか。きっと、隆から聞いたんだよね)
「うん。少し体調が悪かったけど、もう平気だよ」
そう答えながらもさっきの出来事が頭をかすめ、私はフルフルと首を振った。
(あれは治療みたいなものよ。治療、治療……)
自分に言い聞かせるように、ブツブツと呟く。

「本当に平気なの? そう見えないから心配しているんだけど。自分の顔、ちゃんと見た?」
「え?」
私は持っている手鏡で自分の顔をそっと覗き見る。
(私、顔が真っ赤だ……。)

「そこの二人、何をやっている! 私語を慎みなさい」
先生の厳しい一言に、私達は話をやめて授業に戻った。

その後もいつも通りの時間割をこなし、あっという間に放課後になった。

さて、これからどうしようかな?

①文化祭の準備をする。
②春樹とチハルが心配なので一年の教室へ向かう。
③修二君にお礼を言いに行く。

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①文化祭の準備をする。

先週末も怪我で二日も準備を休んでいる。
今日こそ手伝わないとクラスのみんなに申し訳なさ過ぎる。

「香織ちゃん、今日は準備何するの?」
「愛菜、無理しなくて良いから帰ったら?」
「大丈夫、もうすっかり良いし」
私は香織ちゃんに笑ってみせる。
実際、朝とはぜんぜん違いすっきりしている。

「そう?それなら良いけど…えっと文化祭の準備、今日はこれ!」
「ダンボールに色塗ればいいのね?」
「そうそう、井戸らしくしてね?」
「井戸ね…」
ダンボールを受け取って廻りを見渡す。
みんな机や椅子を寄せてダンボールを広げて色を塗ったり、変装用の衣装を縫ったりしている。

(ていうか、場所がないんだけど…)
所狭しと広げられたダンボールで、スペースがない。
廊下も覗いてみるが、廊下にも人はあふれている。

どうしよう…
①どこか別の場所を探す
②先に他の人を手伝う
③誰かが終わるまで待つ

434
①どこか別の場所を探す

(そうだ。階段の踊り場だったら空いているかもしれない)

廊下を抜けた先にある階段に目を向けると、やはり誰も作業している人はいなかった。
(邪魔にならない程度のスペースを借りてもいいよね)

私はダンボールと絵の具を持って踊り場の端に陣取る。
そして、黙々と色を塗り始めた。
もともと単純な作業は嫌いじゃなかったし、なによりクラスで一つのことをするのは楽しい。
そんな事をぼんやり考えながら、手を動かし作業を進めていく。

(よし、少しは石の井戸に見えるかな?)
半分ほど塗り終えたところで、壁に立てかけて出来栄えをチェックする。
(うん、上出来かも。総プロデューサーの香織ちゃんに一度見てもらおっと)

「………それは、大きな豆腐ですか?」
突然、私の真後ろで誰かかぼそりと呟いた。振り向くと、ボーっと御門君が立っている。
「び、びっくりした。御門君、どうしたの?」
私が驚いているのを見て、御門君は「すみません」と謝った。

「これは豆腐じゃなくて、一応、石で出来た井戸を描いたつもりなんだけどな」
私は目の前の作品を指さして、説明する。
豆腐だと思われたままでは、今まで頑張った苦労が報われない。
「石……。井戸……。なるほど、説明されれば…そんな気がしてきます」
「そんな気がするだけ?」
「いえ、描いたあなたが言うのであれば、これは間違いなく井戸です」
御門君は心の目で見るように、私の絵を見据えていた。

「だけど、豆腐なんて失礼しちゃうな。一時間以上かけた私の力作なのに」
「前衛的で良いと思います……」
「それ、本当に褒めてくれているのかな?」
「はい。精一杯褒めているつもりです」

(うーん。一応気を使ってくれているみたいだけど…あまりに正直すぎて逆に身も蓋もないなぁ)

せっかくだし、何か聞こうかな?

①どこのクラスか尋ねる
②文化祭では何をするのか尋ねる
③私に何か用事があるのか尋ねる

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①どこのクラスか尋ねる

「そういえば御門くんって何年何組なの?」
思いついて尋ねる。
御門くんは胸ポケットから生徒手帳を取り出すと、私に見せてくれた。
そこには3年2組と書かれている。

(御門くんて年上だったんだ…)
そういえば、ショッピングモールで周防さんもそれらしきことを言っていた。
御門くんに手帳を返して、塗りかけのダンボールを見る。

(豆腐……)
そういわれてみると、豆腐にしか見えなくなってくる。
けれどだからと言ってどうすれば井戸になるのか、といわれるとこれ以上どうしようもない気がする。

「………」
「あ…?」
ダンボールを見て悩んでいると、御門くんが私の手から絵の具を奪っていく。

「…手伝います」
「でも…御門くん、自分のクラスのほうはいいの?…って、先輩なんだから、御門先輩って呼ばなきゃだめか」
私の言葉に、御門くんはじっと私をみて不意に首を振る。

