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2.私たちをここから出しなさい!

私は大声で啖呵を切ってみせる。

「おっ! いいね愛菜ちゃん、やれやれ~」

「私はまだ死にたくないのよ!」
「出してよ! まだやりたい事がたくさんあるんだから!」
声の限り思い切り叫ぶ。

(立場は逆転したけど、効果はこっちの方があるはず……よね)

「ふざけるなぁ!なんで私ばっかりこんな目に遭うのよ!」
「元の生活を返せーー!!」

「あ、……愛菜ちゃん?」
周防さんが引きぎみだけど構わず叫び続ける。

「夢とか力とか組織とか全部ムカつく!」
「私の都合も考えてよーー!!出せーー!!」

「愛菜ちゃん? 盛り上がってる所、申し訳ないんだけど……」
「な ん で す か !」
血走った目を向け、私は答える。

「あのね…崩壊しそうだから俺につかまって欲しいかな……なんて」

その言葉でようやく我に返った。

「は、はい……すみません」
私は周防さんの上着を握り締めた。

周防さんは静かに息を整えると、ゆっくり肩膝を立てた。
右手がボゥっと青白い光を放つ。
ふーっと息をゆっくり吐きながらその右手を高く上げ、一気に振り下ろした。

周防さんの掌手が地面を強く叩く。
地響きと共に、地面に大きな亀裂が走っていく。
すると、足元をすくわれる様にグラリと体勢が崩れた。

「す、周防さんっ!」
「絶対に俺を放すなよ」

真っ白な眩い光に包まれ、前後左右が分からなくなる。
急激に浮上するような、落下するような不思議な感覚が私を襲う。

「……………っ」
誰かが私を呼んでいる声が聞こえた。
その声は……

①春樹
②周防さん
③御門くん

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③御門くん

「愛菜!周防!」
いつもとは違う、鋭い叫びのような呼び声。

……一瞬耳を疑った。
その声の主のいつもの話し方とはあまりに違っていたから。

「ええと、御門君……?」
「そうそう!」
周防さんが嬉しそうに言う。

(でも、どこにいるんだろ?)
声は聞こえたけれど、姿はまったく見えない。
……一体御門君はどこにいるんだろう?

「冬馬!お前ってばナーイスタイミング!」
「…………お前は」
ため息のようなものをつく御門君。

「……ひとまず、こっちへ」
御門君のその声と同時に、私たちの前方に光が見えてくる。
「おう、サンキュ!」

「……うっし、愛菜ちゃん、できるだけ飛ばすからしっかりつかまってろよ?」
周防さんは私の肩を抱き寄せ、それから真剣な表情をこちらに向ける。
「それから……あっちにたどり着くまでは、余計なことは考えるな。
途中の幻惑や、囁きに捕らわれてもいけない」

言われて、私は辺りを見回す。
御門君の示してくれた光の標と、私たち以外はただただ暗闇だけ。
……今のところは、特に幻が見えたり聞こえたりはしなかった。

「ここは精神世界。……ましてやここは君の影響が大きい領域だ。
君の答え次第で物事が大きく変わってしまう恐れもある。その後……どうなるかは、正直俺には保障できない」
重々しい周防さんの言葉。
私は……

①「わ、分かりました」
②「それを利用して、さっきみたいにいい方向に変えてはいけないんですか?」
③「変わるって、たとえばどんな風にです?」

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①「わ、分かりました」

私は周防さんから離れないようにしがみ付いた。

「一番帰りたい場所を思い描けばいい。
あとの事は俺と冬馬でなんとかするからな」
そう言ってくれる周防さんの腕に力がこもる。
(周防さんと冬馬くんを信じよう)

一点の光の標を目指して、闇を疾走する。
永遠の漆黒が纏わり付くように私たちを包む。
空虚なのにゾワリと頬を撫でる不快感が続く。
それは例え一瞬でも永遠に感じられるような時間だった。

「……ちゃん……愛菜ちゃん……」

か細い、女性の声が聞こえてきた。
(これがさっき周防さんが言っていた幻聴?)

「愛菜ちゃん……愛菜ちゃん……」

(この声……どこかで聞いた事がある)
考えてはいけない時だと分かっていても、声の主を思い出す事をやめられない。

とても大切な声。とても大切な思い出。
大切な忘れてはいけない人。
そして……本当に、帰りたい場所――
「お母さん!!」

「駄目だ!!愛菜ちゃん――」

①私は周防さんの言葉で我に返った。
②私は懐かしさで胸が一杯になった。
③私には別に一番帰りたい場所がすでにあった。

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①私は周防さんの言葉で我に返った。

「…あ」
「愛菜ちゃん、惑わされるな。戻れなくなる」
「…すみません」
周防さんの声に、我に返ったけれど、声はいつまでも追いかけてくる。

(私の帰りたい場所…どこだっけ)
その声に思考が乱れる。

「愛菜ちゃん!」
周防さんのあせる声に、必死に帰る場所を思い浮かべようとする。
けれど声が気になって集中できない。
そのとき、ふとやわらかいものが手に触れた。

「あ…」
「そいつは…」
周防さんにしがみついている私の手に、さらにしがみついている。

「…チハル?いつの間に」
感情のこもらない目がじっと私を見つめる。
何かを訴えるようにひたすら見つめられて、ふと思い出した。

(春樹…!)
そういえば、ここに来る前春樹も一緒に居たはずだ。
御門くんに気絶させられてたけど、大丈夫だろうか。

「そうだ愛菜ちゃん、その調子」
周防さんの声が聞こえたその途端、光の中に飛び込んだ。



「…ん、…姉さん!」
呼びかけにぱっと目を開ける。
そのまま、がばっと体を起こして慌てて周りを見渡す。
目の前には、ほっとした春樹の顔。
少し離れたところで私を見ていた御門くん。
そして、私の手にしがみついているチハル。
どうやら公園らしい。

1.ここはどこ?
2.周防さんは?
3.春樹、大丈夫なの?

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3.春樹、大丈夫なの?

目の前の春樹の顔にそっと手をのばして上気した頬に触れる。
自分のことで精一杯だったけれど、こうしている間も春樹は返事のない私に必死に呼びかけてくれていたのだろうか。

チハルに教えてもらうまで忘れていたなんて、私はなんてひどい姉だろう。

「なんともない?どこか具合の悪いところ、ない?」

やっとの事で搾り出した声は自分でも情けなくなるくらい弱弱しかった。

「……それは、こっちの台詞だよ。姉さんこそ大丈夫?」

そう言って春樹はポケットからハンカチを差し出した。一瞬訳がわからずに首を傾げると、春樹は持っていたハンカチで黙って私の額の汗を拭った。

「怖い夢でも見てた?ずっとうなされて、苦しそうだった」

「……」

春樹はこんな時でも、ただただ優しい。
視界がぼんやりと滲んで目の前の春樹の輪郭があやふやになるのが恐くてきつく瞼を閉じて春樹の腕にしがみつく。

「……姉さん?どうしたの?どこか痛む?」

春樹の気遣わしげな声は聞こえたが、こみあげる嗚咽に声を出す事ができず私は子供のように何度も首を振った。
春樹は戸惑いがちにゆっくり私の背中を撫でて、その春樹にしがみつく私の手の上をチハルの小さな手が慰めるように行ったり来たりしていた。

どのくらいそうしていたのか。
呼吸も整い始めた頃、ふと誰かが近寄る気配がした。

(御門くんかな?みっともない所見せちゃったな…)

いまさら恥ずかしくもあったけれど、思い切って涙を拭いて顔を上げる。

そこに立っていたのは……

①やっぱり御門くん
②いつの間に現れたのか周防さん
③近所を巡回中らしいおまわりさん

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③近所を巡回中らしいおまわりさん

「どうしたんだ? 気分でも悪くなったのか?」
ベンチの上で横になっている私を見て心配に思ったのか、おまわりさんがこちらに向かって話しかけてきた。
「いえ……なんでもないです」
(こんな公園に警官?)