「冬馬」
「…え?」
言われた単語に、意味を図りかねて問い返す。

「あなたは、僕以外名前で呼びます」
御門くんに言われて、思い返す。

隆は幼馴染で香織ちゃんは親友だからずっとそう呼んでいた。
春樹は弟だから、当然名前。
一郎くんと修二くんは双子で苗字が同じだから自然と名前で呼んでいる。
周防さんは、苗字じゃなく名前で呼んで欲しいと最初に言われた。

(確かに言われてみれば、そうね…)
要するに、御門くんも名前で呼んで欲しいということなんだろうけど…。

どうしよう…。
①やっぱり御門くん
②冬馬くん
③冬馬先輩

436
③冬馬先輩

 (うーん…)

せっかくの申し出なんだし、『御門くん』で通し続ける必要はない。
だからって、年上だと言う事実を知った今……『冬馬』とか『冬馬くん』って言うのは失礼な気がする。
でも『冬馬さん』って言うのは、今まで『御門くん』と読んでいたせいかかなりおかしさを感じる。

「えーと、じゃあ…………冬馬先輩、とか?」
考えた末、私はおそるおそるその呼び名を口に出してみた。

「…………」
御門くんは相変わらず無表情のまま、何も言わずに私をじっと見つめている。

(だ、ダメなのかな……)

「あの、ど、どうかな?」
不安になりながらも、再度聞き返す。

すると、御門くんが緩慢な動きで私の方へ手を伸ばす。
そしてそれは、ぽん…と私の頭の上にそっと乗せられた。

「え……」
「ありがとう、ございます」
呟くように御門くんは言う。

だけど、その表情も口調もいつもとは少し違っていた。

(……困ってる……?ううん、ちょっと違う)
本当に気をつけていなければわからない、僅かな変化。
でも、私にはなんとなく伝わってくるような気がした。

(もしかして……御門くん、照れてる、のかも?)

そんな御門くんを見て、私は…

①「もしかして、照れてる?」と聞いてみることにした
②ほほえましくなって、小さく笑ってしまった
③敬語を使ったほうがいいのかな、とふと考えてしまった

437
②ほほえましくなって、小さく笑ってしまった

「…………」
なぜ笑っているのかわからないのか、御門君は私を見つめながら首をかしげていた。

「……改めて冬馬先輩。これからもよろしくお願いします」
私は目の前の冬馬先輩に向かって、笑いかける。

冬馬先輩は満足そうに頷くと、頭に乗せている手をゆっくり離した。

「ところで…これからは敬語を使ったほうがいいのかな?」
後輩の私がタメ口で先輩が敬語なんてなんだかあべこべだ。
だけど冬馬先輩は首を横に振って、私の提案を否定した。

「従者に対して敬語を使う必要はありません」
「え…。従者?」
「はい。僕はあなたの剣なのです」
(あ。そうだった……)
公園で冬馬先輩は私のことを『我が主と定めた人』と言って契約していた。
契約上では主従関係が成立しているのは確かだ。だけど、私としては主の自覚なんて全く無いから困ってしまう。
「そう言われても、自覚無いよ」
「契約によって定められた以上、この事実が覆ることはありません」
「私を守るために契約してもらったのに…。なんだか悪いよ」
「……悪くないです」
「でも……」
「……でもじゃないです」
「先輩と知ってしまったわけだし…」
「では忘れてください。それよりも……まずはこの井戸を一緒に仕上げましょう」
そう言いながら冬馬先輩は絵の前に立って、再び筆を持った。
(先輩が許してくれないんじゃ、仕方ないか)

相変わらず目の前には豆腐にしか見えない井戸が塗りかけのままになっている。
(冬馬先輩の言う通り、目の前の難題をどうにかしないと)

①「この豆腐、どうにかなりそう?」
②「冬馬先輩のクラスは手伝わなくて平気なの?」
③「一から作り直す?」

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②「冬馬先輩のクラスは手伝わなくて平気なの?」

私が問いかけると、冬馬先輩は絵からこちらへと視線を戻す。

「はい。問題はありません」
そして頷きながらそう答えた。

「あれ?そうなの?」
あまりにあっさり肯定の言葉が返ってきたので、私は少しあっけに取られてしまう。
「はい。
3年生は、文化祭の準備・参加ともに生徒の自由ということになっていますから」
冬馬先輩の口から出た事実は、初めて聞くものだった。
私は(去年もそうだったんだっけ?)と疑問に思いつつも、質問を続ける。