「そうか。ならいいが、目撃者が何人も病院に運ばれたからな。
君も現場を目撃して気分が悪いようだったら無理せず言うんだよ」

目撃者?現場?
なんの事だろう。
だけど、すごく嫌な予感がする。

「大丈夫です。ありがとうございます」
不審に思われないように、とりあえずこの場を取り繕う。

おまわりさんが納得したように私達から去っていった。

「ねえ、春樹……あのおまわりさん、何を言っていたのかな?」
春樹は苦しそうに私から目を逸らし「知らない……」と答えた。

(春樹……何か隠しごとをしている?)
少し離れたところに居る御門君は、ジッと黙ったまま私を見つめている。

私は……

①御門君に何が起こったのか尋ねる
②これ以上追及しない
③春樹に本当のことを言ってもらう

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②これ以上追及しない

御門君はともかく、春樹が口をつぐむって事は……きっとよくないことなんだ。
なら、聞かないほうがいいのかもしれない。
(それになんとなく検討はつくもの……)
辺りを見回す。
ここは、さっきまでいたショッピングモールの公園だ。

先ほどまでの出来事は、全部夢じゃない。
周防さんが戦いに赴いたことも、ここで騒いだことも、春樹が来たことも……全部。
(だからきっとこの騒ぎはそれ関連のことだ……それも、被害はかなり大きいのかもしれない)
思ったよりも冷静に受け止めている自分に驚く。
(なんでだろう?)
それは現場を見ていないからそうできるのか。
それとも知らない間に自分はそんなに冷たい……酷い人間になってしまったのだろうか。

「……姉さん。姉さんは、これから、どうするつもりだ?」
考え込んでいる私に、春樹が静かに問いかけてくる。
まるで何かを耐えているような、震えた声で。
「え?えっと……」
唐突な質問に私が答えられずにいると、春樹はそのまま言葉を続けた。

「あのさ、俺……ちょっと一人で考え事したいから……。
だから、先に帰るよ」
「え……」
私はその様子に違和感を覚えずにはいられなかった。
(いつもなら有無を言わせず『帰るぞ!』って言うところなのに?)

春樹の様子がおかしい。
それが、言葉で……態度で十分に伝わってくる。

「姉さんがどうするにしろ……あいつに傍にいてもらったほうがいい」
そして、最後に搾り出すように呟く。
視線は下を向いているが、誰のことをさしているかはわかる。

(御門君のこと?でも急にどうして……)
どうして春樹は急にそんなことを言い出すんだろう?
気絶する前までは、あんなに反抗するような態度を取っていたのに。

「じゃあ……」
春樹は私に背を向けてそのまま歩いていってしまう。
私は様子のおかしい春樹をただ呆然と見つめるだけで、何も考えることができなかった。

そして、途中で御門君とすれ違うときに一度だけ足を止めて。

「…………っ」
そのまま走り去ってしまった。

私は……

①春樹を追いかける
②御門君に何かあったのか聞く
③御門君に周防さんはどうしたのか聞く

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①春樹を追いかける

とっさに、私も春樹を追って走っていた。

「まって!春樹!」
私の目が覚めるまでの間に何かがあったのは確かだ。
御門くんに聞けば、きっと何があったのか答えてくれる。
でも、様子のおかしい春樹を一人にしてはいけない気がした。

「春樹!」
私の声が聞こえたのか、春樹がふりかえる。
私が追いつくと、怒っているような何かに耐えるような顔で私を見た。

「なんで追いかけてくるんだよ。姉さんは、あいつと居ないとダメだ」
「…いったい、どうしたのよ、御門くんに、何か、言われたの?」
息を切らせながら途切れ途切れに言う私に、ちらりと驚きの表情をにじませる。

「…御門?あいつが?姉さんが怪我したときに保健室に運んだ奴?」
そういえば、さっきも同じ学年のはずなのに面識がない様子だった。

「そうよ」
「……あいつは一年に居ない。姉さんも知らないとなると、二年でもない」
「え?」
さっきの春樹の様子でおかしいと思っていたけれど…。

1.それじゃ、三年生?
2.もしかして、学校の生徒じゃない?
3.転校生、とか?

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1.それじゃ、三年生?

私は疑問をそのまま口に出した。

「………知らないよ」
春樹は私をあしらうと、また歩き出す。

「ど、どうしたのよ。春樹ってば……」
「なんでもない……。放っておいてくれ」
「何を怒ってるの?」
「早く……あの御門って奴の所へ戻れよ」
どんどん先へ歩いて行く春樹を早足で追いかけた。

「ちょっと、待ちなさいってば!」
私は春樹の前に強引に飛び出る。

「…………」
春樹は私を見据えるように立ち止まると、乱暴に地面を蹴った。

「あんなの見て冷静でいられるわけないだろ! 
こんな……自分を無力だと感じたことは生まれて初めてだ!!
俺は何の力も無い。ただ指を咥えて見ていることしか出来ないんだよ!」

春樹の憤りは頂点に達している。
事件の事を言っているのか、気絶させられた事を言っているのかまでは判断できない。
ただ、春樹の気持ちは守ってもらってばかりの私にも痛いほど分かった。

私は…
①怒ったって何も変わらないと諭す。
②春樹を守ると決意する。
③かける言葉も無く春樹を見送る。

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①怒ったって何も変わらないと諭す。

「春樹の気持ちは私にもよくわかるよ」

とりあえず、春樹が落ち着いて聞いてくれるように前置きをして続ける。

「どっちかって言ったら私の方が当事者なのに色々な人たちを巻き込んで、いつもみんなに助けてもらって…。何もできないのがほんとに、情けないし悔しいって思う」

「……」

「みんなに守ってもらってばっかりで、さっきだって結局春樹を巻き込んじゃった。…私だって春樹のこと、守りたいって思ってるのに」

それは決して嘘じゃない。
私に関わる人を全て守れるはずもないけれど、春樹は私の大事な家族なのだ。すぐ傍で苦しんでいるのに何もできないなんて、それほど歯がゆいことはない。
きっと、春樹も同じ気持ちだ。

「でも、怒ったって嘆いたって取り巻いてる状況は何も変わらないと思う。小さなことでも、少しずつでも何か私たちにできることをしなきゃ」

春樹は依然として口をつぐんだまま何の反応も示さない。つたない言葉ながら春樹の心に届くよう私は必死に語りかけた。

「私も春樹と一緒に一生懸命考えるよ。どうしたら良いか、何ができるのか。ね?」

「…何が、できるのか?」

呟くように私の言葉を反復すると、春樹はなぜか口元だけで小さく笑った。
理由はわからないものの不意に春樹の見せた笑みに安堵していると、それに気付いたのか春樹が私を見て苦々しげに言った。

「考えたさ。俺に、何ができるのか。それこそ姉さんの力の話を聞いてから、今までもずっと」

「春樹……」

「さっき、答えは出たんだ。姉さんはあいつの所に行ってくれ」

春樹の信じられない言葉に、私は自分の耳を疑った。とっさに言葉が出てこない。
やっとの事で出てきたのは奇妙に上ずった子供じみた問いかけだった。

「……どうして?私、何かした?それとも、御門くんに何か言われたの?」

呼びかけてみても、春樹は眉根を寄せて押し黙ったままだ。
言いようのない不安に襲われて、私は春樹の肩を乱暴に揺すった。

「ねえ、春樹ってば!」
「もうこれ以上の厄介事は、ご免なんだ!」

(え……)

急速に全身の血の気が引いていくのがわかった。
目の前の春樹の顔もあたかも自分がそう告げられたかのように蒼白だった。
春樹はあからさまに私から目をそらすと、私の腕を振り払って背を向けた。

振り返ることなく足早に遠ざかってゆく。

わたしは……

①なおも春樹に追いすがる
②呆然とその場に立ち尽くす
③人目もはばからずに泣き崩れる

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