「三年生は自由って、どうして?」
「この時期になると、受験や就職などで忙しい人も出てくるからそのための配慮である…とのことです」
「え?ああ、なるほど……」
その答えを聞いて、私は納得した。

(それにしても)
冬馬先輩のいつもの話し方は、まるでそれが『自分には関係していない事実』を語っているかのように聞こえた。
(冬馬先輩だって当事者のはずなんだけどなぁ……)
内心苦笑いしつつそんなことを思った。

「ですが、中には有志を募って何かの企画を実行しようという動きがいくつか出ているのも聞いています」
そこまで言い終えると冬馬先輩は再び絵に視線を戻し、やがてその絵のほうにおもむろに近づいていった。
「へぇ……そうなんだ」
私は冬馬先輩についていって、その後ろから絵を覗き込む。

「ところで、冬馬先輩は……

①その有志の企画には参加しないの?」
②受験とか就職とかは大丈夫なの?」
③これからこの絵をどうするつもりなの?」

439
①その有志の企画には参加しないの?」

他人事のように話す冬馬先輩がどうしても気になってしまう。
友達と文化祭で盛り上がる冬馬先輩の姿を想像しようとしても、すぐには思い浮かばない。

「…………」
「先輩、聞いてる?」
何も言わない冬馬先輩の背中に向かって話しかける。
「それは……僕に参加して欲しいという事ですか?」
ようやく私に向かって口を開いた先輩は、やっぱり他人事のようだった。

「そういうわけじゃないけど…。せっかくだから、文化祭を楽しんで欲しいなと思って」
「楽しむ……」
考え込むように、冬馬先輩は呟いた。
「うん。受験とか就職も大変だと思うけど、クラスのみんなで騒げるのって今しか出来ない事だしね。
私はそういう時間を大切にしたいなって思うんだ」
「…………」
「あー…。そんなに大げさじゃないんだよ。単なるお祭り好きなだけ」
そう言って、私はぺロッと舌を出しておどけてみせた。
「…………」
「とにかく! 今はこの絵を仕上げなきゃね」
冬馬先輩は相変わらず考え込むようにして、黙ったまま私を見つめ続けている。
私は座り込み、豆腐にしか見えない絵に向かって再び筆を動かし始めた。
だけど、冬馬先輩は私を見つめたまま動こうとはしない。

どれくらいの時間が経過したのかわからない。
ずっと立ち尽くしたままの冬馬先輩が私の隣に座ると、静かに話しかけてきた。

「愛菜。あなたにとって……学校とは何なのですか?」
「え?」
突然の質問に面食らってしまった。
「愛菜。答えてください……」
そう尋ねてくる冬馬先輩の顔はなぜか真剣そのものだった。

(冬馬先輩は真剣なんだ。私も真剣に答えなきゃ……)

①大切な場所
②楽しい場所
③わからない

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①大切な場所

「改めて聞かれると…でも、大切な場所、かな?」
「……」
私の答えに、冬馬先輩は無言のまま私を見つめ続ける。

「ほら、学校って色々勉強できるじゃない?
 まあ、勉強はあんまり好きじゃないけど、学校って自分がやりたいことを見つける場所だって、お父さんが言ってたんだ」
昔、私が勉強なんて面倒だなんでやらないといけないのかと言ったとき、お父さんがそういったのだ。

「いろいろなことを勉強して、自分がしたい事、できることを見つける場所なんだって。
 それはほとんどの場合、学校に通ってる間に見つかるものだって」
そのときのことを思い出しながら、私は続ける。

「それから、すてきな出会いを見つける場所でもあるって。
 私はこっちのほうが実感あるな。
 将来のことってまだ漠然としてるけど、大切な友達はたくさんできたし。
 ほら、冬馬先輩にもあえたじゃない?うん、やっぱり大切な場所だよ」
「大切な、場所……」
「冬馬先輩はそうおもわない?」
ポツリとつぶやいた冬馬先輩に、私は尋ねる。

「……そうですね、僕も愛菜に会えました」
冬馬先輩は私に頷いて………

「!!!!!」
「どうかしましたか?」
「い、今……」
「……?」
(笑った、ちょっとだけど絶対に笑った!)
ものすごく珍しいものを見た。
もう元の無表情にもどっているけれど、どことなく不思議がっている雰囲気が伝わってくる。

なんて言おう…
①「なんでもない」
②「今、笑ったよね?」
③「私に会えたことがそんなにうれしいの?」

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